ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind 作:坂道
クライシス・ポイント
茅場晶彦が創り上げた仮想世界……約一万人のプレイヤーを巻き込んだデスゲーム。ゲーム開始当初は一ヶ月で約二千人ほどの人がこの世界で死んでしまった。半年たった今では開始当初と比べプレイヤーの死亡率が減ったが、それでもまだプレイヤーの数は減っていた。
深夜の薄暗い街の路地裏では、また小さな命が消えようとしていた。
狭い路地裏を無我夢中で走り回る男、彼は今ある者から逃げている。だが、男の背後を追いかけるようなものはいない。次に彼が曲がった先は逃げ場のないレンガの壁だった。
後ろを振り返り別の場所へ逃げようとするが、三本のピックが男の腹に突き刺さる。ピックには麻痺の付加があり、男は体が動かなくなり、背中を壁にもたれるように倒れる。必死に体を動かそうとする矢先に静かな路地からコツ、コツと足音が近づいて来る。
「お、お願いだ……殺さないで!」
何度目だろう……この手の台詞を聞くのは……
「やめろ……冗談だろう!?」
何度目だろう、人が絶望に染まる顔見るのは……
「ああああああ!?……」
男のHPバーは圏内にも関わらずレッドゾーンにまで達していた。身動きのとれない男は暗闇の中から跳んできた短剣を避けることができず左胸突き刺さり、HPバーのゲージが全てなくなり消滅した。
月が丁度狭く入り組んだ路地の影を上から照らさし始めた月明かりによって暗闇に隠れた女性の姿を現す。
「ごめんなさい……あなたに恨みはないけど……騙されるほうが悪いの……」
悲しげにつぶやく女性は落ちた短剣を拾う。
「もう少し待ってて……私が必ず守るから……もう少しだけ……」
頬から流れた一滴の涙が床に落ちると、女は再び暗闇へと消えていった。
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2023年10月23日
第40層の夕暮れの街《ダングレスト》。この街は青空が広がることがない不思議な大都市。ほの暗い空に浮かびあがる黒い街、そこに灯る営みと同じ数の街灯りは、ダングレストに住む者すべてを夕焼け色に染めていた。
レトは今ある依頼品を届け先に運んでいるところである。この大都市の一軒の小さな店を営んでいるプレイヤーからの依頼。
届け先の店のドアに手を掛けると、溜め息をついた剣士が店から出てきた。
「毎度!また頼むぜ。おっ、レトじゃあねぇか、待ってたぜ」
「商売繁盛しているようですね、エギルさん」
今「ダングレスト」で故買屋を経営している商人プレイヤーのエギル、凶顔で180cmくらいの背丈、かなり筋骨の鮮やかな黒い肌にスキンヘッドの髭面という大男だが、見た目に似合わず凄く話しやすい人である。
「まあな、お前と組むようになってから俺の店もやっと形らしくなってきたからな」
エギルとは依頼先で知り合い、彼のプレイヤーの育成支援に共感し今では一番の常連客で何でも屋の依頼掲示板に素材アイテムなどの採取の依頼してきてくれる。
レトは腕に持った三段重ねの木箱をカウンター上に置いた。
「ビックスに頼んでポーション30本を手配してきました、それと解毒薬50個でしたっけ?」
手で運んできたのは自分のアイテムストレージに入らないためで、容量オーバーである。
「すまねぇこんなに沢山、報酬金の10000コルだ受け取ってくれ」
「まいどあり」
「本当にそれだけでいいのか?」
「いいですよ別に、エギルさんがなんだって言うならもう5000コル提供してくれても……」
「それは困るな、安く買い、安く売るのが内のもっとうなんでな」
エギルはこう言っているがただコルを儲けているわけじゃない。彼はまだレベルの低いプレイヤーたちに利益のほとんどを育成支援に注ぎ込んでいる。俺はその考えに共感して協力するようになった。
それに依頼を出してくれればお互いの利益にもなって一石二鳥である。
