ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind   作:坂道

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酷い花粉と微熱で頭をクラクラサセナガラ書き上げました。

何度が読み直しましたが、誤字脱字が多いかも

遅くなってすいません、それではどうぞ


第四章~Retribution―『・・・・・・』
遠く離れていて、近い距離


2023年12月20日―最前線49層

 

第41層《ジオニール鍾乳洞(しょうにゅうどう)

 

 

 ポチャン……。

 洞窟の壁にしみ出てくる地下水の落ちる音が湿気た空洞を反響させると同時、指定された岩壁から化け出た人型蜥蜴(とかげ)モンスターが眼光を放ち、伸びた山吹色の小尾を(しな)らせながら辺りを徘徊し始める。これで35回目のリポップ、隠蔽(ハイティング)スキルを張りながら薄暗い岩陰へと移り、斧を担ぐリザードマン・クレストへと近づく。35回目の強襲、戦闘に有効な足場・地形を再度確認し、お互い顔を見合わせ相槌を打つ。

 

(スイッチ……いくぞ)

(……わかった)

 

 無言の掛け声ともレトは囮として相手のヘイト蓄積を全て自身に向くように仕向ける。投剣スキル《ロング・キャスト》と威嚇スキルで牽制し、私はレトから歩幅二歩くらいの距離で彼の背を追いながら魔物へと駆け抜ける。投げたピックがヒット、わざとらしく張り上げた声からヘイト値を読み取ったリザードマン・クレストはレトにターゲットを固定、大振りのストーンアックスを剛腕で構え、ソードスキル《グランドスラム》の呼び動作に入った。相手のスキル発動を見計らい重量系斬撃に張り合える技を行使するレト、左手に握った刀の波紋に右手を添える。カタナスキル《遮波(しゃんは)》、青い閃光を纏った刀身を盾のように前へ押し出す強力な単発打撃攻撃、本来は技の閉めや相手と距離を離す際に使用する剣技だが、相手のスキルを相殺することに長けたスキルにもなる汎用性に優れた剣技。 ソードスキルの光芒が切っ先に迸り、振り切られる斧と刀が交錯する。

 刃は軋み金属が擦り切れるように火花を散らし反発、互いに大きく体勢を崩した……―その隙を狙うのが私。

 レトの脇側から低い体勢で前に出る。逆手構えで持った短剣の刃をリザードマン・クレストの細長い首の喉笛に突き刺し、体を上部からなぞるように首から腑まで肉体を抉り切る。

 続けて通常攻撃から顎に向けて膝蹴りを打ち込み前方へと転ばした後、止めの剣技へと流れるように繋げる。

 脳内再生した技のモーションは手慣れたもの―私の刃を魔物を息の根を止める!

 HPバーが赤のドットまで下がり切った魔物へと飛びつくように白い電火を纏った短剣《ホワイトバースト》を振り下ろした。

 

「トドメ…………ッ!?」

 

 瞬きさせた瞬間、凶暴な魔物が映った瞳には灰色の砂嵐が視界を覆った。

 

(殺さないで……)

 

 耳鳴りのように頭へ響いた幻聴に気が動転して技の発動が不発に終わる。

 うっ! と思考から痺れ流れる黒い記憶の断片に飲み込まれ溺れるように身をよじらせた。

 体勢を立て直したリザードマン・クレストはアルゴリズムによって最も最善な攻撃モーションへと移行、技の機会を失った私は相手へ跳びかかるかたちとなり、視界にギラリと光ったアックスが迫りくる。

 

「あぶない!」

 

 鼓膜を響かせた甲高い声と同時に視界は一色の紅いマントに埋め尽くされた。

 一驚、レトは私の肩を押すように体当たりで横へと跳ね飛ばし、代わりに重斬撃の餌食(えじき)になる。全身を貪る様に振り上げられたアックスはレトを空高く吹き飛ばされ……たのは紅いマントだった。装備耐久値が〇にまで削がれ、紅いシルクの布地は四散すると、レトは切り裂かれた部位から赤く光る鮮紅色を散らばせながら、粉々になった眼前に浮くマントの破片の陰から速度を余すことなく飛び込み、石の胸部へとザッと空気を押すように刀身を突き刺す。ブスッと鈍い音が魔物の体を衝き抜け、留まる刃に人で言う肋骨(ろっこつ)部位まで密着して這いずるように重く斬り裂く。

