今日は慌ただしかったので更新出来るか危うかったです。
二度あることは三度ある――
まさに、今のこの状況にぴったりの言葉だ。
この言葉を生み出したどこかの誰かに、一言礼を言っておきたいね。
そんな戯言を吐いた後、一度ならず二度までもあの群れに見放され、三度目となる僕の眼下に姿を見せた小動物に牙を差し向ける。
大方、群れの残りの奴らは、扉のガラス越しからこちらの様子を覗き込んでいるんだろう。
別に構わないと思った。
彼らも後で始末すればいい話なんだから。
今の僕は、目の前の小動物の肉を引き裂きたくて仕方ない。
三度目の正直だよ。
もう見逃したりはしてあげない。
あれだけ忠告してあげたのに、聞かない君が悪いんだから。
花内まりや――
今日こそ君を、この場で咬み殺すよ。
決意に潜んだ闘志を燃やす。
彼女に戦線布告紛いなことを唱えて、牙を振るう。
未だ状況を理解しきれていない相手に構わず歩み寄り、距離が縮まったところでトンファーを振り上げる。
生憎だね。今の僕には、君のようなか弱い小動物に同情してやる理性は保たれていない。
怯えた瞳に、抗うことへの諦めが窺える。
残念だよ。少しは他の小動物より楽しませてくれると思ったけど、検討違いのようだ。
おとなしく咬み殺されなよ――
渾身の一撃が、彼女に牙を剥く。迷いはなかった。
――――じゃあね。
確信はあった。
肉も、骨の砕ける感覚も掴めないまま、トンファーが空を切る。
その衝撃に、思わず追撃の手が止まる。
――僕の攻撃は、彼女に躱された。
……驚いたよ。まさか、後退すると見せかけて、重心移動のために咄嗟に転んで見せるなんて。
……どうせまた、例のドジだろう。上手くその体質を利用してみせた。
けれど、それはその場凌ぎの迂闊な行動でしかないよ。
彼女の目は、脅威に怯える獲物そのものだ。
次は外さないさ。その脆く小さな身体に、消えることのない恐怖と傷痕を植えつけてやるよ。
トンファーを固く握り直す。二度目の攻め。
最早、彼女に避ける術はない。
確信を抱いて、血に飢えた本能が皮を破ろうとしていた。
鼓膜に焼きつく、耳触りな接触音。
それは――…… 彼女がここに来た時から大事に抱えていた、紫色の包みだった。
中身が窺えないそれが、僕の一撃をいとも簡単に遮った。
そして、トンファーから伝わる、麻痺のような鈍く痛む感覚……。
――……彼女、一体なんなんだい。
一度ならず二度までも、僕の攻撃から逃げ出した。
すぐそばで心臓が暴れている。落ち着せようとするけど、意識は別の方向に逸れていく。
――――たしか、あの時もそうだった。
いきなり僕の前に現れた彼は、その小さな身体に見合わないほどの鋭い本性を隠し持っていた。
無論、僕の攻撃を簡単に受け止めてくれた。
あの時の、鼓動の音と似ている。
内側から渦を巻いて沸き起こる…… 得体の知れないものに身体の興奮が収まらない。
ただの獲物ではない――…… 新しいものを見つけたようだ。
彼女もまた、僕を楽しませてくれるのかな――?
けれど、その時―― 僕の視界を横切るものを捉えてしまう。
翅を広げ、視界に入る目障りなそれは、恐らく彼女が握り締める包みを狙って、不快にも僕たちの間に介入した。
まさか…… 僕ではなく、この目障りなハエと戦っていたのかい?
たかが、そんなものを守るために……?
その時、どうしようもない屈辱感と、2匹へのイラつきが、内側に眠った本能を再び奮い起こす。
――ふざけるな。
刹那、ハエの肉に牙を突き刺す。
何の手ごたえも感じない。
一瞬でその灯火を散らす。
脆く無駄な死に様だ。
こんな虫螻に、彼女は何を恐れている?
どうして、僕を見ない。
――……いい加減、思い知りなよ。
そういうところが、愚かで、ムカつくんだよ。
ゴミ屑同然の死骸が転がったところで、本命の獲物を捉える。
慌てふためくその姿を捉えた。
その時の表情は、無意識に綻びを湛えていた。
昂るこの胸のざわつきを、まるで投影したかのようだった。
――――――面白い。
すでに『狂っていた』かもしれない。
自然と僕の内側に零れた言葉を噛み締めて、その牙を振るう。
ドジを踏む以外に突起した特質もない、周りの奴らと同様、それ以下の価値の小動物と思っていた。
こんな肉を裂いてみても、咬み応えなんて期待していなかった。
所詮、弱者の薄っぺら皮の一部だ。
――そう思っていた。
けど、僕は見当違いをしていたのかもしれない。
彼女の肉は、もしかしたらそれなりの価値を秘めているのかもしれない。
僕自身、どうしてそう思うのかはわからない。
ただ、彼女を無性に咬み殺したくなったんだ。
その能天気な面を、跡形もなくなるまでグチャグチャに捻り潰して、その様がどんなものかをこの目で確かめてみたい。
だから、僕は答えを知るために、彼女を咬み殺す。
腹の底から滾る殺意に、僕は忠実に従う。
僕を楽しませてくれるなら、どんなものかを見せてくれよ。
精々、ガッカリさせないでくれよ――
そして、思いを込めた一撃。
それは、けたたましく空間を切り裂く音となって、彼女から跳ね返される。
鼓膜を突き破るほどのけたたましい音を辺りに響かせると、トンファーの折れた欠片がタイルの上を転がった。
――まだ、君には受け入れられないようだね。
……少しは楽しめたよ。トンファーも折れたし、ここはおとなしく身を引いてあげる。
折れた先からボロボロと崩れ出す自身の牙をそのまま握り締め、堅く閉ざされた扉へと向かう。
そうして一人、屋上を去った。
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――微かに、遠くから予鈴を告げるスピーカーからの音が聞こえる。
あの場を後にして、力んでいた身体の力を抜くと、途端に視界が曇る。
応接室へと歩いていた廊下の景色が次第にぼやけると、フラついた足で近くの壁に身を預ける。
力が入らない身体をどうにか倒れないように保ち、眩暈に侵される頭で冷静に考える。
この症状は――……。
あの獲物を誘き出すためとはいえ、身体に無茶をしたようだ。本当に忌々しい身体だよ。
――次は、咬み殺すから――……。
意識が遠のく最中、最後まであの光景を記憶に焼きつけて、ブツリと意識が途切れた。