「こんなに解毒薬を買い取ってどうするだ?」
「今度のボスは麻痺攻撃するっていう情報が入っていてな、攻略に参加するプレイヤーに配るつもりだ」
エギルはここで商売をしながら攻略に参加している斧使い、最前線で活躍するプレイヤーの一人。
「最近は前線の進行が遅くなっているみたいだけど……大丈夫なのか?」
レトはカウンターに背もたれしながら最前線の状況を聞いた。
「40層を越えた当たりからモンスターが強くなってきたみたいでな、攻略組も少し慎重になってきたんだろう」
今最前線は42層、このダングレストでは血盟騎士団を初めとした攻略組が集まっている。今のところダングレストを起点に攻略に参加しているギルドが沢山いる。
「それに最近になって最前線の攻略組を狙ったPK<プレイヤーキル>が多発しているからな」
「PK<プレイヤーキル>……」
今アインクラッドにはギルド<笑う棺桶>といった殺しを楽しむ集団がいるが、<笑う棺桶>だけとは限らない。相手を騙して寝ている隙を狙ってデュエルを仕掛ける睡眠PK、プレイヤーをマップに誘いだしてモンスターに殺させるMPKなどがある。デュエルによるプレイヤーの殺害はアイコンはオレンジにはならない。
「なんでそんなこと平然と……」
レトは仮面をつけている下では苦渋の顔を浮かべていた。
「それとレト、あまりダングレストでは仮面をつけないほうが良いぞ」
エギルがカウンターに肘を着けながら、レトに顔を近づけながら言う。
「?、なんでだ」
「攻略組じゃ有名なんだよお前は、仮面を着けたソロプレイヤーが攻略にも参加せずコルを荒稼ぎしているってな」
「何だよそれ、あまりじゃないか?」
攻略組がレトの行動を見ているとおかしいのは当然だろう。依頼で稼いだ大金のコルを最前線のマップ攻略に使わず、私情に使っていると思われている。理不尽なとらえ方だが、攻略組は仮面を着けた紅いマントはがめつい奴と擬視されている。
「確かにな……だが攻略組がお前を良く思っていないのも確かだ、依頼をしていない時くらいその変な仮面をはずしたらどうだ」
「う~ん、この仮面の良さが分からないかねぇ」
レトは攻略に参加したいのは山々だが教会の維持費、依頼の予定時刻、シズネという人物を捜したりとやることが山積みである。
「そういえばエギルさん、この前の件ですが攻略組でシズネというプレイヤーに会えませんでしたか?」
「今の所はまだ分からない……俺も全員と関わっているわけじゃないからな、それにプレイヤー名じゃないからな」
「そうか……ありがとうエギルさん、また依頼してくれよ」
レトはエギルの店を出ようと店の入り口のドアノブに手を掛け開くと目の前には良く知った水色の髪の女性がいた。
「ふふふ、やっと見つけたわよレト……」
聖竜連合のスノウである。スノウは声を低くしながら愛用のレイピアを構えていた。レトは踏み出しかけた足を戻し後ろ歩きをしながら、さっきまでいたカウンターへと戻っていった。
(エギルさん……お願い助けて)
(無茶言うな、俺もあの嬢ちゃんは苦手なんだ)
レトはエギルに救いの目を送ったが、エギルは必死に首を振っていた。
「ここであったが百年目!聖竜連合に入ってもらうわよ!」
狭い店でレイピアの剣先をレトに向ける。
「百年目って、先週も会っただろ?」
「そんな細かいことはどうでもいいのよ!、それより私が三ヶ月前に依頼した仕事はどうしたのかしら!」
スノウが依頼したのは、「聖竜連合に入りなさい」という無粋なものだった。レトはその依頼を先週までは放置していたが、
「すまない、あれはもう放棄した」
「なっ、何でそんなことするのよ!?」
スノウは怒りながらレトに近づき、首元に剣を向ける。
「依頼を受けるか受けないかは俺が決めていい事で別にスノウが決めることじゃ……それより剣を締まってくれないか」
両手を挙げながら剣をしまうように要求するレトにつられエギルも頷く。スノウが不機嫌な顔をしながら剣をしまうのを確認すると、レトとエギルは左手で胸を押さえながらホッとしていた。
