私とあの子の始まりはとても衝撃的な出会いからだった。
私が諦めたあの日。
森の中で私はあの子と出会った。……いや、出会ったというのは正しくない。
何もない森の中、蹲っていた私の“頭上”にあの子は突然現れた。
「いいっだあああ!?」
……訂正、現れたって言葉も正しくなかった。
あれを“現れた”なんて優しい言葉で済ませちゃいけない。
一寸の狂いもなく、私の頭の上に、すさまじい重さのものが、落ちてきた。
あれはとてつもなく、痛かった。うん、痛かった。
「~~~~~~~~っ!?」
ナニカが、私の頭に激突した。それはとても重くて硬くて、あまりの痛みに頭を押さえて蹲る。
さっきまで寂しくて泣いていた筈なのに、今は痛くて泣いている。
涙目になりながら、人を泣かせてくれた正体を見た。
「……タマゴ?」
私の元に降ってきたものは、私が両手で抱えられるくらい大きさの黒く煤けたタマゴだった。
「キリキリ働けナツ」
「ちょ、ちょっとタンマ、うっぷ」
右手に【疾風のごとく】、左手に【人魚の冠】、風と水、二つの属性の槍を持ち、その力で小舟を操作する。
出せる力をフルに使い、奴らを追う。
しかし、肝心の道案内役のナツがダウンしてしまい、時間を大幅にロスしてしまった。
「くそっ俺たちが伸されてる間にエルザ達が連れてかれたなんてよ。全くなさけねぇ話だ」
「本当ですね。エルザさんほどの魔導士がやられてしまうなんて……」
「やられてねえよ。エルザの事知りもしねえくせに……」
「ご、ごめんなさい」
「グレイ、落ちついて!」
不用意な一言を言ったジュビアにグレイは睨みつける。慌ててルーシィは仲裁に入り落ちつくように言った。
「……あいつら、エルザの昔の仲間って言ってた。あたし達だってエルザの事、全然分かってないよ」
「…………」
ルーシィの言う通りだった。
“弟子”であった私も、何も分かって無かった。ただ無意識に思い込んでしまっていた。“エルザなら大丈夫だって”。
重苦しい沈黙が続く。
「あっ……」
ルーシィが何かに気づき指を指す。皆、ルーシィが指を指す方向を見た。
そこにあったのは天高くそびえ立つ塔だった。
地上にいた見張りを避け、ジュビアが見つけた水路を通る。
その道は十分ぐらい水中を進む必要があったけど。ジュビアが作り出した酸素を閉じ込めた水球を被る事でカバーできた。
……なるほど、こういう使い方もあるのね。流石水のエキスパートと感心しておこう。
「ここが塔の地下か?」
「ハッむぐっ!」
「リュむー!?」
「二人とも落ちついて!ここは敵の本拠地なんだから静かに!!」
ナツと二人で叫ぼうとしたらルーシィに口をふさがれた。
でもさ……
「何だ貴様等!!」
ルーシィも中々大きい声だと思うんだ私。
私達の声か、ルーシィの声か、どっちが原因かは分からない。まあ、どっちも原因ではないのかもしれない。
武装した奴らがこちらに気づいた。
普通に考えればバレないように行動するのが最善だったんだろうけど、バレた今、話は早い。
どうせ私達には無理な話だと思ったから最初っからそのつもりだった。
「何だ貴様等はだと?上等くれた相手も知らねえのかよ!!
ナツの攻撃を皮切りに戦闘が始まる。
火──
「“巻いて巻いて更に巻け!”
