ドジっ娘は風紀委員長様のおきにいり!?   作:ひばりの

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視点切り替え注意です!
なかなかビターなお味。



今宵の夜咄にビターな酒と

 

 ここは並盛の町の外れにある地下クラブ――

 

 ここに寄る客の視界に入る店の看板は、ネオンの電飾に飾られ、中に入れば闇の中で夜の住人たちが酒を片手に交わる様子が、狭い店内のあちこちで見られる。

 

 扉を後ろ手に閉じれば、にわかにアルコールと煙たい草の匂いが鼻につく。

 

 店内の配置は、おおよそ6畳半の長方形の店内の壁にL字のソファーと楕円テーブル、そこに数人の客の姿が目につく。他愛ない会話だろう。

 

 壁にかけられた一枚の絵画を一目し、カウンター席に視線を向ければ、6つある席には1人の男と1組の客が、互いに両端を支配していた。

 

 扉に近い席に座る仕事疲れのサラリーマン風の男は、店のマスターに愚痴をきかせているところらしい。その3つ跨いだ席の男2人組は、しばらく会話もなくクラッシックな店内に浸っていた。

 

「昔の女でも考えてんのか?」

 

 カウンターの端にて沈黙のひとときを、グラスに注がれた色鮮やかな洋酒で流し込む。

 

 ふと髭面の男が、ほろ酔いの剽軽な態度で、連れの男に話し寄る。

 

 あの男は、裏社会で最も恐れられる殺し屋の1人…… Dr.シャマル。ヤブ医者とも時に揶揄される男はプライベートでも白衣を着込み、飾ることのないふざけた調子でテーブルに肘を置く。

 

「……そんな面に見えんのか」

「いんやー、どうなんだ?」

「おめーの方が女に未練垂れてんだろ」

「ケッ、違いねぇ」

 

 図星であることを男は否定しない。しかしあっけらかんとして、まるで大したことでもないような話ぶり。今は上っ面だけかもしれないが。

 

「まあ、当たらずも遠からずだ」

 

 そう不意に漏らしたのは、男の連れである赤ん坊だった。

 

 こんな場所に赤ん坊の姿は冗談とも言い難い光景だが、スーツ姿にボルサリーノ、そして黄色いおしゃぶり…… こちら側の世界で、その意味するところを知らぬ者はいない。

 

 闇社会の獄中において、最強の殺し屋と謳われる赤ん坊―― 彼が片田舎の国のこんなクラブの席にいるということでは、珍しい光景だ。

 

「人妻だがな」

「ほぉ…… おめーさんもやることやってんじゃねーかよ。さすがだな〜」

「茶化すなよ、シャマル。別にどうってことねえ。仕事の成り行きで出会った女だ」

 

 彼らの世間話も、ここでは空気だ。誰も彼らを路頭に迷う客として疑わない。そんな奴らの会話に誰も興味はない。

 

「……昔にいたバカを思い出した。ふざけたもんでな、根っからのお人好しだ。

 オレたちの中で、一番呪いを背負ってたんだ。けど、あいつは誰よりも幸せそうに笑ってたな」

 

 そう語る一瞬だが、彼の顔は綻んだ。

 

 彼が語る内容に、男は耳を傾けているのか、グラスの中の濁った液体に一点を集中する。

 

 カウンターテーブルの残った中のひとつに、静かに腰を下ろす人物の姿に目もくれない。

 

「あんな姿に重なるんだ。笑顔を見せる度に、胸がざわついて仕方ねえ」

「そいつは、誰のこと言ってんだよ?」

「――まりやだ」

「……気のせえだろ。アレだ、職業病だぜ、おめーさん。一回病院行ってこい」

 

 目の前にいる医者が、自身ではないアテを勧めるのか。まあ、彼の立場は特殊でもある。そんな風に納得したようだ。

 

「はー、たくっ……。オレだって反対してえところだ。あんな純粋な天然石はなかなかお目にかからねえもんだぜ。オレらんとこに態々引きずり込むこたねーだろぉ」

「ああ、そうだな。ツナの後輩ってだけで、そもそも一般人、ツナ並みにマフィアの風格が鼻からあるわけじゃねえ」

 

 なら、彼女をこちら側に巻き込むのはどういうことか、きっと男は気になったんだろう。

 

「花内まりやは、いずれこちらの一端に関わることになるだろうからな」

 

 彼が男に告げたのは、あのことだったのか。

 

 それを耳にして、酒に浸った男はとある考えが浮かんだようだ。

 

「ああ、ヒバリのことか?」

「いや…… 奴はたしかに入れておきたい人望だが、花内まりやをこちらに引き込んでアイツと繋がりを持つのは、今は優先じゃねえからな。そうじゃなくて、他にもいるかもしれねえんだ」

 

 そして、彼が取り出してきたのはシルバーのアタッシュケースだった。2つの枷を外し、何かを男に渡す。

 

