げんそうごろし!~Imagine Breaker~【凍結】   作:海老酢

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独白がいつもより多め。
視点もころころ変わるので今回は読みづらいかも。


【第三話】きもだめし 

 

 

「きっもだっめし~♪きっもだっめし~♪ふっふふ~ん」

「えらくご機嫌だな」

 

 

丈槍由紀が鼻歌を吹き、上条当麻が腕を組んで由紀の機嫌の良さを指摘する。

ニコニコと笑みを浮かべながら大げさな歩き方をするゆきと腕を組みながらゆっくりと歩く上条は対照的だ。

 

具体的には今抱いているものの違い。

由紀は興奮と好奇心。上条は呆れと面倒。

 

本当は上条は『もしも』のことがあったときの場合に備え、残ろうとしたのだが。

 

 

『一緒に行くわよ』

 

 

と、若狭悠里に黒さが滲み出た笑顔で頼まれたので潔く快諾した所存。

由紀は由紀で上条と一緒に行けるのが楽しみだったようで。

 

 

『さぁ、目指すべきは購買部だよとーくん!!』

 

 

ノリノリで上条の手を引っ張り、上条の参加は確定。

先程は快諾したと述べたが正しくは「強制されて仕方なく」というのが正しい。

 

メンバーは部長の悠里、ムードメーカーの由紀、シャベル少女の恵飛須沢胡桃、普通の高校生の上条。

先導者は胡桃でその後ろに由紀と悠里、殿(しんがり)を勤めるは唯一の後輩キャラの上条という役割分担。

 

他にも顧問の佐倉慈や卒業生兼仮入部部員である先輩は他の部屋で待機している。

『もしも』の場合、二人には生き残って貰わなければ。

 

ふと、外の景色へと視界を移す。

窓硝子は廊下の端から端まで綺麗に割れ尽くしていて、まるで映画かアニメの過剰演出でも見ているかのような気分にさせられる。

 

だがその奥には綺麗な夜空が広がり、星が優しい光を放つ、そんな景色が広がっていた。

あの頃は人間が作りだした人工的な強い光によって星の弱き光など掻き消されていたが。

 

外の世界は虫や『彼等』の歩く音だけが鳴り響き、あの頃のような騒々(そうぞう)しくはない。

比べれば限りなく無音に近く、落ち着く。

 

そうなると『彼等』や虫が発する音が耳障りするかのような気もするがむしろその音自体に風情を感じてくるだろう。

それほどまでに、この世界から音というものは減少した。

 

だがこの世界になって初めて。

ここまで世界というものは綺麗で美しいものだったということに気づくのは何という皮肉だろう。

 

世界は人間が居なくとも続いていく。

むしろ人間の世界が無くなった今、この世界は本来の美しい風景などを取り戻してる。

 

本当に。

この世界は幸せと不幸と、少しばかりの皮肉で出来ているのだと実感する。

 

そしてこの世界に(いま)だし獅噛(しが)み付く人間は。

どれだけ醜く、それでいて矛盾ばかりを引き起こすのだろう。

 

 

「とーくん?」

「………」

「とーくん~」

「は、はい!?」

 

 

自分の呼び掛けに答えない上条に業を煮やした由紀は上条の耳元で囁くように呼び掛ける。

ビクッ!と肩をぶるっと震わせ、驚く上条は咄嗟に返事をした。

 

脳天気な笑顔でクルクルと回りながら移動するもはや幼児退行しているかもしれない先輩に上条は呆れる。

上条の脳内に三つの選択肢が浮かぶ。

 

A,この先輩へ今すぐ壊れたテレビを直す用法で斜めチョップをお見舞いするか。治るかは保証しない。

B,この先輩が顔を真っ赤にするような恥ずかしい悪戯をするか。多分上条も罰を受けるだろう。

C,何もしないか。放っておくのが最適解。

 

 

(よし、放っておこう)

 

 

もちろんCを選ぶ。

ていうかそれ以外に選ぶ選択肢はAぐらいだ。Bを選んだ日には上条にありとあらゆる不幸が襲い掛かってくるだろう。

こういったことへの予想基予言は外すことはほぼほぼ無いという自信はある。

 

 

「ゆきちゃんは放っておいて先に行きましょうか」

「りーさん酷い!ていうか最近わたしに対する扱いが酷いような…………………………」

 

