ソードアート・オンライン~紅の心意―The Cardinal Mind   作:坂道

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ソードアート・オンラインⅡの放送が来週に控えて作者歓喜!

シノン「せめてゲームの中でくらい銃口に向って死んでみせろ!」

とりあえず持ち前のガンゲームがFF7DCしかなかったのでそれをPLAY
HARDモードでヴィンセント格闘縛りで始めたら最初の一般兵に殺されたwww
シノンさん! 坂道(ヴィンセント)は一般兵に殺されました

漫画SAOガールズ・オプス(MORE DEBAN主)に加え、漫画版SAOP(アスナ視点)第二巻も来週に発売!!

今年の夏はSAOで決まり!!

それではどうぞ今月のSAO紅をどうぞ!


KoiHanabi

 

 黄昏色を映した湖は細やかに波の音を囁く。水のせせらぎに耳を澄ませて聴くとそれは心地よく、大橋の高欄に腰をかけて視界をその夕陽にキラキラと輝く水辺の波紋に溶かす。

酷く荒れ狂った胸の鼓動はようやく落ち着きを取り戻していた。それでも心に取り憑いた死神の手は離れることはない。こうしている間にも死を告げる秒針は刻々と針を進め、天秤の支点は不規則に揺れ動く。

心臓に手を握られたように縮んだ心臓を圧迫する恐怖心が自然と沸き起こる。

憂慮(ゆうりょ)に堪えない厭世(えんせい)的な思考に両膝を抱えてうずくまっていると、突然首筋にヒヤッとしたものを押し付けられた。

キャ!? っと思わず恥ずかしい声を張り上げて振り向く。後ろで身を忍ばせていたのは、ニコニコと悪戯な微笑むを浮かばせたリズベット。両手には”cool”と描かれた紙コップを持ち、一つを私の前に差し出す。

 

「少しは落ち着いた? ホラ、飲み物」

 

「……ごめんね、仕事の途中だったのに」

 

「いいのいいの、どうせ鉱石の割り当て(クォータ)は明日に持ち越しだし、お得意先の武器強化は今朝済ませているから、今は非番よ、ひばん。だいたい仕事っていうほど大層なことしてないわよアタシ達職人クラスは、もっぱら安全なところでトンカチ振ってプレイヤーのバックアップしているだけよ」

 

「し、仕方がないわよ、あなた達職人は前線の人達の力になるために腕を振るっているだから……私からしてみればとても誇らしい事を全うしているわ……」

 

リズベットに励ましの言葉を送るが、口にするうちにとても苦い暗鬱を覚える。

自分が手にかけたプレイヤーの中には武器職人を生業(なりわい)とし、この世界の解放を臨む者がいた……今隣にいる子の職人仲間だったとすれば、ローゼルはリズベットを真っ直ぐ見ることができない。

命は人と人を繋がるライフライン、赤の他人を切り裂くことは他に繋がった人の心を切り裂くこと。それを分かっていて何度も人の首を冷めた刃で切り裂き、悲痛の連鎖を止めずにいるローゼル(レッド)……もしかしたら知らずにリズの心に刃を刺していたかもしれない。

杞憂とは言い難い事実に眉を顰めて手に持ったカップにヘコみ作った。

 

「ありがとう、そういってもらえるのがあたし達職人にとって最高の喜びよ。今は稼ぎ時だってのは分かっているんだけど、ローゼルとは一度改めて話したかったの」

 

 得体の知れない焦燥感に苛まれた心までも容赦なく握り潰す死神の手、そんな暴虐な魔の手をほどいてくれたのはリズベット。

 声は出ず、膝をしきりに震え立っていられない私を彼女はいたわりの言葉で優しく慰撫してくれた。あの瞬間、私の胸に光が差すことがなかったら、私は身を投げ捨てていたかもしれない。

 私の気を静めてくれたリズベットは何か気晴らしになるかと思い、露店に売っている飲み物を買いに戻ってきたところ。

 ダングレスト街を繋ぐ大橋にわざわざ私を待たせたのは、ここのフィールドへ出入口を利用するプレイヤーがほとんどおらず、私という遺憾を凝視するプレイヤーがいないためだと思った。

