…あれは、昨年の秋のことだった。
「へへへ、流石実りの秋。今日も大漁なんだぜ」
魔法の森の中を少し進んだあたり、きのこが大量に生えている天然のきのこ畑の中霧雨魔理沙は一人収穫を喜んだ。彼女がきのこを集める理由は食ではない。彼女は魔法使いだ。魔力の供給源ならびに魔法研究の材料としてこの森のきのこを必要とする。その為秋になると、いや一年中彼女は大量のきのこを収穫し自宅に持ち帰る。今日もあとは家に帰るだけだった。
「ふぅ。こんなものか。しかし今日も少し採りすぎてしまったかな…」
魔理沙が振り返るとほとんどのきのこがごっそり無くなっていた。
「ハ、ハハ…ま、まぁいいよな」
頬を少しひきつらせ自嘲的ともとれる半笑いを浮かべると魔理沙はそのまま回れ右して帰ろうとした。
「ちょっと!ちょっと待ちなさいよ!」
突然後ろから声をかけられた。再び振り返るとそこには豊穣の神秋穣子が立っていた。
「なんだお前か」
「なんだとはご挨拶ね」
「どうだっていいさ。何の用だ?」
「その大量のきのこどうするのよ?」
穣子は魔理沙の傍らに置いてある彼女の背丈よりも大きな風呂敷の包みを指さしながら挑戦的に言った。
「私がきのこを何に使おうと私の勝手だろう?」
魔理沙はにべもなく答える
「いいえそうはいかないわ。秋の実りは皆のものよ。貴女一人に一人占めさせるわけにはいかないわ!少し返しなさい!」
「おっと横取りか?八百万の神様が泥棒なんて格好つかないんじゃないか?」
「年がら年中泥棒まがいのことやってるあんたに言われたくないわよ!」
「う…うるさい!あれはその、なんだ、か、借りただけだぜ!借用!借りて用いるだけだぜ!!」
「いいからよこしなさい!」
穣子が包みに掴みかかる。
「いやだぜこれはもう私のもんだぜ!」
その手を魔理沙が引き離そうとする。二人はそのまま揉み合いになってしまった。と、不意にどちらなのかはわからないが誰かの手がぶつかり包みが転がり出してしまった。目の前は崖。おむすびころりんよろしく加速しながら包みは転がっていく。
「あぁっ!?ま、待て!!」
二人は同時に叫ぶと崖に向かって全速力で駆けだした。神と魔法使いのチキンレースの開幕である。
「うおおおおお!?」
二人はお互いを邪魔しあいながら崖に向かって坂道を疾走する。
「よし!届く!残念ね魔理沙!私の勝ちよ!」
先に包みを掴んだのは穣子だった。が、魔理沙がそれしきで引き下がるはずがない。
「させるかぁぁぁぁ!!!」
包みを掴もうと手を延ばした穣子にタックルがたたきこまれた。ギリギリの所で手がとどかない。そして…
「あ」
チキンレースはアウトゾーンギリギリで立ち止まるゲーム。哀れな二人の参加者はアウトゾーンを見ていなかったのだ。アウトゾーンに入った者には罰ゲームが待ち構えている。
「ぎゃぁぁぁぁ!!崖ぇぇぇぇ!!!」
「いやぁぁぁぁぁぁ…」
二人と包みは崖の下まで落ちていった…
「…」
「………」
「…………う」
「うぅ~ん…つ、包みは…?包みは無事か…?」
崖の下で魔理沙が目覚めた。秋特有の大量の落ち葉がクッションの役割を果たし、奇跡的に重傷にはならなかった。
「つ、包み…」
と、同時に穣子も目を覚ました。穣子と魔理沙が同時に包みに目をやると…
「…ん?」
この状況である意味最悪の相手、天邪鬼、鬼人正邪が包みを拾っていた。
「なんだ、お前達の包みか?コレ?」
「そうだぜ!返してく…」
しかし魔理沙は途中で口をつぐんだ。正邪は天邪鬼。うっかりここで自分の包みだ返してくれなんて言ってしまえば持ち去られる。
「い、いや別にぃ?わ、私の荷物なんかじゃあないぜ!あ、今体痛いから私に持たせるんじゃないぞ!いてててて…あー本当痛い!そこの穣子に持たせるといいんだぜ!」
(よし!完璧だ。これなら正邪は大人しく私に包みを渡すはず…)
「そうよ!秋の実りは皆のもの!別に私は一人占めなんてしないから大人しく渡しなさい!」
魔理沙は氷ついた。
(貴様ァァァァァァ!?何、何してくれてるの!?天然なの!?それともただの馬鹿なの!?いやどっちでもいいわこの際!!)
