ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind 作:坂道
私はもっぱら、妄想……もとい、想像しています・・・・・・・
蟹「何度でも受け止めてやる、全部吐き出せ!お前の悲しみを!ヴィクティム・サンクチュアリ!」
坂道「ここにイケメンがいた(涙)」
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「可愛かったな~……」
帰宅の道中、俺は昨日、夕陽の河原で出会った瞳を涙で濡らした可憐な少女を思いながら歩いていた。栗色のロングヘアーが似合う気品に満ちた格好したどこかいいとこのお嬢様を思い描いてしまう。昨晩から頭からあの子が離れず剣道の稽古もまともに出来なかった。いつも俺に計悪な行為する道場の門下生の嫌がらせも気に留めず惚けるばかり……俺はどうかしているんじゃないかと思った。
帰り道、またあの子に会えるんじゃないかと淡い期待とモヤモヤとした心情を胸に河原を目指した。でも、初対面で尚且つ何故か怒らせてしまったから、もう二度とあの女の子は来ないかもしれない。
不安になりつつも、夕陽に焦がれた丘の土手から斜面を見下ろし、先にある人気のない河原を見渡す。そこには一つ長く伸びた影があり、その影を作った昨日の女の子が膝を抱えて座っていた。
女の子を見つけた瞬間、慌てて斜面を駆け下りていくと、河原の石につまずき勢いよく転んでしまう。ぶつけた額を押さえながら身を起こすと、その音に気付いたのか栗色の髪の女の子は驚き顔を振り向かせ唖然と見つめていた。
盛大な登場を遂げた紅葉清貴であるが、昨日と全くも何も考えずにただ飛び出したのでどう喋りかけていいのか分からなかった。ましてや女子と会話するのは学校で同じクラスの隣席の同級生の子と家族の母と妹くらい。女子との交流が皆無に等しい清貴してみればテスト全教科満点を得るくらい難しいことである。
目と目が合い、彼女の健気で綺麗な……瞳はまた涙で潤んでいた。えもいえず見惚れて完全に思考を停止していた。
しばらくして女の子は見開いた瞳を細目に変え、ムスッとした表情を浮かべた後水面に映る夕陽に視線を戻す。
絶対に変わった奴だと思われた清貴は頭を抱える。
(変な奴だって絶対に思われた……どうしよう! もう何て声かけたらいいわかんないよ~!…それに、きっと嫌われてる)
自身の不甲斐無さにへこんでいると不意にたった今、目に映った瞳を頭に過ぎる。
―あの子また泣いていたのか……。背を向けて服の袖で涙を拭き取っているのが分かる。何で彼女が一人で泣いているのかはここにいることで予想はつく、きっと辛いことがあったのだろう。
悲しげな後姿を遣る瀬無い思いが胸をざわつかせる。何か彼女にしてあげれることはないか、喋りかけることよりも相手への心配が先に進み俺は足を前に動かして気が付けば女の子の隣で座っていた。
―……何やってんだ俺はぁぁ! 散々考えた結果が此れかよ!?
