薄っすら目を開くと、そこにはふたつの顔があった。
ひとつは、よく知っている、春奈ちゃんの顔。
そして、彼女の顔の隣には、全く知らない女の子の顔。
誰だろう…… すごく可愛い娘……。
意識を取り戻した私を、その2人が真上から顔色を窺うように覗き込んでいる。
えっと、こんな美少女2人に心配されるなんて、私ってなんておいしいんだろう…… じゃなくて!
そんなことを考えてぼんやりしていた私に、女の子がしどろもどろに声をかけてくれた。
「大丈夫? 花内さん?」
「おーい、まりやちゃーん。自分の名前か生年月日か住所忘れてないー?」
…………春奈ちゃん、どさくさに私に記憶喪失を期待しないでくれないかな。
彼女にいつも通りツッコミを返したところで、意識もはっきりしてきた頃だし、そうしてゆっくりベッドから起き上がる。
「あの、本当にごめんなさい。私が、ちゃんとランボ君を見ていてあげられなくて、そのせいで花内さんに痛い思いをさせてしまって……」
心から申し訳なさそうに、女の子は私に頭を下げた。
最初はびっくりして戸惑うものの、彼女の誠意に思わず感動した。
な、なんなんですか!? この超いい娘はーーーっ! 天使ですかーーー!? まるで心が洗われるよぉぉーーっ!
思い返せば、近頃は鬼畜やら変人やら訳のわからない連中に周囲を囲まれていたから、彼女の何気ない優しさがすごく心に沁みてくるよ…… 天使様ーーー!!
「私は、笹川京子。2年だよ。よろしくね。花内さん」
京子さん…… それが天使様の名前かぁ。素敵だなぁ。
この学校に入学して、草壁さん以来まともな人に出会えた。こんな娘と出逢えただけでもまるで心が救われるよ。
神様は、まだ私を見捨てていなかったんだね。ありがとう、神様ーー!
私からも自己紹介を終えて、天使様と交流が出来た後、天使様が何かを思い出したようにハッと顔を上げる。
「あっ! そういえば、みんなを外に待たせてるんだ。みんなを呼んでくるね。まりやちゃん、春奈ちゃん、ちょっと待っててくれるかな?」
「ハイ、センパーイ。オッケーでーす」
軽い調子で春奈ちゃんが手でOKサインを見せて、それに笑顔を返した京子さんは一旦カーテンを潜って行ってしまった。
少し遠いところからガラガラと音がして、パタンとドアが閉まる。
保健室のベッドを囲む白いカーテンの空間に、そうして春奈ちゃんと私の2人がポツンと残される。
「笹川京子。ここ並中のアイドルと密かな男支持を受ける彼女だけど、あの天使にも劣らない笑顔は、生温い青春を送る中坊男子には秒殺ね」
「出たーーー! 春奈ちゃんのよくわからない人間観察分析論ーーー!」
8割のストーカー要素と2割の偏見で語られる春奈ちゃん的評価論ーーー! ほぼほぼ後味悪いよ!
「もう、まりやちゃん。よくわからないって酷くないかしら? あなたのデータベースも回収済みよ?」
「マジなのそれーー!? いつの間にーーー!?」
ニヤリ、としてやったりの笑みを向ける春奈ちゃん。
腹の中丸見えだわッ!!
