ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind   作:坂道

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新章ということで創めたいと思います

作者の夏休みはまだまだ遠く更新スピードは停滞気味ですが、頑張って投稿しました。

それではどうぞ


第三章~冬―I Wish You Were Here
隣にいる君


 

湿った空気が辺り一体をどんよりと覆いつくす第45層の迷宮区エリア《ケーブモック大森林》。

 環境は緑に包まれた樹木に異常なまでに育った植物が生い茂っており、周りはジャングルと言ってもいいほどの大自然。森の下から空を見上げようとも、太陽の姿は見えない、巨大な森林たちが傘になっており、日の光は薄っすらと森を照らすことしかできない。

 この迷宮区一体は作られた道は存在しない。このエリアのシステムは膨大な植物オブジェクトに全て耐久値が有り、プレイヤーの攻撃でオブジェクトを破壊が可能、一定時間経つと自動に修復される使用。

 プレイヤーは草木を刈り取りながら道を自らの手で確保しなければならない。しかしオブジェクトを刈り取らずとも、そのまま進行することも可能である。マップ自体は単純で入り口から遠目でボス部屋の扉が目視でき、真っ直ぐ進めばボス部屋には簡単に辿り着ける使用だが、此処は各層の最終エリア、そう易々と進めるほどSAOは甘くはない。

 所構わず前に進めば、植物オブジェクトに擬態した罠系の植物モンスターに丸呑みにされる。《ケーブモック大森林》に出現する魔物は全て隠蔽スキルを習得した魔物ばかり、その中でも植物系擬態型《アーミープラント》という魔物は特に危険視されている。全長は五メートル、赤い蕾が口のように大きく開き、プレイヤーを瞬時に丸呑みにしてしまう巨大な花の化け物。攻撃力、素早さともに40層トップクラスのモンスター、捕まれば即死との情報も入っているが、索敵スキルを使用すれば容易く認知ができる。

 とは言っても危険なのは変わりない、奇襲を掛けられれば致命傷は避けられない上に他にも擬態モンスターはいる。故にプレイヤーたちは比較的楽なルートを模索しながら進むのが得策である。

 

 第45層が攻略されてからは森林を越えるプレイヤーは殆どいなくなった。罠系の魔物といった戦い難い相手とはまず避けるべきであり、態々対峙するようなメリットもない。

 プレイヤーが足を運ばない森林は静けさを保っていると、木々が微少に揺れ始めた。どうやらプレイヤーを感知したようだ。魔物が獲物の参入に活気付くように騒ぎ出す……のではなく、システムによって生成されたAIプログラムがモンスターを実体化させているだけだ。

 最初にプレイヤーを感知したのは《アーミープラント》、身体をくねくねさせ緑に溶け込むように擬態し始める。AIプログラムは近寄ってくる二つの反応を視界センサーに捉えさせ、自らの役割を実行する。

 地面を蹴る足音はアーミープラントに距離を縮めており、攻撃可能範囲までに迫っていた。並んで走ってくる二人のプレイヤーの影が自身の全長の範囲に入ると、アーミープラントは擬態させた身体を解き、赤い蕾が口を大きく開きながら目標に飛び込む。

 すると、フードを被った露出度が少し多い黒のコートとショートパンツの女性プレイヤーの一人は上から被り付くように迫ってくる巨大な植物に目もくれず、身体を軽く右横に反らしながら、左足を軸に身を一回転させ勢いを殺さず走り抜け、隣にいた仮面をつけたプレイヤーも連れられるように後に続いて横切る。

 華麗に避けられ、攻撃は空振りに終わり、大きな口は地面を抉っていた。次の行動に移そうとAIは二人の動きを追うと、既に大幅な距離ができ、次の攻撃へフェイズが適わなかった。アーミープラントは役割を終え、身体を再び擬態させようとした瞬間だった。木々を風のごとく避けながら地を抉り進む巨大な紐のような物体がアーミープラントの花柱を食いちぎり、地を鳴らしながら先ほどのプレイヤーたちの方に駆け抜けていく。

 

