ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind 作:坂道
・・・・・・・それでも頑張る!!
第25層 ウプサール荒野 2023年6月29日
空に雲は一切無く、荒野一面に岩と乾いた地面を焼くかのように太陽がフィールドを照らしていた。地面から発せられる熱は遠くの景色をぼやけさせている。
周りには岩しかない殺風景な荒野が広がる、黒の仮面を着けたレトはここでモンスターと戦っていた。
戦っているのはスケルトンの大群、剣と盾を装備したガイコツ兵。荒野の道中には骸骨の屍が落ちており、その骸骨に近づくとスケルトンになり攻撃を仕掛けてくる。第25層攻略時には知らずに骸骨に近づき不意打ちを喰らってやられてしまったプレイヤーもいたようだ。
スケルトンはHPは少ないが、集団で襲い掛かるアルゴリズムを持っており、一体の撃破に苦戦していると仲間がどんどん増え、囲まれることになる。
レトは10体のスケルトンに囲まれており状況は不利に思われる。2体のスケルトンがレトに攻撃を仕掛ける。スケルトンの1体が剣を上から振り下ろし、もう一体は横から突き刺しに来る。
レトは縦に振り下ろされた攻撃を横に避け、横からの攻撃を剣先に滑らせ相手の間合いに入り、そのまま横切りでスケルトンの上半身を切り落とす。
「これで七体目……」
次々にスケルトンはレトに襲い掛かる、相手の一斉同時攻撃は防ぎようない。レトは剣を地面に突き刺し剣の柄の上に乗り空中に飛び上がり攻撃を回避する。空中でメニューを開き、突き刺した剣を一度アイテムストレージに戻し、もう一度装備する。
地面に着地した後、背後からスケルトンの一体を斬り付ける。スケルトンがHPバーが無くなり消滅後、ソードスキル【チェイン・スラッシュ】を発動。敵を撃破後、近くにいる敵に瞬時に懐に入る技。敵を撃破時に発動する技であり、うまくいけば連続でモンスターを撃破することが可能。
レトは三体のスケルトンを撃破し、一度下がる。
「そろそろ来るか……」
するとスケルトンが密集している地面から、巨大なスケルトンが出現した。キング・スケルトン、スケルトンの3倍くらいの体格をしており、25層ボスクラスの強さがある。スケルトンを一定の数を倒すと出現する隠しボスである。
キングスケルトンが巨大な剣をレトに振り下ろす。レトは武器をしまい、【ターン・スライド】で相手の背後に回る。
(今だ……!)
レトの右手が青く光、右手でキング・スケルトンの背骨を触れ後ろに下がる。青く光る手が相手から何かを引っ張り出すように右手に光が集まる。キング・スケルトンは背後の異変に気付き後ろにいるレト横薙ぎに剣を振る。レトはしゃがんで攻撃を避ける。手に集まった光が消え、目の前にウィンドウ画面が表示された。
<《王の背骨》を入手しました>
レトが使用したのは盗みスキル。盗み熟練度が上がるとボスクラスから特定のアイテムを盗むことができる。
「それじゃ、ここで失礼さしてもらうぞ……」
腰に巻きつけてあるアイテムバックから転移結晶を取り出し上に掲げる。荒れ狂ったスケルトンたちはレトに襲い掛かってくる。
「転移――パール!」
スケルトンたちが攻撃を仕掛けた瞬間、レトは声と共に消えてしまった。
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「ふぅー、危なかった……」
レトが転移した場所は第30層の中間にあるパールという街。特に何も変哲もない街で転移広場の真ん中に大きな時計台があるくらいである。ここでは最前線のプレイヤーをサポートするために商人や鍛冶屋などが集まり露店を開いており、転移広場までもが露店で埋められていた。
「確かそろそろ時間のはず……」
「お~い!何でも屋こっちだ」
広場の中央の時計台の下で手を振っている男がいた。彼の名前はクライン、バンダナに逆立った赤髪と顎髭が特徴的な人である。俺はクラインに近づきながらアイテムストレージを開く。
「目的の素材アイテム、これでいいですか?」
レトは先ほどキング・スケルトンから盗んだアイテムを目の前に出す。
「お~!さすがレトだぜ」
「その前に……報酬金をだして貰おうか?」
「たっく、良い仕事するぜ……ほらよ、報酬の5000コルだ」
クラインはコルをメールで送ってきたのを確認し、素材アイテムを差し出した。
「まいどあり!」
「まさかこんなレアアイテムを5000コルで引き受けてくれるとは……レト、お前割に合ってないんじゃないのか?」
