──昔の私は、どこにでもいる普通の子供だった。
お父さんと、お母さんと、お兄ちゃんと、私。
どこにでもいる普通の家族だったと思う。小さな村で、家族四人で暮らしてた。
お父さんがいなくなった日のことはあまり覚えてない。ただお墓の前で大泣きしたことだけは覚えてる。
お父さんがいなくなって、家族が三人になって、それでも私は自分が不幸だと思ったことは無い。
優しいお母さんと頼れるお兄ちゃんがいたから。
そう──“あの日”までは普通の幸せな子供だった。
子供狩り、Rシステム。
そうか、そんな勝手な理由で村は焼かれたのか。
そんな……くだらない事の為にお母さんは殺されたのか。
「……っ!」
ぽろぽろと雫が目から零れた。目をぐしぐしと拭って頬を両手でパチンと挟むように叩く。
この怒りも、憤りもぶつける相手はおそらくもういない。
エルザたちの話が本当ならここに居たのは、
そんな人たちを、ジェラールはいい様に利用した。
本当なら、もっと前に自由になってよかった人たちを。
じゃあ……なんで、なんで、なんで!!
「はぁ……はぁ……」
走る、走る、走る。
塔の最上階でふんぞり返ってるであろう馬鹿野郎を目指して私は走る。
リュウにお願いしたけど、みんなは無事に塔の外に出れたかな……
「ごめん……ごめんね」
穴に落とした時のリュウの驚いた顔が目に浮かぶ。
それもあるから、あの子は自分が置いてかれることを想像もしてなかった。
これは私の勝手だ、あの子は関係ない。
最初にリュウを逃げ道にしたのは自分。これ以上あの子を巻き込めないから、置いてくために、“お願い”をした。
“お願い”しなかったら、嫌でもついてくだろうから。
これは、今の状況になんの関係がない、
この状況で“シエル”としてあの子と接するのが私にはできなかった。
エルザがどこまで行ったか分からない。もしかしたらもう終わっているかもしれない。
けれど、走ることはやめられなかった。
「思っていたより早い……そんな簡単に打つもんじゃないでしょ“ソレ”」
外は見れてないけど、この地鳴り……この塔の遥か上、とても大きな魔力を感じる。
あともう少しでいっちゃん上にたどり着けるのに結局、間に合わなかった……皆──
死なないよ。
「え」
エーテリオンがここに落ちても、あなたが大切に思う人たちは誰も死なない。
声がした気がした。
そして、私は光に包まれた。
エーテリオンは落とされた。
「あの塔には何人のものがいたのか……」
ゼレフの復活を阻止するために、エーテリオンを落とした評議院の者達は、塔に居たであろう者達の命を悔やんだ。
「ナツ……シエル……リュウ……エルザぁ……」
塔の外にいた者達は、残っていた皆の無事を願った。
殆どのものがエーテリオンによって塔が破壊された結果を想像した
ただし、その現実は彼らの予想を遥かに上回っていた。
この塔にいるもので、エーテリオンが落ちた結果を最初から想定していたのは“二人”だけ。
「ね、エーテリオン。落ちても死ななかったでしょ?」
この結果を想定した白き竜は白き繭に包み込んだ三人に事実を伝えた。
そして──
「くく……あはははははは!!ついに、ついにこの時が来たのだ!!これが楽園の塔の真の姿、巨大な魔水晶なのだ!」
この自殺とも思える狂気の計画を立てた犯人は嗤う。
そして塔の正体を語り、彼は高らかに宣言した。
「評議院のエーテリオンにより27億イデアの魔力を吸収することに成功した!!今!ここに!Rシステムが完成したのだ!!!」
塔の外へ脱出していた彼らはエーテリオンが落とされて発生した大波にのまれかけるが、ジュビアの魔法で難を逃れた。
そして変貌した塔を彼らは目撃する。
「何……あれ……」
「外壁が崩れて……中から水晶?」
「ねえ……無事だよね……ナツも、エルザも、シエルも、リュウも、シモンって人も……」
「騙したのか……お前はゼレフの被害者ではなかったのか……」
Rシステムの完成を誇らしげに語るジェラールをエルザは睨む。
