しかし切る所が無かった。
疲れたので次の更新予定10月以降です。
次の投稿までは適当に活動報告でもしてます。
気が向いたら番外編も書く予定。
天才、田豊は孤独だった。
猛将、文醜と顔良は孤児であった。
英雄、袁紹は転生者であり、夢を失っていた。
袁家は、いつの間にかそうしたかつて不幸だった人間が集まっていた。
それは、快晴の空の日。それは温かな光が全てを照らした地表の上でも一層際立って暗く黒く見えた。
「…何故皆は私から離れていくのでしょうか…」
「両親だけしか私の本質を見てはくれなかった…」
「何故………私という人間を認めてくれる人はいないのでしょうか…」
天才、田豊は疎まれていた。
幼少期から親に与えられた本を全て読みつくし、尚且つ年不相応な難しい本を読み漁るまさしく天才であった。
親は自分の子供の優秀さを喜び、与えられる知識は全て与えようと本を探してはどんなものも読ませた。
田豊の家はそこそこ裕福な家で、本を買うにもそれほど不自由せず、袁紹同様一般的に見れば幸せな家庭だった。
田豊は本を読むごとにその知識を深め、徐々にその才覚を見出されるようになっていった。
それと同時に人も集まったが、それにも関らず田豊は最初から孤独の人生を歩んでいた。
田豊の両親は厳格な性格で、田豊の説教好きも遺伝によるものであった。
まだ幼稚園生の年頃から間違っている事に対し敏感で、度々幼児特有の喧嘩の際も非常に頭の良い田豊が理論的に正していた。
幼い頃はまだそうされても感情が未発達な幼児であったから、まだ触れ合いも少ないながら存在していた。
「んでさー…げっ!田豊が来たぞ!」
「あいつに関わったらまた小言聞かされる羽目になる…ずらかるぞ!」
「………」
しかし成長するにつれて感情が発達していくと、自分を否定されるのが怖いと感じるようになった子供達は田豊から避けるように遠ざかるようになっていった。
今の世で例えると学校の風紀委員が嫌われるのと同じ理由である。言わば立派な人間であるのに違法な行為を好む生徒からは嫌われる損な役割。
生真面目な人程付き合いにくい人間はいない。付き合いやすい人間とは清濁併せ呑む人間なのだ。
正しい事と間違った事を両方認め、それでありながら社交性がある。それこそが人気の秘訣であり、
田豊にはそれが無かった。間違った事は許せないし、人と自分から仲良くしようと思った事もなかった。
それが為に田豊は自分が孤立していく事に気づかなかった。気づくのも、遅かった。
その頃は天才と呼ばれた田豊も感情が変な所でまだ未発達であったのだろう。気づいたのは自分が初めて寂しいと思い始めた頃だった。
「…でさー………だから………」
「…えー、本当?じゃあ………」
「………」
周りを見れば楽しそうに円になって会話する同い年の子供達。同じ性別の女の子にすら目を背けられていた。
人間的な感情を滅多に見せなかったが為に、同い年の子から異常と見なされたのだ。
自分の周りには、誰もいなかった。
その時、田豊は初めて気づいた。ああ、そういえばあんな風に同い年の子と話した事なんてなかったな―――と。
実際、この時の田豊が真名を呼ぶ事を許していたのは親や親戚くらいなものだった。
大人の人は経験もあり、苦い思い出も今となっては懐かしいと思えるからこそ、子供に説教されても「まいったな」程度で笑ってすませられるが、自分と同じ子供は違った。
子供達はいちいち煩く説教してくる田豊を「嫌な奴」と思って近寄ろうとはしなかった。
さらに言えば田豊は良くも悪くも突然な出来事が起ころうとも大抵の事は終始一貫して冷静であった。普通なら頼もしい限りだが、田豊を表面で知る周りから見れば人間というより機械的にも思えただろう。
田豊の付き合いが非常に少ない事に気づいた両親は何とか友達を作って欲しいとコミニュケーションの場に幾度も田豊を誘った。
宴会や塾などに行かせて交流を深めさせようとしたのだ。
だが会話を始めても田豊は堅苦しい会話しか積極的にしようとせず、ある時には論破すらしてしまった。
当然、論破された方は良い気分な筈がない。周りもその光景を見て恐れをなしてしまった。
大人達は褒め称え、名声を得たがそれによりまともな交流は取れず、それどころかさらに周りの溝は深まった。両親にとって完全に誤算だった。