私が起こした風は竜巻となり、竜巻は目の前の敵を巻き上げた。
人、瓦礫巻き込めるもの全てを巻き込み、全てを吹き飛ばし、目の前の敵を一掃した。
「私の前に立つな」
こっちは色々とイラついてるんだ。
仲間に八つ当たりするわけにはいかないからみんなには普通に接してるけど。
たかが敵に、気遣う優しさを私は持ち合わせていない。
気づけばそこら辺にいた有象無象は一掃されていた。ギギギと上への扉が開く。
「何か扉が開いたぞ!」
「上へ来いってか?」
有象無象が一掃された途端に開いた扉、どう考えても怪しすぎる。
けど、軽く辺りを見渡してもそれ以外に進む道はない。
私達は開かれた扉の先へ進むことになった。
「何処だ四角ー!」
「何処だ元仮面ー!」
「だから二人とも静かに!」
扉の先には誰もいなかった。
二人を拐ったであろう奴らを誘き出すため、大声で奴らを呼ぶ。しかしルーシィに叱られた。
「下であんだけ暴れたんだ今更こそこそしてもおせぇよ」
「ええ、この扉誰かがこの場所で開けたのではありません。魔法での遠隔操作。完全にジュビア達のことがバレてます」
状況からジュビアは自分達の存在が向こう側に完全にバレていることを告げる。
下での状況から自分達が全く気づかれてないとは皆思ってなかった、けど招かれた状況にはなんとも言えない違和感を感じる。
「いたぞ!侵入者だ!!」
「こりねえ奴らだな」
「同感」
奇妙な違和感を解き明かす時間はなく、有象無象達が現れる。若干イラつきながら槍を構える。
けど、私達が奴らを吹き飛ばす前に、剣閃が奴らを吹き飛ばす。
風のように現れた赤に皆目を瞬いた。
「エルザ!」
「お前達、なぜここに……」
「なぜもクソもねえんだよ!舐められたまま引っ込んでたら
「エルザを助けにきたのもそうだし、リュウとハッピーも拐われたんだ!!妹と仲間を拐われて泣き寝入りするほど私達は薄情じゃない!」
「何……まさかミリアーナか」
ハッピーとリュウが拐われたことを告げると思い当たる節があったのか、人の名前を零す。
それを聞き逃さなかったナツはグイッとエルザに詰め寄った。
「そいつはどこにいる!」
「……分からない」
「よし分かった!」
「いや何をだ!?」
リュウとハッピーを拐ったであろう最有力候補であるミリアーナの場所をエルザは知らなかった。
けど、ナツは何かが分かったようだった。
「ハッピーが待ってるってことだ!!」
そう言ってナツは走り出す。
ハッピーが待ってる……うん、ナツの言う通りだリュウだってきっと私を待ってる!
「私もっぐえ!?」
「お前まで単独行動するんじゃねぇ!」
ナツを真似して突っ走ろうとしたら首根っこを引っ張られて首が閉まった。
ちょ、なんで私だけ……
ジタバタと先に進もうとするが、思いの外グレイの手が外れない。
「グレイサマニヒッパラレテル……ウラヤマシイウラメシイ……はっ、彼女も恋敵!?」
何故かは分からないけどジュビアは私の状況が羨ましいみたいだった。
ジュビア、代わりたいなら今すぐ代わるよ?
結構苦しいよこの体勢。
「ナツを追いかけよう!」
「ならん!!お前達は帰れ!」
「エルザ!」
「ミリアーナは無類の愛猫家だ。ハッピーとリュウに危害を加えるとは思えん。彼らは私が責任を持って連れ帰る。お前達はここをすぐに離れろ」
「却下、却下、ぜっったいに却下!!この状況で私達だけ逃げ帰るなんて出来るわけないし!」
「皆一緒じゃなきゃ嫌だよ!」
「これは私の問題だ!」
エルザは頑なに私達を返そうとする。
理由は分からないけど、こんな場所にリュウもエルザもナツもハッピーも置いてけない。
「お前達を……巻き込みたくはない」
「もう十分巻き込まれてるんだよ。ナツと現在進行形で突っ走ろうとしているシエルを見ろ。俺ら全員無関係だとは思ってねえ」
グレイと攻防を続けながら、奴の言葉にうんうんと頷く。
分かってるなら離してくれないかなグレイ。
リュウが待ってるんだから私はさっさと先に進みたいんだけど。
「アイツらが、エルザの昔の仲間だって話は、ルーシィから聞いた。けど!それとこれは別の問題!私達が関係ない理由にはならないよ!」
エルザの昔の仲間が悪さをしたからってエルザだけが責任取る必要はない。
そもそも向こうが巻き込んだんだし、そこまでエルザが気に病むことじゃないと思う。
話はとっても単純。仲間が困ってるなら、助ける。ただそれだけだ。
……まあ、正直私の力でエルザを助けられるのかは分からないけど。
「だ・か・ら!さっさと離せグレイごらぁ!!」
リュウが待ってるんだ。こんなところで時間を無駄にするわけにはいかない。
「この状況で誰が離すか馬鹿!」
「私馬鹿じゃない。ちゃんと考えてる!そっちがその気ならこっちだって考えがあるぞごらぁ!」
「ちょ!【紅蓮の炎】は卑怯だろ!」
「氷で人と自分の足を固定している奴に言われたくないですー!」
「グレイ様と仲がいい……ヤッパリ彼女は恋敵!!」
私だって考えて行動してたのに、グレイの言葉に堪忍袋の尾が切れた。
【肉体強化】をフルに使い、奴の腕を引きちぎるつもりで前に進む。
しかし元が元の為か強化しても、多少引きずるだけで、奴の腕を引きちぎる事は出来なかった……いや、本当に引きちぎろうとは思ってなかったけども!
