真・恋姫無双~袁紹再臨(仮)   作:凡将モブA

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大変遅くなり申した。凡将モブAです。

今回は私が書いた文章の中でも最多文字数の1万越えを果たしました。

遅くなった理由はこれもありますが、フリーゲーム漁りやPS3ゲームをやっていたりとしていた為でございます。

申し訳ありませぬ。どうか命だけはお助けくだされ!(干禁的謝罪法)




濮陽攻防戦

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は濮陽の城の前。

 

そこには濮陽を守ろうとする正規の守兵1000人。

 

そして、濮陽の民からの義勇兵約1000人がいた。

 

予想を大きく上回る数の義勇兵と守兵達は今や今やと決戦の命令を待っていた。

 

 

「「「………」」」

 

 

決して誰も喋ろうとはしない。皆、その全員が覚悟を揺るがせたくは無かったからだ。

 

だから無言のまま、命令が下るまで、ただただその場で立ちつくしていた。

 

 

「………」

 

 

濮陽城の城壁に立つのは側近に支えられて立つ太守、橋瑁。そして…。

 

 

「…諸君。戦場に向かう覚悟は出来ている事だろう」

 

 

袁本初。濮陽県令にして、軍権の全てを託され、濮陽軍の命を預かったこの度の戦いの総大将。

 

煌びやかな鎧で身を纏い、左腰には猛成剣。

 

傍には兵を率いる将である文醜、顔良。最後に―――

 

 

「………」

 

 

無言無表情のまま、袁紹のすぐ後ろに立つ軍師、田豊の姿があった。

 

その目には袁紹の鎧のように煌めくような光がある。自信と責務を背負う、袁本初の軍師として、そこにあった。

 

前に立つ袁紹が兵達への鼓舞の為の演説を始める。田豊は主の後ろ姿を見守る。

 

 

「諸君。私達は死地へと向かう」

 

「諸君。私達はそれでも引けぬ理由がある」

 

「諸君。私の後ろには何がある」

 

 

兵達は無言で、しかし訴えかけるような表情と目線で袁紹を見つめる。

 

袁紹は受け取ったように頷き、その先の回答をする。

 

 

「そうだ、我々が愛すこの濮陽の地。そこにある命。そこにある家族。そこにある大切な物」

 

「理由は様々であれど、我々が守りたい物はこの濮陽の地にある!」

 

「そうであろう!でなければ今、ここには居ない!違うか!?違わないだろう!」

 

「ならばどうする!みすみす賊を見逃し、奪われていく様を見ているのか!?」

 

「否!!」

 

 

 

「「「否!否!否!」」」

 

 

 

袁紹の言葉を復唱するように、ここで初めて兵士達が一斉に声を荒げる。

 

その数約2000人。余りの声の強さに地が揺れる音が微かに聞こえる。

 

真正面からそれを受けた顔良は少しびくっと驚愕するが、当の袁紹はそれを物ともせず、一旦一呼吸置いて演説を続ける。

 

 

「そうだ、我々が成すべき事は只一つ」

 

「何もかも奪い去らんとする賊から我々自身が命を引き換えにしてでもこの地を守る事が、我々が自身に課した使命なのだ!!」

 

「死ぬかもしれない。二度と立ち上がれないような体になるかもしれん。それでも!」

 

「この地を愛す者として、逃げるわけにはいかない!」

 

「さあ、諸君!共に立ち向かおうではないか。我らの地を荒さん無礼者に、正義の鉄槌を!!」

 

 

 

「「「おおおおおおおっ!!!」」」

 

 

 

袁紹の言葉が終わると兵士達は意気揚々に吼えた。

 

その士気はもはや天すら貫かんばかり。これ以上ない程の活気が、城の前を包んだ。

 

城壁の上で表面上では冷静を被る上級士官達もこの光景を見ては内心、闘争心による興奮をせざるおえなかった。

 

 

(この空気…懐かしいものよ。募兵で指揮するのも久しぶりな気がする)

 

 

袁紹は嬉しそうに頷き、暫らく眺めた後に最後の演説をする為に手を挙げて喝采を止める。

 

 

「諸君。最後に私から感謝の言葉を述べさせていただきたい」

 

「死の恐怖を承知で戦に参加してくれた義勇兵達」

 

