ドジっ娘は風紀委員長様のおきにいり!?   作:ひばりの

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彼女の誓い

 

 

 

 

 

 

 ――――守りたい?

 

 

 

 その声が、頭に響いた。

 女性の穏やかな声だった。

 

 その声が聞こえてもしばらくは動けなかった。

 動けなかった…… 私には、あの場で何もできなかった……。

 今になっていつもこの身に後悔が押し寄せる。消えかけていた傷痕がまた痛む。

 どうして…… どうしていつも私なの……。

 私が、一体何をしたっていうの――……。

 

 頭に直接問いかけられた声にも何も答えられず、無力な自分を改めてこうして痛感する。

 

 ごめんなさい…… みんな……っ。

 

 

 

 

 

 ――貴女は、愛する人たちを守りたいと願いますか?

 

 

 

 

 またその声が聞こえた。

 自己嫌悪に今にも崩れそうな胸の内を奮い起こして、絶望を襲った頭をゆっくりと持ち上げる。

 

 光が眩い視界には、かつて見たこともない優しい光の景色が広がっていた。

 純白の光のベールにそこは包まれて、まるでどこか遠い西の国にある場所へ連れ去られてきたようだ。

 花嫁のウエディングドレスをあしらうような複雑な構造の内装に、辺りに散りばめられた七色のステンドグラスが外壁の窓に埋め込まれている。尊い虹色の光が、この聖堂内を鮮やかに彩り照らす。

 この聖堂の中でも聖壇の正面に洗練されて飾られている、十字架にかけられた男の人……。

 

 息を呑む目の前の圧倒される純白の世界に、私一人がまるで浮いている。

 この場にいるのがとても場違いである気がした。

 

 光が溢れる神秘な空間に、いつしか声がこの鼓膜をすり抜けて大聖堂に透き通って響き渡る。

 

 守りたいなんて、私のお願いは、きっと神様にも無理な頼みなんだよ。

 この手に守れるものなんてなかった。

 築きかけていたものを、全て壊してばかり……。

 

 そう語るのは、大理石の廊下に膝から崩れ落ちる私だった。まるで罪人(つみびと)のように、神様に唯一の赦しを請うように懺悔をする姿だった。

 

 こんなちっぽけな自分という存在が堪らなく嫌で、この傷だらけの身体を抱え込む自信がもうなかった。震える身体を抱き締めて、嗚咽を零していった。

 

 

 

 ――それで貴女は、ただ自分の運命を呪うばかりなの。

 

 

 

 純白の中に響き渡る声がそう告げた。

 

 あなたに何がわかるの?

 ポッと現れた声に、一体何がわかるというの。こんなに苦しんでるのに。

 

 散々思い知らされたんだよ。誰かを傷つけることしかできない。大切な人たちまで巻き込んだ。

 こんなに報われないなら、呪われたって仕方ない。

 

 

 

 ――忘れないで。光はいつもそばにいて見守っているわ。いつしか当たり前になってしまって、私たちはふと見落としてしまうの。でも、忘れてあげないで、気づいてあげて、決して貴女たちを見捨てないから。

 

 

 

 その声は、切実にそんな言葉を唱えて、きっとそこには透明な彼女なりのメッセージを残そうとしていた。

 

 ねぇ、あなたは誰なの――?

 

 

 

 ――貴女には、資格があるの。

 

 

 

 …………資格? あなたは、何を言っているの?

 

 

 

 ――これは、呪いよ。誰にも止められない。誰かが受け止めなければいけない。

 

 ――貴女に、その覚悟はありますか?