そしてジュビア!!恨めしそうな顔で見るのやめてくれない!?代わりたいなら今すぐ代わるよ!!
「……あたし達は今の仲間、どんな時でもエルザの味方なんたから」
私達の喧嘩を後目にルーシィはエルザに語りかける。
「たく、らしくねーなエルザさんよぉ」
これだけ言ってもこちらを見ようとしないエルザに、見るに見かねたグレイがふざけた様子で声をかける。
全く、素直じゃないなグレイさんは。そしてよそ見とは割と余裕あるなこの野郎。これでも全力で進もうとしてるんだけど!
「いつもみたいに四の五の言わず着いて来いって言えば良い。……お前にだってたまには怖えと思う時があってもいいじゃねえか」
「……そうか」
エルザがこちらに振り向いてくれた。そして気づく彼女の左目から涙が溢れていたのを。
それは私がずっと気づかなかったエルザの涙だった。
とんだ不意打ちに私達は繰り広げていた喧嘩をピタリと止める。
「この戦い。勝とうが負けようが私は表の世界から姿を消すことになる。これは抗う事が出来ない未来。だから私が存在しているうちに全てを話しておこう」
エルザは語る。自分の覚悟を。
「この塔の名は楽園の塔、別名“Rシステム”。十年以上前に黒魔術を信仰する魔法教団が“死者を蘇らす魔法”の塔の建設をしようとし、労働力として各地から人が拐われた。……幼かった私もここで働かされていた一人だった」
エルザは語る。自らの過去を。
「ジェラールとはその時出会った」
「………………」
エルザは語る。楽園と呼ばれた塔の中に存在した地獄を。
──私がずっと目を背けていた真実を。
「さっさと答えろ。お前はエルザの敵か?」
ペシペシと尻尾で固まってしまった男の頭を叩きながら、答えを促す。
話を真面目に聞いてもらいたいから、多少威圧をしたけど、怯えられるのは心外だ。でかい図体してるのに思ったより図太くなかった。
さっき食べた魔力の味から、コイツは他の四人と違って捻くれてない。
答えに関しては確信を持って聞いているのに固まられるのは予想外。
何度も叩いてると気を取り戻したのか口を開いた。
「“……敵じゃない”。俺は、エルザを信じてる」
ああ、そうだろう。コイツはエルザの敵ではない。
だから、コイツに話しかけた。
「……だろうね。貴方の魔力はリュウの“嫌いな味”だけど、“不味くはない”もん」
猫の姿から、人の姿に【変化】する。
そしてシモンと呼ばれた男の頭を蹴り付けてから、床へ着地する。
「貴方に伝えることは二つ」
「いや、伝える前に俺を蹴り付ける必要はあったのか」
「ない」
蹴られたことに文句を言われたが、一刀両断でぶった斬る。
リュウはお姉ちゃんと違って、嫌いな人種に優しくするほど優しくないもん。
というかリュウを拐ったのはそっちの仲間なんだから、連帯責任で蹴られても文句は言えないと思います。
「一つ目はエルザが逃げた」
さっきまでエルザの魔力を全く感じなかったのに今はビンビンに感じる。
ものすごく怒ってる。そしてものすごく悲しんでる。
「二つ目はお姉ちゃん達も楽園の塔にたどり着いた」
まだ遠いけど、結構下の方でお姉ちゃん達の魔力を感じる。
なんか食べ覚えのない水っぽそうな魔力が一人いるけど、それ以外の人たちは覚えのある魔力だから絶対皆下にいる。
「貴方がやるべきことは何?」
エルザは逃げた。ナツ達は間に合った。
やる事は決まってる。