ドジっ娘は風紀委員長様のおきにいり!?   作:ひばりの

16 / 50

今日は慌ただしかったので更新出来るか危うかったです。



翻弄される  vorbesc.雲雀恭弥

 

 二度あることは三度ある――

 

 

 まさに、今のこの状況にぴったりの言葉だ。

 

 この言葉を生み出したどこかの誰かに、一言礼を言っておきたいね。

 

 そんな戯言を吐いた後、一度ならず二度までもあの群れに見放され、三度目となる僕の眼下に姿を見せた小動物に牙を差し向ける。

 

 大方、群れの残りの奴らは、扉のガラス越しからこちらの様子を覗き込んでいるんだろう。

 

 別に構わないと思った。

 

 彼らも後で始末すればいい話なんだから。

 

 今の僕は、目の前の小動物の肉を引き裂きたくて仕方ない。

 

 

 

 三度目の正直だよ。

 

 もう見逃したりはしてあげない。

 

 あれだけ忠告してあげたのに、聞かない君が悪いんだから。

 

 

 

 

 花内まりや――

 

 

 今日こそ君を、この場で咬み殺すよ。

 

 

 

 

 

 決意に潜んだ闘志を燃やす。

 

 彼女に戦線布告紛いなことを唱えて、牙を振るう。

 

 未だ状況を理解しきれていない相手に構わず歩み寄り、距離が縮まったところでトンファーを振り上げる。

 

 生憎だね。今の僕には、君のようなか弱い小動物に同情してやる理性は保たれていない。

 

 怯えた瞳に、抗うことへの諦めが窺える。

 

 残念だよ。少しは他の小動物より楽しませてくれると思ったけど、検討違いのようだ。

 

 おとなしく咬み殺されなよ――

 

 渾身の一撃が、彼女に牙を剥く。迷いはなかった。

 

 

 

 ――――じゃあね。

 

 

 

 

 

 確信はあった。

 

 肉も、骨の砕ける感覚も掴めないまま、トンファーが空を切る。

 

 その衝撃に、思わず追撃の手が止まる。

 

 

 ――僕の攻撃は、彼女に躱された。

 

 

 

 ……驚いたよ。まさか、後退すると見せかけて、重心移動のために咄嗟に転んで見せるなんて。

 

 ……どうせまた、例のドジだろう。上手くその体質を利用してみせた。

 

 けれど、それはその場凌ぎの迂闊な行動でしかないよ。

 

 彼女の目は、脅威に怯える獲物そのものだ。

 

 次は外さないさ。その脆く小さな身体に、消えることのない恐怖と傷痕を植えつけてやるよ。

 

 

 

 トンファーを固く握り直す。二度目の攻め。

 

 最早、彼女に避ける術はない。

 

 確信を抱いて、血に飢えた本能が皮を破ろうとしていた。

 

 鼓膜に焼きつく、耳触りな接触音。

 

 それは――…… 彼女がここに来た時から大事に抱えていた、紫色の包みだった。

 

 中身が窺えないそれが、僕の一撃をいとも簡単に遮った。

 

 そして、トンファーから伝わる、麻痺のような鈍く痛む感覚……。

 

 

 ――……彼女、一体なんなんだい。

 

 

 一度ならず二度までも、僕の攻撃から逃げ出した。

 

 すぐそばで心臓が暴れている。落ち着せようとするけど、意識は別の方向に逸れていく。

 

 ――――たしか、あの時もそうだった。

 

 いきなり僕の前に現れた彼は、その小さな身体に見合わないほどの鋭い本性を隠し持っていた。

 

 無論、僕の攻撃を簡単に受け止めてくれた。

 

 あの時の、鼓動の音と似ている。

 

 内側から渦を巻いて沸き起こる…… 得体の知れないものに身体の興奮が収まらない。

 

 ただの獲物ではない――…… 新しいものを見つけたようだ。

 

 

 彼女もまた、僕を楽しませてくれるのかな――?

