ドジっ娘は風紀委員長様のおきにいり!?   作:ひばりの

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今話は、クリスマス直前スーパーボリュームとなっております。

前菜にヒロインの葛藤と仲間たちの涙の応援、メインディッシュには聖夜のクリスマスの電飾に飾られた並盛で巡り会う2人、デザートにスペシャルゲストのボリーン氏をご招待しております。←(大嘘)

長いのは長いので時間がある時に閲覧おすすめします。



とある放課後、とある少女

 

 こんにちは。花内まりやです。

 

 さて、私は今、どのような状況にいるでしょうか?

 

 冒頭からいきなりなんだって?

 

 そうだよね。いきなりこんなこと聞かれても困るよね。

 

 そう…… 私だって、まさに今そういう状況なんだよっ!

 

 

 

 

 ――――日も暮れ時の時刻。西の空に向かってカラスが遠くで鳴いている。

 

 どんどん遠ざかっていく並盛の景色。貫くように視界を差す光を反射して走る黒の車体の窓から、この視界に流れていくオレンジ色の町並みまで、もうわけがわからない。

 

 車には詳しくないけれど、どこか高級感漂う後部座席にそっと背を預けて、こうなるまでの一連の出来事をひとつずつ思い出していこうと思う。

 

 

 ********

 

 

 今日も今日とてぼちぼちドジを踏みながら、昼食も食べた頃に一人人気のない廊下を歩いていた。

 

 あの日から、数日が経ち――――今では立ち入り禁止となった教室崩壊騒動から、雲雀さんから校内放送で呼び出され、3連休間の登校を言い渡された日の出来事から、まるで音沙汰のない日常が続いている。

 

 まるで全て夢だったかのような話だ。

 

 始まりは、入学式のあの日から。入学した中学校の風紀委員長であり、ここ並盛という領域を実質支配する人物――――雲雀恭弥という人の皮を被った鬼畜に目を付けられてからというもの、私が思い描いていた青春は粉々の灰となった。

 

 学校にいる間は、彼の脅威と周りからの噂の視線で、ずっと肩身の狭い思い。

 

 今日まで散々なスクールライフだった。

 

 どうして私ばかり、こんな目に遭わなきゃならないんだろう。

 

 ずっとそんなことを考えていた。けれど、こんな悪夢のような話があってたまるか。

 

 あまりにも現実離れした話だよ。本当に今まで悪夢を見続けていたんじゃないだろうか。

 

 もしかしたら――…… なんて期待を膨らませてみる。

 

 ちょうど通りかかった黄色いテロップが張り巡らされた現場を目の当たりにしてしまうと、ああこれが現実なんだって、本当に現実逃避もいいところだった。

 

 ああ…… 最初の頃の同情を買うような目から、次第に恐怖に慄かれた目を向けられると、これ以上に悲しいことはない。

 

 当たり前の青春なんてもう半ば諦めて、それより、これからのことを考えるとお先真っ暗だよ。

 

 結局は、一時の時間稼ぎでしかないんだから。彼の牙の餌食になるのは、きっと時間の問題だろうな……。

 

 ここまで来たら、もう潔く咬み殺されるべきか。しかし、ここまで焦らされると迷いが出てくる。身の危険なら尚更だよ。

 

 なんだかんだ言ったって、出来ることなら咬み殺されたくないよ〜〜〜!

 

 いっそのこと、ばっくれようか。それが一番の本音だ。

 

 でも、それだって並盛にいる限り、彼の縄張りでもがくだけでしかない。まな板の上の鯉よろしく彼の牙の前でおとなしくしていた方がいいのか……。

 

 ……こんな時には、いつだってあの頃の風景が、心の中に切なさを帯びて思い浮かんでくる。

 

「あ〜〜っ。せっかくみんなで帰ろうかって話になってたのに〜〜!」

 

 少しだけ浮かれてたのがバカみたい。

 

 こうなるんだよね。ホント成長しないなぁ。

 

 私の人生なんて、いつも踏んだり蹴ったり……。

 

 それに――……。

 

 

「ちょいと、そこのお嬢さん」

 