「不利な状況の中、こうして付き合ってくれた正規兵達」

 

「………ありがとう」

 

 

そう静かに言って袁紹は2000人の目の前で恭しく礼をした。

 

その姿は英才教育を受けた袁紹らしく気取ったようで、それでいてまるで本当に神に感謝するが如く、美しい礼だった。

 

礼をした袁紹に兵士達は少しの間目を奪われたが、その内再び拍手喝采が起こった。

 

 

 

 

その背中を、田豊は全く身動ぎすらせずにただただ見ていた。

 

袁紹の背中は年を重ねた老将が如く何処か頼もしくて………何処か遠い気がした。

 

あの試練を受けた後でも、近づいた気がしなかった。

 

 

(…情けない…)

 

 

自分は今軍師になれたというのに、未だその主が遠い。

 

いつもそうだった。自分は袁紹よりも賢いという自信はある。でなければ軍師なんてやっていない。

 

だが、袁紹との軍略談義などで時折、自分という人間が見透かされたような感覚を覚える時があるのだ。

 

自分の考えていた事が予測されたり、癖を見抜かれて動きを止められたり。

 

才能を見る事に長けているのかと思ったが、それでそこまで出来るものなのだろうか?

 

素早く自分に対して学習、理解しているという線は無い。この違和感は最初の、会った時からあったのだから。

 

………考えてみれば、自分が説得された時くらいしか、袁紹とは腹を割って話した事が無かった気がする。

 

 

(………まあ、これから知っていけばいいだけの話ですね)

 

 

田豊はそこで考えるのを一旦止めて、姿勢を戻した袁紹を呼ぶ。

 

 

「戻羽様。そろそろ…」

 

「うむ。兵を所定の位置に就かせてくれ。…お前の策、成功すると信じている」

 

「はい。御期待に添えて見せます」

 

「へへっ。んじゃ行ってくるぜ!」

 

「ああ。…斗詩、猪々子をよろしく頼む」

 

「は、はい!任せてください!」

 

「信頼無いのかよあたい…」

 

 

そうして4人はそれぞれ分かれていく。

 

文醜と顔良。

 

田豊と袁紹。

 

4人はそれぞれ自分が率いる軍に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は決戦10分前程に進む。

 

濮陽城の前を流れる川の"背″に陣取る濮陽軍。そして、

 

 

 

「へぇ、あんだけの兵で野戦を挑もうとは随分愚かな連中だな。しかもよりによって川の背後に陣取るとは、案外楽な戦になりそうだぜ」

 

 

 

…黄巾賊。その数、約5000人。

 

そしてその大将、黄龍は椅子に座って頭の黄色頭巾をくいくいっと親指で調節しつつ、舌舐めさんずりをしながら不敵に笑う。

 

腰には剣の鞘を差して、敵から奪った剣を手で遊ばせている。

 

黄龍がこうして黄巾賊を率いていられるのも、武将としての錬鍛を積んでいたからだった。

 

 

 

 

 

 

話は何年前にも遡る。

 

黄龍は元は貧しい家庭で生まれた、何処にでもいる一般農民だった。

 

その脆弱な境遇を、黄龍は憎んだ。故に将となって世の底辺から抜け出そうという野望を持っていた。

 

…しかし、所詮はたかが農民。才能もまったく無かった黄龍は仕官し、努力しようが成りあがりする事すら出来なかった。

 

また、黄龍にとって最も不幸だったのは上官が賄賂で出世させるような醜い豚のような人物であった事だろう。

 

これもまた、政治の腐敗による弊害であった。

 

黄龍は貧しい生まれ。賄賂を渡す金すら無く、好機すら与えられず、ただ底辺でもがき苦しんだ。

 

その醜い世の中を、黄龍は恨んだ。次第に黄龍の目的は変わり、自分を認めない世を滅ぼし、自分を舐めきっていた者達に復讐する事に成り替わっていった。

 

 

 

 

 

そんな中、黄龍にとって転機が訪れた。

 

 

 

 

 

「あぁ?反乱?」

 

「ああ。なんでも黄巾を巻いた連中が黄巾党と名乗ってこの国の転覆を目指してるらしいぜ」

 

 

黄龍を含めた3人の男が、酒場の片隅でこっそりと、しかしにぎやかに話していた。

 

