FAIRY TAIL 竜騎兵と竜の子   作:MATTE!

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そして幕は開かれた

 ポカポカ、ぬくぬく、お日様のにおい……とてもとても暖かい。

 その温もりに包まれて、私は寝る。とにかく寝る。今は眠いから寝る。寝たいときには寝るのが一番。

 今日は、何も用は無かったし、丸一日寝ても問題ない。

 

 

「──っろ!」

 

 

 何かうるさいけど、気にしない。気にしない。

 

 

 

「シエル!シーエールー!?」

 

 

 うるさいなぁ、眠いんだから寝させてよ。今日の水くみの当番は私じゃないもん。まだ寝れる。寝れるはずだ。

 お兄ちゃんが帰ってくるまでは──

 

 

「起きろ寝ぼすけ!!」

「うわ!?みゃ!!?」

 

 

 突然包まっていた布団をはぎ取られ、ころんとベットから転がり落ち地面に激突した。

 ……いたい、鼻ぶつけた。皆して何で人を起こすのに乱暴なの。世の中物騒すぎない?

 

 

「いたい……もうちょっと優しく起こしてお兄ちゃん」

 

 

 ぶつけた鼻をさすりながらむくりと起き上がって、布団をはぎ取った犯人を見る。私と同じ青色の髪を持つ少年を。

 

 

「一応最初は優しく起こした。でも起きなかったのはシエルだ。起きなかった方が悪い」

「だからって女の子の布団はぎ取る事は無いと思う!デリカシーがなさ過ぎる!」

 

 

 まったく手荒なんだからお兄ちゃんは、女の子の布団をはぎ取るなんて絶対モテないよお兄ちゃん。例えモテたとしても絶対女の子を泣かすよお兄ちゃん。……恨まれて後ろから刺されでもしたらどうしよう。

 今後のお兄ちゃんの行く末に不安を抱きながらデリカシーがないことをした文句を言った。

 

 

「だってそうでもしなきゃ起きないだろ?お前寝起き悪いんだから」

「むー!私、そこまで寝起き悪くないよ!ちゃんと起きるときは起きるもん!私が起きる前に手を出すお兄ちゃんとリュウが悪いよ!」

 

 

 お兄ちゃんの言葉を私は否定する。

 違うもん、お兄ちゃんの認識は間違っている。私は寝起き悪くない。

 私が起きる前にお兄ちゃんやリュウが“無理矢理”私を起こすんだ。

 リュウもお兄ちゃんも私が何度言っても手荒な起こし方を止めてくれないんだから困ったものだよ。

 

 

「リュウ?……誰の話をしているんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 お兄ちゃんの言葉に私は耳を疑った。驚いてお兄ちゃんを見る。でもお兄ちゃんも驚いた様子だった。

 

 

「……村に、そんな子はいないだろ」

「な、何言っているのお兄ちゃん!?リュウは、リュウは私の妹でしょ!?」

 

 

 リュウは、私の妹だ。あの日から、私の側にいてくれる。

 

 

「お兄ちゃんがいなくなったあの日から──あれ?」

 

 

 自分の言葉に首を傾げる。私はいま何を言った?

 そうだ、お兄ちゃんはあの日からいなくなった。目の前のこいつは何だ?

 

 

「シエルこそ何を言っているんだ?俺たちはたった二人の“兄妹”だろ」

 

 

 目の前の、あいつと同じ姿をした人物から逃げるように後ずさる。

 

 

「ずっと二人で生きてきた」

「違う」

 

 

 違う、あの日からずっと二人で生きてきたのはこいつじゃない。

 

 

「ちゃんと迎えにきただろう?」

「違う!」

 

 

 違う、こいつは迎えに来なかった。

 

 

 もう、こいつと私は関係が無い。あの日から何もかも変わった。違う、違うんだ。

 だから、だから──

 

 

「“シエル”」

 

 

 その姿で、その声で、私の名前を呼ぶな。

 お前は──

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う!!!……ハァ、ハァ。ゆ、夢?何で、いきなり」

 

 

 ……頭が痛い、ここは、カジノ?何で……何で私は寝ていた?

