ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind 作:坂道
鼠とギルド
第10層 森林
日が落ちて月明かりが暗い森を照らし出す。
森林地帯では二体のバンブーゴブリンが紅いマントを身につけた少年に棍棒を振り回し威嚇していた。
一体のゴブリンが少年に棍棒を叩きつけようとすると、少年は背中に背負っていた剣を抜き取りゴブリンの棍棒を弾き落とす。棍棒は地面に落ち、耐久値がなくなり消滅する。
少年は剣を持ち、ゴブリンに膝蹴りで敵を浮かせつつ飛び上がって斬り上げ、空中で回し蹴りを放ったのちに同時に斬り降ろしで叩き落すと、ゴブリンは消滅した。着地したあともう一体のゴブリンが少年の背後から不意打ちを仕掛けるが、少年は後ろを見ていないにも拘らず横に振った棍棒を下にしゃがみ避け、下からゴブリンの顎を足首を引いて、膝を伸ばし蹴り上げた。ゴブリンはよろめき首を振ると後方へと下がるが、少年はその隙を逃さない。
ソードスキル【フェル・クレセント】。剣を後ろに構え、物凄いスピードでゴブリンの間合いに入り、後ろに掲げた剣を勢いよくゴブリンに振り下ろし頭から真っ二つに斬り落とした。真っ二つに斬り裂かれたゴブリンは左右に別れ落ち、ポリゴンとなって消滅した。
剣を背中の鞘にしまうと、モンスターを倒すと貰える経験値とコルとアイテムが前に表示された。
すると表示ウィンドウがもう一つ出現された。レベルアップである。少年のレベルはLevel15となっていた。
この世界ではレベルがとても重要視されており、プレイヤーの強さはレベルの高さによって強さが決まるようなもの、普通のプレイヤーならレベルアップを喜ぶところだが、この少年は浮かない顔をしていた。
「コルが・・・・足りない。」
この少年の名前はレト、このデスゲームに参加しているプレイヤー。彼は今一人<ソロ>でこの世界を生き抜いていた。
現在2023年5月6日、ゲームが開始されてから約半年が経っていた。
第10層 トレント村
森を越えた先には村がある。
この村は《トレント村》といい、木材を中心とした素材を多く取り入れている村である。家を持つプレイヤーはここで作られた家具を買うなどして自分の家をレイアウトする。村にいるプレイヤーはここで家を建てたり、商人は家具を売るなどして暮らしている。
村の真ん中には村のシンボルである大きな大木があり、その大木の枝が金色に輝くとき《神木の木材》という素材アイテムが落ちてくるらしい。その素材から作られる防具は耐久値が非常に高く、高い防御力を誇っている。《神木の木材》はSレア素材で希少価値が高く、半年に一回しか手に入らない上に出現するタイミングがランダムでドロップした数秒の間に拾わないと消滅する。
入手困難の《神木の木材》をGETしようとするプレイヤーは居らず、あまりこの村のにはプレイヤーは訪れない。
夜になると大木の周りは外灯に明かりが灯され、大木の立派さがうかがえる。その大きな大木を見ながらベンチに座っている、紅いマントの少年――レトがいた。
「はぁ~」
レトがはじまりの街を離れてから約四ヶ月が経っていた。彼はいま悩んでいた。
はじまりの街では教会でサーシャが孤児院をしており、レトもそれに協力しいるのだが、教会に集まった子供たちの人数が今月で十五人になり、教会の維持費が一人当たり200コルだとすると、月に93000コルは稼がないといけない。
レトは村のクエストの魔物討伐などをクリアして資金を稼いでいるが、クエストは何度か同じものクリアすると、獲得コルの値が減っていく。ゲーム攻略をするプレイヤーはなるべく早くクエストをクリアし、クエスト報酬を獲得したいものが多数。つまり、遅れてゲームに参加レトがクエストで獲得できるコルはだいぶ少ない。