 背後から迫りくる大きな影を横目に入れながら仮面のプレイヤーは隣を走るフードの女性に目を合わせ、互いに相槌を取った後、女性と離れて別の方向に走り去っていく。一人の行動の変化に興味は示さず、目を光られた影は森を真っ直ぐに駆け抜けていく女性に狙いを絞る。

 プレイヤーはオブジェクトの入り組んだ木々の中を掻い潜りながら魔物の大きさでは通れないような場を突き進むが、後ろから迫る魔物への障害にはならない。木は小枝を折るかのように砕き進んでいく。

 巨大な影との追いかけっこは続ける間に森の出口が見えてきた。フードの女性は湿った森にウンザリしていたのか、足を大股に開き、自身の敏捷値の限界まで加速する。

 

 森を飛び出す。湿ったエリアからは一変し、水平にまで延びた一面芝生の緑のフィールドが広がり、空は青の空一色に、太陽は燦々と白い光を放っている。風にあったってはいたいがそうはいかない。先ほど飛び出してきた森から怒号を上げながら巨大な魔物が姿を現す。薄暗い森からシュルシュルと動きを止めず身体を巻くように伸びた体を何層かに積まれていく。細く伸びた鱗のような身体を上に辿ると舌を頻繁に出し入れし、大きな蛇眼が目に映る。

 

―シャァァァァァーーーーーーー!

 

 正体は巨大な蛇。尾を地に叩きつけ、長い身体を起たせ顎が落ちてしまうほどに口を開きながら威嚇をする姿は昔話で描かれる大蛇その者である。その長い巨体はアーミープラントの全長を軽々と超え、全身を空に伸ばせばどれほどの体格をしているか計り知れない。

 蛇型の大型モンスター《ウロボロス》、第45層に出現する重量級ボスクラスの魔物。高い敏捷性は身体の大きさを忘れさせるほど素早く、蛇特有の巻き付きや噛み砕く攻撃などを受ければ即死レベルだ。深い緑の皮膚が湿度の高い森の奥にいたせいか、汗ばんだように光沢を付け、日に反射する。

 

 女性は魔物の威嚇に怯むかと思われたが動じることなく、顔を覆い隠したフードを剥がすと、汗で湿った髪が風に靡く。銀の長髪を腕でたくし上げ振り払った後、右太腿に巻きつけた銀の短剣を抜き、右手でクルクルと回しながら短剣を逆手持ちで構え、刃を大蛇に向けて身構える。

 彼女はローゼル、現在ギルド《何でも屋》の唯一のメンバーである。

 

 大蛇は舌を頻繁に出し入れし、蛇の目は完全にプレイヤーを映していた。ウロボロスは長い体を空へと垂直に上に伸ばし、見る見るうちに凶悪な目をつけた頭が見えなくなる。伸びた体は二十メートルを超えて空に届くと錯覚してしまうほどの距離……すると、体は止めた後、天へと昇ったウロボロスの頭は勢いよく落ちてくる。

 ウロボロスの攻撃、逆Uの字を描きながら、相手の頭上から瞬時に齧り付く大技。

 ローゼルは踵に力を入れ後ろにバックステップし回避行動に入る。ウロボロスは顔は地に突っ込むことなく、身を曲げながら芝生を滑るように追尾する。ローゼルはアイテムポーチから帯状のピックホルダーを引き出し、ピックを左指に挟み、ウロボロスに三本投げつける。ピックは突き刺さるが相手のHPに変化はない。

 彼女の敏捷値は高いが、さすがにボスを一人で相手をするのは骨が折れる。相手の攻撃を瞬時に見極めながら広い草原をアクロバットに回避するローゼルにも疲れが見え始め、顔に焦りの色が浮かび上がっているようにも思える。

 相手の猛攻を避け、体を跨ぎ飛び、右手の短剣で攻撃を試みようとしたが、短剣のリーチでは心持たず、ローゼルはそのままウロボロスから離れバク転で距離をとる。ウロボロスは相手の動きの鈍さを感じたのか、大技の決めに再度空高く長身を伸ばし、ローゼルに降りかかる。顎を落とし、大きく開いた口は今度こそローゼルを捉えた。迫るごとに影がかかり相手との距離が近くなるのが解る。回避しても間に合わない距離、蛇は顎を閉じに入ろうとした瞬間……