一人は佐校。一人は劉石。二人とも、黄龍と同じ境遇の仲間であった。

 

3人は最近、猛威を振るう黄巾賊の話をしていた。

 

佐校と劉石は非常に黄巾賊に好意的で、黄龍も内心その存在に喜んではいたものの、それでも二人よりは冷静な黄龍は中々踏ん張りがつかなかった。

 

…その黄巾という存在が、3人の少女の活躍で、この時代におけるアイドル的存在で出来たという事実など3人は知るよしも無い。

 

 

「けっ、悪くはねぇ話だが、そんなうまくいくもんか」

 

「じゃあどうするんだ。これ以上無い好機だぜ?」

 

「俺達にとって最後の機会かもしれないんだ。やってやろうじゃんか!」

 

「………」

 

「…お前さえ良ければ、一緒に来てくれねえか?お前が俺達の纏め役だしな」

 

 

黄龍は悩んだ。失敗すれば確実に死ぬ事は明白だ。

 

かと言ってこのまま燻っていてもつまらない人生を過ごす事は分かり切った事だ。

 

ただ普通に農作業をして貧乏な暮らしをして一生を終えるか、戦に駆り出されてただの一兵卒として死ぬ事だろう。

 

―――そんな人生、黄龍にとっては糞喰らえだった。

 

一か八かか。己の人生を賭けるか、賭けないか。

 

 

「…分かったよ。腹決めるか」

 

「おおっ!」

 

「よっしゃ!そうこなくっちゃな!」

 

 

黄龍はそうして黄巾賊に加わる事を選んだ。

 

…燃え上がる身分不相応な野心を胸に抱いて。

 

 

 

 

 

 

 

そうしてしばらくは黄龍の思い通りに事は進んだ。

 

黄龍は黄巾賊本隊と比べればかなり少ない兵力を持って、盧植の手が回っていない所を強襲し、突破に成功。

 

そのまま単独で突き進み、守りが比較的薄い濮陽方面を荒らしまわる事にしたのだ。

 

…本隊と連絡、連携していたのならば反転して盧植軍を強襲し、展開は大きく変わっていただろう。

 

黄巾賊参加を希望する者達を集めつつ、それ以外の物を滅ぼし快進撃を続けた。

 

その最初の障害となったのが橋瑁が守る領城と2000人の正規兵だ。

 

所詮、黄龍は武将としては凡将である。しかし橋瑁もまた、将としては凡将だった。

 

その上、黄龍率いる黄巾賊の士気は高く、練度が低いにも関わらず橋瑁の籠城は抵抗も空しく突破されていった。

 

結果、城は15日に渡る攻防で陥落した。

 

黄巾賊の被害も少なくなかったが、橋瑁軍の被害はそれ以上をいった。

 

橋瑁軍約1000人がこの戦いで戦死。残りの1000人は橋瑁とともに逃げるか、黄巾賊に降伏した。

 

橋瑁とともに逃れた兵も、その殆どが無傷ではいられなかった。

 

 

 

 

勝者の黄龍は興奮した。本当に勝つ事が出来た。自分はこれだけの事が出来た。

 

自分は奴らに勝ったのだ!

 

その快感に少しの間、酔いしれずにはいられなかった。戦いの前に持っていた死の恐怖も、今はもう無かった。

 

佐校と劉石もお互いに手を叩いて喜び合った。が、それだけでは満足出来なかった。

 

 

「なあなあ、このまま一気にこの州乗っ取っちまおうぜ!どうせもう戻れないんだしな!」

 

「へっへ!いいな!暴れるだけ暴れちまおうぜ!」

 

「………」

 

 

調子に乗ったらこれだ。そう黄龍は呆れた。

 

確かに俺達は戻れない。だからと言ってこのまま無策で進み続けるのは危険が伴う。

 

黄龍は次に出るべき行動を思案した。

 

 

 

 

軍を維持する為の兵糧を得るにはどこかを攻める必要がある。しかし、ただ適当な場所を攻めていては利益は少ない。

 

出来るだけ豊かな場所を奪う事が必要不可欠だった。

 

それが濮陽だった。中心地であるだけでなく、袁紹の活躍による治安の安定化によって付近では非常に有名な場所となっていた。

 

袁紹の存在もあった。袁紹が名家の生まれだと言う事は、黄龍も二人も知っていた。

 

ともなれば多くの金品や名品を数多く持っているだろうし、人質にでもすれば物資をせびる事も出来るだろうと考えたのだ。

 

無論、個人的な妬みもあった。

 

 

(名家に生まれたからって立派な役職に就けるだと?ふざけやがって…!)

