ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind 作:坂道
そのCDシングルに収録されている「Velvet Tears」と
通常盤に収録されている「last forever」という曲が大好きでいつも聴いています。
この小説のOPとEDになって……すいません調子乗りました
遅くなりました………どうぞ
希望と絶望……意味が違ってもそれは大差がないのかもしれない
「それじゃ華太は!!」
「うん、仮想世界なら目が見えるかもしれない」
横浜港北総合病院ではNERDLES技術を利用した試験医療用フルダイブ機器《メディキュボイド》の導入が進められていた。現在は民生用NERDLESマシンの第1号機《ナーヴギア》という家庭で仮想世界に入ることが出来るゲーム機器があり、その技術を医療専門に転用する計画が開発者は神代凛子を中心に進められている。
しかしまだ飽くまで試験段階で全国病院に導入されることが困難となっている。
横浜港北総合病院では《メディキュボイド》の臨床試験に協力してもらえる視覚障害などの患者を求めていた。
そこで視覚障害者である華太が「テストの被験者にならないか」という病院からの提案が持ち出された。協力といっては聞こえは良いが臨床試験とは治療効果を評価す目的で人を対象に行なう科学的実験のことである……つまり、サンプルにされるということ。
私は最初は反対だった……けど、華太はもう一度自分の目で何かを見たいという願いがあった。
「華太……ほんとに良いの?」
「うん!、僕がテストに参加して実験成功すれば、日本でもこの医療が勧められるんでしょ?、だったら僕は協力したい」
「でも華太にもしものことがあれば……私……」
「お姉ちゃん……僕嬉しいんだ」
「嬉しい?」
「そう、目の見えない僕が誰かの役に立てるのがとっても嬉しい……だからお姉ちゃん……」
「……わかった。お姉ちゃんも華太のこと応援するね」
私と華太は長いこと会えない日々が続いた……一ヶ月に一回ほんの少しの面会時間が恵太と会える唯一の時間だった。私は横浜の高校に通いながら華太の帰りを待っていた。実験は夏まで続き、やっと実験が成功したという。
私と祖父祖母は急いで臨床試験が行われた病院へと向かった。そこでは華太がベットで膨大な機器に囲まれた姿があった。
私は少し不安になったけど、《メディキュボイド》の基礎設計者である今世間で有名の茅場晶彦が私にナーヴギアを装着するように言われた。
ナーヴギアを起動させ、意識が遠のいて行くときは怖かったけど……その先に見えた華太が両目をパッチリと目を開いた姿が私の目に飛び込んだ。
「華太……」
「お姉ちゃん……僕……見えるよ、お姉ちゃんと同じ景色……ちゃんと見えるよ」
「……うん、見える……見えるね……」
私はあまりも直視した現実が嬉しすぎて、仮想世界で号泣してしまった。実際に現実で目が見えるわけではないけど、それでも私たちは喜びを分かち合った。
実験に取り組んでいたスタッフに何度もお礼を言った、もちろん茅場さんにも。でもあの人は顔色一つ変えることはなかった。その後、茅場さんに呼ばれた私と祖父は父が極秘に「アーガス」でSAOの開発に協力していたことを。父はそこでSAOのある階層で父が担当した仮想空間があると聞かされた。
「何でそんなこと私に……」
「彼は君たち姉弟に「妖精の花火」を見せて上げたいと言っていた」
「妖精の……花火……」
そのときは私は、ふと父との小さな約束を思い出した。まだ幼い頃である、父は昔から気難しい人だったけど……よく私は父に絵本を読んでもらっていた。
洋話の絵本……タイトルは『フェアリィ・ダンス』
私はその絵本が大好きで何度も父の膝の上で読ませて困らせていた。
『華美は本当にこの絵本が好きだな。もう100回以上は読んだ気がするぞ』
『だって、お父さんが買ってくれたはじめての絵本だもん』
『そうか』
あの頃の父はとても温厚な優しい人でよく甘えていた記憶がある。父は私が小さい頃から朝から晩まで働き詰めで中々相手をしてもらえなかった。休日になったら、絶対に一回は絵本を読んでもらった。何度も開いたり閉じたり絵本はボロボロになっていた。
『ごめんな華美、お父さん……誕生日もろくに祝ってあげることが出来なくて……』
