FAIRY TAIL 竜騎兵と竜の子   作:MATTE!

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楽園という名の地獄

「タマゴ……」

 

 

 私の頭上に落ちてきたものは私が両手で抱えられるくらい大きさの黒く煤けたタマゴだった。

 ジーと落ちてきたタマゴを見つめたけど、何も動きはなかった。

 

 

「……タマゴ」

 

 

 ぐぎゅるると腹の音がする。目の前には大きなタマゴ。私の取る行動は一つだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これでOK」

 

 

 ツタでタマゴを私の体に巻きつける。割れないように落っこちないように……まあ人の頭に落っこちても割れなかったんだ。ちょっとやそっとでは割れないと思うけど、念には念を入れて縛ろう。

 どうせ私には何もする事ないんだ。だからこのタマゴの為に動くことにした。タマゴを落とした誰かを探すことにした。タマゴを落とした誰かさんだってきっと探してると思うし。

 人の頭上に落としたことは文句言いたいけど、もしかしたらうっかりかもしれないから理由を聞いて下らなかったら文句を言おう。不可抗力なら……文句を言おう。痛かった事は確かだし。

 木の上には何もなかった。なら空を飛んでる何かがタマゴを落としたのかもしれない。

 

 

「よし!いくぞ!」

 

 

 

 正直、馬鹿な事をしていると自分でも思った。けど、私のこの子の家族を探す長い旅はこうして始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 あてはない。

 

 

 けど、目標ができた。

 

 

 野垂れ死ぬ可能性は変わってない。

 

 

 それでもその時だけは嫌な事を考えないでいられたんだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 エルザは全てを語ってくれた。

 平和だった村から黒魔術を信仰する魔法教団に攫われて、奴隷として塔の建設をさせられた。

 地獄の日々だった。意味も無く殴られ、蹴られ、鞭を打たれ、心が安まる日など一度も無かった。

 未来への希望など一つも持てない、皆が今を過ごすだけで精一杯だった。

 それでもジェラールはただ一人諦めることはしなかったらしい。ただ一人、自由を求めた。未来と理想()を諦めなかった。

 

 

「あの頃のジェラールは、皆のリーダーで正義感が強くて、私の憧れだった……」

 

 

 希望は伝播した……だけど、それでも地獄は終わらない。

 脱獄が失敗して、エルザが計画の立案者として拷問の対象に選ばれた。

 ジェラールがエルザを助けに来たときにはエルザの片目は潰されて、光を見ることも、助けに来たジェラールを映し出すことも出来なかった。

 絶望の淵にいたエルザにジェラールから戦うしかないと告げられた。でもエルザがジェラールの言葉に答える前に、今度はジェラールが狂信者に捕まった。

 仲間が殺されたことに腹を立てた狂信者は簡単には殺さず拷問をかけて見せしめにすることを決めた。その代わりにエルザは解放され、牢に戻された。

 牢に戻ってきたエルザの姿と戻ってこなかったジェラールに“もういやだ”と仲間の一人が泣き叫ぶ。

 怯える仲間達、恫喝する狂信者。エルザも仲間達と同じく恐怖で震えていた。けどジェラールの言葉は希望となって残っていた。

 自由は従っても、逃げても、手に入らない。戦わなければ自由は手に入らない。

 だからエルザは立ち上がった。武器を奪い、正面から狂信者を斬り伏せ、仲間達を鼓舞し反乱を起こした。

 犠牲もあった。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属していたロブという老人がエルザを庇いその命を落とした。

 運命の悪戯か、それとも願いが運命を呼び寄せたのか、エルザは魔法の力を手に入れた。その力で敵を圧倒した。

 そしてジェラールの元へようやくたどり着いた。

 

 

「もし、人を悪と呼べるなら。私はジェラールをそう呼ぶだろう」

 

 

 そうして会えたジェラールは変わってしまっていた。

 

 

 この世界には自由など無いと。

 本当の自由は“ゼレフの世界”だと。

 ゼレフを復活させる為に楽園の塔を貰うと。

 そう言いながら得体の知れない魔法で、まだ息の根があった狂信者達を殺していく、止めようとしたエルザにもその手は伸びる。

 お前はいらないとエルザはたった一人外へと放り出されてしまう。

 もし楽園の塔の存在がバレた際は全員を殺すと脅されて。

 

 

「私は……ジェラールと戦うんだ……」

 

 

 肩をふるわせ、絞り出すような声でエルザは言った。

 

 

「………………」

「話に出てきたゼレフって……」

「魔法界の歴史上最凶最悪と言われた伝説の黒魔導士、呪歌(ララバイ)やデリオラを造り出したものだ」

 

