FAIRY TAIL 竜騎兵と竜の子   作:MATTE!

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クローバーへ

「もきゅもきゅもきゅもきゅ」

 

 

 エルザが運転する魔動四輪車で私たちはナツ達を追いかける。

今回は運転も魔力の供給もエルザで、リュウは私が持ってきた干し肉を頬張って食べたものを魔力に変換している。

 ハッピーにだいぶ魔力を渡し過ぎた、このまま魔力が空になれば【変身】の魔法が解けてしまう。

まだ言葉を喋れるからいくらか余裕はあると思うけど、途中で竜に戻っちゃうとちょっと大変だからね。今は休ませよう。

 

 

「これ……あたしたちがレンタルした魔動四輪車じゃないじゃん!?」

『鉄の森』(アイゼンヴァルド)の周到さには頭が下がるご丁寧に破壊されてやがった」

「見事に粉砕されてたもんね……」

「あっこまでこにゃごにゃにゃら、リュウがたべてもりょかったじゃん」

「いや、それはいくら何でも流石にやばい気がする……」

「……弁償するのに形もないのは流石に……ね」

 

 

 魔力をハッピーに渡してお腹がすいたリュウは残骸となった魔動四輪車を見て真っ先に食べようとした。流石にそれはまずいと皆で止めた。いくら私がリュウ()に甘いと言ってもそこはちゃんと止めた。壊したのは『鉄の森』(アイゼンヴァルド)……というよりはエリゴールだけど、姿形が欠片もないのはちょっと困る。そこで私はいつも常備している干し肉を渡してそれをリュウはもきゅもきゅと食べているわけである。

 

 

「ケッ……それで他の車を盗んでちゃせわないよね」

「借りただけよ!!……エルザが言うには」

「事の原因がとやかく言わない。レンタル代と弁償の領収書を『鉄の森』(あんたら)に押し付けるぞ!!」

「どんな脅しだそれ」

 

 

 押し付けても意味ねぇだろ。とグレイは呟くがシエルには聞こえていなかった。

 

 

「何故……僕を連れていく?」

「しょうがないじゃない、町に誰も人がいないんだから」

「エルザが皆を逃がしちゃったもんね。誰もいない町に一人で置いてかれるのは寂しいでしょ?」

「クローバーのお医者さんに連れてってあげるって言ってんのよ、感謝しなさいよ」

 

 

 何故と問いかけるカゲにルーシィとリュウは一緒に連れていく説明をする。私は別にそこら辺にほっぽりだしても気にしない……ことはないけどさ。折角手当てしてのたれ死なれても困るし。

 

 

「違う!何で助ける!?敵だぞ!!?」

 

 

 カゲは敵のはずの自分を助ける私たちに声を荒げる。

 

 

「そうか、分かったぞ。僕を人質にエリゴールさんと交渉しようと……無駄だよあの人は冷血そのものさ、僕なんかの……」

「うわー暗ーい」

「後ろ向きだなー」

 

 

 変な勘違いをしているのかカゲはぶつぶつと呟く。こっちはそんなつもりないのに、なんというか後ろ向き過ぎでしょ。

 

 

「死にてぇなら殺してやろうか?」

「ちょっとグレイ!!」

 

 

 物騒なことを言い出すグレイだがそのまま言葉を続けた。

 

 

「生き死にだけが決着の全てじゃねぇだろ?もう少し、前を向いて生きろよ。お前ら全員さ」

「…………………」

 

 

 カゲがグレイの言葉を受け止めたかは分からない。だけど……思うことがなかったとも思わない。すぐに受け止めることはできなくても、心のどこかに言葉が残ってくれさえすればいい。殺されかけたというのに、こいつは……まだギルドを……

 ……やろうとすることはまったくもって賛成できないし認めないけどね!!

 

 

「あの火の玉小僧、死んだな」

「まだブツブツ言うんだ……大した後ろ向き精神だよ」

「なーんでそういうこと言うかなー」

 

 

 カゲはグレイのあの言葉を聞いてでも後ろ向き精神は変わらないのか、今度はナツが死ぬとか言い出す。

 

 

「火の魔法じゃエリゴールさんの【暴風衣】(ストームメイル)は破れない、絶対に!!」

 

 

 エリゴールを信じているのだろうとも思うけど、何というかドヤ顔が何となくうざった……うっとおしかったのでちょっと意趣返しでもしてみようかと私はクスクスと笑う。

 

 

「何がおかしい」

「そりゃ“風の衣”は()()()()だろうね」

「“風の衣”だと?エリゴールさんのはそんな生易しいものじゃない」

「どんなに荒々しかろうが、元を正せばただの“風”」

 

 

 変則的だけど私も“風使い”の端くれ、風の特性は重々承知している。そしてそんな風使いの弱点も私は一つ知っている。

 高温で熱せられた空気は上昇気流となって低気圧を発生させる。風は気圧の低いほうへ流れるから風使いは風を纏うのが難しくなる。一度ナツと戦って、それをやられて(ナツはそんな事意識してないだろうけど)空中から落っこちたことがある。