結果、集まった人間は自分より年上の大人達ばかり。それも田豊の優秀さばかりを見て本質を見ようとしない人間ばかりであった。
「…という訳でして是非とも優秀な田豊殿に私の元で仕えてもらえないかと…」
「申し訳ありませんが御断りさせていただきます。私のような者でなくてもよろしいでしょう」
彼らは口ぐちに褒め言葉を出して自分の家に仕えさせようとしたが、上辺の事ばかり。田豊は失望して全て断ってしまった。
田豊にとっては自分の才能を褒められるよりも、自分という人間を見て、そして全て認めてくれる人間が何よりも欲しかったのだ。
それでいて自分の冷めた心を熱く震わせてくれる、そんな主を―――
―――そしてある日、とある人物に出会う事になる。
いつも通り訪ねてくる人間をいつも通りに言葉巧みにやり過ごしていた田豊であったが、彼を見た途端、表情を強張らせた。
そう、我らが主人公、袁紹である。袁紹もまた、田豊の評判を聞きつけ、叔母に無理を言って田豊の元へ訪れたのだ。
さすがに田豊。直感的に、また想像的にただの子供ではないと感じ取った。雰囲気が明らかに他の人とは違う上、『子供』が自分を訪ねたのだ。
自分と同じ子供がそこまで遠くは無いとはいえ、わざわざ自分を訪ねてきたのだ。
普通の子供ならそんな事をせずに遊ぶのが多人数であるし、人格的に良い噂の無い自分などに見向きもしないだろうと、田豊は思っていた。
しかしこの子供からはそれどころか下手な大人よりも威厳を感じる。逆にこちらが気押されるような感覚に、田豊は非常に緊張した。
(待って、慌てるような事ではありません。このような経験が無いとはいえ、相手は大人ではありません、子供です)
(そうです、いつも通り落ち着くのです思昂。多少何かが違う子供相手だとは言え、寧ろ大人よりも楽に…)
「田豊殿、いかがなされた?御気分の悪いようであるなら出直すが…」
「あっいえ、大丈夫です。まさかこのように幼い方だとは思いもいたしませんでしたので…」
「ふむ…そうでありましたか。確かにここに訪れていた皆様方は、少々年を召した方々ばかりのようでしたからな」
非常に落ち着いた態度で話す袁招。その様子に興味を抱いた田豊は早々に帰すのは勿体無いと少しでも話してみようという気になった。
「それでは、御名前を聞かせてもらってもよいでしょうか」
「うむ、私は袁紹。字を本初と申す。袁家の血を引き継ぐ者ではあるが、そう堅くならずとも宜しいです。少なくとも、今この場では貴方の方が立場的には上なのですからな」
「袁本初、ですか?」
さすがにやや引きこもり気味だった田豊でも袁家の話くらいは知っていた。
そして袁本初。嫡女袁術を差し置いて非常にその才能を評価されている袁家の神童と言われた子供である。
それ故に若くして朗の職に就き、その上に礼儀正しく謙虚である為に、周囲の人気を集めている。
田豊は素直に驚き、それと同時に面倒な人間が来たと思った。
(こんな大人物、断ろうにも断りにくいですね…断れば袁招殿にその気は無くとも家が潰される可能性すらある。これでは逆に大人よりも困難な状況)
(何せ、袁家自体政治に大きく携わってきた一族。聞くところによれば庶民にすら慕われてるとか。反感を買う恐れも…)
(これは面倒ですね…袁紹殿の評判が作られた物である事を願いたい所ですが、見るからに堂々としていてそんな感じもまったくしない…)
「?」
首を傾げる袁紹を尻目に、田豊はどうやって断ろうか頭を巡らせた。
もちろん、この人物が自分の心に留まった人物なら仕えても良いのだが、いかせんそう簡単に結論付けるのもいけない。
自分の生涯を捧げるのだ、その判断を誤ってはいけない。
仕えても気に食わなければ鞍替えすれば良い話ではあるのだが、良くも悪くも真っ直ぐで頑固な田豊にその選択肢は無かった。
それ故に己の才知をフルに使う事で袁紹を見極る。ボロが出たらそれまで。そうでなければ心おきなく仕える事が出来る。
そう考えた。ある意味田豊の懇願でもあったかもしれない。さすがの田豊も登用ラッシュには飽き飽きとしていたからだ。
最近暗くなっていた親もちゃんとした主君に仕える事が出来ればその気分も吹っ飛ぶだろうと、柄にもない感情的な事を考えていた程だった。
まずは相手を刺激せず、落ち着いた態度で向こうの意向を引き出してみる事にした。
「噂には聞いております。袁紹殿の優秀さはこの地にもよく響いておりました」
