FAIRY TAIL 竜騎兵と竜の子   作:MATTE!

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VSフィル

 自分自身に、何度も何度も言い聞かす。

 私は、知らなかったし、知ろうともしなかった。

 それがいまさら関係者だ、なんて都合が良すぎる。

 そんなことを言える立場じゃないのは分かっている。

 

 

 ──そうだ、資格はない。それは、逃げ続けた私が一番分かっている。

 

 

 炎を身体に纏わせ、目の前の敵を見据える。

 余計なことを考えるのは後にする。今、目の前のコイツを倒さなきゃ仲間(エルザ)を助けにいけない。

 

 

「正直答えは分かり切ってるけど、一応聞くよ。そこを退く気は?」

「分かってて聞くのはどうかと思うが、一応言うよ。退く気はない」

 

 

 フィルの答えと同時にシエルは距離を詰め、【紅蓮の炎】を横に振るう。

 

 

「ああ……そうだね!【真紅の炎華】!」

 

 

 放った炎の斬撃をフィルは天井に繋げていた糸を手繰り寄せて避けた、そのまま天井に張り付かれた。

 蜘蛛かあいつ。魔法からして蜘蛛っぽかったけど。めっちゃ蜘蛛だよその姿は。

 

 

「降りてきなよ蜘蛛人間」

「その呼び名、ものすごく虫唾が走るから止めてくれないか、俺は虫が嫌いなんだ」

 

 

 めっちゃ蜘蛛人間と言っても過言ではないことやってるのに、当の本人は虫嫌いだから蜘蛛人間の呼び名を嫌がった。贅沢だな。

 

 

「なら、一人の女の子として助言してあげる。天井張り付くのやめればいいんじゃないの?」

「りゅー」

 

 

 その行為だけでどことなく蜘蛛を思い出す。一人の女の子として一応助言してあげた。

 リュウもうんうんと頷いてくれた。

 

 

「君が女の子として感想言うことに割と疑問感じるけど。素直に助言は受け取っておくよ」

 「あ゛?」

 

 

 失礼だなコイツ。

 私のどこに疑問を抱くところがあるっていうの。

 私だって女の子っぽいところの一つや二つぐらいはあるよ。

 

 

「お礼にこれあげるよ」

「そんなゴミいらないよ!」

 

 

 そう言ってフィルは天井から離れると同時にぐるぐるにまとめた糸くずを投げつけてきた。

 普通、お礼でゴミを投げるな。私でもそれはしないよ。ゴミを切り捨ててそのまま呪文を唱える。

 

 

「じゃあそのお礼のお返し!“地獄の中でも燃える光!”【地獄を照らす太陽】(アンフェール・ル・ソレイユ)!」

 

 

 避ける隙など与えない。通路を埋め尽くすほどの特大の火球を放つ。

 多少どころかかなり手荒だけど邪魔をするなら容赦はしない。

 私が作り出した太陽は目の前の通路を燃やし尽くす。

 

 

「やった?」

「残念だが、やられてない。俺は無傷だ」

「!」

 

 

 真っ黒焦げになった通路に、焦げ一つもない無傷のフィルがそこに立っていた。

 全くの無傷は傷つくな。……いや、“違う”──

 

 

「りゅ、うぅ!」

「そっちか!」

 

 

 すぐにリュウが示す方向に振り向き、目の前を薙ぎ払う。すると、何もない場所で【紅蓮の炎】が見えない何かにぶつかり停止する。

 止められた、いや違う。捉えたのはこっちの方!!今の私なら、やれる、いける、振り切れる!!

 槍だけじゃない、リュウが力を貸してくれる!

 

 

「いっっっけぇえええええ!!」

「──────────────っ!?」

 

 

 力任せに【紅蓮の炎】を振り切った。空の彼方にかっ飛ばすつもりで下から上に振り切った。それはもう、姿がぶれるの程の勢いでフィルは私にかっ飛ばされた。

 しかしかっ飛ばせホームランチャレンジは天井に阻まれる。

 天井に激突したフィルはそのまま床に落ちてきた。残念、窓から外へ突き落せばよかったかな。 

 

 

「っが!?……ケホッケホッ。なんて馬鹿力……ボールじゃないんだぞ俺は!糸で体を補強してなかったら間違いなく骨折れたぞ!!」

 

 

 せき込みながら、ホームランチャレンジの弾にされたフィルが文句を言ってきた。

 いや、文句言われる筋合いないと思うけど。私、敵だよ。

 

 

「そんなこといわれても。窓から突き落されないだけましだと思うけど」

「見た目に寄らずゴリラだな君。初対面から直情型だと思っていたけど。思った以上にゴリラだな君」

 「あ゛?」

 

 

 失礼だなコイツ。(二回目)

 女の子に向けてゴリラはないと思うけど。しかもなんで二回も言った。

 あと二、三回かっ飛ばしてあげようかコイツ。いや、かっ飛ばす(断言)

 【紅蓮の炎】を握りしめ、じわじわと距離を詰める。

 

 