 第42層は特の昔に攻略され、今では攻略組が会議拠点に使用するくらい。そのためダングレストを利用するプレイヤーは中央区に一致する転移門のみ、リズベットなりの私への配慮であった。

 リズベット私の隣に腰を掛けてカップのストローを口に含む。少女に続き飲みものを口に含んだ瞬間、ジュワッとした痺れが舌を刺激し思わずむせ返ってしまった。

 

「き、きつぅ~~!? これって……炭酸?」

 

「そうよ、SAOの世界じゃ珍しいでしょ? 私も最近見つけてびっくりしちゃったわよ。あ、もしかして苦手だった?」

 

現実(向こう)では好んで飲んではいなかったかな……嫌いではないけど」

 

「まぁ何にせよ、これでやっと二人でドリンクを飲むことができたわけよね」

 

「……本当は私があの日、奢るはずだったよね…………あのときはリズに迷惑かけちゃった、ごめんなさい」

 

「あ~~そこを掘り返すつもりはなかったんだけど……というか、ローゼルはさっきから謝ってばかりね」

 

「……ご、ごめー」

 

「は~い、聞き飽きました~! そういうこと繰り返されるとコッチまで調子狂うだから……それに――」

 

――本当に謝りたいのはあたしほうだよ……

 

掠れた声で呟いた一言はローゼルの耳には届かなかった。

リズベット自身も前回の一件を引きずってはいる。今でもローゼルが人を殺めたとは信じられない自分がいるのも事実である。――この人はこの世界で犯してはいけない禁忌を犯してしまった咎人、それだけでリズベットには彼女を遠ざける理由になる。

――あの日ローゼルの隣にいたのがレトでなければ、きっと彼女とは決別していたと思う……あたしはそれが許せなかった、あいつを理由にあなたを受け入れた自分が。あなたが軍に腕を縛られてまで見せた笑顔はきっと友達に送る笑顔だった、私はそれを周りに流されるがまま思考を止めて、あなたが処刑される姿をただ茫然と見ることしか出来なかった……そんな風に考えてしまうの。

 リズベットは何時ぞやの自分をそっと回顧させた。

 

 

 

自責の念は治まりそうにない。あたしはあの日から数週間、手に槌を握り続け、あの時動けなかった自分を戒めるように熱した鉱石の塊へ槌を打った。

馬鹿、根性なしと、胸に溜まった悔恨を表に表すように振り鳴らす。金槌と鉱石の間に火花を散らせて、遣る瀬無い感情をぶつけつづけた。

あれ以来良い武器が打てない、そして気持ちは晴れことはない。仮住まいの小さな部屋は作成した武器が大量に積まれいた。

どう鍛えても武器に答えが出るわけもなく、ため息交じりに散らばった武器を眺めて一つの剣を手に取ると、金属音が止んだ部屋で悔悟と言わんばかりにふと思う。

 

――あたし……さっきから自分のことしか考えてないや……

 

ローゼルは腕を縛られ罪を露わになった状況でもあたしに気遣う姿勢を見せていた。例え幾度となくPK犯罪に手を染めていたしてもローゼルの言葉に嘘はなかったと思う。

初めて彼女とあったときは、いけ好かない、というよりもあたしが一方的ジェラシーを燃やしていた。

――べ、べつに……あいつが隣にいたから嫉妬わけじゃないし……何というか凄いプロポーションしていて大人の風采を漂わせていたし……妙にあの鈍感が楽しげだったから、決して! 羨ましなんてことも思ってないし、あたしにはな、なんら問題ないんだけどね!!