 頭を引っ掻き回していたところに、そんな声に呼び止められる。どこか幼さが残る、クセのある声だった。

 

「ん……?」

 

 辺りを見回しても、誰もいない。もとより人気がなく、ここには私しかいないはず――……。

 

 けれど、たしかにその声を聞いたんだ。気のせいじゃないと思う。

 

 すると――

 

「お悩み相談、承ってまわってまわってまわっております〜〜」

 

 校内の廊下の壁に設置された赤い消火器から、煌びやかな紫色の衣装を身に纏った人が、その裾をひらりと翻しながらクルクルと出てきた。

 

「どこから出てきてんのーーー!?」

 

 まさかそんなところから人が出てきた衝撃に、反射的に見ず知らずのどなた様につっこんでしまった。いやでも、そこご意見箱じゃないでしょーー!

 

 よく見ると、その格好は、占い師だろうか。そしてなぜか、ずっとクルクルまわっている……。

 

「ズバリ! 恋に人生に今晩のおかずのメニューにお悩みの貴女に、占いの妖精ボリーヌが、お応えしまわりまわりま〜す」

 

 占いの妖精……?と言われても、まるでタイミングを合わせたようなご登場に、胡散臭さ全開で、唖然とするしかない。それにまだまわってるよ……。

 

「この占いの精ボリーヌが見えるということは、貴女は今まさに迷える子羊ということですぞ。レッツ・フォーチュン!」

 

 ピタッと、彼女の回転がようやく止まると、頼んでもいないのに何やら占う気満々のようだ。あと、依然胡散臭さも全開のようだ。

 

 どうしよう…… 逃げた方がいいのかな……。

 

 生憎、占いの言葉を信じるほど単純には出来ていませんよ。なんてったって、この体質の前では、星座占い1位なんて関係ないもの!

 

 ――と、ブレることのない鋼の信念を持っていたはずなんだけど。

 

「たとえば、落ちていたバナナの皮でうっかり教室を壊したり、見ず知らずのうざい子どもに手を焼いたり、躾のなっていない犬の脱走癖に、占いの精ならばなんでもご相談承りまわりますぞ」

 

 ドキーーーーーッ!!!

 

 ここ最近の誰かのことを言っているような謳い文句に、思わず心臓が飛び跳ねる。

 

 まさか、ね……?

 

 いやでも、視野を広げることも時には大事だしね。

 

 うん。話してみてもいいかも。

 

 スッパリ信念をあの空の彼方へリリースした。

 

 人気のないことをすっかり忘れて辺りに聞こえないように彼女のもとへ近づき、内緒の話をするようにそっと声を潜める。

 

「あの…… これはあくまで友達の話なんですけど」

 

 そう話を切り出して、入学式の日から続く多難な出来事を思い返しては、行き場のない思いに何度も溜息が零れた。

 

 ――占いの妖精の表情が、にわかにほくそ笑んでいたことになんて気づくこともなかった。

 

 話し終えると、占いの精さんはふむふむと頷いて、ひらりと服の裾を広げる。

 

「ご相談、承りまわりましたぞ〜〜」

 

 だからもうまわらなくていいって……。

 

 表情を隠すことも億劫になってきた時に、すると、パァァッとテーブルの上の水晶が光り出す。

 

 あれ!? 無造作にただまわっているんじゃなかったんだ!? なんかすごそう!

 

「この水晶に浮かぶ人物が深く関係しているようですぞ」

 

 水晶を覗き込めば、ぼんやりと人影のようなものが映る。しばらくすると、浮かんできた人物が誰なのか、はっきりしてきた。

 

 

 ――――――雲雀さん!!

 

 

 あんぐりと口を開いて、水晶から覗く彼の横顔に言葉も出ないでいると、占いの精さんは、さっきまでのふざけた態度とは一変して、神妙な表情でこう告げる。

 

「彼と関わることで、貴女の運気は来世の分まで削られておりますぞ」

 

 来世の運気まで!?

 

 ここまで深刻な問題だと、かなりへこむ。

 

 私の来世分までの運気がァァ……。

 

 その診断を受けてショックを隠せない私に、占いの精さんがさらに追い打ちをかける。

 

「しかし―― このままでは、彼から離れられないようですぞ」

 

 それって…… あの鬼畜に来世分の運気吸い取られまくりーーーー!?

