Snow wind & Temerity heart VS The world   作:Phidias

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11:Heartbeat,Heartbreak

 ガリアでの任務を終え、タバサの実家から学院に戻って3日が経った。シルフィードが学院の中庭に降り立つ時、ちょっとした騒ぎになったが、学院長の許可を得てシルフィードを学院近くの森の中に住ませる事ができた。その折に勾導は、授業の空いた時間を利用してシルフィードのねぐら作りに協力した。その際、木材の切り端を利用して飼い葉桶を作ってプレゼントすると、彼女は大喜びで勾導の顔を舐めた。

 また、タバサの付き添いで授業に出席した際、決闘でボロボロになったはずの才人もそこにいた。才人に聞くと、なんでもルイズがポケットマネーを出したおかげで高級な治癒の秘薬を利用する事が出来た為、猛スピードで回復できたとの事だ。その事を聞いて勾導は、『いいとこあるじゃん、あのピンク頭』とルイズの印象を改める。ふと、メイジとケンカをして怪我を負った際に自分も秘薬を使った事を思い出し、タバサに治療費の事を聞いたが、「気にしなくていい」と言われた。その心遣いに勾導はタバサに感謝を示した。

 

 食事を摂る為に厨房に行った時にも変化があった。才人と一緒に厨房の中に入るなり、

「『我らの剣』と『我らの裸』が来たぞ!」

 コック長のマルトーがそう叫んで2人を歓迎した。彼はメイジを剣一本で倒した才人を『我らの剣』と、下着一枚の姿で複数のメイジを素手で倒した勾導を『我らの裸』と呼び、もてなした。他のコックやメイドも同様だった。普段ルイズにこき使われている才人にとって厨房はまさに楽園であり、ずっとここにいたいと思ってしまうほどだ。なにしろ、貴族連中が食べるものと同じ食事が食べれて、朝からワインが飲めるのだ。しかも、自分の事を『我らの剣』と持ち上げてくれる。最高の空間だ。

 対する勾導は、正直この空間が居辛いものであった。厨房の人間を嫌っているわけではない。むしろ好いている。居辛い原因はこれだ。

「あのー、おっちゃん。この間も言ったけどさ、『我らの裸』って言い方止めてくれない?」

「どうしてだ? 『我らの裸』」

「だって『我らの裸』なんて言い方、まるでオレがいつも裸で生活してるみたいじゃねぇか! それに何も知らない人間が聞いたらオレがアッチ系のアレな人間だって勘違いしちゃうでしょうが!」

「いや、だってな、お前を象徴する物がそれしか思い浮かばなかったんだ。その服の下はすごい筋肉がついているって聞いたしな。だったら、『我らの裸』という言い方しかないと思ったんだ」

「他に呼び名があるでしょうに……。例えば、『我らの右肘』とかさ」

「しかしな……、すでに『我らの裸』が定着したからなぁ……」

「『我らの裸』でいいんじゃない?」

 と、勾導とマルトーの会話に才人が参加した。

「だってさ、日本にいる時に出た『世界高校生地獄エクストリーム選手権』の世界大会決勝でお前、ズボンもボロボロになって裸当然の姿で闘ってたじゃん」

「裸じゃねぇよ! パンツは無事だったわ! つーか、あの大会、『カタパルトゲートマッチ』や『激闘!一軒家破壊マッチ』に企画物AVみたいな事やらされたら誰でもパンツ一枚になっちまうわ!」

「ふーん。でもさ、お前がいたあの時の日本代表チームはいろんな意味で伝説だよ。お前らが優勝して以降2年間、日本チームは決勝トーナメントにすら出れてないからさ。いつもあの時の決勝の試合映像を放送しているし」

 才人の言葉に違和感を感じ、勾導は訂正を求める。

「何言ってんだ。オレが出たの今年の大会だぞ」

「えっ、どういう事だよ……」

 勾導は確認をするように才人に聞いた。

「才人、オレがここに召喚される前にいたのは2002年10月の日本だ。お前はいつだ?」

「俺は2004年の6月だよ」

 才人の答えに勾導は頭を抱える。同じ日本人で共通の話題を持っているから特に問題はないと思っていたが、互いの召喚された時期が2年もラグがあったとは思いもしなかった。もし、帰還する手立てが見つかった際にこのラグが悪影響を与えるのかもしれない、と不安になるが今は杞憂と言ってもいいことだ。その時になって考えようと勾導は切り替えた。

 ふと、ある事が気になったので勾導は才人に尋ねる。

「才人、お前がいた2004年にやってる特撮はなんだ? 日曜8時にやってるヤツ」

「仮面ライダーだよ。今は『(ブレイド)』っていうライダーだ」

「そうか、日曜8時はライダーやるのが定例化したのか。……ライダーもいいけどメタルやれよ、メタルヒーローを。ライダーと1年交替でさ。あと、東映不思議コメディシリーズを復活させろ。全編浦○脚本のカオスなヤツをやれっての」

「言ってることが分かんないよ、俺はそこまでオタクじゃないんだぞ」

「そうかい。まっ、気にすんな。どうでもいいボヤキだ」

 と、マルトーが太い腕を2人に巻きつけてきた。

「やい、『我らの剣』に『我らの裸』。お前らはどうしてそんなに強いんだ? 俺たちに教えてくれよ」

 この問いかけは、毎回のように2人に投げかけられる。その言葉に2人は決まってこう言う。才人は、

「知らないよ。剣を握ったら勝手に体が動いていたんだから」

 と言い、勾導は、

「そんなの日々のトレーニングしかねぇよ。血の混じったションベンが出るまで体を限界までいじめ抜いて体を鍛え、技を習得していく。その繰り返しだよ」

 と答える。それを聞いたマルトーは、

「お前達、聞いたか!」

 厨房に響くように叫ぶ。それに若いコックや見習いたちが返事を返す。

「聞いてます! 親方!」

「本当の達人というものはこいつ等みたいなヤツだ! 決して己の腕前を誇ったりしない! そして、日々の鍛錬を大切にする、すなわち基本を大事にするんだ! 見習えよ、達人は誇らない!」

