ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind   作:坂道

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今回の話は、かなり好き嫌いが出るかもしれません。

でも自分が書きたかった話の一つです。

それではどうぞ……


信じる、信じられる

 荒れ狂った男が口にした言葉は今騒ぎで周囲に集まった人たちの耳を掻い潜り、その意味をまだ判然としていない様子でざわめく。

 ただ事実を突きつけられた言葉で私を取り巻く全ての者は凝視する。

 

「俺はいつもの様にあいつの帰りを待った……ギルドのホームをダングレストに創って、本格的に俺たちのギルドが前線で活躍するはずだった。だが、ドナンはダングレストの人気の無い路地裏で殺されたそうだ……」

 

―そう……私は10月21日にドナンという男に接触して変わらない手口で宿屋に男を連れ込み熟睡になった所をデュエルを申し込んだ……、しかし彼は間一髪生命を絶つ前に私を退け、逃げ出すが、路地裏まで追い込み……殺した。

 

「ギルドマスターのドナンを失い、俺たち<スクルド>は解散……今まであいつに着いてきた仲間が全員下層に下りていってしまった。俺もあいつが居たからここまで遣って来れたのに……」

 

 男はカッと目を開き、歯を鳴らし怒りを出す。

 

「なんで……なんであいつが死ななきゃいけないんだよ!?、ドナンは現実の世界に帰りたいだけだった!、なんでドナンが……お前たちレッドの狂ったお遊びに殺されなきゃいけないんだよ!!」

 

 彼の憎しみの矛先は私だ。共に戦ってきた親しき仲間が目の前にいる女に因って殺められ、自身の道が崩れ去り、その眼は鋭く憎しみの対象を射抜く。

 リズベットは言葉を失い、開いた口が戻らないでいた。

 

「……ローゼル」

 

 リズは何度も名前を呼んで私を庇ってくれた……でも、私……ダメなんだよ、リズ……

 

 リズベットは数分前まで彼女の顔を真っ直ぐ見ていたが、今は目を合わせることが出来なくなっていた。

 

「でも……あたしは……」

 

「もう止めたまえ」

 

 軍の鎧の男はそっと肩に手を置き、リズの声を遮る。

 

「これ以上この女を庇うようなら、君も只じゃすまないな。君も彼の言葉を聞いただろう? 彼女の近くにいればお嬢ちゃんも今頃死んでいたかもしない。見てみなさい、彼女はレッド……これまで何人もの罪の無い人を楽しんで殺しているんだ、普通ではない……」

 

 あたしには何が正しいのか、判らなくなっていた。レトとのギルドメンバーだと確かにこの耳で聴いた。でも彼女はレッドと呼ばれている……レトもそうなの……違う彼はそんなことしない、ローゼルもきっと何かに利用されているんだ……きっと……

 

「彼女は人殺しだ」

 

 軍の男が耳元で呟いた一言があたしを静止させた。人を殺めた……現実では犯してはいけない罪である。

 

―ローゼルが人殺し?……違うよ!、先まで一緒に喋って、喧嘩して、笑っていたじゃない……どうして動かないのよあたし!……どうして助けないのよ!!

 腕を強引に引かれるが、歯を食いしばりながら、足を動かそうとしなかった。

 

「リズ……もういいよ」

 

 ふと、後ろからローゼルが抵抗するあたしに声を掛けた。首を後ろに向けると、腕を二人掛り取り押さえら束縛されているのも拘らず、表情が微笑んでいた。

 

「リズみたいな優しい女の子は私みたいな悪者を守っちゃ駄目…………庇ってくれてありがとう……凄く嬉しかったよ……」

 

 ローゼルは辛い面を噛み潰し、笑顔でリズに誠意の言葉を送った。そんな彼女の姿を見たリズベットは全身を固まらせ、煽動を堪忍ぶことができずに瞳は微動する。あたしは結局何も言えずに軍の思うがまま身を後ろへ誘導されてしまう。

 

 

「さぁ、君にはゲームクリアまで牢獄に幽閉さして貰うよ」

 

「おい、待てよ……」

 

 軍の依頼者である男は目くじらを立て、ローゼルの搬送を止める。

 

「何そんな甘いこと言ってんだよ……コイツはドナンを殺ったんだ、死を持って償うのが当然だろ……」

 

 男は背に付けた片手剣を抜き取り、刃を出す。男の眼は本気だった……ただ憎しみのままに手に握った武器を仲間の命を絶った相手に剣先を向ける。

 