『ううん、お父さんはお仕事がたいへんだってお母さんが言ってもん。だから華美もがまんする』
『お前は本当に良い子だな……そうだ、どこか行きたい場所はないか?』
『お父さんも一緒?……』
『ああ、家族みんなで行こう。華美はどこに行きたい、お父さんがどこにでも連れて行ってあげるぞ』
『う~ん…………あ!、ここがいい』
私は手に持った絵本を両手で大きく開いた。その絵本のページには物語の中に登場する妖精の家族たちが夕焼け照らされながら笑顔で踊り、沢山の透き通った花びらが花火のように幻想的に散っていく場所。何とも女の子が言いそうなファンタジックなことである。
『そ、それはさすがに無理かな~』
『え~!、さっきはどこにでも連れて行くっていったのに……』
『……わかった、いつかそこに連れて行ってやる!』
『ほんと!?』
『うん、じゃあ指きりをしよう』
『うん!!』
私がお父さんに約束した……一番優しかった頃の思い出。お父さんが変わり始めたのは「レクト」に務め始めてからである。その頃から私は父に距離を置くようになっていた。あの時は……とても悲しかった。
「SAOはβテスト中でね、ぜひとも君にはそのフロアを見つけ出してもらいたい。私にも場所がわからなくてね」
差し出されたナーヴギアを両手で持ちながら遣り切れない思いがあった。今の私には自分の罪と父への憎悪しかなかった。
「私……」
「無理にとは言わない……だが、それは君の父が君に残したかった唯一のメッセージ……探してあげてはくれないか……」
「…………はい」
譲り受けたナーヴギアを持ちながら祖父が華美の背中をそっと押しながらは弟のいる病室へ戻っていた。
(カーディナルにも介入できないエリア……彼には極秘でSAO開発に協力して貰ったがまさか亡くなっていたとは……工藤 渉は私にも干渉できない別のプログラムを……ふん、侮れないな)
茅場は不適な笑みをしながらその場を後にした……彼が求めた仮想世界の管理に
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2022年 11月
メディキュボイドの臨床試験は無事に成功し日本での正式公認が決定した。しかし飽くまで日本の医療機関にメディキュボイドが認められただけである。日本で本格的に配備されるのは来年からであるが、華太の勇気ある行動がメディキュボイドの公認を早めたのは間違えない。
私は茅場さんが言っていた父が製作担当したエリアをβテスト期間に見つけることが出来なかった。華太はあれからというもの、まだ目が回復していないのにも関わらずすごく元気になっていた。それは仮想世界との出会い、私たち姉弟は自然と仮想世界に惹かれていた。
βテストを終え、SAOの公式サービスが11月7日の13時00分に始動、ゲームを手に入れた約一万人のプレイヤーたちが一斉にログインを開始。
私のプレイヤーネイムはβテスト中にも使用した「ローゼル」、弟は「ホープ」。私と華太もこのゲームにプレイするのを楽しみにしていた。
でも私の一番の楽しみは華太と仮想世界で同じ景色を見ること、そしてβテストで見つける出すことが出来なかった父が残したという隠しエリアを見つけ出すこと。
最初は探したくなんかなかった、父を殺そうと包丁を向けた非道な娘が探し出していいものなのか分からない……それでも今亡き父の唯一の遺言かもしれない。
しかしデスゲーム開始により、私たち仮想世界の明るい希望の道は……暗い混沌の道へと変わった。
私は華太と一緒にゲームの攻略を目指していた。私はβテストで積み重ねた経験で大体の知識は身に付いており、ボス攻略にも顔出したことがある。華太は私に比べてまだ戦闘がおぼつかなく回復アイテムのバックアップなど、なるべく戦闘に参加させなかった。
華太は守られてばかりで嫌だと言っていたが、私はそのほうがいいと思っていた。
あの日から決めた……そう、クリスマスの日から決意した―華太は私が守る。華太は私にとっての生きる希望であり、私が生きている意味である。私は罪を犯して裁かれべき存在、私に自身に生きている意味はない……そう考えることしかできなかった……自分を否定することしか。
