ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind   作:坂道

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久しぶりに……一週間経たずに……更新……ヤバイ……倒れそう

頑張りました…作者的に

ではどうぞ!!


悲痛の心

 

 私は……ただ……お母さんを……

 

 

 リビングは鉄のにおいと赤く染まった父の倒れた姿、そして私を抱きしめたまま身を寄せた母……

 

 私が身体を動かそうとすると、母の冷え切った手が私の背筋から離れ、ゆっくりと斜めに倒れた。

 

「お姉ちゃん?」

 

 先までの怒声・暴言から一変し、静寂を保っていた部屋から震えた声が響き、私の背筋に電気がはしったかのような感覚を感じ、首を少しずつ声の下へ向けると、開ききったリビングの扉の前には弟の恵太がいた。

 

「は……華太……」

 

 床に腰を落とした身体を起き上げようと手を床につけると、手に纏わりついた液体が目に入った。両手を手前に挙げながら赤く染まった両手を小刻みに震わせる。辺りを見渡すと、同じ色した母と父の姿があり、窓には薄っすらと映る自分の赤い姿があった。

 

「これって……血……」

 

 止まっていた思考が動き出し、直視した光景を疑った……違う、認めたくなかった。

 横たわった母の胸元には、私が台所から持ってきた包丁が突き刺さっていて、そこから流れるように血が床に拡がっている。父も同然に首から流れた血が床に拡がり、拡がった母と父の血が混ざっていた。

 衝動で口を押さえると、手に付いていた血が頬に付着する。生温かい血がより一層私の信じたくない光景を現実のものへとしていった。

 

 ……いや……違う……私は……

 

 自分のしたことを肯定したくなかった。膝をガタガタさせ身震いしながら、嫌でも目に入ってします光景。頭に渦巻く思考が自分を追い詰めていく。

 心臓をバクバクさせ、うまく呼吸ができず今だ感じたことがない苦痛・恐怖が頭を駆けめぐる。

 

 ……私が……お母さんを……ころ……

 

 頭に浮かべたくなかった言葉が思考によぎる。もう消し去る方法は一つしかなかった。喉から勢いよく悲鳴をあげること、私は耐えられない感情を声に変えようとした瞬間だった。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」

 

 別の悲鳴……弟の悲鳴が私に代わり部屋全体を響かせた。今の悲鳴で負に埋め尽くされた思考が甦り、私は華太を落ちつかせるように抱きしめていた、お母さんがしてくれたみたいに。 華太は落ちついたかのように目を閉じ、気を失ってしまった。

 

 あれから色々あった。華太の悲鳴で近所の人たちが来たり、救急車で病院へいったり、祖父と祖母がわざわざ横浜から駆けつけてきたくれたりと沢山。

 警察から事情聴取されるがとても喋れる状態じゃなく、後日受けることになった。祖父と祖母に優しく抱きしめられていたが、私は頭の中である事を考えていた。

 私が母を殺してしまったことが世間に広まれば、私はこのままどうなってしまうのか。

 祖父と祖母に迷惑をかけてしまう。それだけじゃない、学校の友達や先生、近所の知り合いに差別や軽蔑されたり……そんな考えが私の心にざわめいていた。

 そして一番に……私の心に引っかかること……あの場にいた弟の華太のこと。華太は私が母を刺したことを目撃している……終わりである。

 

 不安が増大していく中、クリスマスの深夜、華太が病室で目を覚ました。私は華太に会うのが恐かった。華太が私を蔑んだ目で見ていると思うと……。祖父母が病室に入っていき、私は看護婦さんに背中をそっと押さえながら病室に入った。

 そこにはベットに座りながら呆然としている華太の姿があったが、少し様子がおかしかった。

 

「華太……」

 

 私は思わず声をかけると、華太は私の方とは少しずれたところを見ていた。いつもの華太だ。しかし周りの様子は喜ぶどころか、暗い空気に包まれていた。

 華太は笑顔を作り涙が零れながら、私がいるところとは別の方向に顔向けていた。まるでそこに私がいるかのように……

 