「お前が殺しの手段に使ったデュエルで消してやるよ……そしてこの公衆の面前でテメェの犯してきた罪を償うんだな……」

 

 罪を償う……それは「死」を詫び、犯罪者に終止符を打つ。そしてその男には私を裁く動機がある。私の目の前に見慣れたデュエル画面が表示されていた。私を縛っている軍の女性二人は男の殺気に足を引いていた。

 

「放して……ボタンが押せない」

 

 女性たちは困惑しつつ、腕を放そうとしなかったが、鎧の男が下がるように命じた。

 

【《フランツ》にデュエル・完全決着モードを申し込まれています。OK / Cancel】

 

 いつもは私が申し込んで相手の手を使い押させていたボタン。

 ローゼルは迷いも無くOKボタンを押す。しかし武器を構えることはせず、膝付き腕を下ろしたまま立とうともしなかった。

 

―もう……覚悟は決めた

 

 いつか自分が裁かれる時が来る、それが今日だったんだ。私が積み重ねてきたことは人の道から逸れていて、許されることじゃない。私は華太を助けるために……違った……本当は私が生きたいだけだったんだ。華太を助けるという理由を並べて、否定している自分を保ち、罪もない人を……この血まみれの手で何度も殺めた。

 

「いい覚悟だ、人殺し」

 

 人殺し……ここにいる人たちは私を助けようとはしないだろう。私は……限りなく壊れた

 

 「悪」でしかない。

 

 助ける理由なんて無い、殺人は罪であり、ルールを破ったものには重い罰が与えられて当然だ。

 顔を上げると男の顔が映った。憎悪が膨れ上がり、周りが見えていないように見える……私は覚えている、かつて父を殺そうとした私と同じ殺意である。それは仲間を失ったことに対するローゼルへの殺意……決して自分のためではない。

 

 男は手に握り締めた剣を上に構える。

 

 周りは夕焼け色に染まり、丁度夕日が男の掲げた剣の真上に一致していた。紅い光を指す夕差しは彼の姿を思い浮かばせた。

 

――……彼はこんな状況でも私を助けてくれるのかな…………夕焼け……紅いな……

 

 夕日を見ながら俯き、そっと瞼を閉じると、眼に溜まっていた涙が頬を伝う。

 

 本当にどうしようもない人間だと自覚している……悪魔に何を言われようと本心ではまだ誰かに……絶望していても、私はまだ救いを求めていた。

 

「あの世で詫びろぉ!!……」

 

 フランツは剣幕は自身が持った剣に乗せられ、その刃の役目を果たすべく振り下ろされる。男の行為を止めるものはおらず、周りのプレイヤーたちに戦慄が走り、リズは目の前の光景を直視するの避け両目を閉じる。

 

 

 

 暫く周囲は静寂が流れていた。斬られたという実感は無く、衝撃もなかった。自身の胸の鼓動が普段よりも速く脈を打っていたが、何も変化がない。

 すると、周り一体がざわめいていることが耳に伝わる。

 

 伏せている目を開くと、先ほど瞼を閉じていた時にはなかった人の影が増えていた。その光を遮ってできている人の影は布を纏っているのか、靡いていた。何を確信したのか、かすかに微笑んしまった。

 

―期待はしていないといえば嘘になる……でもこれ、昨日と同じだ……

 

 目の前には風でたなびく鮮やかな紅のマントを纏ったお人好しの姿がそこにあった。

 

「レト……」

 

 仮面の男はフランツの武器を持った腕を片手でガッチリと掴み上げていた。

 

「……止めろ」

 

 レトは仮面の下で鋭い眼光でフランツを睨みつける。

 

「だ、誰だテメェ……うっ!!」

 

 フランツは不意に現れた仮面の男に動揺して、掴まれた腕を振り動かすが振りほどけない。抵抗を止めないフランツの足を足払いで挫き、その場に倒す。フランツはレトに罵声を浴びせるが、彼は構わずローゼルの下に近付き、下ろした手を優しく両手で包みこむ。

 

「ごめん……ここに君を連れて来るべきじゃなかった」

 

「レト……私は」

 

「大丈夫、君を見捨てたりはしないよ」

 

 落とした膝を上げ、そっとローゼルの頭を撫でた後、軍に視線を向けた。

 

「これは何のつもりだ……」

 

「お前こそ何の冗談だ《何でも屋》?」

 