 確か、ミラの姿でカジノに入って、確か、確か──

 

 

 


 

 

 

「フッフフーン、エールザ!ルーシィ!遊びに来ちゃった!」

「ミラさん!?」

 

 

 ミラの姿でカジノに入ると早速私を置いて楽しんでいる二人を見つけた。私はウッキウキで声を掛ける。

 私の完璧な変装にルーシィはまんまと騙されてくれた。フッフッフ、私の変装技術も板についてきたんじゃないかな!

 ルーシィを騙せたという事実に私の鼻は高くなる。

 

 

「……“シエル”、ちゃんと通してもらえたのか?」

「う……やっぱエルザにはバレたか」

 

 

 しかし、エルザにはバレてしまった。

 そりゃすんなり騙せるとは思っていなかったけど、こんなにすぐにバレるとも思っていなかったので、ルーシィを騙せたことで伸びていた鼻はばっきばきに折れた。

 

 

「何でミラさんの姿に……」

「だって(子供)を入れてくれないんだもん。そっちがその気ならこっちだって考えがあっただけだよ」

 

 

 子供が駄目なら。大人になるだけだ。フッ……ガードマンはものの見事に騙されてくれた。

 どっからどう見ても今の私はナイスなバディ!なんたってミラの身体だもん!

 

 

「カジノの人は私を立派なレディと認めてくれたもんね。私は無事大人の階段上った!」

「りゅーリュウも一緒に上った!」

「いや……それは上っているのかな?」

 

 

 大人の階段を上ったと豪語するシエルに対し、ルーシィは悪知恵働かせて、決まり事を破っているシエル達が現在進行形で子供に見えた。

 というか、どっからどう見ても子供。正直ムキになって大人の階段を上ろうとしている今より、通常時の方が大人であるとルーシィは思ったが、上機嫌の二人に水を差すのは止めておこうと心に秘めることにした。

 

 

「………………」

「帰れなんて野暮なことは止めてね。二人ぼっちは嫌だもん。賭けるお金だって、私達が働いて稼いだお金。皆に迷惑はかけないから」

 

 

 未だ睨みをきかせているエルザに、しっかりと自分の意思を伝える。迷惑をかける気は私もリュウもない。

 けど、皆は遊んでいるのに、私達だけ仲間はずれなのは嫌だ。だから、私達もカジノで遊びたい。

 

 

「分かった、たまにはこんな日もいいだろう」

「よーし!エルザの許可ゲットー!じゃ、私達これから大人の遊びするから。アディオス!」

「羽目は外しすぎるなよ!」

「分かってるー!!」

 

 

 さーってエルザの許可を貰ったことだし、カジノを遊び尽くすぞ!一体どれから始めようかな!

 

 

「リュウは何して遊びたい?」

「りゅーうー……カジノって何が出来るの?」

「うーん、大まかに分けるとカードとスロットとルーレットかな」

「カード、すろっと、るーれっと?」

 

 

 きょろきょろと周りを見てカジノで何が出来るかリュウに教える。

 リュウはクエスチョンマークを浮かべながら聞いていた。

 

 

「カードはポーカーとかブラックジャックで遊んでるみたい」

「ぽーかー?ぶらっくじゃっく?リュウ、カードはババ抜きしかできない。ババ抜きはないの?」

「うーん、残念ながらババ抜きはないみたいだね。私もルール分からないしカードで遊ぶのは止めようか」

 

 

 ルールの知らない私達に、ポーカーとブラックジャックは出来そうになかった。

 でもリュウ、私、リュウがババ抜きを一人で出来ると思えないよ、すぐにババを引いたと宣言するし。

 

 

「それじゃあ次はスロット。レバー引いてボタン押して、決まったマークを三つ揃える」

「ソレ楽しい?揃えるだけだよね」

「……さあ?」

 

 

 三つマークを揃えるだけ……確かに言われてみれば楽しくなさそうだ。

 うん、スロットで遊ぶのも止めておこうか。

 カードも駄目、スロットも駄目。となると残ったのは一つだけか。

 