死のゲームが始まった一ヵ月半たった頃である。マップでのレベリングを終え、私たちは宿へ帰ろうと街に戻ってきた。今日は二人とも疲れて今すぐにでも宿のベットで眠りに尽きたかった。華太と他愛も無い話をしながら宿の入り口のドアノブに手を掴もうとする時だった。
ブツン、と急に世界が暗転し始め、意識が遠くなる感覚に襲われた。周りを見渡すと他のプレイヤーも様子がおかしく次々にその場で倒れていってしまう。視界が真っ暗になり意識がなくなった。
私が意識を戻したときには宿の目の前で倒れていた。意識が朦朧とした中、何が起こったのか状況を整理した。よく見ると視界に表示された時間が変わっていた。
意識が遠のく前は18:30だった時間が今は次の日の深夜の2:30になっていた。意識に空白の時間生まれたのが確かであろう。
周りにはまだ倒れているプレイヤーがいる……!?、華太がいない!?。意識が遠のく前は確かに横にいた華太の姿がなかった。
私は必死に姿を消した弟を捜し回った。しかしどこにもいない。諦めかけた瞬間、一通のメールが届いた、恵太からである。私はフレンド登録をしていたことを思い出し、華太の居場所を検索すると街の外の圏外にいた。私は急いで華太の下へと向かった。
森の抜けた先の広い丘の上に恵太と見知らぬ長髪プレイヤーがいた。
「おねえちゃん!」
「華太どこに行ってたのよ、心配したんだから……」
「おねえちゃん、きちゃダメェ!?」
華太が叫んだときには遅かった、私は岩陰から隠れたもう一人の気付かず背後から武器で刺される。身体が痺れた様に動かなくなり、岩陰に隠れたプレイヤーが歯を出しながら薄気味悪く笑っているのが目に入った。謂うことの利かない身体は胸から倒れてしまう。
「あはっ! クリィ~~ン・ヒット、こんな子供騙しに引っ掛かる馬鹿がいるとは思いもしませんでした」
高らかに笑いながら顔をにこにこさせ何度もパァンと拍手を大振り叩き鳴らしながら、かなり変わった口調をした短剣を投げた目が細い緑髪の男がローゼルに近寄ってくる。
―くそ、索敵スキルを張っていればこんなヘマ……
索敵はモンスターの位置や距離、視覚拡大などサポートスキル。これを使用すればモンスターエンカウントを極力避けることができ、隠蔽している魔物も察知できる。華太を探すのに無我夢中になっていたローゼルは索敵を発動させていなかった。
ローゼルに近寄ってきた男は緑の短髪に黒で揃えたロングコート、カマーベストを着こなした青年。男はローゼルの髪を手で鷲掴み、顔を起こされる。
「あ、ジイルさん捕まえましたよ」
すると、丘の上に居たジイルと呼ばれたミステリアスな雰囲気を漂わせる白銀の長髪の黒ローブの男性が華太を連れ丘の坂からゆっくりと降りてくる。男の呼びかけに答えることもなく寡黙な男はローゼルを見下ろす。華太の腕を鎖つきの錠で拘束されていた。
「……瞳が紅くないな……スライ、少年を頼む」
華太をスライに任せ、ジイルは倒れたローゼルの顎を手でそっと持ち顔を近づけた。息が当たるくらいの距離でローゼルは少し顔を赤らめてしまう。
「君のナーヴギアの中を視させてもらうよ」
「え……」
瞳が重なり頭の中がクリアになったかのように思考が真っ白になる。先ほどとは違う……頭の中を視られている不可思議な感覚に襲われる。
「…………だめだ、スキルが削除されている」
ジイルの呟きで視界が晴れるように意識が戻っていた。
「な、何をした……」
「何も害を与えることはしていない、君のナーヴギアのシステムを正常に戻しただけだ」
男が何を言っているか理解できない……それより華太を……
「それでジイルさん、結局こいつのUNスキルはどうなったんすか?」
「ナーヴギアを調べたが、スキルがデバックから消えていた。おそらく数時間前に起きた回線遮断中にカーディナルが排除したようだ……」
実はこの日現実世界ではSAOプレイヤーの回線を一時的に遮断し、病院へ移送する大規模な搬送が行われていた。回線遮断されたプレイヤーは意識に空白の時間が生じている。
「UNシリーズは全部で十機……無事にバックアップを行えたのは、私の№Ⅶとお前の№Ⅵ……そして№Ⅰ,№Ⅲ,№Ⅷ,№Ⅹだけだ」
「つまりあと六機が無事ということですか、あぶなかった~もう少しで頭を電子レンジで焼かれていたわけですね……うん?、でも№Ⅳは何で生きてるですか?―カーディナルに視られたんじゃないんですか」
スライはローゼルに指を指しながらジイルにとぼけたような言い方で問いかける。
