彼らと別れた後、私は自分の学び舎へと向かった。
彼らは私のことも心配してくれていたけれど、もう慣れたことだから、早く彼を保健室に連れて行ってもらった。
どうにか職員室までたどり着くと、教室までは担任の先生に案内してもらって迷うことはなかった。
ちなみに私のクラスは1-Aだった。
途中から教室に入ってきたので、初日から目立つことになってしまったけどね。傷だらけでボロボロだし……。
新しいクラスに来ると、私はひとつの壁を目の当たりにした。
この時期になると、クラス替えでもみんなそわそわするんじゃないかな。
そう、学年問わずの4月の恒例行事……――友達作り。
おかげで私はホームルームの間も落ち着かなくて、終始居心地が悪かった。
なぜなら、私はこの春から並盛に引っ越してきたばかりで、知り合いはいない。名前を知っている人もいなければ、また友達と呼べる人もここにはいない。
周りの人たちはお互い顔馴染みなのか、気さくに声をかけ合う姿をあちこちで見かける。
だから、私一人が蚊帳の外にいる気がして…… というか実際にそうで、非常にアウェーだ。
友達…… できるかな?
不安に苛まれる私をおいてけぼりにして、ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴る。
それを合図かのように、教室の中は一気に活気に溢れて、クラスメイトたちの青春に彩られる。
わ、私も負けていられない。こんなところで気後れしちゃダメだよ。ここでがんばって、新しい友達を作らなきゃ!
とりあえずは、女の子から話しかけていこう。ちょうどあそこに女の子2人がだべってる。
よしっ。いくんだ、まりや――!
「あの、初めまして! 私、花内まりやっていいま……」
ただ挨拶しようとしただけなんだけど……――その子たちは、怯えるように私から距離を置いた。
…………えっ? えっ?
避けられてその場で立ち尽くす私に、とどめを刺すかのように女の子たちはヒソヒソと話し始める。
「ねぇ、あの娘…… もしかして今朝の……」
「校門前の入学式用の看板壊して、風紀委員に目をつけられてた娘でしょ……?」
「それって、あの雲雀さんに……」
「見ろよ。アイツの制服あんなにボロボロだぞ」
「あの風紀の鬼に咬み殺されたか……」
「やべーな。痛そお〜」
彼女たちだけじゃなく、いつの間にかクラス中で噂されている。
どうしてこんなに目立っちゃっているんだろう……?
また何かドジでも踏んで、みんなに引かれてしまったのかと、記憶を模索する。
しかし、教室に来てからまだこれといって目立ったドジは踏んでいないはず……。
じゃあ、なんで……?
今も進行形で、噂のスポットライトは私にあたっている。
ここにも私の居場所はないのかな……。
涙が溢れそうな時、飛び交う噂の中に首を傾げたくなる奇妙な言葉を聞いた。
クラスのみんなが話す『雲雀さん』って……? 人なのかな?
また、ちらほらと耳にする『咬み殺す』って…… 最近どこかで聞いたようなないような。『咬み殺す』って、何? 噛まれるのかな? 私、今日はまだどこも噛まれていないはずなんだけど……。
この体質のおかげで、人前に出ることがとんと苦手な私。悩んだ末に、自分の席に戻って机の上に突っ伏した。いろんなことから精一杯逃げるために。
なんだか、全然ダメだな。
この体質があっても、ここでがんばっていこうって決めたのに。知らないうちになんか変な噂は流れてるし、看板壊して風紀委員会の人たちにも迷惑かけてるし…… どうしようもないのかなぁ。
そんな苛立ちと苦渋を噛み締めて、閉じていた目をゆっくりと開く。
薄っすら開いた視界に、一枚の桜の花びら。
ひらひらと空中で舞って、日向の当たる机の上に音もなくとまった。
その桜は、薄桃色に色づいて、春の陽光を浴びてキラキラと輝いている。
あの人の頭にもついていた花びら…… 綺麗――……。
その一枚に手を伸ばそうと、ゆっくり身体を起こすと、ふと近くで気配を感じた。
「元ッ気ですかああああ!?」
「キャアアアアアアア!?」
いきなりア○トニオ猪木のモノマネが降ってくる。
すぐ耳元で聞こえたその声に驚いて、座っていた席から豪快に転げ落ちてしまった。
あいたぁ…… 尻もちまで……。
すると、腰の激痛に身悶える私の頭上でさっきの声が。
「あー…… びっくりした?」
するわっ! 私じゃなくても、いきなりアント○オ猪木なんてされたら誰だってこうなるわよ!
