「帰ってきたぞー!」
「来たぞー!」
「たっだいまー!」
依頼を終え、私たちはマグノリアに帰って来た。
マグノリアに着くとナツたちは早速はしゃいで飛び跳ねる。その様子は私たちも自然と笑みがこぼれるけど、一人注意しないといけない子がいるな。
「リュ〜ウ〜?ギルドに帰るまでがお仕事だよ?私の約束覚えてる?」
「りゅ、……にゃー」
私に注意されてリュウはナツの肩から私の頭に戻る。そしてさっきまでの様子とは一転して静かになった。
「よろしい。ギルドに帰るまでは猫のフリは続けてね」
「にゃー」
それが私の依頼にリュウが着いてくる条件だった。デリオラやらリオンやらでそんな状況じゃなくなったからあの時は喋ることを許したけど、安全となった今は猫のフリを続けてもらう。
「マグノリアに着いたんだからもういいじゃねぇかよ。ケチだなシエル」
「ケチじゃないもーん」
ナツが人のことをケチとか失礼なこと言ってきたのでそれは違うと言った。
約束は守らないといけないんだもん。私は約束を破られるのも、破るのも大っ嫌いだもん。
「しかし、あんだけ苦労して報酬は鍵一個か」
「せっかくのS級クエストなのにね」
「正式な依頼ではなかったんだ。これくらいが丁度いい」
村の人達は村を救ってくれたお礼としてお金を渡そうとした。
しかし、ナツたちは勝手に依頼書を抜き取って勝手に依頼を受けていた。その為エルザはお金を受け取るのを断った。
結果感謝の気持ちとして貰えた“金色の鍵”が今回の報酬となった。
「そうそう。文句は言わないの!」
不満いっぱいの男性陣と違い。ただ一人得をしたルーシィは上機嫌だった。
「得をしたのルーシィだけじゃないか〜〜売ろうよそれ」
「にゃ、にゃーにゃー!にゃいうー!」
「リュウは売るより食べた方が美味しいよって」
猫語わからないから勘で通訳したけど、多分そんな風に言ってると思う。
リュウが言いそうなことは大体わかるからね私。
「ダメだから!!なんてこと言う猫たちかしら!?前にも言ったけど金色の鍵【黄道十二門の鍵】は世界中にたった12個しかないの、めちゃくちゃ貴重なんだから」
「ってことは売ったらめちゃくちゃ高いってことだよね?」
十二個しかないめちゃくちゃ貴重な鍵なら、売れば結構なお値段するのではないか。
「やっぱ売ろうよ、ソレ」
「ぜっっっったいに駄目!!!」
私の結論を聞いたハッピーは、鍵を売ることをルーシィに提案したが断固拒否されたのだった。
「なんで……」
「俺たちのギルドが」
クエストから帰ってきた私たちを出迎えたのはみんなからの温かい出迎えじゃなくて、鉄柱が突き刺さり、見るも無残に変わり果てたギルドの姿だった。
「皆、帰ってきたのね……」
「ミラ!」
ギルドの目の前で私たちが呆然としていると、暗い顔をしたミラが現れた。
私は慌ててミラに駆け寄る。
「怪我は!?みんな無事!?」
「りゅー!誰がこんな悲劇的びふぉーあふたーしたの!?こんなの芸術じゃないよ!!」
「落ち着け、二人とも。ミラ、何があった」
ミラに事情を聞くため、私たちは二人でミラに詰め寄るが、エルザが私たちの間に割って入る。
「悔しいけれどやられちゃったの……ファントムに──」
「よっおかえり!」
マグノリアに帰って、ギルドの姿に驚き、慌ててギルドの地下に降りた私たちを出迎えたのは呑気にお酒を飲んでいつも通りグータラしているマスターだった。
──いや、なんでやねん。
上のあれは“ファントム”にやられてたんだよね!?お酒飲んでる状況じゃないよ!?
「じっちゃん!!呑気に酒飲んでる場合じゃねえだろ!?」
「そーだよ!グータラしてる場合じゃないよ!というか突き刺さった鉄柱をそのままにして地下で呑んだくれてるのも危ないよ!」
「りゅー!そうだよー!あんなの返品だよ返品!!!」
あまりにも呑気な姿にナツと私と人の姿になったリュウは皆口々にマスターに詰め寄る。
「喧しい!それよりも覚悟せい!今からお前たちに罰を与える!……ナツ!ハッピー!グレイ!ルーシィ!リュウ!ついでにシエル!」
「ついで!?」
マスターは私たちの言葉を左から右へ受け流し、私たちの頭を軽くチョップした。
まさかのついで。怒られるとは薄々思っていたけど……まさかのついで(二回目)。
ちょっと筋違いだと思わなくもないけど、そこは文句言うよ!?リュウの件で怒られるとは思ってたけどついでにされるのはちょっと癪に触る!怒るなら、ちゃんとした理由で怒ってよ!