「彼女のナーヴギアはあらかじめ茅場晶彦が細工を施したんだろう。ナーヴギアは直接彼から手渡されたらしい……」
ジイルは全てを見透かしたかのように語りながらこの場を離れていく。
「あれ?、どこかへいくですか」
「彼女に用はなくなった……」
「それじゃ俺がコイツらを殺したり殺したり殺したりしても良いってことですよね」
「……ほどほどにしろ」
ジイルは興味がないような目をし、スライに言い残した後、その場を去っていった。話が見えないまま取り残されたローゼルは麻痺の解除を見計らい強攻策に出ようとしていた。
―何を話していたか分からないけど、今なら華太を助けられる
スライは今華太から手を離していた。その隙を狙いあの男を麻痺付加された短剣で突き刺すと考えた。ローゼルはスライの足下の付近で倒れている、距離はもう目と鼻の先だ。ソードスキルを使えば確実に当てることが出来るはず。
「さて、まずはどっちから頂こうかな?」
スライは顔をニコニコしながら先ほど使用していた短剣を指の上で起用に回転させながら腰を落とした華太のほうを顔を向けていた。
息を呑み、男が私から目を背けた瞬間を狙いソードスキルで右手に持った短剣を前へに構え、勢いよく男の腹下に突き刺しに飛びかかる。攻撃が入ったと思った……しかし男は私が突き刺そうとした短剣を背を向けた状態にも関わらず右手首を左手で掴み押さえる。
私は思わず視線を掴まれた手からなぞるように男の顔の向けてしまう。男は不気味に歯を出しながらにたーっと口を動かしていた。
「何してるのかな~おんなぁぁぁぁぁぁーーー!!」
右手首を掴まれたまま引っ張られ、顔を地面に殴るように押し付けられる。
「だぁ~が悪くはなかった、俺じゃなかったら確実に刺されていたかもな」
男の口調が一変し、細め瞼をカァッと開く。男の瞳は深紅に染まっており、蛇のような鋭く見る者を凍りつかせてしまうような瞳をしていた。
軋むように頭を地面に押し付けられる。いくら力を出しても振りほどくことが出来ない。
「ああ~、あまり押し付けてしまうと綺麗な顔が台無しになってしまうな」
「うぁぁ、はぁはぁ……」
スライは押さえていた手を離しローゼルの髪を手で掴み顔を近づける。男はかなり無防備な状態だ、押し縛られたいた手を離された今なら反撃に入れる。しかしローゼルは動くこともせず全身が力を抜けたかのように手に持っていた短剣を落とす。
―力が入らない……身体が重たい……
ローゼルは酷い脱力に襲われていた。腕を上げようとしても鉛を持ち上げるような感覚が全身に回っていた。
「何で体が動かないか教えてやろうか?、俺のスキルだ……」
男は再び目を細め話しはじめる。
「相手を思うがまま操作できる…いや拘束かな?、あんたも感じているだろう鎖に縛られる鉛を持たされたような重みが……」
「そんなスキル……聞いた事が無い……」
「【筋力拘束】(パワーバインド)って言うんだけどさぁ、ユニーク・スキルらしいよ」
「拘束……ふざけないでよ……それにユニークスキルがこんな序盤から……全然フェアじゃない……」
SAOはレベル製MMORPG、ソードスキルに沿ったフェアプレーが基本。確かにスキルよる麻痺・毒などの状態異常などが存在するが、何らかのアドバンテージ制限が掛かるはずだ。
麻痺付加の武器もこんな序盤から簡単に作成できるものではない。ローゼルはβテスト時に麻痺武器の作成を逸早く見つけ作成したが、コルの値がかなり付いた。
「そう、フェアじゃない……俺だけが持っているUNスキル……いや他にも十機いたはずなんだがな。あのジイルって奴も殺したかったが無理だった……まぁ~あんたが俺に敵わないのが変わりないがな」
ローゼルの前髪を掴み、身動きのとれないローゼルを揺らしながら、左手に持っ短剣をローゼルの首下に添え、ノコギリを挽くようにゆっくり斬り始める。切られた部位が赤い筋が開かれHPが減少していく。
「うぅ、あぁぁ……」
「いいねいいねその表情!、漏らした声が色っぽくて殺しがいがあるよ!……」
スライはローゼルの首を武器で左右に挽き苦しむ顔を見ながら、徐々にHPを減らしていく。身動きのとれないローゼルは為されるがまま抵抗することが出来ない。
すると、後ろからスライの後頭部に小石が飛んできた。
「イタい?、なんだぁ」