 

その疑問に対する答えはただ一つ。

 

 

「そんなこと無いわよ」

「そんなこと無い」

「ないんじゃ無いスかねぇ」

 

 

遠目で目を泳がせ、視線を由紀から外しながら。

 

 

「………………………………………」

 

 

由紀が上条達を鋭い目つきで睨み付ける。

上条達はそれでも頑なに目線を合わせようとはしない。

 

 

そんな攻防(?)は五分間に渡って繰り広げられたのだった。

 

 

 

 

 

コキッ……コキッと首に手を当て鳴らしながら上条は廊下を歩く。

廊下を支配するものは夜の暗闇と割れすぎた窓硝子から漏れ出る月の光、上条の発する足音のみ。

 

パキッ…という硝子の破片が踏まれることで発せられる音はただ空しく、上条には(一部以外)あまり変化が乏しいこの空間に新しい刺激を生む風情ある音だと感じる。

 

いや感じるようになったのか。自分という存在がまるで粘土のように姿形を物理的に変えられ、精神を削られたことが原因だと察せる。

 

あまりに大きな変化がありすぎて。自分という存在が塗り替えられるという経験を獲得しすぎて。

繰り返される世界の中で自分というちっぽけな存在を見直すことが出来た。

 

あの『総体』のおかげだろう。

あの『世界』のおかげだろう。

 

自分と世界。

二つの小さくて大きい、それでいて二つとも同じ『場所』に存在するもの。

 

二つに生じる小さな変化へ目を向け、気づき、一喜一憂し、学ぶ。

多分。上条当麻が新しく学んだことは当たり前のことへ目を向けることだったのかもしれない。

 

その行動は当たり前過ぎて気づけなかった。

けれどそれは本当に大切で。失ってはいけないことを確認する力で。

 

そう思えばあの『無間地獄』も意味を持つことだったはずだと今は言える。

過去形になっているがそれも良いだろう。数多くの『無間地獄』の記憶は最低限を残して上条当麻の脳内からは削られているのだから。

 

彫刻家が彫刻を作るように。余分な枝を切り落とし、大切な果実に栄養を回すように。

無駄な部分(きおく)を削り、必要な部分(きおく)を残す。

 

複数ある答えの中の一つを。

そして最適解を作り出すために。

 

なんて考えに耽りながら辺りをぐるりと見渡す。

辺りには机や椅子、硝子の破片が散乱しており、足下に気を配らなければならない。

 

他には。

 

 

「気を取り直して!さぁ行かん、我らの目的地『購買部』!!!」

「静かに」

「うっ…ごめんなさ~い」

「そう、幽霊が出るかもれないぞ?」

「だ、大丈夫だよ!幽霊なんていないはずだもん………………………たぶん」

 

 

女子組は女子組で何やら盛り上がっている。

ガールズトークという奴なのかそれとも違うのか。思春期真っ直中である少年上条には判断しかねるが楽しそうで何より。

 

 

(奴らは居なさそうだ。けど)

 

 

だからといって油断は禁物。

油断大敵という四字熟語もある。油断や慢心ほどしてはならないものはない。

 

彼女達の中でも戦闘経験があり、奴らと対等で真っ当に戦えるのは恵飛須沢胡桃ただ一人。

丈槍由紀や若狭悠里でもせいぜい出来るのは敵の意識を他に向け、逃走することだけ。

 

非力な由紀達にとって奴らは脅威で。奴らにとって由紀達は格好の獲物。

もし胡桃がやられたときは………

 

 

(そんなことはさせないさ。丈槍先輩も若狭先輩も恵飛須沢先輩も。もちろん佐倉先生や先輩さん、あいつらも助けてみせる)

 

 

誓ったのだ。何も解らず、ただ逃げることしか出来なかったあの頃に。

この世界では意味を持たない、ある力が宿った右手を堅く握り締め。

 

それでも誓ったあの約束を。

守ってみせると。必ずみんなを護り、未来を紡ぐと。

 

それを達成するための『世界』を通した最適解とこの『世界』の一つの攻略法。

上条が相応の痛みと多量の摩擦を積み上げて辿り着いた一つの結末への道のり(ルート)

 