「それでどうなの?、聖竜連合に入ってくれわよねレト」
笑っているのに後ろから黒いオーラが出ている。スノウはあのデュエル以来、しつこくレトをギルドに勧誘している。
「いや~、一度聖竜連合には入ろうとしたんだが断られてだな……もう入る気はないと……」
「この私が直々に誘ってあげてるのに失礼と思わないわけ?」
グイッとレトの胸倉を掴み顔を引き目くじらを立てながら言うと、エギルが割って入ってきてくれた。
「まあまあ落ちつくだスノウ、こいつはこいつで色々やることあってだな」
「そうそう、まずは落ちついてお茶で飲もう」
すると、アイテム画面からティーポットとティーカップを取り出したレトは、カップにお手製の紅茶を注いでスノウとエギルに渡す。紅茶の香りが鼻を嗅ぐわす。
「むっ、まぁいいわ…頂いてあげる」
手に取った紅茶が入ったカップを口へと運ぶと、ほのかな甘味が口の中へと広がっていった。凄くおいしかったのかスノウは目を閉じたまま味を堪能していた。
「悪くはないわね、それじゃ話しを戻すけど……」
するとさっきまで目の前にいたレトの姿がいなくなっていた。店の扉が開けっぱなしになっており、おそらく逃げたのであろう。
「しまった、また逃げられた!」
「まんまと乗せられたなスノウ」
エギルはやれやれと、一段落着いたかのように紅茶を飲み始めた。
「くそ~、今度は絶対逃がさないわよ」
スノウは切歯扼腕した後、カップに残っている紅茶を飲み干した。
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エギルの店を後にしたレトは、ダングレストに設置した依頼掲示板を回収しに攻略本部のある中央区に来ていた。本部付近に掲示板を設置したのは最前線のプレイヤーが集まる本部なら依頼を申し込んでくる人がいると思ったからである。
(エギルの話じゃ、ここに長居してはよくなさそうだな……)
仮面を着けたまま攻略本部の入り口に来たためか、周りの最前線で活躍している人たちがレト睨みつけていた。レトは仮面の下で苦笑いしながら掲示板を回収し始めた。
(本当に嫌われているようだな、仕方ないか……俺がしていることは他人から見れば、ただのコル稼ぎだからな……)
レトは自分のしていることを脳裏にかすめながら、アイテム欄を開き回収ボタンを押そうとすると、急に後ろから何者かが後ろにいる気配を感じ、背筋に悪寒が走った。不意にベルトに撒いてある剣に手を置き振り返ると、少し老けた二十代くらいの鉄灰色の前髪を流した長身の真紅のローブを身に着けた男が立っていた。
「君が<何でも屋>のレト君かね……」
「は……はい、あなたは?」
俺は力が抜けた声で男に声を返すした。
「まずその構えた剣を鞘に収めてくれないか」
「あ、すいません」
俺は何故か反射的に刀を握り締め刃を少し鞘から出していた。手に力をとり刀が鞘に収まると男が不敵な笑みをしながら名を答える。
「私は血盟騎士団の団長をしているヒースクリフだ」
レトはその名前に驚いた。今最前線……いや、プレイヤーで最強と呼ばれている血盟騎士団のヒースクリフがレトの目の前にいる。彼の名はこのアインクラッドでは知らぬものがいないほど有名でレトも名前だけは聞いたことがある。外見からは感じられない只ならぬ不陰気があるように思えた。
「君は攻略には参加しないのか?」
「お、俺みたいなはぐれ者がボス攻略に参加したら邪魔なだけですよ、俺のレベルでは今の階層のモンスターと戦うのがやっとです」
「ふむ……そのようだな」
全てを見透かしたように見るヒースクリフの目を見て俺は思わず息を呑んでしまった。ヒースクリフは目を泳がせながら話すレトの肩にそっと手を置く。
「そんな緊張することはないよ、血盟騎士団の団長とはいえ前線はアスナ君に任せているからな」
「は……はぁ」
なんでだろう、この人と喋るのが緊張するとい言うより少し恐い……なんなんだこれは?
