ミヨちゃん   作:みつを

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友達ってなんだろう

秋の冷たい風が、頰に、身体に当たって優しくすり抜けていく。

風は、心地良さを内包しているが、寂しさも同時に運んでくるようだ。一人、ベンチに腰掛けて、先程買ってきたコンビニで買ったばかりの温かいコーヒーを一口、噛み締める。豆の香りが、僅かな湯気の中に含まれていて、秋風と共にそれを吸い込んだ。木々が囁く音がする。様々な木が、養分を内側に蓄えるためにと、葉っぱ達を自身から切り離していく光景が目に映り、なんとなく、贅沢な気持ちを味わわせてくれて、ありがとう。という気持ちになった。世界なんて、大嫌いで仕方がないのに、その時ばかり優しく見えてしまうから..やっぱり嫌いだ。

 

こんな世界なのになあ。空を見上げてみると、秋晴れの午後の青空が一面に広がっていた。この丘の上からならば、どこまでだって、見渡せる。..という程でもないが、意外と標高があるから街の風景が広がっているのが分かる。私も、一緒に風になりたいな。そんな気が、よぎる。だけれども、現実にこの身体で生きていく以外の選択肢はないわけで、それを理解しているから苦しいんだ。

西まで移動した太陽がもう幾ばくもしないうちに、一日が終わるんだってことを教えてくれるようだ。私は、今、そんな世界の中にいる。

 

****

 

 

高校生活も終盤に差し掛かった頃のことだった。私は一人、途方に暮れた。朝、普段と変わらず、自分のクラスの教室に入った。私よりも早く到着していたクラスメイト達が、仲間うちで会話を始めている。いつもの光景。退屈で、また気苦労のする一日の始まりだ。そんなことを考えながら、自分の席に着き、鞄を下ろした。まだ、ミヨちゃんは来ていないようだ。ミヨちゃんは、私が唯一お話出来る友達。友達だと、思う。ミヨちゃんが私をどう思っているのかは分からないけれど、ミヨちゃんも私以外の人と殆ど口を聞くことはない。シャイで、根暗で、人とお話をする事が苦手なのだ。傍目から見ていても感じ取れる。私とあの子は似ているって。だから、お互いがお互いから離れられないし、周りの人も、私達に深く関わることがない。高校生活の始めの頃は、そんな自分を変えようと努力をしていたつもりでいたけど、結局、この位置に帰ってきてしまうことをなんとなく理解していたから、努力をやめた。ミヨちゃんとは、そんな高校二年生のクラスで一緒になり、一人でいるあの子に、なんとなく近付いて行った。高校三年生に上がっても、クラスが変わらなかったから、本当に安堵した。一人ぼっちは嫌だけど、他の人と仲良くなれる気がしなかったからだ。私が通っているのは田舎の高校だから、高校の終盤ともなると、周りの生徒同士がある程度、人となりを理解するし、グループが出来上がっていく。つまり、個々のイメージが形成されてしまうから、覆すことは容易ではないのだ。そういう構造を理解して、諦めていたから、ミヨちゃんとだけいられたらいいんだ。と思った。世界は退屈だけれど、ミヨちゃんには感謝していた。

 

席が窓際だから、ボーッも窓の外を見ていた。周が300mのグラウンドが大半を占めていて、どこかで忙しなく鳥が鳴いている。ついこの前で夏だと思っていたのに、あっという間に冬が近付いていく。空気がそう言っている。

 

ちらっとミヨちゃんの席を見ると、まだ来ていない。壁の時計に目を移すと、HRの始まる8:15に差し掛かっていた。

おかしいな..。ミヨちゃん、風邪で休むことなかったのに。前髪を長く伸ばしていて、少し猫背で、表情を伺っても決して健康ではないだろう、と思う外見だけど、今まで風邪で休んでいる姿を見たことがない。少し不安になった。

 

キーンコーンカーンコーン。チャイムが鳴ってしまって、ミヨちゃんが今日はいない、一人ぼっちの1日が始まることが告げられた。額に、汗が浮かぶ。お昼ご飯と、休み時間どうしよう..とか。考えてしまう。ミヨちゃん..。来てよ..。どうしたの..?

 

担任の、松井先生が、肩を落としてゆっくりとした足取りで、教室に入ってきた。普段と、明らかに違う。何やら重い表情をしているし、涼しげな空気が漂っているのにも関わらず、見るからに汗をかいていた。着ているワイシャツに、滲んでいる。動揺している表情も同時に伺えるから、何かあったのだろう。しかし、私には正直関係ない。ミヨちゃんのいない今日のことばかりが気がかりだった。

 

わいわいと喋っていたクラスメイト達が、自分の席に戻って、しん..とした空気が教室を包んだ。松井先生は、相変わらず、重く、どんよりとした表情で一点を見つめていたからだ。みんな、子供とはいえ18年近くをこの社会で生きてきた。こういう時にどうすべきか。理解する能力は、あった。クラス全員がシンとした空気で、自分を伺っていると察した松井先生は、振り絞るように口を開いた。

 

「ちょっと..みんなに伝えなくてはいけないことが..ある」

クラス全員は依然として、黙ったままだった。私も、少し興味のある目で松井先生を見た。

 

「昨日..このクラスの高木ミヨさんが..亡くなりました...」

 

クラスにざわめきが起きた。え..。言葉ではない、まさに虚をつくとはこのことだった。ある人は目を大きくして、松井先生を見た。ある人は、宙を。そして私は..突然もたらされた松井先生の言葉に、思考が止まった。「は..え..?」

言葉が、出た。クラスの人がこっちを見た。

 

「悔しくて...悔しくて..たまりません。ごめん...!!んんんううう」

 

松井先生が、机に突っ伏して泣いた。私の日常は、壊れた。

 

 

 

続く

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