「いや、私などはまだまだです。田豊殿とて、その噂はかねがねと聞き及んでおりました」
「では、やはり袁紹殿も私の御登用の為にいらしたのですか?」
「もちろんです。その様子ではさぞや私のような相手の対応にも御苦労されているようですな」
「いえいえ、私も何時かは世に出なければなりません。どんな人間でもまずは話して聞いてみるのが一番ですし、その中に私が認められる存在がいれば、その人に仕えるでしょう」
嘘だ。いや本当の事ではあるが、会話については嘘だ。人と会話でこれまでいい関係を築いた事が無いし、まともな会話をした事すら親にしかしたことがなかった。
これまで登用を持ちかけてきた人間にも本質を見たらさっさと、また穏やかに、尚且つ事務的に断っていた。
ただ友好を深める為の会話を、田豊は殆どしていない。した事が、無い。
その嘘を吐いた後ろめたさの所為か、田豊の声は無意識にほんの少しだけ最後の声が弱まっていた。
それに気づいたのか袁紹は温和な表情のままその話に乗っかっていく。
「そうですか。私も会話というのは大事だと思っております。言葉次第で人は揺れ動き、人に影響を与えかねないものです」
「影響が強い故に、一度言葉を発すれば取り消す事は出来ない…だから言葉は一つの力だととも考えた事もありました」
「一つの力…」
「そうです。深く読めば逆に相手の心情を察する事も出来るし、相手に対する心情を変える事すら可能…」
「会話とは、自分と相手を結び付ける一つの力であり、使い方を変えるだけで相手を操る事の出来る一種の謀略なのだと、私はそう思っております」
田豊はその事を聞いて相当に感心した。
今まで会話というものをただの伝える事と交友を深める手段だとしか思っていなかった田豊には、その事がとても新鮮で考えた事のなかったものだったのだ。
自分も会話の事を表面でしか理解していなかったという事か。そう考えたら田豊は途端に自分が恥ずかしくなった。
しかし何故袁紹はここまで会話についてここまでの想いを持っているのか?それは袁家の男としてだからだった。
袁紹が下手に失言をすればそれは栄光ある袁家全体の評判に関わるのだ。団体としての性ではあるが、ただそれだけではない。
袁紹もまた、カリスマと善政で軍を支配していたが、そのカリスマには姿かたちだけではなく言葉の重みからくるものも大部分を占めていた。
―――言葉は人に影響を与えかねないもの
―――相手に対する心情を変える事すら可能
―――使い方を変えるだけで相手を操る事の出来る一種の謀略
袁紹はそれを理解し、その力で軍を束ねていたのだ。
謙虚な姿勢と言葉も、相手に感心という感情を抱かせ、親しみを与える為だ。
だからこそ、過去から袁紹は多くの人間に家柄関係無く慕われる事が出来たのだ。
これが評判もますます上がる一因にもなっていた。
無論、これはどの諸侯もやっている事と言えばそうなのだが、袁紹は前世でも子供の時からこれを修得していた。
実際田豊の好感度は鰻昇りに上昇していた。新たな発見だけではなく、優しい言葉遣いに知らない内に少しずつ惹かれていたのだ。
しかしそれだけでは未だ心を掴むには至っていない。袁紹はさらに斬りこむ事にしてみた。
「しかし、田豊殿。貴方の先ほどの言葉は本当の事を言っているようで、少し違うのではないでしょうか?」
「違う、と申されますと?」
「そうですね………少々失礼ですが、貴方はあまりこうやって真正面から会話した事が無かったのではないでしょうか?」
「っ!?…どうして、そう思われたのですか?」
「姿勢が堅い、あまり真っ直ぐ人を見る事が苦手、驚いた時に表情を隠すのが下手。…挙げようと思えばいくらでも挙げられますよ」
「なっ…」
「図星ですね。今ならあなたの考えている事が顔に書かれているが如く分かります」
次々と天才田豊の思考をあぶり出していく袁紹。伊達に大軍を率いていた前世を記憶に持っていない。
前世では参謀達の思考はまったく読めはしなかったが、田豊だけは真っ直ぐで非常に分かりやすかった。
ここでも前世でも真っ直ぐで、嘘を付けない。色々と違う点がある中で本質だけは変わっていなかった事に、袁紹は密かに安堵を覚えた。
一方田豊は袁紹に対して末恐ろしさを感じていた。
まさかここまであっさり自分の殻を破られるとは思っていなかった田豊はますます焦る。