「お姉ちゃん……ごめん……」

 

「どうして謝るの……」

 

 頭に浮かべていた最悪の状況が心を占めていた。でも私が考えてたことは別の……残酷な答えが返ってきた。

 

 

「目が……目が見えないんだ……」

 

「え……」

 

 

 

 弟は精神視失障害という目の病にあっていた。病院の先生が聞く限り、精神的な心から来る障害らしく、親の目の前の死にショックから精神的に目が見えなくなったという。精神面での障害は回復が今でも難しいと言われていた。

 

 翌朝、私は警察の事情聴取を華太の病室で受けることなり、最後まで私は嘘を吐いてその場を誤魔化していた。包丁には母と私の指紋が付いてあり、私は事も在ろうか母が私を殺そうとしたと言ってしまった。

 最低だ……私を止めようと庇った母を殺人者に下仕上げようしている自分がどれだけ醜いんだろと……どちらにしても、華太の証言で私は終わりだ。華太は間違えなくあの場を見ている。私は母の殺害がばれる事を覚悟した。

 刑事の一人が華太に証言を求めた。

 

「うん、お姉ちゃんはお母さんに……殺されかけてた」

 

 私は華太の口にした発言に耳を疑った。華太はその後も刑事の質問に素直に答えていた、私が殺した事以外は。

 

 事情聴取が終わり、祖父母たちは警察を病院の外まで見送りに病室を後にした。

 今は昼過ぎ、丁度お腹が空く時間である。

 

「お腹空いたね、お姉ちゃん」

 

 窓が見える日の光が個室の病室に射し込み、日の光の暖かさを感じながら華太は窓の外に顔を向けていた。閉じた瞼をのまま無邪気に笑う弟の姿を見ながら私は恵太に問い質す。

 

「華太……私……」

 

「あれは事故だよ……」

 

 問いかけたようとした私を遮り、華太は話し始めた。

 

「お姉ちゃんは、お母さんを守ろうとしたんだよね……僕……ちゃんと見てたからわかるよ」

 

 私は開けた口が塞がらず、同時に目頭が熱くなっていた。

 

「お姉ちゃんはやさしいもん、僕いつも助けられてばかりだから」

 

 華太は私がいるであろう方に顔向けると椅子に座った私を捜すように両手を動かし私の震えた手を握った。

 

「お姉ちゃんは何も悪くないよ……だから泣かないで……」

 

「ごめん……ごめんね……」

 

 一度押さえた気持ちを押せることが出来ず私は泣き崩れてしまった。目が見えないのにも関わらず華太は小さな手で優しく私の握り締めた手を包んでくれていた。

 

 

 この日から私は自分の胸に誓った。私が華太の目になり……守ると……

 

 

 私たちはその後多事多難を乗り切り、祖父母の実家の地元である横浜に引っ越すことになる。

 弟は【横浜港北総合病院】の心療施設に定期的に通うようになり、私が華太の付き添いで一緒に通うになった。

 

 そして私たちはそこで仮想世界の運命的な出会い果たす。

 

 

 

------------

 

 

 

『ねぇ知ってる、華美の母親って自分の夫を殺したらしいよ』

 

『えぇ~怖い、華美には近づかないほうがいいかな?』

 

『華美さん、スタイル良いからモデルにでもなったらいいのに』

 

『ば~か、華美は弟のことで忙しいからそんな暇ないって』

 

『可哀想だよね、弟さん目が見えないらしいよ』

 

『やっぱり元気付けてあげようよ』

 

『でも人殺しの子よ、私はちょっと……』

 

 見るな……同情した目で……私を見るな……

 

『人殺し……』

 

 違う……

 

『人殺し……』

 

 

 

「イヤァーーーーーー!!」

 

 混沌とした場所から反転したかのように視界が切り替わり、一室の窓辺から日の光がローゼルを照らしていた。

 

「はぁ……はぁ……夢?……」

 