道中の村・町のクエストに残っていた報酬スキルは、盗みスキルや聴覚スキルなど戦闘に不向きなものばかりでソードスキルなどの攻撃系スキルは一つも残っていなかった。
レトは一人で戦闘するため、モンスターから獲得できるコルや経験値を一人で独占できるが、効率は良くない。今のレベルでモンスターに囲まれてしまうとかなりの苦戦する。
「遅れてゲームに参加した奴の末路か……」
「お困りのようだね、そこの剣客」
後ろを振り向くとフード付きのマントで顔を隠れた小柄な女の子がベンチにもたれる様に立っていた。
「君は?」
「オレっちは情報屋《鼠のアルゴ》、欲しい情報があるなら安くしとくヨ」
レトの横に座り、顔を覗くように顔を近付けると、フードの下から女の子の顔がめた。金褐色の短めな巻き毛を持ち、頬にネズミのような3本線のフェイスメイクがしてある。
「悪いが今そんな余裕はない」
「なんだ残念だナ」
アルゴは顔を離し、つまらそうな顔する。そんなアルゴを見てレトは口を出す。
「まぁ強いて言うなら、コルの効率のいい集め方を教えて欲しいが」
「ありゃ、これは景気の悪いプレイヤーと見た」
「うっ!」
レトはムッとした顔でアルゴを見るが、まさにその通りなのである。
「そうだな、一つ500コルでどうダ」
「ご、五百コル……」
アルゴは情報屋、タダでやる情報はなんてない。
「わかった……それで手を打とう」
「お前相当追い込まれてるナ。となると、ギルドや攻略組に入るのはどう?」
「ギルドか……」
ギルドとは団体で構成されたプレイヤーたちが集まり、ギルドメンバー同士で一緒にクエストを攻略したりと、高い難易度のクエストをクリアを目指すなら必須プレイである。戦闘ギルドだけではなく、小規模ではあるが鍛冶ギルドや商人ギルドなども存在する。
攻略組とは、今まさにこのデスゲームを終わらせるために戦っているギルドのこと。《血盟騎士団》や《聖龍連合》などの攻略組はゲームクリアのため、コルやアイテムを独占している。
「ギルドに入れば、一人でクエストをするより楽に戦える上にコルが貯まるのは、間違えないな」
「試してみる価値はあるか……。ありがとうアルゴ、君のことは忘れない」
レトはアルゴにお礼を言い、ベンチから立ち上がり、宿屋に戻ろうとするが、アルゴにマントを掴まれる。
「何爽やかにこの場を去ろうとしてんだ、情報料金をまだ受け取っていなゾ」
「…………くっ」
レトはしぶしぶ500コル払い、暗い顔しながらその場を去った。
翌朝、最前線の第28層の街にきたレトは早速ギルドに入ろうと、《血盟騎士団》のギルドメンバーであろう、白と赤の特徴的な服をきた男性プレイヤーに声をかけた。
「すいません、血盟騎士団に入りたいんですが……」
「おっ!、ギルドの志願者か。最近血盟騎士団が有名になってギルド志願者が増えたよ。」
男の名前はゴドフリー、二十代後半の男性プレイヤー。大らかな性格な人でフランクに接して来てくれたので、話しやすかった。
「血盟騎士団に入るにあたり、幾つか質問するが、構わんかな」
「はい」
どうやら入るには何かと条件があるらしい。
「まず君のレベルは?」
「15です」
「ハッハッハッ、いや君の歳を聞いているじゃないんだが」
「えっ?」
ゴドフリーは笑いながら何か勘違いしているようだ。俺はもう一度答えなおすと、ステータス画面をゴドフリーに見せた。
「ほ、本当にレベルが15のようだな」
レトのステータス画面を確認たゴドフリーは苦い顔をしていた……何故か気まずい空気が流れる。
「大変言いずらいんだが、君のレベルでは血盟騎士団でやっていくにはレベルが低すぎる。すまないが諦めてくれ」
ゴドフリーは、申し訳なさそうな顔をしていた。
それもその筈、Level15では、第10層のモンスターでもきつい位ある。そんなプレイヤーが最前線で一緒に挑んでいたら焼け石に水のようなもの、逆に他のメンバーの邪魔になってしまう。