「彼女は《何でも屋》のギルドメンバーだ、彼女に手を掛けるならギルドマスターの俺を通しても貰おう」

 

 軍に張り合うように自分の言い分を出すレトに対し、フランツが嘲笑いながら立ち上がる。

 

「ったくよ……喜びな、お前のような咎人を庇う馬鹿な奴が一人はいたようだ、この仮想世界も捨てたもんじゃねぇな」

 

 男は懲りずに切先をローゼルへ向けるが、レトが右腕を横に出し近づけさせない。

 

「おい、わかってんのか仮面野郎……お前が庇っているのは犯罪者だぞ!?、それともなにか、お前のギルドはコルを払えばレッドまでも守るのか……ふざけんじゃねぇぞ、糞ガキ!」

 

「待て、フランツ」

 

 先ほどまで黙っていた鎧の男が割って入る。

 

「レトだったな、君の行動はとても愚かだ。君は一見その子を守っているようだが、それはとんだ『偽善』だ」

 

「偽善……」

 

「そう、君は人殺しを庇っている。殺人は間違いなく『悪』であり、庇う君は間違いなく『偽善者』だ。そして俺たちは間違いなく『悪』を裁くという『善』を行っている」

 

 鎧の男は理屈を並べるが、本質は間違いなく軍が正しいのであろう。殺人は罪で合法的に裁かれる、法律という世間の客観がある。

 

「そうだな……俺がしていることは『偽善』であんたたちが『善』なんだろ……」

 

 鎧の男はレトが諦めが付いたかのように話しだすのを見ると部下にローゼルを連れて来る様に首を振る。しかしレトは腕を出し軍を遮る。

 

「そう、俺が遣ってきたことは『偽善』だ。困っている人を助けたり、孤児院を建てたりしたのも、本心ではただ自己満足で……自分が優越感に浸っていたいだけなのかもしない……だけど、俺の自己満足で誰かを助けることできるなら、俺は『偽善者』で構わない……」

 

―そう……俺は糞ガキだ……だから俺の主観を言わせて貰おう

 

「確かに彼女は罪も無い人を殺し続けた、罪を償うのは当然で俺も彼女を許すことはない……でも彼女は人殺しである前に大切な仲間だ……」

 

 レトの言っていることは不条理であり、刹那的に語っているだけである。彼は鎧の男から目を離さず、強き眼差しを逸らすことしなった。

 

「俺はあんたたちを認めない。あんたたちが『善』なら、俺は彼女を……仲間を守る『偽善者』になる……だから……」

 

 ―俺はもう彼女を信じたんだ。ローゼルを信じた自分を信じる……

 鞘に収まった刀の柄を握る。

 

 

「ここで彼女を見捨てるようなら、俺はもう自分を信じることができない!!」

 

 刀を抜き取り自身の自尊心を訴え、軍に刃を向ける。鎧の男以外の軍の連中は度肝を抜かれたようにレトの威圧に圧倒されていた。鎧の男は言葉を失い、自らも剣を抜き取り睨みつける。

 

 

「そこまでだ!! 両ギルド、剣を収めて下さい!」

 

 

 すると、店を眼前に集まっていた人混みが綺麗に割れ、広い間が出来ていた。目を遣るとそこには《血盟騎士団》の軽装の鎧を着た―ラインが部下を数人引き連れ、仲裁に入ってきた。

 

「くっ、血盟騎士団か……」

 

「ライン……」

 

 赤と白を基調した血盟騎士団のプレイヤーたちは軍を包囲し始める。ラインは先導しながら指示を出していた。

 

「この場は《血盟騎士団》の前衛隊長の自分が仕切らせて貰おう」

 

「待て!、俺たち《軍》は……」

 

「あのような失態を曝してまだ自己の利益を求めるのですか!」

 

 男は周りを見渡すとローゼルに向けられていた凝視は鎧の男に向けられていた。賛同する仲間はおらず、軍はこの場を後にしざる終えなかった。

 軍を鎮圧し、場は収めることができたが一人の男は納得していない。

 フランツである。彼は手に持った武器を持ち遠く離れた距離からローゼルに迫ってきていた。レトはフランツに気付き、すぐさまローゼルを守りに入る。しかし、フランツがローゼルに辿り着くことはなかった。

 白と青の片手長剣<ナイツソード>を手に取ったラインによって剣を弾かれ、その圧倒的な速さにフランツは何が目の前で起こったのか、理解できず唖然とする。  

 