 ローゼルはあらかじめ予約していた宿屋の個室のベットの上に居た。自信の悲鳴ともに身体に冷や汗をかきながら悪夢から覚めたように呼吸が乱れている。

 

「……夢じゃない……全て事実……」

 

 ベットの上で三角座りになり、掛け布団を肩から包むように身を包み身体を震わせる。覚めることのない悪夢がローゼルの心を襲い、精神ともに参っていた。

 

「そうだ……早く資金を貯めないきゃ……華太が……」

 

 ローゼルはベットから立ち上がり、部屋においてある三面鏡の目の前に立つと、鏡には下着姿の自分が映っており、右の太腿に巻きつけた短剣付きベルトをから短剣を抜き取り、首下を短剣でなぞりながら鏡に映る自分の姿を睨んでいた。

 

「その前に……あの人を……」

 

 

 

//////////////////

 

 

 第37層<港の街 カプワトリム>

 

 第37層の北西部の海岸沿いにある海が見渡せる【港の街 カプワトリム】。

 港と呼ばれるだけあって魚類の素材アイテムや水付加系の武器が港の市場で販売されている。最近まではイベントクエストで船に乗り、海上の船から出現するモンスター討伐するクエストが有名であったが、イベントボスである《深海の龍 リヴァイル》が討伐されてからはこの街に訪れるプレイヤーはほとんどいなくない。季節限定海上クエストは封鎖され、今はクエストを受けることが出来ない。

 唯一の目玉であった海上クエストが封鎖され、カプワトリムには現在NPCしかいない状況である。

 

 レトは今は船着場で釣竿構えながら海と睨めっこしていた。

 

「……釣れないな」

 

 石造りの岸に腰を落としながら、海から吹く塩の風がレトを憂鬱にしていた。レトは依頼掲示板に掲載されてあった《黄金魚》という素材アイテムを釣りにきている。依頼主は常連客のクラインで、《黄金魚》から剥ぎ取れる《金の鱗》を一つを採取してくるという依頼である。

 黄金魚は出現率がかなり低く、釣りスキルと根気が必要である。

 レトの釣りスキルの熟練度500と高めだが、それでも確率が10%と上がるくらいである。

 

 すると、後ろから何者かが近づく気配を感じた。レトは振り向きもせず背後にいる者の名前を名乗った。

 

「……着たか、ローゼル」

 

 臍が見える露出が多い黒の服を着た、夜中と同じ装備をしたローゼルが後ろに立っているのが足音で分かった。

 

 ローゼルは返事を返すことなく、メニュー画面からデュエルを選択し、レトにデュエルを申し込んできた。落とした腰を上げ立ち上がり、ローゼルの顔を窺ったが、ローゼルは顔を俯かせたまま無言で立ち尽くしていた。

 

「どうやってここに居るのが分かったんだ?」

 

「昨日の夜に、私が勝手にフレンド登録しておいたのよ」

 

「なるほどな……」

 

 昨日とは違い、仮面を被っているレトを目視したローゼルはコートの下に隠れた太腿に付けてある短剣に手が伸びていた。

 レトはアイテム欄を開き、何かを取り出そうとしていた。

 

 ―武器を取り出すつもりか?……その気になったようね……

 

 ローゼルはデュエル承認画面を横目にしながら戦闘体制に入ると、レトは何か細長いものをローゼルに放り投げた。短剣を取り出して一瞬斬ってしまいそうになるが、すぐに投げ出され

た物を認識し、振り上げかけた短剣を納め、両手で掴んだ。

 

 ―釣竿?……

 

 手に受け取ったのは何の変哲も無い釣竿であった。

 

「さぁ、手伝ってくれ」

 

「はぁ?」

 

 ローゼルはキョトンとした顔をしながら呆気にとられていた。レトは腰を下ろし、釣り針に餌を付け、グリップを片手で持ちながら釣竿を振り、釣り糸が海へと放り投げられた。

 レトは足を崩して胡坐をかきながら最初と同じ体制に戻った。

 