 

「今よ―レト!」

 

 ウロボロスの丁度顎下の位置にある茂みが歪み始め、黄色にライトエフェクトした刀が飛び出す。

 

「喰らえ【顎《アギト》】!!」

 

 歪みから刀を両手持ち、逆刃をウロボロスの顎を目掛け振り上げ砕く。刀スキル『顎《アギト》』、相手に強靭な刃を両手持ちで殴りあげる渾身の技。正刃は相手を切り裂き、逆刃は相手を吹き飛ばすなど使分けることが可能。

 

 技を叩き込んだ仮面のプレイヤーは、技のモーションで宙に上がり、ローゼルの横に着地する。

 

ウロボロスは顎を砕かれ、口が開けなくなり体をうねらせる。

 

「クリティカル・ブレイクを成功だな……ローゼル、手筈通りだ」

 

仮面は親指を立てながら、嬉しそうに声を出すとローゼルは不満そうな顔を浮かべていた。

 

「……―ふっん!!」

 

 ローゼルは仮面の隣に立つと、ブーツの鉄具の踵で男の右爪先を思いっきり踏んづける。

 

「……何をする?」

 

 もちろんダメージはないのだが、仮面は不思議そうに首を傾げる。

 彼はレト、赤い十字線の入った黒の仮面に紅いマントを纏った刀剣士。

 

「ちょっと! 割に合っていないんじゃないかしら。私は散々逃げ回った挙句に、草原までの誘導に攻撃の回避……あなたは何、隠蔽スキルで隠れて大蛇に奇襲を掛けるだけって簡単すぎるでしょ!?」

 

 右拳を握りしめながら顔を顰める。

 

「いや待て、君はこの作戦に了承したはずだ」

 

「ここまで大変だと思わなかったのよ!」

 

 二人がケーブモック大森林に訪れたのは森に出現する《ウロボロス》を討伐することが目的である。ウロボロスはエンカウント率が低い希少モンスター、この迷宮区で一度しか出現しないエリアボス。

 第45層が攻略されて一ヶ月は経つのだが、ウロボロスを討伐するプレイヤーはいなかった。ウロボロス出現の情報も遂先日出たばかりだが、第45層攻略中にも出現したという情報は何度もあった。ドロップするレアアイテムは特段強い武器が作成できるとの噂があり、一プレイヤーとしては喉から手が出るほどの価値があったが、《ケーブモック大森林》は状態異常攻撃をする魔物が極端に多い上に、ウロボロスは一定の確率でしか現れないボス……。

 森は複雑な上に危険度の高いモンスター、ボスとの遭遇にはマップを長い間徘徊する必要があり、運良く遭遇できても地形が悪いエリアでのボスとの戦闘が待っている。

 プレイヤーたちは理不尽なウロボロス討伐の難易度に手を焼いていた。

 

 二人はその危険な討伐に一日懸けて森を徘徊し続け、ウロボロスを戦い易い草原エリアまで誘導してウロボロスの急所《クリティカル・ブレイク》を狙い、弱体化させるという作戦を行った。

 クリティカル・ブレイクとは魔物の部位を破壊し、相手の攻撃手段を減らす一定の魔物に使用されているシステム。ウロボロスは顎を破壊すると、強力な噛み砕く攻撃が不可能になり、戦いが有利になる。

 動きの早いボスの顎を狙うには相手が噛み付く瞬間ないと考え、レトは敏捷値の高いローゼルをおとりにして自分は隠蔽スキルで相手の懐に近づき部位破壊に入るといった魂胆だ。

 それがうまく成功し今に至るのだが……

 

「ローゼルなら大丈夫だと思ったんだ、そうイライラするな」

 

 まあまあと手を前に出すレトに、ローゼルはつんと顔を横に逸らしの腕を組む。

 

「別にイラついてないわよ。まぁ、昨日の朝から一睡もしてない上に、湿度の高い森をずっと徘徊してれば、腹の一つや二つ立つ……」

 

―ぐぅ~~~

 