おそらく、大勢の犠牲者を未然に防げなかった自分に『結末(こたえ)』を振りかざす資格などない。

もしかしたら大勢を救い上げることが出来なかった罪悪感で自分は押しつぶされるかもしれない。

 

 

 

いや、自惚れは()そう。

 

 

 

正直に言えば自分は罪悪感に潰されることが恐ろしいのではない。

そういって悲劇の英雄を演じ、罪悪感から逃れようとしているだけ。

 

大勢を救い上げることができなかった罪悪感。

これほど傲慢なものはないだろう。

 

それは裏を返せば自分には大勢を救い上げる可能性がある。

自分なら老若男女犠牲になった者達を救い上げることができたと。

 

自分は神じゃない。神の領域に片足突っ込んだ『魔神』なんていう化け物でもない。

上条という存在は矮小な人間の一人に過ぎず、その中でも『普通の高校生』なんていう分類だ。

 

確かに大勢を救い出す方法はいくらでもあった。しかし自分という人間の言葉に誰が耳を傾けるのか。

誰もがその辺の高校生の行き過ぎた妄言だと思い、まともに取り合ってくれるはずもない。

 

そう思うとやはり無理だったのかもしれない。

そもそもこの『災害』の原因である元凶すら上条はいまだその片鱗すら掴んでいないのだ。

 

どのタイミングで、いつから、どのような理由で。

そこにすら未だに辿り着けず。見つけることも出来ない。

 

今の上条に出来ることはその拳を握り、目の前にある障害に挑み、起こりうる事態に備える。

ただそれだけ。たったそれだけしか出来ないことにここまでの歯痒さを感じるこの状況に怒りすら湧く。

 

 

 

けど。

 

 

 

 

 

 

(だからって諦めることなんてできない。傲慢でも何でもいい!全てを掛けてでもこの世界だけは!!)

 

 

 

 

罪悪感から逃れたい気持ちは当然ある。

もしかしたら自分の行動次第では、本当の最適解というものを行使できれば少しでも多くの人を死なせずに済んだのかもしれないと何度も思った。

 

ある情報を掴んでいた自分が、どれだけ無駄と言うこと分かっていても、何かしらのアクションを取っていればどれだけの危機を回避出来たのかと言うことも。

 

けれど。

 

それはもう過ぎてしまったこと。

どれだけ悔やんでも、どれだけ涙を流しても、この世界はゲームではない。

 

リスタートやニューゲームはもう出来ない。

ならば。今の自分に出来るのは。

 

 

「ふふふ。一番乗り~」

「もう、ゆきちゃん!」

「はしゃぎ過ぎだぞゆき」

 

 

彼女達の生を未来に繋げる。

彼女達の未来を不幸で塗りつぶしてはいけない。

 

その不幸は上条が背負うのが一番似合っている。

不幸が代名詞である自分に。

 

彼女達に合っているのは幸せ。

背負うべきは笑顔溢れる世界での彼女らそれぞれの幸福。

 

ならば喜んでこの拳を振り下ろそう。

この『結末(こたえ)』を行使しよう。

 

上条当麻とはこの物語の主役ではない。

上条当麻という存在は彼女達を導く先導者に過ぎないのだから。

 

 

(俺は大勢の犠牲を防げなかった。防げる立場にいたくせにな。でも、だからこそ俺はこの右手が届く距離の人達を………)

 

 

自分はいずれケジメを着けることになるだろう。

 

だがその前に。

いずれ来るであろう報いを受ける前に。

 

上条は達さなければならない。

目標を、目的を。この世界で得た仲間を護る手段を行使して。

 

だから今は。あるラインを超えるまではここに待機しなければならない。

無意識にポケットに手を突っ込み、新品の包帯を握る。

 

それはこの世界で見つけた上条の知識の一つ。

ただそれを握り、上条は目の前で繰り広げられる日常(しあわせ)を見つめた。

 

その目に灼きつけるように。

胸に秘めた決意を強固とするために。

 

 

 

 

 

 

 

などとらしくもないことを考えている上条だがその想いと真剣な雰囲気は彼女達に伝わっていないらしい。

由紀は棚に陳列されている駄菓子を吟味し、胡桃は高ばさみを弄り、悠里はバックの中に食料や制服を詰めている。

 

 

