初めて見た時からどこか懐かしい感じがした。だから、出来ることなら傷つけたくは無かった。
なんで懐かしいと感じるのかその時はわからなかったけど、エルザ姉さんの弟子って聞いて納得した。ああ、
奴との契約があるから、流石に表立って味方はできなかったけど、俺は見逃した。出来ることならエルザ姉さんと平穏無事に過ごして欲しかったから。
でも……いま、ようやく分かった。懐かしいと感じた原因はそれだけじゃない。
目の前に立つ青髪の少女の姿を見て思い浮かんだのは、あの日、バレないように聞いた、兄さん達の内緒話。
兄さん達の後悔の話。
梟をグレイが倒し、ヴィダルダスをルーシィとジュビアが倒し、そして、斑鳩をエルザが倒した。
ジェラールが用意したであろう
しかし、ジェラールが言っていた戦士は“四人”……最後の一人が未だに現れず、フィルとは相変わらず連絡が取れない。
ショウを追っていたはずのシエル達が見つからない事も気がかりだった。
「うえ……アレ?」
「目が覚めたかナツ」
「……確か俺、変な乗り物に乗せられおぶぅ!!」
「やめろ!思い出して酔うんじゃねえ!」
目が覚めたナツは今までの経緯を思い返し、卑劣な罠で変な乗り物に振り回されたことを思い返し戻しかける。
吐かれたらたまらんと慌ててナツを下ろした。
「あの後お前は梟に喰われてグレイに助けられたんだ」
「だーー!!?俺が負けてグレイが勝っただと!!?こうしちゃいられねぇ!リベンジだ!あの梟ともう一回戦ってくる!!
「そんな事をしてる場合じゃねーんだ!」
梟にリベンジしようと走り出そうとしたナツの首根っこを引っ掴む。
「いいかよく聞けナツ。三羽鴉は全滅した」
「俺、何もしてねえ!!」
「すでにルーシィ達はウォーリーとミリアが塔の外に連れ出して貰った。シエルとリュウは見つからないが彼女達は俺が探す。だから頼むナツ、お前はエルザを助けてくれ」
ジェラールが用意した最後の一人が気にかかるところではあるが、今、シモンにとって優先すべきことはエルザとジェラールの衝突を止めることだ。
エルザが……彼女が強いことは知っている。だが、間違いなくエルザは、ジェラールを殺せない。
「ぐぼぉ!?」
「ナツ!?……フィル!?」
ナツが答えを出す前に、天井と一緒に何かが落ちてきた。多少離れていた自分は無事だったが、真下にいたナツが天井の瓦礫で生き埋めになった。
そして、何よりも衝撃的だったのは上から落ちてきたのが傷だらけの
「フィル……一体誰にやられたんだ!」
「うぐ……シモン兄か、コレは……「私だよ」
「シエル!?」
「リュウもいるよー!」
誰にやられたのかフィルに聞く、答えはフィルからではなく頭上から降ってきた。
空いた穴から上見ると、探していたシエルとリュウが穴からこちらを覗き込んでいた。
「てめ、こらぁ!!痛ぇじゃねえか!!」
「それは素直にごめん。まさか真下にナツがいるとは思ってなかった。今度ご飯奢るから許して」
バコーンと瓦礫を吹き飛ばし、ナツは上にいるシエルに文句を言う。シエル自身もこんなことになると思って無かったのか、ナツを瓦礫で生き埋めにしたことは素直に謝った。
「な、何故、フィルを!」
「いや、まあ……特に悪いことしたわけじゃないんだけど、ちょっと方向性の違いが現れて、ムカついたからどついたと言うか、割と盛大に八つ当たりしたと言うか……」
「はぁ?どうしたんだシエル」
「……ホント、何やってるんだろね……私、はぁ……」
何故フィルを傷つけたのか、その問いにシエルは言葉を濁す。自分自身もどうしてこんな行動をしたのか理解していないようだった。
「リュウ、”コレ”はあとどれくらい持つ?」
真下を覗き込むリュウにシエルは何かを問いかけた。
「りゅ?りゅーん……アイツの糸食べて、リュウは猫だし、前ほど遠くはないし、塔の中くらいなら……あと半日?」
「……そっか、リュウ。おいで」
「りゅう!」
シエルが腕を広げると、リュウは喜んで飛びついた。そしてシエルは強く抱きしめた。
「お願い、もし───────なら──────」
「りゅ?お姉ちゃん?」
シエルはボソボソと抱きしめたリュウに何かを伝える。その内容にリュウは首を傾げた。