「君はなんでその黒い仮面を被っているんだい?」
「これですか、これはギルドの宣伝のために……」
「本当にそれだけかね?」
「えっ?」
特に理由があって被っているわけではない。ギルドの宣伝のためだ……他に何があるって言うんだ……分からない……何だって言うんだ。
レトはヒースクリフの質問に口をつまらす。
「団長、そろそろ攻略会議が……」
すると、後ろでたたずんでいたヒースクリフの直属であろう部下が喋りだす。
「おっと、もうそんな時間かね……すまないなレト君、またいつか話そう……」
ヒースクリフは攻略本部へと歩き出した。レトはヒースクリフの後ろ姿をみながら固まっていると周りが騒がしくなっていた。
「おい、あの仮面の男、あのヒースクリフと喋っていたぞ」
「あのならず者がか?」
レトは周りの様子に気付き逃げるようにこの場を去っていった。
レトが辿り着いた先は、ダングレストの入り口の湖に聳え立つ大きな石造りのつり橋にきていた。誰もいない橋の側壁に座りながら夕日に反射する湖を眺めていた。
(なんだっただろう……あの人)
レトは仮面をはずし、仮面を見る。なんも変哲もないただの仮面を眺めていると、ふとヒースクリフの言っていたことを思い出す。
『前線はアスナ君に任せているからな』
(アスナか……そいえばゲーム開始時に一度会っていたんだっけ……)
デスゲーム開始される前にレトは一度<Asuna>というプレイヤーとぶつかっていた。あのときはまだ素顔がゲームのアバターの顔だったのでアスナというプレイヤーの素顔はまだ見ていない。
(かなり有名なプレイヤーみたいだけど……結城ではないだろう……あのおとなしかったあいつが「攻略の鬼」だなんて言われるわけがない……)
ほくそ笑みながら仮面をアイテム欄に直すと、湖を眺めなおす。
「あと……約束まで一年か……」
レトは沈んでいく夕日をみながらつぶやく。
(また会えるかな……結城に……)
黄昏ながら思いつめた表情をしていると、ポツンっと水滴が手の甲に落ちたのが分かった。すると、上を見上げると雨が降り出してきた。
「うわぁ、雨が降ってきたな……宿屋に戻るか……」
突然降り始めた雨に慌ててチェックインを済ませている宿屋へと走っていった。
その後も前が見えないほど降り続く雨の中、レトは走り続けていた。
(うっとしい雨だな……こんなところまでリアルにしなくていいだろ、折角教会のボーナスで手に入れた服が台無しだ)
新しく一新した《漆黒の教団着》防具を気にしながら静けた道を走るレトは、宿屋の外で俯きながら立っている絹のローブに頭から胸まで覆った毛皮のフードを着たずぶ濡れの女性が、外で雨宿りしているのが目に入った。レトはなぜ宿に入らないのか不思議に思い声をかける。
「どうしたんですか?、早く中に入って……」
女性は顔を下に向けたまま、細い声で話し出す。
「宿屋……部屋が満室になっていたから、外で雨が止むのを待ってるのよ……」
おそらくこの雨で慌ててプレイヤーたちが宿屋に集まったのであろう、他の宿も今頃同じようになっているだろう
「でも外にいるより、宿屋の中にいるほうが……」
「大丈夫よ、別に風邪をひくわけじゃないし……中にいても一緒よ」
冷たい声を上げながら、言葉を返す女性にレトは女性のぶら下げている左手を持ち軽く握ぎた。フードの女性は少し驚く。
「でもこんなにも手が冷たい……良かったら俺の部屋を使ってください」
レトの突然の提案に俯いた顔を上げ、目を合わせる。
「……いいの?」
「はい、間違って二人部屋にチェックインしたんだ……さぁ中へ」
女性の手を優しく握りながらいざなうレトにつられ宿屋に入っていった。
207と書かれた部屋に入るとレトは紅いマントをアイテム欄にしまい、テーブルの椅子に座り息を吐く。
女性は扉付近でキョロキョロしながら立っていた。
「どうしたんですか?早く椅子にかけて……」
「本当にいいの……私がここにいて……」
「困ったときはお互い様」