 

「うおぉぉぉぉぉッ!!」

 

 刀を振り切ったレトの野太い声と魔物の雄叫びが交差したのち、リザードマン・クレストは(いびつ)な状態で二つに割れ、空気に消えるように撒布(さんぷ)した。

 太息を吐いて刀を鞘に納めるレトの姿を目視したまま、私は息も絶え絶えに身を竦めていた。

 今のは何……視界が歪んで神経を逆撫でるような、不快で嫌な気分……。

 冷気が全身を駆け巡り唇が震える。ゾッと背筋から悪寒を感じながら朦朧(もうろう)した私にレトは憂えた声で駆け寄ってきた。

 

「ローゼル、平気か……どこか具合でも悪いのか……?」

 

 蒼ざめた顔で不安がるレトのHPは黄色まで減少しているのが左アイコンから窺えた。リザードマン・クレストの一撃を完全に回避することが出来ず、彼は私を庇い、捨て身という危険な手段で状況を打破したのだが…SAOはHPの最低安全ラインある五〇%以下に減少したにも拘らず、他人の心配をする彼には呆れる。

 

「……馬鹿ね、一撃貰っても私のレベルなら耐え切れるわよ……それに、私なんかを庇ったせいで、シズナ達に貰ったマントが……」

 

「『私なんか』、とか言うなよ……マントは仕方ない、シズナとキングには悪いが謝って許してもらうよ、友達の命には代えられないからな」

 

「友達……」

 

 ふと囁いた言葉は私の心だけに響く虚しい囁き。その言葉にどうした弾みか切なさに胸の内が(つか)える。尖った異物が胸を這いずり回るような悪心に似た感慨が揺れる。すると、その様子を見兼ねたレトは私の手の平に手を添えようとした瞬間……

 

「やめて……!?」

 

「ロ、ローゼル……」

 

 何の弾みかレトの手を振り払い拒んだ。拒絶されたレトの仮面の奥で揺れる瞳に酷い罪悪感に駆られてしまう。なんでレトの厚意を無為にしたのか自分自身で理解できないでいる私は、有らぬ癇性(かんしょう)を浮べる。

 ―レトが……怖い?……違う、もっと何か漠然とした胸を狂わせる焦慮が……

 行き先の見えない思慮の渦に呑み込まれている私に、また彼は懲りずに手を差し伸べる、今度は仮面を外して何の不満のない顔を表に出していた。

 

「ごめん、さすがに度が過ぎた、年下に慰められるとか、あまりいい気分じゃないよな」

 

「ちがう……ただ……私は……」

 

 魔物に止めを指す瞬間に聞こえた幻聴が攻撃時に支障が出たのは確か……あの幻惑の言葉は私が何度も聞いた、人が死に際に落す言葉。私の犯した罪への贖罪(しょくざい)・罰だというなら業を受け容れざる負えない……にしてもあの声が脳に伝達されたとき深く悲しい回顧が思い浮かんだ、殺戮(さつりく)を犯した(うら)みの霊魂とは違う、もっと親しげな何かを感じ取っていた気がした。

 

 

第42層 ダングレスト

 

 

 第四十二層に訪れた私達は、レトの商売仲間で買い取り屋、悪く言えば故買屋とも言われている店に向かっていた。彼の状況を知ってなお依頼を申し出ていることから商売仲間として最も信頼されているのか、それともこの手の稼ぎ頭として信頼が厚いのか、前者後者ともに怪しいものである。

 今回はそんな情の厚い店主から武坊具の強化素材の取り寄せ依頼を受け持っている。依頼内容は[リザードマン・クレストがドロップする《紅迅石》を一〇個程手引きを頼む]といったところ。レア度はランクB+、第三十層のエリアでしか獲得することができない異色のドロップ素材。ホームタウンから遠く離れた森林ダンジョンを越え、洞窟フロアの最深部まで潜る必要がある。リザードマン・クレストは最深部でしか出現しない上に、リポップするのが毎回一体、戦闘平均レベルは五十三程と前線に近いレベル、それに加え迷宮区ではないエリアのため、一つ上のボスフロアから階段を利用することができない、という時間と手間が要するプレイヤー泣かせの仕様になっている。

 