「だからね、たとえばまりやちゃんが記憶喪失とか、具体的に言うなら豆腐の角に頭ぶつけたとしても、野口英世1枚で提供してあげるわ」
「具体的がなんかおかしいよ!? 豆腐の角!? あと有料なのーー!?」
「何を言ってるの。当たり前よ。友情は持ちつ持たれつ餅つき合うでしょ。あと友情値切りで、諭吉クラスの額を破格でまけてあげてるんだから」
「最早中学生のお小遣いの所有内軽く超えてるーーーー!!」
そんな他愛ない(のかしれない)会話をトントン拍子にしていると、部屋のドアが開く音がして、京子さんが戻ってきた。彼女の後ろにはぞろぞろと誰かもいるようだ。
「お待たせ〜、みんなを連れて来たよ」
「あの、京子ちゃん。倒れた娘、本当に大丈夫なの?」
「もう、ツナ君ったら。そんなに心配しなくても、その娘ももう大丈夫って言ってくれてるよ?」
京子さんに宥められているのは、栗色の髪を逆立てて、まるでサイヤ人みたいな…… って、あの時のサイヤ人さんだ……。
例のゴタゴタの最中、もろに雲雀さんから咬み殺されていた人だよね……。そんなことまるでなかったように今やピンピンしているよ。すごいな、サイヤ人さん。
「沢田綱吉。通称ダメツナ。勉強も運動も並中生の中でも底辺の底辺を放浪するダメダメな成績でダメダメライフを謳歌する、超がつくダメダメ中学生。雲雀恭弥から特に目をつけられている草食動物」
「来ていきなり知らない娘からダメダメな紹介されたーーー!?」
ああもう…… 春奈ちゃん。場を弁えようよ。本人の前で、しかも初対面なのにそんな短所ばかりの紹介なんて……。あれ? 根本的な何かが麻痺しているような……。まあ、サイヤ人と言われないだけマシなのかな……。
「オイッ! そこのアマッ! 10代目になんつー口の聞き方してんだ、ゴルァ!!」
「おっ。見たことねえ顔の女子がいるのな。新入生か?」
今度はカーテンを潜って、青ネクタイの男子2人が出てきた。
あれ……? この人たちも、どこかで見たことあるような……?
ちなみに、どちらも雲雀さんとは違うタイプのイケメンたちだ。
「チャラチャライカした不良の方は、獄寺隼人。イタリア帰りの帰国子女であり、その見た目とは裏腹に慎重な頭脳派タイプ。もう一人のマイナスイオン漂う爽やか系男子は、山本武。抜群の運動神経で野球部エースとして名を馳せ、その飾らない人柄のいい性格は男女共に好評のようである。ちなみにこの2人、並中で異性からの告白率最強の2トップでもあるわ」
「な、なんだ、この女……」
「あはは、なんか照れるのな」
「春奈ちゃん、とっても物知りなんだね」
案の定、春奈ちゃんの暴走が止まらない。幸いなのは、思いの外みんなの反応が引いていない。「どうしてオレだけあんな紹介なの……」って、サイヤ人さんが落ち込んでいるけど……。この娘、本当に並中生のデータ全部回収してるのかな……?
「どうだったかしら? まりやちゃん?」
すると、まさかの春奈ちゃんからの流れ弾。
いやいやいやここで私に振るーーーッ!?
無言の圧力に身が竦む中、みんなの視線が私に集まっている。もう誰かこのまま生き埋めにしてぇぇぇ……。
「わ、わかりやすかったです……」
「よかった。じゃあ、あとで報酬の野口3人ね」
「ぼったくりーーー!!」
頼んでもいないのに春奈ちゃんがベラベラ喋ってたんでしょうがあぁーーー!! そんな大金払う義理ないでしょおぉぉぉーーー!!
「――あれ? ねぇ、君……」
春奈ちゃんへの文句につい周りが見えなくなっていると、不意にそんな声に呼び止められる。
振り向くと、サイヤ人さんが、何やらポカンとした様子で私を見ていた。それを見て、私もポカンとする。
はて? 何だろう?
「もしかして、階段の時の――」
彼が口から放ったその言葉が、私の脳裏にある出来事を思い起こす。
ドタバタな日々の中で、まるで一瞬のような出来事だったけど、憶えてる――あの時の優しい言葉――……。
「あっ―― あの時助けてくれた……!」
私がそう呟けば、目の前の彼は安堵した表情を見せて、残りの2人も思い出したようにこう言った。
「なーんかスッキリしねぇなって思ってたけど、そーいうことなっ」
「んげっ! あん時のアマかよ! てめぇ、あのヒバリとどういうカンケーだッ! さっさと吐きやがれ!」
「何いきなり女子に喧嘩ふっかけてんのーー!? 獄寺君ーーー!?」
……なんだか、せっかくの再会の雰囲気が台無しだ。
この人なんでいきなりブチ切れてんのーーー!? 私が悪いのーーー!?
