ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind 作:坂道
二人はモンスターに遭遇することなくフロア1まで戻ってこれた。リズベットは黙ったままレトに背負ってもらっていた。
(お礼言わなきゃ……助けてもらった挙げ句に、男に背負ってもらってるなんて誰にも言えない…………男……ハッ、そういえばあたしずっと男の人の一緒にいたんだ)
リズベットはそう考えると、凄く恥ずかしくなった。いつもパーティを組むときは男と二人きりは避けていたが、今気付くとレトは男であること思い出す。今の今まで仮面を着けていたせいか、あまり意識をしていなかった。
リズは顔を真っ赤に染め、胸をドキドキさせていた。
「リズベットさん、出口が見えてきた……どうした、顔が赤いぞ」
レトが首を後ろ向けると顔を桜色に染めたリズベットの顔が目に映った。
「なっ、なんでもない!、もう歩けるから!」
リズベットを背中から降り、顔を両手で隠しながら出口へ走っていた。レトはリズベットの様子を見て漠然とし、リズベットの後を追った。
第25層 ウプサール荒野 6:30
ルプス鉱山を出ると辺りは夕日が沈んでいた。
「外も暗いし……冷えるわねぇ」
「ウプサール荒野は夜になると冷え込むかな……荒野を向けるのは厳しいな……向こうの安全地帯で少し休むか」
レトが指を指した方向にはルプス鉱山の入り口付近の岩陰に安全地帯があり、ウプサール荒野の唯一の安全地帯である。
「別にあんたは転移結晶で帰ってもいいのよ……」
「そんなことしないよ……それに……俺もかなり……疲れ……」
レトが声を低くし、全身を力が抜けたかのように倒れた。
「ちょっと、大丈夫!?」
「大丈夫……力が入らないだけ……」
リズベットは倒れたレトの片腕を肩に組み、レトを引きずるように歩き出す。
「ありがとう……リズベットさん」
「なんでこんな無茶ばっか…………ごめん……」
「えっ……?」
リズベットは暗い顔をしながら安全地帯までレトを運んだ。
二人はモンスターが入れない安全地帯で休むことにした。安全地帯は小さな洞穴になっており、焚き火のオブジェクトが灯されてあった。
「ほ~落ちつく……焚き火っていいよな」
「…………」
二人は焚き火を囲むように周りに座ると、
レトはアイテム画面を開き、鍋と食材を取り出し料理を作り始めた。
「あんた料理スキルなんてあげてるの?」
「まぁな、コッチのほうがコルが安く済むから、コルはなるべく節約しないといけないからな」
レトは鍋に具材を入れ蓋をし、焚き火のオブジェクトの上に置いた。
「何でそんなにコルが必要なわけ?、あんたのギルドのやり方だとそんなコルに困ることはなんじゃない?」
「ああ、それは話せば長くなるんだが……」
料理が出来る間を使い、リズベットにギルドを立ち上げた理由と、教会の孤児院のことを話した。
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「そっか……あたしたちより年下の子が居てもおかしくないか……なんかごめん……」
「なんで謝るんだ?」
「え、それは……」
リズベットはモンスターの心を騙し取ろうとしたことが頭に引っ掛かっていた。リズベットはまた少し暗い顔をしていた。すると、周りから良いにおいがした。
「ほら」
香りの正体はレトが作ったスープだった。リズベットにスープの入ったカップを渡す。そのスープからはとても懐かしい匂いがした。
「これって……」
カップに入ったスープを飲むと、昔から飲んでいたことがある家庭料理の代名詞……、思わず喉を鳴らすように飲んでしまった。
「味噌汁……」
「そのとおり、名づけて味噌汁モドキだ……」
レトは暇な時間を使い料理の調味料を作っている。最初は飲み物だけにこだわっていたが、最近では料理にも手をつけ始めた。
リズベットはあまりの懐かしさに一気に飲み干してしまった。温かいのスープは少し頬が歪んでしまうほどおいしかった。
「これ飲んだら、急に家が恋しくなってきちゃった……」
「だろ?」
レトが紅いマントを脱ぎ、リズペットの肩にかけた。
「スカートじゃ冷えるだろ」
「ありがとう……」
レトが肩に掛けてくれた少し大きなマントを体を覆い隠すよう纏う。レトはリズベットの隣に座りスープを飲み始めた。
「体はもう平気なの……」
「ああ……あのスキルを使った後、少し経ってから変な脱力感が襲ってくるんだ……」
「それって大丈夫なの?、あんなめちゃくちゃなスキル聞いたことが無いわよ」
レトがダーク・インサイトの戦闘で発動した謎スキル【クリムゾン・リミット】、紅い光が体を纏い尋常ではないパワーとスピードをあげる。ウルフとの戦闘でも発動したがあの一件以来このスキルが発動することはなかった。
「俺もよくわからないだ。俺が使おうと思ってもスキルが発動しないし……」
「でも発動したわよ?」