 地上にいる時はともかく、空中で身ぐるみを剥がされて落っこちるのはちょっと遠慮したいから、それから実力差がありすぎる炎属性の魔導士には【疾風のごとく】を使わなくなったんだけど……それはまた別の話か。

 

 

「ナツを怒らせないことだよ、出ないと身ぐるみ全部引っぺがされるんだから」

 

 

 ニッコリと私は知識と実体験が積もり積もった一言を言った。

 

 

「お姉ちゃん、怒らせてないのに身ぐるみひっぺ剥がされちゃったもんね」

「リュウ、そういうのは思っても口に出さない」

 

 

 リュウの一言で意味深に決めたセリフがちょっとカッコ悪くなったのはご愛敬です。

 

 

 


 

 

 

「ナツーー!!」

 

 

 線路沿いを魔動四輪車で辿っていくとナツとハッピーそして倒れたエリゴールの姿が見えた。それを見つけてルーシィは大きくナツを呼ぶ。

 

 

「お!遅かったじゃねぇか、もう終わったぞ」

「あい」

「流石だな」

「ケッ」

「素直に喜べばいいのに」

「リュウ、知ってるよ。そーいうのってツンりゅ!?」

「絶対にそれは違う。いいかリュウ、違うからな」

 

 

 グレイはとんちんかんで不名誉なことを言いそうになったリュウのほっぺを両手で強く挟む。

 

 

「りゅーー!?」

「リュウに何してくれとんじゃコラー!!!」

「ガッ!!?っ~~~!?」

 

 

 もちろんそれを(シスコン)のシエルが許すはずもなくグレイに飛びかかる。というか脛を蹴り飛ばした。グレイは痛みで悶絶する。

 

 

「シエルにやられてやんの!!ざまあねぇな!!」

「ああ!?てめえだってこんなの相手に苦戦しやがって!『妖精の尻尾』(フェアリーテイル)の格が下がるぜ!!」

「苦戦?どこが!楽勝だよ!!なあ、ハッピー!」

「微妙なとこです」

「何はともあれ見事だ、ナツ。これでマスターたちは守られた」

 

 

 いつも通り、ナツとグレイは言い合いを始めだすがそんな言い合いを止めたのはエルザだった。

 

 

「ついでだ……定例会の会場へ行き、事件の報告と笛の処分についてマスターに指示を仰ごう」

「クローバーはすぐそこだもんね」

 

 

 エルザの言葉に私たちは頷き、魔動四輪車に乗り込もうとした。しかし魔動四輪車は突然動き出しそのままこちらを轢こうとするので私たちは慌てて避けた。

 

 

「りゅ!?」

「カゲ!!」

「危ねーなぁ動かすならそう言えよ!!」

「油断したなハエども!!笛は、【呪歌】(ララバイ)はここだーー!ざまあみろ!!」

 

 

 走り出した魔動四輪車を運転していたのはカゲだった。そしてそのカゲの手元には【呪歌】(ララバイ)の笛が握られていた。

 って──

 

 

「恩を仇で返されたーー!!」

「あんのやろおおおお!!」

「何なのよ助けてあげたのにーー!!」

「追うぞ!!」

 

 

 目の前で起こった出来事に一瞬思考が停止するが、すぐにハッとなって文句を言いながら私たちはカゲを追いかけた。

 

 

 


 

 

 

「ハア……ハア……」

 

 

 カゲヤマは息を荒げさせながらもクローバーへ辿りつき、『妖精の尻尾』(フェアリーテイル)の奴らに追い付かれることなく、マスターたちが定例会をしている建物の前へと着いた。建物の様子を見るとまだたくさんの人影が見える。

 定例会はまだ終わっていないことにホッとし、この場所でも十分【呪歌】(ララバイ)の音色が届くと確信して笛を吹く準備をしようとする。ゼレフの遺産であるこの笛に秘められた黒魔法なら、いくらギルドのマスターと言えどひとたまりもない。

 

 

「!!」

 

 

 しかしその時誰かが自分の肩を叩いた。驚き、後ろを振り向くとそこにいたのは『妖精の尻尾』(フェアリーテイル)のマスター、マカロフだった。

 

 

「なんじゃお主、その怪我で散歩とはよっぽどの命知らずか向こう見ずじゃな。傷に響くぞ早く病院に帰っとれ」

 

 

 マカロフはカゲヤマの怪我を見ると病院に帰るよう促す。

 

 

「いかん!そんなことしてる場合じゃなかった、急いであの五人の行き先を調べねば……」

「あ、あの……一曲聞いていきませんか?病院は楽器が禁止されているもので……」

 

 

 “今日はハエに縁がある”カゲヤマはそう思いながらもこのチャンスを逃すものかと曲を聞いてもらおうとする。

 

 

「気持ち悪い笛じゃのう」

「見た目はともかくいい音が出るんですよ」

「急いどるんじゃ一曲だけじゃぞ」

 

 

 “勝った”

 カゲはマカロフの言葉に勝利を確信し笛を口に近づける。

 

──正規のギルドはどこも下らねぇな!!能力が低いくせに粋がるんじゃねぇっての!!

