ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind   作:坂道

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今回は短い、もっと早く更新できるようにしたいです


優しい苦渋

 いつからだろう……私が歪んできたのは……

 

 

 あれはまだ私が中学生のとき……

 

 私の家では父のドメスティックバイオレンスが多発していた。父は「レクト」というゲーム会社に務めていて、まだ当時はVR<仮想世界>の開発が本格的に進んでいる頃である。

 父は会社の仕事がうまくいかず、家に帰ってきてからはお酒やタバコを吸いながら酷く荒れていた。母はそんな父をいつも優しく出迎えていた。会社の上司の愚痴やVR開発の仕事の研究、母は嫌がりもせず笑顔で父の話しを聞いて、時には気が立った父に殴られなどの暴力など受けていた。

 私と弟はいつも扉の隙間から母が父に酷い仕打ちを受けているのを見ていた。理不尽な暴力を受けている母を見ているのが耐えられず、私は父を止めに入ったこともある。父は止まることなく私にも拳を振り上げ殴りかかろうとした。でも母が庇うように割り込み殴られてしまった。

 母は殴られて青くなった頬を押せながら私を部屋までつれ笑顔で私に微笑みかけ、「早く寝なさい」といいながらまたリビングへと戻っていった。

 不思議で仕方がなかった、何であそこまでされて平然と笑っていられるのか、きっと無理しているに違いない。私は母に問い質した。

 

「ねぇ、お母さん」

 

「うん?どうしたの」

 

「お母さんは何であんな奴と結婚したの……」

 

「あらあら、とても簡単な質問ね。それはお父さんが大好きだからよ」

 

「わからない……お母さんをいつも殴ったりするのに何で好きでいられるの……」

 

「それは……お父さんのことを信じてるからよ」

 

「信じる?」

 

「そうよ。信じているから……あの人が私に告白してくれたときから……華美にも大事な人が出来たらきっとわかるはずよ」

 

「…………」

 

「もちろん華美や華太のことも、お母さんは大好きよ」

 

 あの時お母さんの言ったことが分からなかった、あの父親をどこを信じるのか。でもそんな優しいお母さんのこと、私は大好きだった。私と弟は二人ともお母さん子でお母さんさえいればそれで良い……それで良いと思っていた。

 

 中学生最後のクリスマスイブの夜、あの日を境に私の生活が一変した。

 

 その日は体の芯から冷えるほど寒い日で外は粉雪が降っていた。

 学校から帰った私はお母さんと一緒に今日の家族水入らずのクリスマスパーティーの準備を手伝い、弟は今日来るであろうサンタクロースからのプレゼントが入る靴下を大事そうに手に持ち私に見せびらかしたり、外で降っている雪を窓越しで目をキラキラさせながら来る筈もないサンタをじっと待ったりと楽しげにそのときを待っていた。私とお母さんは晩御飯を作り終え、あとは父の帰りを待つだけだった。でも父はいつもなら帰宅している時間になっても帰ってこなかった。

 お母さんは心配そうに父の帰りを待っていると、玄関のドアが開く音がした。父が会社から帰ってきたのだろう、お母さんはいつものように玄関へと父を出迎えにいった。

 父は無言でリビングに入ってくると手に持っていた鞄を床に叩きつけた。テーブルに座っていた私と華太はいつもの父の凶変に気付き逃げるようにリビングを後にした。二階の私の部屋からリビングで父の怒号が響き、恵太は耳を両手で塞いでいた。会話の内容から察するに父は会社をクビになったらしい。

 

「須郷の野郎!俺を騙しやがって!!」

 

「大丈夫よ、話せばきっと分かってくれるはず……」

 

「うるさい!!」

 

 下からは父が母に殴る、叩く、蹴るなどの暴行をする音が聞こえた。今日の父はいつも以上に荒れていた。元々喜怒哀楽が激しい人だったけど、その日は特に酷かった。

 私は母の様子が気になり、弟を部屋に残して、リビングの扉の隙間から中の様子を窺うとぐったりと床に倒れた母の姿が目に入った。私は扉を開き、母に駆け寄り母の顔を見ると、父の激しい暴力に頬が酷く腫れていて、息を荒らしていた。母が目を開けて「上にいなさい……」と小さな声で私に言い聞かせた。

 私は怒れ狂った父を睨みつける。

 

「なんだよ……お前も俺を気にいらないって口か……どいつもこいつも……俺をなめやがって!!」

 