「よし、これとこれとこれと~♪」

「ちゃんと選んでください先輩」

 

 

由紀は駄菓子ばかりをバックの中へ詰めてばかり。

もっと、別に持って行く物があるのではないかと思う。

 

 

「あっ」

「ん?」

「どうしましたか?」

 

 

駄菓子を取る手が止まる。

由紀の視線は一箇所に集中していた。横から覗き込むとそこには見る限り五つ以上の風船が入った袋が。

 

 

「………………………………………先輩?」

「よし」

 

 

その袋を天使の羽がついたピンクのバックの中へと押し込む。

 

 

「それって必要なんですか!?」

「だって二十倍に膨らむんだよ?持ち帰らなきゃ損だよ損!!」

 

 

どこをどう損するのかを知りたいと心の中で切実に願う。

結局は届かぬ思い……というのが現実のオチなのだが。

 

胡桃は呆れた顔をするものの別に気には止めていないようだ。

上条としても娯楽を制限する気など毛頭無いので構わないが。

 

 

「とーくんは何とったの?」

 

 

由紀のこの台詞。この光景だけを見ると「とーくんはなに盗ったの?」に聞こえなくもないが、

この肝試しは購買部と図書室、その道のりを使って行うものでその場所を通った証拠品を取ってこなければならないというのがルールとなっている。

 

これを利用して肝試しという名の遠征をしているのが現状。

何故、そうしなければならないか。それは由紀という少女の今の状態に原因がある。

 

それは―――――――――

 

 

「じゃ、次は図書室ね」

 

 

由紀の状態を振り返ろうとしたところで悠里がバックを背負い、売店を出た。

それに続くように胡桃、由紀、上条が売店を抜ける。

 

焦らなくてもいい。今はこの状況を目一杯楽しもう。

そうすることが今の行動で重要なこと。思い出作りだ。

 

気持ちを入れ直した上条は殿としての役割を復習しながら三人の後ろをキープしながら歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

図書館。

 

この学校の図書館には文学は勿論図鑑や漫画、ライトノベル、新聞など多くの種類のものが所狭しと敷き詰められ、学生を飽きさせないように配慮されている。

 

現在は棚に大小種類様々な本が隙間無く置かれてる以外は人が居た頃の面影が見当たらない。

ここも『彼等』と人間の攻防があったのだろうか。所々の傷跡が痛ましく見てられなかった。

 

恵飛須沢胡桃は背中に背負うシャベルへ右手を伸ばし、左手に持つ懐中電灯で辺りを照らす。

柄を強く握り、五官を研ぎ澄ませる。

 

『彼等』の気配は無いか、『彼等』の発する音を聞き逃していないか。

意識を一定方向へ向けず、四方八方、広範囲に散りばめる。

 

聞き逃してはならない。『彼等』は常に傍に存在すると思え。

警戒心を安易に解いては寝首を掻かれるのだから。

 

ふと後ろへ視線を移す。

悠里は教科書や参考書を手に取り、由紀は悠里から逃げるように別の本棚へと走る。

由紀のことだ。おそらく漫画が置かれている棚に向かうだろう。

 

 

(由紀の方も警戒しておこう。あいつなら大丈夫だろうけど)

 

 

由紀は何だかんだ言っても逃げ足は速い。

もしもの時はこちら側に逃げてくるだろう。

 

 

(私は私のやれることをやる。ただやれることに全力を尽くすのがきっと正しいはず)

 

 

それが恵飛須沢胡桃という一個人にできること。

役目を果たすための指標であり、目的を目指す足がかり。

 

自分の創る道をリタイアせずに突き進むための全力の努力。

それが本当に役に立つかは分からない。もしかしたらこの努力が意味を全くなさない現実に直面することもあるかもしれない。もしかしたらこの努力が逆にみんなの不利に繋がる可能性もあるかもしれない。

 

それでも努力をしなければ何も守れない。

努力をしなければ何も掴むことなど出来はしない。

 

彼がその身を投げうる覚悟で敵と対峙したときに。

その背中を、先輩を抱えながら見ていたときに、この心に誓ったはずだ。

 

 

(なら…頑張らないとな。今以上に)

 

 

自然と口角が上がり、真剣な表情だった顔は笑みを作り出す。

今は笑え。笑えばきっと良いことが起こるような気がするから。

 

