今回はその名の通り、この戦での反省会みたいな展開となります。
シリアスな部分に限ってネタ入れてますが気づく事が出来るでしょうか?
まあまず一周は普通に見た方がお勧めです。
仄かに漂う鉄と血の匂い。
その匂いで、袁紹は目が覚めた。
「う、ううむ…」
意識が混濁とする中、理由も無くただ必死にその目を開けて周りを見ようとする。
近くには矢と剣と斧と、武器がそこら中に落ちていた。中には鍬すらある。
その他には体に綺麗な穴のある死体や、槍が突き刺さったまま仰向けになった者もいる。
血は地上を赤く染め、水たまりのように溜まっていた。
それを見た袁紹は、はっとしたように突如に意識が明確になる。
その場で眠っていたらしい馬上から跳び起きる。
そうだ、戦は?戦はどうなった?汗と返り血でびっしょりになった体を気にする事もなく焦る。
慌ててさらに遠い周辺を見回す。すると遠くに数人程、人が見えた。
「うん…?誰かがこちらに来るな」
目を凝らしてみると女と男の兵士が混合した一隊のようである。
この世界では将だけでなく、女の兵士も割と珍しく無いらしく、このような光景は日常茶飯事とも言うべきだった。
袁紹は兵士達が近づくと驚くべき速さですぐに体制を整え、馬上から降りる。
ここら辺はまさに袁家の教育の賜物であろう。
「袁紹様!御無事でございましたか!何処にも居られないので心配しておりました」
袁紹の元に辿り着いた兵士達が跪いてそう答える。皆々、袁紹同様返り血が付いたり、掠り傷だらけの状態であった。
だが袁紹の正面に居る女兵士はもっと酷い在り様だった。
鎧どころか顔に、手に、足に、背後に。
血の付かなかった場所は何処にも無い程。
しかし肝心の傷跡は血で見にくいが、何処にも無いようで他の兵士のように足が震えていたりはせず、ぴんぴんとしている。
この兵士に袁紹は見覚えがあった。
(確か伯長(※100人の兵の指揮官)であったな。激戦であったというのに、よくここまで堂々と出来るものだ)
袁紹は非常に感心した。この様子からさぞや激戦区に乗り込んで活躍し、なお無事だったのだろう。
持っている剣も既に先がぼろぼろで、鈍ら同然の状態である。それでも無理やり叩き斬ったのか、所々ひびすら入っている。
兵に常備させていた槍も持っていない。恐らく、激戦の最中折れてしまったか、接近戦で使えないから捨てたのであろう。
実際どちらの方が正しかったのかと言えば、前者だった。
袁紹は逸る気持ちを抑えてその兵に問う。
「戦は?」
「ご安心を。我が軍の勝利に御座います。策は成功し、敵は崩れ、田豊様が退却する敵軍の追撃を指示し、敵を完膚なきまでに叩きのめしました」
「そうか、田豊がやってくれたか…状況は?」
「文醜、顔良様が袁紹様の捜索に当たっております。田豊様は結果処理に追われているとの事です」
それを聞いた時、袁紹は3人に申し訳ない気分になった。
態々先頭に立ちたいと言ったのは自分自身だった。少しでも可能性を、戦を有利にさせたいとさせようとした。
その結果が、まさにこの様である。
袁紹は別に特に善人という訳ではない。しかし、悪人でも無い。感じ入る所が無いなどという事は無い。
暴れるだけ暴れて迷惑をかけてしまった。特に田豊には。
「二人には迷惑をかけてしまった。いや、田豊にもかけているだろうな…皆済まなかった」
「そんな、恐れ多い事を。これからどういたしますか?」
「無論、三人に礼を言いに行く。まずは文醜と顔良の元へ案内してくれ」
「はっ。それではご案内いたします」
その時、ふと袁紹は自分を感心させたこの兵士の名を聞きたくなった。
それは運命だったのか、それとも偶然だったのか。
「ああ、待て。お前の名はなんと言う?」
「…朱霊、朱霊文博と申します」
この引き合わせを、袁紹は内心勘くぐらずにはいられなかった。
兵士、いや朱霊は静かに、機械的にそう答えた。
「戻羽様が見つかったって本当ですか!?」
その頃、文醜と顔良は朱霊が先に送っていた伝令の報告を受けていた。
顔良は嬉しそうに声を弾ませる。
「はい。朱霊隊長が発見し、こちらへ案内するとの事です」
「そうですか…!良かった………猪々子ちゃん!戻羽様が見つかったって!!」