「フランツさん、もう止めてください、その剣を振っても虚しいだけです」

 

「黙れよ、俺はこの女を殺らないと……」

 

「あなたが彼女を殺せば、あなたも同じ……人殺しです」

 

 フランツの仲間に対する思いは本物だ、その思念は人に大きな力を与える。しかし、それが必ずしも、正しい力になるとは限らない。その思いで得るものあれば、失うものもある。

 彼の起こした敵討ちは……失うものしかないのだ。でも彼が起こした行動は他でもない……仲間のためなのだから。フランツは喪失感ともに力が抜け、その場で手を付き、自身の浅はかな自責の念にただ落涙してしまった。

 

 

 フランツは血盟騎士団に保護されたが、最後の問題が一つ残っている。

 

「レト……彼女の身柄は僕らが確保する」

 

 ラインはローゼルを捕らえ、殺人ギルドの足取りを掴むのが任務である。レトの頼みで一日だけ有余を与えたが、公衆の場で彼女の罪を明かされた今、もう野放しには出来ない。

 

「ライン、ローゼルは……」

 

 血盟騎士団がラインの後ろから団員が三人ほど後ろから逼るのを見かね、警戒に入るがローゼルは俺の背に片手をそっと置き呟く。

 

「レト、もういい、大丈夫だから」

 

 ローゼルはレトの背においた手に拳を作り、少し震えていた。しかし今の彼女に苦心は無かった。ラインは二人が向き合うのを見て、後ろからきた団員を止める。

 

「……いいのか」

 

 ローゼルは目を伏せたまま、こくりと頷く。

 

「これ以上あなたに迷惑は掛けられない……ごめん……」

 

 ローゼルはレトに対して謝った後、レトを横切る。

 

「ローゼル!」

 

 レトは背を向けたままローゼルを呼び止めた。

 

「18時《コラル》の転移広場で待ってる!!……必ず来い!」

 

 レトは振り向くことはせず、ローゼルは彼の背をジッと見ていた。

 

「ソディア、彼女を……」

 

 ラインは二人の遣り取りを終えたのを見て、ソディアにローゼルを保護するよう向かわせる。ローゼルは抵抗もせず、ソディアにそっと背を押され、誘導されていった。

 

 

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 団員たちによって開かれた道先をローゼルが歩いていくのを目視していると、その開いた道から、暗赤のローブを着こなした、只ならぬ雰囲気に夕日と同化した男が遣ってきた。

 

「あれは、ヒースクリフ……?」

 

 その人物は血盟騎士団を束ねるリーダーのヒースクリフであったが、夕差しに色あせた彼の姿を見ていると、レトは不思議な感覚に陥っていた。

 

―俺は何処かで彼に会った気がする……この前の一件じゃない、もっと前の何処か別の場所で……赤ローブのGM<ゲームマスター>……

 

 ただ同じ色の服を着ているだけであるが、夕日をバックにした彼の姿が一瞬そう錯覚させた。かつて、ゲーム開始宣言が出された《はじまりの街》も夕日に染まっていたせいか、重ねてしまう。

 

「似ている……のかな」

 

 ヒースクリフが近付いてくるうちに自身の考えに落差し息を軽く吐く。

 ラインはヒースクリフの前に立ち、姿勢を堅くし敬礼を送っていた。

 

「ヒースクリフ団長!、攻略会議は……」

 

「もう終わったよ……前衛隊を任せている君が、攻略会議の途中で席を外すとはどうかしたのかね」

 

「ハッ!、先日団長から出された任務の対象である人物が《アインクラッド解放軍》と騒動を起こしたと団員から耳にし、自分の部隊を引連れ、急遽現場へ駆けつけた所存です」

 

「PK《プレイヤーキル》の一件か……そこでこぜりあいを起こしたのは君かね、レト君」

 

 不意に話を吹きかけられると、やはり緊張する。少し深く息を吐き、気持ちを落ちつかせた後、レトは仮面を外し、目を合わせた。先日、顔を合わせていたが、あの時は仮面を被ったまま話していたので、ヒースクリフ自身は初めて顔を見ることになる。

 

「……はい」

 

 ヒースクリフは涼しげな顔で仮面を取ったレトを見て、薄く笑う。ラインは間に入るようにヒースクリフの前に立つ。

 

「団長、彼は私のゲーム世界に入る前の友人です」

 

 ラインは何故か、暗い顔をしながらに俺の友人であることを答えた。

 