いきなり敵対心剥き出しに睨んできた相手に、内心混乱する中で助けを求めると、そこに沢田さんのフォローがすかさず入って、しかし情緒不安定な銀髪の人が「あの女、ぜってーヒバリが送った刺客かなんかスよ! オレが爆破します!」とか、わけわかんないこと言ってる。なんでこんな目に遭ってまで爆破されるのーー!? もう理不尽だよーーー!!
ひとまずは、沢田さんのおかげでその人はおとなしくなってくれた。隙あらば、その手のおもちゃのダイナマイトで機会を狙っているけれど。なんだか勝手に誤解が生まれている気がする。
そういえば、ダイナマイトも、ここ最近身近に感じた出来事があったのを不意に思い出す。もしかして、流行りなのかな?
「でも、よかったぁ。怪我とかしてたらどう責任とればってドキドキしたよー」
「そんなッ! 10代目がそんなことをお考えになる必要なんてありませんって! もとはといえば、このアマが足元見てねえのが悪いんスから」
「獄寺君…… さすがに花内さんに悪いよ……」
何もしてないのに、あの人からとことん嫌われているんだね……。別に平気だよ。この体質で疎まれるなんて慣れっこだもの。ハハッ、全然なんとも……。
「どうってこと…… ハハッ、大丈夫大丈夫…… どうせこの世はみんな独り身よ、フフフフ……」
「花内さん本当に大丈夫ーーー!?」
沢田さんが心配してくれている。その優しさが返って傷に染みるよ……。
「ごごごごゴメンね! ホンットにゴメンッ!! こうなったのもそもそもオレら…… っていうか、ランボにあるから!!」
ランボ……?
どこかで聞いたようなないようなその単語に、頭を捻る。そして、なぜか忌々しく聞こえる。
その時、カーテンの向こうから子どもの声が。
「ぐぴゃあああああああ!! ヤメロォオオオッ! この薄らヒゲジジイーーーーッ!!」
「誰が薄らヒゲだッ! こんの雷小僧がッ! 可愛い娘に頼まれたから、男でも仕方なく診てやってるっつーのにさっきからのたうちまわりやがってッ!」
保健室なのに一向に顔を見せないと思っていたら、おじさんはちょうどその子の相手に四苦八苦しているらしい。お互いの顔をつねり合う様子が、カーテンの隙間から窺える。
「ランボ君、ダメだよ。おとなしくしてないとさっき走って転んじゃったところ、先生に診てもらえないでしょう?」
「ランボさん、平気だもんねっ! こんな薄らヒゲジジイに診てもらいたくないもんねぇー!」
「黙れッ、クソガキィッ!」
京子さんが、そんな2人の喧嘩の仲裁に嫌な顔ひとつせず、懸命にやめさせようとしている。
きっとおじさんが言ってた可愛い娘の頼みって、京子さんのことだよね。わかるよ。この娘のためなら、涙も惜しまないよ。京子さんって、絶対に天使の生まれ変わりだよね。
「ああもう、ランボ! また京子ちゃんに迷惑かけて! 少しは反省しろよ!」
痺れを切らしたように、沢田さんが男の子に近づいて一喝する。
ん……? ランボ……?
「ランボさんはいい子だから、迷惑かけたことないもんね〜」
「嘘つけー! お前が落としたバナナの皮で花内さんが大炎上してたじゃないかーーー!!」
大炎上ーー!? そこまでーーー!? そっちの言い方が気になるよーーー!?