これから先どれだけの困難があるか分からない。

だからこそ今は。今だけは楽しもう。希望で今を塗りつぶそう。

 

もしかしたらそれが絶望ばかりの未来を少しは明るい何かに変えることが出来るかもしれないのだ。

それだけ。たったそれだけの望みだが、この心身を突き動かすには十二分。

 

この力を持て余す必要など無い。全身全霊を込めて、ただ為すべきことを為すだけ。

 

 

「くるみ!!」

「ッ……!」

 

 

悠里の叫びが図書室に響く。

後ろへ振り返ると足を引きずり、ゆっくりと悠里に近づいていく『彼等』の一人。

 

距離は約一メートルといったところか。

即座に臨戦態勢へ移行。シャベルを背中から薙ぎ払うように取り出す。

 

柄を強く握り締め、スコップの先を『彼』に向け、意識を日常(ふつう)から戦闘(いじょう)へと切り替える。

 

相手への認識を理解できるものから理解できないものへ。

同種から異種へと。益虫から害虫へと。

 

罪悪感や脱力感を持たないように、後悔や悲しみを持たないように。

扱いを『人』だったものから、気持ちの悪い『虫のようなもの』へと見方を変えていく。

 

 

(準備は整った)

 

 

切り替えは完了。

装備は問題ない。

準備は万端。

 

 

「行ける?」

「ああ」

 

 

その手に持つ農作業道具は凶器と化した。

ならば存分に振るおう。

その新たなる役目に応じて。

 

 

 

 

「問題ない」

 

 

 

 

そして。

胡桃の行動は単純明快。

 

『彼』へと一直線に。

正面からその距離を一瞬で詰めながら。

 

 

 

『彼』の首を刈り取るために。

その凶器(スコップ)を斜めに振り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~」

「お疲れ様」

 

 

ペタリと胡桃が所々に本が散らばっている床へ尻餅をつく。

結果から言うと、『彼』の処理は安全かつ迅速に成功。

 

今は『動く屍』から『腐った動かない死体』へと変化した。

さすがに女子高生の力では腐ったとしても首は切り落とすことは出来ない。

 

しかしそれでも『彼等』は倒せる。

ただし女子は女子でも鍛えている女子に限りではあるが。

 

 

「りーさん…今、結構失礼なこと考えてないか?」

「そんな訳無いじゃない」

 

 

どうやら胡桃には他人の思考を読み取る力のようなものがあるようだ。

…まぁそんなわけないのだが。そう思わざるを得ないほど胡桃は鋭い。

 

この生死を賭けたサバイバルという状況が胡桃の勘を研ぎ澄ませ、成長を促しているのだろうか。

いつか人間離れした第六感でも身につけそうだと少し恐怖する悠里であった。

ていうか返り血を浴びながら笑顔でシャベルを肩に乗せながら笑顔で悠里と会話を交わすその姿だけでも実際に恐ろしい。

 

 

「そういえばゆきちゃんは?」

「あっ」

 

 

なんて胡桃に若干の恐怖心を掻き立たてていた悠里はふと由紀のことを思い出す。

由紀は先程、闇が溢れ出る笑顔を放ちながら教科書と参考書を棚から引き抜く悠里から漫画棚へと逃走を計った後、行方が分からなくなったのだ。

『彼等』の一体がここにいたということは。まだこの図書室に他の『彼等』がいる可能性は否めない。

 

由紀ならば逃げることや隠れることは得意分野。

何かあったらどこかに逃げ隠れしているはずなのだ。

 

 

「それじゃあ、ゆきを探しますか」

「そうね、そう遠くに行くことは……おそらくないだろうし」

 

 

胡桃はシャベルを背中に背負い直し、悠里は懐中電灯で正面を照らす。

ただでさえ本が折れ曲がっていたり棚がいくつか倒れているような現状だったというのに、『彼』を処理したことで赤色が混ざることでさらに凄惨な惨状へと変化してしまった。

 

死体もなるべくは視界に入れないように努力はしてみるものの、やはりチラチラと周囲への警戒などで目に入ってしまう。

なれるべきなのだろうが、やはりただの死体となった今は直視できそうにはない。

 