 

 

 

 その声は泣き出してしまいそうだった。

 

 

 でも、それでもう、あんな悲しい結末にならないのなら……。

 こんな馬鹿みたいな体質だってきっと報われる……。

 

 

 

 ――そう、ありがとう……。ごめんなさい……。

 

 

 

 悲しそうに呟く。

 

 ねぇ、どうして……。

 そんな違和感も、光の彼方に消え入りそうで、結局は口を閉じていた。

 

 すると、その光の彼方の先に誰かが佇んでいる。

 聖壇の前で、純白の光に護られる彼女の存在は、どんな光をも従えてその彼女自身が至高の輝きに満ち溢れている。

 

 

 

 ――貴女に、神からの祝福を授けます。

 

 ――神のご加護は、これからの貴女の運命を大きく左右します。けれど、全てを尽くしこのロザリオに懸けると、永遠に誓えますか。

 

 

 

 さっきの声の主の問いかけに、一瞬喉の奥が詰まる感覚を覚える。

 十字架に、あの絵の中の人のように、永遠と縛られる運命かもしれない。

 自由を手放すのは、怖かった……。

 

 

 ――だけど、誓ったじゃない。

 この体質を、私自身を呪ってでも、守りたい。もう傷つけられない。

 

 お願い。運命を、変えたい。

 

 

 

 ――貴女の誠の勇姿、見せていただきました。

 

 

 

 彼女の手から、そっと光の玉が放たれる。優しい光を包み込んだその光の玉が、私の目と鼻の先にふわりとやって来て、私をその輝きで受け入れてくれた。

 

 それは、とても温かくて、少しだけ涙が出るくらい懐かしかった。

 

 

 

 ――受け取ってください。X世の証に選ばれし者に授けられた、天からの祝福です――……。

 

 

 

 祝福――……。

 

 その神聖なる光を拝受すると、次第に薄れていく意識と共に彼女の面影もぼやけていった。

 

 待って、あなたは――……。

 

 遠くなる光の世界に溶けていく彼女の口元は、こんな風に微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 ――――神に祈るのもいいけれど、まずは貴女自身を信じてみて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 並盛中央病院。

 

 並盛の中心にある公共の大型施設であり、裏に並盛の風紀委員会という大綱のバックがあるおかげで今日まで安息を過ごしている。

 

 その場所にまるで不釣り合いであるような死期を持ち込む黒服を纏う男は、目的のある一室へおもむろに足を止めると一呼吸置いて病室の戸に手をかける。

 

 患者の名前を記入する病室のプレートには『花内まりや様』と部屋のナンバーが無難に記されていた。

 

 夕暮れ時。

 

 タイミングを見計らうおかげで、病室の辺りには人影が見当たらない。

 

 死神の如く、男は音も立てず標的の眠るベッドへと近づく。

 

 案の定そこに安らかに眠る少女の無防備な様に、男の胸の内にある感情が堪える。

 

 

「ようやく会えた、まりや……」

 

 

 届くこともない声をかけて、男は微笑する。

 

 その双眸に浮かぶ記憶の中より少し大人びた娘の顔をそっと覗き込む。起こさないように、透き通る硝子細工のような肌に口づけを落とす。

 

 それは親が娘に注ぐ愛情表現であり、祝福であり、償いでもある。

 

 男の指はそっと離れていった。

 

 

 ********

 

 

 山の頂きから町の眺めを見下ろす男のもとに、気配を潜めた影が近寄る。

 

「忠っちさん」

 

 剽軽な声をかけてきた少年。まだ20歳にも至らない彼の風貌は、若かりし頃の伸び伸びとしていた面影を彷彿とさせるなと男は微笑んだ。

 

「目上の者にはせめて敬意を示してくれないか」

「え〜、これでもだいぶ表してますよ〜。そもそも目上って、んな大した上下格差とかないじゃんスかぁ〜」

「一応、社会の常識を今後のお前のために教えてやっているんだが」

「同感です」

 

 その2人の後から現れた女性は、彼らの視界に凛然とした眼差しを映し落ち着いた物腰の印象を与えた。

 

「うぇ〜、アネキさん風当たり冷た〜い。なんでいつも相手方の肩持つんスか、まさか俺のこと嫌いなんスか、全く酷い話だ。義母らに虐められる灰かぶり娘のように俺の心も灰かぶりの土砂降りだ」