「…あ、貴方にこの私の何が分かるというのですか!ただ私の優秀さだけを聞いてきた人が!!」
「ちゃんと聞くだけ聞いておりますよ。…田豊殿、貴方は他人と非常に交流の少ない人物であると聞き及んでおります」
「…それがどうしたと言うのでしょうか」
「貴方を最初見た時、貴方は驚いた様子でした。しかし、もうひとつ貴方には思う所があったのでは?」
「何の事でしょうか」
「隠す必要は御座いませんでしょう。…あなたは私を見てほんの少し喜んだのです」
「私が…喜んだ?」
「おや、自分で気づいておられなかったのでしょうか?」
田豊は困惑したが、袁紹はその理由がやや明確ではないものの大体分かっていた。
田豊は最初、「では、やはり袁紹殿も私の御登用の為にいらしたのですか?」と聞いてきた。
その時、田豊は袁紹から見てすれば『嫌そうな顔』であった。そして、登用目的の客人が自分の予想以上にかなり多数いる事はその辺りの会話で察していた。
つまり、田豊は登用を目的とした人物を嫌がっていたという事がおおよそ分かる。
それにも関らず最初袁紹を見た瞬間に喜んだ…袁紹の目的もまた登用だという事を知っていながら。
まだ年端も行かない少年が登用を訪ねた事は、恐らく自分以外にはないはずだ。今日他に訪ねた人物を自分は見たからだ。
どの者も30代からの人物が多く、20歳代などという若者は1人しか見なかった。
つまり登用に来た者たちは大半が大人であるのだ。というより本当に子供は私だけだろう。
『登用目的の人物が嫌い』『登用目的の人は自分以外は大人』『自分と田豊はまだ子供』
これから推測するに…
「あなたは自分と同年代の子供が、向こうから歩みもってくれたのが嬉しかったのです」
「…私が…そんな事を…?」
「ええ。聞いた所によれば田豊殿は友がいらっしゃらないとか。…本当は、寂しいのでは?」
「………」
「肯定、という事ですね」
「…そうです。確かに私には友は居りません。ですが作ろうにも、ついつい口走ってしまいます。口走るというのは、そこまで見抜いた袁紹殿なら分かるでしょう」
「…ええ」
口走る、とはどういう事なのだろうか。その答えは袁紹の先ほど言った通り、田豊の評判を詳しく聞いてみた事から分かる。
特に田豊の事をよく知る人は噂以上に興味深い話を袁紹にしてくれた。
『友人と呼べる人間を1人も見た事が無い』『話すとやたら(精神的に)痛いところばかり突かれて会話にならず、いつの間にか説教に』
『かと言ってこちらから話を止めると何故か寂しそうな顔をする』『こんなに俺と田豊で意識の差があるとは思わなかった…!』
とまあこのような話であった。
ここからも推測するに、友を作る為に会話しようにもついつい相手の悪い所を見てしまうが為に厳しくそれを咎めざる負えないという難儀な性格のようだ。
それ故に話がすり替わって会話ではなく説教になってしまうのだろう。これでは交流にならないのも当然と言える。
この説教こそが口走る事という事なのだ。
田豊は悲しげに呟くように話す。
「よく分かりました。貴方は優秀な御方です。ですがそれでも、私が仕えれば災いを生むでしょう」
「私は悪いと思った事に反射的に反論してしまいます。だから人は自然と遠ざかってしまいます」
「人は誰しも悪い部分を持ちます。ですが人は悪い部分を、素直に認め、受けられる事など出来ません」
「自分の尊厳を、破る事になるのですから」
「私は、そんな心情を理解しつつも止められません。悪い事は、悪い事です。間違ってる事は、間違っている事です」
「ですから何としても直してほしい。だからついつい説教をしてしまい、相手は認められずに逃げていく」
「貴方だって、例外ではない。」
「………」
「帰ってください。私の存在は、御家の人間関係にひびを入れる存在に成りかねません。だからこそ、私を噂ではなく本当に知る者は登用には来ません」
「才能だけで、人は生きられないのですから」
田豊はああ、自分は何を言っているのだろうと思った。だが、口は動かしたまま、止める気も無い。
袁紹殿は立派な御方だとは理解した。この御方に仕えてみようと思った。
しかし、駄目なのだ。自分は恐れている。震える程に。
もし仕えて私の存在によって袁家が混乱するような事になったら?
もし、袁紹殿が私を拒絶するような事を自分が仕出かしたら?