 不意にローゼルのお腹から気が抜けるような音が鳴り響いた。シュールなまでに横でもがく蛇を横目に体をプルプル震わせ、歯を噛み締めながら顔を見る見る赤くなっていた。

 

「……腹が立つ前に腹が鳴っ(―ガス!) すいませんでした」

 

 仮面の目の部分に綺麗にローゼルの人差し指と中指が射抜いていた、もちろんダメージはない。

 ローゼルは咳払い後、横でもがき苦しむ蛇に顔を向けた。

 

「ここからどうするの? まさかここまでして逃げるなんてことしない?」

 

「いや、まずは……」

 

 ジタバタしていたウロボロスは落ち着きを取り戻し、鋭い目を赤く光らせ眼光は二人を睨み付けていた。

 

「逃げる!!」

 

 掛け声ともに大蛇は奇声を鳴らし、体を回転させながら二人を圧し掛かるように体当たりを仕掛ける。二人は襲い掛かる蛇の攻撃に地面を蹴り、後ろに下がるが、蛇の重い体が地に激突した衝撃で地煙が立ち、風圧で吹き飛ばされる。

 空中で体制を整え、着地したと同時に二人は地煙が立つ前に背を向け走り出す。煙から払い大蛇は二人の背を追いかける。

 

 思いのほか怒っているようにも見えるな。当たり前か……しかし、あの紐のような体型、至近距離で戦いとなると厄介だな。どうにかできないか。

 

 レトは走りながら、隠蔽スキルで草原に溶け込んでいた時のローゼルとウロボロスの戦闘を考察する。相手の攻撃パターンは体を自由自在に曲げながら尾で振り払う広範囲攻撃、紐のような体で相手を円の囲み獲物を追い詰める包囲攻撃、そして空中からの降下攻撃……しかし噛み砕く攻撃はできない。顎を破壊され、ウロボロスは相手を飲み込む攻撃ができない今、一撃必殺の殺傷能力が無くなったとはいえ、ボスクラスの力を持つ魔物、油断はできない。

 

 なら残させた方法は距離を詰めるあの攻撃の瞬間だけ。うまく奴に飛び移ることができれば……

 

「ローゼル! あいつの目を潰す。それと、一昨日の晩飯を思い出せ!」

 

「えっ? 何のこと?」

 

「あいつを捌くんだよ」

 

 ローゼルは目を点にしていたが、『捌く』という言葉を聞くと呆れた表情で息を吐く。理解したのか、目つきを変え頷いた後、アイテムポーチから紐が付いた少し小さめな白い球の閃光弾を出すと、自分の短剣に巻きつける。

 ローゼルは足を止め、右手に短剣、左手には体に掛けた帯のピックホルダーから四本ピックを抜き取り構える。

 左手のピックの一本をウロボロスが駆け抜ける草原に投げる。飛んできたピックに反応したウロボロスは頭を逸らし、避けながら距離を詰める。先ほどとは違い、AIは回避を専念するようになっていた。あの巨体で素早く動くウロボロスはやはり強い。

 続けて二本目のピックを相手が逸れた方向に投げるが簡単に回避される。しかしローゼルの狙いはピックの命中ではない。三本目をまた回避された方向へ投げ、すぐさま四本目を構えて投げる。ウロボロスの進行方向を誘導するようにピックを投げ、最後の決め手をソードスキルで投げる。

 四本目を投げた瞬間、右手を青く光らせ、短剣は青い光に纏わり付くように輝く。右手を摘むように持ち、青く迸る剣尖をウロボロスに投げつける。ピストルの弾丸を放つかのように飛ばされた短剣は青い稲妻を轟かす。四本目のピックを回避したウロボロスの眼には青き剣の弾丸が眼前に映つる。AIの判断が間に合わない、蛇の目は撃ち抜かれ、巻きついた閃光弾が破裂して白く輝く。

 

 投剣のソードスキル【バリスタ】、通常のシングルシュートを遥かに超えるスピードで投擲を投げつける技。そして遠くからの眼を狙い撃つための補助スキル【インスペクトアイ】、『投剣』と『索敵』の複合スキルにより発生する。自身の目と手の感覚が直結し、目標を正確に撃ち抜くことが可能。