 

 入学式のあの日から、こうなったことも、最初から避けては通れなかったことだというの? もうこの世に絶望しか抱けない。

 

 私の青春……… 来世の来世で楽しんでね……。

 

 今世で早くも永遠のお別れを告げると、名残惜しさを強く噛み締める私の姿を、一方で占いの妖精の彼女は、透明な水晶越しからどう見つめていたのか――……。

 

 

「彼が、どうやら離したくないようですぞ」

 

 

 物密かで殺風景だった廊下を、その一言が覆した。さっきまでの廊下の景色が一変して、少しだけ色鮮やかに広がっていく。

 

「えっ――」

 

 聞き返しては、ニッと彼女が微笑む。

 

 心臓を射抜かれたように、呼吸がままならない。耳元で、鼓動が跳ねる。それらの音が、全身を通して感じられて、なんだか身体中がおかしくなる。

 

 あれれ!? 何これ!?

 

 胸に手を当てて、自身に落ち着けと言い聞かせる。まだ真っ白な頭で、再び彼女を見つめ直して、こう問いかける。

 

「は、離したくないって、どういう……」

 

 一体どんなニュアンスで、その言葉を選んだのか…… その問いに、先方は落ち着いた声でこう答える。

 

「そのままの意味ですぞ」

 

 そのままの意味って…… ど、どどどどう反応すればいいの!?

 

 手にじんわり汗を感じる。夏はまだ先なんだから、熱いのはきっと気のせいだよ。

 

「それを見つけるためにも、貴女にこのキーアイテムを授けましょう」

 

 そう言われて、キーアイテムというか…… 番号札のふられたコインロッカーの鍵を渡される。

 

 なんでコインロッカーの鍵……。

 

 ていうか、切り替え早いなッ!

 

「今ならなんと! 初回限定でこの価格でございますぞ」

「テレビショッピングですか!?」

 

 しかも、有料なのコレェ!?

 

 お金もないし突き返そうとすると、支払いは成功報酬ということで、と向こうから提案される。結局払うのね!

 

 なんだかわけのわからない展開だけど、ここまで振り回されて断る気力なんてもうどこにもない。

 

「それを受け取ったが最後…… どうなるかは全て貴女次第――……」

「最後の最後でホラーなの〜〜!?」

 

 その言葉を残して、占いの精さんは、消火器の赤い扉の向こうへと消えてしまった。

 

 い、一体なんだったの……。

 

 静まり返った廊下にポツンと残された私は、その手に彼女からもらった鍵を握って…… これがもう夢オチじゃ済まないことを自覚した。

 

 

 ********

 

 

 ……と、ここまでは思い出した。うん。

 

 というか、根本的なところからおかしいぞ? 校内に占い師!? 妖精!? いやもうこの際どっちでもいいんだけど、なんでまた消火器(あんなところ)に……!?

 

 まさか、学校公認なのだろうか……。

 

 もしや、これも含めて悪夢の始まりではないかと自分の頬を思いきりつねてみる。……うん。これが現実か。

 

 じんじんと痛む頬をさすりながら、その後にあったことを思い出そう。

 

 

 ********

 

 

 立て続けに起こる身の不幸にもう頭がこんがらがる。電気コードがしつこく絡むように頭を抱えて、気づけばもう放課後になっていた。教室の片隅で、スピーカーから流れる無機質な音をひっそりと聞く。時間は私までおいてけぼりにするんだな……。

 

 とりあえず、並盛駅に向かう。

 

 どうして並盛駅かというと、番号札の裏に並盛駅の名前があったから。

 

 一通り悩んだけど、ずっとこのまま持っていても仕方ない。今日はこれといってやることもないから、ひとまず行ってみようかな。

 

 あっ、特に間に受けているとかじゃないからね。占いなんて、幼稚園のおままごとみたいなものだよ。子どものお遊びなんだから。期待なんかしてないよ?