 早朝から昼間まで時間を費やし、やっと素材の目標数まで達成した私達はダングレストの中間区に住まう依頼者の店へと、狭い路地裏を通っている道中であった。

 夕闇の中、歩幅を揃えて歩く路地裏から流れる風は一層肌寒く、この街で死の(ふち)へと突き落としたプレイヤーが脳裏に過ぎる。

 罪への執着心は未だに途切れることはない、途切れてはいけない……人を殺した意味を忘れようしちゃいけない……それが贖罪、命を奪い続けた私への罰……もし償えることができるなら……

 

(いのち)を踏み台にして生きている殺人者(レッド)のお前が何を言うかと思えば……』

 

 ざらついた言葉が背後から脳裏に迸る。異様な気配に視線を顧みるが後ろには誰もいない。

 

「どうした?」

 

 隣を歩いていたレトは私を柔らかな毛糸ような声で顔を覗いていた。肌に感じ取った悪寒は私の表情を青くして少し酔ったような頭の(だる)さがあったが、あまり心配かけさせたくないと頭を覆ったフードの布地を引っ張り、(にじ)み出る土気色(つちけいろ)の顔を隠して言い張る。

 

「大丈夫……少し寝不足なだけよ、心配――」

 

「――するよ」

 

 心配しないで、という言葉の続きを上書きされた。そのまま私の手を握って仮面越しから悠然とした瞳を向けていた。氷のように冷え切った私の手はレトの温かな両手でギュッと掴まれる、指先から温もりが流れる込むように。

 

「気分が優れないなら外で待ってて、交渉はすぐに済むはずだから」

 

「でも……私を一人にしたら」

 

「いいだろ少しくらい、ローゼルだってずっと俺と付きっ切りなんてしんどいだろ。少しくらい羽目を外したって罰は当たらないさ……依頼が終わったらここで何か食べよ、そろそろ君がお腹を空かせる頃だと思うし」

 

 軽いジョークで私を元気づけた後、片手は徐々に解かれる。

 彼の手が離れていく瞬間、突然今亡き母の面影が記憶の奥底からフラッシュバックした。灰色に掠れて砂が掛かり、今にも消えてしまいそうなに母の姿と背を向けて離れていくレトの後ろ姿が重々しく重なる。

 

「お母さん……レト!?」

 

 咄嗟にレトの手を掴み引き止める。振り返る彼は不意を突かれたかのように瞳に驚きの色を示す。思い留まるような行動をしてまでレトの手を必死に掴んだ私の気持ちとは裏腹に、何を言葉にしたらいいのか分からない。でも闇雲に掴んだ手は放れずレトの手が軋むほど強く握り続けていた。

 すると、レトは仮面を外し、飽くなき微笑みを返しながら私に言い残す。

 

「大丈夫……すぐ帰ってくるから」

 

 もう一度レトは私の手を包み込むに優しく握りしめる。一瞬で冷める手の体温を少しでも永く残すように。

 人の肌をこれほど恋しく思ったのはいつからか、家族が隣にいなくなったときも今のようにな寂寥に心を凍らせ誰かの体温を求めた。人に抱かれたときの熱はとても温かい、心の(くぼ)みを埋めようと必死になっていたこともときにはあった……いずれは失うことを知っていて……。

 分かってる、レトにこれ以上は求めてはいけないということを……けど、彼の小さな温もりが遠ざかっていくことで、今まで以上に心の器へ大きな穴を開けてしまう。

 

――”扉を開いてくれたなら、ちゃんと閉じていってよ”

 

 留めた温もりを胸に押し当てて、レトが店の扉の奥に姿を消すまでじっと彼の背中を見続けていた。

 ほんの一瞬まで消えないように……

 

 

 

 彼が入っていった店から、少し離れた人気の無い狭い石壁のトンネルで(もた)れていると、陽光が傾いて膝まで光が伸びていた。日陰からダングレストの橙色の空を仰ぎ、フワッとした白い雲と、それを夕陽の鮮紅色に染め上がっていた。

 

「あか……赤」

 

 私の口を自然と(つづ)らせた基本三原色の赤色。色から連想されるといえば活気、情熱など一般的に気持ちや精神を盛り上げる象徴の色。火の赤、祝の赤、派手な赤、人がイメージすると記憶から思い浮かぶとすれば明るい印象ではあるが、それと同時に警戒の色でもある。