女性はそう聞くと、毛皮のフードをはずし、銀色の長い髪がふわっと出され女性の顔があらわになった。女性の顔は大人びたとても綺麗な顔立ちで、レトと比べて少し年上のように想えた。赤い真紅の目はとても鮮やかで透き通っている。
靡かせられた長い髪と女性の顔に濡れた服がはとても色っぽく、レトは口を開けながら見惚れていた。
「あー」
「どうしたの?」
「いや!?、なんでも!、そ、そうだお腹が空いていませんか?い、今から用意しちゃちゃいますんで!」
レトは慌てながら視線を別の方向に向け腕をブンブン振りながら、妙な早口の敬語をいいながら部屋についてある台所に駆け込んでいった。
「わぁ~」
レトが慌てながら作った料理はクリームシチューとサラダとパン。王道の組合せだがレトはサラダに自分でアレンジしたオリジナルドレッシングをつけている。
女性は豪勢な料理に思わず喉を鳴らしてしまった。しかし女性はテーブルに置かれた料理を食べようとしなかった。
「?、どうぞ食べてください。今回のは自信作なんです」
レトがスプーンに手を掛けクリームシチューをすくいあげ口の中へと入れた。女性はレトがクリームシチューを食べたのを確認すると、スプーンに手を取り食べ始める。
舌にスープが乗ると、女性は頬をほっこりしながら手が止まることなく食べ始める。
「あー……」
レトは食べるのを止め女性の食欲に唖然としていた。片手で柔らかいロールパンを口に放り込むようにほうばり、もう片方はクリームシチューを食べるためにスープンを持つ。ガツガツと食べる様はとても外見には似合わない絵図らだった。
すると、喉をつまらせたのか必死に胸を叩いていた。
「だ、大丈夫ですか?、ほら水を……」
女性はレトが手に持った水を勢いよく取り、飲み干し、息を吐いた。
「まだたくさんあるんで、ゆっくり食べて下さい」
女性は首を縦に振りながら頷くと、また食事を再開し始めた。
二人は料理を食べ終え、レトが淹れたお茶で一服していた。
「そういえばまだ名前を言っていませんでしたね、俺の名前はレト、君は?」
「私は……ローゼル」
女性の名前はローゼルというらしい、レトは笑顔で返事を返した後、窓の外を見る。
「雨……止まないな、俺あまり好きじゃないんだけどな……」
「そうかしら……私は嫌いじゃない……」
どこか同じく窓を見ながらどこか遠い目しながらローゼルは答える。
「雨は周りのいらない音を掻き消してくれる……冷たいけどとても安心する……」
彼女の発言を聞くと、どこか消えてしまいそうな悲しい顔していた。レトは持っていたカップをテーブルの上に置き、窓際に近づく。
「え~っと、この雨だと明日の釣りの依頼はだめそうだな……」
「何言ってるの?、階層が変われば天候も変わるわ」
冷静にツッコミをいれられ話が途切れてしまった。レトは話しを変えようとあることを思いつく。
「そ、そうだ!、良かったら明日の依頼に協力してくれないか」
「何で私が協力しないといけないの」
冷めた態度でローゼルは返す。ローゼルはあまり気乗りしていないようだ。
「それは……今日のお礼ということで、お願い!」
両手を合掌しながら頼み込むレトをみながら、お茶を飲んだ後、ローゼルは答える。
「そうね、いいわよ手伝ってあげる」
「ありがとうローゼルさん」
「別に構わないわよ……」
だって今日……あなたはここで死ぬんですもの……
深夜眠りについたレトは窓際に置いてあるベットの上で寝ていた。外はすっかり晴れ月明かりが窓から指している。
隣のベットで寝ていたローゼルが静かに起き上がり、隣で寝ているレトのベットの上に座り右手をそっと掴む。
ローゼルは慣れた手つきでレトの右手を動かしメニュー画面からコルの受け渡し画面を開く。
(へ~、なかなかの大金じゃない)
ローゼルはレトのコルを自分宛にメールから送り、合計12万コルを引き出した後、自分のメニュー画面からデュエルを選択し、<完全決着モード>を選び、レトの前に現れたデュエル承認画面を先ほどと同様に選ぶ。デュエル開始画面が現れ時間が表示される。
ローゼルはレトにまたがる様に膝立ちをしながら短剣を取り出す。