「ちょっと!?、何のつもりよ!?」

 

「何って……あ、分かった。釣竿の使い方が分からないんだな」

 

 レトはローゼルに近づき、自分が使用している手に持った竿をローゼルに持たせ、ローゼルが手に持った釣竿を手に取ると、先ほどと同様のことをした。

 

「後はそのまま獲物を待つだけ、簡単だろ?」

 

「そうじゃなくて、私はあなたを……」

 

 すると、ローゼルの握り締めていた竿が、ピョンピョンと引いていた。レトは海面を覗くと金色に光る物体が海面から透き通って見えていた。

 

「ローゼル、当たりだ。竿を放すなよ!」

 

「え、ちょ……」

 

 ローゼルが呆然としていると、急に竿に強く引っ張る感覚が手にきた。ローゼルは反射的に竿を両手で持ち上げるように引くが、びくともせず寧ろ力負けしていた。

 

―あれ?私、何でこんな事してるんだっけ……

 

 目的を思い返そうとするが、強く引く竿に思考が遮られ考えることが出来ない。地べたに体重をかけ、足を引こうとしても相手は疲れることなく引き続ける。地に着けた足がズルズル引きずられ竿が奪われそうになる。

 すると仮面を被ったレトが隣に立ち、ローゼルが持った竿を一緒に引き始める。

 

「よし、もう少しだ……後は釣竿の耐久値を信じるしかない!。ローゼル一気に片を着けるぞ」

 

「う、うん」

 

 ―私は無意識に返事を返してしまった。彼の手は私の手に触れながら一緒に釣竿を引っ張ると、海面から金色に輝く50cm程度の魚が飛び出してきた。

 

 二人は魚が飛び出た後、勢いよく後ろに倒れてしまった。手から離れた竿には魚は釣り針に口を吊らされながらピチピチと動いていた。

 

「もうなんなのよ、ったく…………?」

 

 ローゼルは倒れた身体を起き上げようとすると、胸に妙な感覚があるのに気付く。視線を下に向けるとレトがローゼルの胸に顔をうずめているのが目に入った。レトが背中から倒れてローゼルが上にのしかかった状態になっていた。

 ローゼルは今の体制を理解し顔を赤面に変えながら、レトから離れる。レトは気がついたかのように背中を上げた。

 

「あ~すごかったな、大丈夫かローゼル……ローゼル?」

 

「こ、こ、こ……この変態!!?」

 

 ローゼルはレトの隣から握り拳を作り、顔が隠れた仮面を思い切り殴った。レトは殴られた勢いで転がりながら海面へ落ちていってしまった。ローゼルは息を荒ただしながら、胸を押さえていた。

 

「痛いじゃないか……痛くないけど」

 

 ギリギリに手を付け、落ちるのを間逃れたレトは仮面を心配しながらよじ登ってきた。

 

「あなたが悪いんでしょ!?、私の……私のに顔をうずめるなんて!?」

 

「ち、違う、あれは事故だ!?、それに仮面越しだから感触は……」

 

 レトは逃げるように釣り上げた《黄金魚》の下に駆け寄り回収した。ローゼルは羞恥心を振り払ってレトの下へ近づく。

 

「なんで私にこんな事させた……」

 

「昨日約束しただろう、釣りの依頼を手伝ってくれるって」

 

「そんなこと信じてたの……」

 

 ―始めてあった時からこの男は変だと思っていた。どこか得体も知れない私に迷いもせず喋りかけてきたこと。最初は誘導して部屋に入り込もうと企んでいたけど、こいつは自分から部屋に誘ってきた。この状況で話に話しかけてくる男なんて疚しいことしか考えていない野郎ばかりである。でもこの男から下心を感じられなかった。

 

 レトは釣竿をしまうと、ローゼルに顔を向けると仮面から見える真っ直ぐな瞳がローゼルを目をしっかり捕らえていた。

 

「ローゼル、今からでも遅くない……PKをやめるんだ」

 

「どうせそんな事だろう思った……」

 