 父は私の胸倉を掴み、テーブルの上に投げ飛ばした。テーブルの上には今日のクリスマスを楽しむための晩御飯が置いてあったが、ぶつかった勢いでテーブルは引っくり返り食器が床に落ちガラスの物が一斉に割れた。ガラスの破片が手に刺さり、頬は少し切れ、血が滲み出ていた。

 

「誰のおかげで生活できてると思ってるんだ……金だけを喰っていく子どもが……」

 

「やめて、お父さん……華美は何もしてないわ、許してあげて……」

 

「お前もうるさいんだよ!」

 

 最悪だ……楽しいクリスマスが台無し……お母さんがまた暴力を受けている……あんなやつがいるからお母さんは傷つくんだ……あいつがいなかったら……

 

 私は手に刺さったガラスの破片を掃い、台所に置いてある包丁を持ち、父に刃先を向けた。

 

「おい、冗談はやめなさい!?」

 

「お前がいるから……お母さんが傷つくんだ!……」

 

 私は包丁を両手で強く持ち、目をつぶりながら、刃先を向けた状態で父に包丁を突き刺す。刺さったような感覚が感じられ、恐る恐る目を開くとそこには父ではなく、お母さんが立っていた。

 私は何が起こったのか分からなかった。包丁はお母さんの胸元に突き刺さり血が溢れていた。動揺して足を引こうとすると、お母さんがいつもにように優しく抱しめてくれた。

 

「お…お母さん?……」

 

「だめよ……こんなことしたら……」

 

 お母さんは私の長い髪を撫でながら呟く。

 

「……大丈夫よ……お母さんが……華美を……守るから……」

 

 母が力が抜けたかのように私の体にゆっくりと身を寄せた。

 

 その後、父は母を追うように首の動脈をナイフで切り……自殺した。

 

 

--------------

 

 

 月夜に照らされたローゼルは攻撃の手を止め、血盟騎士団の正装を着た男を屋根から見下ろす。

 

「血盟騎士団!?……つけられたか」

 

「神村!?」

 

 目の前に立っていたのは俺の親友の姿だった。威風堂々した親友の背中を見ながらレトは立ち上がると、ラインは右手に持った剣をローゼルに向け掲げる。

 

「悪いがおとなしく捕まってもらうよ」

 

 すると両隣の屋根の上から他の血盟騎士団の三人がローゼルを挿むように槍と片手直手剣と斧を構えたたずんでいた。ローゼルは顔を隠すように片腕で顔を隠す。

 

「君にもう逃げ場はない、御縄につくんだ」

 

「それはどうかしら」

 

 ローゼルはロングコートの裏に付けてある黒い球体のようなものを自分の足元に投げつけると黒い煙が辺りを蔽った。二人の団員はすかさず煙幕の中に飛び込み取り押さえようするが煙が晴れるとローゼルの姿はなかった。

 

「レト、あなたは必ず私が……殺す」

 

 声が発せられた場所はレトが背もたれしていた建物の上にいた。ローゼルは一度はレトに攻撃を試みようとピックを構えるが、レトを守るようにラインはレトの前にすかさず盾と剣を構える。攻撃を断念し、ローゼルは転移結晶でその場から姿を消しデュエルが中断される。

 

「ローゼル……」

 

 青い光共に消えたローゼルは消える瞬間、凍りつくような鋭い目で俺を睨んでいた。

 ラインは剣を鞘に納め、盾の装備を解除する。俺が話しかけようとすると屋根の上から降りてきた三人の血盟騎士団がレトより先に声をかける。

 

「隊長、あの者行方は……」

 

 ラインに話しかけたのは先ほど片手剣を構えていた右目に泣きホクロがあるオレンジ髪の猫のような釣り目と左側が三編み髪型が特徴的な女性。

 

「転移先はダングレスト、たぶん転移広場にいるだろうが……もう無駄だろう」

 

「すいません……私としたことが、むっ!……」

 

 女性剣士がラインの後ろにいるレトに眼が合い、敵視したような目で剣を構える。

 

「剣を下ろせ、ソディア。彼は僕の友人だ」

 

 ラインの言葉を訊きいれ剣を鞘に納め一礼してきたのでレトも慌てて一礼で返す。何とも礼儀正しい人だ。

 

「隊長、今すぐ奴の捜索を……」

 

「いや、今日はここで打ち切る。血盟騎士団が動いているのを知ったいま、彼女も身を隠すに違いない……しばらく様子を見よう」

 