「ごめんなさい、料理……美味しかったわ」
ローゼルはレト頬をなぞるように手を滑らせ、首を辿り左胸にそっと手を置いたあと、左手で逆手に持った短剣を振り上げる。
「さようなら……優しい剣士さん……」
短剣は左胸に振り下ろされる瞬間、レトの右手が動きだし短剣を持った手を掴み押さえる。
「何のつもりだ……」
「あら、起きてたのかしら……それとも何か期待してた?」
力強く押される短剣を右手で押せながらレトはローゼルを睨みつける。
「いや今起きたばかりだ……この後どうするんだ」
「そうね……左が無理なら……右手を使う!」
すると左手に持たれた短剣が消え、右手に持ち替えられていた。ローゼルは素早くレトの胸を刺そうとするが、レトは両足でエクストラスキル《ヒールストライク》を発動させベットを叩き割り、ベットが浮かびあがるように二人の体制が崩れる。
レトは隙を突き、部屋の窓から脱出する。宿屋は二階のため向かい側にある建物の屋根に乗る形なった。寝具から防具に切り替えていると、窓からローゼルが飛び出し、同じく宿の向かい側にある建物の屋根の上に飛び乗る。ローゼルの姿は最初に着ていた絹のローブではなく漆黒のロングコートにショートパンツをした動きやすい服装に変わっていた。
丁度月をバックにするようにローゼルの姿が窺えた。
「ローゼルさん……」
「あのまま死んでいたほうが楽だったのに……」
短剣を器用に手で回しながらつまらなさそう態度を取る。
「俺のコルを奪ってどうするんだ」
「ふ~ん、噂どおりがめついっていうのは本当なのね……」
「コルなんてまた貯めれば良い……だけど睡眠PKなんて……」
「騙されたあなたが悪い……顔を見られた以上、死んでもらうしかない……」
回していた短剣を止め、いきなり飛び込んでくる。向けられた刃を鞘に収まった刀のまま弾くが、ローゼルの流れるような連続攻撃と足場の悪い屋根の上ではレトは身動きが取れない。
(っ!、短剣なのに一発一発に凄い重みがある)
ローゼルの動きを見る限りかなり腕の立つプレイヤーで、尚且つレトよりレベルが上であろう。
「やめろ!君と戦いたくない!」
レトは鞘に収まった刀を抜かず攻撃を弾いていた。不安定な足場を迷うことなく蹴り進むローゼルは右腹を切り裂く。レトは逃げるように屋根を跳びまわる。
「一度殺されかけてまだそんなこと言えるの……馬鹿じゃない」
ローゼルは素早く屋根の上を周り、レトの背後を追うように短剣を投げる。咄嗟に振り向きおぼつかに足場で飛んできた短剣を弾くと、又もや剣が消えローゼルの手に戻っており、すかさずレトに近寄り攻撃する。
(くそ、こうなったら……)
レトはガードをとる姿勢を止め、身構える。ローゼルの短剣が当たる瞬間に【ターン・スライド】で背後をつく。
(いまだ!……)
両手が青く光、背後からローゼルの武器を掴もうとする。【ウェポン・キャプチャー】による武器奪いで相手の一時的無力化するというレトの作戦だ。
青く光った手が武器に触れようとした瞬間にローゼルが消える。
「なに!?」
「あなたも【ターン・スライド】を使えるのようね」
いつの間にか背後をつかれたレトは後ろから刺され、背中をなぞるように切り裂かれる。
【Ⅳ―スラッシュ】、相手を突き刺し4を描くように斬るソードスキル。
レトは連続攻撃により体制を崩し屋根から落ちる。レトは這い蹲りながら上を見ると投げられた短剣が振り落ちてくる。横に転がり攻撃を避け狭い路地の壁へ隠れる。
(強い、かなり慣れているな……さっき彼女が使ったのは恐らく【ターン・スライド】……でもなんだあの武器の高速チェンジ……)
「隠れても無駄よ」
不意に横から飛んできた短剣を避けることができず、レトの右腕に突き刺さる。するとまた短剣が消えてしまった。レトは立ち上がりなるべく見渡し良い場所に移そうと足を走らせる。
レトが来た場所は路地裏を抜けた先にある攻略組が利用してあった定例場。今は攻略会議も終わり、深夜のためかプレイヤーは一人も居らず静けさが広がっていた。