 ぐぬぬ、と童顔の眉間に皺を寄せているとあたしはローゼルとの馬鹿ばかしい口喧嘩を思い出す。

最初は勘違いでもめ事になったんだけ、まぁ……あたしの一方的な勘違いだった訳だけど、でも小学生かっちゅうのっていうくらい間抜けな口論だったな…………そういえばここに来て、いいや現実の世界でも女の子と真面に言い争ったのはローゼルが初めてかもしれない。元いた世界ではあたしは結構引っ込み思案で周りとのイザコザは避けていたし、親友ともいえるアスナとは出会った当初から仲良しで喧嘩の『け』の字もでなく仲睦まじい関係でいる。

 

すると、ローゼルの何気ない言葉が記憶を掠めた。

 

”『同年代の女の子と喧嘩したの……初めてかもしれない』”

 

 ローゼルが何食わぬ顔で口から溢した言葉に悩ませていたことが馬鹿らしくなって笑った。

 

――ハハハっ……そうだね、あたしも初めてかもしんない。

 

あの一悶着はいい薬だった。相手に気を配る接客業も、親友との関係を良好に保つのも、意識的に自分を少しでも偽る必要がある、あの仮面剣士さんを見ていて思うわ、相手に気を使ってばっかりなんだもん。

 

たまには本音を咬ませ犬ように吐き出すのもいいのかもしれない。ムカついたり、妬んだりするのも悪くないわね……考えすぎちゃった、アスナともたまには喧嘩してみようかしら?

 

その後、打った武器はそれは上出来な一振りが完成した。これは店を買ったらカウンター奥に飾って置こう。

 

 

 

 

 

――己を悔い改めることよりも偽らざる気持ちで歩み寄るのが本心だよね、だから今度はちゃんと向かい合って話そう……一人の身近な友人として。

 

 

リズは思い巡らせた決意を答えはしなかったが、その瞳にはもう霧はかかっていない、それは彼女の揺るぎない決心を端的に示していた。

 

 

顔を曇らせる私にリズベットは彼女の右手に手を置く。ギュッと包んだ手を凝視した後、俯かせていた顔をあげると笑顔と真意を持った瞳がそこにはあった。

 

「レトみたいに受け止められるかは分からないけど、あんたのこと理解してあげたいって、あたしは思ってる……だから少しだけでもいいの……何があったか聴かせてくれないかな?」

 

 強く、そして温かい言葉に心が弾んだ。

 何を戸惑う必要があったのか、いつの間にかレト以外の人さえ遠ざけていたぬかるんだ心に蔑み、目の前のリズベットにまで距離をあけて背をそむけていた。本当は誰よりも私の胸の内を知ってほしいのは、こんな同性の女の子のはず。

 分かりたくても分かろうとせず、ずっとそんな温かい交友関係に私は怯えていた。現実で友達を失い、転校先でも学友と交流を深めようとせず、規則正しい、謙虚な偽りの優等生を演じた日々は心に強い疑心暗鬼で掌握していた。

 快く招き入れてくれた祖父母にも嘘偽りで塗り固めた私が、信じられるのは弟だけだと思っていた、真実を知るものだけが味方だと……けれど、それは違った。

 今自分が信じたいと、相手を信じたいと思う心に真実も偽りもない。

 リズベットは私を信じようしてくれている、そんな彼女を私は信じたい、信じられるはず。

 亡き母の言葉と悔恨の念を抱えつつも、私と向かい合ってくれたリズという友達に自然と瞳を交わした。

 

「もしかしてレトのことで悩んでいるじゃないの? 大丈夫だって、あんたこと一番に考えているのはたしかだと思うわよ……それとも万にしてないと思うけどレトに何かされた?」

 

 両頬の笑窪をよせて弾き返すように笑うリズベットの好意に私は自然と開いていた口を閉じて、頬に僅かな赤みがつく。

 

「……とは言ったものの、また私の早とちりじゃないといいんだけど、あはは……」

 

 少女の元気な声に胸のつかえが少しずつ晴れる……それでもとても少女に打ち明けるような問題ではない。 ただでさえ気持ちの整理が追いついてないのに、無闇にリズベットを巻き込むことはできないし、したくない。彼女にはずっと明るい場所に立っていてほしい。