 

 その言葉に皆、眉を顰める。呪歌(ララバイ)はその力を出す前に私達に倒されたけど、本来は音を聞けばマスター達ですら簡単に殺すことができる代物だ。デリオラだって、グレイの師匠がその身を掛けて、それも数年単位で倒せた悪魔だ。

 そんなものを簡単に造り出せる黒魔導士をあいつは復活させようとしている。

 

 

「詳しい事情は私にはわからない。ショウ……かつての仲間はゼレフ復活の暁には“楽園”で支配者になれるとかどうとか……」

「ちょっと待って、あいつらエルザを裏切り者って言っていたけど、話を聞く限り裏切ったのはジェラールの方でしょ」

「私がいなくなった後、ジェラールに吹き込まれたんだろう。私は八年も皆を放置した、裏切った事にはかわりない」

 

 

 かつての仲間に裏切り者扱いされていることに、冷静にそれでいて諦めたような笑みを浮かべながらエルザは答える。

 その姿に耐えきれず私は口を出す。

 

 

「そんなのジェラールの馬鹿野郎が、馬鹿なことやらかしたのが原因でしょ!エルザが裏切り者扱いされる筋合い無い!むしろ良いように扱われてるあいつらの方が──」

「もういい、シエル。私がジェラールを倒せば全てが終わる」

 

 

 先の言葉をエルザに止められる。良くないよ、ちっとも……良くないよ。

 

 

「その話、どういうことだよ……」

「……ショウ」

 

 

 現れた色黒の男に皆警戒し、先手必勝とばかりに魔法を放とうとする、しかしエルザが片手で制す。

 

 

「そんな与太話で仲間の同情をひくつもりなのか!!ふざけるな!八年前、俺たちの船に爆弾を仕掛けて、一人で逃げたのは姉さんの方じゃないか!ジェラールが姉さんの裏切りに気づかなかったら皆死んでいた!!」

 

 

 息を荒げて何かを振り払うようにショウは叫ぶ。彼は見て分かるほどに動揺していた。

 

 

「ジェラールは言った!姉さんは魔法の力に酔ってしまって俺たちのような過去を全て捨て去ろうとしてるんだと!」

「ジェラールが、()()()?」

「っ!」

 

 

 ショウがグレイの言葉に息をのむ。そうだ、エルザの裏切りは全てジェラールから告げられた。

 分かるのは船に爆弾が仕掛けられていたという事実だけ。エルザが仕掛けたかどうか、本当は分かってなかった。

 ただ、ジェラールの言葉を鵜呑みにしていただけだ。

 

 

「貴方の知ってるエルザはそんなことする人だったの?」

「お前達に何が分かる!俺たちのこと何も知らないくせに!」

「っ!!!」

「シエル!?」

 

 

 衝動を抑えきれなかった。気づいた時には私は馬鹿野郎(ジェラール)にまんまと騙された馬鹿野郎(ショウ)を渾身の力でぶん殴っていた。

 ああ、やっちゃった。ある程度は我慢したんだけどめちゃくちゃムカッときたからやっちゃった。

 驚く皆を無視して、そのまま倒れたショウの胸ぐらを掴む。

 “何も知らない”……ああ、確かに私は“何も知らなかった”し“知ろうとも”しなかった。正直“私”が怒る資格は無いのかもしれない、けど……それでも、私は『妖精の尻尾』(フェアリーテイル)のシエルとしてこいつに言わないといけないことがある。エルザの弟子として、そして仲間としてこの馬鹿に言わないといけないことがある。

 

 

「……確かに私は“楽園の塔”にいたエルザもジェラールも知らないよ。けど、お前は二人を知ってたんでしょ!どうしてジェラール“だけ”を信じたんだ!!」

 

 

 ジェラールは“ジェラール……”エルザは“姉さん”……そこまで慕っていてどうして……エルザを信じてくれなかった。

 その裏切りはおかしいと疑問に思ってくれなかった。どうしてジェラールが変わったことに気づかなかった。

 

 

「俺にはジェラールの言葉だけが救いだったんだ!八年もかけてこの塔も完成させた!それが、その全てが……っ今更!正しいのは姉さんで間違ってるのはジェラールだと言うのか!!?」

 

 

 ジェラールの言葉を救いとして、生きてきた八年間。それを否定されショウは声を荒げた。

 もう、こいつの中でも答えは出ている。分かっていてもそれを認められない。

 外野の私じゃこれ以上は無理だろう、身内だったエルザでもこいつを認めさせることは出来ない。

 

 

「そうだ」

「シモン!?……とリュウ!?」

「え、リュウ!?」

 

 