当然、俺の横にいる少女は目を丸くして頓狂な声が上げる。もうその子の顔を向けることが出来なくなり、水辺に反射した茜色の夕陽を眺めることしか出来ずにいた。―恥ずかしい……今、顔を真っ赤だろうな、耳が熱いし……。
心臓がバクバクさせて羞恥心で顔が熱で焼けそうになる。もうどうにか夕陽の紅い色で赤面を誤魔化すことしか考えてなかった。すると、微かにくすくすと笑う声が聞えた。小さな手を口に当て笑う少女の姿はドキッと胸を鳴らしてしまう。
思わず見蕩れていた俺にハッと目が合い、少女はあたふたと慌てて首をプイッと反対に向ける。俺もつられて同時に背けた……だけど、気になってもう一度振り向くと少女も同期するように振り向いていた。そのまま互いに黙り込んだ状態がずっと続いたままであるが、ただ……見ている景色は一緒だった。
互いに他人でしかない二人の間はとても遠いものがある。でも……何故か凄く居心地が好かった。
それからというもの、ここに訪れるたびに互い一声も切り出さず、ただ一緒に夕陽を眺めることが一週間も続いた。未だに名前すら聞けていない。彼女も全く俺に話しかける素振りもなく、関係があの日から一向に真っ直ぐを向いたままである。
週を跨いだ初めの日、何時ものように俺はその子と夕陽を眺めていると
「……私ね、辛いことがあったらここにくるの……」
いずこから聞えたよく通るかぼそい声に耳を傾けると…耳を疑った。一週間に亘り口を噤んでいた少女が俺に声をかけてきたのである。塞がっていた口を開き、声が漏れた。
「あなたもそうなんでしょ?」
「へっ!?……ああっ、うん」
ずっと無言でいたせいか少女を物静かなで無口な子かと思い込んでいたが俺は突拍子もなく愕然とする他なかった。
「今度音楽のコンクールがあって、弦楽器部門バイオリンの独奏に参加するの」
「バイオリンの独奏! すっげぇな、あれだろ舞台の上で一人で演奏するやつだよな」
「後ろでピアノを弾いてくれる先導者の人がいるけどね。そのコンクールが来週の休日の日曜日に控えてるのよ……」
「そうなんだ、そういうのって緊張するよな。バイオリンって凄く繊細な楽器で聞いたことがあるよ。……やっぱり不安? でもその大会明日なんだろ?今更悩んで心配しても仕方がないんじゃ……」
「別にコンクールの参加すること事態は不安でもないわ……独奏なんて何度も経験してる。他にも色んな習い事をしているよ、華道とか……遂最近は合気道なんかも」
「いいなぁ、俺にもそんな才能があったらな……」
初めて少女とまともな会話が出来た。ほんの僅かだが打ち解けた嬉しさが湧き上がって少し重荷が降りる。少女も初めは戸惑い気味ではあるが親しげな口調で話してくれている。どうして最初から言葉を交わさなかったは、今としてはどうでもいい。現在この状況は俺にとってお近づきになる機会であり、第一印象を払拭する絶好のチャンスだ。
―少女の機嫌を損ねないように言葉を選んで好印象を与えるぞ
心で意気込みを語り、思案を実現しようと切り出そうと躍起になるが華麗な洋服を着こなした女の子はひどく物憂げな声でぼやく。
「あ~あ……なんで私こんな才能を持って生まれてきたのかしら……もう飽きちゃった」
「えぇ…………?」
「コンクールで優勝するなんてこと目に見えてるし。頑張って上手くなっても、意味がない。好きでもないことを続けるなんて……もう沢山よ」
少女から発せられる不満の言葉に知らず知らず顔を引き攣らせていた。胸の底で彼女に抱いていた優しい気持ちが薄れ、代わりに疎ましい険悪な感情が込み上がってくる。なんて自惚れた悩みだ、俺には少女のようなずば抜けた才能もなければ、認めてくれる力もない。心は煮えきるように強い嫉妬心に染まり、胸糞悪く歯を軋ませる。
「皆、私が出来て当然のような勝手な価値観を押し付けてられていい迷惑よ。家の名に恥じないようによ、私のこと全然わかってくれない。こんなことなら落ちこぼれがよかった……」
「なんだよそれ!!」