その言葉を聞いた正邪はニタリと笑うと案の条回れ右して全速力で逃げ出した。
「あぁっ!?待ちなさい!」
穣子と魔理沙はまた同時に走り出した。天邪鬼の乱入によりチキンレースがロードレースになった。
「速攻で決めてやる!」
最初に仕掛けたのは魔理沙だった。懐からミニ八卦炉を取り出すと正邪に向けて細いビームを放った。
「うわ!?」
正邪はそれをかわすがバランスを崩し、包みを落としかけた。
「おっと危ないぜ。荷物は大事に運べよ。」
後ろから追いついた魔理沙が強引に包みを奪うと箒なしで宙に浮き飛び去ってしまった。
「…ふぅ、ここまで来れば安全か。しかし今日は厄日だぜ。面倒なのに絡まれちまった…」
しばらく飛んだ後魔理沙は少し開けた場所に着陸し、小さな切り株に腰かけた。
「…ん?」
魔理沙の目にふと見たことのないきのこが映りこんだ。
「なんだこれ!?始めてみるきのこだ!研究用に持ち帰ろう!!」
そう言って手を延ばすと突然きのこが胞子を大量に撒き散らした。
「うっ!?な、なんだぜこの胞子!?…へ、へっくしょい!へーっくしょい!くしゃみが止まらないぜ!へっくしょい!!」
「残念だったわね魔理沙。貴女はここでリタイアよ。それは新種の毒きのこ。胞子を吸い込むとくしゃみが3日は止まらなくなるわ!」
物陰から穣子が姿を現し、くしゃみが止まらなくなっている魔理沙を他所に余裕の笑みを浮かべ包みを持ち去った。
「ふふん、さて、このきのこどうしようかしら。人里に行って食べられるきのこは配り歩いて、食べられないのは…うーん…」
ぼんやりとそんなことを考えながら歩いていると、突然穣子の足元に穴が開き、彼女は本日2回目の落下を経験した。
「うっ…痛たた…」
「あ、あの…大丈夫ですか?」
落とし穴の上から声がした。
「うっ…?その声は竹林の兎さんかしら?」
「ええそうです!すいません、てゐが最近こちらにもイタズラを仕掛けているみたいで…」
「え、ええ大丈夫よ。とりあえずこの包みを受け取ってくれるかしら?そのあとはい出るから。」
はいと返事が聞こえたので穣子は包みを穴の外へ投げた。すると代わりに穴の中には正邪の満面の笑みが覗いた。
「確かに受け取りました!どうです?なかなか声真似上手いでしょう?」
外にいたのは鈴仙ではなく彼女の声真似をした正邪だった。
「あぁ!!くそ、返しなさい!」
「やだねー!それじゃバイバイ!」
正邪は包みを揺らしながら歩きだした。すると…
ポトリ。
「ん?」
包みから一つのきのこが落ちた。
「なんだこのきのこ?」
「あ!それは!へくちっ!!」
「あ?」
「爆発するきのこだへーーっくしょい!!」
次の瞬間凄まじい爆発が起きた。魔理沙の包みには毒きのこが多く詰まっていたのだ。このきのこもその一つ。魔法の森が生んだ魔法のきのこである。この一件から魔理沙と穣子はきのこの収穫について二人でよく話し合い、正邪もしばらく大人しくしていた。因みにその包みがどうなったかは誰も知らない。しかし、この件と関係があるのかはわからないがこの日以来しばらく霊夢の腹痛が止まらなかったそうだ。
こんにちは。ラケットコワスターです。今回もSS走り書き企画の物です。ギャグ調に挑戦してみましたが難しい…ギャグもしっかりと書けるようになりたいですね。今回は何か色々少ないですがお許しください。ではまた次回に!