とうとうお昼休みになってしまった……。
チャイムが鳴ったと思った途端、春奈ちゃんにひっ捕まえられ、新垣君と共に強制連行…… その後はご想像にお任せします。
かくして、セカンドミッション始動。
ターゲットと言うつもりはないけれど、校内を見回りしている雲雀さんの後を、こっそりとまた3人でつけている。全く学習してないように思えるけど、セカンドということできっと何か秘策があるんだと春奈ちゃんを信じて、物陰からひっそりと見張る。
今日はまだお手頃な群れを見つけられていないらしく、あの雲雀さんも無闇やたらに出会い頭の生徒を咬み殺すことはしないで、今のところおとなしい。
そんな雲雀さんを見て、私と新垣君は心底ホッとしていた。誰だって血祭りなんて見たくないと思う。……例外を除いて。
「チッ。鬼の風紀と呼ばれたあの男は一体何をフラフラ歩いてんのよ。風紀の仕事しなさいよ。ほら、ちょうど向かいから来るあの今にもストーカー起こしそうなひょろ男を咬み殺しなさい」
隣ですごいことを言っている。全く以って偏見だよ。それにストーカーしてるのは私たちの方だよ!
隊を再結成させた春奈ちゃんは、さっきからアクションが起こらないことに不満を漏らしている。さながら念仏を唱えるようだ……。
もし本人に聞かれたら、咬み殺されるだけじゃすまないだろうなぁ……。
少し裏が見え隠れしてきた彼女の宥めは、扱い慣れている新垣君に一任して、私は2人の代わりに雲雀さんの動向を窺うことにする。
…………なんだかやる気になってないかな? あれ?
ストーカーしていること数分が経った。
雲雀さんにあれからも変化はない。誰かを咬み殺す動作もない。その手にトンファーの影すらない。
そんな姿を、ただただこうして見守ってる私たちって…… なんなのこの絵は……。
第一、これで謎になんて迫れるのだろうか。
あれ……? なんか不安しか出てこない……。
そして、廊下には他の生徒の姿も見えなくなる。
このまま雲雀さんがどこへ行くのか、そんな疑問が生まれてくる。
その時、私はハッとした。
あっ……! もしや、この先に雲雀さんの謎に迫る何かが……!?
「この先は…… なるほど、屋上ね」
いつの間に春奈ちゃん復活!?
びっくりしている間に、彼女の言う通り雲雀さんはトントンと屋上への階段を上がっていってしまった。
あれー、なんか期待外れというか…… まあ、そんな都合よく雲雀さんの謎に迫れるなんてないか……。あの雲雀さんの謎を知るのも、それはそれで恐そうだしね。何かあっても見なかったことにしよう。
密かな誓いを立てたところで、屋上の扉までそっと近づく。もっぱら刑事ドラマのような緊迫感を感じる。私は一体何をしているんだろう。
「ところで、まりやちゃん」
こんなことをしている自分が恥ずかしくなってきた頃、春奈ちゃんから不意に声をかけられる。こっちを振り返ってきてまで、一体何の用事だろう?
「さっきから気になってたんだけどさ、その横にある紫色の包みは何?」
「えっ」
ビシィッ!と人差し指を立てて、春奈ちゃんは私の横に置いてある包みを指差した。
実は冒頭で雲雀さんをストーカーしている時から持っていたけど、さすがにつっこまれるか……。時々2人からの視線をビンビン感じたし。
少し説明に困りながら、苦笑いで言った。
「あはは…… ぼたもち」
「は? え? ぼたもち??」
「なぜにぼたもち……」
そりゃあ、そんな反応させちゃうよね。うん、わかるよ。私もなんでぼたもちの包みなんて持ってるのかわからないもん。
「えーと、昨日あの後いろいろありまして、雲雀さんに家まで送ってもらったお礼みたいなものかな?」
記憶を掘り起こしながら、2人に淡々と説明する。
この時の私は甘かった。彼女のスイッチがどこにあるのか、把握しきれていなかったのだから――
「あの雲雀恭弥に家まで送ってもらったですって!? まりやちゃん!! そのいろいろを今ここで詳しく話してもらえないかな!?」
「……落ち着け、春奈」
犬が興奮して舌を出している姿さながら、春奈ちゃんが興奮しているので、また横から新垣君が止めてくれる。おかげでまた例のイザコザに発展しているけど……。おーい、そんなにうるさくしてたらまたバレちゃうって……。
お互いに文句を言うのをやめてくれると、話題は再びぼたもちの方へ。
「それにしてもデカいな、その包み。一体何人分入ってんだよ……」
新垣君がそう言いながら、見えない中身を見ようとジロジロ睨んでいた。
遡ること、昨日の夕飯時。
お母さんから「風紀委員の人たちはどのくらいいるのかしら〜?」とふわふわな感じで聞かれたから、リンチ時の光景を思い出しながら「とりあえずたくさん」と答えたら、今朝渡されたのがコレだった。
お母さん。たくさんの意味をどう捉えたのだろうか……。
「はは〜ん。噂もあながち間違ってなかったってことねぇ」
何やらご機嫌にニタニタしている春奈ちゃんはこの際無視して、屋上に入っていった雲雀さんを目で追っていく。
日向ぼっこ日和の
後ろ姿でも絵になるなぁ。
あの生意気盛りの弟が言うことも、少しはわかる気がする。少しだけね。
きっと次は碌に顔も合わせられない。このお礼もどうしようかと頭を悩ませていると――
「――ねぇ、そこで何してるの?」
扉越しに、美声が聞こえた。