耐え切れなくなった感情が叫びとなって爆発した。忽然と吐き出された怒鳴り声に少女は驚きを隠せない。
「頑張ったって意味がない……落ちこぼれがよかった? ふざけんなよ!」
少女はこれまでみたことがない少年の憤怒とした一面に息を呑んだまま直視する。
「どんなに好きなことでも上手くなければ皆に差別される! どんなに頑張っても才能のない落ちこぼれは虐められる! どんなに努力しても…………誰かを認めさせれる力がつかない。……なんだよ、その贅沢な悩み! そんなの才能のある奴の僻みだ!」
余勢が駆けるまま自身の堪りに溜まった鬱憤まで吐き出る。辛い鈍痛と劣等感にとって炙り出た顔はひどく歪んでいるであろう。怯えたように少女は身を震わせながらもキッと睨む。
「あなたに何が分かるっていうのよ……」
「わかんねぇよ! 臆病者が強い奴の考えなって分かってたまる……か…よ」
怒りに縛られた心の糸が眼前に映ったものによって切れた。大粒の涙を溢れんばかりに瞼から零れ落ちる。悲しみの色に染まった乙女は嗚咽を漏らしながら訴える。
「強くなんか……強くなんかないわよ、わたしは……ただ……もう一度……おかあさんに……」
弱々しく震えた声、鋭く冷たい哀感が胸に突き刺さり言葉を失った。
落涙するしたたる雨粒が涙腺を辿りのポタポタと静かに音を立て、夕陽に背を向けて影となった顔を白いブラウス袖で止まらぬ涙を何度も拭き続ける。
酷い罪悪感に駆られた俺は少女のに手を伸ばそうとするが、拒まれるように走り去る。長い髪を靡かせ通り過ぎたとき少女が拭き消すことができなかった紅涙の雫が伸ばした手に落ち、その瞬間激しい悔恨に苛まれた。
涙に濡れた少女……初めて会ったときもあの子は涙を流していた、それを自身の怒りの悲憤でまた少女を泣かせてしまった。後悔の念が胸を切り裂き、居た堪れなく苦い。振り向くとあの少女の姿はなく、残ったのは手の平の涙と夕陽で伸びた独りの影であった。
あの日から三日経った。俺はその日から河原に訪れていない。
土曜日の晩、来週に控える剣道の練習試合が迫り、俺は憂鬱になっていた。日々道場に通うたびに向けられる門下生からの蔑んだ目。近頃、誰にも相手にされなくなっていた。明らかに俺を無視し、わざと避け道場での孤立を強制されている。
またあの感じだ、一人で……独りで空しく他人から強いられ続け、踏み込んではいけない柵を引かれ、隔てる環境を作られたような疎外感。まるで其処に紅葉清貴いないと負わせる嘆かわしい孤独。棒立ちのまま稽古が終わることも多々あった。胸の奥という奥が冷えて内側からじわじわ湧き出る寒気、独りの静寂からなる吐き気。―こういうの……何回目だろ? 多すぎて覚えてないや……
冷え切った内側に熱を送るように手を胸に擦り付けた。精神的疲労からなるストレスを背負い、独り長い時間を今日を過ごす。
ストレスは抱えるものではない、親に打ち明けるものだと、学校の先生もよく言っていた。しかし、それは適わない。父と母は共働き夜遅くまで仕事をしている。 家庭で会話する回数も徐々に減り、夕飯は買い置きしてあるレトルト食品が主食である。妹と二人で食事するのも何度目だろ。俺は必然と甘えちゃいけないと考えていた。余計な心配を掻かせたくない……だから、あの河原でいつも泣いている。 けど、あの子が来てからろくに泣くことが出来なくなり、今は河原にも行けなくなっている……会ったら気まずいし、ムカムカする。
あの日を境に心労の解消場所が無くなり、理不尽かもしれないがあの子への嫉妬心がさらに増した。
深夜、妹の知癒が部屋のベットで眠った後、こっそりとテレビの電源を入れ、今では珍しいDVDプレイヤーを再生させ、昔父さんが録画していた特撮ヒーローを鑑賞しながら気を紛らわせていた。そんな大好きな作品を観ていても、泣かせてしまった少女の涙を思い出すたびに暗鬱になる。
俺自身、気に食わない心の底の蟠りを否定することはしたくない……だが、相手のことを考えずに依怙地になりすぎたかもしれない。最後に彼女が呟いた言葉が引っかかる……ああぁもうだめ色々ぐちゃぐちゃだ。来週に控えた剣道の練習試合のことも有り、俺の心労はピークを迎えていた。