 

 家に帰っても、弟の反抗期やら飼い犬の躾どころじゃないお世話が待っているだけで、全然ヒマだしね。

 

 なんだかんだであっさりと決行し、教室を出ると玄関までの廊下を颯爽と駆け抜けていく。そこにタイミング悪く風紀委員の方と出くわし、強烈なリーゼントから「廊下は走るな」と説教を喰らう。しまった!とばかりにペコペコと謝る私の背中を、遠くから見つめる人影に気づくこともなく、太陽は少しずつ傾いていく。

 

 

 

 その後、風紀委員からは忠告だけにとどまり、なんとか無事に解放された。頭にあの人のことがチラつく風紀委員に、二度と遭遇しないようダッシュで校門を出て、そのまま並盛駅へ向かう道中――

 

 並盛でも、随一のオシャレ繁華街であるナミモリタウンを跨いでいく。

 

 初めて来たけど、人も建物も盛んで、商店街とはまた違うキラキラした雰囲気があった。

 

 これがオシャレ繁華街かぁ。山と森の緑しか見て来なかった田舎っぺには、まるで別次元の世界のよう。

 

 道端に転がる石ころも、モデルが着た洋服さながら、都会色に洗練された宝石のように美化されて見える。まさに都会マジック!

 

 今までとは違う景色の輝きに、一人ソワソワしてしまう。

 

 なんだか無性に緊張する〜。ただ歩いているだけなのに、右も左もわからない田舎者が、フラフラ歩いているなんておこがましいとか思われていないかな〜〜、大丈夫かなぁ〜〜?

 

 ソワソワと辺りを見回して観察すると、スーツを着て綺麗な髪をなびかせたバリバリのキャリアウーマンや、テレビで見るような長身でスラッとしたカッコいいお兄さんとか、もう放課後だから学校帰りに同級生とオシャレなドリンクを買って青春に花を咲かせる可愛い女の子たちを、そこかしこで目にする。

 

 ……ぼっちで来るところじゃないんだなぁ。

 

 遠い目で、そう思った。

 

 いやだなぁ。都会の太陽は眩しくて、なんだか前がよく見えないよー。グスン……。

 

 思わず溢れるものを堪えて、恐縮しながら人でいっぱいの街中を歩いていると、霞む視界にいきなり黒いものが迫ってくる。

 

 顔を上げた時には、黒いスーツの男の人と正面からぶつかり、お互い街中のオシャレなコンクリートの道端で転んでしまった。

 

 何が起きたのか半分わかっていない私より、先に身体を起こした男の人は、ぶつかった私を睨みつけるようにサングラスの下から一瞥して、落ちていた帽子を被り直す。

 

「チッ。ちゃんと前見て歩け、餓鬼ッ」

 

 よろめきながら立ち上がると、スーツの汚れを軽く叩いて、さらに土埃に塗れた手の中を一度覗き込むと、去り際にそんな悪態を残していった。

 

 あっという間にその人はいなくなってしまった。そうすると、ぶつかったことを謝ることも出来なくて、地面に転んだまま途方に暮れた。

 

 うぅ…… 都会怖い……。

 

 どこかの風紀委員長様といい、この町はこんなのばっかですか……。

 

 遅れてヨロリと立ち上がり、空を見上げる。ここでがんばっていけるのか、不安しかない。早くもホームシックというやつなのか、自分でもよくわからないよ。

 

 思えば、クラスはアウェイだし、あの人のいるところはカオスだし、都会の街はシビアだし……。

 

 落ちていた鍵を拾って、少しゆっくりとしたペースで歩く。

 

 はぁ…… 浮かれた途端こんなんだ。

 

 すっかり意気消沈してしまった。本当に情けない。あの頃と何も変わっていないんだ。

 

 手の中にある鍵がチャリンと鳴る音も、虚しく聞こえる。

 

「変われないのかなぁ……」

 

 そう呟いて、一度深く深呼吸してみる。新しく空気を入れ替えて、そうして再び前を見つめる。

 

 もう一度、がんばってみよう。

 

 そうすれば、いつか、あの日のようにまた笑い合えるかもしれないから――――……。

 

 そう意気込んでいたところに、後ろから歩いてきた女の子たちの会話がふと耳に入ってくる。

 

「え〜〜、それバリウケる〜〜」

「まぢガチしょんぼり沈殿丸だから〜〜」

 

 …………が、がんばる!