「泣いてろ豆腐メンタル。いちいち私に頼ってくるな」

「別に頼りにしてるとかじゃないスけど。ガキの頃勝手に世話焼いてたのはアネキさんの方……」

 

 彼の屁理屈らしい独り語りは最後まで聞き届けられることなく、少年の顔面に右ストレートが撃たれたことで自ずと沈黙した。

 

「――ところで、忠秋さん」

 

 右手を軽く慣らしたところで、話を変える。そもそも本題に戻るのだが、どこぞの土に埋まる豆腐メンタルのせいで初めから話が逸れていた。もう一発殴ってもいいところだ、と彼女は呟く。

 

 彼らのやりとりを背後で聞いていた男は一部始終を当人らの傍らで目の当たりにして特に驚くでも呆れるでもなく、貫禄のある面持ちを持っていた。

 

 その面持ちに浅い微笑を湛え遠い西陽の空が照らす様には思わず圧倒されると、女性の瞳孔はその眩さに縮んでいく。

 

「そちらの方は、いかがですか?」

「心配いらない。第一段階は踏んだよ」

「わっせぇ! さっすが忠っち()()、仕事が早い♪」

「おい。土壌と仲良くしていろ、小僧」

 

 女性のバッサリ切る言い方に、しかし彼の豆腐メンタルはすでに跡形もなく壊れていたようだ。

 

「ふわははっ、冗談ッスよ、忠秋サン♪」

「礼儀を弁えない若造を、寛大な忠秋さんに代わりこの私が始末してやってもいいんだぞ?」

「いやぁ、そんで継承もスムージィに進んで、うざったいクッソ餓鬼も死んで一石二鳥ッスもんね♪

 ――……冗談ッス、すんませんした」

 

 女性の徐々に変化していく形相にさすがに死期を感じたか、すんなりと腰を折る。

 

 彼女に庇われてしまった男の方は別にいいのだが、この女性の方が律儀な性質であり少年の無作法を見逃すわけがなかった。

 

「つーか、ここじゃ銃刀法違反ッスよ!」

「構わん」

「現役イタリアン・ポリスマンが言う台詞じゃないッスよ!! アネキさん!!」

 

 少年の正論に真っ向から「知らん」と身も蓋もない返事をすると、銃口が火を噴く。銃弾は少年の右頬を掠り、間一髪であった。

 

「しかし、第一段階継承など、よかったのですか?

 聞けば、お心当たりのある者は、忠秋さんの――」

 

 そこまで言おうとして、その先を待たず落ち着いた声が被さった。

 

「ああ、構わんさ。俺たちがこの世の意思に反いてはならない。それに、あれでよかったと思う」

 

 本人がそう告げるならば、彼女がこれ以上食い下がることはなかった。しかし、それでも腑に落ちない。男がそう言うのは意外だった。どうしてこの方は自分の全てを犠牲にしても尚もそんな風に思えるのか、自分だって未だに悔やみ切れないのに…… と女性は歯痒い思いを堪えた。

 

「まあまあ。こうして日本(ジャッポーネ)に《勇者同好会》の御三方が揃ったんスから、パァ〜と語り尽くしません? さっきいいお店見つけてきたんスよ〜」

「……それ以上口を割けば、温厚な忠秋さんに代わり私がお前をしばく」

「そいつって最早アネキさんの専売特許ッスもんねぇ」

 

 脅し文句にも彼には慣れたものなのか、開き直ってゲラゲラと笑ってみせる。彼女ももう手加減はしなかった。忠秋の背後から、生身の人間の弾力のある部分を豪快に叩き上げる音は山頂の一帯に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――勇者。

 

 それは、闇社会の英雄と、ボンゴレ内部で知る者に水面下に囁かれる存在。

 

 それを語れる者は極少数に限られる。

 

 そう語る者たちは、口を揃えて彼らを讃えるだろう。

 

 

 

 今や裏社会の重鎮として民衆から慕われ、崇められるマフィア・ボンゴレの、受け継がれる闇そのものだと――……。

 

 

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