早いものでもう4月ですねー。
暖かくなってきたので春の陽気は眠いです。
雲雀さんのように屋上でまったり昼寝とかしてみたいけど現実はシビアです。
そもそもうちの学校には屋上がないのです。ガッテム!
こちらも春らしく生暖かい目でご覧ください。
12時を回っていたので、あれから施設内のファミレスに寄って、みんなでランチにした。
先程の女子会組に加えて、沢田さんとこのフゥ太君、ランボ君、イーピンちゃんを交えてのメンバーで楽しくお食事会だ。
しかしこのメンバーが揃って一緒にご飯なんて思いがけないことだった。世間は狭いと言うのやら。ともあれ窓際の席でテーブルを2つにくっつけて和気藹々とみんなでランチを囲む。
「さっきはごめんね、花内さん! ここはオレの奢りだから、遠慮せずに食べて! 京子ちゃんやハルも!」
ついさっきのゴタゴタですっかり彼の中で罪悪感が募っているらしく、オーバーにそう振る舞いながら私に気を遣ってくれているらしい。
実のところ彼が思うほど私は気にしていないのだけれど、この様子じゃまだしばらく言い出せそうにない。あまりに頭を下げられると、逆にこちらが申し訳なくなってしまう。
彼と出会ってまだ日も浅いけれど、ここまで親切にしてくれて、むしろ彼には感謝さえしてるのに……。
「ごめんね、まりや姉。僕つい興奮しちゃって」
沢田さんの隣に座るフゥ太君が、スプーンを止めてクウゥンと仔犬のように潤んだ瞳で鳴き出すので、もう許しちゃうしかないじゃない!
さっきと打って変わりフゥ太君の可愛さにデレデレになりつつ、苦笑を満面に固めた沢田さんにどう返したらいいのか逡巡する。
しかしながら彼のここぞというアピールも虚しく、京子さんとハルさんからは揃って「食べた分は自分たちで払うから大丈夫だよ」と一蹴されていた。あまりににこやかな笑顔で言われたから、沢田さんが食い下がれないようだ。
私も奢ってもらうのは悪いので、彼に丁寧に断りを入れながら注文したハンバーグセットをいただきます。今朝食べ損ねたから、デミグラスのソースが沁み渡る。デミ最高。
ファミレスのデミグラスにいちいち感動していると、テーブルが急にガタンと揺れた。
「ガハハッ! おいしいもんは全部ランボさんのもんだ!」
「うわっ、ランボ! テーブルの上に立つなよ! 行儀悪いだろ! それに料理を独り占めはダメッ!」
「▽〃◎✴︎〜〜!!」
突然テーブルの上に上がって、顔のあちこちを汚しているランボ君が宣言する。沢田さんは困ったようにランボ君に注意する。イーピンちゃんも行儀の悪い彼にちょっと怒っている。
きっとご馳走を見てテンション上がってるんだろうな〜、なんて小さい子のファミレスあるあるを思いつくところで、騒いでいると他の人たちにも迷惑だし、思案を思いついて彼らの輪に入る。
「ランボ君、お姉さんのハンバーグ食べる? おいしいよ」
「食べりゅ〜!」
「うん、切ってあげるね。だけど、きちんと椅子に座って食べられるって、約束してくれる?」
「するもんね! ランボさんはいい子だもんね!」
素直に言葉を聞いてくれたご褒美にランボ君にハンバーグをお裾分け。たまたまハンバーグを頼んで正解だったなと、今度はデミグラスで顔をベトベトにするランボ君を見てそう思った。
「あっ…… ありがとう、花内さん。でも、花内さんの分が……」
「いいんですよ。これだけあれば十分です。ランボ君がおいしそうに食べてくれたら、お腹いっぱいですから」
「そ、そっか……」
何かを言いたそうにモジモジする沢田さんより、デミグラスで汚れが心配なランボ君の方を気にかけつつ、彼や隣にいるフゥ太君がちゃんと面倒を見てくれているので彼らに任せて浮かせた腰を落ち着かせる。