「達人は誇らない!」

「よし、もうひとつだ。達人は基礎を忘れない!」

「達人は基礎を忘れない!」

 嬉しそうに唱和するマルトーたちを横目に、勾導と才人は小声で話し合う。

「ところで才人。お前、あの日以降ルーンが光ったことはあるか?」

「ないよ。そんな事どうして聞くんだ?」

「オレもあのケンカの時、オレのルーンも光って能力が発動したんだよ」

「本当かよ! で、どんな能力だよ?」

「クウガ」

「え?」

「だから、クウガみたいに4つの能力をそれぞれの色になって発動するんだよ」

「すごい便利な力じゃないか!」

「そうでもないよ。というより、発動の仕方が分からんからお前に聞いたんだよ」

「なんで俺に聞くんだよ?」

「発動の仕方知ってそうだったから」

「俺だって知らないよ。逆に俺が聞きたいくらいだし。なぁ、どうして光ったと思う?」

「……傍から見てたら剣握るとルーン光ってたから、武器持ったら発動するんじゃね?」

「そうかな……」

「そうだ、オレ、ギーシュと仲良くなったから、後で剣作ってもらおうか? それで確認しようぜ」

「あの気障野郎かよ……。いいよ、別に……」

 と、シエスタが食後のデザートを持ってきてくれた。それを才人はうまそうに食べる。その姿をシエスタはニコニコ笑いながら見つめていた。なぜか顔もほんのり赤くなっている。その様子を見た勾導は、

(ヤバい、シエスタちゃん絶対才人に惚れかけていやがる! オレがいない間になんかあったな!)

 と焦る。勾導は、シエスタを『付き合えたらいいな』と感じていた。かわいいし、気立てもいいし、なにより、

(ほっちゃんボイスがアイツに盗られちまう!)

 未だ、そんな湧いた考えを持っていた勾導は、対抗するようにデザートをガツガツ食う。食いっぷりでシエスタの印象を良くしたいという、訳のわからんアピールだった。しかし、

「おっ、相変わらずいい食いっぷりだな『我らの裸』。その食いっぷりに俺は惚れたぞ。よし、お前の額に接吻してやる! いいな!」

 マルトーが両手を広げながら近付いて来た。

(アンタじゃねぇぇぇェェェよぉォォォォォォッッッ!!)

 勾導は半泣きになるが、時すでに遅し。ぐいと頭を掴まれ額にキスをされた。丸丸と太った40過ぎのおっさんに。

 魂が半分抜けた様子の勾導を見たシエスタはマルトーに抗議をする。

「もうマルトーさん、コウドウさんびっくりしているじゃないですか! 止めてあげてください!」

「うん、そうか? すまんコウドウ。少し調子に乗ってしまった」

 マルトーが恥ずかしそうに離れた後、勾導はシエスタに感謝を示した。

「シエスタちゃん、サンキューな」

「はい、どういたしまして。コウドウさん」

 このシエスタの言葉に勾導は不思議な違和感を感じ、それが心に尾を引く。

 それは午後の授業に参加している時も続いた。

 

 

 夜になった。勾導はタバサの部屋に帰る。その室内には変化があった。古い大きめのソファがあり、勾導はそれに腰掛けていた。それを見つけたのは学院で働く平民たちの寮の物置部屋で、勾導はそれを使わせてもらうよう平民たちの責任者と話をし、先方は快諾してくれた。なお、夜寝る時にはベッド代わりにもなるので、勾導は体を痛めることなくゆっくり眠れるようになった。

「なぁ、タバサ」

 修学旅行の時に秋葉原のショップで手に入れたレスキューポリスシリーズの超全集を読みながら、勾導はタバサに呼びかける。タバサは現在、授業で出された宿題を消化するため机に向かっていた。課題が記された羊皮紙をみつめながら、ぼそっと応える。

「どうしたの?」

「キエロ・アセル・エル・アモール・コンティーゴ!」

「ッ!?」

 タバサは一瞬ビクッとなった後勾導を見た。いつもの無表情は消え、耳の先まで真っ赤になり、さらに何か言いたいようだが、口の中をモゴモゴと動かすだけだった。

 その様子を見た勾導はニヤッと笑う。

「おっ、通じたようだな」

「あなたは一体なにを……」

 タバサがこのような反応を示す訳は、当然の事だが勾導の言った言葉にあった。

 

 『キエロ・アセル・エル・アモール・コンティーゴ』 それは、スペイン語で『君を抱きたい』という意味だった。 ……イージス艦の副長が言ってたから多分あってる。

 