そんなエルザに背後から声をかける者がいた。
「仕方がない“ジェラール”も本来の力を出せなかったんだよ。本気でやばかったから騙すしかなかった」
エルザの背後から、ジェラールと同じ顔の男が現れる。エルザはその人物を知っていた。
「ジークレイン!!?なぜ貴様がここに!」
「初めて会った時のことを思い出すよエルザ。マカロフとともに始末書を提出してきた時か……」
突然現れたジークレインはここにいる訳を話さず、エルザと初めて会った時のことを語りだす。
「ジェラールと間違えて俺に襲い掛かってきた。まあ……同じ顔だし、無理もない。その時は双子と聞いてやっと納得してくれたよな。しかし……お前はその後も敵意を剥き出しにしていたな」
「当たり前だ!!貴様は兄のくせにジェラールのやろうとしている事を黙認していた!!いや……それどころか私を監視していた!!」
「そうだな……そこは俺のミスだった。あの時は“ジェラールを必ず見つけ出して殺す”とかそれっぽい言い訳をしておくべきだった」
「とっさの言い訳ほど苦しいものはないよな」
ジークレインとジェラールは交互にあの日の対応が間違いであったと語る。
「やはり……お前たちは結託していたのだな」
親しげに話す彼らにエルザは最初から結託して事を起こしたのだと察した。
「結託?」
「それは少し違うぞエルザ」
「!?」
ジークレインの姿がブレる、そしてその姿はジェラールと重なっていく。
「「俺たちは一人の人間だ。……最初からな」」
「そんな……まさか!思念体!!?」
「そう、昔からジークは俺自身だ」
ジークレインは消え、残ったのはジェラール一人。
「馬鹿な!!ならばエーテリオンを落としたのも自分自身!そのために評議院に潜り込んだだと!?」
「かりそめの自由は楽しかったかエルザ。そう、すべてはゼレフを復活させるためのシナリオだった」
ジェラールはこれまでのすべてがシナリオ通りだったとエルザに告げた。
「貴様は……貴様は一体どれだけのものを欺いて生きているんだあぁ!!!」
「フフ……力が、魔力が戻ってきたぞ。ゼレフが復活までの戯れだ、遊んでやろうエルザ」
エルザは怒りのまま剣を取り出し、ジェラールに向ける。
ジェラールは戻した力の感覚を確かめながら、肩慣らしとして目的達成の前の“遊び”をしようとする。
そんな中で……横から水を差す少女がいた。
「……エルザから離れろ。変態野郎がぁ!!!!!」
「くっ!?」
「シエル!!!?」
なんか高らかに宣言して、完全にエルザ以外が見えてないようだったから、
これ幸いと、とても見覚えがある男を横からどてっぱらを蹴り飛ばした。
「ギリ間に合った!!」
「シエル!なぜお前がここに……」
「エルザを迎えに!あと、一応あいつに用がある」
槍を構えながらフンっと目の前の男をにらみつける。
「無理だ!!お前には勝てない!!」
「……ごめんエルザ、ずっとみんなに黙ってたことがあるんだ」
あまりにも実力差が見えている相手に立ち向かおうとする私をエルザが止める。
だけど、私にも譲れない理由がある。
「今まで黙っててゴメン、言い訳になっちゃうけど、恥ずかしながら確信に至ったのはあいつが気色悪い塔内放送をしたあたりなんだ。エルザの話を聞いたときはまだ薄々の予感で、ただの“同名”の可能性もまだあったし」
「シエル……?」
口から出る言葉は完全に言い訳だ。
……今更なんて説明すればよいかわからないや、ずっと……その話題から逃げてた。
全力で後ろを向いて、全力で気にしないふりをしていた。
「お前は……」
「“ジークレイン”……“シエルアーク”」
目の前の人物は、私の顔を見て目を見開いた。
私は暫く口にしていない名前と、あの日から呼ばれることが無くなった名前を目の前の奴に告げる。
「この二つの名前に覚えがないなら、私から話すことは……もう、一つもない」
目の前の、“どっかのディスコミュニケーション野郎と同じ名前”の奴に向けて言い放つ。