「君が理由もなく睡眠PKするとは思えないんだ。理由があるんだろ、話してくれ」

 

「コルのためよ、他に何があるって言うの……」

 

 ―嘘だ。本当は……弟を……

 

「本当に……それだけなんだな」

 

「そうよ……もう良いでしょ、こうなったら無理にでも……」

 

「だったら、俺のギルドに入るんだ……」

 

 ローゼルは急なレトのギルドの勧誘に度肝を抜かれた。

 

「俺のギルドでコルを稼げばいい、それならもうPKなんてしなくていいだろ」

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ、私はあなたを殺しにきたのよ!?。そんな嘘に……」

 

「嘘じゃない……」

 

 レトは下ろしていた右手をそっとローゼルの前に差し出す。

 

「君にはこれ以上、罪を重ねて欲しくないんだ」

 

 ―何で迷いもせず手を差し伸べるのよ。訳が分からない……私はあなたを殺すって言ってるのに……

 

「同情のつもり?……私はもう何人も人を殺してるのよ。血盟騎士団だって動いている……私を認めてくれる人なんてもういないわよ」

 

 ローゼルは差し伸べられた手を払い、レトをキッと睨みつけ、短剣に手が伸びる。

 

「そうだな……確かに同情なのかもしれない」

 

 振り払われた手を握り、もう一度ローゼルに手を差し伸べた。

 

「それでも……ほっとけないんだ、君のこと……」

 

 ローゼルは一瞬母の姿が思い浮かんだ、レトと重ねるように

 

『大丈夫よ、華美』

 

 母の優しい声が脳裏を駆けた。母もいつも怖がっていた私に何度も手を差し伸べてくれていた。でも今のローゼルにはそれが悲痛でしかなかった。

 

「し、信じられるわけ……」

 

「君が俺を信じなくても、周りが君を認めなくても……俺が君を信じる」

 

 仮面越しでも分かる、彼の声が優しい表情を表してた。その伸ばした手を掴みたい……そうを思った。手を動かしかけた瞬間、ローゼルの心に悪魔のささやきが聞こえた。

 

『人殺しが……血まみれの手をまた他人につける気か……また裏切るかもしれないわよ……』

 

 やめて……どうせまた裏切るんでしょ……あいつらみたいに……これ以上……

 

 触れかけた右手を下ろし、また短剣に触れていた。

 

「ごめんなさい……」

 

 ローゼルはうつろな声を漏らしながら囁く。その後大きく足を引き、レトから距離をとった。

 

「あなたを殺さないと何も信じられない……」

 

 ローゼルの冷たい目がレトの瞳と重なり、短剣の刃をレトに向けていた。

 

「そうか……」

 

 レトはどこか寂しげな声を呟くと、右手を下ろした。

 

「なら場所を替えよう……ここはまだ人が来る可能性がある……」

 

「わかった……」

 

 

 

//////////////////

 

 

 第40層 迷宮区 ボスの部屋

 

「ここは……」

 

「ボス部屋だ、ここならモンスターが出現しない。プレイヤーも来ないだろう…」

 

 二人が訪れたのはつい数ヶ月前にボス攻略があったボス部屋。ボス部屋はボスを倒した後は次の層へ続く階段があるだけである。攻略後に訪れるプレイヤーはまずいないだろう。なぜなら態々険しい迷宮区を経由しなくても転移結晶を使用すればその次の層にマッピングされた街に転移できるからである。

 

 部屋に入るとたいまつが灯火、辺りを明るくした。部屋は四角形の古い西洋の城の中をイメージしたようなレンガの床と壁が拡がっていた。

 

 扉の前でローゼルがその部屋の独特な雰囲気に息を呑むと、レトはボスが座っていたであろう台座の前まで足を進め振り返り、装備画面から《鏡想》とマントを選択し装備した。腰に巻いてあるベルトの鞘を納めて、紅のマントを纏ったレトがローゼルに視線を移す。

 

「本当にこれしかないんだな……」

 

 ローゼルは黙って沈黙で返事を返す。

 

