「全員、塔から叩き出せ、お姉ちゃんからの“お願い”だ」
ナツを蹴り飛ばし、リュウが言った。
「な、何言っているんだ!今そんなことをしてる場合じゃっ!」
「……そうだね、ない。でも“私”はお願いされたから──」
あと数分でエーテリオンが落ちる。それまでにジェラール達を止めて、この塔から脱出しなければならない。
そんな状況を理解していながらリュウはナツ達の前に立ち塞がった。
シエルにお願いされた。ただそれだけの理由で。
「──皆、外に出す」
彼女にとって、それが全てだ。
「…………っ」
この子はただ、魔法を食べる小さな子供のはずだった。いつも
多少の機転はきくが、ただそれだけ。ジェラールは取るに足らない存在だと断定した。自分自身、ただの女の子と思っていた。
だが今──
“目の前にいるものは何だ?”
頬を汗が伝う、今すぐにもこの場を離れたいと思う。だが、目の前の何かから目を逸らすわけにはいかなかった。
背中に庇うフィルが息を飲み、後退りする音がする。
何もしない彼らを見て、リュウはこつこつと歩みを進める。
「お返しだあぁ!!!」
「りゅっ」
瓦礫から飛び出たナツは炎を纏った拳をリュウに振り下ろす。
盛大に蹴り飛ばされたのでその借りを返すつもりで思いっきり振り下ろした。
「……熱い」
「あっ!コンニャロ、掴むな!」
手加減などしていない、ナツは本気で、何なら気絶させる勢いで振り下ろした筈だった。
だが、その燃える拳をリュウは物ともせず受け止めた。
「【リュウの咆哮】!」
「あっぶね!」
リュウは口を大きく開け、魔力の塊を放ったが、それに気付いたナツが手を振り解き、その場を飛んで避けた。
「【火竜の咆哮】!!」
「無駄」
離れた勢いのまま、ナツがリュウに向けて火を吹いた。
その火をリュウはスルッと吸い込み、そのままモグモグと自分の糧にする。
「食べるなよ!」
「食べるよ、食らっても火傷はしないけど熱いのやだもん、リュウ」
面倒だなとリュウは思った。そこらへんの魔導士であれば簡単だったが、相手がナツだと割と手間がかかる。
できることならあまり手荒なことはしたくない。だが半端な攻撃でどうにかできる相手じゃないのは理解している。
時間がない。さっさと言われたことをやって、やりたいことをやりたいのだ、リュウは。
「ちょっと待てお前ら!そもそも俺たち全員に時間がないんだ!!あと数分でエーテリオンが降って俺たち全員お陀仏だぞ!!」
仲間同士で戦いを始めようとする二人をフィルは叫んで止めようとする。
リュウに何だか分からない事情があることは分かった。しかしそれは今の状況ではただの自殺行為だ。
エーテリオンが降るまで時間がない。間に合わなければ自分たちは間違いなく──
「死なないよ」
「はあ?」
しかしリュウはフィルの問いに何のこともなしに返す。
「エーテリオンここに落ちても、この塔にいる人は誰も死なないよ。この塔、あなた達が造ったのに何も知らないの?」
「なんのことを……言っているんだ?」
「リュウ、この塔がどんなものかは知らないけど、何で出来てるかは知ってるよ」
エーテリオンが落ちてくることを危険視している彼らにリュウは首を傾げた。
そもそも彼女はなぜエーテリオンが降ってくることに皆が慌てていたのか分かっていなかった。
自分達で造ってたのにこの塔の中身を彼らはわかってなかったらしい。
「これ、
外見は石などで造られた普通の塔に見える、けど全然違う。
「
「魔力を溜め込むために造ったんじゃないの?リュウでも食べるのに一苦労するぐらいいっぱいあるよ。エーテリオンの一発くらいなら吸収できるんじゃないかな」