「──もし、覚えがあるのなら、とりあえず一回ぶっ飛ばす。話は全部それからだ!!!この……馬鹿兄さん!!!」
力の限り、記憶からあまりにも違う兄に向かって私は叫んだ。
「…………………」
「兄……だと?しかし“ジークレイン”はジェラールの……」
エルザに先ほど告げられた事実は、評議員だったジークレインはジェラールの思念体であることだ。
しかしシエルは“ジークレイン”こそが彼の名前と言っている。
「“ジークレイン”はもういない」
「!」
「魔法学校を首席で卒業し、そして評議員の一人になった男は“もういない”。お前がもし同じ名前の似たような人物を想像しているのであれば、ソイツはすでに子供狩りの日に死んだ」
なんの感情の色も見せず、目の前の男はそう言った。
「………………」
目の前の男の言葉に昔を思い返す。まだ何も知らない、未来に不安なんて覚えてなかった過去。
これからは俺が母さんとシエルを守るよ。魔法を覚えて、一杯勉強して魔法評議員になるんだ。
ただ愚直に、今までどおりが続くと思っていた馬鹿な記憶。
絶対迎えに行く
……そうか、約束は、とっくのとうに破られてたんだ。
「……そう……分かったよ“ジェラール”。なら
なら、ここに立つべきはあの日からずっと泣いてばっかの何もできなかった泣き虫シエルアークじゃない。
「ただ、
「だったらどうする?お前がエルザの代わりに戦うのか?」
「そうだけど?」
「ふ……エルザよりもはるかに弱いお前がか?」
「べーその弱い奴にどてっぱらの蹴りを食らった間抜けはどこのどなたですかー」
あっかんべーっとジェラールを煽る。
ジェラールが事実を言うなら、こっちだって、間抜けを晒した事実を言ってやる。
「ああ言えばこう言うな」
「ああ言われてるから、こう言ってるんですー。言われなかったら言いませんー!」
こっちは嫌なことを言われたから、こっちだって嫌なこと言ってやってるんだ。
私が悪いみたいな言い方はやめてほしい。
「どう育てばそんな屁理屈を言えるのか、親の顔が見てみたいぜ」
「
【疾風のごとく】を取り出し、槍をくるくると振り回す。
「じゃあ、まずは試しに……巻いて巻いて更に巻け!
魔法で竜巻を作り出し、それをジェラールに向けて放った。
「
顔色一つ変えずにジェラールは流星の速さで竜巻を避ける。
そのまま、ジェラールは攻撃に転じる。
「っ【蝶のように舞う】!」
【疾風のごとく】で自分をさらに強化し、ジェラールの蹴りを避ける。
「ほう、避けるか。どうやら威張るくらいの腕はあるようだ。だがまだまだこれからだ!」
私が避けれたことにジェラールは若干驚いた表情を見せる。
でも、余裕の色は変わらない、ギアを上げるようにジェラールのスピードはさらに増す。
「っ!」
変わらず攻撃を避けるが、何度かよけきれず場面があって、傷はどんどん増えていく。
――どこまでも、私はリュウに助けられている。
「以外にタフだな。その服と紋様のおかげか」
私が何とか戦えているタネに目ざとく気づかれる。
……まあ、紋様は光ってるし、同じような紋様の衣が引っ付いてたら分かりやすいか。
「そうだよ、なにせ非力な女の子なもんで。大人相手は小細工しないと!」
「非力な女の子が、人のどてっぱらを蹴り飛ばすか?」
「場外まではいかなかったじゃん、非力だよ」
こんなかわいい女の子に対して、何を言うか。
どっかの諸悪の根源は人をゴリラといってくるし、しかも二回。
「そろそろ、遊びは終わりにしよう」
ジェラールは天高く飛び上がり、手を前に出した。
大技の気配を察知して、私も今できる最大の技を放つ準備をする。
「七つの星に裁かれよ」
「天を結ぶ七つの光、地を結ぶ七つの槍――!」
「
「
星と天、7つの光がぶつかる。
激突した魔力は轟音とともに弾け、視界を覆うほどの白煙を巻き上げた。
やがて煙がゆっくりと晴れていく。
そこに立っていたのは、一人だけ。
「こんなところか」
――ジェラールだけだった。
前回投稿日時、2023/12/31……
ほんっとうに、もうしわけない。