じんじんと痛む腰をさすりながら、アントニオ○木のモノマネで現れたその娘へと振り返る。
ボブヘアーのとっても似合った、まるで西洋人形のように可愛らしい女の子。
彼女は、半泣きべそな私と目が合うと、にっこりと可愛らしく微笑んだ。
「ごめんごめん。最初はインパクトが大事かなぁ〜って思ってさ。転けるくらいウケてくれて嬉しいよ」
これっぽっちもウケてないわよ! それに一体何のインパクトが大事だって言うのよーーー!?
いろいろおかしい娘みたいだけど、この娘もクラスメイトかな? どうしてこの娘は、こんなにフレンドリーに話しかけてくれるんだろう……?
そんな疑問も跳ね返すような、嬉々とした表情で彼女は話しかけてくる。
「それより、花内まりやちゃん!」
「な、何……?」
聞きたいことがあると言うと、スカイブルーの瞳が先程よりも輝きを増したことに、ふと違和感を感じた。
この予感は…… 気のせいだよね?
「まりやちゃんはさ、あの雲雀恭弥と話したそうよね!? おまけに彼のトンファーで咬み殺されたってぇ!? それって痛かった!? まりやちゃん的にはどんな痛さだったのかしら!? そこんとこ、出来る限りでいいから細かく詳しく詳細に教えてもらいたいんだけどさあ!!」
思っていた矢先に質問攻めキターーー!?
「えっ…… えっと、その……」
「いいよね!?」
「…………はい」
負けた……。
なんかよくわかんないけど、承諾してしまった。私のバカ……。でもだって、この娘の迫力が鬼気迫る感じで怖かったから……。
なんか変な娘に絡まれてしまった、なんて思った時にはもう遅くて、後悔する間もなく次の質問攻めがやって来る。
「じゃあ、さっそく聞きたいんだけどさ、まずはまりやちゃんから見た彼の印象ってどうだったかしら? 聞けば、彼の隠れファンクラブが結成されているらしいけど、まりやちゃんから見てもかなりの美形だったのかしら――…… あー! あとあと! まりやちゃんから見たら、雲雀恭弥に似合うのは肩に羽織った学ラン? それともたまに見かけるブレザー制服?」
いつの間にやらメモらしき手帳までとり出して、謎の美少女が迫ってくる。
ヒィィィィ! とりあえず怖いぃぃ!! 何言ってるのかさっぱりわかんないよおぉぉぉ!!
ヒバリって誰!? トンファーって何!? 咬み殺されるってどゆことー!?!?
今すぐ教室を飛び出して帰りたい。入学初日からこんなことになるなんて、本当に自分の体質なんて、大嫌いッ……!
ただ困惑する私に次々と質問を投げていた彼女のもとに、ひとつの影がゆっくりと近づく。影の人物は、彼女の真後ろに立つと、その後頭部に制裁の右手チョップをお見舞いする。
「やめとけ。このオカルト変人がッ」
「あいったあッ! ちょっと! 何すんのよ!?」
変人――と呼ばれたその娘は、自身に右手チョップを下した男の子に振り返り、だらだらと文句を言っている。
制裁を加えた本人は全く意に介さず、そして悪びれることもなく、その娘の文句もこれでもかというほど適当にあしらっている。彼、何気に強者だ。
「いたいけなレディーにサッカーバカチョップなんて、あんたどんな神経してんのよ!?」
「どっちの台詞だよ。センスの欠片もねえ上に何気に俺とサッカーをバカにするようなこと言いやがって」
「そのまんまよ!」
「余計にタチ悪いじゃねーか!」
どうやらこの2人、お互いに顔を合わせる仲のようで、教室中の注目を集めるくらいの言い争いを始めてしまった。
「つーか、お前のどこが
「あの科学では説明出来ない怪奇に満ちた
「んなわけあるかッ」
2人は、いつしか私の存在なんかすっかり忘れてしまったみたい。そんな彼女たちを止めることも出来ず、その間で1人どうしていいのやらわからずに立ち尽くしていた。
始業のチャイムが鳴る。先生が教室に入ってきたところで、収まるどころかヒートアップしていた。不運な先生がそれを仲裁するのに四苦八苦している。いつしか周囲の目も、呆れ返っていた。
彼らのゴタゴタを見守る中で、今日という晴れ舞台に起こった散々な出来事に、これも体質のせいなんだと納得するしかなかった。
もうこれ、最悪の入学式だよーーーーーー!!