食べれないことはないけども……味がついたのならともかく、この量の味なしを食べるのは流石に飽きる。別に食べるものに困っているわけじゃないリュウは特にこの塔に興味を持たなかった。
だから、リュウは楽園の塔が
「魔力を、溜め込む?……まさか!?だったら尚更やばい、ジェラール兄さんの求めていた条件が揃う!」
リュウの言葉にフィルはジェラールの狙いに気づく。
「なんだと!?」
「この楽園の塔……ジェラール兄さんが発動しようとする【Rシステム】は27億イデアもの莫大な魔力が必要なんだ」
「27億イデア!?そんなもの集まるわけがない!!」
「そう……集まるわけはなかった。最初からゼレフを生き返らせるのは無理だって……俺は思っていた」
27億イデア……この塔にいる全員の魔力を集めても到底足りない。あまりにも現実的ではない量。
【Rシステム】起動する魔力がないのなら、エルザを生贄にすることも出来ないはず。
だから、エルザを行かせても最悪な事態にはならないと、限られた思考の中でフィルは判断した。
「だけど、この塔が魔力を……エーテリオンの魔力を受け止めてしまうなら話は別だ!魔力の問題さえ解決すれば、【Rシステム】は発動できる!!」
「評議院が今、
自殺まがいの行為だと思っていた。
だが、それは違った。ジェラールはそれすらも己の目的を果たす手段にした。
「なるほど、だからこの塔まだ空っぽなのか。こんな大量の
フィルの話を聞いて、リュウはこの塔の役割を理解した。
造るだけ造っといて中身は空っぽ、人の短い一生じゃ絶対満たせられない、どれだけ人の命を無駄使いするのかと思ったけど、エーテリオンを当てにしていたのなら納得だ。
むしろあるところから貰うんだから、よく考えたほうだ。
「ってことは……どういうことだ?」
「難しく考えることじゃないと思うよ。あの人、そこの二人には色々嘘ついただろうけど、リュウ達につかれた嘘は一つ。“エーテリオンが落ちたら全員死亡”だけだよ」
ナツが混乱しているようだったのでリュウは簡潔に状況を伝える。
いろんな人が、いろんなことを考えて黙って行動したから事態がややこしくなる。
「【Rシステム】を発動してエルザを生贄にゼレフを蘇らせる。それが彼の目的。だからエーテリオンが落ちてきたらゲームオーバーはある意味間違いじゃないよ。魔力さえあれば【Rシステム】を使えるところまで準備できてるみたいだから。使われたらこっちの負けだね」
“ジェラール”のやりたいことは最初から決まっている。
「……そこまで分かっていて……邪魔をするのか」
「今までの流れにリュウが退かなきゃいけない理由あった? “私”はお姉ちゃんにお願いされて皆の邪魔をしてるんだよ?」
リュウが説明したのはジェラール側の状況。
今、リュウが彼らを邪魔しているの理由はただ一つ“お姉ちゃんからお願いされた”からだ。
リュウの目的にジェラール側の状況は関係ない。
「どうして!エルザは君の仲間だろ!」
「う~ん……確かにエルザはリュウの仲間だけど……リュウの大事なものはねー」
「ああ!?急になんだよ!」
フェルの問いかけを無視して突拍子もないことを言い出したリュウにナツは突っ込んだ。
「一番大事なのはお姉ちゃんです。二番目はお姉ちゃんが大事なもの、三番目は食べれるもので、四番目くらいにフェアリーテイルのみんな、五番目は……今、関係ないからノーコメント」
「地味に低いな俺たち!?」
指を折りながらリュウは自分の好きなものを順序つけていく。
まさかの一括りで四番目だったナツはリュウのつけた順位に物申した。
「まあ……低いといえば低いともいえるけど、“リュウにとって”フェアリーテイルのみんなが四番目なだけで、お姉ちゃんはみんなが大好きだから結局みんなは二番目くらいだよ」
「そうか、じゃあいいか」