「そんな女の子をゴリラ呼ばわりする馬鹿野郎の要望に応えて、今度は場外ホームランにしてあげるよ」

「いや、そんなリクエストは出してない。それより、それ、持ったままで良いの?」

「はぁ?何を言って……きゃ!?」

「りゅ!?」

 

 

 バチィと私と【紅蓮の炎】の間に火花が走る。鋭い痛みに思わず【紅蓮の炎】を手放した。

 な、なにが起きた?私が持っていたのは炎を宿した槍、雷なんて使ってない。

 カランと床に落ちた【紅蓮の炎】を見ると刃先にまとわりついた糸にバチバチと電気が走っていた。

 

 

 

「触れるな危険【電気網】(エレキ・ネット)……なんてね?」

「へー……幻術だけが取り柄じゃないんだ」

 

 

 電気を纏った糸をこれ見よがしに見せつけられる。……さっきの接触で【紅蓮の炎】につけられたのか。

 手をグーパーして動かしてみるけど感覚が鈍い。槍を持つことはできるけど握りしめるのは……ちょっと厳しいかな。

 それにあそこまでバチバチ電気流れてる【紅蓮の炎】は持てない。絶対無理に持ったら手黒焦げになる。

 

 

「そしてこれでチェックメイト。【有刺鉄線】(アイアン・ソーン)

「!?」

「りゅー!!」

 

 

 自分が立っていた場所が光ったと思ったら次の瞬間、私たちはまた糸でぐるぐる巻きに拘束されてた。

 またこれか!動きとめられるの何回目だ!これしかないのかコイツ!

 

 

「焼き増しもいい加減にして!こんな糸!」

「あまり動かない方が身のためだよ。この糸は今までのとは違う。動けば動くほど、この鉄の茨は成長する。強い力を加えれば、ほらこの通り。一瞬にして棘だるまの出来上がり」

 

 

 フェルは糸で拘束されてる私たちに見えるところで糸の塊を床にたたきつける。たたきつけられた塊はその衝撃でいくつもの棘を生み出し床に突き刺さった。

 

 

「それに君たちの糸は繋がっている。無理に引きちぎるなら……もう片方は無事じゃないかもね」

「…………………」

 

 

 その言葉を聞いてさすがに私も動きを止める。【紅蓮の炎】が手元にない以上、自分ごと燃やす荒業も使えない。

 一か八かの賭けに、リュウを巻き込むわけにもいかない。

 

 

「じゃ、俺。君の仲間の所に行ってくるから。君らはそこでじっとしてて」

「逃げるの?ヘタレ男」

「は、誰が?」

 

 

 立ち去ろうとするフィルを陳腐な言葉で罵ると、フィルは簡単に足を止めた。

 

 

 

「私から見て、お前が根性なしのヘタレに見えたから、正直に言っただけだけど?敵をとどめを刺さずに放っておくなんてとんだ根性なしだね」

「……勘違いするなよ。俺は、弱い者いじめが趣味じゃないだけだ。」

 

 

 イライラした様子でフィルは私を見た。

 弱い者扱いされていることに、真に遺憾だけどそこは置いておこう。

 それは“事実”だ。目の前のこいつは私より強い。リュウがいなかったら、きっと前に立つことすらできなかった。

 だからこそ、思うことがある。

 

 

「なんで私にこの糸の説明をしたの?黙ってれば勝手に傷ついた……それどころか死んだかもしれないのに」

「…………………」

 

 

 私とこいつは敵同士、親切に技の説明をする必要はない。黙るどころかこいつは止めた。

 止められなかったら間違いなく私は無理にでもこの糸を引きちぎるところだった。

 まだ騙されてたウォーリーとショウとミリアーナって三人の方が人を殺そうとする気はあった。

 ナツの口に弾丸ぶち込んだり、一般人をカードに閉じ込めたり、ルーシィ縛り付けたり。どれもこれも一つ間違えれば死んでいた。

 こいつがしたことは、せいぜい人を島で遭難させて、人を眠らせて、人を糸で縛り付けて……なんか、思い出せば思い出すほど私が被害被ってる気がする。それはそれでなんか嫌だけれども。

 ……一つ言えるのは確実に殺せる場面でも、こいつは殺さなかった、ただ眠らせただけ。

 

 

「私から見て、あなたは極力人を傷つけないようにしてると……思う」

 

 

 何だかんだこいつは、最初に会った時から人をなるべく傷つけずにしてる。もちろんそのまま放置してればそれなりに危険だろうけど。

 それでも何かしら手を出して、なるべく人を傷つけないようにしている。遭難の時だってこいつが目の前に現れなかったらずっと私は森の中を彷徨っていた。

 

 

「自慢じゃないけど、これならまだ年がら年中、器物損壊してる私たち妖精の尻尾(フェアリーテイル)の方が人を怪我させてるよ」

「本当に自慢じゃないなそれ!それはおかしいだろ!君のところ正規のギルドだよね、実は闇ギルドとかそんなんじゃないよね」

「失敬な、ちゃんと正規のギルドだよ。そりゃ評議院にちょっと、いやたまに……と、時々……よく怒られるけど」

「いや、よくの分だけ小声で言っても前半の言葉の濁し方で全く信用できないからな!?なんだその自信がない言葉の濁し方は!そこは自信持てよ。こっちが心配になるだろ!」

 