 

 そんなこんながあり、ようやく並盛駅に着いた。

 

 ここに来るまでに西遊記が天竺までたどり着いたような途方もない疲労感を感じる。

 

 この時間は特に帰宅ラッシュで、たくさんの人たちが駅内を行き交っている。

 

 鮨詰め状態の人混みを潜り抜けて、駅の奥にひっそりと置いてあるコインロッカーの前に立つ。

 

 えーと、ここでいいんだよね。

 

 番号を確認して、数字が振られたロッカーの鍵穴に差し込む。カチッと小気味いい音がして、小さなバネが力を働くようにロッカーの扉が開いた。

 

 恐る恐る中を確認してみる。薄暗いロッカーを覗き込むと、縦長のロッカーにひとつだけ、ずっしりとした存在感で入っていた。

 

 たしか、アタッシュケースっていうのかな?

 

 慎重にロッカーから出して、案の定重量感のあるケースを、首を傾げて見つめる。どうやら中身があるらしい。これを開けるのかな?

 

 しかしここで開けるわけにもいかず、モタモタしているところに、すると後ろからいきなり肩を掴まれる。

 

「待タセタナ」

「えっ」

 

 待ってないんですけど!?

 

 ……その前にどなた!?

 

「何モタモタシテイル。時間ガナイ。早ク行クゾ」

 

 なんというか、振り返ったところには、外国人っぽい風貌の、外国人っぽい片言な日本語で、外国人のような、というか…… つまりは、見知らぬ外国人がそこにいた。

 

 最初は、漂う威圧感に、ピクリとも動けなかった。そうこうしている間に、駅内の人の波も途絶えて、コインロッカーの前には2人だけがポツンと残された。

 

 放課後、並盛駅、コインロッカーを開けて、謎のアタッシュケースを握り、どこか遠い目の外国人に話しかけられた午後5時……。

 

 

 ********

 

 

 …………今更ながら、思ったことがある。

 

「どちら様ですか!?」

 

 車内に乗り込んで数分後、並盛のどこか知らない車道を走行途中に、ようやく整理がついた頭に肝心の疑問が浮かんだ。あまりにも突飛な出来事の連続に、頭が追いついていなかった。

 

 運転席で当然のように運転する初対面の彼に、初歩的な質問を投げかけると、バックミラーに映る遠くを見つめる目が、こちらを見る。

 

「ハハハッ。ワタシ、マイク」

「聞いてないよ! いやっ、聞いてるんだけど、聞いてないよ!」

 

 あっさり名乗った。

 

 そこじゃない! 聞きたいのはそこじゃないんだよ!

 

 そんな気持ちを、この見ず知らずの外国人にどう伝えようと戸惑っているうちに、向こうから今度はこちらの名前を尋ねられる。

 

 うっ…… せっかく名乗ってくれたのに名乗り返さないのは失礼だよね……。

 

「まりやです……」

 

 どうして自己紹介の流れに至ったのかもわからなくなる頭に、自分でもお手上げ状態だった。

 

 後部座席で悶絶する私を他所に、マイクさんは私の名前を聞いて一瞬表情を崩し、そして鏡越しにまた遠い目を向ける。

 

「OK! マナ板ダナ」

「どこ見て言ってんのよ!?」

 

 それに頭しか合ってないよ! 失礼な! 私だって、これでも前より見栄えしたと思うんだから! ――って、何を言ってるんだ私は!

 

 完全に流れを持っていかれたと感じる。初対面で車に乗せられた時点で薄々感じていたけれど……。

 

 そもそも知らない人の車に乗せられるなんて、自分の愚かさにもう言葉も出ない。

 

 これからどこに向かうっていうのーーー!?

 

 再び外の景色を見やれば、オレンジ色の光がキラキラと反射する水面に、磯の香りがふわりと漂う。

 

 一瞬のうちに、意識を奪われてしまう。

 

「サッサト支度ヲ済マセロ、マナ板」

「まな板違う!!」

 

 

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