「(結局順位変わってないが)」
「(いいのかそれで)」
最終的に自分たちの順位が二番目になることを知ったナツはそれならいいかと矛を収めた。
だが、シエルにとって大事だから繰り上げされているだけであって、そもそもリュウにとっての大事なもの順位は変わってない。
その事実に他二人は気づいたが深く突っ込むのはやめた。
「逆に嫌いなものは……今、塔の上でふんぞり返ってる王様がぶっちぎりの一番だね」
「王様?」
「……ジェラールの事か?」
「そう!ここじゃそんな名前らしいね」
リュウが一番嫌いな“王様”に対して、シモンがジェラールの事かと聞き返すとリュウはまるでジェラールを知っているかのような言い方で肯定した。
「……お前、ジェラール兄さんを知ってたのか?」
「りゅ~ん……知ってるかと聞かれるとちょっと微妙かな……」
フィルの問いにリュウは微妙な顔をしながら返答に困った。
“ジェラール”という人物を知っているかと聞かれれば“同じ名前の違う人”を知っているのだが、フィルの問いを正しく答えるのであればノーだ。
「リュウは上にいる人は聞いたことしかないよ、よく知ってるのはお姉ちゃんの方」
「やっぱりアイツは!」
リュウの言い方に、フィルは自分が感じたことに確信を持った。
それなら戦った際に見せた“あの顔”にも納得がいった。
「じゃあお前も……」
「あ、それはない。リュウとあいつは全くの赤の他人だよ」
シエルがそうであるなら、その妹のリュウも同じはず。
そう思ったが、ないないと手を振ってリュウに否定された。
「リュウは拾われっ子、八年前にお姉ちゃんが拾ってくれた」
「八年前?お前は今七歳だろ」
誕生日のたびにシエルが大騒ぎするので、ナツはリュウの年齢を分かっていた。
八年前に拾われたのであれば明らかに一年多い。
「そうだよ七年前……“777年7月7日”にリュウは生まれた」
「七が多いな」
生まれた日に七の数字が多く、フィルは軽くつっこんだ。生まれる日は選べないとは言うが、それはそれとして中々珍しい日に彼女は生まれていた。
そしてリュウが口に出した日に、心当たりがあるものが一人。
忘れるわけがない、その日は、ナツにとって大切な存在がいなくなった日。
「お前まさか「違う」
ナツの言葉をリュウは遮る。
頭を横に振り、ナツの言葉を否定する。
「リュウ、何度もみんなに言った。リュウは
確かに、リュウは様々な滅竜魔法を使える、しかしリュウは決してそれを使おうとしなかった。
例え使った方がいい状況だとしても、使わなかった。
それを使うことを“シエル”が望んでいなかったから。
「
それは変わらない。シエルがそう願い続ける限り。
“流星”は“リュウ”であり続ける。
「“私”は“願い星”、願いを叶える事が“私”の存在意義。だから──」
リュウは魔力を練り上げる。火、水、風、土、雷、氷、光、闇、持ってる全ての魔力をごちゃ混ぜに集める。
全ての光は混ぜこぜになって、リュウの両手は白く光り輝き、大きな翼になる。
上に大きな魔力がある。地鳴りもしてる。エーテリオンが降ってくるまでもう、数分もない。
「──とりあえず、一度吹き飛ばされてね」
リュウは両手を振り上げ、光の翼を彼らに振り降ろした。
「【至竜の羽ばたき】」
「!?」
光は、ナツ達を巻き込み、光は全てを包み込んだ。
「“ジークレイン”……“シエルアーク”」
記憶から何もかもかけ離れた青年に向かって、少女は二つの名前を挙げる。
「この名前に覚えがないなら、私から話すことは一つもない」
師を背に庇い、少女は槍を構える。
「──もし、覚えがあるのなら、とりあえず一回ぶっ飛ばす。話は全部それからだ!!!この……馬鹿兄さん!!!」
彼女──