Snow wind & Temerity heart VS The world 作:Phidias
「ま、毎度ありー(もう、今日は店じまいだ!)」
店主の弱弱しい挨拶を背中に受けながら、勾導達は武器屋を出た。
結局、勾導がチョイスしたのは以下のとおりである。
・ダガー1本(刃渡り30サント。砥ぎはいまいちだったが、地金がしっかりしていたのでこれを選択。砥ぎは勾導がやるとの事)
・投擲用ナイフ10本(収納用ベルト付き)
・鉄鋲付きの革製グローブ(使い勝手の良さから選択)
勾導はこれに拳銃を加えてやろうと思ったのだが、ハルケギニアの銃はフリントロック式の銃である事を店主から聞き、入手を諦めた。装填数が一発だけなら意味が無い。有効射程も短いだろう。だったら、ギーシュとの決闘で見せたあのルーンの力のスピードを活かして突撃して斬りかかったほうが有効だと勾導は考えた。
なお、タバサに「あなたは武器を買わないの?」と尋ねられたが、勾導は「オレは武器を持つと攻撃力が下がるんだよ」と冗談で返す。あまり、欲しいと思えなかっただけだが。
キュルケは足取り軽く歩いていた。なにしろ、先祖代々からの因縁があるルイズが買い与えた剣より明らかに良品の武器をタダで手に入れる事が出来たからだ。きっと才人は喜んでくれる。きっと自分のものになってくれる。そして、ルイズの悔しがる顔が見れる。そう思うと心に羽が生えた気分になった。
キュルケはいろいろと手助けをしてくれた勾導にお礼をしたくなった。このまま恩を返さなかったらツェルプストーの名折れだ。と、ある事を思いつき、後ろを歩く勾導を見た。
「ねぇ、勾導。今日はあなたに助けられたわ。そのお礼といってはなんだけどね、あなたに服を買ってあげるわ。だってあなた、いつも同じ服のレパートリーしかないのだもの」
その提案を勾導は素直にうれしく思った。修学旅行に参加している時に召喚されたので服はある程度持っていたが、ガリアの任務に何度か参加しているため、プロレスジャージをはじめ2着ほど駄目にしてしまった。タバサと共に授業を受ける時は学ランを着て、それ以外の時はマルトー達の計らいで貰った平民用の古着を着ていた。これは、才人も同様である。だからこそ、服のストックが寂しかった勾導はこの申し出を受け入れた。
勾導達はキュルケに連れられ服屋に入った。着いた店は貴族用の服屋で勾導は少し尻込みする。なにしろ店内には高そうな生地が並び、見本用に飾られた服はいかにも貴族が着るものばかりであったからだ。明らかに自分は『場違い』である事を自覚していた。背中に変な汗が流れる。思わず主人のタバサを見つめるが、関係ないとばかりに本を読んでいた。キュルケは服屋の店主と何か話をしている。時々勾導を見ていたので、勾導に着せる服の話をしているのだろう。
話がまとまると、勾導は体の採寸をされる。既製品ではなく1から作るのだろう。オーダーメイドである事は、相当な金額になるのだろう。その事を思い、ますます緊張してしまう。
出来上がりは夕方くらいになると言われたので、その辺をぶらぶらする事になった。
遅めの昼食をとる為、勾導達はブルトンネ街を歩いていた。貴族向けのレストランが数多くあるが、キュルケはそれらの店に入る素振りを見せない。彼女もどの店に入るかを悩んでいるみたいだった。勾導は正直高そうな店は良いから、喫茶店みたいな場所で軽く食おうと提案しようとしたその時だった。
「もう、勝手に触らないでよっ!」
突然、拒絶する声が響いてきた。なにかなにかと周りを探してみると、少し行った先にある脇道の通りの入口でもみ合う男女がいた。女性は黒髪のロングで、胸元の開いた派手な緑のワンピースを着ている10代の少女だった。男は傭兵か何かなのだろう。身長180サントくらいで体もごつく、剣を腰にある鞘に収めている。酔っているのだろうか、顔を赤くして呂律の回らない舌でなにかブツブツ言いながら彼女の腕を乱暴に掴んでいた。
「あなた、恋人に振られたからって飲み過ぎよ! お店から連れ出してどうする気なのよ!」
「うるせぇジェシカ! 俺はこれからデカくなるんだ! だから俺と一緒に来い! 後悔はさせねぇから!」
「嫌よっ! 痛いから早く手を離して!」
「お前は俺と一緒に来るんだ! 一緒に!」
「誰か、助けて!」
少女の助けを求める悲鳴が響く。しかし、通りには現在警らの兵隊がおらず、道行く人も足を止めない。男が刃物を持っているのを見たからだろう。下手をしたら自分が酷い目に遭ってしまうと思い、尻ごみをしていた。