「いいよ別に、クラインさんは最初の依頼主だからな」
クラインはこの前の宣伝で真っ先に掲示板に依頼をくれた人で、今では常連客になっていた。
「まぁ俺も最初は疑っていたが……あのデュエルを観戦してこいつは出来ると思ってなぁ」
クラインは頷きながら応えた。
「よく言うよ、あの時は俺じゃなくスノウを見に来てたんじゃないのか?」
「ば、馬鹿野郎お前そんなんじゃねぇよ!?」
クラインは慌てながら否定している。
「クラインさん……ばればれです……」
「うっ!……はい、そうです……」
図星だったようでそのままクラインはうつむいた。
あのデュエルから一ヶ月、あの後、レトはスノウに「聖龍連合に入りなさい!」と勧誘されたが、それを断り、今も何でも屋をしている。スノウは今でもレトを自分のギルドに入れようと勧誘活動をしている。
あるときは依頼掲示板に<聖龍連合に入れ>との依頼書が貼ってあったが、レトはその依頼書を無視したままである。依頼を受けるかどうかを決めるのはレト自身なので問題はない。
またあるときは「デュエルで負けたほうが、ギルドに入る!」とデュエルを持ちかけてくるが、レトはそれも断り続けている。
最近はスノウが来るのは減ったが、たまに掲示板前で待ち伏せされているときもある。
ビックスとはあれから俺は道具屋の常連客になり、ビックスが作る新アイテムの実験を手伝い、ビックスが作ったアイテムをレトは活用したりとずいぶん仲良くなった。
「ところでよレト、刀スキル取得できたようだな」
「あぁ、クラインさんの言うとおり、曲刀系の武器を使い続けていると出現しましたよ」
レトはクラインと知り合ってから、刀スキルの取得方法を聞いていた。レトはこの世界に着てから自分にあった武器が無く、クラインが使っていた刀スキルに目をつけた。
「刀スキルは両手持ちが基本なはずなんだが……お前は片手持ちでも装備できるからうらやましいぜ。」
握りこぶしをしながら楽しげに話すクライン。レトは自分の剣を取り出してみていた。
「あれ?また耐久値がなくなってきたな……買いなおさないと……」
クラインはレトの発言に疑問に思った。
「えっ、お前自分の剣を……」
「お~い!クライン、攻略会議の時間だぞ!」
クラインが何かを言いかけたが、後ろから風林火山のメンバーが呼びかけてきた。
「おっと、もうそんな時間か……ありがとうよレト、また頼むわ」
「ゲーム攻略、頑張ってください」
クラインはその場を離れ、攻略会議へと向かった。
「さてと……武器を買いに行くか……」
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パールでは明日の35層攻略のため、露店は大勢のプレイヤーでにぎわっていた。その露店の一つに「武具店」と書かれた小さな看板が置かれた露店があった。ここで露店販売と鍛冶を一時的に経営しているのは、リズベットという少女。女性で鍛冶屋を経営している珍しいプレイヤーである。
ギィィィィン――
彼女は今、携帯回転砥石を使用し剣の手入れをしている。剣の先を砥石に当て剣の切れ味を戻しているところ。
「よしできた……アスナ、終わったわよ」
「いつもありがとう、リズ!」
剣を受け取ったのは血盟騎士団の副団長を務めているアスナという少女。攻略組の中でもトップクラスの実力があり、SAOプレイヤーからは《閃光のアスナ》とも呼ばれている。
アスナは自分の剣を眺めてから鞘にしまう。
「やっぱり、リズが研いでくれると一味違うな」
「もう、大げさすぎるよ」
リズベットは少し照れながらアスナに答え返すと、アスナがリズベットの顔を覗きこんでいた。
「う~ん……」
「な、何アスナ……」
覗き込んだ顔を戻すとアスナは何か納得したかのように頷き、リズベットにある提案を言った。
「リズ、髪の色とか服装……変えてみたら?」
「えっ?、何よ急に……」
「リズは童顔だからごつい服は似合わないよ!……よし決めた!、明日のボス攻略が終わったらリズをコーディネイトしてあげる」
アスナは手を合わせ嬉しそうな顔しているが、リズベットは慌てた表情をとっていた。
「何勝手に決めてのよ!、あたしは別に……」
「じゃあリズ、楽しみにしておいてね」
アスナはお構いなしに話を進め、露店を離れていった。
「あ~もう……勝手なんだから……」
リズベットは溜め息を漏らしながら、武器の整理をはじめていた。
(アスナたら勝手なんだから……それはあたしだって一様女の子だし、容姿には気を使いたいけど、童顔で真面目だけが取り柄のこのあたしが……それにこの頬のそばかす……)