「騒ぐほどでもなかろうに、誰もいないギルドを襲うバカタレ共なんぞに目くじらを立てる必要はねぇ」
「誰もいない?」
「襲われたのは夜中らしいの」
ミラの言葉に私たちはちょっと安心した、誰も怪我してないなら良かった。
だけど!それとこれとは全くもって別問題!!
「納得いかねぇよ!!オレはアイツらを潰さなきゃ気がすまねえ!!」
「いかんと言うとるじゃろう!とにかくこの話はこれで終わりじゃ!う〜トイレトイレ」
マスターは強制的にナツとの話を打ち切り、トイレに駆け込んだ。
……逃げられた。
「悔しいのはマスターも一緒なのよ。だけどギルド間の武力抗争は評議会で禁止されてるの」
「あっちが先に喧嘩売ったのに!?そんなのふこーへーだよ!」
「そういう問題じゃないのよ」
「……マスターの考えがそうであるなら……仕方…ないな」
「全然仕方なくないし!」
バックに荷物を詰め込みながら、私は苛立ちを吐き出した。えっとハンカチ入れた、ティッシュ入れた、財布入れた、歯ブラシ入れた、トランプ入れた、寝袋入れた、──
よしそっちがその気なら、私だってやってやるもん。
「りゅー!お姉ちゃん、“
「リュウが食べれるならオヤツに入ります。もうちょっと入れようかオヤツだもんね、もう20個ぐらい持ってこうか」
バックにギッチギチに詰め込む。
よーし、準備万端!私はそーっと部屋のドアを開ける。そしてキョロキョロと辺りを見渡し誰もいないことを確認した。安全確認よーし!
「いっくぞー」(小声)
「ぞー」(小声)
抜き足差し足忍び足。音を立てず、こっそりと廊下を通る。みんなに見つかったら絶対面倒なことになるから気をつけないと。
マスターはああいったけど、私は絶対納得しない。やられたことはやり返す!私だって、誰もいない深夜にギルドぶっ壊してやるもん!!
私子供だし!弱いし!卑怯者だし!腑抜けだし!なんと言われようが気にしないもん!!
評議会に言いふらすなら言いふらせばいいさ!子供にギルドをぶっ壊された情けない事実が残るだけだけどね!!
「マスターがその気なら私だって考えがあるもん!!」
「ほう、どういう考えがあるんだ?」
「うみゃ!?」
私だってやってやるぞ!と気合を入れていたら、突然後ろから声がした。
ギギギ……とぎごちない動きで後ろを振り向くと、そこには不機嫌そうなエルザがいた。
い、いつのまに!?
「あ、キグーだねエルザ、今からお出かけ?私もちょっとリュウと一緒に今から星空ピクニックをするつもりなんだー」
バレたらダメだ。全力で誤魔化せ私。頭をフル回転させて言いくるめろ私。何のためにトランプと寝袋を持ってきた私!こういう時に荷物検査されても言い訳できるようにだろう!
実際は人がいなくなるまで張り込むための暇つぶしと寝床確保だけど!
「この緊急時にか?誤魔化すな質問に答えろ、どういう考えだったのか正直に白状しろシエル」
しかしすぐに誤魔化そうとしたことがバレた。私はしどろもどろになりながらもエルザが納得できる回答を探す。いや駄目だ、流石に今のエルザは誤魔化せない。こうなったら一か八かのやけっぱちだ!
