ドジっ娘は風紀委員長様のおきにいり!?   作:ひばりの

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僕は風紀のために  vorbesc.雲雀恭弥

 

 僕を付け狙う気配には、最初から気づいていた。

 

 すぐに彼らを問い詰めなかったのは、僕を探る目的が何なのか、漠然としていたから。

 

 そして、それをはっきりさせるため、少し泳がせようと思ったから。

 

 それに―― 今の僕は、彼らより校内に群がる雑魚を咬み殺し、風紀を正すのに手一杯だったから。何なのか知らないけど、面倒だから後回しにしておいた。

 

 校内を一回りして、風紀もだいぶ落ち着いてきた頃。

 

 まだ後をフラつく彼らに、そろそろ制裁を加えようと一声かける。

 

「――いるのはわかっているよ。誰、さっきから僕を付け狙うカモは?」

 

 3秒…… 仮に出て来ないのなら、そこにいる奴ら全員咬み殺す。

 

 一声かければ、案外早く動きがあった。

 

 校舎の陰から一匹が転がってきた。

 

 僕としては、このままカモが出てこないで、全員咬み殺されてもらうのが理想だったけど…… まあいいや。

 

 今日は新入生の群れを、それなりに咬み殺したから、特別に一匹で見逃してあげようか。

 

 けど、大胆にもすっ転んでそこに現れたのは、僕の機嫌を損なう厄介なカモだった。

 

「……また君かい、花内まりや」

 

 そう。そこで転んでいたのは、今朝方騒動となった問題を起こし、風紀委員の世話になっていたあのドジっ娘だった。

 

 ……ちょっと、金輪際関わり合いになりたくないって、前回言っておいたはずだよ。これは一体どういうことなんだい? あとで僕が納得する説明があるんだろうね?

 

 最初こそ機嫌は悪かったけど、よくよく考えればこの状況も案外悪くないように思う。

 

 今朝の騒動で一時は風紀を乱したこのカモを、あの時は馬鹿らしくなってやめてしまったけど。

 

 時間が経ってみると、やはり咬み殺しておくべきだったと、密かに思っていた。

 

 この際、あの時のリベンジだ。

 

 懲りないカモをここで咬み殺しておくのも悪くないと、愉悦が漏れる。

 

 ――けれど、その思惑も、彼女の悲痛な声を聞いて崩される。

 

 直後に自身の右足首を押さえて、身悶えている。

 

 それを見て、脳裏にふと過る予感。

 

 ……冗談でしょ。

 

 案の定、挫いたようで、何が可笑しいのかヘラヘラと笑う。笑えない。そのふざけた顔面をぶっ潰してやりたいよ。

 

 今朝のアレといい、呆れを通り越して面倒になってきた。

 

 彼女のドジは、見ているだけでこちらの闘争心を萎えさせる。疲労感さえ覚える。今朝のやつが、今になって回ってきたのかな。

 

 もう咬み殺すのはいいから、これ以上このドジに付き合ってられない。まるで陸で生きる術を知らないカモだ。普段なら、見て見ぬふりをするだろう。

 

 今回の場合、こんなある意味で人間兵器をここに放置すれば、また校内の風紀を乱しかねない。

 

 それは風紀委員長を務める僕にとっても、相当な痛手となる。

 

 これも風紀を守るため、仕方のないことだと、そう割り切って手中のトンファーを収める。

 

 ……今回限りのことだからね。

 

 転んでからずっと蹲っている彼女のもとまで歩み寄る。縮こまっている小動物の身体を、両腕で抱き上げた。

 

 見た目より軽めだった身体を、そのまま保健室へと運ぼうとすれば、腕の中で暴れる。さながら警戒心の強い小動物のようだ。足止めを喰らい、僕のイライラも募る。無理に動けば、落としかねない。この娘のことだから、落とせばまた厄介なことになるんだろう。そんなの、もう僕も御免だよ。

 

 言うことを聞かない、というより、混乱して周りを見る余裕がない彼女に、咬み殺したい衝動を抑え、睨む。一握りの殺気を込める。

 

 そうすれば、案外あっさりとおとなしくなった。

 

 なんだ。一応は出来るんだね。そうやっておとなしくしていれば、こっちも苦労ないんだけど。

 

 そんなことを言ってみても、仕方ないことくらいわかっている。

 