手入れしていた剣から反射して映る自分のコンプレックスだというそばかすを触りながら自己嫌悪していた。SAOの世界ではナーヴギアに登録された素顔の同じになってしまう。例えば頬にあるホクロなども正確に表現される。
「すいません、武器を買いたいんですが?」
「は、はい。いらしゃいま……って、うわぁ!」
振り向くと黒い仮面をした男がいたので、リズベットは驚いて後ろに飛び跳ね壁に頭を打つ。
「あの……だいじょうぶですか?」
「何よあんた!……そんな仮面を被ってびっくりするじゃない!?」
リズベットは仮面をした男に震えた指を指しながら答える。
「ぎ、ギルド《何でも屋》といえば、なかなか有名になったと思っているのだが……」
黒い仮面は胸を張りながらギルドの話を持ちかけるが、
「知らないわよそんなギルド!」
「うっ、やっぱりまだ知名度は低いか……」
自覚していたことをストレートに言われ黒い仮面は地面に手と膝をつきへこんでいた。
「いいからもうどこか行ってよ。営業妨害よ、この変態仮面!!」
……ピク、レトは立ち上がる。
「なっ!変態仮面だと、仮にもお客様に失礼だぞ」
「だって普通仮面なんかしてたらおかしいじゃない!」
元もである。
「はぁ、もういい……刀系の武器がほしい……」
レトは浮かない顔しながら武器を要求した。リズベットも少し言い過ぎたと思いながら申し訳なく武器庫から刀系の武器を探す。
「……今持ち前の刀系の剣は、この《牙刀》だけねぇ」
《牙刀》は30層クラスのレベルのプレイヤーが使用する武器で、癖も無く使い易いと評判であるが、性能が高いため値段も高い。
「それでいいよ、いくら?」
「二万コルよ」
レトはリズベットが差し出した剣を取ろうとするが、手を止めた。
「に、二万コル……」
「二万コル」
目を細めながらレトは自分の持ち資金を確認した。
[5025コル]
(しまった……さっきサーシャさんに教会の維持費を送ったばかりだった……)
レトはクラインと別れた後、サーシャにメールで教会の維持費を15万コルほど送ったため、持ち資金は限られていた。
「他には……ないのか?」
「言ったでしょ、持ち前はこれだけだって……ははーん、もしかしてコルが足りないとか?」
「ううっ……はい」
仮面越しでよく分からないが暗い表情して俯いているのは分かる。
「仕方ないわねぇ……何か売れる素材アイテムある?、良い素材アイテムがあるなら買ってあげるわ」
「本当か!、助かる」
レトは嬉しそうにアイテム画面を開き、素材アイテム選び出す。
「これなんてどうだ?」
「その手の鉱石は有り余ってる。他に何かないの?」
レトは次々とアイテム欄から素材アイテムを取り出すがリズベットが気になるものは無かった。気付けば露店は素材アイテムで埋め尽くされていた。
「無理ね、特に役に立ちそうなものはない……今日は諦めたら?」
「……最後はこれだけだ……」
レトはすっかり気が滅入っており、小声でアイテムを取り出す。
(どうせもう大した物はないでしょ、あたしもそろそろ店閉めたいのに)
リズベットは期待せずにレトが取り出した素材アイテムを見ると、ハートの形をした白く輝く結晶が目に映った。
「そ、それ……」
リズベットは口を開けたまま信じられないものをみたかのように結晶を見ていた。
「これ何度もNPCの店で売ろうと思ったんだけど、売れないって言われてさ……処理に困って…」
「それモンスターの心じゃない!?」
リズベットは大きな声と共にレトがてに持っていた結晶を取り、日に当てながら結晶を覗いていた。
(やっぱりモンスターの心……幻のレアアイテム……)
「これ!、どこで手に入れたの!?」
リズベットは顔色を変え、レトに顔を覗き込んだ。
「だ、第1層で白いウルフを倒したらドロップしたんだ」
レトは足を一歩下げながら答えた。
以前、まだレトが《はじまりの街》を離れる前にウルフとの大群の戦闘で撃破した白いウルフがドロップした素材アイテム。あの頃はシズナたちのことで頭がいっぱいだったのであまり意識してなかったが、Sレアアイテムと気付かずそのまま持っていた。
「五万コル!、五万コルでどう!?」
「ご、五万コル!!」
リズベットは開いた五本の指をレトの顔に出す。突然の発言にレトも動揺が隠し切れない。
「なんだたら、この《牙刀》もつけてもいいわよ!」
(こんなチャンス……滅多に無い!、まさか幻のレアアイテムに出会えるなんて……鍛冶屋やってよかったー!)