 

 

必死に努力を重ねて、それでも大成する事が出来なかった黄龍は心底怒りで満ちていた。

 

黄龍とて袁紹の活躍を知らない訳ではなかったが、それでもそう思わずには居られなかった。

 

今の役職があるのは袁紹自身の活躍だが、才能があろうが無かろうが家柄の存在が無ければ若輩の身でここまでの飛躍は出来なかった筈だと、黄龍は悔しがっていたのだ。

 

 

「ちっ…まあいいさ。どの道、連中倒さなきゃ進めやしねえ。やってやる、やってやるさ」

 

 

黄龍は一人呟いた。黄龍にとって運命を決める戦いであるとともに、意地の戦いでもあった。

 

それを最後にして座っていた椅子から腰を上げ、椅子を蹴りあげた。

 

この椅子にかつて座っていたのは、自分に闇を見せた上官だった人であった。今は、この世には存在しない。

 

椅子はそのまま横に倒れ、その音に周りの人間が驚く。

 

 

「おめえら!行くぞ!俺達の力って奴を、官軍に見せてやるんだ!」

 

「いよしゃーっ!」

 

「やってやる!やってやるぞ!」

 

「一方的に嬲られる痛さと怖さを、思い知らせてやる!」

 

 

そうして、戦は始まる。

 

それぞれの想いを交えて、ぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして戦場に再び場面は戻る。

 

平原には黄巾賊が川の背に陣取る濮陽軍に迫っていた。

 

対する濮陽軍は防柵を設置し、義勇兵の弩で迎撃し、正規兵で迫る敵を防ぐ作戦を取っていた。

 

しかし、川の背後に陣取る濮陽軍の姿に、黄龍は馬鹿だと思いつつも不安を感じていた。

 

本来、このような戦場であるならば川を背にして陣取るのは愚策である。

 

何せ逃げ場を失う上に、川を前にして陣取る事で敵の攻勢を緩和し、迎撃し放題になるメリットを捨てるも同然だからである。

 

兵法の基本を知る黄龍もそれくらいは理解している。それだけに不気味に思えた。

 

 

(本当にただの馬鹿なのか?いや、噂通りなら立派な奴だと聞いたが…何か策でもあるってのか?)

 

 

袁紹が何を企んでいるのか、それを考える黄龍だがさっぱり思いつかない。

 

兵法の基本を理解はしているが、応用という言葉を知らない黄龍ではその思惑を見破る事は出来なかった。

 

 

(…とりあえず警戒だけしとくか。一応二人に話もしておくか?いや、勢いに乗ってるこいつらが聞くとも思えない…)

 

 

黄巾賊は元は民である。兵法どころか教育なんてさっぱり受けた事も無いような血の気の荒い若者達が大半を占めていた。

 

そんな彼らが他人の忠告に従うかと考えればかなり確立は低い。

 

 

(………まあ、いいか。これだけの兵力がいるんだ。多少の策くらい、数の差で押しつぶせる)

 

 

黄龍はそこで思考を止めて佐校と劉石を呼び出した。

 

 

「佐校、お前は左翼。劉石は右翼の兵を率いて正面から攻めろ!俺は背後から敵の動きを見て逐一指示するから、その指示に従え!」

 

「あいよ。先陣は任せな」

 

「あの防柵を突破するには一気に突入させるのが一番だ。敵に息を吐く暇を与えるなよ」

 

「分かってる。兎に角突っ込んで蹴散らせばいいんだろ?」

 

「まあ間違ってはないがな…それじゃ、行くぞ!」

 

「「おうよ!!」」

 

 

黄巾の群れが濮陽を飲まんとするが如く、進軍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方濮陽軍の兵達は興奮しながら決戦の時を待っていた。

 

戦闘準備と聞いた時には、既にその全員が配置に着いていた。

 

濮陽軍を指揮する袁紹は黄巾賊が大分迫ってきた頃を見計らって号令を出す。

 

 