「この際、花内さんにきちんと謝れ! ランボ!」
そう言って、ランボ君という牛柄の男の子を私の前まで突きつける。
その子と必然的に目が合って、お互い目をパチパチとさせて見つめ合う形になる。……なんだこれ。
男の子の方は全く興味がないように小指で鼻ほじってるし……。
「んぁー? 誰コイツー? ツナが女になってるー?」
「ガアンッ!!」
「んなわけあるかぁーー!! お前一体どんなものの認識してんだよーー!!」
そんなぁー!? 私、沢田さんと似てるのーー!? なんかショックだよーー!!
石になったような衝撃を受けているところに、するといきなり扉が豪快に開いて、外から何かが突っ込んでくる。
「ツーナさーんっ!」
すると、女の子が颯爽と現われる。
そう呼ばれた沢田さんは「ゲフゥッ」と口から零して、いきなりのことに白目を剥いていた。
「ななななんでハルがここにいるんだよーー!?」
沢田さんの腕にくっついて離れない娘に、沢田さんが地味に嫌がりながらも問う。
「ツナさんのいるところにハルありじゃないですかぁ〜」
「ストーカーみたいだよそれー!?」
……うん。そうだね。
沢田さんの叫ぶことに深く頷いていると、また忙しなく女の子が辺りを見回している。
「はひ? みなさんお揃いで、どうされたんですか?」
乱入してきたからこの状況がわかっていないらしく、辺りを見回していた彼女とふと目が合うと、じっくりこちらの顔を見つめてくる。思わず身構えてしまう。
「はひっ、とてもキュートな娘が何やらベッドの上で寝ています…… ハッ!」
すごくとっつきにくい娘かと思っていたら、案外いい子なのかもしれない。そんなっ、キュートだなんて、言われ慣れてないから照れるよ〜。
「マフィアの妻として、寛大に夫のことを受け止めることが必要なのはわかってます。けど…… 逢引きなんてハルは受け止められません!!」
「何が逢引きだよッ!!」
あれ? 何これ……?
ハチャメチャな女の子の発言に、沢田さんが真っ赤な顔でつっこんでいる。あー、やっぱり苦労してるんだなぁ。
「ハル! お前なぁ! 知らない娘たちもいるのに、そーいうあることないこと口走るな! そもそも誰がマフィアの妻だよ!!」
「それでもっ! 試練を乗り越えてこそ、真実の愛が芽生えるというものです! 道を踏み外した夫を支えてこそ、妻の役目! ハルは負けません!!」
「だからーーーっ!!」
「ウフフ。いつも元気だね、ハルちゃん」
「京子ちゃん! ありがとうございます! ハルはこれからも花嫁修業がんばります!」
「オイッ! さっきからうっせーんだよ!
「はひっ! 獄寺さんこそ、どうしてここにいるんですか!」
「右腕のオレがいんのは当たり前だろがッ! 喧嘩売ってんのかッ、てめぇ!」
「ハハハッ。なんだかんだでいつもどおりのな〜」
「あらあら、ここにもいいカモが……」
しばらくそんなイザコザが絶えず、保健室という場所が活気に溢れていると、そこに室内の扉がスライドされる。
そこにいた全員が息を呑むほど、異質な空気を纏った人物が姿を見せると室内がしーんと静まり返った。
「ヒバリさん……!」
学ランを肩に羽織って、私の中では密かに鬼畜と呼ばれている並中の風紀委員長様は、この光景にどうやら不満があるようで。
「……懲りずにまた群れてるの?」
彼の眉間に僅かな皺が寄る。
雲雀さん、すっごく機嫌悪そうだ……。
さっきも大事な校舎を滅茶苦茶にしてしまったから、その姿が余計に私に対して苛ついているように見える。
「ちちち違いますッ、ヒバリさん! こここれはその、不可抗力と言いますかっ……」
「そういうてめぇこそ、一体ここに何の用だよ。ヒバリ」
例の銀髪さんが、雲雀さんにまで情緒不安定に当たっている。お願いだから血祭りはやめてー……。
「別に。僕はただ、そこのドジっ娘に用があるだけだよ」
「え?」
そんなことを言われて、周りと一緒に反応していた。案の定また注目が集まる。
えーと…… 私ですか……?
