海の様に青い空が、ビルのガラス扉に美しく写っていた。
幾つも建ち並ぶ建築物は、高いと何十階にまで達している。五月蝿い位に聞こえる車のエンジン音は止まることなく次から次へと走り去っては、また違う車から聞こえた。
人々もまたそれに競争するかの様に、横断歩道を世話しなく駆け抜けていった。
そんなとある都会の中心区に数多く建てられている物件の中で、一際目立つ建物が設置されていた。
窓は全て銀色のガラスで、外からは中が見えないマジックミラーとなっていた。
【SNプロダクション】
1番大きな建物には、真新しい看板が目立つ形で堂々と飾られている。
そんな建物の中の1室では、撮影が行われていた。
「いやあ~、良いねえー。人気絶頂の新人モデル[流(ながれ)琉輝唖(るきあ)]君が、遂にドラマデビューかあ」
撮影のライトご眩しく光る場所でカメラマンの1人が、レンズに写る少年にピントを合わせながら笑っていた。
「俺はモデルだけじゃなくて、ドラマもやってみたいって思ってたので、丁度良いと思いましたよ」
「そうなのかい? まあ琉輝唖君がやりたいって思ったのなら、良い物になるんじゃないかな?」
カメラマンのレンズ越しに見える少年は……オレンジが混ざった深紅の髪に、燃える様なルビーの瞳をしていた。
腰まで伸びた炎の様な髪は、首の後ろで1つに縛られていた。
顔はモデルをやっているだけあって、整っている。
線も細く、男性……というよりは女性に近く、全体を通して中性的にも見える。
「最初は親の七光りとか言われてたけど……琉輝唖君自身の実力のたまものなんだろうね?」
カメラマンからすれば、素直な意見なのだろう。勿論悪気があっての発言ではない。
「……そう、ですね。あの人の力だとか言われると、かなり屈辱ですし」
秀麗な顔を歪ませながらポーズをとる様は、その顔立ちに相応しい位に色気を漂わせていた。
その証拠に女性スタッフは仕事をしてした手を止めて、頬を赤らめながら少年に見入ってしまっていたのだ。
「あはは。琉輝唖君は、お父さんの事嫌いなのかい?」
カメラのシャッター音が飛び交っていて、それらは全て琉輝唖へと向けられていた。
「好きか嫌いかの問題じゃ、ないんです……あれは……」
「あれは?」
スタッフ全員がその答えを聞きたがっているらしく、耳を傾けていた。
「ウザい」
何の迷いもなく、そして表情すらも変える事なく放つその1言は強烈だった。数名は顔を引きつかせ、何人かは笑いを堪えるのに必死になっていた。
「それ……彼が聞いたら、確実に泣くね?」
どうやらこのカメラマンは後者だったらしく、口元を引きつかせながら琉輝唖を撮っていた。
「泣こうが喚こうが、釘バッド1本で大人しくなりますよ? 暴力って言ったらおしまいですけど、あの人は色んな意味で不死身ですから」
とっていたポーズを止め、歩き出す。
カメラマンの直ぐ側の机に置かれていた鞄を担ぎ「ドラマの撮影に行きます」と、カメラマンに告げた。
「もうそんな時間かい? マネージャーさんは……あっ、待ってるみたいだね? うん。いってらしっしゃい」
笑顔で見送られた琉輝唖は、マネージャーの青年とスタジオを移動中とんでもない事を耳にした。
「は? 変更!?」
「うん。M女優と琉輝唖のキスシーンあっただろ? あのシーンが、中止になったんだ」
「はあ!? 何でだよ!? いや、別にしたいとかそうゆう事じゃないけど、いきなりそれは……」
琉輝唖にとって始めてのドラマだったらしく、いきなりの内容変更は当然の如く納得のいく物ではなかった。
「何でそ……っ! まさか、あの人が!?」
オレンジの混じった赤い髪が、怒りを表すかの様に大きく揺れた。
「あんの……糞親父ぃー!」
怒りに身を任せた表情は、カメラマンとの会話時に見せた優美なものではなかった。むしろ、悪魔の様な邪悪な何かをその身に降ろした……そう感じてもおかしくない程に凶悪だった。
そんな琉輝唖の姿を見たマネージャーは、ただ空を仰ぎ……何に向かってか分からない合掌をしていた。