 禁止の赤、警告の赤、危険の赤……そして私の記憶から消えることのない――赤い血

 人間の脈中を流れる赤色の液状物、怪我をすれば肌から垂れ、脈を切れば(たちま)ち滝のように溢れかえる。

 この世界に血の表現は無い、VRゲームが発売当初から議論になっていて血の表現はどのゲームにも採用されなかった、当然である精神的な障害を残すようなプレイヤーが出ては今後VRゲームは終わりを告げていたことだろう、そしてきっと私はこのゲームに手を付けることもなかった。

 手の甲を返し、紅眼は手の平を映す。

 あの日私は家族を真っ赤にした。冬の模様に飾り付けした部屋……白いカーペット、白い壁に飾ったキラキラ、光輝く少し大き目のクリスマスツリー、窓辺からサンタの来るのを待つ弟……色を反転させたかのように周りを赤くし、母と父の赤い血が飛び散り、私の手にかかった母の……

 うっ、と思考回路から溢れ出す黒い記憶が逆流して酷い吐き気を漏らす。必死に体を擦って胸のしこりを取り除こうとするが、過剰なトラウマへの拒否反応が自律神経を狂わせる。一度陥ると負の感情へ意識が傾き周りが見えなくなり散漫になる眼はより一層狂気への誘う。

 普段から過剰意識しなければ赤色を見ても慟哭(どうこく)することは殆ど無い、しかし今のようなことになれば私は一つの行動療法へと移っている。

 医師からは一種のパニック障害の一つだとされていた、私の場合、トラウマに埋め尽くす程の強い弟への執着心が不安定な心情を安定させる対症療法なり、狂気から逃れる手段。弟の、希望に(すが)るしかない、そう何度も思考を上書きするしか……

 

『――・・だよ・・て・・ち・・・・ないで』

 

 おかしい……錯覚にしては度が過ぎる。華太と過ごした明るい思い出を開くたびに歪んだ幻聴が鮮明なものになっていく。

 

『――嫌だよ・・・て・お・・・・・・ころ・・・で・・・・・しに・・な・よ」

 

 鳴り止まない。

 砂がかかった瞼の裏で白黒の念写がポタポタと浮き出てくる。悲鳴、人が死の恐怖に溺れて狂乱して……この、声……は……

 駄目! これ以上思い浮かべてはいけないと私は記憶の糸を切断しようと試みる。しかしそれとは裏腹に記憶は思い出すのは容易だが、一度思い出すとより深く意識してしまう。

 なぜ、私はかけがえのないたったひとりの家族に思いを寄せただけなのに……

 噛み付くような頭への刺激を両手で押さえつける……すると、フワッとした人の素肌のような安心感を与えてくれる感触に恐怖に震えた体をピクリと静止させた。

 頭の左側面に翳したレトからの貰った花飾り、別世界の……牢獄の城から遠く離れた蒼穹の丘に自由に咲く白銀の花が私の心の悲鳴を静めてくれた。

 

「ハァハァ……ハァ……れぇ、レト……レトぉ……」

 

 花から生まれる優しい気持ち、一面に咲いた最愛の花が広がる温かな景色……そこに立つ満面の笑みで私を迎えてくれる紅いマントの少年。私の「哀」を受け止め、守ってくれる、私だけの……

 漏れた涙の粒を拭き取り、冷えた膝を付いた足を立たせて陽光が差す街道へ出る。

 

 一呼吸、深く吐息を漏らしようやく落ち着いた胸に手を撫で下ろす。通行するプレイヤーとNPCを避けながら当てもなくブロックの床を歩いていると、一角にひっそりと建ち並ぶ小さなNPC道具店のガラスのショーウィンドウに薄っすらと映る自分に目が入る、

 視線から水平線に映るのは真紅に染まった隻眼……血のように染まった眼はいつからか、忘れるはずも無い、二〇二二年一一月二二日――スライの絶対的な支配により私達姉弟が生き別れとなり――私が二度も世界に絶望した日。心躍る色彩が失われ、単調で冷たい白黒に染められた日。