 突如現れたシモンと呼ばれる大男は頭の上に猫状態のリュウを乗っけていた。

 いや何で、猫好きの人にハッピーと一緒に捕まってるんじゃなかったの。いや本当に何で。

 

 

「りゅー!おねーちゃーん!」

「へ?いや、ちょっと!うわとと!!?」

 

 

 リュウは人に【変化】しながらシモンの頭の上から飛び出した。慌ててショウの胸ぐらから手を離し、リュウを受け止める。

 

 

「りゅー!ナイスキャッチ!ただいま!」

「お、おかえり……いや、なんでリュウがこいつと一緒に……」

 

 

 上機嫌に擦り寄ってくるが聞きたいことがいっぱいある。なんで敵の上に乗って登場したとか、一緒に拐われてたハッピーはどうしたとか。

 とりあえず敵と一緒に現れた理由を聞いた。

 

 

「一番まじゅくないから頭の上にひっついた!そして案内してもらった!」

「ひっついたんじゃなくて噛み付いたの間違いじゃないか?」

 

 

 リュウの説明が相変わらず大雑把だった。

 とりあえず魔力が不味くないって事は人間として性根が腐ってなくて、この場に案内してくれるぐらいにはそれなりに優しいってことは察せられるけど。

 ……あと、ボソッと訂正が入ったけど噛み付いたんだねリュウ。まあ、敵だし、誘拐犯の仲間だし、もうちょっとくらいは痛い目見させても問題ないけど。

 

 

「てめえ、何の真似だ」

 

 

 グレイはリュウを素直にこちらへ返した事に疑問を抱き、裏を探ろうとシモンに睨みをきかせる。

 

 

「待ってくださいグレイ様、あの方は身代わりと知って攻撃したんですよ」

「!?」

 

 

 前に出ようとするグレイをジュビアが止める。そしてシモンがグレイの氷人形を身代わりと知ってわざと攻撃した事を告げた。

 

 

「暗闇の術者が辺りを見ていないわけが無いんです。ジュビアがここに来たのはその真意を確かめる為でもあったんです」

「流石噂に名高いファントムのエレメント4……ああ、俺は誰も殺す気は無かった」

「なっ……」

 

 

 シモンから告げられた言葉にショウは目を見開いた。

 というか私達だって驚いた。誰も殺す気は無かったって……それじゃまさかこいつ。

 

 

「ショウ達を欺くために気絶させるつもりだったが、氷ならもっと派手に死体を演出できると思ったんだ」

「お、俺たちの目を欺くだと……」

「お前も、ウォーリーも、ミリアーナも、フィルも、皆ジェラールに騙されているんだ。樹が熟すまで俺も騙されているふりをしていた……」

「シモン……お前……」

 

 

 エルザは驚いていた。無理もない。ずっと一人だと思っていた。ずっと自分は裏切り者だと思っていた。

 

 

「俺は初めからエルザを信じてる。八年間ずっとな」

 

 

 ちょっと照れ臭そうに、それでも精一杯の笑みを浮かべて、八年間エルザを信じ続けた不器用な大男は言った。

 

 

「会えて嬉しいよエルザ。心から」

「ああ、シモン。……私もだ」

 

 

 再会の喜びを分かち合うように、二人は抱き締め合う。

 その姿を皆暖かく見守っていた。

 

 

「……何で、何で皆そこまで姉さんを信じられるんだ」

 

 

 目の前の光景に、自分が今まで信じていたものが崩れ去った事実に、ショウは膝から崩れ落ちる。そして拳を地面に叩きつけた。

 

 

「何で、俺は!姉さんを……信じられなかったんだ!!くそおおぉぉ!!うぅ……うああああああ!!!」

 

 

 エルザを信じきれなかった事に、自分自身を責めるように、ショウは泣き叫んだ。

 

 

「……今すぐに全てを受け入れるのは難しいだろう。だかこれだけは言わせてくれ。私は八年間お前達の事を忘れたことはない」

 

 

 八年の歳月はとても深い溝を生んでしまった。今更エルザをすぐに信じるのは難しい。

 エルザはそれでも良いと言って、泣きじゃくるショウ優しく抱きしめた。

 

 

「八年前、私は弱くて……ジェラールを止めることができなかった」

「だが今は違う。そうだろ?」

 

 

 シモンの言葉にエルザは頷いた。

 

 

「俺はずっとこの時を待っていた。強大な魔導士達がここに集うこの時を」

 

 

 強大な魔導士達がここに集うのを待っていたとシモンは言う。

 

 

「まず火竜とウォーリー達の衝突を防がねば。ジェラールを倒すにはあの男(ナツ)の力が必要なのだ」

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