「お、そうか!いやぁ、焦った!あんな事しちまってつい忘れてたから、不味いんじゃないかと思っちまったぜ」
「あ、ははは…確かにね」
文醜の発言と微妙な笑顔に苦笑する顔良。
周りにいる兵士達はその雰囲気に騙されて安心しきっているが、二人の心境はそんな安らかなものではない。
文醜を幼い頃から良く知る顔良には、この笑顔が本当のものではないと分かっていた。
文醜もまた、自分自身のやせ我慢を気づかれているだろうと分かっていた。
しかし今は勝利した直後なのだ。周囲にいる兵士達を不安がらせてはならないと、二人はせめてものと笑っていた。
そこへ袁紹が朱霊の肩を借りて二人の元に近づく。
しかし心なしか、その表情は何処となく曇り、足取りは疲労からかずっしりとした重い踏み方をしていた。
「あ、戻羽様!御無事で何よりです」
「うむ。…文醜」
「う、な、何だぜ?」
袁紹の威圧をまともに受けて怯む文醜に、袁紹は続けて言う。
「…恨むな、とは言わん」
「へ?」
「ただ、私のように感情に左右され過ぎて、墓穴を掘る事には、なるな」
「………」
「お前はもう武将だ。兵の命を預かる立場にある。…今度のように怒りに呑まれるな」
「戻羽様…」
実際、文醜の暴走は追撃戦に移っていた文醜が指揮するはずの兵士達を混乱させていた。
顔良が代わりに別働隊の指揮を全て受け継いでいたが、当然それだけの負担がかかっていた。
指揮の混乱による敵の反撃被害も少なくは無い。
「…私も済まなかった、心配をかけた。それだけだ。朱霊」
「はっ」
そう言ったっきり、袁紹は田豊の元へ行ってしまった。その場に居た堪れないように、その姿を消した。
…心なしか、袁紹は後悔するような眼で文醜を見ていた事に、二人は気づいた。
その後悔は自分達に向けられたものでもないと、それすら気づいてしまった。
それは、二人を別働隊に向かわせた事でも無く、戦に参加させてしまった事でも無く、自分が迷惑をかけた事でも無かった。
「…感情に左右されるな、怒りに呑まれるな、か」
「戻羽様…」
その後悔は袁紹自身の、何処か深い部分に向いていた事に。
その頃、田豊側…
「そこ!生存確認するまで動かないでください!」
「す、済みません!」
「そっちは私の話を聞いてますか!?聞いてないと厳罰に処しますよ!」
「「も、申し訳ありません!」」
「義勇兵の方々で、武器を保管庫に返さない者は死罪です!手元に武器が残っていないか確認してください!」
「げっ、あぶねえ…俺まだ短剣持ってた。急いで返さなくっちゃ」
こちらは田豊が兵達の対応に追われていた。
せっせと働く田豊は表側ではいつもの姿を見せているが、内心は違った。
(やはりあの時許可すべきでは無かった…!戻羽様…どうかご無事で…!)
田豊は戦場で行方不明になっていた袁紹を案じていた。
袁紹の捜索自体は文醜顔良に任せてはいたが、それでも気が急かずにはいられなかった。
田豊にとって袁紹という存在は人生に関わる程に重要である。
袁紹の勧誘が無ければ、当分の間はただの知識人として、他人の仕官話を断って世に出る事は無かったであろう。
袁紹がいなければ、もはや仕官すらするのかも分からない。もしかすれば、袁紹よりももっと有能な君主に仕えていたかもしれない。
だが、それでも袁紹以上に田豊は忠誠を誓う事は無かっただろう。
田豊に足りなかったのは、強い熱さと、教育者のような厳しくも心を包むような優しさだった。
それを一度に与えたのは袁紹只一人。義心溢れるような人物でも、覇道を往く堂々とした人物でも、苛烈に燃える熱い人物でも、与えられないだろうもの。
あの時…そう、田豊が策を述べた時の事。袁紹が言った言葉を、田豊は一句一句違えずに記憶している。
『川を背にし、正面の前線を防柵と正規兵で応戦、両側面の地形を泥沼化させ、義勇兵で守らせる…か』
この時、袁紹と田豊は個室でたった二人で密談していた。
この場所にて、袁紹に全ての作戦内容を伝え、この後袁紹の口から全軍に全てを告げてもらう予定であった。
『はい。そしてその防戦に敵が手こずっている間に別働隊が敵側面を突きます。この部分まで成功すれば、勝利は目前と言えるでしょう』
当の袁紹と田豊の表情は非常に硬い。何せ、この戦いは作戦からも、御互いの陣容からも分かる通り、楽な戦いでは無い。