「……ふん。右手に持っていた銃で心臓を一発か。こいつぁ傑作じゃねえか」

「どうだ」

「伊達に医者やってんだ。拳銃使った自殺死体なんて五万と見てきたさ。聞いた話の内容じゃ、こいつは違和感だ。鬼気迫る状況下で、自分の心臓やるより脳みそぶち抜いた方が早いもんだ」

「ああ。ここにある硝煙反応やら死体状況の文面は、大方捏造してあるだろう」

 

 つまり…… 極端に捉えると、あの場にいた花内まりやが、あの精神状態の中、殺し屋のスペックを持ち合わせ男に銃を向けない限り、他に考えられるのは――……。

 

 そこまで2人の男の思考が行き着き、グラスの中身にはクリスタルの眩い光沢が灯されていた。

 

「組織の下にいた男一人の死体なんて、いちいち詮索するほど律儀じゃねえこの世の中だ。適当に辻褄合わせるはずだろ。そこの組織がブラックなとこなら尚更な」

「オレが駆けつけた時、現場にはこのアタッシュケースが落ちていたんだ。案の定今回の件ですり替わっていた方のな。だが、面白いもんが入ってたぞ」

 

 アタッシュケースの中身を取り出した。厳重なボックスの中に、たった一枚の薄汚れた紙切れが保管されていた。どうやら中身が暗号化されている……。

 

 どうやら内容はそれほどの機密事項らしい。あの男たちが寄って騒いでいた情報がどんなものか、そして選ばれし者の証を提げた赤ん坊がそう答える中身とはどんなものかと惹かれる節があった。

 

 その時だ。

 

 目の前のテーブルに、コトリとカクテルグラスが置かれる。

 

「あちらのお客様からです」

 

 店員にそう促され、見るとカウンターの隅のサラリーマンの男がこちらに手を振る。……最悪だ。内心こんな形で邪魔が入るとは想定外だ。いや、想定はしていたが、店内にいるのはこの男以外男女の組み合わせが成立していたから、油断していた。

 

 この男さえいなければ……。

 

 ……でも、まあいい。収穫はあった。

 

 表舞台の社交辞令にと丁寧に礼を入れ、カウンターを立つ。ここに未練はない。彼らがそれさえ掴んでいなければ、今は動くことはない。

 

 昔よりは大人になったものだ。

 

 今宵の月は欠けているようだ。つまらない。

 

 1人の女の名が、呪いのようにこの耳に囁く。

 

 ――花内まりや。その名は忘れはしない。

 

 合図であるカランカランと鳴る扉の音が、その時だけ店内の雰囲気に魔を差す。

 

 

『運命、貝、7人、闇、英雄――……』

 

 

 微かに―― 閉まる直前まで聴こえたのは、呪いの言葉だった。

 

 

 ********

 

 

「――あっ」

 

 自分の部屋で、私はふと呟いた。

 

 家に帰ってくる頃には日が暮れて、東の空にお星様が輝いていた。お母さんに少し心配かけながら夕飯を済ませて、お風呂に入って、リビングで少しテレビをいじって、自分の部屋に戻ると、まだ少し濡れている頭にそっと手を触れた。

 

「お気に入りでここ最近毎日付けてたカチューシャ、失くしちゃった……」

 

 白いお花がついた可愛いカチューシャだったのに……。

 

 やっぱりこんな体質なんて嫌いだっ。

 

 ついさっきの今で矛盾しているけど、ちゃんと前向きになろうと思う。赤ちゃんに説教されるなんてさすがに人生で一度も思わなかったけれど、そんなところも前向きに捉えよう。

 

 それにしても、リボーン君かぁ。可愛い子だなぁ。どこかの対戦ゲーム音が隣まで聞こえてうるさい誰かさんとは大違いだなぁ。

 

 くりんとした愛らしいあの笑顔を思い出して、私の機嫌はすっかり回復していた。

 

 この気分でいい夢にダイブしようかとも思ったけど、明日からまた学校があることを思い出して机の隣にかけてある鞄を確認した。

 

 ……結局お休みなかったなぁ。やっぱりこんな体質なんてない方がいいよ。

 

 休めるどころじゃなくて、余計に疲労が溜まる連休だった。全く散々だったよ。あの人すごく人のことこき使うんだから。あの鬼! 悪魔! すっとこどっこい!

 

 そういえば、なんだかんだ咬み殺されなかったんだけど、あれは一体なんだったのかな〜?

 

 個人的にはありがたいけど、本当によくわかんない人だ。草壁さん苦労してるんだな。

 

「雲雀さん……」

 

 部屋の窓から外を眺めると、雲ひとつない空には、綺麗な星が広がる。並盛(ここ)からもよく見えるんだなぁ、なんてぼやきながら、時間も忘れて星空の輝きに目を奪われた。

 

 私が帰った後もずっと仕事が忙しそうだったけど、こんな風に空を見上げる余裕があるのかなんてお節介にも思いながら、やっぱり早く寝ようとカーテンをそっと閉じた。

 

 




焦ってます。あと1話で章完結……。予定では先月に書き終わって三章突入でした。あと1話……。
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