「君が言っていた親友とはレト君のことだったか……」

 

「はい、彼が厄介ごとを連れてくるお人よしです」

 

「っておい」

 

 親友の皮肉に思わず顔を引き攣るが、ラインは構わず話を続ける。

 

「団長、自分は此れから保護した対象にレッドギルドの情報を聞き出したいのですが……」

 

「ふん、君が買って出る必要はあるのかね」

 

「自分は構わないのですが、彼は恐らく僕ではないと納得がいかないと思います」

 

 そう言うと、顰め面で立っているレトを見ながら、ラインは笑ってしまう。

 

「そうなると前衛が手薄になるな……仕方がない、私が出よう」

 

「団長が前線に」

 

「たまには私も顔を出さなければ、団長の顔が立たないからな」

 

 ヒースクリフは不適に笑う、来た道を引き返し始める。

 

「攻略組には私から伝えておこう。ライン君、この一件は君に一任する、好きにしたまえ」

 

「了解!、お気遣い感謝します」

 

「それと、レト君……」

 

 ヒースクリフは振り向き、その鋭い目でレトに答えかける。レトはミステリアスな立ち振る舞いの彼が苦手だ、あまり顔を合わせたくないが、声を掛けられたのにシカトとは失礼でなのでしぶしぶ顔を合わせる。

 

「君の優しさが、いつか自身を壊さないことを願うよ」

 

 思わず呆気に囚われてしまい、口を大きく開けてしまう。

 

「すまない、今のは忘れてくれ……また会おう、レト君」

 

 ヒースクリフは謎の助言を残しこの場を後にした。嵐が去ったというよりは、嵐が消え去ったというのがいいのかもしれない。

 

 

 

 ヒースクリフが去った後、人混みが無くなり中央広場は静かになっていた。しかし一人ポッツンとその場で膝をついた、俯くピンク髪の少女がいた。レトはゆっくりとリズベットの傍らに座った。

 

「……ごめん」

 

 リズベットは発した第一声は謝罪だった。

 

「どうして謝るんだ」

 

「あたし……何も出来なかった……」

 

「君はローゼルを守ってくれたんだろ」

 

「でも……ローゼルが人殺しだと知ったとき……動けず、見ているだけしか……」

 

 リズベットが顔を上げると瞳から溢れる涙が頬を赤くして、悲痛の表情を浮かべていた。動けなかった自分を責め続け、手の甲を使い止らない涙を拭く。

 

「リズベット……ありがとう」

 

 リズベットはレトの言葉に耳を貸した。すると、手を掴みゆっくりと、リズベットを立たせる。レトは手でリズベット涙を拭い取り、優しく微笑んだ。

 

「嬉しかったよ、この中に君のような理解者が居てくれて……本当に嬉しい。だからリズベットは泣かないで……」

 

 リズベットはレトの言葉に遣り切れなくなり、レトの胸元に顔を埋めた。レトは少し動揺して慌てるが震えるリズベットを見て、優しく頭を撫でてあげた。小刻みに震えた体は少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 

「レト!」

 

 事態の収拾を終えたラインはレトに小走りで近付いてきた。

 

「僕はそろそろこの場を引くよ、それとローゼルさんの事だが……君に一つ聞きたいことがある」

 

 リズベットはローゼルと聞き、レトから離れ、袖で涙を拭きつつ話を聞くことにした。ラインの真剣な眼差しはレトの目つきを変えた。

 

「なんだ……」

 

「君は何で彼女を助けたんだ」

 

 ラインの質問は何も突拍子も無い疑問であった。リズベットは息を呑みレトを見る。

 

「そんなの決まってるだろ……」

 

 レトの唇が動き、その答えを言い、リズベットに顔を向けて「だよな」と相槌を求めた。リズベットは笑って頷く。ラインはその答えが返ってくるのが解っていたように腰に片手を置く。

 

「了解だ、それが聞ければ十分だよ」

 

 互いに拳をぶつけ、レトの真意を聞いたラインは残った団員を集めて、ローゼルを保護している宿に向かっていった。

 

 




かなりシリアスかな……執筆中はかなり不安で書いていましたが、作者は満足です。

主人公であるレトのお人よしを全面的に出しました。主人公は「偽善」でも、自分の大切な人たちを守るという場面を書きました。今回の話は色々と疑問に思うところがあると思います。

誤字報告があれば遠慮なく伝えてください。

物語の感想や意見を心よりお待ちしております。
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