 解放を願う勇敢な剣士達の住む世界を這いずり、死神が要求するがまま人を殺し続けた一ヶ月、私を姦悪な殺人鬼になるには時間が掛からなかった。

 罪を姦譎(かんけつ)して自身を正当化することでPK(プレイヤー・キル)殺害への躊躇いもなくなった半年、生き甲斐は華太の声だった。

 アイテムストレージに数十個溜まった《メッセージ録音クリスタル》、スライから許された私と華太の唯一の繋がり、私の生きていく希望。一ヶ月に一度、《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》Pohと《BLOOD》スライが密会時に直接手渡せる。結晶石から懸命に私へ『頑張って生きてね』、『ずっと待ってるから』、と儚げな弟の声が響くクリスタルを耳元にこじ当てて一度っきりの優しい声を心に沁み渡された。

 

 あれから一ヶ月、あの圏内PK事件を境にスライとのコンタクトも取れずにいる私は祈る思いで黒鉄宮に彫られた弟《Hoop(ホープ)》というプレイヤーネイムを凝視し続けた。数日間碑文から眼を離さすのを恐れるほどに。

 不安で怖くて何日も黒鉄宮から離れようとしなかった私にレトは呆れることも無く、私の気が済むまで隣に居続けてくれた。

 嘘、偽りを詠い間違えだらけの暗転した世界を彷徨う私はもう白黒にしか見えていなかった……見えてなかったのに、レトは色極私の視界に入ってきた。

 きっとあの頃の私には(にわ)かに信じがたいことだろう、と花飾りを結ぶ紅いリボンを撫でながら鏡に小笑みを映した。

 あんな嫌気が差した混沌に満ちた赤も、彼のことを思うと灰汁が抜けたかのように優しい気持ちに溢れかえる。

 最初は彼の命を奪おうとしたのに、知らず知らず手に持った冷たい刃物のごと手を掴まれていて、強制クエストに参加させられたのかと錯覚するほど……。

 でもクエストなんかじゃない、状態異常でもない……この世界で唯一本物の慈愛の心を贈ってくれたレトのことが……

 その先を考えることに躊躇(ためら)いを感じて首を軽く横に振った。重く吊りあわない片方に傾いた天秤のように出してはいけない欲望に(あぐ)む。

 

「足りない……」

 

 一言囁いたことは逸脱していた。何が不満なの……私に沢山の気持ちをくれた彼にこれ以上何を求める。

 傲慢にもほどある私心に悄然と憮然が同時に混じった感慨に浸り、濁った深紅の瞳を伏せる。

 

「ローゼル」

 

 佇立している私に声が掛かった。鏡から背後に映る軽装の鎧を装備した細身のある女性だと確認した後、警戒しながら踵を返す。

 

「あなたはソディアさん?」

 

 スッと音を発てずに後ろにいたのは戦う兵士の品格を過持ち出す女性はソディア。血盟騎士団に所属するラインの副官を務める攻略組では珍しい女性プレイヤー、猫目のような眼光を放ち一兵士として様になっている。

 一体何の経緯で話しかけてきたのかは計らずしも考えられる。レトは依頼として私を二四時間監視するという規定で私を牢獄エリアへの収監を免れている、規律に厳しい彼女からしてみれば私を野放しにしているレトが許せないであろう。

 

「ソディアさん、レトが悪いんじゃなくて、私の不注意で―」

 

「――ついてこい……」

 

 ソディアは謙遜して怒ることもせず、私の話に構わずただ一言ついてくるように言った。何時もの生真面目な彼女なら尖った声で叱咤(しった)するところであるが、今のソディアは無表情で声にも情調を感じられなかった。

 私が動くのを待つかのようにじっと虚ろな目を向けているソディアに躊躇いを感じながらも歩を進め始める。

 もう一度彼女に問いかけるが、姿勢を崩さず街路を黙って歩くだけ。声が聞き届いていない少女の姿はまるで冷たい人形のような静寂を帯びていた。

 

 




新章突入記念。坂道の知り合いが書いたローゼルです。
あくまでイメージです。
・・・何故SD!?―デフォルトじゃないの・・・・・・可愛いからいいか


【挿絵表示】


友人「CGイラストとか無理!ボールペンで頑張った結果がこれだよ(髪に違和感)、まったく」
坂道「いいよ、可愛いから・・・・・・レト描いてって言ったよね!?」
みたいな談笑がありました。

次回の投稿はなるべく早くします・・・なるべく・・・
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