「よし、義勇兵は射撃用意構え!守兵は命を出すまで動くな!もはや、我々に逃げ場など無いのだ。全ての命令を厳とせよ!」

 

「ギリギリの所で撃ちます!次の射撃の構えも想定してください!」

 

 

弩が防柵の網目から構えられ、義勇兵達はそのまま命を待つ。

 

黄巾賊はこちらに猛進したまま近づいてくるが、兵達は身動だにしない。

 

知らぬまに体からは冷や汗が出、狙いを付ける腕は武者震いで震える。

 

 

 

「戻羽様!!」

 

「まだだ!今ここで撃っても当たらんぞ!」

 

 

 

田豊が焦った声で袁紹に催促する。袁紹はまだだとその機をじっくりと待つ。

 

 

一歩、一歩、一歩。

 

 

一秒、一秒、一秒。

 

 

一里、一里、一里。

 

 

時間が遅くなるような錯覚を覚える。

 

 

まだ、まだ、まだ…

 

 

そして――――――

 

 

 

 

 

ざっ…

 

 

 

 

その位置に足を踏み込んだ瞬間…

 

 

 

 

 

「放てっーーー!!!」

 

 

 

 

 

その言葉とともに放たれた矢が一斉に黄巾賊に向かって降り注ぐ。

 

 

一矢一矢が黄色の巾目掛けて落ちていく。

 

 

「ぐあっっっあぁぁ!!」

 

「ぎゃっ!!」

 

「ひでぶっっ!!」

 

 

その瞬間、その場所から悲鳴が木霊する。

 

目を射られた者、膝に矢を受けた者、脳天を直撃し、絶命した者まで三者三様の悲劇が起こった。

 

幸運にも当たらなかった者達が先ほどまで隣に生きて居た者を見てつい足を止めてしまう。

 

その動揺は先鋒全体に広がる。そこでまごついている間に次の射撃準備が整う。

 

 

 

「どんどん撃てっ!!矢の数など気にするな!放てっ!!」

 

 

 

袁紹の指示で次々と矢を撃ちこむ義勇兵。

 

黄巾賊にとって不運だったのは皆が皆、農耕服などの軽装備であった事だろう。

 

しっかりとした軍隊であるのであれば盾や鎧などを装備するのは普通の事だが、しつこく繰り返すように彼らは元は民。

 

そんな立派な物を持っている筈も無く、あるのは持ち前のボロボロな服。もしくは敵や鍛冶屋などから奪った物しか無かった。

 

故に矢を避ける手段はあっても、防ぐ手段はほぼ無い。

 

矢が降り注ぐ度に次々と失われてゆく命。

 

 

 

 

しかし、その程度で5000人を止める事は出来ない。

 

 

 

 

「何ビビってやがる!攻城戦でこんなのいくらでも体験しただろうが!」

 

「そうだ!敵に近づいちまえばこっちのもんだ!早く行け、死にてえのか!」

 

 

 

劉石と佐校が突撃するように煽る。

 

二人の声で黄巾賊は再び動き出す。軽装備は防ぐ手段が無いが、その分早く動く事が出来るという利点が存在した。

 

これが城に乗り込む攻城戦に役立ったのは、軍隊としては偶然で、黄巾賊では必然であった。

 

 

「…思ったより敵の進行速度が速い。作戦を少し前倒しにする必要があるか…」

 

 

それが今また利と損の形となって、黄巾賊の進行速度が袁紹の予想を僅かに上回った。

 

袁紹は『初期』の黄巾賊とは戦った事が無かったが為に、計算を裏切られる形になってしまったのだ。

 

予想が外れたと見るや急遽正規兵を前線に動かし、弩の射撃を一旦中止して義勇兵を少しずつ後退させる。

 

 

「義勇兵の指揮を思昂、お前に任せる」

 

「はい」

 

「期待している」

 

「ご期待に添えるよう、努力いたします」

 

「良し、行け!」

 

「はっ!」

 

 

田豊に義勇兵の指揮を任せると袁紹は正規兵を前に並べ、槍で敵に相対させる。

 

 

「さあ急いでください!味方が敵と接触する前に配置に着くのです!」

 

 

田豊は義勇兵を後方に後退させ、すぐさま正規兵の支援の為に弩を撃つ者と後詰に出る者を分ける。

 

 

