たとえ夢でも侮るなかれ。
――――――その夜、私は夢を見た。
気がついたら、学校の屋上にいて、
なんだか、不思議な気分だなぁ。
ここまで来た記憶は、一切ない。
だけど―― ぼんやり空を眺める頭には、雲雀さんに呼び出されてここまでやって来たんだと、不思議と理解していた。
そして、これが夢であることを、私はまだ知らなかった――――……。
私を呼び出した雲雀さんは、目の前に佇んでいた。
向けていた背中を、羽織る学ランと共に翻し、私をその綺麗な漆黒の瞳で射抜く。
「花内まりや」
あなたにそう呼ばれるのは、違和感が残るよ――……。
瞳に宿す揺るぎない光と、強い眼差しは、何ひとつ変わらないね。
そんなあなたに近づくには、やっぱりそれなりの覚悟が必要なのかな?
心も身体も、未熟な私には、彼のように何も誇れない。
ひばり、さん…………。
――――ジャキン、と、奏でられる金属音。
ざわつく胸の鼓動――
「僕は、君を――」
――――……雲雀さん、私は――
「ここで、咬み殺す」
――ただ、あなたのことが、大好きで。
……けれど、あなたが何より怖くて、悲しくて、辛い。
気づいてしまえば、お互いの世界が壊れてしまう。
――……いつだって、私のことを、あなた瞳は鬱陶しそうに、優しくて温かくて、元気がない時は雲のように包んでくれたよね。
伝えられなかった、言葉があるの――……。
揺らぐ視界で、あなたを見つめた。
もう言葉は出なかった。
今はもう、届かないと思ったから――……。
あなたの純粋な殺意が、私の身体に喰らいつき、肉を裂いて、骨を砕く。
――……思うより、涙は溢れ出てくる。
こころが、いたい――……。
「君は、脆いね」
無機質な眼――
崩れ落ちていく私の視界には、血に塗れた世界に取り残されてしまったあなたの姿が鮮明に焼きついた――
『まりや――――……』
あの日の涙を流して、暗い世界に落ちていった――――
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少しして、ベッドから身を起こす。
パジャマに染み込むくらいべっとりと汗をかいて、咽せてしまうくらい息が荒い。
頭が混乱する。
落ち着いて、置き時計の針を見ると、まだ明け方にもなっていない時間だった。
さっきの夢で、眠気なんてすっかり醒めてしまってる。
「なんなの、あの夢……」
よりにもよって、雲雀さんに咬み殺される夢なんて、縁起でもないよ……。
咬み殺される間際、何か考え事をしていたような…… 全然思い出せないや。
春先にも関わらず、凍えるように身体が冷える。どんなに腕をさすっても、体温は奪われていく。冷や汗が背筋を伝っていった。
「――あれ?」
私の手に落ちた冷たい感触に気づいて、目を細めると、数え切れない粒がボロボロと落ちていた。
「どう、して…… 泣いてるの……?」
冷たい涙を拭っても、しばらく止まることはなかった。
潜在意識の中に眠った想いは、これから起こる出来事の、所詮は前置きに過ぎなかったのかもしれない――……。