「ご、ごめんね。チビたちの世話焼かせて…… なんていうか、花内さんってしっかりしてるんだね」
「えっ……?」
唐突に出た沢田さんの褒め言葉に、思いがけなくキョトンと応える。
まずいことを言ってしまったかと、私のその鈍い反応を見て必死に取り繕う沢田さんには申し訳ないけど少し笑ってしまった。彼に誤解されたままにならないよう一応説明する。
「弟がいて、すごく生意気な弟で、家でもよく喧嘩したりするんです。ご飯の時もそっちのけでゲームしたり、だからよく食べて素直に話を聞いてくれる弟って可愛くて羨ましいなぁ、って……」
つい普段の本音がポロポロと零れる。こんなに可愛い子供たちに囲まれて、沢田さんがちょっと羨ましい。何かと世話が焼けるんだろうけど、その顔を見るとイキイキしている。なんだかんだ一緒にいて楽しいんだろうなぁ。
「そうだよ。まりや姉は『反抗期の弟から舐められても面倒見のいい姉御肌ランキング』も日本人部門でベスト30以内だから、将来ツナ兄のファミリーにもほしい人望だよ」
それは喜んでいいのやら落ち込んでいいのやら……。
さらりと言ってのけたフゥ太君にまた沢田さんがあわあわと注意している。彼に叱られて、悪気はなかったフゥ太君は少し頬を膨らませて不満そうだった。
褒め言葉として受け取っていいんだよね。気持ちだけ受け取っておくよ……。
すると沢田さんが急にこちらを振り向いて、何を慌てているのかと思いながらこんなことを言う。
「あの、ほんと気にしないでね! アイツが勝手に言ってることだから、全然花内さんに迷惑かけるようなことは……」
ポカンと彼の話を聞く傍ら、こんな解釈がふわっと浮かんだ。
「それにしても、変わった遊びですね。マフィアごっこなんて」
「山本出たあぁーーーーー!!」
まるで私の後ろに何かを見たようにショックを隠せない彼を見て、私はイマイチ鎌首を傾げていた。
彼らとの時間の中で至って平常心を保とうとするものの、内心はあの時の彼の一言にまだ動揺していた。あんな笑顔で急に言われると、照れくさくて戸惑う。その気になってまたドジしてしまうし、お世辞だとわかっててもつい本気に受け取ってしまう。
しっかりしてる、なんて初めて言われたかも……。
いろんな背中を見つめてきたから、自分自身がそう思われるなんて意外だったし、今も実感が湧いてこない。
お礼を言えばいいのか、この場合よくわからなくてただ顔が熱い。
気を紛らわすために私と京子さんの間に座るイーピンちゃんをふと見る。天津飯を食べ終わり、デザートのイチゴパフェに感動していた。
「イーピンちゃん、イチゴパフェおいしい?」
「☆〃◎□∴£〜!」
――うん、何言ってるのか全然わかんないやっ!!
イーピンちゃんと意思疎通するのは至難の業のようだ。あの手この手でなんとかやっているけれど、彼女から私に返される言葉が全く読み取れない。
最終的には可愛いクエスチョンマークを浮かべて小首を傾げられたので、イチゴパフェの至福のひとときを邪魔しないでおこうと身を引いた。無念。ちらりともう一度見ると、純粋な涙を流していた。
「あっ。ところで、沢田さんたちは今日何を買いに来たんですか?」
何気なくそう聞いてみた。すると、カン――と食器の音が一際この鼓膜に響いた。
様子を見ると、沢田さんの態度が一変して黙り込むと前髪に隠れてその表情も窺えない。明らかに重い沈黙が流れた。
――……えっ、えっ!? 私、なんか聞いちゃいけないことに首突っ込んじゃった!?