 

 

 

 けれど、その時―― 僕の視界を横切るものを捉えてしまう。

 

 翅を広げ、視界に入る目障りなそれは、恐らく彼女が握り締める包みを狙って、不快にも僕たちの間に介入した。

 

 

 まさか…… 僕ではなく、この目障りなハエと戦っていたのかい? 

 

 たかが、そんなものを守るために……?

 

 

 

 その時、どうしようもない屈辱感と、2匹へのイラつきが、内側に眠った本能を再び奮い起こす。

 

 

 ――ふざけるな。

 

 

 刹那、ハエの肉に牙を突き刺す。

 

 何の手ごたえも感じない。

 

 一瞬でその灯火を散らす。

 

 脆く無駄な死に様だ。

 

 こんな虫螻に、彼女は何を恐れている?

 

 

 どうして、僕を見ない。

 

 

 ――……いい加減、思い知りなよ。

 

 

 

 そういうところが、愚かで、ムカつくんだよ。

 

 

 

 

 

 ゴミ屑同然の死骸が転がったところで、本命の獲物を捉える。

 

 慌てふためくその姿を捉えた。

 

 

 その時の表情は、無意識に綻びを湛えていた。

 

 昂るこの胸のざわつきを、まるで投影したかのようだった。

 

 

 

 ――――――面白い。

 

 

 

 すでに『狂っていた』かもしれない。

 

 

 自然と僕の内側に零れた言葉を噛み締めて、その牙を振るう。

 

 

 

 

 

 

 ドジを踏む以外に突起した特質もない、周りの奴らと同様、それ以下の価値の小動物と思っていた。

 

 こんな肉を裂いてみても、咬み応えなんて期待していなかった。

 

 所詮、弱者の薄っぺら皮の一部だ。

 

 ――そう思っていた。

 

 けど、僕は見当違いをしていたのかもしれない。

 

 彼女の肉は、もしかしたらそれなりの価値を秘めているのかもしれない。

 

 僕自身、どうしてそう思うのかはわからない。

 

 ただ、彼女を無性に咬み殺したくなったんだ。

 

 その能天気な面を、跡形もなくなるまでグチャグチャに捻り潰して、その様がどんなものかをこの目で確かめてみたい。

 

 

 だから、僕は答えを知るために、彼女を咬み殺す。

 

 

 

 

 腹の底から滾る殺意に、僕は忠実に従う。

 

 

 僕を楽しませてくれるなら、どんなものかを見せてくれよ。

 

 精々、ガッカリさせないでくれよ――

 

 

 

 

 そして、思いを込めた一撃。

 

 それは、けたたましく空間を切り裂く音となって、彼女から跳ね返される。

 

 鼓膜を突き破るほどのけたたましい音を辺りに響かせると、トンファーの折れた欠片がタイルの上を転がった。

 

 

 ――まだ、君には受け入れられないようだね。

 

 

 ……少しは楽しめたよ。トンファーも折れたし、ここはおとなしく身を引いてあげる。

 

 折れた先からボロボロと崩れ出す自身の牙をそのまま握り締め、堅く閉ざされた扉へと向かう。

 

 そうして一人、屋上を去った。

 

 

 ********

 

 

 ――微かに、遠くから予鈴を告げるスピーカーからの音が聞こえる。

 

 あの場を後にして、力んでいた身体の力を抜くと、途端に視界が曇る。

 

 応接室へと歩いていた廊下の景色が次第にぼやけると、フラついた足で近くの壁に身を預ける。

 

 力が入らない身体をどうにか倒れないように保ち、眩暈に侵される頭で冷静に考える。

 

 この症状は――……。

 

 あの獲物を誘き出すためとはいえ、身体に無茶をしたようだ。本当に忌々しい身体だよ。

 

 

 ――次は、咬み殺すから――……。

 

 

 意識が遠のく最中、最後まであの光景を記憶に焼きつけて、ブツリと意識が途切れた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。