私が視線の先に見たのは同じく【筋力拘束】に縛られている華太だった。
「ゃ……やめてよ……」
「ああぁ~?」
華太は弱った声で重い錠を両腕につけながら、両手で必死に地面に転がっている小石を投げていた。当たったのは最初の一発だけで、他はスライに届いていなかった。
「お姉ちゃんをいじめるな……」
「へぇ~大した度胸だ、やっぱりお姉ちゃんの傷つく姿見たくないか……」
スライは掴んで髪を離しローゼルはまた倒れてしまう。
「優しいねぇキミ……」
スライはさも嬉しそうな顔で華太の側まで近付き胸倉を掴み持ち上げる。華太は息を荒らしながらスライを強く睨みつける。
「でも一回は一回はだよ」
手に持った短剣で華太の腹を突き刺し、腹に刺さった短剣をぐりぐり抉り横に裂く。華太は恐怖の感情に襲われる。スライは次に華太の手首を掴み持ち上げ両腕が挙がり、吊るされた形になる。
「こうやってさぁ……動けなくなった奴を一方的に痛めつけるのって……」
左に持ったナイフを翳しスキルにより剣が青く光り始め、腕の関節部分に目掛け横に振り斬る。
「楽しくて仕方ないだよ!!」
目を大きく見開き甲高い声を上げる。振り切られた短剣が木を斬り落としたかのように両腕が鈍い音をたて切り落とされる。斬り落とされた腕は掴まれた状態で爆散し一面を赤く散らす。華太は切り落とされた両腕を見て声を震わせ体を痙攣しはじめる。
「あぁ~楽しい。やべぇよなぁ、アガッテキタあがってきたぁー!!次はどんな風に彩ってやりましょうか!」
スライはじっくり華太をHPを減らしていく。腹を蹴り、首を掴んだあと再生しかけている腕に短剣を刺し掻き回す。
「ヒィ! や、アァァァァァー!!」
「あっは、あっはははぁー!!……まだ足りねぇよ」
華太のHPがレッドゾーンに達すると同時に回復アイテムを取り出し、華太を回復させHPバーを緑に戻したあと、体を滅多斬りに短剣を振り回し刻む。
「や、やめて……やめてよ!」
ローゼルは腕を伸ばしながら弟の切り刻まれる姿を見て叫びだす。
「まさにソードアート!!、剣の芸術ぅー!!」
スライの手はとまることがなかった。赤く刻まれていく剣の痕が絵の様に描かれていく。華太の精神は狂気に埋めつかされ、意識が途方に行く。
「なんだ……悲鳴をあげなくなったちゃった」
スライは肩を落とし物足りないかのように軽く鼻を吹く。
「声を出さない人形なんて要らない………………死ね」
ローゼルは「死」という言葉が耳に通り堪え切れない感情を心臓をえぐった。
―死、死、死……死
「やめてぇーーーー!!」
ローゼルの絶叫が響き、スライが我に返ったかのようにつまらなそうにローゼルに視線を移す
「何でもするか!、お願いその子を……華太だけは!!」
頭に渦巻いていたのは他でもない華太を守ること、それしかなかった。
「私の生きる希望なの……お願い……殺さないで……」
「生きる希望……ふぅ~ん、なるほど」
スライは華太の首下を離し、薄気味悪い微笑をしながらローゼルに近寄ってくる。
「いやぁ~感動したよ、君たち姉弟愛には僕も心を打たれた……」
短剣をしまい、ローゼルに顔を近付け目を細める。吸い込まれるような深紅の瞳にローゼルは背筋に悪寒が走りだす。
「なんでもしてくれるんだよね?」
ローゼルは首を必死に縦に振り頷く。
「それじゃ今からPKを……プレイヤーを一人殺しに行ってよ」
「へぇ?……」
「何度も言わせんなよ、殺し行けって言ってだよ」
顔をニコニコさせながら恐ろしいことを口に出すスライ。ローゼルは嫌な汗を掻き焦り始める。殺す……つまり誰が死ぬことを要求している。
「か、簡単に言わないで……人を……こ、ころすなんて」
「別に構わないだよ……そのときは弟くんに散ってもらうけどね」
親指を立て、首下に構え横に斬るように死を表現する。
普通のプレイヤーにとってPKは殺人を意味する。ローゼルにとっては悪夢の蓋重ねある。
母親を殺してしまったローゼルにとっては、人の死はトラウマでしかなかった。うまく呼吸は出来なくなってくる。
「はぁはぁ……なんで私に……」
「そのほうが楽しいかなって思ったんだよ」
この男は壊れている。誰かを殺すのに躊躇いが無い……いや、ただ楽しんでいる。作られた笑顔はどこまでもドソ黒く見える。
「さぁ、早く決めろ。他人が死ぬか……弟が死ぬか」
「わ、わ……」