 悩ましい気持ちが何度も回顧することで再び口を塞いでしまう。

 重い間から数秒後、

 

「……ここはね、あいつがよく惚けているところなのよ」

 

 思い耽る迷路に困り果てる私に活路を開くかのようにリズベットは自ら話題を変える。その話登場人物は良くも悪くもレト以外に考えられかった。

 

「ちょうど第45層がアクティべートされて、あたしが上への露店の移転を考えていた頃だったかしら、見納めにこの街の湖でも眺めにいこうと入口ゲートまで来たんだけど、そこには赤マント姿が際立つレトが独り寂しく夕陽を見ながら黄昏いたのよ。じーっと動く気配するらなかったから、少し脅かしてやろうとしたんだ……でもなんだろう……心ここに在らずっていうのかな、まるであいつだけはこことは違う、別の世界にいるみたいでさ、悪戯心も失せて、あいつの寂しげな背中につられてあたしも思いふけていたわ……あの男は一体毎日何考えているんだろうって……」

 

 楽しげに喋っていたリズベットは茜色の空を見上げると、一寸虚ろげに続けた。

 

「散々使えない頭を悩ませてみたけど、途中で無理だなって悟った……――あぁ、あたしこいつのこと何も知らないんだなって」

 

「リズ……」

 

 リズベットの悩ましげに物思いふけたは共感できた……私にはレトが見ていたものを知る分余計に。

 先日彼の口から思い出深く語ったレトが求める現実。会うことが叶わない、きっとこの夢の世界には存在しない彼が特別な思慕の念を抱く少女、結城明日奈を思っていたんだと。

あの日、情けなく思い出の少女を疎ましく妬んでしまう私は、欲しいものを強請るわがままな子供ようだった。わかっている私は彼に相応しくない、それでも少女を嫉視してしまうのは私も彼に特別な思いを感じているから……『本当にそう?』

心の蟠りでしゅんと萎れた疑念がまた一つ増えた。抱えきれない悔恨にまた一つ重いもの胸に抱えるが、私はそれをすぐにその疑念を開いて言葉へと綴らせた。

 

「あれ……何だがローゼルを元気づけようとしたのにあたしが勝手に沈んじゃった、あは、あははは……――」

 

「――ねぇリズ……恋ってなんだろう……?」

 

「えぇ……!?」

 

「やっぱり、人を好きになることなのかな」

 

 胸の取り憑いて何かがホロリと肌を伝う涙のように自然と零れていた。

 

「昔ね、私がお母さんに聞いたの……――『お母さんはどうしてお父さんと結婚したの』って」

 

 私はあのとき母と一緒に歩いた夕陽の道と今映る茜色の空と共鳴りを感じながら瞼を裏で母のての温もり久しく思い出す。

 

「『あなたにも大切な人が出来たら分かるわよ』、お母さんはそれだけしか答えてくれなかった。結局答えがいえなまま……大切な人……か」

 

とても気恥ずかしいことを口走っていたことに気付き、少し頬を染めてその場を誤魔化すように言葉を告げようとすると、

 

「すきになるだけじゃ……求めるだけじゃ、ダメだと思う」

 

 リズベットの小さな唇を震わした囁きは私の心に纏わり付いた黒い膜をスッと通り抜け、深く温かなビートを響かせた。

 

「恋は相手を、好きな人を求める……あたしはその人一緒にいたい、その人があたしを好きになってほしい、少し独りよがりな感情なんだってあたしは思うの。それが悪いってことじゃない、恋をしなくちゃその人を見ることができないし、好きにもなれない……でもそれだけじゃない、そこには愛情が必要なんだって思う」

 

「愛情……」

 

「互いが求めあう恋しい気持ち、互いがその人を守ってあげたいっていう愛しい気持ちが、恋……ううん、違った、恋愛だって私は思うな」

 