思いがけずに耳にイヤホンを付けているのを忘れ、寝転がった拍子にケーブルが抜け大音量の爆発音が鳴り響く。画面に映ったヒーローは悪党を目の前に強く拳を握りながら訴えかけている。
『レッドブレイバー……貴様は何故闘うのだ』
『デスアーマー、人間という生き物は過ちを繰り返す愚かな生命だ。そして私は敵であるお前たちとぶつかり合うことでやっとお前の本質を知ることができた。真実を知ってしまった以上、見てみぬフリは出来ない。それが敵であろうと、この紅ノ刃は生きとし生きるものを……心を救う剣だ! デスアーマーならば貴様も私の守るべき対象、貴様の飢えた悪しき心を私が救ってみせる!』
『ほざくな偽善者が! 我の心を救うだと? 白と黒が互いの良さを打ち消し合うように、悪と正義がわかり合うことなどないのだ! 消え去れブレイドブレイバー、ダァークサンダー・インフェルノォォォォーーー!!』
『救ってみせる、この紅き心が灰塵と消えようと私は貴様たち悪を救う……唸れぇ!アトミック・ファイヤァァ、ブレェェェェーーーードォォォ!!』
轟く雷鳴がぶつかり合い盛大な爆発音とともにCMに換わった。
「ぶつかり合うことで本質を知る……か」
◇
翌日の日曜。快晴の空を保っていた秋の街は赤と黄色のもみじに彩られて秋らしい季節感を漂わせていたが、今日は今朝から雨脚が強く、外の紅葉は無残に散っていた。空元気を活力にして道場に朝一番乗りで稽古を始めるが、不意に思い出す。
「もうあそこには来ないのかな……」
黒い雨雲を見上げて憂鬱なる心も知れず朝の掛かり稽古が始まった。
俺が通う道場の門下生は優秀な実力を持った子が多い。特に今年は尖った奴が多いと
明らかに実力を持ったこと言葉の柔軟が違っていた、それは俺を伸びるようにわざと厳しくあったってくれている……そう思い込むほうが楽だった。板挟みで稽古を続けるのは心身ともに参るが、経験上よく体感したことである。
今日の稽古が終わり更衣室で汗を拭いていると、師匠に呼び出され今日の反省点を細かく指南してもらった。十分間、一通り師匠の指導を終え、更衣室に戻ると、鼻にくるきつい臭いが舞っていた。
悄然と直視したものに凍りついた。剣道具が赤いスプレー塗料によって塗り手繰られていた。ロッカーには『ヘタクソ』『やめちまえ』『出てけ』『死ね』など隣接したロッカーにもはみ出んばかりに撲り書かれていた。俺が師匠に呼ばれている間に誰かが犯行に及んだ……いや誰がやったのかは大よそ察しはつく、実行犯は近日控えた練習試合の俺のメンバーであろう。あからさまに俺に対する当て付けだ。竹刀にもベッタリと塗料の臭いが染み付き、真っ赤である。
今まで一番酷く最低な仕打ちだった。
―そこまでして俺を辞めさせたいのかよ……
悔しさに身を震わせ熱い目頭からにじみ出る涙を堪えた。いつも俺はここで見っとも無く泣いてしまう……更衣室を出た後、師匠が真っ赤になった剣道具を見逃すことなく駆け寄ってくるが、俺は道着を着たまま真っ赤になった防具袋と竹刀を抱き抱え、師匠を振り切り道場から逃げるように飛び出した。
降りしきる大雨の中、何も考えずにただ走っていると、雨によって出来た泥の溝に足を滑らせ水溜りの中に倒れる。剣道具は周りに散らばり、道着は赤染みが滲んでいた。立ち上がろうと腕に力を入れるが酷い脱力にそのまま雨に背を向けて悶えた。
「どうして誰も……俺のことわかってくれないんだ……どうして俺はこんなに弱いんだよ……」
何度頑張っても周りからの疎外感を感じとり、孤立していく。堪えていた涙は雨のように落涙して自己嫌悪と自身の無力感に嗟嘆する。泣いて誤魔化すことで悲傷を打ち消していたがは止むことなく溢れ出る。
もう嫌だ、そう考えたとき身に落ちていた雨が止んだ。見上げると黒髪の短髪の上下ジャージをきた男性が傘を差していた。
「…………と、父さん?」
「おいおい、どうしたこんなとこで泣いて? うわぁ! んだその格好、道着が真っ赤じゃねぇか!?」