 

「あとはルーレットだね。ぐるぐる回っているロイールにディーラーさんが球をなげてどこに落ちるか当てるゲーム」

「ぐるぐるほいーる?落ちる?」

 

 

 私が知る限りのルーレットの遊び方をリュウに教えたが、どうもリュウには想像がつかなかったみたいだ。

 私の説明がダメダメだったか。でも詳しく説明しようとすると逆に分からなくなりそうだし。

 

 

「うーん……実物を見た方が早いかな、ちょうどあのテーブルがルーレットのテーブルだし」

「いーや絶対17に入ってたぞ!!」

「……ナツとハッピーもいるみたいだし」

 

 

 ナツは何をやってるんだろう。端から見たらディーラーさんに絡んでるたちの悪いお客だよ。

 

 

「ナツーどうしたの?」

「シエル聞いてくれよ!!17に入ってたのにカタンってずれたんだよ!なんだこれ!!」

「あい!!」

「なんだこれと言われても、ルーレットじゃないのとしか言いようがないんだけど……」

 

 

 ミラの姿のままナツに声をかけたが、ものすんごくすんなり名前呼ばれた。ナツの事だし臭いでバレたんだと思うけど。もうちょっと騙されても良いんじゃないかな。頑張って変装したんだよ私。

 ナツもハッピーも薄情じゃないかな。仲間の姿よりルーレットって。

 あと、熱くなっている二人には悪いと思うけど、私はその場面を見てないから。なんとも言えないや。そもそもルーレットの球の動きなんて分からないし。

 

 

「とにかく見たんだって!俺のこの目はごまかせねーぞ!!」

「うーんそうなのかー」

「ボーイ」

 

 

 熱くなったナツをどう宥めようと考えていたら。隣のテーブルに座っていたお客さんから声をかけられた。

 

 

「大人の遊び場はダンディに楽しむものだぜ」

「かっ」

「かっくかく!?」

 

 

 その人はものすごいかっくかくだった。まさにかくかく人間。

 

 

「ボーイ一つ良いことを教えてやるぜ。男には二つの道しかねえのサ。ダンディに生きるか……止まって死ぬかだぜ」

 

 

 かくかく人間は一瞬の内にナツを床に押さえつけ、銃口を口に突きつけた。

 その様子を見た、従業員や他のお客さん達は怯えて逃げ出した。

 

 

「ナツ!?いきなり何を……っ!?」

「シエル、リュウ!?」

 

 

 身体が、動かない!?

 目の前のかくかく人間を敵と判断して、槍を取り出そうとし、リュウはかくかく人間に飛びかかろうとした。

 しかし、その思考に反して、身体は一ミリも動かなかった。

 

 

「女性に手荒なことはしたくないんだ、少しだけ大人しくしてくれるかな」

 

 

 突然何もないところから声がする。空間が揺らぎ一人の少年が現れる。

 その少年に見覚えがあった。正確には緑髪と声に覚えがあった。奴は私の中に深く刻まれていた。

 

 

「(……諸悪の根源!!)」

 

 

 悪魔の島事件で私を遭難させたあの馬鹿野郎だった。

 

 

「さて、本題に入ろう」

「お前らに聞くことは一つだけ」

「「エルザはどこにいる?」」

 

 

 かくかく人間と諸悪の根源はそろって同じ事を口にした。

 狙いはエルザか、ここまで明確に敵対してるなら。ちょっとした誤解とかすれ違いはなさそうだ。

 ならどうにかしてこの現状を脱しないと。

 

 

「ん、何だ。無事見つかったみたい」

「じゃあ、手はず通りだ」

「!?」

 

 

 急にあたりが真っ黒になった。ナツ達、それどころかすぐ側にいるリュウの姿すらも見えなくなった。

 いや、違う周りが暗くなっただけじゃない。

 

 

「(意識が……)」

 

 

 まぶたが重い。強烈な眠気が襲いかかってくる。寝るな、寝てる場合じゃない。

 

 

