アリアを倒し、
とてつもない空腹感が私を襲う。でも、まだだ……まだここで倒れるわけにはいかない。倒れそうになった身体に鞭を打ち、無理にでも立ち上がる。
さっきアリアが言ってた事が本当なら外の
「まだ……私にもできることがある」
私じゃ到底かなわないけど、この残っている魔力をナツ達の誰かに受け渡すことができれば……
この魔法は長くは続かない。早く誰かを見つけないと。
「まだ……マダ、クイタリナイ」
「いや、
シエルは身体をふらつかせながらナツ達を探そうとする。数歩歩いたところで、黒衣を身に纏った男がシエルの前に立ちふさがった。
「これ以上、虎の威を借りるのも、人を顎で使うのも止めておけ。戻れなくなるぞ」
目の前の男はこの魔法がどういったものか分かっているかのように言う。
違う、私はリュウの威を借りてるんじゃない。リュウは私を使ってるんじゃない。この魔法は、この絆は、【
「うるさい。私たちのこと……何も知らないくせに、勝手なことを言わないで」
「……ああ、そうだ。確かに俺は君たちを知らない……その魔法を止める資格もないな。だが、知った以上は親切心で言ってやろう。その魔法、使い続ければ君は死ぬぞ」
【
うるさい、こいつに何が分かる。ひてい、するな。上から物を言って。この
「ずべこべ、うる……さい。邪魔をするなら、お前は敵だ……」
私は落ちていた【疾風のごとく】を引き寄せて手に持つ。
こいつにそれ言われる筋合いはない。邪魔する敵は、さっさと
「はぁ……目の前に立っただけで敵認定とは、存外短気な奴だな。だが……そうだな。確かに今、この時点では俺は君達の邪魔をする者。敵と認識してくれてかまわない」
男は槍を構える私を見て、手のかかる子供の相手をしてるかのようにため息をつく。むかつく、なめるのは、いいかげんにして。
私だってやればできる。アリアを倒せたんだ。私だって──食べることは出来る。
「“七光の槍よ!”
「……それで俺を
「ぐ、があ!?」
頭を鷲づかみされたかと思ったら、次の瞬間地面にたたきつけられていた。気を失いそうになったけど、強化された身体はなんとか持ちこたえてくれた。
速いっ……さっきのアリアと全然違う。この状態でも、反応できなかった。
「ふむ、これで終わると思ったが……案外丈夫だな」
「おり……ろっ!!」
「断る」
地面に押さえつけられた。ジタバタと暴れて上に乗っている男をどかそうとするが、元々限界に近かった身体を無理にでも動かしてた私に、そんな力は残されていなかった。
「ぜぇ……はあ……うっ!」
「そんな身体で何ができる。もう諦めてその魔法を解け、死ぬぞ」
「断る……あなたに、私たちのこと、とやかく言われる筋合いはない……私と、あの子の絆を否定されたまま、終わってたまるもんか」
身体が限界とか、使い続ければ死ぬとか、そんなの関係ない。これは私の意地の問題。ここで私は終われない。この絆を否定されたまま終われない。終わりたくない。
私、お姉ちゃんだもん。
「ちっ……じゃあ、ここで終わっておけ」
私の言葉を聞き、男は無慈悲にも足を私の頭に振り落とした。
「手間をかけさせてくれる……」
少女の気絶とともに体中に浮かび上がっていた紋様がすべて消えたのを確認する。竜の魔力が少女の意思に従っていた以上、力業だがこうするしかなかった。無論それで死なないことは確信しての行動だった。あの魔法は少女の身体を蝕んでいるが、それでも少女を守っていた。多少の無茶では少女は死なない。
一仕事が終えた俺は殺気を感じ、すぐにその場から飛び退く。飛び退いた瞬間、その場所を女性が斬った。
「……いきなり人を攻撃するとは、最近の若い者は礼儀がなっていないんじゃないか?」
「仲間を傷つけた者に払う礼儀はない」
何も言わず、攻撃してきたことをつつくが、赤髪の女性はこちらの言葉を聞く様子はなかった。それどころか親の敵かのようにこちらを睨みつけてくる始末。
危惧していたことが本当に起こった。できれば少女の仲間が来る前に退散したかったのだが。
「マスターを倒したのはお前か……」
「違う。君たちのマスターをだまし討ちにした男……そこで伸びてるエレメント4元最強の男──現在最弱の男は、その子がその身を削って倒してる。そもそも俺はただの通りすがりだ、このギルドとは一切の関係を持たん」
「そうか」
とんだ濡れ衣を着せられそうになったので、彼女らのマスターを倒した件については否定する。目を見て答えたのが功を奏したのかその件については彼女は何も追求してこなかった。
「……だが、シエルを傷つけたのはお前だな?」
「ああ、そうだ。元々そこの伸びてる男のせいでボロボロだったが。トドメを指したのは俺と思ってくれてかまわない」
少女を傷つけた件については実際その通りなので否定しない。
二割俺、三割伸びてる男、五割が自業自得だと思うが。トドメを指した……最終的に気絶させたのは俺だ。例え半分自滅だとしてもそれは認めなくてはならない。
「っ!!」
「おっと……その目で睨みつけるな。めんどくさいの思い出す」
再び斬りかかってきた女性を軽くいなし、転移の
目的は達成した。これ以上、無駄な戦闘をする気はない。これ以上は魔導士達の問題。邪魔者はさっさと逃げるに限る。
「待て!!」
「いや、断る」
俺は
ゆっさゆっさと身体が揺れる振動で目を覚ます。これは……誰かに運ばれている?まさか敵に!?