「てい!」
「っく!煙玉か!!」
「ちょっとファントムにお礼参りするだけだよ!マスターがああ言っても私今反抗期だからマスターの言うこと聞かないもん!子供だからって何もできないと思ったら大間違いだぞ!」
「ふん!!」
「きゃふん!?」
煙玉を投げてエルザに言いたいことを言い切ってこの場から逃げるため寮の扉に手をかける。しかしその瞬間モーレツなパワーそしてスピードでエルザの拳が私の頭にクリーンヒットした。私の意識は薄れていく。
残念ながら私の
「と、言うことがあって私は不本意ながら渋々ここにいます」
リュウを膝に乗せ、不貞腐れながらルーシィに今までの出来事を説明する。
「ああ、うん。とりあえず事情は分かったんだけど……シエルも結構寛いでるよね!ババ抜きやりながら言っても説得力ないわよ!」
「私の今の状況と私の気分は別問題だから良いんですー」
そりゃまあ勝手に人が借りてる部屋で寛いでるのは認めるけど。不貞腐れてるのは嘘じゃないのに。リュウの頭に顎を乗せてプクーと膨れる。
リュウは私がべったりひっついても嫌がらなかった。
「りゅー!ジョーカーもらいー」
「そっかージョーカーもらったかー……リュウ、それはババだからそんな大声出して言っちゃいけない」
リュウの発言でババ抜きをやってる意味が一気に無くなった。次のグレイがマジマジとリュウが持ってるカードを見つめてる。やっぱりジジ抜きにするべきだったかな?でも私が一枚抜き取ると高確率でジョーカー抜き取るしなー。
「てか、ずりいぞシエル!お前らだけでカチコミに行くなんて!俺も連れてけ!」
「やだよ、ナツが一緒だと絶対大事になるもん。こっそり行って、こっそりギルド壊して、こっそり帰ってくるのが私の計画だったんですー」
そんな私の計画も泡となって消えたけど!
「ギルドを壊す時点で全然こっそりじゃねぇぞ」
「うっ……良いんだよ!向こうだって夜中にコソコソとギルド壊したもん!」
「逆ギレするなよ……っげ」
「ふーんだ」
ジョーカーを取ったグレイの顔が僅かに歪む。へーんだ!私たちに騙されていい気味だし!!
「……ねえ、どうしてファントムは急に襲ってきたのかな?」
ルーシィはそう言いながらグレイからカードを一枚取り、自分が持ってたカードと合わせてテーブルに捨てる。ジョーカーが手元に残ったグレイは若干がっかりした表情を見せた。
「さあな、今までも何度か小競り合いはあったが、こんな直接的な攻撃は初めてのことだ」
「じっちゃんもビビってないでガツンとやっちゃえば良いんだ」
「じーさんはビビってるわけじゃねえだろ。アレでも一応聖十大魔道の一人だぞ。マスターも二つのギルドが争えばどうなるか分かってるから争いを避けてるんだ。魔法界全体の秩序の為にな」
「
なんで、他所の為に我慢する羽目になってるんだよ。向こうがこっちにつかかってきてるのに!
「私達のことも考えての行動だ。争えば潰し合いは必至……戦力は拮抗している。そもそもの話、お前だってまともに戦えないと分かっていたから闇討ちをしようとしたんだろう」
「うう……」
エルザに痛いところを突かれた私は押し黙る。そりゃ確かに私じゃマスターと同じ聖十大魔道のマスター・ジョゼには絶対敵わないし、S級魔導士のエレメント4にも間違いなく敵わないし、向こうの
「むーーー」
「悔しいのは皆一緒だ、それでもマスターは皆を想って拳を引いた。なら、私達がするべきことは一つだろう」
不貞腐れる私を諭すようにエルザは私の頭を撫でる。
「……うん」
分かってた。怒ってるのは私だけじゃない。リュウも、エルザ達も……そしてマスターも。
だけどマスターは皆を想って拳を引いた。なら私達もそれに倣おう。
皆、色々思うところはあるけれど、その思いを押し込めて、いつも通り笑ってすごそう。
うん、やることは決めた。なら、私が今やることは一つ。
「ババ抜き終わったら麻雀しよ!実はお泊まりセットに携帯雀卓積んできたんた!」
この夜を遊び尽くす!
「なあ、お前本当にカチコミに行くつもりだったんだよな?トランプはともかくそれまで持ってきてるのはおかしいぞ」
「ごめんなさい!通してください!」
「りゅうぅ、とーおーしーてー!」
逸れないようリュウの手をしっかりと掴みながら、私達は人の群れを必死に搔きわける。
ウォーレンの【念話】を受けて、私達はその場へ駆けつけた。
「っわ!とと……っ!?」
何とか人ごみを抜けて、私は目の前の光景に息を飲んだ。
公園にある大木、そこにレビィ、ジェット、ドロイの三人が、ボロボロになって貼り付けられていた。
三人の体にはファントムのマークが刻み付けられていた。誰にやられたかなんて一目瞭然だった。
「マスター!」
目の前の惨状を見て、マスターは持っていた杖を握りつぶした。
「ボロ酒場までなら我慢できたんじゃがな……ガキの血を見て黙ってる親はいねぇんだよ」
マスターは
「戦争じゃ!!!」
──我慢する通りは、どこにもない。