息を荒らしながら建物の壁に背中を預ける。
「もう逃がさないわよ」
屋根の上から銀色の長い髪を靡かせながら鋭い目で睨みつけるローゼルの姿があった。声は周りの静けさのせいかよく響き渡っていた。
「やめるんだ、君みたいな人が人殺しなんて……」
「人は見た目で判断していけないのよ……それに助けを呼べば良いじゃない」
「生憎友達が少なくて……ソロでな、助けを呼べる相手がいない……それに助けを呼ぶと君が捕まってしまうだろう……」
レトはそういいながら壁に背をもたれながら立ち上がる。レトのHPバーがローゼルの攻撃によりオレンジに落ちていた。
ローゼルはレトの返答に呆れていた。
「あなたを殺そうしている相手を心配するなんて、余程お人よしのようね……そんな甘い考えじゃいつか死ぬわよ……まぁ今から私が殺すんだけど……」
「何か理由があるんだろ……まず武器を収めてくれ」
「そんな嘘に騙されない」
短剣を投げてくるがレトは刀で弾きながらローゼルを見つめる。
「君もまた……殺しを楽しんでいる人間なのか……」
すると、ローゼルが攻撃を止め黙り始めた。レトはローゼルの異変気付く。
「ローゼル?……」
「……私を……」
左に持ち構えた短剣をカタカタさせながらローゼルは唇を噛んでいた。
「私をあんなやつらと一緒にするなー!!」
「!?」
「仕方ないのよ……私が人を殺さないとあの子は!……」
怒りに打ち震えたローゼルはアイテムポーチから長い帯のようなものを引っ張り出すと帯には大量のピックが備わっていた。
「もういい……ムカつく……死ねぇー!」
ローゼルは帯に備わった大量のピックをレトに目掛け一本ずつ物凄いスピードで両手で交互に投げていく。レトは飛んできた無数のピックを避けようと思うが先ほどの短剣とは比べ物にならないスピードで降りかかるピックを避け切るのは無理と考え刀で応戦しようと試みる。
(だめだ、抑えきれない!……)
攻撃を弾き切ろうと試みるがコンマ0.4で投げつけられるピックを防ぎきることはできず、無数のピックがレトに突き刺さる。レトは必死に刀を振るがピックが止む気配がない。
「これで……」
ローゼルが最後に投げたピックは鋭く特徴的な金色をしていた。そのピックがレトの左肩に刺さるとレトは後ろに倒れてしまう。
「ま、麻痺か!?」
レトが解毒結晶を取り出すがローゼルのピックによって破壊される。
「や、やめろ…」
「優しいだけじゃ人は救えない……さよなら……」
ローゼルが投げた短剣がレトに迫る、今レトは麻痺によって動けない。あれを食らえばHPがゼロになってしまう。レトは時が止まったかのような思考にとらわれていた。
『力を使え』
(だめだあれを使えば、ローゼルを殺してしまう)
『お前が死んでは元も子もないだろ……使え』
(だめだもう……)
レトは目を閉じ顔を伏せてしまう。絶望だ。
――キィーン
何か金属が弾かれるような音がした。恐る恐る眼を開くと、血盟騎士団の服を着た男が盾でレトを守っていた。
「まったく、君はいつまで甘いな紅葉……」
凄く懐かしい声が耳に入ると、目の前には俺の良く知る親友がそこに立っていた。
「神村!?……」
はい、今回は色々出ましたね、エギル、ヒースクリフにオリキャラのスノウ。
それと予定通りに新キャラを出しました。
ローゼルはこれからの話の重要人物です。神村ですが、第一話を見てくれているなら分かるはずですが、全中の決勝戦で主人公が負けた相手です。まさかこいつを使うとは思っていないと思いますが、作者は使う気満々でした。ちなみに前々回の話の回想に登場した親友は神村です。神村のプレイヤーネイムは<ライン>です。
ローゼルは、今広告やCMで見られるラスティハーツのローゼルを完全に意識しています。
ラインこと神村は、テイルズのフレンというキャラを意識しています。
それとレトが会いたがっている結城という人物は……もう分かりますよね?、良い感じにすれ違っています。
今回の話に疑問や感想がある読者様は、感想までよろしくお願いします。