戸惑っていると、こっちにスタスタと近づいてくる。雲雀さんの身体から溢れる、ドス黒い感じの覇気に慄くと、彼の手がスッと私の額に伸びてきて、前髪をソフトなタッチで払い退ける。
「で、どこか痛むところはあるの?」
冷たくて、
あ、あぁああの雲雀さんが、私を心配しているーーーー!?
周囲からも驚きの声が上がっている。ハハッ…… あの雲雀さんが、心配しただけでこの騒ぎなんだ……。
ビクビクしながらも、本人から心配される私が一番驚いている。
だって、そうでしょう? いつもトントン拍子にドジドジドジで、彼を呆れさせてばかりの私が、まさか心配されるなんて思わないでしょう?
……でもこれは、呆れを通り越した心配なのかな? そうなのかな??
「……ん? なんか顔が赤いけど、熱でもあるの?」
どうやら雲雀さんから溢れるフェロモンにやられて、自分でも知らぬ間に顔が紅潮していたらしい。
――まさか本人に向かって「あなたの魅力に見惚れて、赤くなってしまいました」なんて、言えるはずもないでしょうッ!!
ここは適当に言って誤魔化すしかない。じゃないと心臓がもたない。今も黒檀色の綺麗な瞳に見つめられて、頭真っ白なんだからッ!!
パンク状態の頭ながら必死に言い訳を繕って、どうにか無事に彼の魅惑の視線から解放された。
ふぅ…… 危ない危ない。
「――そう。なら安心したよ。
これで、本調子の君を咬み殺せる」
そう言うや否や、例のブツが、黒光りを放って、眼前にご登場。
……そんなことだと思いましたけどね!!
「わぁぁああああ!? 待ってくださいよッ! ヒバリさん! 花内さん、さっき目を覚ましたばかりで……! それにまだ安静が必要ですし……!」
雲雀さんに一歩手前で咬み殺されそうなところに、沢田さんが意を決して仲立ちに入ってくれた。
沢田さん…… 頼りなさそうだけど、いい人!
「ふーん。なら、君が相手になってくれるのかい?」
「えっ」
とか感激している間に、標的が沢田さんにロックオンされる。沢田さんの顔が真っ青だ。
「おっと、待ちな。ボンゴレ坊主。おめーにだけいい格好させねーぜ」
今度は沢田さんが咬み殺されそうになる一歩手前で、どこからかそんな声がする。
「Dr.シャマル!」
沢田さんが振り返ったところに、何やらキメ顔のおじさんがそこに立っていた。
「おじさん!」
「待ってな。まりやちゃん。おじさんがビシッとキメてやるぜ」
「げっ…… おい、シャマル……」
「何あのオヤジ」
あー…… 外野がうるさいせいで、カッコ良さが半減してる……。というか、カッコいいも何も、カッコつけなくていいから助けてーーー!!
「おい、ヒバリ。少しでもまりやちゃんに手を出してみろ。その瞬間、お前は『雲膜下出血』にかかる」
「また妙にネーミングかけた病名出てきたぁーーーーー!!」
おぉ! やっぱり外野のツッコミでカッコ良さ半減だ!
「雲膜下出血とは、その名の通り、病気にかかった奴の脳内の血液量をまるで雲のように絶え間なく増幅させ、異常なほどに増幅したその血液が管内に収まりきらず脳の膜を突き破り脳内出血を引き起こす…… 患者を即死に至らしめるといった、生存率約0.00000001%の難病だ」
「またヘンテコな割にえげつねぇーーー!!」
ダンディーにキメたつもりのおじさんの発言で、案の定周りは引いている。沢田さんのツッコミがむしろ正論に聞こえる。
「また回りくどいやり方をするようだね、変態保険医。いいよ。貴方も桜の件で咬み殺したいから」
――おじさん!