 リズベットのうっとりした瞳の輝きは湖に乱反射した夕陽の輝かしい絶景にも負けない、綺麗で眩い光があった。

 恋に恋する乙女とは彼女ような可愛い少女に似合うものだと思えてしまうのはロマンチック過ぎるかな。

 そんな純真なリズベットを魅入られた私は、ふと自分の彼に対する混迷とした感情が思い返す。

 私はレトに好意を持った、彼といることで私の自制心を強く固いものへと姿を変えるが、それと同時に理性では抑えられない恋情を私が彼に求めていた。

 

―そうか、私……あの人をずっと求めて(恋して)いただけなんだ。

 私が抱いていた違和感、求愛という姿勢が私という人間を弱く儚い存在に変え、惻隠(そくいん)の情を自ら表に晒していたのだ。

 

「な〜んて、これは何処かの誰かさん受け売りなんだけど、恋愛経験ゼロのあたしが恋も愛も知ったこっちゃないわよね、あは、あはははは~~……!」

 

 わざとらしい高笑いで今の情熱の恋歌を台無しにするリズベットの頬は薄いピンク色に染まっていた。余程気恥ずかしかったのか……いいえ、きっと彼女は今……。

 彼女の恥じらいから奥に閉まった大切な存在を察し付く。

 

「ううん、その思いやりに満ち溢れた恋言葉も……リズがレトのこと大好きってことも分かった気がする」

 

「そうそう、あたしはレトのことが大す……って、ふェッ!?」

 

 私は晴れて無垢な声と何食わぬ顔でリズベットを煽ると、リズベットは素っ頓狂な声をあげて愕然と目をグルグルと回す。

そんな初心なリズの純情な可愛いさに自然と頬が綻んでしまう。

 

「ちょ、ちょっと~! な、なにを言っているよあんたは!? どうしてそうなるわけ?!」

 

「ふふふっ、ちがうの?」

 

 リズ、あなたが否定しても私には分かるよ、貴女は彼を愛したいって思う気持ちが隠せていない。あなたと会話するとき必ず貴女は何処かでレトを気にかけているだもの……ほら、その紅葉色が何よりもの証拠だよ。 夕陽の赤い光が彼女の朧気な葛藤をせわしたてるように煽動させている。

 

「だったらリズはレトのこと嫌い?」

 

「あ……、だから、前に言ったように……、あたしは……、その……」

 

「私は………………レトのこと、

 

 

 

 

 

 

 

 

――大好きだよ」

 

 

 

 そのとき私の心は重い枷が解き放たれたかのようにやわらかな弾みともに心が軽くなった。

 リズベットは時が止まったのように目を見開いて言葉を失っていた。

 いきなり過ぎたかな? と少し憂鬱な空気が私達を重く閉ざしてしまう。けれど私はリズベットに、友達にもう嘘をつきたくない。本心から私が大切な友達に送る願いを……約束をここに、

 

「だから……リズには、ずっとレトを愛してほしいな」

 

「へぇ……?」

 

「約束……してくれる?」

 

 上の空になったリズベットを手のひらを返すようにその言葉を送ると、小指をそっと彼女の胸元の前に置いた。

 

――私にはもう、辿り着けない思いだから。

 

 ―あの少女には悪いけど……今、彼を守ってやれるのは、リズしかいない。

 

 澄み切った空気を震わせるのは湖の静かな囁きのみ。

 差し出された小指をリズベットは不思議なものを目の当たりしたかのように凝視したまま、微動だにしなかった。

 煌びやかな夕陽のカーテンが私達を照らす中、澄ましていた耳に音色のような綺麗な声が響く。

 

「リズぅーー!」

 