恐怖と悲痛が心を震わせ、うまく舌が回らなくなっていた。手を強く握り必死に感情を殺していた。
「わかった……殺しにいきます」
「え?、なんだって聞こえないな」
「ころしに……殺しにいってきます!!」
「いい返事だ……今から二時間以内に誰かを…どんな手段でもいい、殺せ……」
ローゼルの拘束を解除し、体に力が戻ってくる。足に力を入れ立ち上がる。
「妙なまねすんじゃねぇぞ、その首に付いた刻印は俺の駒になった証だ。どこに行こうとスキルの効果は継続される……お前が逃げることがあればすぐに俺がお前を殺しに行く」
ローゼルの首には拘束解除と同時に蛇のようなタトゥーが刻まれていた。ローゼルは首に刻まれた刻印を触ると、丘を降り街に駆けていった。
現在は深夜の3:14、私は自分を追い詰めていた。
街ではまだ回線遮断により倒れているプレイヤーがいる。ローゼルはプレイヤーを圏外へ連れ出しPKを試みる。
最もフィールドの出入り口が近いフロアの住宅区でプレイヤーを捜す……ただ闇雲に。住宅区の人気の少ない路地裏でまだ倒れている男性プレイヤーを私は見つけた。圏内でのPKは設定上をアンチクリミナル(犯罪禁止)が発動、プレイヤーには圏内での攻撃によるHPの減少および各種の毒アイテムは一切機能しない。つまり街のアンチクリミナルコード有効圏内では直接的犯罪行為……殺人が不可能である。
私は男に近付き腕を掴み運ぼうと手を伸ばすが、腕に触れかけた手止めてしまう。
―私……何考えてる……この人を殺す……無理よ、何考えてるのよ!……また罪を重ねつもり
―違う!、華太のためだ……仕方が無いの!!
―この人に何の罪はない……酷すぎる
―でも殺さないと華太が……華太が殺される
終わりの見えない思考での意見対立。殺してはいけないという思考と華太を守る思考が頭の中をグチャグチャにしていた。
私は答えの見えない問題に嫌気が差したかのように自身の頭を両手を押さえ悶え苦しむ。
―だからって殺していい理由にはならない!!
―華太が!!
「あぁぁぁぁぁぁー!!」
悲鳴をあげ、考えることを止めた私はその場から逃げるように離れていった。
現在3:30、街はしんしんと冷たい雨が降り注いでいた。走るのに疲れた私は自分が倒れていた宿屋の外で腰を落とし三角座りをしながら雨宿りをしていた。今は何も考えたくない気分だった。しかし制限時間は刻々過ぎていく。
目は虚ろ瞳になり、ただ真っ直ぐ視線を前に降り注ぐ雨を見続けていた。体は雨で濡れて風が吹くたびに湿気った服に風を通し、体は氷のように冷え切っていた。
すると、深夜のレベリングから帰ってきた30代くらいの中年男性が声を掛けて来た。
「君大丈夫かい?、こんな所にいたら……」
私は虚ろになった目を男に向けると、男は目を逸らした。ローゼルは自分の姿を見ると、防具は軽装で衣服が透けて肌が見えるようになっていた。
男は顔を横に向けているが、明らかにローゼルを横目からやらしい目で喉を鳴らしながらローゼルを見ていた。元々ローゼルはかなり美形で美しい女性である上に体の発育が成長した高校生である。男が自然とローゼルを見てしまうのもそのためであろう。
「そ、それじゃあ俺はこの辺で……」
男はその場から離れようとすると、ローゼルは起き上がり男の腕を掴み抱きしめる。
「ちょ、キミ……」
「寒いの……あたためて……」
私は男がチェックインした部屋に一緒に入り、体を売った。男は私の体を愛撫でし発情していた。
気持ち悪かった……だがそれがローゼルの狙い。男は満足したかのように眠りに入りベットで寝ていた。
ローゼルは圏内で殺人を犯す手段……睡眠PK。デュエルならば圏内PKが可能である。
手順は簡単だった、男が寝ている隙にデュエルを申し込み、相手の腕を動かし承認ボタンを押すだけである。準備が整った……殺す準備は……、後は男を短剣でHPを削りきるだけ……だがローゼルは構えた短剣振り下ろすことをしなかった。
あの時の罪悪感が昨日のことのように思い出す。血まみれになった親の姿、私の手についた赤い血……全てが頭の中に甦る。吐き気がする、このまま逃げ出したい。
『お前が逃げることがあればすぐに俺がお前を殺しに行く』
スライの言葉が糸を切らしたかのよう脳裏の思考を止めた。そして考えていたことは……華太を守ることではなかった……他ならぬ自身の命である……
(殺せぇーー!!)