 【バリスタ】は投剣の上級スキルの一つ、威力と速さは申し分ないが命中率が低いため、【インスペクトアイ】の補助が必要不可欠であり、組み合わせることで絶大な力を発揮する。

 

 【バリスタ】と閃光弾により大蛇は眼の自由を奪われ、悲鳴を響かせる。ウロボロスは荒れ狂い、体を旋回させて尾で周りを薙ぐ。

 レトは技の硬直で動けなくなったローゼルの服の襟元を掴み後ろに放り投げ、左手で逆手持ちにした刀と腰に巻きつけた鞘を抜き取り、刀と鞘を交差させて左から草原の土を削りながら振り払われた巨大な尾と重なる。

 尾の重圧を得物の二つを十字に構えて耐えるレト、地に着いた足に力を入れて攻撃を凌ぐ。土は持ち上がり、右に大きく動かされたものの、HPに影響はなかった。

 

 視覚を失った大蛇は唸りをあげるが、レトの位置を把握しているようだ。蛇は元々と触覚で獲物を位置を捉えるという。攻撃にまだ正確さがあった。

 

 視覚を潰した……いける!

 

「決めるか、ローゼル! 俺を上に上げてくれ!」

 

 後ろで土ほこりを掃っていたローゼルに向かってレトは走り出す。眼を丸くしながらローゼルはレトが空に指を刺しながら答える姿を見て、両手を組んで中腰になる。

 次の瞬間、ローゼルの手を目掛け足を踏みあげて乗り、ローゼルは大きく両手を振り上げてレトは空高く垂直に舞い上がる。

 上に飛び上がったレトを遠目に、ソードスキル【クイック・シフト】による高速回収で短剣を手元に戻し後、レトを追いかけてきたウロボロスに構える。蛇は勢いを止めず、ローゼルに決死の突進を仕掛けに怒号するが、ローゼルは逃げることはせず、手を短剣に添え、剣尖を白く光らし始める。剣の刀身が幽かな光で伸び、短剣のリーチが少し長くなったよう見えた。

 ウロボロスとローゼルの距離はもう五メートルもない、一秒後にはぶつかる……

 

―シャァァァァーーーーーー!

 

 勝利を確信したかのように叫ぶ蛇の頭上からは一つの影が振り落ちてことに視覚を奪われた大蛇には気づいてはいなかった。ローゼルと触れてしまう数センチ程度の距離で、空から雷の如く落ちてきた仮面の少年の剣によって止められる。刀は頭の肝を突き、砕いた顎まで貫き紫の電撃が焼き焦がす。刀スキル【火雷針】、空中で刀を両逆手持ちで構えて急下降で雷の如く相手を紫電で串刺しにする技。

 

 ローゼルはレトに続き、体を旋回させて右手で白く輝いた短剣を大蛇の左顎関節に叩き込む。左顎関節を超えて右の顎関節まで白き刃は短剣の大きさとは思えないほど長く突き出ていた。

 ウロボロスには声を上げることも適わなくなり、体を痛みのままに暴れさすことしかできない。

 レトとローゼルは視線を交差させて後、ウロボロスの長く牽かれた体の先に見える尾に真っ直ぐ眼光を打つと、二人の武器を持つ手に力が入る。

 

「「いっけぇぇぇぇーーーーーー!!!!」」

 

 貫いた二つの刃が一つは白く、もう一つは紫にライトエフェクトする。ローゼルは短剣スキル【ホワイトバースト】、レトは曲刀スキル【クライムハザード】を放つ。白き刃は体を横に裂き、紫電の刃は上から串刺しのまま引き裂き、体を駆け抜ける。ウロボロスの肉体は鰻を捌くかのように身を十字に斬り裂かれ、二つの剣尖が尾に先に辿り着くと、刃を強く振り上げ飛ぶ。ウロボロスはHPを一気に削り取られ、バツに裂かれた体を動かした瞬間に体が四つに開き崩れ、身を散らした。

 

 大蛇を駆逐した二人は武器を鞘に納めて一段落した二人はフラッと横にゆっくり倒れてしまった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……さすがに疲れたな……」