「タバサにも通じたか。実験成功だ」

「……」

「いやぁ、びっくりしたぜ。英語だけじゃなくてスペイン語も通じるなんてさ」

「……」

「他の人間にもいろいろ試した時、他の言語が通じたのもあれだが、まさか人工言語まで通じるとはな……、ってタバサさん。なにしてるんですか……?」

 勾導の眼前で、顔を真っ赤にしたタバサが杖を両手で持ち構えていた。彼女がやる事は決まっていた。無言のまま何度も杖で勾導を叩いた。何度も、何度も。

「痛てっ、なんだよタバサっ、マジで止めろっ、痛い!」

「……っ!」

 数分後、タバサが落ち着いた事を見計らい、勾導は発言の真意を話した。

「あのさ、言葉の事でちょっと気になった事があったんだ」

「言葉の事?」

「そう。あのさ、ハルケギニアってさ、いくつ言語があるんだ?」

「基本は1言語。ただ、その国それぞれに訛りがある」

「へぇ。それは国を行き来するのにスゲぇ楽だな。そういや、ガリアでも通じてたな。で、地球はな。ちっちゃい部族の言語も入れると6900あるそうだ」

 勾導の言葉にタバサは驚いた表情を見せる。地球という世界は、どれだけ大きな規模の場所なのかと。

「オレ等日本人は、日本語という言葉を使うんだ。で、ここからが問題だ」

 勾導が一呼吸置いた。

「オレは日本語の他に、英語とスペイン語という、地球でもメジャーな言語をある程度話せる。将来の夢の為にな。ちなみに今オレは英語で話しているぞ。……通じているか?」

 タバサは頷く。この現象に気付いたのは厨房でのシエスタとのやり取りからだった。無意識に出た英語がシエスタに通じたのだ。この件に関して深く調べようと、勾導は色々試した。日本語、英語、スペイン語。その他の言語における挨拶の言葉。ヒスパニック系住人が使う英語とスペイン語のチャンポン言語、いわゆるスパングリッシュ。さらにはアニメや小説の人工言語。それらを出会った人間に片っ端にぶつけた。平民、貴族、果ては使い魔。結果、その全てに言葉が通じた事に勾導は驚いた。使い魔はさすがに言葉を返す事が出来ないため、代わりにリアクションで示してくれたが。

「アーヴ語やグロンギ語まで通じたのはビビったぞ! まさかと思いウルトラサインも書いて試してみたが、さすがにそれは通じなかったがな。ちなみに今喋ってるのはグロンギ語な」

 勾導の言葉をタバサは興味深げに聞いていた。勾導の世界に様々な言葉もそうだが、人造の言語という物まである事にタバサは静かに驚嘆する。

「で、だ。この『喋る言葉が全て自動翻訳される』という状況はどうしてなのかオレは知りたい。タバサは知ってるか?」

「わたしもわからない。でも、もしかしたら……」

「ん?」

「『サモン・サーヴァント』の門を通る事で、あなたの言葉がハルケギニアの言語に自動翻訳されるようになったのかもしれない。きっと、もう1人の男の子も同じ事が起きていると思う」

「なるほど。それじゃあ、コイツは自動翻訳されないわけだな」

 勾導は机の上に置いてあるMDプレイヤーを起動させた。携帯スピーカーを通して流れる歌にタバサは耳を傾ける。ハルケギニアには存在しないシンセサイザーの電子音にリズム。勾導の言った通り歌声は翻訳されないが、その澄んだ歌声を聞いてタバサは心が癒されていくような気持ちになった。

「どうだ? 何言ってるか分かるか?」

 勾導の質問にタバサは首を横に振る。

「そうか……。いい歌なんだがなぁ。KO○O○○の『Shooting star』。オレと一緒に通過したらMDとかも一緒に翻訳されるみたいな感じにしろよ……」

「だったら、あなたが歌って」

「はい?」

「あなたが歌って。それを聞いて覚える」

 タバサの唐突な提案に勾導は頭をかく。『歌え』と言われるのは、さすがに予想外だった。

「これ、女性ボーカルだぞ。野郎のオレが歌ってもなあ……」

「大丈夫。歌って」

「ハズいよ。男性ボーカルならなんでも歌えるんだがなぁ。……そうだ、いい事思いついた」

 勾導は立ちあがると、ボストンバッグに入っていた筆記用具を引っ張り出す。そしてノートに歌の歌詞を書いていった。その時、その筆記用具の質の良さにタバサが驚いていたのは別の話だが。

「こうやって歌詞を書けば分かるだろう。言葉だって通じたんだ。きっと文字だって勝手に翻訳されるはずだ!」

 ペンを走らせ、書き終わった歌詞をタバサに見せた。その反応は、

「読めない」

 タバサは勾導に紙を突き返した。勾導は世の中都合よく回らない事を理解する。

「マジかよ……。中途半端な翻訳機能だなおい。タバサ、本どれでもいいから見せてくんない?」

 請われたタバサは本棚から無作為に本を選び勾導に渡した。勾導はそれに目を通してみる。そこに書かれていたのはアルファベットに似た文字だった。だが、文体に繋がりが見えない。そもそも、単語の意味すら分かってないのに読もうとすること自体が無意味であった。

「読めねぇ……」

 肩を落とし、タバサに本を返すものの、勾導はすぐに考えを切り替えた。

 読めないのなら、読めるようになればいい。そう考えたらやる事は一つだ。

「タバサ、お願いだ。文字を教えてくれ」

「どうして?」

「こっちの世界の文字を理解できなかったら色々とアレだろ。必要な時に対応ができなかったらマズイし、もしかするとオレが帰る為の情報も手に入れやすくなるかもしれないしな。あと、オレの国は母国語の識字率99パーなの。だから文字が読めないと不安なの!」

 勾導の言葉にタバサは驚いた。識字率が99%なんて、ハルケギニアの国ではありえない事だ。大体、文字を読めるのは貴族と街に住んでいる平民くらいで、その他大多数の平民なんて、村長や村の教会で簡単な教育を受けた人間を除くと全く読めない者しかいないのだ。