「……っう!」
「お、シエル!目を覚ましたか!」
あの上から目線の馬鹿男に頭を踏みつけられた痛みに顔をしかめながら目を覚ますと私はエルフマンに背負われていた。周りを見渡すとそばにグレイとエルザとミラがいた。
グレイはともかく、エルザとミラはなんでここに、エルザはジュピターの傷治ってないし、ミラもボロボロだし……いや、人が増えたことより今は!!
「っファントムはどうなった!?」
あと人を気絶させたあの上から目線馬鹿男も!!あんにゃろ私の頭を地面に叩きつけるわ、頭を踏みつけるわ…私の頭に何の恨みがあるんだよ、まだ頭痛い……
とにかく今は状況を把握するため、エルフマンの背中から降りようと身体を浮かす。
「わあっと!落ちる!暴れるなシエル!」
「大丈夫だ」
「え?」
エルザは慌てる私を落ち着かせるように笑いかける。
「マスターが来てくれた」
マスターは目が覚めてすぐに、ギルドへ向かった。
「りゅーーーーー!!(だせーーーーー!!)」
だがしかし、リュウは檻に閉じ込められた。
檻の中でへたり込みながらありったけの声を出す。なんで?リュウも戦えたよ?頑張れたよ?
ひどいと思うよ、マスターもポーリュシカも。
「りゅ~う~うぅ~(だ~し~て~)」
いつもならこんな檻バクバク食べちゃえるけど、マスターだけじゃなくて、お姉ちゃんにもありったけ魔力を渡したから、実はお腹がすいて力が出ない。それどころかお腹がすいて動けない。本当は声を出すのも疲れてしたくない。けど
お腹がすいたから何かを食べたいのに、お腹がすいてるから動けなくて食べれない。これが……ムジュン!
リュウ、また一つ学習したよ!!
「マカロフだけじゃなくて離れたところにいるシエルにまで魔力を渡せばそうなるのはあたりまえじゃないか、しばらくそこで反省しているんだね」
「りゅー!りゅーりゅーりゅい!りゅりゅう!(おなかすいた!そのリンゴでもいいから!檻に入れて!)」
ポーリュシカの言うことは間違ってない。しかも止められたのにそれを振り切ってやったから、ポーリュシカはすっごく怒ってた。
キュピーン!とお姉ちゃんの危機を感じ取ったから、【
【
この檻、魔力を遮断してるから魔力を通しての外の様子を確認できない。この檻から出るためさっさと魔力を回復させたい。何でもいいから食べたかった。
「文句をいうんじゃないよ!おとなしく待ってな!」
「りゅ、りゅりゅい!(あ、言葉通じてない!)」
とりあえず、お腹すいてるから持ってるリンゴを檻に入れてとお願いするが、ポーリュシカには伝わっていなかった。
伝われこの思い!(言葉)おーなーかーすーいーたー!!なんか食べたーい!
「りゅーーーうーーー!(おーなーかーすーいーたー!)」
「リュウに、リンゴを渡してもらえるだろうか。推測だが。今の彼女は、檻から出してもらえないことではなく。ただ、“お腹がすいた”と訴えている」
「……ミストガン」
「いただいても?」
ミストガンがどこからともなく現れた。いつの間に帰ってきたんだろう。というかここじゃなくてギルド行きなよ。探してたよ皆。
ミストガンは箱にあったリンゴを手に取り、ポーリュシカに確認する。奴の姿を見て、ポーリュシカはあることに納得がいった。
「そうか、リュウが魔力が渡したとしても、こんなに早く回復するのはおかしいと思ったんだ。マカロフの魔力をかき集めてきたのはあんただね」
「巨人は動いた。戦争はまもなく終結する」
風が吹き、たくさんのファントムの旗が舞う。あ、ゴミを散らかしてる、後でお姉ちゃんに言いつけちゃお。
ミストガンは、一人でファントムの他の支部にカチコミ行ってましたって。何も言わず一人でカチコミ行ってましたって。
「ファントムの支部を、すべて一人で潰して回ったってのかい……」
「リュウにリンゴを渡してもいいだろうか?」
「かってにしな、だが檻は開くんじゃないよ。あれだけ言ったのにマカロフとシエルに魔力を渡しすぎて重度の魔力欠乏症だ。少しでも魔力の消費を抑えないと死んでしまう」
「りゅ……」
檻に手を掛けたミストガンをポーリュシカは止める。
じとっとした目でポーリュシカに見られて、少し居心地が悪い。確かに言われたけど、お姉ちゃんのきんきゅーじたいだったから大目に見てほしかった。
今の今までポーリュシカに怒られていたリュウは実は特注の檻の中で治療中なのです。
「なるほど……食べられるか?」
「………………」
ミストガンは半分に割ったリンゴを檻ごしにリュウに差し出した。むかつく奴なのに、いつも外れたことをやってお姉ちゃんに怒られてるのに……
どうしてそれがお姉ちゃんの相手をするときにできないんだろうこいつ。そこが本当に残念だとリュウは思う。
そんなんだからえーっと“でぃすこみゅにけーしょんヤロー”ってお姉ちゃんに罵られるんだよ!もっとお姉ちゃんと接するときはそれくらい頑張ればいいのに。
「りゅ~……あう!」
「っ!!?」
気を利かせてくれたのは分かるけど。それはそれとしてリュウはこいつ嫌いだから、噛む。噛みつく。いっそのこと噛み砕きたい。
こいつ食べてもお腹の足しには全然ならないけど。でもリュウはすかっとするからいいよね!
ミストガンはリュウに噛まれた痛みで顔をしかめた。マスクからチラ見えしている部分でそれが分かった。
「……っ!!」
「……あいかわらずだね。あんた達は」
リュウとミストガンのやりとりを見て、ポーリュシカは呆れたようにため息をついた。
リュウがミストガン嫌いなのは確定事項だからしょうがないと思うな。