 ここで咬み殺したって、事実が消えるわけでもない。

 

 屋上を見上げ、その後は彼女を抱えて保健室へと向かった。

 

 

 ********

 

 

 運んできたはいいけど、ここには厄介なのがいた。

 

「おいおい小僧、レディーには親切にしてやるもんだぜ?」

 

 連れてきた彼女を椅子の上に放り投げれば、ここに居座る変態保険医が戯言を言ってくる。

 

 虫唾が走るほど変態な医者だけど、腕は確かで、ここのことも一応は彼に任せてある。

 

 彼「男は診ない」とかわけのわからないことを言うから、何度咬み殺そうと思ったか、僕にも知れない。

 

 治療の腕を見込んで、まだその程度のことは許してあげている。

 

 忌々しいよね。その腕さえなければ、貴方を今ここで咬み殺してあげられるのに。

 

 壁に背を預け、治療する彼らを傍らで待つ。……どうして僕が。

 

 まあ、僕には直接被害がないから別にいいんだけど…… あのドジっ娘、あの変態にあからさまな下心で見られていることに気づいていない。無視したいけど、校内でされると風紀が乱れる。けど今咬みついてもキリがない。気づきなよ。警戒心とか、少なからず持ってないのかい。…………ないようだから、ああもドジを踏むのか。深く納得してしまった。

 

 結局、僕が思うところも、変態からの視線にも気づかないまま、彼女の右足には包帯が巻かれ、治療はすぐに終わった。

 

 変態といえど、業界から一目置かれているには作業が早い。侮れない変態だ。

 

 そんな変態に治療が終わるとお礼まで言って、つくづくお人好しだ。

 

 目を離せば、変態に言い寄られている。ここは学校だよ。僕が目障りだ。

 

 珍しく仕事をしていたから、見逃してやろうと思ったけど、調子に乗り過ぎだよ。僕の前で馬鹿な真似やめてくれる?

 

 気づいた頃には咬み殺していた。

 

 けど、僕に否はない。相手も困っていたようだし、何より並盛の風紀が守られた。何の問題もないね。

 

 すると変態直々にお誘いをもらう。ワォ、殺る気になったの? 面白そうだね。本気の変態も咬み殺しておこう。

 

 臨戦態勢に入っていたのに、彼女の慌てふためく声が間に入ってくる。せっかくの空気が台無しだ。邪魔しないでよ。

 

 文句を言おうと振り向いたところで、現実に引き戻された。

 

 彼女の右足にふと目がいくと、やらなければいけない仕事を思い出す。

 

 …………そういえば、まだ面倒事が残っていた。

 

 診てもらったとはいえ、こんな要注意人物を不完治のまま並盛に放り出せば、町の風紀に関わる。

 

 並盛まで巻き込むのは、断じて僕が許さない。

 

 トンファーを仕舞い、彼らに背を向ける。後ろから変態のお節介な声がした。うるさい。僕だってそれくらいわかっているさ。その減らず口、縫い殺してあげようか。

 

 ドジっ娘にさっさとついてくるように言って、一刻も早くこの場を離れた。

 

 

 ********

 

 

 帰りは僕のバイクで、彼女の家まで送ってあげた。

 

 最初はバイクのことで何か言っていた彼女も、今は乗り物酔いで庭の隅に座り込んで反吐を吐いている。

 

 物好きでもないから、見ないことにしてあげたけど。視界にも入れたくないしね。

 

 彼女もその場で吐くことはしなかったけど、つくづくその行動には呆れさせられる。どこかの似たような草食動物を、心なしか思い出すよ。

 

 そう思っていた僕の言葉が、誤って現実に作用してしまったのか、いきなり彼女は大声で叫んだ。

 

「あーッ! 荷物全部学校に忘れてきたあぁぁぁ!!」

 

 ワォ。そういえば、教室に寄っていくのをすっかり忘れていたね。

 

 おかげで家の鍵を忘れたらしく、帰って来ても中に入れないようだ。

 

 まあ、僕には関係ないことだ。

 

 自身の失態にヤケになって玄関の扉を叩く彼女を尻目に、僕は踵を返そうとした。

 

 そこに、内側から扉の鍵が開く。

 

 ――と思えば、力任せに扉を叩いていた彼女は、扉が開いたことに反応が遅れると顔から中に入っていった。

 