 ふと、勾導の読んでいた本に目をやる。ハルケギニアではありえないしっかりとした装丁の本の表紙には勾導の国の文字だろうか。こんなに難しい形の文字を勾導は理解しているのかと。表紙に描かれている実物その物のように写実化された赤い仮面を付けた鎧の戦士の絵も、とても気になったが。

「お願い、文字おせーてよー。タバえも~ん!」

 子供のように駄々をこねる勾導の姿を見てタバサは溜息を一つつくと言った。

「わかった」

「え?」

「わたしが文字を教えてあげる」

「マジで! あんがと、タバサ」

「その代わり」

 タバサは再び椅子に座ると呟くように口にした。

「あなたの世界の言葉を教えてほしい」

「どうして? この世界じゃ役に立たないぞ」

「それでもいい。交換条件」

 勾導はそれを『彼女なりに考えたギブアンドテイク』と思う。回答はすぐに出せた。

「いいぜ。そのくらい問題ないよ」

 勾導はそう答える。するとタバサはこくりと頷いたあと、勾導に聞こえないような声で小さく呟いた。

「……あなたの国の歌を歌ってみたい」

「ん? なんか言ったか?」

「……なにも」

「あっ、そう。で、どうするよ? 宿題があるみたいだから授業は明日からいいけどさ……」

 そう言う勾導の目の前に本が何冊も積まれた。タバサがいつの間にか用意したものだった。

「今から始める」

「いや、宿題は?」

「終わった」

 そう言いながらタバサは勾導の隣にちょこんと座り、本を広げる。その即決ぶりに勾導はたじろいた。

「でも、もう夜遅いぜ。明日からでも……」

「大丈夫。簡単な本だから」

「えっ、待って、心の準備が……、わぁぁぁぁ……」

 

 こうして、タバサ先生のはちみつ個人授業は夜が深くなるまで続いた。

 

 

 さらに数日が経過した。勾導はタバサと共にシルフィードの背中に乗り、大空を飛んでいた。ガリア本国の任務を終わらせた帰り道であった。高度3000メートルの為、シルフィードは周りを気にすることなく楽しそうに喋り倒す。

「きゅい~、今回の任務は大変だったけど楽しかったのね! 花嫁さんも綺麗だったし、村の人達と翼人のみんなが仲良くなって森に住む精霊達も大喜びなのね!」

 頭に花冠を被りご機嫌なシルフィードに対して勾導は不機嫌そうだ。ズボンの至るところが破け、手足には怪我を作っている。

「グッドエンドで終えたのはいい。無駄な血が流れなかった事も最高の結果だ。でもさ、そこに持っていく為にオレはスゲぇ酷い目にあったんですけど! おかげで報告に行った時デコ姫には笑われるしよ……」

「そうは言ってるけど、お兄さまお芝居の時ノリノリだったのね。お兄さまの変装、凄かったのね! えーと、『ぐれーと』……、なんだっけ」

「『愚零斗虎宇怒胡』だ。まっ、いろいろやりすぎたからなぁ……。家に火ぃ点けたり、森に火ぃ点けたり……。ボヤで終わったけど」

「おかげで村の人も翼人もすごい怒ってたのね。いっぱい矢や精霊魔法が飛んできてびっくりしたのね」

「自業自得」

 タバサが2人の会話に割り込む。それを聞いた勾導はジト目で抗議した。

「この中で一番ノリノリだったのはあなただったんですけどね……。なんだよ、『最強魔法! 風棍棒!』って。オレも巻き添え食らったし』」

 すると、彼女は顔が赤くなるものの、話を逸らすように一冊の本を勾導の前に出す。

「文字の勉強」

「いや、今モロに話を逸らそうとしてるよね? ね? ね?」

「帰るまでに、この本を全部読む事」

「ヒデぇ! シルフィもそう思うだろ!」

 勾導はシルフィードに助け船を出すが、

「お兄さま、諦めが肝心ですわ。学院までまだ距離があるからしっかりお勉強するのね」

 無情にもシルフィードに裏切られた勾導は諦めて渡された本を読む事に集中した。

 

 一行が魔法学院に到着した頃には夜をまわっていた。食事が摂れないか確認するために勾導達は厨房に向かう。幸運な事に厨房はまだ明りが灯っていた。どうやら明日の料理の仕込みをやっているようだ。

 マルトーに頼むと、快く食事を出してもらった。どうやら、自分達がいない時も料理をいつも作っていてくれるようだ。2人はその心遣いに感謝し、これからは任務で出かける前は事前に伝えておこうと心に決めた。

 1つ気になる事があった。厨房の皆の様子がどうも暗いのだ。

 勾導は自分達がいない時に何かあったのか聞いた。すると、マルトーが驚きの答えを言う。

「シエスタがモット伯という貴族のところに奉公に行ったんだよ……」

 やるせなせを感じる言い方と周囲の反応から、あまりいいことじゃないな、と勾導は思った。

 