私の心配を余所に、おじさんは余裕の表情を浮かべている。
さすがは大人の余裕だろうか。これなら、もしかしたら期待出来るかも――
「ゔぅっ…… 一昨日の酔いがぶり返してきやがったぜ…… お゛え゛えぇっ……」
いきなり口元を抑えたかと思うと、顔を真っ青にしている。
「ンのやろっ、何やってんだよ!!」
「ああ゛っ、仕方ねーだろ! この間ナンパしたマユミちゃんが子連れなんて知らなかったんだよ! しかも3人もだぞ!?」
「てめっ! 今それカンケーねぇだろ!?」
気分を悪くするおじさんへ、見てられなかったらしく獄寺さんがさらに噛みつく。ははっ…… ごもっともです。
「オイッ! ボンゴレ坊主! しっかりまりやちゃん守ってやんねーとあとでしばくぞ!」
沢田さんをビシッと指差して、その後さっさと保健室を出て行ってしまった。
「何しに来たんだあの人ーーー!?」
ついに沢田さんが頭を抱えた。
「くだらない」
呆れたように呟く。雲雀さんを見ると、鈍色に光ったそれを見下ろして、ふとこちらに目を向ける。すると、バッチリ目が合う。
「……まあ、もとを咬み殺さないとスッキリしないよね?」
「それってつまりは私ーーーッ!」
結局何も解決してなかったことを思い出して慌てる。
ホントにあの人何したかったのーーー!?
「ま、まあまあ、ヒバリさん。その、穏便に……」
「うるさいな。邪魔しないでよ、草食動物。それとも、君が彼女の代わりに咬み殺されるの?」
雲雀さんの顔が黒い笑みに染まる。
「「えっ?」」
ズンズンと沢田さんのもとまで近づくと、彼の首根っこを引っ張って、呆然とする彼に構うことなく、私からは見えないカーテンの向こうで沢田さんを咬み殺し始めた。あぁ……。
「ヒバリィイイイイッ!! んのヤロォ! 10代目になんてことを……ッ!!」
線香はちゃんとあげに行きますね、と心の中で合掌しているところに、我に返った獄寺さんが血相を変えて止めに入っていく。
獄寺さんが仲裁したことで中途半端だったのか、不機嫌な態度を変えないまま雲雀さんが呟いていく。
「ここにいたら邪魔が多くて咬み殺せそうにない。あとで応接室に来なよ」
ギロリと雲雀さんが横目で睨む。
それって、間違いなく私に言ってますよねぇぇぇっ……。
「無論、逃げたらどうなるか…… 知ってるよね?」
そんなの突き立てられたら、嫌でもわかっちゃいますからーーっ。
そう告げて、雲雀さんはパタンッと扉を閉めていった。
彼が去った後の室内には、なんとも言えない後味の空気が漂っていた。
*一方、その頃
京子「そういえばハルちゃんは、今日はどうしてうちの学校に来てたの?」
ハル「はい! 今日は並中で新体操部の交流会があったんです! さっきそれが終わったので、一目ツナさんに会いたいと思ってハルのツナさんレーダーを頼りにやって来ました!」
京子「そうなんだね。おつかれさま。ハルちゃん、この後よかったらラ・ナミモリーヌの新作ケーキを一緒に食べに行かない?」
ハル「はひっ! いいですねっ! ハル感謝デーを少しフライングしてしまいますが、ハルもちょうど新作が気になっていたんです! さっそく行きましょう!!」
京子「うん。ランボ君も一緒に行こう?」
ランボ「ランボさんもケーキ食べるんだもんね!」
春奈「彗星の如く現れた謎のポニーテール女子、ハル。その身なりからは、他校生であると推測。この近辺で考えるなら、緑中の生徒である確率が高い。本人の証言から、新体操部所属。また言動からは、非常に社交的で楽観思考であることが窺える。会話の中で稀に口調がおかしい。笹川京子とは、気軽にスイーツを食べに行く仲である、ガリガリガリガリガリガリ……」