 ソディアと後から来た二人はラインに敬礼をする。レトに背を向けた体を振替えりラインは部下である三人を引き連れレトの前に立つ。

 

「「…………」」

 

 二人は無言のまま数秒経ったのち、お互い片手に拳を作り、軽く拳をぶつけ合う。

 

「久しぶりだね、紅葉」

 

「お前もな、神村」

 

 俺と神村が会うたびにする癖みたいなもので、小さい時からの挨拶だ。

 

「びっくりしたよ、まさか君がこの仮想世界に来ているなんて」

 

「俺もだよ。お前がここにいるなんて思わなかったし、ましてや血盟騎士団ときた」

 

「君も有名だよ、いろんな意味でね」

 

 ラインはレトをからかうようにあざ笑うとレトはムスッとした顔しながら腕を組む。

 

「そんなことより、今は再会を喜んでいる場合じゃない……ローゼル……あの女性についての話を聞かせくれないか?」

 

「わかった、なら場所を替えよう。圏内とはいえ、君のHPもレッドのままじゃ危ないからね」

 

 レトは自分の視界の映る左上のHPバーを確認すると先ほどの不可思議な声を脳裏に浮かべた。

 

『力を使え』

 

(あれは一体なんだったんだ……それにあの声は……)

 

「紅葉、いつまで突っ立ているつもりだ?、君の襲われたという宿に向かうぞ」

 

 考え事をしているとラインがフロアの出口から呼んでいた。俺は歯切れの悪い気持ちでラインの後に続いた。

 

(俺の声だった……)

 

 

 

 宿屋に辿り着き、俺がチェックインした部屋に戻ると先ほどの戦闘で壊れたはずのベットが綺麗サッパリに戻っていた。部屋のオブジェクトは一定時間たつと修復され元に戻る。

 ラインは自分の部下を宿屋の一階のフロアで待機させたが、ソディアという女性は「自分はライン隊長の護衛任務を任せられています、隊長と話しをするのなら私を通してもらおうか」と、半強引的についてきた。

 

(なぜか彼女と会ったときから睨まれているのが気になるが、今はそっとしておこう)

 

「さて、何から話そうか」

 

 ラインが部屋の椅子に座りテーブルに腕を乗せながら本題に入る。

 

「俺がまず聞きたいのは、お前たち血盟騎士団が何故彼女を……ローゼルを捕らえようとしているんだ?」

 

「動機はまず彼女が睡眠PKをしていることだが、捕らえる理由は他にもある……ソディア、彼にファイルを」

 

 ソディアがアイテム画面から取り出したファイルを受け取るとこれまでのPK被害にあったプレイヤーのリストが載っていた。

 

「君も耳にはしているだろけど、最近になって攻略組に対するPKの被害が多発しているんだ。君も睡眠PKにあったんだろ?」

 

「ああ……」

 

 レトは頷いた後、そのまま顔を俯ける。

 

「実は狙われた攻略組の大半はギルドの資金援助を任されているプレイヤーたちばかりで、おそらくコルを狙った犯行だろうけど、その損害資金が今月で200万コルに到達してね。痺れを切らした僕たち攻略組はボス攻略前に血盟騎士団ヒースクリフ団長の命令で、あるギルドを追っているんだ」

 

「あるギルド?」

 

「ギルドの名前はまだ知らないんだが、<笑う棺桶>に続くやばいギルドだと聞いている。僕たちはそのギルドとコンタクトを取っているだろう彼女を捕らえ、その名無しのギルドを叩くつもりだ」

 

 ラインの言葉には鬼気迫るものがあった。俺は俯いていた顔をあげ、窓の外を見る。

 

「あいつは、やっぱり……人を殺しているんだな……」

 

「彼女だけとは限らないが、目撃情報はある」

 

「俺は……ローゼルが意味もなく睡眠Pkをしているとは思えない……」

 

 左の手首を右手で握りながら納得いかないようにぼやいた。

 

「どうせ貴様も、あの女に唆せたのだろ?、情けない。殺されかけておいてまだそんなことをいっているのか」

 

 ソディアが蔑んだ目でレトを見るが、レトは動じることなく話を続ける。

 

「神村……いや、ライン……この件は俺に任せてくれないか、一日だけでいい……彼女と話するチャンスをくれ」

 

「貴様!何を言っているんだ。相手はただの人殺しだぞ、そんな悠長こと言っている場合か、私たち血盟騎士団は……」

 