一歩間違えれば敗北確定。かなり不利な戦いであるのは一目瞭然だった。
『その策の成功の為には前線を維持する必要がある。それも、たった半数で守り抜かねばならない』
『無理を申しているのは分かっています。しかし、ただ全軍でぶつかっても同じ事です。それに、この戦いの勝利条件を全て満たすのは私が思いつく限り、この方法しかありません』
『私の指揮を信頼しての事か?私とて初陣だ。武勇に優れる文醜と顔良もいないのだぞ?』
『この田豊が知る戻羽様ならば、問題ありません』
『根拠は?』
『女の勘、と申しましょう』
真顔で田豊は、冗談のような言葉を口にした。
『女の勘、か。お前がそういう事を言うのは正直、意外だったな』
袁紹の田豊の印象は、生真面目で、いつ何時も冗談が通じないような人物像であった。
しかしよくよく考えてみれば前世の田豊もこういう危険な戦いには冗談や皮肉の一つや二つくらいは述べていたなと思いだしていた。
『今後、確固たる勢力を築くのです。そう申す事もないでしょう。最初で最後の勘頼りです』
『そうか。ならばその勘を一応信じる事にするが、もう少し勘を確かにする方法があるぞ』
袁紹の言葉に田豊はきょとんとした顔で袁紹を見る。
『それは一体?』
『私自らが前線に出て、指揮をする事だ』
『危険です』
田豊は反射的にそう注意した。総大将は本来後ろで構えて指揮を取るのが当たり前で、前線に出てくるのは以ての外である。
確かに指揮する者が前線で兵士達と共に戦うというのは、兵士達の士気向上及び、前線の
総大将が討たれればせっかく高まっている士気が大きく落ち、指揮する者もいなくなるのは当然の事である。
確かにそういう例が武将としてなら多く存在するが、総大将が自ら戦うなんて例はまったくない。
『分かっている。しかし私は今、何の恐れも感じてはいない。それに私とて、剣の腕には覚えがある』
『戻羽様が討たれれば何もかもが終わるのですよ!?』
『知っている。だが前線が維持できなければ同じ事よ。だからこそ―――足掻くのだ』
袁紹はそう言うと気付いたようにいきなり意地悪な笑顔を浮かべた。
それを見た田豊は一気に冷静になり、呆れたような顔で袁紹を睨んだ。
『………意趣返し、という事ですか』
『そんなつもりではなかったのだがな。つい、そうなってしまった』
『『………』』
『ふふふ………』
『くくく………』
『『ははははは!』』
『………分かりました。戻羽様のその御言葉、信頼すると致しましょう』
『うむ。生きて帰ってくるさ。出来ればな』
『お戯れを。必ず、でしょう』
『そうだな』
そう聞いてあの時の田豊は心の底まで安心しきってしまっていた。
足掻く?生きて帰ってくる?
冗談じゃない。
あの主がまるで死に急いでいる事など分かり切った事ではないか。
自分は信頼という言葉に甘えて忠誠を誓った主に任せっきりにしていたのだ。
責任を、丸投げにしていたのだ。
(甘いのです…私は!)
田豊は自分の甘さを恨んだ。
せめて袁紹に密かに護衛の兵を付けていれば、このような事にはならなかっただろう。
万が一の保険すら付けていないとは、軍師失格だ。
策だけ立てて、軍を率いる事も普通の将並みに出来た程度で、まるで一人前の軍師になれたように錯覚して。
…まるで馬鹿丸出しだ。
(…これ以上、醜態はさらせない…戻羽様に、危険を与えさせるものか)
完璧な策、完璧な用兵。成せなくとも、せめてそれに近い戦いを、田豊は目指すと心に誓った。
「思昂」
「!」
背後に聞きなれた声が聞こえた。主の声だ。
田豊は振り向く。
「………心配をかけた。あのような無理を言って、このような無様で、済まなかった」
その謝る姿にも偉大なものを感じ―――
「………私こそ、申し訳ありませんでした」
それだけに従ってしまう自分が情けなかった。
田豊はもう一つ誓う事が増えたと思いなおした。
―――この御方と同等に話すに値する人になる、と
次回は二つ、ルートを考えてます。
黄巾討伐軍参加√と、ほぼ史実√(別名、反董卓連合直行√)
ぶっちゃけ黄巾賊√は長くなりそうなので、反董卓連合√に進んでしまった方が話が進みそうなので悩み中。ぐだぐだ考えてると面倒に高じてしまうので1、2日でぱっぱと決める予定です。
次回投稿予定は未定ですが、お楽しみに。