「なんて言えばいいんだろうな……最初に発動したときも……こー、こんな奴に負けてたまるかってな感じで発動した……」
「つまり……ブチギレたら発動するスキル?」
なんともパッとしない答えである。
「まぁいいんじゃないか、二人ともこうして無事だったんだし」
「レトは……なんで自分を傷つけてまで他人をかばうの……」
リズベットは迸る焚き火を見ながらレトに聞く。
「普通変だよ……自分を犠牲にしてまで他人を守るなんて……あたしだったら逃げてる……」
どこまでいっても人というものは己の欲望に忠実である。いくらその人が大事な人でも最後には自分が大切。リズベットからみればレトの行動は不思議なものでしかない。今日知り合ったばかりのリズベットを見捨てず、体をボロボロにしてまで戦った。
『目の前に助けられる人がいて、俺は置いて行くことなんてできない』
綺麗ごとしか聞こえない言葉、でもリズベットにはあの言葉が嘘には思えなかった。
「……12歳頃、交通事故で父親と妹を亡くしてさ……」
「えっ?」
「あの頃の俺は、自分なら何でもできる……俺の力があればなんだって守れる……そんな正義のヒーローみたいな馬鹿なこと考えていてさ……」
レトの悲しげな顔をしながら焚き火を見ながら声を震わせていた。
「目の前でいつものように笑っていた二人が一瞬で……、助けを待つことしかできなくて……自分の力がこんなにちっぽけなものなんだなって……自分が情けなく思ったよ」
「レト……」
「それでさ、父と妹の葬式で俺の……親友っていうのかな、そいつさ……落ち込んでる俺をいきなり竹刀で殴ってきてさ、俺は「何すんだよ!」って怒ったんだけど……」
レトがリズベットに顔を向きなおし、目を大きく開きながら答えた。
「あいつ竹刀を向けながらこう言ったんだ「泣いてる暇があるなら強くなれ!、そして自分で助けられるものを守れ!」ってな、クソ真面目な頭固い奴でさ……その後、葬式内で大喧嘩になったよ」
笑うレトにつられてリズベットもおもわず笑ってしまった。
「で、俺そのこと今にも真に受けてるんだ、自分で助けられるものはを守る。自分が死んだら元も子もないのにな、それでも……なんだか救われた気持ちになったんだ……変な奴だろ」
「ううん……確かに馬鹿っぽいけど、そういうの嫌いじゃないよ」
首を横に振り、先までの暗い顔が晴れたかのように焚き火の温かい光がリズベットの笑顔を表していた。
「……ありがとう。それと、リズベットさんは笑っているほうが可愛いよ」
レトは顔を向き合わせたリズベットに微笑み返した。リズベットは照れながらマントに顔をうずめた。
「よくもまぁそんな恥ずかしい決まり文句が言えるわね……」
「そうか?、俺は思ったことを口にしただけだが……あ、そうだ。」
レトは何かを思い出したかアイテム画面を開き始めた。
「牙刀を返さないとな、え~と確かここに……」
アイテムから牙刀を取り出し鞘から抜き、前に一度振り下ろす。
「やっぱりこれ握り心地がいいな・・・・・・」
名残惜しそうにレトが刀を見ていると
「あげるわよ……」
「えっ……いいの?」
「助けてもらったお礼よ」
レトは満面の笑みを浮かべるとリズベットから少し離れ、刀で素振りを始めた。
(ああいうところは子供っぽいわね)
――バキン……カランカラン
何かが折れたような音がした。リズベットが下に目線を下ろすと牙刀の刀身だと思われるものが転がってきた。
リズベットはレトの方を見ると、大振りに刀を振ったポーズをしながら折れた武器を持っている。
「「…………」」
二人の間に数秒間の沈黙が訪れた。レトは折れた武器を眺めた後、リズベットに遠い目をしながら視線を移した。
「……折れた」
「折れた……じゃないわよ!?」
リズベットは折れた刀身を拾おうとするが消滅しまった。リズベットは肩をガクッと落とし溜め息を吐いた。
「はぁ~……今日を使ったばかりだよね」
「ああそのはずなんだが……」
どうやらダークインサイトの戦闘で耐久値が殆どなくなっていたようだ。ダーク・インサイトの皮膚の硬さは以上で、スキルの力で無理矢理斬ったせいか牙刀は限界に来てしまったのだろう。
「これで30本目だな」
「えっ、何がよ……」
「武器を壊した数」
「へっ?」
レトが何かとんでもないことを口にしていた。
「また買わないとな……」
「いやいや普通は修理したり、研ぎなおしてもらったりして……」
「?」
レトは首を傾げながら何を言っているのかわからないそぶりを取っていた。
「あの……レトはあたしたち鍛冶屋がいる意味分かってる?」
「武器を売ってくれるだけじゃないのか」
「ちがうわよ!?、鍛冶屋は武器の強化に武器の合成、武器や防具の修理とか……」
リズベットは鍛冶屋の基本的なことを話すがレトはその話しを聞くと唖然としていた。
「あんたそんなことも知らずに半年間も生き抜いてきたの!?」
「いやぁ、あの、その……面目ない」