 リズベットは糸が切れたかのように風に乗って聞こえた声にかえりみる。

 私も音が響いた瞬間、視線をあげると、遠くから手を振って呼びかける白い鎧を身に纏った少女の姿が目に映る。

 あの紅白二色に分けた防具は間違いなく血盟騎士団、その凛と歩く姿に女性の私でさえそのプレイヤーの魅力に目を奪われてしまうほどの可憐なオーラを放っている。

 ぼんやりと映っていた素顔は少女が歩み寄るたびにはっきりとフォーカスが捉えていく。

 ふと、目で認識できる距離から少女の顔を見ると、私は少し目を疑った。――似てる……? と自ら口にしてしまうどこか共鳴りを感じ、思いは一寸にしてセピア色に褪せた。

 瞼の裏に浮かんだレトが語ったとある意地っ張りでいつも一生懸命なお嬢様と瞳に映した気品に溢れた流麗の女性剣士。

 その少女の髪は夕陽に溶け込む栗色の綺麗な長髪、白い衣服を着こなし、茜色に溶けない真っ直ぐな強い瞳……彼が思い出に心を寄せた大切な人と、まるで私の想像に綺麗に収まった。

 こういうのを運命というのか……いいや、偶然なのだろう。

 きっとあの子もこんな綺麗な子なんだろうな……もし仮にあなたが結城なら……私はきっとあなたに嫉妬している……ほんと、本当に羨ましいよ、結城明日奈さん。

 

 まるで聖なる閃光の輝きを纏う聖女と、混沌の暗黒に沈んだ私という悪魔とでは互いに相反する判然な境界線が見える。

 

――私には過去の二人の関係が存在が眩しすぎる……けれど、

 

 私はピンク髮の少女を見ながら思う。

 

――少女と引けを取らない優しい彼女なら……

 

 遠く思い願った言葉を心に留めて、私はリズベットの耳元で告げた。

 

――リズ、こんな私と友達になってくれて、

 

 

「(・・・・・・)」

 

 

 風の音に掠れてしまうほどの囁きを残したと同時に転移結晶を展開する。リズベットに言葉が届いたときには口元で呟いた転移先に飛び立つ瞬間だった。

 

 青い光が全身を包む中、振り向いた大切な友達に手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

―ローゼルが彼に告白する理由がわからなかった……

 

―ローゼルがどうしてあたしにあんな約束を持ち掛けたのか……わからない……わからないよ、ローゼル。

 

揺らいだ心の鼓動一つ一つが鮮明に自分の身を震わせいることがわかる、動揺しているだと。

目の前にいる花飾りを揺らす銀髪の少女は、また不思議なことを告げる。

彼女の突如の変化についていけなくなったリズベットを助けるかのように、後ろからよく知った声に呼びかけられた。

 

「リズぅ~~!」

 

延びた大橋が街へ渡る境で元気良く手を振っている少女の姿があった。

現在、攻略組のトップギルドを張る血盟騎士団のサブリーダーにしてSAO女性プレイヤー内で随一の強さを誇る白と赤の剣士、彼女を皆はこう呼ぶ”閃光のアスナ”。大多数の男性プレイヤーを前にしても自身の理念を押し通す揺るぎない意思は二つ名に恥じない輝きを示しているわけなのだが、今はその大きな光に相反するものが彼女の横には佇んでいる。

アスナ達にとって天敵、PKプレイヤーの肩書きを背負う少女。アスナとローゼルの遭遇はこの空気を一変にして険悪なもの様変わりすることになる。

動揺している状態でどうに上がった足を動かし、体全体でローゼルを隠すかのように前に立つ、といっても自身より身長の高い女性一人を陰にするなど不可能、頭隠して尻隠さずとはこのことをいうのだろうか。

無駄なことだとわかっていても動かざる終えなかったリズベットは二人の友人の前で身構えてしまう。

すると、淡い泡のように消えてしまう言葉がリズベットの耳元で微かに響く。

 

ー”・・・・・”

 

 呟いた言葉は私の脳裏を擽るのには時間は懸からず、その囁きはリズベットの内側で揺れた心に溶けるように深く深く沈殿する。

 ローゼルの感情が直接リズベットの意識へと流されたかのようにその気持ちは胸の高鳴りとなって溢れかえる。

 すると背後では青白い光が光り輝いていた。

 

「ローゼル……?」

 