 

 私がいるギルドが正規ギルドか闇ギルドかそんなことはどうでも……よくはないけど。今の気にする問題じゃない。

 今、この場で気にすべき問題は一つだけ。

 

 

「あなたは本当に、エルザを犠牲にしたいの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ?そんなの、君に言う筋合いはない」

 

 

 

 

 

 

 バッサリと、至極まっとうに、私の問いは切り捨てられた。

 ああ、それはそうだ。赤の他人の部外者に、素直に話す話でもない。

 

 

 

 

「──ああ、そうだね。私には関係がない話だった。リュウ!」

「りゅにゃーん!」

 

 

 リュウは姿を猫へと【変化】へと変化させた。

 そして猫になったことでできたスペースで拘束を抜け出し、そのままの勢いで私を拘束していた糸を無残に食いちぎった。

 

 

「ガジガジ、ポリポリ……ん~~~りゅん!!ふぉし!みっりゅ!」

 

 

 ガジポリと細い飴細工を食べるかのようにリュウはカチコチの糸を食べる。

 星三つの評価を下しているので、そうやらこの糸をリュウはお気に召したようだ。

 

 

「美味しい、リュウ?」

「りゅ~ん!」

「そっか……なら、私も食べさせてもらおうかな」

「りゅ?」

 

 

 私の言葉にリュウは、何かを考えてるのか首を傾げる、そして白い瞳で私を見つめる。

 

 

 

 

 

 “今、使うの?”

 

 

 

 

 そう聞いているように見えた。

 

 

「うん、今じゃなきゃ駄目なんだと思う」

 

 

 だから私は正直に答えた。

 そう、今じゃなきゃ駄目だ。正直に言って私にこれ以上手はない。

 これ以上、足を止められるわけにはいかない。私にはまだ、やらなきゃいけないことがある。

 

 

「……りゅ」

「ありがとう、リュウ」

 

 

 リュウは私の頭の上に飛び乗った。ありがとうリュウ。できる限り早く済ませる。

 魔力が全身に行き渡る感覚がする。

 

 

「ねえ、あなたはまだ……ジェラールを信じてるの?」

「だから君にこっちの事情教える筋合いは……っ!?」

 

 

 目の前のシエルの変化にフィルは目を見開いた。

 彼女から発せられる魔力は強くなり、魔力が白銀の紋様となって体中に刻み付けられた。

 でも、それ以上に目を引いたのがあった。白から空へと変化した髪。

 その姿はまるで──

 

 

「その姿は……」

「……下がっててリュウ」

「りゅ」

 

 

 省エネモードで猫の姿のままのリュウに下がるよう言う。

 この切り札(【竜の絆】)を切った以上、これ以上リュウに無茶はさせられない。

 今は猫の姿だけど、いつ竜に戻るかはわからない。

 リュウは竜であることを知ってるのは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)でもマスターを含む一部の人間だけ、人ではないことは察してる人間もいくらかはいそうだけど、今ここにいるナツ達は全員知らない。

 いずれ話さなきゃいけないとは思うけど、それは今じゃない。

 

 

りゅ(やだ)りゅーりゅ(お姉ちゃん)りゅーりゅりゅ!(ぜーったい無茶する!)りゅうーう!(無理もする!)りゅう(だから)りゅん!りゅ!(ここ!いる!)

「大丈夫、無理も無茶もしない。まだ、やることがある」

 

 

 知らなくとも、知ろうともしなくても。そんなことを、言える立場じゃなくても。

 逃げて、逃げて、ひたすら逃げて。過去から逃げた私は、結局過去にたどり着いてしまった。

 資格はない。でも……それでも、私にはやらなくちゃいけないことがある。

 

 

 

 

 私が、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のシエルであるために。

 

 

 

 

「だからリュウ。“お願い”」

「りゅ、う~!うぅ~~!あう!!」

「いた!」

「ばーうー!」

 

 

 唸ったリュウは私に噛みつく、それだけではなく、尻尾でべしべしと背中を叩かれた。

 そして何かしらの捨て台詞を吐いて私の頭の上から飛び降り、少し離れた位置まで離れた。

 ごめんね。リュウ。この埋め合わせは絶対にするから。

 

 

「ありがとうリュウ。さてと、あなた、確かフィルっていうんだっけ?」

 

 

 気を取り直して、目の前の敵を見据える。

 私を姿を見たフィルは私を通して別の誰かを見ているのか、心ここにあらずといった様子だった。

 

 

「確かに、私にあなたたちの絆をどうこう言う筋合いは、無い」

 

 

 

 

 

 

 必ず追いつくと約束してくれた。

 

 私はずっと待っていた。

 

 あの人が囚われている間、ずっと、私はただ待っていた。

 

 何もせず、ただ待っていた。

 

 そしてあの日──

 

 

 

 

 

 

「私は、信じられなかったから」

 

 

 

 

 

 先に、約束を破ったのはどっち?

 

 

 

 

 


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