父さんは泣きじゃくる俺を背負いながら、知らないうち重くなったな―と息子の成長に喜びの笑みを浮かべていた。しばらくして雨脚が強くなり近所の公園の屋根造りの下で雨を凌ぐことにした。冷えた石のベンチに腰を掛け、仁愛に満ちた声でそっと俺に問いかける。
「こうやって父と息子水入らずで話すのは久しぶりだな。ごめんな、父さん平日はいつも仕事で帰りが遅いから清貴のこと気を遣うことができなくて」
「…………仕方ないよ、父さんが家のために頑張って仕事してくれていること知ってるから」
紅葉家はあまり金銭に余裕はない、つまり貧乏である。いくら父さんが剣道有段者であったとしても、その道で飯を食っていくのは難しい。生産工場の中小企業で働く父さんは夜遅くまで残業が平常である。現代社会、景気も悪くなる一方で何度も就職を繰り返し、現在は小さな会社で切り盛りしているのが現状。今は竹刀を置き、毎晩毎晩、父さんも母さんも共働きで汗水たらしながら少ない収入で家族を養ってくれている。二人が頑張ってくれているのに自分のことで心配を懸けたくなかった、でも最後は結局……諦めて親に縋っている……情けなかった。
「道場の子に虐められてるのか」
顎に手を付けて感触を得ていた。これまでの仕打ちを全部言ってしまうとさすが心が堪えるが、重い口を開き、剣道を習い始めてからのことを曇った雲のように沈鬱になりながら父親に話した。腕の差、道場での孤立、同期生からのイジメ……きっと父さんは聞き飽きたことであろう。クラブに通っていた頃と全く要因が同じなのだから。
「ふん、最近の子供はやることが姑息で過激だな。甲手も胴も酷い有様だな、簡単には取れないぞこれ」
「……うん」
ただ頷き、俯いたまま悲痛に震える。父さんはそんな俺の頭をポンポンと軽く叩いて慰めてくれた。大きく手はごつごつして心地良いものではないがどんな風に吹き飛ばない暖かく安心して羽を休ませられる鳥の巣ような安心感があった。
「……剣道、嫌いになったか?」
思わず勢いで頷きそうになるが、大きく首を振り否定した。
「お前は本当に優しいな、父さんに気を遣わなくてもいいんだぞ」
「き、嫌いじゃない!……嫌いじゃないけど…………これ以上続けたら嫌いになりそう。もうやってたって意味ないし……一向に強くなれないもん……それに―」
父さんは眉間に皺を寄せて難しい顔で腕を組む。幻滅されただろうな……俺にはとてもじゃないけど……
「父さんのような才能がない、とか考えているだろ?」
懸念していたことを口にされ驚愕した。
「……だって、父さんの子なのに全然強くない。俺……父さんのような強い剣士になりたかったから…」
もっとも強くなるなら剣道に限らない。ヒーロー=剣という理由で剣道を選ぶという子供っぽい安易な思考である。
もう一つは、父さんのような強い剣士になりたかった。保育所にまだ通っていた頃だけど鮮明に覚えている……道場でなれない座禅を組みながら父さんの稽古する姿をジッと観ていたっけ……。父さんが道場で鳴らす覇気のある怪鳥のような叫び、踏み込みの震脚は幼年期の俺の身には強すぎる波動で、全身が電気で痺れるように総ての感覚器官を突き貫いた。周りの目新しいものに目もくれず、ずっと父さんが竹刀を振っている姿を目に焼き付けた。
完全に剣道に惚れてしまった……それと同時に自分には到底辿り着けない過酷な領域であることも。激しく剣を鳴らす猛者達の気迫は恐ろしいほか無く、父親の闘う姿はとんでもない強豪。唖然として小さな子供の夢を粉々してしまうほどの力があった。竹刀を振るたびに自信が無くなってきて、逃げるようにスポーツに走っていた。その結果散々な失態を晒した挙句、夢を持っていた剣道にはのめり込めずにいる。
「はぁ~……『親の心、子知らず』というのか、『子の心、親知らず』というのか、親が親なら子も子か…変なとこ俺と似たな」
「……父さんが、俺と似てる?」
「ああ、父さんも剣道が嫌いだった、とは言っても清貴ほど妥協するのは早くなかったかな」