悪魔の手が断末魔ともに逆手に持った短剣を振り下ろした。
「あれ?、帰ってきた……ローゼルちゃんおかえり~」
丘の上で手を振っているスライが目を細めながら、にこにこしていた。ローゼルは足をフラフラさせながら男の前に立つ。
「……もういいでしょ!、華太を返してよ」
「何言ってるんですか……これからだろ……もっと人を殺してもらうよ」
「やることはした華太を返し……」
首筋の蛇の刻印が紅く光、体が重くなり倒れてしまう。
「駒にもう権限なってない……」
スライはローゼルの頭を踏みつける。
「安心しろ契約だ……俺は絶対にお前の弟を殺さない」
ぐったりと倒れている華太の姿があった。憎い……この男が……どんなに憎悪を大きくしても状況は変わらない。
「これから俺たちは同胞だ……なぁ、人殺し」
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あの日から何人プレイヤーを殺しただろう。
スライは500万コルを貯めれば、華太を解放すると約束してくれた。華太とはフレンド登録を解除され逢うこともできなかった。月に一度渡される、メッセージ録音クリスタルで華太の声が聞ける……それだけ唯一の希望であった。
私はスライが創ったレッドギルド「Blood」の連絡係になり、「笑う棺桶」のコンタクトを任されていた。近いうち攻略組を共同で潰しに掛かるという。
私は人を殺すのに抵抗がなくなっていた。でも時折り無慈悲に人を殺める時に涙がこぼれる。壊れてきてるのだ……違う、母を殺めた日から壊れていたんだ……私はもう幸せになってはいけないんだろう。
2023年 10月23日
この日は第40層<ダングレスト>でPKをしていた。
―あと90万コルで華太に会える……
もう私の生きがいはそれしかなかった。虚ろになった夕日は紅く染まているが、美しい景色も私にとってはモノクロにしか映らなかった。
雨が降ってくると安心する……雨に色はない……ただ降り続くだけ……
宿の外でターゲットの攻略組の一人を待ちながら、降り落ちる雨粒が地面に弾けるのを無心で眺めていた。
「どうしたんですか?早く中に入って……」
私の視野に入ったのは紅のマントを纏った逆立った黒髪の青年。男は私に宿に入るように持ち掛けてきた。正直大金を持っているようには見えなかった。
別に風邪をひくわけではない……中に居ようが一緒だった、狙うターゲットでもなかった、正直ほっといて欲しかった。
「大丈夫よ、別に風邪をひくわけじゃないし……中にいても一緒よ」
私は素気ない態度をとって諦めてもらうした。すると手にあたたかい感触が伝わった。
「でもこんなにも手が冷たい」
彼の手はとても温かく安心そんな感覚した。私は顔を上げ、男が優しく微笑んでいるのが目に入った。
白黒の世界に……違う色が映った
こんなに長くなると思わなかった。ローゼルの過去編が全部明らかにしたつもりです。
また何か色々増えましたね(汗)
スライはそうですね……BLAZBLUEのハザマを思い浮かべてもらうといいかな?
ジイルですか……まだ謎です、言えません。
そしてUNスキル……何だこれ!?
疑問や感想があれば、感想までよろしくお願いします。