 タバサの部屋に入ると、勾導は驚く。なんとキュルケとルイズがそこにいて、ソファに座っていたからだ。

「もう、どこ行ってたの2人とも!」

「いや、なんで他人の部屋に上がり込んでいるんだよ! つーか、どうやって入ったんだよ」

「い、言っとくけど、わたしは反対したわよ! キュルケが勝手に……」

「『アンロック』の魔法を唱えて鍵を開けたの。この子はできないからね」

 悪びれずにそう答えるキュルケの様子を見て勾導はこれ以上言っても無駄だと悟る。どうやら、いつもやっている事らしくタバサは慣れた様にキュルケに尋ねていた。

「どうしたの?」

「あのねタバサ、サイトが危ないの!」

「あなた風竜を持っていたわよね! お願い、私をモット伯の屋敷に連れてって!」

 サイトが危ないと聞いて勾導も2人の話を真剣に聞く。

 なんでも、シエスタを手にしたモット伯という男は大変好色な男で、奉公してくる平民の女性を『お手付き』する事で有名であった。その事を知った才人は単身でモット伯の邸宅に乗り込んだらしい。

「『らしい』……って、どういうことだよ、キュルケ」

「サイトにうちの家宝の『召喚されし書物』を持っているか、って聞かれたの。で、ちょっとからかうと急に怒って出ていったの。それで気になってルイズに何があったのか聞いたの。そうしたら、モット伯とあのメイドの事を聞かれたって」

「あのバカ使い魔……。わたしの言う事も聞かないばかりか、あろう事かツェルプストーの助けを借りようなんて……」

 2人の言葉を聞き、勾導の中で静かに、着実に怒りが沸々と沸き上がっていた。貴族と平民の身分の違いによって人が自分の意志と関係なく自由と尊厳を奪われてしまうというこの世界の現実に対して。

 心の中に様々な声がリフレインする。

『モラル意識が中世レベルの世界だから、こんな事は日常茶飯事』。

『平民は貴族に逆らえない』。

 うるせぇ。黙れ。

 勾導の心の中で怒りの炎が轟々と上がり始めた。

 だが、その怒りに呑まれないよう心をすぐに落ち着かせる。

 それでも怒りの炎は消えない。ならば燃やせ。ただし赤い炎ではなく、心を冷静にし、冷たく凍るような青い炎を燃やせ。そう勾導は考えた。

 冷静になったところで、勾導は一つの事が気になった。その気になった事をキュルケに尋ねた。

「ところでさ、キュルケ。その『召喚されし書物』ってなに? どんなの?」

 その言葉にキュルケは妖艶な笑みを浮かべる。

「ふふっ、あなたも男の子なのねコウドウ。『男性の欲情を駆り立てる』って聞いて気になったの?」

「いや、そうじゃねぇよ。偉い伯爵が欲しがる本がどんなのか気になってさ」

「本当に? まっ、そういうことにしてあげる。ちょうど今ここにあるし」

 そう言ってキュルケは年代物の鍵穴のついたブックホルダーを取り出す。家宝らしく厳重な守りようだったが、キュルケは軽い感覚で鍵を開けて、勾導に渡した。

「これよ。でも本当に価値があるのかしら。文字も読めないし。あなたも読めないでしょ?」

 勾導はその表紙に目を通す。

「これは……」

「ねっ、あなたも何が書いてるか読め……」

「『平凡パンチ』のヌード特集号じゃねぇか!!」

 突然叫び出した勾導に部屋にいる女性陣は驚いた。

「ど、どうしたのコウドウ!」

「すげぇ! これ○原麗○じゃねぇか! こっちは○し美○○子だと! アンヌだよ、アンヌ!! やっぱスゲぇ美人だわ!! 今の時代でも十分いや、未来永劫通用するぜ!!!」

 先ほどまでの怒りはどこに行ったのか、大声で叫びつつ目を爛爛と輝かせながら紙面を見つめる勾導の姿を、女性陣は変な物を見る視線をぶつける。その視線を無視しながら勾導は紙面に集中していた。このファンタジーワールドに来て、こんなお宝本に出会うとは思いもよらなかった。目に焼き付けんばかりに読み込む。微妙に前かがみになりながら。

 一通り紙面を目に通した勾導は顔を引き攣らせたままのキュルケに開口一発、こうほざいた。

「これ、オレにください。2万円出すから」

 

 答えは渾身の力を込めたタバサの杖の一撃だった。

 

 

 現在、空を飛ぶシルフィードの背中には勾導とタバサ、それにルイズとキュルケが乗っていた。向かう先はモット伯の邸宅。キュルケは例の『召喚されし書物』を手にしていた。そして、勾導も脇になにか風呂敷の様なものでくるんだ薄いなにかを挟んでいた。

 その事に気付いたルイズはじろりと勾導を睨む。さきほどの奇行が異常に見えたのだろう。どこか警戒していた。

「ところであんた。その脇に挟んでいるものは何よ?」

 勾導は先ほど頭にできたコブを気にするように触りながら答えた。

「ん? これは保険だよ」

「保険?」

「そうだよ。もし才人が既になんかやらかしてて伯爵をぶち切れさせていたら、きっとその本だけじゃシエスタ返してもらえないかもしれないだろ。これは、それを阻止するための保険だよ」

「……大丈夫なの? それで」

 疑いの視線を向けるルイズに対し、勾導は自信満々で答えた。

「平凡パンチで釣れるかもしれないんだ。コイツはもっと効果があるはずだぜ。……オレだって本当は手放したくないんだぞ。1回も『使って』ないんだし」

「『使う』?」

「っ、なんでもねぇよ。おい、あれじゃないのか? 伯爵の家ってさ!」

 話を逸らすように勾導は目に入ってきた光を指差す。そこには大きな屋敷があった。

 屋敷が視界に入ったルイズは声をあげる。

「お願い、もっと速く! 貴族の屋敷で力に訴えたりなんかしたら、大変な事になっちゃう!」

 その言葉を聞いたシルフィードはきゅい、と鳴いてスピードを上げたまま降下体勢に入った。

 襲い掛かる降下Gに耐えながら皆は才人の無事を祈っていた。

 