 

 背を向けて倒れたレトは仮面を取り、息を絶え絶えに吐き疲弊している。

 

「そ、そりゃあ丸一日森を徘徊して、ボスを二人だけで倒そうなんて馬鹿な真似したら……精神も参るよ」

 

 仰向けに眼を閉じてダルそうにローゼルは答える。

 

「だいたいこんな依頼まともじゃないわ」

 

「そうだな~依頼金に眼の眩んだ俺が悪かった~」

 

「別にそんなこと言ってない。それより一昨日の晩飯って何だったけ」

 

 隣で仰向けになるレトにぼやく。

 

「鰻だな」

 

「よくよく考えたけど、あれは鰻じゃなくて蛇だったじゃない?」

 

「それはないだろう、川で釣ったからな」

 

「鰻にねぇ……蒲焼がベストかしら」

 

「いや、鰻茶漬けっていうのも捨てがたい」

 

 俺たちの空腹は極限まで来ていた。青空に浮かぶ雲さえ美味しそうに見えてしまうのも、日頃から料理スキルなんていう舌の上を満足させているからだろう。

 現在、SAOからの開放に駆り立てる攻略組は第49層攻略中である。季節は真冬の風が吹き、体は風に当たれば少し冷える。

 そんな季節の寒波を感じながら俺は横に一緒に倒れている銀髪の少女に眼を移した。彼女と一緒にギルドを活動し始めてからもう一ヶ月は経つ。彼女の腕は大したものだった。俺と同じくゲーム開始から間も無くソロプレイで生き残ってきた彼女の戦闘センスは眼を奪われるものがある……それと最近、良く笑ってくれる。最初に会ったときは氷のように冷たくて悲しい顔を見ていたから……。彼女の笑顔を見ていると俺があの子に約束したことを思い出す。

 

『高校生になったら、また逢おう。そのとき、絶対に……』

 

 今、俺は15歳。現実なら中学三年生の冬を迎えているころだ。自分の身体はどうなっているんだろう、現実の世界はどうなっているだろう、母さんはどうしているだろう、部活の皆はどうなったんだろう、俺の夢はどうなるんだよ……そんなことを考える余裕がこの一年間でやっとできた。

 教会の停滞資金も今月分を払いきればもうコルを払わなくてすむ。教会も生活費は孤児院の皆が一緒にレベルの低い魔物を狩りながら賄っているとサーシャさんは言っていた。シズナの姉も今だに見つかってはいないが必ず見つける……なら、それ終わった後……どうしよう。

 最近俺は悩んでいる、ゲームはいつ終わるんだ? 俺は高校生になるまでにゲームは終わるのか? 無理だ。今月で遂に49層、遂に? ―違う、まだ49層だ。このままじゃ約束の日に間に合わない。

 ―なら、俺は攻略に参加すべきじゃないのか?

 ずっとこのままこの世界に居座るつもりはない、俺には現実で叶えたい夢があって、約束があるんだ……だけど―

 

「レト、どうしたの?」

 

 二重まぶたにくっきりとした真紅の瞳を向けている銀髪の女の子が俺の隣で透き通った声を出す。

 彼女は罪の枷を引きずりながらも今は少しずつ前に進んでいる。数え切れないほどの犯罪を犯した彼女に過ちを償えることはない。でも誰かを失う悲しみを知っている彼女に、親を失った彼女には……弟の華太君と一緒に歩いてほしい。

 大鷹父さんと妹の知癒という家族を失った俺には、彼女の気持ちが痛いほど分かる。だからローゼルには幸せになってほしい、彼女は傷ついて気づいたのだから。

 

 

「……お腹が空いたな、帰ろう」

 

 

 

 

 2023年12月7日、SAOを囚われてから一年と一ヶ月が過ぎようとしていた。茅場明彦が創造した世界はまだ終わらない

 

 

 

 




戦闘を書くのが難しいです。

新章のタイトルは『冬―I Wish You Were Here』
冬といえばSAOではあのイベントですね!
何話目かしたら原作の主人公とあの子を登場させる予定です。

……更新、遅くてごめんなさい(土下寝)
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