 床に何かが強打した鈍い音が、辺りに聞こえる。

 

 ワォ…………。

 

「…………何してんの。ねーちゃん」

 

 自爆した彼女の姿を見下ろして、言葉も出ないところに、その家の中から声がする。中から鍵を開けた人物は、僕と同様に彼女を見下ろして、気怠げに言った。

 

 姉、と。

 

 ……少し、意外だったよ。まあいいさ。そうなら、彼はこのドジっ娘の弟……。

 

 その瞬間、悪寒がした。なぜだろう。今までに感じたことがない感覚だった。彼を見た直後のことだ。

 

 彼女の弟も、ドジを踏んだりするんじゃないだろうね。僕は知らないよ。

 

 謎の悪寒に苛まれ、ここを立ち去ろうとした、その時、彼女の弟からの視線に気づき、また僕の方も反射的に彼を見た。

 

 ……今となれば、無視して立ち去るのが賢明だったと、これ以上なく後悔している。

 

 僕の気持ちに反して、彼女の弟の目には、僕に向ける明らかな感情が窺える。

 

 思わず、後退る。

 

「あ――」

 

 何かを言おうとしている。

 

 その口が何かを言う前に、立ち去るか咬み殺しておけばよかった。

 

「――ま、マジでっ……!? あの並中最強風紀委員長の雲雀恭弥!?」

 

 一気に距離を詰めて、こちらに近づいてくる。僕は見た。姉を構わず足蹴にして僕に向かって来るのを。

 

 ワォ…… 君、僕のこと知ってるんだ。僕ってそんなに有名かい?

 

 会って間もないにも関わらず、図々しい振る舞いだ。興奮冷めやらぬ様子で、何を言いたいのかわからない。

 

 とりあえず、咬み殺そうか。

 

「あっ、あの! オレ、あそこで伸びてるねーちゃんの弟の、花内(はなうち)蒼哉(あおや)って言います! また会えて感激です! じ、実は、ずっとオレ、雲雀さんのファンなんです!」

 

 さっきから並盛の静寂を台無しにしてくれる彼は、頼んでもいない自己紹介を始めた。だから、頼んでない。

 

 おかげでタイミングを逃した。

 

 彼、ドジではなく発狂者のようだ。

 

 花内まりやの家庭では、どんな教育方針を図っているのか、一度聞いておきたいところだね。

 

 初対面から姉弟共々鬱陶しい。巻き込まれる僕の身にもなってくれ。

 

 もう付き合ってやるのも限界だ。次第にイライラが募る。無意識にトンファーへと手が伸びた。

 

 その時――

 

「蒼哉!」

 

 彼と共に、ピタリとトンファーの手が止まる。

 

 その声は、彼女だった。

 

 泥だらけで涙を堪える姿には、呆れを通り越して悲惨だ。

 

「あんたは何をいきなり雲雀さんに言い寄ってるの! 雲雀さんが困ってるじゃない!」

 

 ああ、そうだね。君にしては僕のこと、わかってくれたようじゃない。

 

「うるせぇ! オレを置いて何先に雲雀さんと仲良くなってんだよ! ずりぃぞ! 学校一緒だからって抜け駆けすんじゃねーよ!」

「ちょっと! 姉に向かってなんて態度よ! ていうか第一、雲雀さんとは仲良くも何もないんだから!」

「じゃあなんで雲雀さんがウチに来てんだよ! どうせまたドジ踏んで、雲雀さんの優しさに漬け込んだんだろ! 綺麗な雲雀さんが汚れたらどうすんだ!!」

「百歩譲ってこの鬼畜のどこが純潔なの!!」

 

 ……僕を放って、姉弟らしく喧嘩を始めた。

 

 もう咬み殺すのも面倒だ。疲れた。そう思うと踵を返す。

 

 停めていたバイクに一人跨り、ごちゃごちゃ言い合う彼らを置いてその場を去った。

 

 バイクを走らせながら、今日の一連の出来事を頭で繰り返し、また小さな溜息が零れる。

 

 

 

 

 ――並盛の風紀は、僕の働きで守られたはず。

 

 だけど、この胸の疼きも、微かに脳裏に過る予感も、どうして僕を悩ませるんだい――――?

 

 




とにかく残念なヒロインを目指します!
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