 

 結果から言うと、才人は危機一髪の状況だったものの無事だった。邸宅に到着するやルイズは大急ぎで屋敷の扉を開ける。瞬間、才人がモット伯の『ウインディ・アイシクル』に襲われている光景が目に入ってきた。ルイズは『爆発』の魔法で氷の矢を撃ち落とす事に成功させるとほっとした表情を見せた。

 現在、皆は屋敷の客間でモット伯の嫌み混じりの説教を受けていた。

「全く、王宮勅使の私の家で暴れるとは、学院の門弟のレベルも下がったものだね。オールド・オスマンに厳罰を要請しなくてはな」

 脅しに近い発言をするモット伯の前にルイズは1歩前に出る。そして、優雅な動きを維持しながらしゃがみ込んだ。

「急を要したもので、許可なくお屋敷に侵入した事をお詫びいたします。そして、使い魔の不始末は主人であるわたしルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの不始末でもあります。どのような罰でもお受けいたします。」

 『ヴァリエール』と聞いたモットの目がきらりと光る。弱みを見つけたとばかりに一気に捲し立てた。

「ほう。君はラ・ヴァリエール家の者なのかね。だが、君の所有物が王宮の勅使に拳を向けた事は重罪に値する。……君の家に類が及ぶ事も覚悟する事だね」

「待てよ、悪いのは俺……」

 モットの言葉に才人が反論しようと声を上げようとしたその時、急に肩を掴まれた。掴んだのは勾導だった。勾導は小声で才人を諌める。

「才人、お前ルイズに恥を掻かせる気か?」

「どういうことだよ!?」

「今、あいつはお前の代わりに頭下げてんだぞ。……汲んでやれ」

 勾導の言葉に才人はハッとなる。この騒ぎの原因は自分だ。その場で殺されてもおかしくない状況だったのだ。それなのに、自分のご主人様であるルイズは一言も言い訳せずに『使い魔の不始末は主人の不始末』と言って頭を下げている。その姿を見た才人は妙な恥ずかしさを覚えた。そして、頭を冷やすかのように何度か振った後、吐き捨てるように「……分かったよ」と小さく言った。

 モット伯の説教が落ち着いたのを見計らって、キュルケは一歩前に出た。

「モット伯爵、お怒りのお気持ちご理解できます。しかし彼女達は学生。このあたりで手を打ちませんか?」

「君は誰だね? その風貌から見て、わが国の人間ではなさそうだが」

 キュルケは伯爵位の人間を前にしても普段どおりの余裕ある態度のまま、自己紹介をした。

「申し遅れました。私はゲルマニアのキュルケ・フォン・ツェルプストーと申します。伯爵は我がツェルプストー家の所有する書物を御所望されているとお聞きしておりましたが……」

 キュルケの家名と書物という言葉を聞き、モット伯は驚く。

「ツェルプストー! では、今君が手にしているものはもしや……」

「はい。我が家の家宝、『召喚されし書物』でございます」

 キュルケはブックホルダーをモット伯に手渡した。長年欲しがっていた書物を手にしたモット伯は歓喜の声を上げる。

「おお、これがそうか! 今日はいろいろと気分を害することがあったが、最後の最後にすばらしい出来事が待っていたわ!!」

 いそいそとブックホルダーを開錠しようとするモット伯の様子に才人はイラつき、声を荒げた。

「そんな事よりシエスタを返せ!」

「ふん、人の楽しみを妨害することしかしない平民だな……。まあいい、お前たちシエスタを連れて来い」

 そばにいた衛兵に命令をすると再び自分の世界に没頭するモット伯の姿を見て勾導は、

(エログラビア以下の扱いなのかよ、平民の命は)

 と激昂しそうになったが、今回はこの伯爵の好色っぷりのおかげで大事には至らなかったと無理矢理切り替えた。皮肉なことだが。才人も『召喚されし書物』の正体が昔のヌード雑誌であることに気付くと呆れた表情になった。皆も、ヌード雑誌を読みふけるモット伯を生暖かい目で見つめている。ルイズは先ほど勾導のやった仕草を思い出すと小さく呟いた。

「男ってどうしてみんな、ああなの……」

 

 

「サイトさん、コウドウさん!」

 衛兵たちに付き添われ、シエスタが客間に入ってきた。彼女は嬉しそうな笑顔で才人に抱きついた。それを見た勾導は「なんで才人だけ」と歯噛みしたが、シエスタの危機に対して一人で必死に頑張っていたのは才人だという事を思い出し、納得した。

「……あいつに一歩先に行かれたなぁ」

 寂しそうに小さく呟くと、勾導は広間を見渡した。儀礼用の鎧や刀剣、宝石が飾り付けられた食器など豪華な調度品が部屋を飾っている中、部屋の片隅に見覚えのある形をした楽器が無造作に置かれてあった。黒いエレキギターだ。ただし、モット伯はそれが楽器だと分からなかったのだろう。スタンドに備え付けられていたが、上下逆に置かれ、その周囲には妙なレリーフが飾られていた。この世界の人間には妙なオブジェとしか思えなかったのだろう。