そしてようやく、弩の矢嵐を掻い潜ってきた黄巾賊との距離も、ほんの僅かとなる。

 

 

「さあ、各々武器を構えよ!防柵を越えてきた者から次々討つのだ!」

 

「「「応!!」」」

 

 

袁紹も猛成剣を鞘から引き抜き、兵達の中心で身構え、その時を待つ。

 

そして敵が防柵を避けて、もしくは倒そうとするその瞬間に

 

 

「掛れ!!!」

 

 

袁紹の号令で害敵を討たんと次々に衝突する。

 

 

 

「うおおおお!!!」

 

「死ねやおらぁぁぁ!!」

 

「汚物は消毒だーー!!」

 

「そこまでだぁー!!」

 

「黄巾賊めぇ…!」

 

「やらせてもらう!」

 

 

 

掛け声と共に剣戟が飛び交う。防柵の処理で戸惑った敵を槍が貫いて行く。

 

袁紹は馬に乗って戦場を駆ける。その姿に気づいた敵が群がっていく。

 

 

「大将首だろ!なあ大将首だろ!首置いてけ!!」

 

「舐めるな!」

 

 

襲いかかる敵の斧を受け流して軽くいなし、上下左右から牽制の反撃を加える。

 

 

「そらそらそらっ!!」

 

「う、受け切れ…がっ!」

 

 

素早い剣の突きに防御しきれなかった敵が真正面から胸を突かれ、仰向けになって倒れる。

 

 

「野郎っーぶっ殺してやぁーる!!」

 

「戦場で大振りな攻撃は命取りだ!」

 

「あべし!」

 

 

続いて向かってくる敵に対しても武器を振られる前に顔を一閃し、口を引き裂いて広げてしまった。

 

その要領で自ら敵中で奮戦し、ついに10人程を斬り蹴散らした。

 

このように大将が先頭近くで戦う事も、本来なら愚策の一つである。

 

しかし、兵力の少ない濮陽軍を鼓舞しつづけ、敵の戦意を削ぐにはこれが最適だった。

 

元より袁紹は敵に囲まれた経験があった。彼の不屈の精神は、囲まれた恐怖くらいでは何も感じる事は無い。

 

それに加えてこの世界での強化が加わっている袁紹に、雑兵が普通の手段で敵う筈が無い。

 

 

「あ、あいつ強いぞ!」

 

「くそっ、それだけじゃねえ。奴らどいつもこいつも気魄がちげえ…まるであの時とは違う!」

 

 

士気の上がった濮陽軍は非常に精強であった。

 

病は気から、というように気合いというものは体に活力を与える。

 

士気の高さで戦力が上下するというのは、こういう事なのだ。

 

戦う袁紹を見た兵士はさらに勇気ずけられていた。

 

 

「今は耐えよ!耐えた先にこそ勝利は見える!」

 

 

何と濮陽軍は下がる所か次第に敵を押し返し始めた。

 

さらにさらにと押している内に、遂には防柵の前まで押し返してしまった。

 

前線の指揮をする佐校や劉石は呆気に取られた。

 

まさか先ほど戦った相手より少数だと言うに、ここまで強いとは思わなかったのだ。

 

後方で戦場の様子を見る黄龍も同じ思いではあったが、不甲斐ない二人に激を飛ばす。

 

 

「何やってる!突撃しろとは言ったが馬鹿正直に正面だけに突っ込ませる奴がいるか!」

 

「ああ!?んじゃどうしろってんだよ!」

 

「今なら側面ががら空きだろう!ほら、兵を向こう側に配置される前にとっとと行け!」

 

「ああそうか!わったよ…ほら、行くぞ佐校」

 

 

叱られた二人はすぐに後方の兵を迂回させ、濮陽軍の側面に向かわせる。

 

 

 

もちろん、田豊はそこに来る事は予想している。もっとも、予想していない方がおかしいくらいではあるが。

 

二人の命を受けた黄巾賊が側面に迫るが

 

 

 

「うわっ!なんじゃこりゃ!?」

 

「足が泥に取られて動きづらい!」

 

「知らぬ間に雨が降ったのか!?」

 

「馬鹿言え!ここ最近雨なんて降って無いし、正面の連中は普通に戦ってるぞ!」

 

「うぎゃぁぁぁ!?い、いてててて…お、落とし穴まであるぞ!」

 