ムッとなった俺の頬を突っつきながら無邪気に笑う父さんは上を見上げる。
「高二くらいか……
父さんの深刻な物言いに喉を鳴らす。一体何が……
「母さんに恋しちゃってさ」
「…………へっ、はぁっ?」
「ずっと前に言ったと思うが高校から付き合いって言ってただろ、手を抜いてはいけないとき羽目外しちゃってさ、始めてあったその瞬間に付き合ってくださいって告白したんだ。それから大目玉食らった、なんて言われたと思う」
「わかんないよ、そんなの」
「『今自分が大好きなことを嫌いといってほっぽりだすような殿方に興味はありません。私は諦めないあなたが好きですよ』って言われた。その後、俺単純でさぁ、死ぬ気で剣道に取り組んだよ。同期で勝てなかった相手も勝てるようになって。気付いたんだ、俺剣道は嫌いになれない。ずっと自分の為にやっていたものを誰かの為に頑張る……本質をつけば自分の為だが、母さんの気持ちに応えたくなると自ずと剣に磨きがかかったんだ」
「……父さんも母さんも、ほんと変わらないよね」
本当に両親を誇りに思う。理由が単純でも好きなことを諦めない姿勢と父母との関係が羨ましい。すると、父さんは俺の背中を強く叩き、曲げていた背筋が伸ばす。いきなりの激痛に悶えるが、視線を向けるとニッと歯を出して笑う父。
「清貴、つまり俺が言いたいことは……嫌いになるまで続けちまえ」
「嫌いになるまで?」
「お前はまだ剣道を嫌いになりきれていないんだろ、だったらとことん嫌いになる」
「でも……父さんが……」
「俺関係なし! 親のことなんて考えるな、お前はお前のやりたいようにやればいいんだよ。本当に嫌いならそこまでだ、本当に好きならまたやり直せる。友達と一緒、本当に好きでもない奴と喧嘩なんかするか?嫌いになっても心の奥底で後悔があるなら、まだ好きってこと。嫌いになるまでぶつかれ! 好きになったら儲けもんだ!」
ふと涙に濡れた少女が頭に浮かんだ。別れ際に突き貫いた、あの胸の重い痛恨。
「嫌い……ううん、好きになりたい!」
まだ諦める瞬間ではない……剣道も、あの子も。手を引くには早すぎる、まだ知らないんだ。閉まった扉を開こうとしないで、目に映ることだけを受け入れて自身に甘えているだけの本当の臆病者だ。ヒーローだって言っていただろ……ぶつかって本質を知るって!!
「父さん! 俺行かなきゃ!」
ベンチから飛び跳ね、赤くなった竹刀を片手に地に足を蹴る。もう一度会いたい、嫌われても、喧嘩になっても……まだ知らないあの子に、俺を知らないあの子に。名前も聞けないまま別れ離れなんて絶対に嫌だ。
曇った空は隙間に茜色の光を差していた。
スノウ「さぁ、まさかの前後編……って、しつこいわよ!」
ヒースクリフ「仕方あるまい、勢いを止めたくないようだ」
キリト「書き出すと止まらないタイプか、クリスマスに何やってんだか」
エギル「まぁ、たまにいいんじゃないか?」
クライン「そうそう、こんなときだからこそSAO(娯楽)だぜ」
ローゼル「妙に説得力があるわね」
リズベット「まぁ、この人は特別、原作でそういう立ち位置だから直球で言わないであげて……」
ライン「まあまあ、こういう祝いの席なんですから、もっと華やぐような気持ちでいきましょ、それではアスナ副団長……祝杯をお願いします」
アスナ「コホン……メリークリスマス!」
一同「メリークリスマス!」
シリカ「……あの~なんで私たちだけ別室なんでしょう。私も皆と祝杯を……」
ユイ「皆さん、楽しそうですね」
ユウキ「仕方ないよ、原作キャラ、オリキャラでまだまともに登場していないキャラは向こうに行ってはいけないみたい」
リーファ「私、第一話で少しだけ出てるんだけど……」
シノン「そんなことより、あなたこの小説の主人公なのにどうして別室なのよ?」
レト「…………ピナって可愛いよな」
ピナ「キュぅ?」
ストレア「こうしてレトは、すれ違いのままクリスマスの夜を過ごすのでありました、めでたしめでたし」
気分転換に書きました(笑)