 勾導はそれに近付き、よく確認すると驚愕した。

「これ、レスポール・カスタムじゃねぇか! いつ製造のヤツだよおい……」

 シリアルナンバーを見つけ、自分の知識と重ね合わせながら解析する。そして、アバウトだが解析が終わり、勾導は再び驚く。

「1969年製のブラックビューティかよ……。オリジナルやバーストほどじゃねぇが、それでも……」

 唾を音が出るほど大きく飲み込む。こんな異世界の貴族の屋敷に自分の貯金を全てはたいても買えないようなヴィンテージギターがあったのだ。おまけにギターケーブルもご丁寧にスタンドに引っかかっている。勾導は自分の唯一所持品であるボストンバッグの中身を思い出す。エフェクターはさすがに入っていないが、自作のスモーキーアンプをお守り代わりにバッグの中に入れていたのだ。市販品ほどのパワーは出せないが、とりあえず音は出せる。さらに必要な電源も『確保している』。勾導は大きな笑みを作った。

「おっさん、これ譲ってくれ!」

 勾導はレスポールを手に持ち、モット伯に大声を上げながら詰め寄った。その勾導の行いにタバサ達は驚き、エログラビアを堪能していたモット伯は邪魔をされた事で不機嫌な顔を作った。

「なんだ貴様! 私の所有物を勝手に持ちおって! おまけに譲れだと? ふざけるな!!」

「いや、あんたこれが何か分かって無いじゃん。おかしな置き方してさ」

 そう言いながら勾導はギターをスタンドに正しい位置で置く。その様子を見た才人は慌てた様子で勾導に近付いた。

「勾導、お前何やってんだよ! シエスタを取り戻せたから、このまま帰ろうとしていたのに!」

「コイツも救う」

 勾導は即答した。

「このレスポールも救う。これが何か分からないヤツの手元で、ずっと埃被っているのはかわいそうだからな」

「何言ってんだよっ! ただの楽器じゃないか!」

「ただの楽器じゃねぇんだよ。ぶっちゃけ、どんなに安く見積もっても100万円するぜ。こいつはよ」

「100万円……」

 勾導の言葉に才人は冷や汗が出る。ルイズが才人に尋ねる。

「サイト、100マンエンってなに?」

「オレの国の通貨単位だ。こっちのレートで、ざっとエキュー金貨100枚だ」

 その問いに答えたのは勾導だった。日頃行われるタバサとの個人授業のおかげで、ハルケギニアの通貨はすでに理解していた。

「100エキュー! 平民が1年間不自由なく暮らしていける金額じゃないですか!」

 勾導の言葉を聞いたシエスタは仰天する。ルイズたちも驚く。貴族である彼女たちにとって100エキューはたいした金額ではないが、たかが楽器にそこまでの価値がある事に驚いた。それに勾導は『安く見積もっても』と言っていた。すなわち、これはそれ以上の価値があるという事だ。

 勾導の発言、そして周囲のリアクションを見たモット伯は白い歯を見せた。

「ほう、これはそれほどの価値のある楽器だったのか。……よかろう、ならば貴様に譲ってやろう」

 モット伯の言葉に勾導は喜ぶ。しかし、言葉は続きがあった。

「ただし、この楽器と同じくらいの価値のある物を持ってこい! それが交換条件だ!」

 その言葉を聞いた才人達はやはり、と言いたげな顔をする。それほどの価値のある物は今誰も持っていない。きっと勾導も諦めるだろう、と誰もが思っていた。

「えっ、そんな事でいいの? あるある。ひょっとしたら、こいつ以上の価値があるものだぜ」

 勾導は待っていたとばかりに太い笑みを作りながらある物を取り出す。それはシエスタ奪還の為の『保険』と言っていた包みだった。慣れた手つきで包みの結び目をほどき、中身をモット伯に晒した。それを見たモット伯は驚愕の貌をつくる。

「こっ、これは……」

「キュルケの実家とは別のルートから手に入れた『召喚されし書物』だよ。伯爵殿」

 それは勾導が修学旅行先のエロ屋で買ったAV女優が被写体の18禁写真集だった。『召喚されし書物』の正体がエロ本である事を知った勾導は「もしかしたら」と思い、バッグから買ったエロ本のうち何冊かチョイスし、持ってきたのだ。いざという時の『保険』の意味を兼ねて。

 モット伯はページを1枚1枚めくる度に興奮して顔が赤くなっていった。

「ツェルプストー家の書物も素晴らしかったが、これはそれ以上だ……。美しい女性がなんと淫らであられもないポーズを……。おお、始祖ブリミルよ……。今日はとっても良き日です……」

「ちなみに、この写真の女性は○瀬○と言って別名『ホースライディングの天使』だ。最高でしょ~。エロエロでしょ~。乗っかられたいでしょ~」

 至福の境地にいるモット伯に勾導は横からエロ本の解説をする。

 その様子を他の皆はドン引きした様子で見ていた。ドン引き以外できなかった。

 

 勾導のエロ本を堪能したモット伯は弛みきった顔をしていた。その姿を見て勾導は一気に攻める。

「で、伯爵。この本をあんたに譲る。だから、レスポールを譲ってくれ!」

「うむ……、しかしな……」

 まるで駆け引きを仕掛けるかように渋るモット伯に勾導はさらなる言葉の追撃をする。

 

「『未使用』ですぜ、伯爵」

 