レトは仕方なく他を当たることにした。
第28層 とある宿屋
「なるほどギルドの力になりたいと?」
「はい!」
レトは今度は《聖龍連合》に入ろうとしていた。今回はギルドの志願理由を言いギルドに入ろうと試みる。手続きは終わり最後にギルドマスターの承認をもらうだけであった。
(よし!、今度はいけそうだな)
レトは心の奥底でガッツポーズしていた。聖龍連合のギルドマスターが承認ボタンを押そうとするが、手を止める。
「そういえば君、レベルいくつだけ?」
「・・・・・・」
数秒間の沈黙の後、レベルを言うとあっさりと断られた。
第10層 トレント村 夜
「はぁ~」
「お困りのようだねぇそこの剣客って……またお前かァ」
レトは昨日と同じように大木が見えるベンチに座っていた。アルゴも昨日と同じようにレトの横に座わる。
「で、上手くいったか?」
「…………」
「なんだよこの手は?」
レトは無言でアルゴに手を差し出していた。
「お前の情報は役に立たなかった、500コル返せ」
「その様子だとうまくいかなかったみたいだナ」
あの後もレトはギルドに加入させてもらえる所を探したが、どのギルドも最終的にレベルが低くいのを理由に断れ続け、結局ギルドに入れずじまいである。
「だいたいお前が直ぐに帰るから、まだ教えられた情報が途中で言えなくなったんだぞ。まぁ薄々こうなるとは思っていたけどな。」
にやにや笑いながら答えるが、レトは顔を俯かせていた。
「はぁ~」
「そんな溜め息ばかりしていたら幸せが逃げてしまうゾ。何でも諦めないことだな、精々頑張ってギルドを探しなヨ」
アルゴはレトにフォローを言ったようだが、レトは腕を抱えながら何か考えているようだ。
「お~い、生きてるか?」
アルゴはレトの目の前に立ち、顔に手を振るが反応がない。
(何でもか…………何でも…ハッ!)
「おい、急に立つなよ、びっくりするだろ!?」
すると急にレトが何かを閃き勢い良く立ち上がると、アルゴが驚き地面に腰をついていた。
「アルゴ! 俺は何でも屋をするぞ」
「はぁ? 何でも屋?」
(突然何を言い出すかと思えばなんだ?)
アルゴが地面についた腰を上げると、レトは周辺を歩き周りながら話し出す。
「そう、ギルド《何でも屋》。魔物討伐や護衛、素材アイテムを代わりに取ってきたりと、報酬しだいで何でもする…よし、俺は今日からギルド《何でも屋》だ。」
「お前もしかして三周回ってバカ?」
「? 何のことだ。」
アルゴは呆れた顔でレトを見ていた。
「ギルドに入るのが無理なら自分で創ればいいんだ、何で今まで気付かなかったんだ」
「お前それじゃあ結局のところソロギルドじゃないか。人の話ちゃんと聞いていタ?」
「ああ。でもソロのほうがコルを独占できるから、このままのスタンスで行こうと思うよ」
「ああもう勝手にしろ……? あれって」
アルゴがレトが歩いていた方向をみると丁度大木の下だった。すると、大木の一部の枝が金色に光り始め、レトの頭上に落ちてきた。
「ふごっ!、なんだこれ?」
手に持つとアイテムストレージに自動的にしまわれた。
「Sレア素材だよ、幸先良いじゃないか」
落ちてきたのは《神木の木材》であった。ちょうどタイミング良くドロップしたのであろう。
「売れるのか?」
「商人に売ればなかなかの値段にはなると思うけど、折角なら防具でも作ってもらえば?」
「そうだな……」
(ホント、見てて飽きない奴…)
アイテムを見ながら考えていると、アルゴが肩を叩いて離れていく。
「じゃあな、頑張れよ《何でも屋・レト》。そのうち気が向いたら依頼でもだしてやるヨ」
アルゴは「にゃははは」とあざとい笑みして薄暗い道へ消えていってしまった。
「情報屋《鼠のアルゴ》か……割と良い奴だったな。
2023年5月7日 《何でも屋・レト》設立
今回は少なめです。