レトはこの世界のことをあまり把握してないとはいえ、SAOの世界で生き抜くための常識的ことまで欠落していた。
「買える武器の攻撃力には限界があるし、自分にあった武器を強化していくのがこの世界の筋なんだけど……」
ほんとうにこんな人が私を必死に助けてくれたんだろうか……少し疑いたくなるけど、でもあのときの姿はとても……なって言うか……
「よし、決めた!」
すると、リズベットはハンマーを取り出しレトの前に立つ。
「あたしがあんたに最高の武器を打ってあげるわ」
「でも悪いよ……そこまで」
「人の好意はちゃんと受け取ったほうが良いわよ、それとなんだか作りたい気分なのよ!」
リズベットは焚き火に近づき自分が所持している鉱石を取り出す。鉱石を愛用の板金バサミで掴み鉱石を焼き始めた。火に入った鉱石は形を変え、長方形の赤い塊になった。鉱石を火から取り出し地面に引いたいつも携帯してある作業板の上においた。
「なんだかすごいな……」
レトは遠慮していたが、いざ実際に武器を作る工程を見ると、何か惹かれるものがあった。
「そんなことないよ。ただ鉱石を焼いて、ハンマーで打つだけよ……でもここからが本番……」
メニュー画面を開き、<武器を作成しますか>と表示される決定ボタンを押す。リズベットが目の色を変えたかのようにハンマーを持ち、赤く光った塊を叩き始める。
何度もハンマーで叩き続ける、その工程は地味なものに見えるがリズベットがハンマーを振るたびに響き渡る金属音が小さな洞穴に反射し耳の鼓膜に響かせ、体全体を震わせていた。
焚き火の近くでリズベットが金属を叩く姿はとても輝いていた。
「リズベットさん、これ使ってよ」
リズベットに近づきレトが作業板の上に出されたのは<モンスターの心>だった。
「使って良いの?」
「ああ、リズベットさんに使って欲しい」
「……わかった……失敗しても知らないわよ」
リズベットは少し苦笑いしたが、直ぐに作業に戻り、ハンマーを振りながら今日を起きた事を思い返していた。
モンスターの心、最初はこれがほしいがためにレトを探したんだけ……今思えば、このきっかけがなかったら、こうしてレトと逢うことも無かったんだろうな。変な奴だと思ったけど、思ったとおり変な奴……好きとかそういうのじゃない……なんて言うか……
リズベットが最後の一振りを打ち、塊が変化し出す瞬間に<モンスターの心 幻狼>を手に持つと、白色に輝く心の結晶から雫が形状変化中の武器に流れ落ちる。辺りは白い光に包まれ、目をつぶってしまう。輝きが弱まり目を開けるとそこには鏡のように反射するガラスの様な刀が出現した。
[New <鏡想> が作成されました]
その刀の刀身はきめ細かな結晶が剣先まで伸びており、鏡のように顔がくっきりと映つし出すほどの刃紋。綺麗というより美しいといったほうがいいのかもしれない。とても耐久値が高いとは思えないがモンスターの心を使用した武器、並大抵の武器には負けないであろう。
「できたわよ!、あんたの武器……」
リズベットは満足したように刀を作成し終わると、レトが壁にもたれながらすやすや寝ていた。どうやら疲れて眠ってしまったようだ。
(こいつ二人で一夜……一緒に過ごすのに平然と寝てる……)
まだ中学生とはいえリズベットも女の子、男を意識しないことも無い。
(それともこいつ……あたしを女だと思っていないとか……そう考えるとだんだん腹が立ってきた……けど)
かなり理不尽な考えをしながらレトの隣に座ると、横で寝息を立てるレトの肩に頭を預けながら紅いマントを握り締めていた。
(なって言うか……傍にいると……安心する……)
リズベットはレトの肩に身を寄せたまま寝てしまった。
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6月30日 第30層 パール 宿屋 14:30
リズベットは予定通り、アスナにコーディネイトしてもらうことになっていた。
「ねぇアスナ、本当にやるの?……」
リズベットは部屋の鏡台に映った自分を睨みながら椅子に座っていた。
「もちろんよ、私がリズをもっと可愛くしてあげる!」
(可愛いか……)
『リズベットさんは笑っているほうが可愛いよ』
リズベットは急に顔を赤くしていた。
「どうしたのリズ?、顔が赤いよ」
「な、なんでもない」
アスナは鏡台に映るリズベットの顔見ながら答えると、リズベットは首を横に振った後、顔を軽く叩き鏡を見直す。
「それじゃまずは服から……」
「アスナ、服の色は赤が良いな……」
「あれ?、リズって赤が好きだったけ……」
リズベットは鏡に映る自分を見ながら笑顔を作った。
「うん……今……好きになったかも」
<鍛冶屋のアタシと仮面のキミ>は終わりです。リズはこれからも出ると思います。
そういえばダインとかいうキャラがどこかにいたと思いますが、GGOのダインとは全く関係ありません!!