 

 

そう、田豊は事前に側面を攻撃するルートに当たる場所に落とし穴を掘ったり、川の水をたっぷり流して泥の道に変えてしまっていたのだ。

 

黄巾賊に偵察などをしっかり行う者がいればこのような混乱は起こらなかっただろう。

 

 

「今です!敵に弩を射かけてください!」

 

 

その混乱に乗じて義勇兵の矢が飛び出す。

 

動きを止められた黄巾賊は格好の的であった。

 

義勇兵は練度こそ低いが、動かない物に当てる位の事はそこそこ程度には出来る。

 

面白いように矢が当たっていく。

 

その難関を突破した者も義勇兵の拙い槍の一撃で沈められる。

 

田豊は義勇兵の練度の低さを、地形改造によって大きく補ったのだ。

 

これなら義勇兵でも十分に敵を討つ事も可能。

 

本来は正面にも地形改造したかったのだが、さすがに警戒される上に、そもそも時間自体が足りなかった。

 

田豊の『策』の邪魔にもなりかねなかった為に、正面だけはしなかった。

 

それでも正面では正規兵がしっかり迎撃。側面においても義勇兵で防衛可能。背後は川で挟撃の心配は無し。

 

 

こうして2時間の間行われた防衛戦は、袁紹と田豊の作戦通りに働いた。

 

防衛線は一向に破れず、兵力差があるにも関わらず互角、いや、この場合濮陽軍が優勢という形だろう。

 

黄龍は中々勝負の付かない戦いに段々と怒りを募らせた。

 

 

「こうなりゃ、あの出しゃばりなお坊っちゃまを殺すのが一番いいか…佐校!」

 

「今度は何だ!俺だっていらついてんだぞ!」

 

「お前が一番3人の中じゃ強い。あの先頭で戦ってる袁紹を討ちとってこい」

 

「…そりゃ、いいねぇ。鬱憤溜まってたんだ!」

 

 

佐校はそれを聞いて張りきって人の囲いの隙間を抜け出し、愛用の槍を持ち、馬に乗って袁紹の元へ走った。

 

佐校は3人の中では一番勇猛で、蛮勇だった。

 

今で言う脳筋という奴で、武勇はそれなりに出来たが頭を使う事がまるで駄目だった。

 

その所為で将に成る事が出来ず、やけ酒に酔って暴れていた事もあった。

 

別に将に成れなかったのが悔しい訳ではない。出世出来なかったのが悔しい訳ではない。

 

将になって戦で自分が暴れられない事が悔しかった。

 

彼は言わば戦闘狂であったのだ。

 

しかし、今自分は念願の戦場に乗り出す事が出来る。

 

その心躍る高鳴りを抑えて、佐校は戦場を駆け抜ける。

 

それは闘う為に。

 

 

 

 

 

佐校が少ししてようやく戦場のど真ん中に辿り着くとその進行を妨害しようとする髭面が特徴的な兵に止められるが

 

 

「っはぁ!てめえじゃ力不足なんだよ!」

 

「ぬわーーー!」

 

 

兵の腹を槍で貫く。そのまま振り回して死体と化した兵から槍を引き抜き、袁紹の姿を探す。

 

そして、

 

 

 

(見つけた!)

 

 

 

猛成剣を振り、瞬く間に敵対する黄巾賊の二人を斬り殺した袁紹の姿を捉えた。

 

 

「見つけたぞぉぉぉ!!袁紹ぉぉぉ!!」

 

「っ!」

 

 

佐校は一気に袁紹に突っ込み、頭目掛けて槍で突こうとする。

 

だが剣で上に弾かれ、佐校は体制を崩すも、直ぐに立て直して相対する。

 

 

「っへ!やるじゃねえか!今のは殺す気でいたんだがなぁ!」

 

 

立て続けに槍で突きまくるが、袁紹は息が切れながらも柄の部分で槍の先を止める。

 

 

「…そういうお前は、中々の、腕前のよう、だな!」

 

「伊達に暴れるのが好きな訳じゃねえから、なっ!」

 

「くぬっ!だが、そう簡単にこの首をやる訳にはいかん!」

 

「それでこそ戦いがいがあるってもんよ!だらぁ!」

 

「させるものか!」

 

 