それに。そう認知しないようにするだけでも結構な神経を使う。

それが認知した上でその死体を直視し、当たり前のように受け入れることが一介の女子高校生に出来るだろうか。

 

多分、してはいけない。

受け入れてしまえばそれはもう自分たちにとっての普通ではない。

 

だから今は。

 

 

(今はゆきちゃんと当麻のことを考えましょう)

 

 

ゆきのことばかりを話題にしていたが実は上条の行方も分かっていない。

おそらく当麻も由紀の近くにいるはず。ただの予想…というより希望的観測でしかないが。

 

周りを見渡してみるものの上条や由紀、『彼等』どころか生物らしき影すら見つからないし、足音すらしない始末。

そもそも。

 

前提からして間違っているのでないか?

 

自分たちはこの図書室の中にいると仮定し、それを絶対条件として、前提に置いて捜索している。

けれどそれがもし間違っているならば?前提が間違っていれば今の行動自体が無意味になってしまう。

 

 

(もしかしたら『彼等』から逃げるために一旦図書室の外へ……?)

 

 

そうだとしたらここで待機するのが正解か、部室に戻るのが正解か、このまま探すのが正解か。

胡桃と意見を交えるとしても結論を出すのは部長である悠里だ。

 

慎重に考えなければならない。

顧問が不在の今。部長である自分が冷静な判断を下さなければならないのだから。

 

立ち止まり、思考に耽る。

懐中電灯が放つ光が同じ箇所を照らし続け、隣に立つ胡桃は周囲を警戒。

 

平静を保ち、思考の海に潜り、進み続ける現在のなかで最適な正解を導く。

それが学園生活部部長である若狭悠里は考え続ける。

 

そして。

行き着いた結論を述べた。

 

 

 

 

 

その直前。

 

 

 

 

 

「みんな~」

「大丈夫だったか?」

 

 

 

 

 

ぴょこ!と前の通路の棚の影から丈槍由紀と上条当麻が疲労感たっぷりの表情で飛び出した。

 

 

「おお、大丈夫かゆき?」

「うん!平気」

「そ…」

 

 

手を恋人繋ぎにしながら。

 

 

「……………………………………………………………………」

「ん?」

 

 

急激に先程まで持っていた熱のようなものが冷めていくのが悠里には理解できた。

なんだろう。この気持ち。別に恋愛感情なんて持ってもいないし、親愛ぐらいは持っているが何故自分はここまで冷静になれるのだろう。

 

 

「あはは」

「り、りーさ…ん?」

 

 

静かに笑い出す悠里に胡桃は思わずその顔を覗き込む。

 

 

 

それは最早、般若。

 

 

 

『ひっ……!?』

 

 

 

三人の小さな悲鳴が偶然にも重なる。

しかし無意識にやってのけたその行動が悠里の口角をさらに上げることになってしまう。

最早(もはや)曲がりすぎて湾曲(わんきょく)している。ちなみに湾曲とは曲がって弓形になることという意味。

 

そんな三人の反応の中で悠里は思う。

何故自分はここまで冷静に怒りを増幅しているのだろうかと。

 

別に嫉妬ではない。別に憎んでいるのではない、

なら何故?

 

 

(…………………………あ)

 

 

悠里という人間はそこで悟った。

ある答えに辿り着いたのだ。

 

その答えは収まるべき場所にものが収まったときのような、逆転ホームランが決まったときのような、そんな爽快な気持ちにさせてくれるほどにカチリとこの心に嵌る。

 

 

(そっか……)

 

 

その答えは――――――――――――――――――

 

 

 

 

「私たちが生き残ろうと必死になっているよそであなたたちはイチャコラしていたと?」

 

 

 

 

 

悠里は気づいていないが、その答えは結構理不尽である。

そしてその答えに対する二人の反応はこう。

 

 

 

 

 

 

 

『違いますッッッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

二人の心からの叫びが図書室全体に響いた瞬間であった。

ちなみにその後はみんな部室まで何事も無く、無事に生還できたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふふふふ……」

『………………………………』

 

 

 

 

 

悠里の止まらない笑顔と、由紀と当麻のげっそりとした顔と雰囲気を除けば。




上条さんらしさに私は迷走中。
特に独白の箇所。大丈夫だろうか。

次回は停電か風船か…
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