 ソディアがレトの発言が鼻についたのか苛立てながら怒鳴るが、ラインが右腕をソディアの前に出しを止める。

 

「紅葉、君は彼女と話してどうするつもりだ」

 

「説得する」

 

「彼女は君を殺そうとしているんだぞ」

 

「なら尚更あいつに会うチャンスがあるってわけだ、それに……」

 

 レトはローゼルが言っていたことを思い返す。

 

『仕方ないのよ……私が人を殺さないとあの子は!……』

 

「あいつ……あの頃の俺と同じ眼をしていた……」

 

 あの頃というのはレトが父親と妹を亡くした時の頃のことだ。どこか寂しげで今にも消えてしまいそうな眼。それと……どこか結城に似ている感じがした。

 

「ほっとけないんだ!……ローゼルを」

 

 何も根拠も発言。聞いている者からしてみればそうだろうがレトは本気だった。ラインはあきれ返り溜め息を吐く。

 

「まったく、君は本当にお人好しだな……当てはあるのかい?」

 

 レトはコクリと頷き、仮面を取り出し被る。

 

「わかった、騎士団には僕からが話しておこう」

 

「隊長!?」

 

「ただし……一日だけだ、それ以上は待てない」

 

 レトは部屋のドアノブを掴みながらラインの方向に振り返る。

 

「ありがとう、助かる!」

 

 部屋を出ていたレトは走りながら階段を下りていった。ソディアは苦虫を噛み潰したような顔をしながら開いたドアからレトが階段を下りていく姿を見ていた。

 

「良いのですか隊長…」

 

 ソディアがラインに問いかけるが、ラインは窓からレトが宿から出て行く姿を見ていた。

 

「君はどこにいても変わらないな……レト」

 

 

///////////////////

 

10月24日 7:17 第11層《タフト》道具屋ビックス

 

「ああ、全然客が来ないな~、そろそろ店を移転させるか」

 

 下の階層で道具屋を経営している中年の男性プレイヤーのビックスはカウンター越しの椅子に座りながら新聞を読みながら欠伸をしていた。

 すると扉が開く鈴の音がした。

 

「お、久しぶりの客か……いらっしゃって、なんだお前か」

 

 店の出入り口に眼をやると、レトが無言のまま入ってきた。

 

「どうしたんだ黙ったまま……刀を鞘から出してその剣先を俺の目の前に向けるのは何故?」

 

「ビックス……素直に答えろ。最近銀髪の長い髪の女性がたずねて来なかったか?」

 

「ああ、あれは俺がまだ店を始めた頃、女神の女性が……」

 

 レトの刀の刃先がビックスの首元に近づく。

 

「すいません冗談です許してください」

 

 別に攻撃を受けたところでダメージがないのだが、ビックスは慌ててレトの質問に答えた。

 どうやらローゼルがビックスの店に訪ずれいたのは本当だった。何故ビックスの店にローゼルが訪れたのが分かったのは、彼女が使った煙玉である。あの煙玉はビックスが加工して作成したアイテムの一つ、あのアイテムはビックスの店でしか取り扱っていないものだ。

 

「お前は彼女と協力しているわけではないよな?」

 

「当たり前だろ、それは確かにあんな綺麗な女性に頼みごとされたら断れねよ」

 

「頼みごと?」

 

「ああ、しばらくの間この店で働かせてくれて上目遣いで媚びれてさ~、これは俺の人生にも春が訪れたのかなと思ってさ~、店番任せて上の階層に素材アイテムを採取しに出かけて帰ってきた頃には店の売り上げ資金とアイテムが綺麗サッパリと無くなっててさ~……はぁーーーーーー」

 

「……同情はしないぞ」

 

「あら冷たい」

 

 ビックスを哀れんだ眼で見るがレトは軽くビックスの肩をたたきビックスを励ました。

 

「彼女は他に何か言ってなかったか」

 

「う~ん、特に変わったことは……そういえば弟とが何とか言っていたような……」

 

「弟か……」

 

(シズナの姉かと最初は推理したが的外れだったか……だけど)

 

 レトは刀をしまい、メニュー画面から木材系の素材アイテムを取り出すとカウンターの上に置く。

 

「ビックス、これで釣竿を二本作ってくれ」

 

「うん?、別に構わないが何で釣竿?」

 

「あいつに手伝ってもらうためさ」

 

 

 




 最近頭が固くなった気がする……柔軟な発想が想いつかない。

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