「──ごめんね」
「りゅ!?りゅ~~~~~~~~~~!!」
「リュウ!?わっと、っとぉ!」
そしてそのまま空いた穴から真下に落とした。突然のことに対処ができなかったリュウはジタバタ、クルクルと悲鳴を上げながら落ちていく。
落ちてきたリュウを慌ててナツは受け止めた。
「ナイスキャッチ」
「おいこら!いきなり落とすなんて酷いぞお前!」
「りゅー!!」
「ナツ、リュウ、先に外で出てて」
文句を言うナツとリュウを無視し、ナツ達に先に塔から出るように言った。
「別にいいけど、お前はどうすんだよ」
「私?私は……この塔の上で踏ん反り返ってる王様に、話がある」
「話?」
「とにかく、二人は先に……なんだったらシモンとそこのやつも連れて塔を出て!絶対だからね!」
シエルはそう言い放つとこちらの返答を待たずに、この場を離れていった。
「急にどうしたあいつ」
「りゅ……」
話があると、まるで逃げるように離れていったシエルに一体気になるところではあるが、上にはエルザがいるし、そもそもジェラールはエルザの敵だ。自分が口を挟む問題じゃない。
まあ、シエルに頼まれたし、リュウとついでにシモンとシエルにやられた奴を連れて塔から出てってやるかとまず何故か猫になってるリュウの首根っこを掴んだ。
「待て、……行かせるか!……ぐ!!」
「フィル、大丈夫……じゃないと思うが、一体どうしたんだ」
去って行ったシエルを追いかけようとしたのか、フィルは立ち上がるが。傷が痛むのかふらつきシモンに支えられる。
「俺の怪我は気にしないで、ただの自業自得だよ。ただ俺が、ジェラール兄さんの味方をして、無様に負けただけ」
「ジェラールの味方って……あの放送を聞いてなかったのか!」
この状況下でジェラールの味方だったフィルにシモンは声を荒げた。
フィルはシモンの責めを甘んじて受け止める。分かっていたことだった
「まさか、四人目の戦士は……」
「俺だよ。俺は、分かった上で兄さんの味方をした。分かった上でエルザ姉さんをあえてジェラール兄さんの元に向かわせた」
「なんでそんなことを」
「それは……シモン兄さんには関係ない」
そう言ってフィルはシモンを突き放す。
「邪魔をするならアンタも敵だ。シモン兄さん」
それは、明確な拒絶だった。シモンはこの状況でもジェラールの味方をするフィルに戸惑いを隠せなかった。
「うお、どうしたリュウ急にでっかくなって」
シモンとフィルのやりとりを尻目に、ナツは急に豹サイズになったリュウに驚き首根っこから手を離す。
解放されたリュウはブルブルと体を震わせ、ナツを無視してフィルの元へトテトテと歩く。
「……りゅ、うううう!!!」
「いっだぁ!!!!?」
そしてリュウがフィルの腕に齧りついた。それはもう容赦なく、シエルにされた仕打ちの八つ当たりするかの如く。
当然腕を噛まれたフィルは悲鳴をあげてジタバタともがく。
「ま、待て、待ってくれリュウ!!お前達に何があったか分からないが、フィルを食べるのはやめてくれ!!」
突然フィルの右腕に噛み付いたリュウに一瞬呆気にとられたシモンだが、慌てて止めに入る。
拒絶はされたがフィルはずっと面倒を見ていた弟分だ。見殺しには出来なかった。
騒ぐ対象者と外野を無視し、リュウはやることをやってフィルの腕を解放する。
「え……」
そこに腕はあった。……多少、腕に噛み跡は残っていたが。
「りゅーこれで喋れるでしょ」
リュウは皆に腕輪を見せつけるとバリンと噛み砕いた。
無理に外したり、何だったらちゃんと解呪しても厄介な代物だったが。こんなものはリュウにとってはお茶の子さいさいの朝飯前。
フィルにそれなりの傷を残して、リュウはフィルを縛っていた腕輪を
「あ……」
フィルはリュウに噛まれた腕を呆然と見る。
自分を縛っていたものが無くなったことを認識する。
そしてすぐにナツにしがみついた。
「ぬお!何だてめえ!やんのか!」
「頼む、ジェラール兄さんを助けてくれ!操られてたんだ!ジェラール兄さんは!!」
解放されたフィルは自分が知った全ての事実をナツ達に伝える。
「……最初は俺も騙されてた」
最初から知っていたわけじゃない。最初はフィルも皆と同じでエルザが自分達を裏切ったと思っていた。