「Good nigth……良い夢を」

 

 

 少年の言葉を最後に、私の意識は途切れた。

 

 

 


 

 

 

「眠らされていたのか……私は、っリュウ!!」

 

 

 あんにゃろう今度会ったらぶん殴る。

 売られた喧嘩は倍返しにすることを心に誓い、リュウを呼ぶ。しかし、返事は返ってこなかった。

 

 

「……リュウ?リュウ!どこにいるの返事をしなさい!!」

 

 

 まさか、眠ったままでどっかに転がっているんじゃないかと、辺りを探す。しかしリュウの姿はどこにもなかった。

 ここまで探してもいないって事はまさか──

 

 

「連れ去られた……早くあいつら追いかけないとっ!」

 

 

 どこに行ったかは分からない。けどまだそんな遠くには行っていないはず。

 それならまだ間に合う。

 

 

「シエル!」

「ルーシィ!グレイ!」

 

 

 ルーシィとグレイがこちらに駆け寄ってきた。それにプラスしてエレメント4の水担当だった人も。

 なんでエレメント4の人と一緒にいるのか分からないけど、今ソレを気にしている場合じゃない。

 

 

「他の皆は?」

「リュウは連れ去られた。ナツは……」

「痛えーーー!!?」

 

 

 口から炎を吹き出して、ナツはその場をジタバタと暴れ回る。

 

 

「普通口の中に鉛玉ぶち込むかよ!痛えだろ下手すりゃ大けがだぞ!?」

「下手しなくても普通は一発アウトだと思う……」

「逃がすかこらああああーー!!!」

 

 

 ナツの文句にルーシィは呆れながら答えるが、頭に血が上っているナツには聞こえなかったようだ。

 そしてそのままナツは一目散に外に出て行った。

 ナツの鼻は獣以上。その鼻を信じて私達はナツを追いかけた。

 

 

 


 

「にゃう!」

「ねこねこ待ってー!」

 

 

 白猫をミリアーナが追いかけていた。白猫はキョロキョロと辺りを見渡しながら何かを探す。

 ミリアーナから逃げながらようやく目的のものを見つけた彼女は早速上に乗り──

 

 

「いだああああ!?」

 

 

 シモンに盛大に噛みついた。

 

 

「ねこねこーこっちで遊ぼうよー」

「うーにゃ!」

 

 

 ミリアーナは持っている猫じゃらしをふりふりと白猫の目の前で降ってみる。

 しかし白猫はミリアーナが持っている猫じゃらしに見向きもせず、シモンに噛みつくのに夢中だった。

 

 

「狡いシモン!私もねこねこと遊びたい!」

「いや、現在進行形で襲われているの間違いだと思うが!?」

 

 

 遊んでいるのではなく、襲われているんだと主張するが、ミリアーナには猫と遊んでいるようにしか見えないようだった。

 

 

「待ってて!ねこねこが好きなもの持ってくる!」

「出来るだけ早く頼む」

 

 

 白猫の気を引くには今の手持ちでは足りないと思ったミリアーナは装備を調えるため自室に引き返す。

 シモンは今も続いている苦痛から逃れるため、早くミリアーナが戻ってきてくれることを願って見送った。

 

 

「ふーようやく邪魔者がいなくなった」

「……ミリアーナから逃げたかったのか」

「うん、でも貴方にも用があったんだよ」

 

 

 ミリアーナが自室に引き返したのを見て、リュウはシモンに噛み付くのを止めた。

 無事逃れられたことでリュウはほっと一息をついた。

 

 

「……問いに答えろ」

「っ!?」

 

 

 リュウの雰囲気がガラッと変わった。今の今まで、彼女は確かに小動物だった。

 頭をしっかりと押さえつけられその姿を見ることは出来ない。

 猫ではないことは知っていた。“リュウ”と呼ばれる存在が、あの少女の“妹”であることは知っていた。

 しかし、この威圧感は何だ?

 

 

「“お前は、エルザの敵か?”」

 

 

 

 

 今、自分の頭の上に乗っているものは何だ?

 

 

 

 


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