(いやです…もう、誰にも拒絶されたくない)
そう思っていてもこの欠点はそうそう直るものではない。
皮肉なものだ。天才田豊が自分の感情問題すら解決できないとは。
ただの凡人ならば、このような事など大して気にもしないというのに。
田豊は密かに自虐した。
一方袁紹は田豊の心情を痛く理解した。
そうだ、『あの時』の田豊も実は認められたい一心の心情であったに違いない。
散々田豊の進言を、私が却下してしまった故に。
前世においても田豊はよくも悪くも真っ直ぐだった。
『袁紹様!今はお止めください!曹操軍は所詮勢力は貧弱であるとはいえ、曹操は底知れぬ男です!どうか出陣を止めて持久戦に!』
『曹操とて人間だ。勢力でも兵力でも兵糧でも兵の練度でも優っているというのに、正攻法で勝てぬ筈がない!』
『焦ってはなりません!焦れば曹操めの策に掛かりますぞ!!』
『ええい!誰か、田豊を投獄しろ!!』
『袁紹様!!どうか、私の話を…!どうか、私の策を…!』
『くどい!!』
あの時の田豊の話を聞いていれば。周りの言葉に惑わされていなければ。私が、曹操に対し変な意地を抱かなければ。
そうだ、私が田豊を否定し、拒絶したのだ。他の誰でもない、私の過ちだ。
ならば今、この小動物のように震える『今の』田豊に対しすべき事は何だ?『あの時』の田豊が最後に言いたかった事とは何だ?
そうだ、すべき事は―――
「田豊殿の説教を認めましょう」
「………?」
「田豊殿は間違いを正してくれるのでしょう?間違いに対し、説教をしてくれるのでしょう?」
「甘んじて受け入れてみせましょう。いいえ、受け入れます」
「受け入れいて、みせましょう。私が間違っていれば、どんどん指摘してください」
「あなたを―――認めてみせましょう。友として、軍師として―――」
―――受け入れ、認める事だ。
「へえ~…戻羽様やるじゃん」
「凄い良い話ですね…それで、続きは?」
「恥ずかしながらその言葉を聞いた瞬間、酷く号泣してしまいまして…」
ここは陽気な日の光が差す家の庭園。そこには休憩中の文醜顔良と田豊がいた。
田豊は袁招との出会いを、思い出しながら二人に語っていた。
二人からここに来るまでの経緯を正式に聞いた田豊であったが、二人もまた田豊の事が気になり訪ねてみたのだ。
正直な所話したくは無かったが二人の事を聞いてしまった以上、自分もしない訳にはいかないと仕方なしに話していた。
その割に若干田豊がノリノリでもあったのは、二人の秘密である。
「それで心を決めた私は袁家に仕える事にしたんです。いつもなら厳格な親もあの時は凄い泣いて喜んでいました」
「まあなー。誰とも関わり持ってなかったんだから、もっと皆と仲良くして欲しいだろうし…」
「親心、という事だね。もっとも、私達にはもういないけど、何だかわかる気がします」
「戻羽様には今も感謝しております。今の私は穴倉を抜け出させたような清々しい気分で毎日を送ってます」
「ふーん…思ったけど、思昂って戻羽様の事好きなのか?」
「ちょっ、猪々子ちゃん!?」
「そうですね、生涯を共にしたいくらい」
「思昂ちゃんも何平然な顔で恥ずかしくなるような事言ってるの!?こっちが恥ずかしくなるよ!」
「お、おう…」
「猪々子ちゃん…怯む気持ちは分かるけど、それだったら最初から聞かない方が良かったよ…」
「ごめん斗詩…つい気になって…」
「そう言う貴方がたはどうなのですか?」
「え!?わ、私は…」
「んー…恩人ってだけじゃなくて、凄い事やってくれそうだし、とっても良い奴だな!」
「私は…済みません、ちょっと言えないです!」
「おうおう?斗詩は脈ありか?ま、戻羽様だからと言って斗詩は簡単に渡せないけどな!」
「そうですか。…そろそろ休憩は終わりです。猪々子さんは西廊下の掃除サボっていたので私の説教後、掃除に急行してください」
「しまった!?こんなオチかよぉぉぉぉ!!」
「はい」グサッ
「あうぅ…斗詩ぃ~…」ズルズル
「猪々子ちゃん…自業自得だよ…」
田豊は麻痺毒を刺されて動けなくなっている文醜を引きづりながら連れていく途中、空を見た。
あの時の空と同じだ。ただ眩しい昼の明かり。しかし、自分はあの時とは大きく違っていた。
あの時のただ穏やかに日に当たって腐っていくばかりの思いが、今は無かった。
そして空を仰いで、ニッコリと笑う。そして今はこう思うのだ。
(私は…今幸せです)
そうして、再び歩んだ。
霧が出てるって?シリアス過ぎるからちょっと緩和したかった察して。
感想よろしくお願いします。