自分達を裏切ったエルザが許せなかった。そしてエルザを見逃したジェラールにも不満があった。
だから、フィルは一人でエルザに会いに行こうとした。
「外を一番知ってるのは、ジェラール兄さんだ。なら、知っていると思った。外の世界に出たエルザ姉さんの事を」
知っていて、エルザを庇っているんだと思ったのだ。小さいなりに、二人の関係が特別なものだと知っていたから。
真正面から聞いても答えてくれないと思った。だから知ってる事をこっそり探ろうとした。
記憶糸】《メモリー・スレッド》を皆に内緒で、この糸をこの塔の至る所に張り巡らせ、何だったら服や持ち物にも仕込んだ。
この糸はは触れたものの記憶をランダムに探って記録してくれる。
糸に込めた魔力分しか記録できないし、糸を自分に取り込まなければ記憶を知ることが出来ないが、記憶を抜かれていることが相手にバレにくいのがこの糸の利点だ。
糸を回収して記憶の仕分けをする。気の長い作業が必要になるが、時間はいくらでもあった。
「それで、俺はまずあの日、ジェラール兄さんがエルザ姉さんを追い出した真実を知った。そして──」
早い段階でそれを知れたのは運が良かったのかも知れない。でなければフィルはショウ達と同じようにエルザを誤解していた。
そしてそれとは別に見つけた誰かの記憶。
「八年前、捕まったジェラール兄さんに”ゼレフの亡霊”を見せる誰かの記憶。俺は、ソイツを探そうとして、情けなくソイツの手下に成り下がった」
真実を知った衝動のまま行動して、その結果ジェラール兄さんを戻すこともできず、操っている誰かを見つけることも出来なかった。
それどころか、あんな腕輪を付けられて、意志を制限された。フィルは何も出来なかった。
真実を知った時点で誰かに声をかければよかったのだ。そうすれば良いように使われることもなかった。
「エーテリオンが発射されるまでもう、八分もない。いくら強いエルザ姉さんでも、いや、エルザ姉さんだからジェラール兄さんを倒せない」
二人にとって、お互いが大事だったのは、幼かったフィルでも分かったことだ。
エルザはジェラールの今の状態を”知らない”。最悪、自分諸共ジェラールを始末する可能性すら出てきた。
「今更虫のいい話なのは重々承知している。頼む。二人を救ってくれ」
フィルはナツに懇願する。
虫がいい話だ。今まで敵だったくせに解放された途端に助けを求めて。
泣くわけにはいかない。だって、一番泣きたい人は俺じゃない。そう思ってフィルは唇を噛み締める。
「…………」
「うわ、な、なにを……」
ナツは乱暴に、でも、どこか優しく、フィルの髪をわしゃわしゃとかき乱す。
「話は簡単じゃねえか、とにかくジェラールって奴をぶん殴って正気に戻せばいいんだろ」
「いや、正気に戻すのはそうだけど、ぶん殴るのは……」
「こっちは仲間攫われてんだぞ、百発くらいぶん殴っても良いじゃねえか」
「百発は多いだろ!?」
かなり手荒な方法でジェラールを正気に戻そうとするナツに、フィルは助けを求める人選ミスったかなと不安になった。
そういえばシエルも「器物損壊は得意技」とか割と不穏な発言するやつだったなと思い返す。
さすが悪名高い(主に評議会から)
「先に突っ走ってたシエルも回収しなくちゃいけねえし。燃えてきっぶべら!?」
「ナツ!?」
突如、吠えようとしたナツを横から何者かが蹴り飛ばした。
ナツは勢いよく先ほど下敷きになった瓦礫に突っ込み、彼らはナツを蹴り飛ばした人物を見て目を見開く。
「いって~~~!!急に何なにすんだ!痛えだろ!」
瓦礫から這い出たナツは吹き飛ばした人物に文句を言った。
エルザとシエルを追いかけようとするナツを蹴り飛ばした犯人はナツの文句を全く無視して言葉を紡ぐ。
「“お願い”された」
「“お願い”?」
「お願い。もし追いかけてくるなら、全員、塔から叩き出せ。ごめんね」
「全員、塔から叩き出せ、お姉ちゃんからの“お願い”だ」
人の姿になったリュウが彼らの前に立ちはだかった。
大変長らくお待たせしました。
リアルで色々あったのですが纏まった時間が取れるようになったのでボチボチ更新を進めていきたいです。