快晴がこの視野に滲むどこへまでも澄み渡る青空、道の脇にすれ違う木々の葉も瑞々しい青葉の色を重ねている。そよそよと春三番の風にくすぐられる様子は、この時季に暇を持て余したように感じる。
今は急いでいるんだけど、季節の変化を見つけると昔懐かしい景色を思い出して時間を忘れかける。
だから急がないと!と早足に車道と並んだ木漏れ日が差す歩道の上をせっせと向かう。約束の時間にはなんとか間に合いそうだ。
約束のスイーツの予定は、ナミモリタウンのショッピングモールへと事前に連絡された時刻にスイーツ店の前で落ち合うんだけれど、今朝のことがまだ頭の片隅にあって呼吸は少し乱れがち。タウンへの道はこっちであっているんだっけ? 遠くの空から迷子の様子を眺めているはずの呑気なおひさまは、うんともすんとも言ってくれない。
あの日以来のナミモリタウンへの景色だけど、時間の流れも問わず人の賑わいが街を明るく動かせる印象だ。
まだいろんなショックを、この内側に抱えている。色褪せない景色が瞼に浮かぶトラウマを抱えても、前を向いていく覚悟がゆっくりと固まっている。それは、あの時にもらった彼らの言葉とか、信じてくれた人たちの思いとかを、私なりに考えて受け止めてみたひとつの到達点だった。
そばにはいられないけれど、この空が繋がっているどこかにいる過去の大切な人たちにも、こんな私を支えてくれたことを思い出してもう一度前を向こう。
もう、何年も帰ってきていないけど、今は何してるんだろう。
滅多に連絡をくれなくて、家族を空っぽの家に残して、あの人は遠い海の向こうにいて一体何を感じているんだろう。今は何を見つめているんだろう。知ることは叶わなくても、勝手にこうして想っているよ。
家族だから……。この瞬間さえ、あの人に忘れられていても。
どこにいたって、この空は繋がっているから。
疲れた時は、この空を見上げてくれているのかな。
「お父さん……」
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その後、並盛有数の大型ショッピングモールの玄関に、時間を少しオーバーしながらもそそくさと施設内の案内図を確認して目的の階へエスカレーターで登る。
週末だから、人の波は予想以上に混乱する。親子連れに、男女のカップル、幸せオーラの波に呑まれてはいけないなと空回りな気合を入れる。
「パパ〜!」
エスカレーターの前に乗る滑舌がまだままならない小さな女の子が、隣にいる男の人の洋服の裾を強く握ってそれから何回も引っ張る。
「おててつないで〜」
「仕方ないなぁ。ほらっ」
可愛い我が娘にせがまれて、断る理由なんてないんだろう。女の子の小さな手が、大きい温もりに包まれる。
その光景を微笑ましく見ていると、こっちまで温もりに包まれるみたい。
そして、不意に思い出すのは、長い年月に色褪せてしまった思い出……。
あの頃、最後に手を繋いでもらった感触なんてもう憶えていない。
成長するにつれて、あの人とは疎遠になってしまった。
頼りない記憶の中の表情も、優しい目元も、あなたはどこまでも遠い眩しい存在だ……。
「ふぎゃッ!」
慣れない場所の波に浮足が立って、不安定な足元はバランスを失くしてエスカレーターの端につっかえる。ビタン!と地味な痛みが全身に応える。
花内まりや。いつも通り体質万全な模様です。
この場でいきなり転んだ少女の一部始終に、周囲の反応はザワザワと沸き立つ。
さっきの女の子が、私を指さして「あのおねえちゃん、だいじょうぶぅ?」なんて心配してくれるから、余計に立場がない。
は、恥ずかしい〜〜〜ッ!
「まりやちゃん、大丈夫?」
「はひっ! 一大事ですか!?」
この場になぜか知り合いの声が聞こえる。鏡のように磨かれた床の上に埋まっていた顔を上げると、案の定京子さんと、彼女のお友達が驚きを隠せない様子ながら声をかけてくれる。救われたような、情けないような……。
あんな夢を見ていたから、少し気持ちが戸惑っているだけなんだよ。しっかりしなきゃ。もう中学生なんだから、こんなことで傷を作るのはやめよう……。うぅ……。