 目の前にデュエル画面が表示され、昨日と同然【完全決着モード】が表示されていた。

 ローゼルは短剣を右手で構えながら、コツコツとブーツが皇かな石面を踏むたび静けた部屋に響き渡る。二人の距離は大体15m位の距離感をつくっていた。ローゼルが承認ボタンを押し、レトも一度は止めた手で承認ボタンを押す。

 

 デュエル開始のカウントダウンが始まり、ローゼルは短剣を逆手に持ち踏み込む体制に入っていた。

 レトは納めた刀を鞘から徐々に抜き取る。鞘と刀が擦れあう擬音が鳴り、鏡のような刃紋が現れる。刀を両手持ちの中段構えに、瞼を閉じ息をゆっくり吸い込み深く息を吐く。

 二人にしかいない空間に静寂を緊張の糸が縫う。

 

 互いの目は交差し、カウントがゼロに換わった瞬間、【DUEL】の文字が表示された。

 

 開始と同時に瞬時にローゼルは地を蹴り踏み出すと思われたが、左手に隠していた煙玉を床に放つ。レトは踏み込みかけた足を止めると、煙から五本のピックが垂直に射るようにレトに迫る。刀を縦に構え、最小限の動きでピックを弾く。予測していたわけではないがレトはローゼルがピックで先制を仕掛けると踏んでおり、昨夜の戦いで学習していた。

 煙から飛び出すようにローゼルは左手でピックを投げながらレトに接近する。レトはその場を離れることなく、刀を右手で器用に回転させピックを切り落とす。その隙を狙い短剣で攻撃を仕掛けるが、レトはすぐさま刀を左手に持ち構えなおし、ローゼルに振り切る。しかし短剣で攻撃すると思いきや、勢いよく地を蹴りレトの真上で身体を曲げながら両手から無数の小型煙玉を撒き散らす。

 レトの視界は煙に包まれ周りは黒い煙一色になる。煙から脱出しようと足を動かすが、レトは自分の聴覚スキルに反応し、短剣が飛んでくる音を微少に感じ取り、大きく横へ跳ぶ。短剣が横に通り過ぎるのを認識すると今度は別の方向から先ほどと同じ短剣が飛んでくる。レトは咄嗟に床に落ちてあったピックを手に取り、短剣を避け飛んできた方向へと投げるが、レトに投剣スキルの熟練度は高が知れており、目標が定まるはずなく無残に床に落ちる。

 ローゼルが投げている短剣はソードスキル【クイック・シフト】による剣の高速回収。投剣スキルの熟練度と投剣スキル連続使用回数により、取得できるレアスキル。このスキルを使用することで素早く手に戻すことが可能になる。

 ローゼルは高い索敵スキルを活かし煙の中にいるレトを確実に捕らえながら遠距離からの投剣とピックの攻撃を止めない。レトが煙から出ようとするとローゼルのピックが身体を射抜く。煙の中のレトを中央に固定するかのように周囲を徘徊しながらアイテムポーチから取り出したピックが備えられた帯状のホルダーを肩に掛け無数のピックをレト目掛け投げつける。

 レトは全てのピックを弾くことはせず、たまに飛んでくる黄色いピックを確実に弾いていた。黄色のピックは麻痺が付加されており、この状況で麻痺になるとレトは確実にこの前のように負けてしまう。

 

 物凄い速さで飛んでくる短剣と麻痺付加ピックを防いで入るが確実にレトのHPバーは他のピックにより徐々に削られていた。

 

―レト、あなたはもう十分頑張ったわ……でもこれで終わり

 

 煙が晴れ、無数のピックが体中に突き刺さったレトが地に膝を着かせていた。かなり惨い姿ではあったがHPバーがまだオレンジを保っていた。膝を着いたレトの背後を短剣で突き刺しにいく。レトは気付いていないのか、刀を杖のようにしながらふらふらしていた。

 ローゼルは最後の一撃、ソードスキル【サーペント・エッジ】をレトの背中を目掛け振り切る。相手に流れような七連撃を刻み込む短剣の上位スキル。

 

―決まった………?