武器を交わし続ける二人。その腕前はほぼ互角であった。

 

しかし、長い戦いで疲労した袁紹が不利であった。本来なら反撃出来る時も疲れで動きが鈍く、反応しきれない。

 

佐校の一方的な猛攻が袁紹をさらに苦しめた。

 

 

 

そして、一騎討ちが終わりを告げようとしていた、

 

 

「これでぇ!」

 

「ぬっ!?」

 

 

佐校の強烈な一突きが袁紹の体制を崩した。

 

これを見逃す筈も無く、佐校は再び構えて槍で袁紹を貫こうとした。

 

袁紹もまた、攻撃を受けた反動で強引に体制を立て直し、その一撃に剣を伸ばす。

 

 

 

「終わりだぁぁぁ!!」

 

「させるかぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

二つの武器が交わるその瞬間、

 

 

 

 

 

「行けぇぇ!!お前らぁぁ!!」

 

「全軍、一気に突撃してください!!」

 

 

その二つの言葉とともに黄巾賊の側面から一斉に怒号が鳴った。

 

 

「何っ!?」

 

 

佐校がその謎の音に驚く。そして矛先を一瞬止めた隙に袁紹の猛成剣が槍を真っ二つに斬ってしまった。

 

 

「ああっ!?お、俺の槍が!!」

 

「よそ見した方が悪い。で、まだやるか?」

 

「ぎぎぎ…くっそ、覚えとけよ!」

 

 

槍を失った佐校は慌てて槍だった物を捨てて無様に逃走した。

 

 

「やれやれ…さすがにこれ以上動けん…」

 

 

袁紹は追いかける気力すら残されていなかった為に、そのまま馬に乗ったまま動かずに少しの間休む事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、黄龍達の黄巾賊本隊は混乱の最中にあった。

 

黄巾賊本隊の両翼には濮陽軍が既に接敵しており、黄巾賊を襲っている。

 

 

「くっそ!連中め、いつの間に山に兵を伏せてやがった!」

 

「しかもあの旗の数を見ろ!結構な数だぜありゃ!」

 

 

何が起こったのかと言うと、何と戦場の両脇にある小山から濮陽軍が突如出現し、黄巾賊の側面を強襲したのである。

 

いきなり敵が思いもよらぬ所から現れた事で黄巾賊は驚き、状況判断が出来ない状態になっていた。

 

さらに小山にはいつの間にか山を埋め尽くさんが如く、多くの旗が翻っている。相当な数の兵が迫っていると大将の二人は判断した。

 

 

「しかし、あれだけの兵力がいるなんて聞いて無いぞ!どういうこった!」

 

「…他の所からの援軍か?いや、しかし早すぎる気もするが…」

 

「なんだっていい!兎に角これはやばい!兵も慌てて戦にならねえ。急いで退こう!」

 

「くっ…」

 

 

劉石が状況に悲鳴をあげる中、黄龍は冷静に考えた。

 

 

まず自軍を襲った軍は濮陽の兵などでは無い筈だ。

 

濮陽の兵力は前の戦で降伏した兵から聞けば僅か1000人足らず。

 

正面にいる濮陽軍の数も見たとおり同数程で、兵力を裂く事など出来ない筈だし、裂いた形跡も無い。

 

そもそも襲撃してきた敵の兵力はあくまで予想だが最低3000人程は居そうだ。

 

となればやはり援軍か?しかし、そうなれば援軍を送った所の兵力が空になってしまう。

 

各地を襲おうとする黄巾賊は自分達だけではないというのに、そんな余裕は無い筈。

 

ともなれば一体どこからこんな兵力を持ってきたんだ?

 

 

(くっそ、どういう事だってんだよ…まるで訳が分からんぞ)

 

 

そう考えている内に正面の濮陽軍もさらに盛り返し、総攻撃の準備をしていた。

 

 

「…仕方ない。分かった、退くぞ。」

 

「お前ら!逃げるぞ!死にたくなきゃ俺達の後から続いて逃げろ!!」

 

 

 

 

圧倒的優勢な筈の自分達が敗北。黄龍は再び、屈辱を味わった。

 

 

 

 

「許さねえ…今度会った時が、てめえの最後だぁ!袁紹ぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

黄色の狼は吠える。胸に秘める恨みと怒りを持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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