モンスターの心は特定のモンスターを倒すとドロップするといわれるSレア素材。モンスターの心のドロップ率は0.00001%とかなり低く、現在手に入れたというプレイヤーはいない。むしろ手に入れることはまず無理だと言われている。
モンスターの心は武器の強化合成に使用できる。ただの強化合成ではなく、新たな武器が生み出すといわれている。相場でこれを売れば、五十万コル以上の値が付くであろう。
リズベットは鍛冶屋としてこの機会をものにしたいと思っている。
「それまで付けてくれるのか!?、ありがとうそれじゃ……」
ピロリン――
「あ、依頼のメールか……」
レトはメール画面を開き内容を確認すると時間を見た。リズベットは落ち着かない様子でレトの返答を待っていた。
「すまない、この取引また今度だ!」
「えっ!?」
リズベットが持っていた結晶をアイテム画面から回収し、露店から離れようとするレト。リズベットは咄嗟に紅いマントを掴んだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
マントを引っ張られ、レトは足を滑らせ後ろに転んでしまった。
「なんだ、急いでるんだが……」
強打した痛みもない腰をさすりながら立ち上がる。
「先に取引を終わらせようよ!」
リズベットは今ここでこの仮面の男を逃したら、もう二度とモンスターの心が手に入らないと思い、必死に引き止める。
「すまない、依頼があるんだ。時間が限られてるから急がないと……武器はまた別のところで買うよ、それじゃあな!」
仮面の男は手を振って、露店から離れていった。
「待ちなさいよ!……あ~もう、こうしちゃいれない……」
リズベットは慌てて店をたたみ始めた。
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第25層 ウプサール荒野 15:05
レトは果てしなく続く荒野を一人歩いていた。
依頼内容は荒野地帯を越えた先にあるルプス鉱山にいるコウモリ系のモンスター<ゴーフバット>からドロップされる《吸血の牙》を10個を代わりに取って来るという依頼である。
ゴーフバットはルプス鉱山内で昼間は寝ているが夜間は活動的になり、集団で襲い掛かる上に、ゴーフバットに噛み付かれると麻痺状態になってしまう。ソロで挑むレトは間違いなく囲まれてやられてしまう。
レトは昼間の寝ているところを狙い、ゴーフバットの大量撃破を試みようと、急いで鉱山へ向かっているところである。
ルプス鉱山に辿り着くには荒野地帯を一時間ほど経由しなければならない。
現在15:05、まだ余裕がある。
レトはボトルに入った水を飲みながら、この暑い荒野の上を歩き進める。
「変態仮面ー!ちょっと待ってー!」
「ぶっはぁ!……ゲホッゲホッ!?」
飲んでいた水を吐き出しむせかえる。苦しみながら後ろを向くと先ほどの武器屋の茶髪の女の子が走ってきた。
「はぁはぁ……やっと追いついた……」
手を膝に置き息を荒らしながらリズベットは声を出す。
「な、なんで君がここに?」
「あ~……たまたま私もこっちの方に用があったのよ……うん、そうよ!」
(こんなところで諦めてたまるもんですか!、絶対にあの素材を私の店で売ってもらうわよ)
リズベットは腕を前に出しガッツポーズをしていた。リズベットの謎の行動にレトは首を傾げながら怪しんでいた。
「と、ところであんた、今からどこに行くの?」
「えっ……ルプス鉱山だけど……」
「奇遇ねぇ、私も今からそこに向かうところなのよ」
リズベットは声を裏返しながら喋っていた。
「なら善は急げね、レッツ・ゴー!」
リズベットはレトのマントを引っ張りながら、レトをズルズル引きずっていった。
「なんで……一緒に行かなくちゃいけないんだ……」
クラインとリズベット登場!!
アスナ一瞬登場、まさに閃光!!
今回は前編と後編に分けてみました。何分はじめての小説なので、試してみたいことが沢山あるのでやってみました。リズがメインの話になると思います。
この作品は会話が多いので、キャラがどんな風な表情や動作が分かりずらいと思います(作者が悪い)。読者様にはこの人物ならこんな表情をしているだろうと想像してもらえると楽しめて読めると思います。
SAOの作品ではリズが好きですね……みんな好きだけどね(笑)