 伯爵はカッと目を大きく見開いた。

「ほ、本当か……。う、嘘ではないのだな」

「嘘じゃないぜ、伯爵。最初に『使う』のはあんただ」

「し、しかし……」

「渋ってんじゃねぇよ……。えーい、おまけだ、この『スーパー写真塾』もつけてやる!」

 そう言って勾導は無理矢理小さな版型のエロ雑誌を取り出してモット伯に握らせる。

 品八丁に口八丁。勾導の怒涛の攻勢に、モット伯の中の欲望を押さえていた防護壁はついに崩れ、伯爵は自身の生み出した欲望のマグマに灼かれた。

「平民、貴様の熱意には負けた……。その楽器、持っていけい!!」

「モットおじちゃん、だーい好きー!!」

 使い魔はギターを、貴族はエロ本を、欲しいものを手に入れる為に欲望をぶつけあった2人の間には平民と貴族の身分差を超えた不思議な友情が生まれていた。

 自然に漢と漢はグッと握手をする。2人の背後には光が差しているようだった。欲望に塗れきった何とも言い難い色をした後光だったが。

 才人達の元に帰った勾導は、戦利品であるギターを勝ち誇るように見せつけた。そして、叫ぶ。

「ブラックビューティ、ゲットだぜ!!」

 勾導のその姿に対する皆の反応は以下の通りだった。

 

「勾導……。いくらなんでもこれは引くぞ……」 才人が至極真っ当な事を言う。

「こ、ここここの、ド、ドドド変態っ!!」 ルイズがどもりながら杖を向ける。

「まぁ、男の子だからねぇ……。でも、それでもこれはちょっと、ねぇ……」 キュルケが頬を引き攣らせる。

「コウドウさん、えーと……、この場合、なんと言ったらいいんでしょうか……」 シエスタが乾いた笑みを見せる。

 そんな周囲の反応の中、勾導のご主人様であるタバサの反応は次の通りだった。

 

 「……」

 

 何も言わず、何も行動せず。早い話無視である。

 さすがに、この反応は読めなかったのか、勾導は思わず「はうわぁ!」と叫んだ。

 

 こうして、あんまりなオチのついたシエスタ奪還作戦は終了した。

 

 

 学院に帰り、皆と別れた勾導は部屋に戻るなりバッグからスモーキーアンプと『ある物』を引っ張り出した。『ある物』とはA4サイズのノートほどの大きさのソーラーバッテリーだった。このバッテリーは勾導が自分で作成したもので、フル充電済みの状態で2002年当時のノートパソコンが3時間は動かせる大型のものである。日ごろ、勾導が電池残量を気にすることなくMDプレイヤーを起動させていた秘密はこれである。

 バッテリーとアンプ、そして主役のレスポール・カスタムをケーブルで繋ぐ。シルフィードに乗っている時にギターの状態を確認したが、少し塗装が剥がれている程度で、ブリッジやピックアップなど音を出すために必要な箇所に問題はなかった。結構長い間放置されていたはずなのに品質が良いことを不思議に思いタバサ達に聞くと、

「固定化の魔法がかかっているのかもしれない」

とのことだった。品質を維持する魔法の存在も知り、勾導は思わず「反則じゃね?」と言った。

 話を戻そう。ギターの最終点検を終えた勾導はアンプのスイッチを入れてギターのチューニングを始めた。長年調整されていなかったため、音程の外れた音しか出さないギターの音を聞いたタバサは関心を無くしたのか、再び視線を手にした本に移す。その外れた音がうるさかったため、『サイレント』の呪文を唱えようとしたその時だった。

 突如音に深みと厚みが増し、ブラックビューティは激しく歌い始めた。それを弾く勾導の指は絶え間なく動き続け旋律を創造していく。

 唸るような低音と叫ぶような高音が同時に響き、音の連続符が洪水のように次々とタバサの耳に入ってくる。心臓を掴まれ激しく身体を揺らされるような暴音を聞いていたかと思うと、次の瞬間打って変って豊潤な大地を歩く女性の歌声の様な美しい旋律を耳に入れていた。

 ギター1本で様々な表情の音を奏でる勾導の姿をタバサはボゥっと見つめたまま、思わず手にした本を落としてしまった。突如、勾導の演奏が止まる。何事かと尋ねようとした時だった。

「よし、指の準備運動終了。んじゃ、『あれ』弾くか」

 そう言うとタバサにとって聞き覚えのある旋律を弾き始めた。以前タバサが聞いた『Shooting star』だった。ギターのみの演奏の為原曲とは別の印象を感じたが、それでも原曲に負けない魅力をタバサは感じる。

 すると、勾導は歌い始めた。原曲よりキーは低いが、透き通った高音で、張りのある歌声だった。

 タバサは歌声を聴きながら、自分の知りたかった歌の歌詞の中身を知る。簡単に言うと、恋人の事を大切に思うという内容だったから、勾導は『恥ずかしい』と言ったのかと思う。でも……、歌ってる本人は楽しそうに見えた。

(嘘つき)

 そんな事を思いながらタバサは小さく微笑む。

 タバサは無意識のままにメロディーを口ずさんでいた。その事に気付いた彼女は恥ずかしくなったが、勾導は集中しているため気付いていない。

 

 その事にタバサはちょっと悔しくなり、次は歌えるようになって彼を驚かせてやる、と心に決めた。

 




 アニメにおけるモット伯騒動のエピソードの時点でデルフを入手していますが、このSSでは騒動の時期を少し時期を早めました。勿論、このSSでもトリスタニアでの買い物イベントは描く予定です。
 
 勾導のボストンバッグの中身に入っている電気系の私物は、このエピソード以降新しい物は出しません。これ以上やったらバッグが四次元ポケットみたいになりますので(笑)
 ただ、書籍系はもう数種類登場させる予定です。

 あと、作者はあまり楽器には詳しくないので、突っ込みどころを見つけたとしても、スル―していただけるとありがたいです(笑)
  
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