 

──これはオレたちを暗い闇へと閉じ込め、生活を奪いやがった魔法界への復讐なのだ!!手始めにこの辺りのギルドマスターどもを皆殺しにする!!

 

 仲間たちの声を思い返す。

 そう、この笛を吹けば、魔法界に復讐ができる。

 

 

──リュウ、知ってる。人間って楽なほう楽なほうに逃げるとろくな奴にならないんだって!

 ……とてもムカつく子供の言葉が頭に過った。

 それが引き金となったのか、止めどなく奴らの言葉が自分の中を駆け巡る。

 

──そんなことしたって権利は戻ってこないのよ!?

 こちらに怯えながらも自分たちにそう言い切った金髪の女がいた。

 

──前を向いてる者を羨むな。

 ムカつく子供の姉は自分たちの行動を否定した。

 

──もう少し、前を向いて生きろよ。お前ら全員さ。

 後ろ向きな自分を諭す男がいた。

 

──彼が必要なんだ!死なすわけにはいかん!

 自分の力が必要だと言った、女騎士がいた。

 

──同じギルドの仲間じゃねえのかよ!!

 敵であったはずの自分を助けた火竜がいた。

 

 

「どうした?早くせんか」

 

 

 気付くと笛を持つ手が震えていた。そう、吹けば……吹けばいい。吹けば、きっと何かが……すべてが変わるはず!

 

 

「何も変わらんよ」

 

 

 目の前の老人はこちらの心を見透かすように言ってきた。

 

 

「弱い人間はいつまでたっても弱いまま。しかし弱さの全てが悪ではない。元々人間なんて弱い生き物じゃ。一人じゃ不安だからギルドがある。仲間がいる。強く生きる為に寄り添いあって歩いていく。不器用なものは人より多くの壁にぶつかるし遠回りをするかもしれん。しかし明日を信じて踏み出せばおのずと力は湧いてくる強く生きようと笑っていける。そんな笛に頼らなくても……な」

 

 

 その言葉でカゲは全てを察した。目の前の人物は全てを見通していた。分かっていて、自分に言葉を続けたのだと。

 

 

「……参りました」

 

 

 笛を手放し、カゲは地に崩れ落ちる。

 

 

 “適わない”

 

 

 そう、思い知ってしまった。正規ギルドの者に負けた。しかし、その心は……不思議と晴れやかな気分だった。

 

 

 


 

 

 

「りゅーーーーーー!!」

「ぐほばぉ!?」

 

 

 

 クローバーに着いて、なんとかカゲを見つけた私たちを止めたのはギルドマスターたちだった。すぐに笛を吹きそうなカゲだったけどマスターの嬉しい言葉に憑き物が落ちたように崩れ落ちた。

 ちなみにさっきのマスターの悲鳴は全てが終わったと判断したリュウがマスターに突撃した結果だ。多分マスターの言葉が嬉しかったんだね。うん。

 

 

「かっこよかったよマスター!!」

「リュ、リュウ!?と言うことは……」

「マスター!!」

「じっちゃん!!」

「じーさん!!」

「ぬおおぉぉっ!?なぜお主等がここに!?」

 

 

 マスターは私たちがここにいるとは思っていなかったのか顔をぐもぉっ!と変形させて驚いた。

 

 

「流石です!今の言葉、目頭が熱くなりました!!」

「痛っ!?」

「じっちゃん、スゲェな!!」

「そう思うならペシペシせんでくれい!」

 

 

 マスターの驚きもなんのその、エルザは自らの鎧にマスターの頭を打ち付けた。ナツは怖いもの知らずかペシペシと頭を叩いた。

 

 

「一件落着だな」

「ちゃくちゃく!!」

「いや、カゲを病院に連れてくのと、弁償とレンタル代を『鉄の森』(アイゼンヴァルド)に押し付けるのがまだだよ」

「押し付けるのは決定事項なんだ……ほら、アンタ医者行くわよー」

 

 

 後始末を終えるまでが本当の意味の一件落着ってね。

 

 

「カカカ……どいつもこいつも根性のねぇ魔導士どもだ」

「!!」

 

 

 この場にいる全員がその声を聴いた。地の底から這いずるように低く寒気がする恐ろしい声。全員あたりを見渡してその声の主を探す、それはすぐに見つかった。

 

 

「もう我慢できん、ワシ自らが喰ってやろう」

「笛が!?」

 

 

 声の発信源は【呪歌】(ララバイ)だった。笛からところどころ禍々しい瘴気が漏れ出る。そして笛から漏れ出る瘴気はだんだん巨大な何かへと変化していく。

 

 

「貴様等の魂をな……」

 

 

 瘴気が収まるとそこにいたのは──ゼレフの悪魔だった。

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