Snow wind & Temerity heart VS The world   作:Phidias

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プロローグ

 天空が血の色に染まり、多くの死と声なき怨嗟に満ちた素晴らしき哉この世界の中心に二人の男が対峙していた。

 

 男のうち、豪奢な衣装を纏った一人は右手にはタクトに似た杖を持ち、もう一方には燃えるように紅い宝石のようなものを手にしていた。なにより、

 それは青かった。

 髪も。

 瞳も。

 驚くことに、綺麗に整えられた顎髭すらも真っ青だった。

 実年齢は45なのに30代、下手をすると20代に見える美貌を持ち、さらに体格も逞しかった。

 まさに世の男たちが望むもの全てを手にしているというのに、その青い瞳の奥の奥は暗くからっぽだった。

 

 もう一方の男はさらに若いようで、黒い学ランを身に纏った高校生の少年だった。何度も補修をしているのか、学ランには大雑把な縫い跡が何か所もあり、インナーに着た緑のモノアイTシャツも細かく破れた部分がある。

 青い男とは対象的に髪や瞳は黒く、背もそこまで高くなく顔も美形とは言い難い。だが、その瞳の内はぎらついたモノが宿り、口元は厚い笑みを形作っていた。

両の腕には、黒鉄色の手甲(ガントレット)が装着されており、感覚を確かめるように何度も手を握る。今にも飛び出していきそうな空気を纏っていた。

 

 男たちがいる場所は空に浮かぶただ一隻の木造船。二人が顔を合わす前に既に戦闘が行われたのだろうか。船室の所々に血痕が散らばっていた。その持ち主だろう、マントを着けて青いパーカーを着た少年が血に染まった腹部を押さえながら横たわっていた。少年のものであろうか。自分の背ほどの大きさの大剣が持ち主の傍に転がっている。

「勾、導……。来るな……」

 少年が自分を見つめる同じ年ごろの若い男に痛む身体を堪えながら必死に叫ぶ。だが、勾導と呼ばれた黒い少年は我関せずとばかりに青い男へ近付く。

「傷に響くからしゃべんな、才人。とっとと終わらせて姫さん呼んでくるからよ」

「無理だ……。ガリア王は……、ジョゼフは、強すぎる……」

 (ンなこたぁ、見りゃわかんだろうが)

 そう思いながら勾導は歩を進める。一歩、また一歩近付く度に首元に刃物が何本も当てられるイメージが襲いかかってくる。それほどまでにジョゼフと呼ばれた青い男は恐ろしいということを実感している。

 正直、闘って勝てるイメージが全くといって湧かない。自分は今、愚策どころか無策のまま死刑執行台に向かっていると実感している。

 

「だ、そうだ。シャルロットの使い魔。おれもやらねばならないことがあるからお前の相手をする暇はない」

 ジョゼフと呼ばれた偉丈夫は左手に持つ紅い石に目をやる。それを使って何かをやるのだろうか。想像もつかない。だが、一つだけわかっていることがある。

 今眼前に広がる惨状に勝るとも劣らない地獄を創り出そうとしていることだ。

 

「それをやらせるわけにはいかねーんだよ、青ヒゲ」

 構わず、悪態をつきながら勾導は近付く。

「それによ、オレ、約束してるから。あいつと」

「約束だと?」

「うん」

「シャルロットか?」

「うん」

 勾導の答えにジョゼフは鼻を鳴らした。

「どうせ、おれの首を奴の眼前に持っていくとかそういうことだろう。つまらん」

「全然ちげぇよ、ボゲ」

「なんだと?」

 

 気付くと二人の距離は2メートルほどに縮まっていた。

 背の高いジョゼフには十分初撃を与えられる距離であり、勾導にとっても飛び込めば当てられる間合いだ。

 ジョゼフは紅い石を懐にしまい、代わりにナイフを出す。それで才人を刺したのだろう。刃先が赤く染まっていた。

 対する勾導の武器は手甲だけ。静かに構えを作る。

 身体を半身にし、顎を左肩に当てて左手はオープンのまま胸に近づける。膝を僅かに曲げて、上下に身体を揺らしてリズムを刻む。そして、右手をゆるく握り、腰の位置に持っていった。

「テメーをボコボコに叩き潰してあいつに謝らせてやるって約束したんだよッッ!!」

 瞬間、勾導の背中が赤く光り輝いた。黒く、生地の厚い学ランを着ていてもわかるくらい、はっきりと。

「それに、『あの時』から感じてたんだッ! 『テメーは気にいらねぇ』、これはシャルロットとの約束でもあり、オレの嘘偽りない意思だッッ!!」

 勾導がジョゼフに、いやこの世界全体に響かせるかのように叫んだ。

 

「つまらん答えだ。期待して損したじゃないか」

 勾導の叫びを鼻で笑いジョゼフは杖を構える。

「だが、お前を殺せばシャルロットは悲しみ、絶望に沈むだろう。……その顔を見れば、おれの願いが叶うかもしれんな」

 暗く、底無しの狂気にとらわれた王は余興を終わらせるべく戦闘態勢に入った。

「おれの涙の為に死ね。ギャラルホルン」

 

 心の中のreckless(無謀)temerity(向う見ず)を奮い立たせ、七瀬勾導は左手でFサインを作る。そして静かに、ジョゼフへ、狂王へ呟いた。

「ジャァストォ、ブリンギィットッ」

 かかってこい。純度150パーセント。混じりっ気ない開戦宣言を。

 

 

 世界の行方を賭けたこの闘いの顛末を描く前に、伝えないといけないことがある。

 

 今、目の前に存在する圧倒的な脅威に立ち向かうどうしようもなく向う見ずな少年の事を。

 

 その少年を召喚した、無口で心を閉ざしながらも温かく、心優しい雪風の少女の事を。

 

 2人の出会い。それはトリステイン魔法学院における春の使い魔召喚の儀から―。

 

 




 以上、最初からクライマックス全開のプロローグでした。タバサが召喚二次創作もの最大の山場であろう対ジョゼフ戦。本章もここまでいけるくらい頑張りたいなぁ、と。

 げっ、タバサが出てないことに今気付いた(頭にジャベリン突き刺さりながら) 
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