青い光は夕陽の赤い光と混じり幻想的な色光を生み出す。

 振り返れば、その光の中心にいる女性はなんとも言えない顔を表していた。左手に結晶コリードを展開して転移状態に入ったローゼルは痛み入るように手をゆったり振っていた。しかしその表情には先ほどまでの苦という色は存在しない、夕顔の……いや、彼女が翳す透明な白銀の花のように儚げな白を露わにしていた。

 

 冬の冷たい白雪の生彩に浮かぶ優しい笑みは消えるその瞬間まで随喜の心に満ち溢れていた。

 

 きょとんと心の中が虚無に還るように不思議と感慨に浸ってしまう。まるで雪が溶けてしまったかのようにローゼルは姿を消してしまった。

 

「お~い、リズってば!」

 

「……アスナ」

 

 ローゼルが去って数瞬、首を傾けてリズベットを心配そうに覗き込むアスナ。

 

「も~う何度も呼びかけているのに、リズったらずっと無反応だから心配したよ」

 

「え……あ、ごめん、あたしは大丈夫よ」

 

「ほんと大丈夫?……リズが大丈夫ならそれでいいけど……それよりさっきリズの隣にいた人とはリズの友達?よく顔は見えなかったけど綺麗な人だったね……どこかでみたような気がするけど………」

 

「あ、あぁ~~今の人は……え~っと、そ、そうよ!?」

 

「ふ~ん、ソディアやスノウ以外に上層にいる女性がいたんだ……」

 

訝しげに頬に手を置いて黙考するアスナの表情を見ながらリズベットは再び内心で焦り立つ。攻略組なら一眼はローゼルを目視しているはず、そのことが取り沙汰になりいざこざになるとリズベットは予感していたが、アスナ自身はそこまで視野に入っていないようである。

 

レッドプレイヤーの捜索は血盟騎士団を中心に進めらていたが、アスナは階層攻略の効率を優先し、レッドギルドの捜索にはあまり関与していない。

無責任な理由にも捉えられるが全部隊が捜索に回る案も存在したが、最前線でリソースは失うわけにいかず、数人小隊で実行する妥協する他なかった。

結果、ライン達に手を煩わせることになってしまうことになり、階層のLevel調整にはまだ余裕はあるとヒースクリフから断固され、敢え無くライン達に全てを任せる容になってしまった。

 団長命令なら仕方ないと目を瞑ってはいたが、アスナは副団長としてはライン達に申し訳がたたずにいた。

 

しかし、今は朧げな思いを巡らせるのはリズベットの隣にいた少女。

 

「――何だが不思議と、懐かしい感じがしたな……何でだろう……?」

 

不思議というよりも、どこか神秘的な共鳴りを謎の少女から感じ取ったアスナはよくわかりもしない心の弾みに笑みをこぼすと、向けた視線の先で橋の高欄の上に聳え置かれたオレンジ色の一輪の花がアスナの目を奪った。

 

「わぁ~きれい!」

 

その肉声にリズベットも視線を向きなおすと橋の上に揺れ靡く花が瞳に映る。それは先ほどまでローゼルが髪に飾っていた花と同じ白い花、ここに訪れたときには咲いていなかった花が不自然に凛と一輪咲き誇っていた。

 夕陽の光が花びらを透き通り茜色の色に染まった白い花。

 白銀の花には儚さすら覚えるが、そのたった一つの花の存在はとても壮麗であった。

リズベットはその花を優しく両手で包み込む。

 

―綺麗な花……それに、とても温かい。

 

季節の変わり目に郷愁を思い唯すように記憶から甦り再び返り咲く不思議な気持ちになる。

 

―まるで……もう一度逢いたいと、一途に思い願うかのように……

 

 

 

 




”あなたは求めているだけじゃありませんか?”

レトが羨ましいな~とは素直に思えないこの状況、
閃光様も久しぶり顔を出しました。
話がくどいかもしれませんが、本章は二、三話で幕を引くかと・・・


更新なんとか6月の間にできました・・・今回の話、これまでの話で感想や、思ったことがあればよろしくお願いします。
次の更新は早いかも……でわでわ
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