――と、心配になるものの、次の瞬間には沢田さんはいつも通りにこやかに淡々とこう答える。
「――ちょっと、おつかいを頼まれて、鍋を買いに来たんだよ。休みだしチビたちもいるから、遊べるところもあって大きい場所の方がいいかなって」
「あ、あぁ…… そうなんですねぇ」
ちょっとびっくりした。けどなんともなく彼が答えてくれたので、やっぱり気のせいか。これ以上詮索しないで感がどことなく空気に漂っている気がするけれど……。
「ツナん家ドロドロだもんね。ビアンキのドロドロ料理くちゃいもんね」
「あっ! それ言うなッ、ランボ!!」
案の定、というか…… ランボ君の爆弾発言で、沢田さんの張り付けていたような笑顔が拭き取られる。それにしてもドロドロの家庭だなんて…… そういうことだったんだ。こうしてみんな明るく振る舞っているけど、辛い思いをしているんだ。なんだか胸が苦しい。沢田さんもこんな小さい子たちの面倒をちゃんと見て…… うぅ、みんな健気に生きているんだね。
そこまで想像を膨らませて、袖口を濡らす私を沢田さんが心配して声をかけてくれる。これ以上彼に負担をかけられまいと、彼らのためにも、私も今は彼らの前で明るく振る舞っておこうとそっと心に決めた。
まだ水面下で言い合う彼らの微笑ましい関係を見守りながら、ご飯も進む。みんながほぼ手を休めたところに、トレーを片手に女性のウェイトレスがテーブルにやって来る。
「お待たせしました。エスプレッソコーヒーです」
と、湯気が昇る真っ白なコーヒーカップが、私のテーブルの前にそっと置かれる。
「花内さん、来たよ」
「えっ?」
沢田さんに勧められて、遠慮がちになりながら彼にこう話す。
「あの、実は私、コーヒー飲めないんですよ……」
「えっ? ……じゃあ、京子ちゃんかハル?」
コーヒーが飲めないことを白状すると、それを聞き入れた沢田さんが他の2人にも尋ねてみる。彼女たちはすでに他のドリンクを頼んでいたので、案の定違った。
「こいつらが頼むわけないしなぁ……」
と、子どもたちを見やり沢田さんが唸る。
その声に被さるように、落ち着いた返事が返ってくる。
「オレだぞ」
「うわぁー!? リボーン!?」
その声は、私のすぐ近くから聞こえた。
すると沢田さんのオーバーなリアクションがとても悪目立ちしていて、あちこちからの視線がくすぐったい。
「お前いつの間にッ…… つーか、どんなとこに座ってんだよーーー!?」
堪え難く椅子から立ち上がった沢田さんがそう叫んだ後に指さしたのは、私の膝の上にちょこんと座っていたリボーン君だった。私も今更ながら気づいた。
「うるせーぞ。この高さがちょうどいいんだぞ。なんだツナ、羨ましいのか」
「べっ、べべべ別に羨ましいとか…… そそそんなんじゃないだろッ!!!」
「沢田さん、まあまあ……」
沢田さんが熱くなるごとに、あちこちの視線が居た堪れないので、とりあえず彼を宥めて椅子に座られた。私はいいからと、そう言えば渋々と沢田さんが了承してくれた。
エスプレッソを嗜むリボーン君は、今日もスーツにボルサリーノという格好で、帽子の縁にカメレオンを乗せている。ふと目が合うと、挨拶のように一度瞬きをしてくれた。
その格好でまるで違和感なくカップを傾けて、つくづく赤ん坊に舌で負けたことを奥歯で噛み締める。コーヒーはオトナの味だとか言い訳していたのを後悔する。
「まりや」
そこに声をかけられて、ドキッとしながら何もなくリボーン君に応える。
「何? リボーン君」
「…………あれからヒバリとはどうしてるんだ」
何かと思ったら、そのことを突っ込まれるとは今日はあんまりついていないのかもしれない。今朝から寝起きを襲われたなんて言いたくないしなー……。
ふと遠い目で思い耽ると、私の様子を見て勘繰ったのか沢田さんが強張った顔を見せる。
「花内さん……? まさかあれからもヒバリさんに……」
「心配しなくても、私は大丈夫ですよ。――人の恩をバッサリ斬り捨てようが朝から人のプライバシー土足で踏みつけようが慣れたことなので、問題ないですよ」
「いやそれどこが大丈夫なのーー!?」
沢田さんのツッコミが、昼下がりの青い空にまで響き渡りそうだった。
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さて、お昼も食べ終わりこの後どうするかという話になった。このまま解散して沢田さんたちは家に帰ると話し、そんな彼らにハルさんが家までついていくと沢田さんを困らせている。
そんな騒がしい彼らの会話に、水を差すようにおずおずと私が入る。
「あの、すみません。まだ買い物があるので、私はこの辺で……」
そう言って一番に抜けようと思ったけれど、それを沢田さんが引き止めた。
「そうなの? 一緒に行こうか?」
「えっ…… いいんですか?」
「うん。チビたちもまだ花内さんと一緒にいたいって言うし、花内さんだけ置いていけないから」
頭を掻いて、沢田さんがそう提案してくれた。
「ツナ兄の言う通りだよ! 僕まだまりや姉と遊びたいもん」
「*◎□◯❀~」
「まりや〜、ランボさんおんぶ〜〜」
よちよちと歩き疲れたランボ君が甘えてくれる。少しおねむらしい。可愛いなぁ。
彼だけでこの子たちの面倒を見るのはきっと大変だろうし……。
「あの、やっぱりついてきてもらってもいいですか?」
「もちろん!」
そんなことを言い訳にして、もう少し彼らといることにした。
ちなみに最近のマイブームは春の読書です。