 

 ローゼルは切り刻んだレトの身体に違和感を感じる。今の攻撃で確実にレトのHPバーがなくなるはずだ。しかしレトは身動きもせず膝を着いているまま、何かがおかしい……斬った感覚がない。すると、レトの身体がぶれ始め蜃気楼のように消えていく。

 

―まさか、隠蔽スキル!?

 

 技の硬直から解除され、索敵スキルで周りを見渡したときには、レトはもうローゼルの間合いに入っていた。

 レトが使用したのは隠蔽スキル【陽炎・壱式】、自分のダミーを出現させ相手を惑わすスキル。ローゼルの索敵スキルの解除を狙い、煙が晴れた瞬間を同じポーズをとったレトの幻想の身体を出現させ後、賺さず隠蔽スキルで床に擬態し奇襲を仕掛けた。相手が索敵スキルが高いと簡単に見破れてしまうが相手の油断した隙を狙って行動である。

 レトは斜め左から刀を片手右持ちで振り下ろすが、ローゼルは必死の抵抗で【ターン・スライド】でレトの背後に回る。強く握り締めた逆手持ちした短剣を今度こそレトの空きだらけの背中を突き刺さると思われたが、レトは左手に掴んだある物を使いローゼルの短剣を背中を向けながら受け止める。

 

―鞘で……防いだ!?

 

 レトは腰のベルトに掛けた鞘を左手で抜き取り、背後からの攻撃を防ぎ、身体を旋回させながら右手の刀を横薙ぎに一閃する。ローゼルは咄嗟に短剣で刀からの攻撃を耐えるが弾かれるように上に浮かんだ。

 

「くぅっ!」

 

 ローゼルは思わず防いだ刀の重さに顔をしかめると、レトは右足を軸に地面を摩り込むように無駄に回っていた。

 ローゼルは空中でピックをレトに投げつけようとするが、レトの周囲に異変を感じる。

 

―また隠蔽スキル……違うなんだこれは!?……

 

 身体の素早く回転したを身体止めた後、レトは背中を向けながら左手の持った鞘に刀を納めると周りから風の渦が発生し始める。ローゼルは風の渦に引き込まれ、レトの間合いに引き寄せられる。

 

―抵抗できない!?……

 

 ピックをレトに投げつけるが風の渦によって逸らされる。

 

「【風陣烈渦】……」

 

 鞘を納めきり抜刀の体制に入る姿が見えレトの鋭い眼光がローゼルを動揺させる。ただ闇雲にピックを投げ続けるがレトに届かない。ローゼルは抜刀だとしても、システムの補助がなければただの通常攻撃と考え冷静に防御の姿勢に入る。だがレトの抜刀?の構えが変であった。

 レトは左の腰に掛けた刀を右手で握ることはせず、左手で刀の柄を逆手で持つ妙な構えをしていた。鞘に納まった刀が光り始める。

 

一体何を……ごはっ!?

 

 すると、ローゼルは腹下を殴られるような衝撃を食らう。レトは逆手持ち刀を左手の柄頭で思い切り突き殴っていた。納刀状態でソードスキル【フェル・クレセント】を無理矢理発動させ、瞬時に踏み込むモーションを利用した柄による突き。

 そのままローゼルを押すように壁まで突き進み壁に打ち付け、刀が逆手に抜き取られている。ローゼルは左手に持った短剣で反撃しようとするが、右手から抜き取られた鞘によって弾き落とされる。

 

「うそ……今の今まで私が優勢だったはず……」

 

「教えてやろうか?」

 

 レトはローゼルに助言するかのように答える。

 

 

 

「デュエルの真髄は……一気に決着をつけることだ……」

 

 

 

 




次回はレトの反撃から始めたいと思います。今回誤字多そう(汗)

戦闘を書くのが難しいです。

今回の話に感想や疑問・質問がある読者様は、感想までよろしくお願いします。
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