勾導の背中をチョンチョンと叩く者がいた。キュルケだ。その意図する事に気付くと、勾導は頭を掻きながら男女に近付いていった。面倒臭かったが、さすがに放っておくのはまずいと思ったからだ。
「おっさん、いい加減にしたら?」
男の背中をつつき、勾導はそう言う。無論、男は嫌そうな顔をしながら勾導を見た。
「なんだこのガキ、俺は今忙しいんだ! とっとと消えろ!」
「酒癖悪すぎるぞ、おい。とっとと姉ちゃんの手を放しなよ。どう見ても不釣り合いなんだからさ」
勾導の挑発するような言葉に男はカチンとくる。少女の手を放すと、勾導の胸倉をグイと掴みねじ上げた。
「おいガキ。もう一回言ってみな」
男は酔った目で勾導を睨みながら凄むが、勾導は馴れた様子なのか全く動じない。解放された黒髪の少女はこの横暴を止めたかったが自分にはそんな力はない。自分を助けてくれた同じ黒髪の少年を心配そうに、ただ見つめるだけしかできなかった。
と、勾導はぽつりと呟く。
「酒に飲まれるって怖いな。自分にとってどれだけ不利な事をしているのか気付いてないんだから。それとも、知らないだけかもな」
「おい、何を言って……」
その時だった。勾導は自分を掴んでいる男の右手首を左手で掴むと一気に体を沈めながら相手のバランスを崩す。その勢いのまま掴んでいた腕を逆にねじり上げられた男は右腕全体に突然襲ってきた痛みに悶絶した。勾導のやったことは護身術の初歩の技であった。
「痛い痛い痛い! 放せっ!」
「んじゃ、この姉ちゃんにもうちょっかいをかけないって誓うか? まあ、酔ってんだから意味なさそうだけど」
「誓う誓う、だから放せ!」
「ほいよ」
あっさりと放された為、男は勢いよく道端のゴミ捨て場に突っ込んでいった。勾導はそれを見ず、助け出した少女に声をかけた。
「姉ちゃん、大丈夫?」
「え、ええ……」
年の頃は勾導とたいして変わらないだろう。太い眉が特徴的な可愛らしい少女だった。少女はなにか気になる事があったのだろう。ぼうっとした表情で勾導の顔をじいっと見ていた。その事に勾導も気付いたのか、少し困ったような声を出す。
「あのー、オレの顔になんか付いてんの?」
「えっ、いえ、なんでもないわっ。助けてくれてありがとう! この人、恋人に振られたとかでお店で自棄酒していて、仕方ないから家に帰らせようとしたらあんな事になったの」
「ふーん、災難だったな」
そんな事を言っていたその時だった。ゴミ捨て場から立ち上がった酔っ払いは腰に下げた剣を取り出して構えた。それを見た通行人が悲鳴をあげながら彼から離れていく。
「てめぇ……。舐めた真似をしやがって……」
酔っ払いが自分達へ凶行に出ようとしている事に気付いた少女が顔を青ざめる。その顔を見た男は呂律の回らない笑い声を上げながら勾導達に近付こうとしたが―。
「はい、そこまでよ」
突如、構えた剣に炎の玉がぶつかり、その衝撃と熱さのあまり男は剣を落とす。さらに、ものすごい風の圧力が襲いかったため男は吹き飛ばされ、向かいの建物の壁に叩きつけられ気絶した。勾導達から離れた場所で、タバサとキュルケが杖を構えていた。それを見た勾導は2人に向かって、
「キュルケさーん、最初からそうした方が解決するの早かったんじゃないの?」
と愚痴をこぼす。
「あたし達の魔法は範囲が広いから、彼女をあの酔っ払いから離さなくちゃいけなかったのよ。だから、あなたに何とかして欲しかったの。まぁ、あんな事をしようとしていたのは予想できなかったけど。それに、女の子にカッコいいとこ見せられてよかったじゃない」
そうキュルケがフォローする。それに対して軽口で返す勾導の姿を見て少女は驚いた。
「あんた平民でしょ? どうして貴族と対等のように会話しているの?」
「そりゃ友達だからさ。ちなみに、あそこにいる青髪の子はオレのご主人様」
「ご主人様って、あんた貴族の従者なの?」
「正確には違うけど……、まっ、説明がめんどいからそれでいいや」
あいまいな説明をする勾導に少女はいぶかしむ視線を向ける。しかし、自分を助けてくれたのでいい人だと感じた。改めて3人に自己紹介をする。
「助けてくれてありがとう。あたしはジェシカ。この通りの先にあるチクトンネ街の宿屋で働いているの。あんたは?」
「オレは勾導っていうんだ」
「コードー……。変な名前」
「コードーじゃない。コウドウだ」
「一緒じゃないの」
この後、キュルケとタバサも自己紹介をした。貴族だが、平民に対してもフレンドリーなキュルケと、物静かでおとなしいタバサの様子を見て、ジェシカは彼女達が話せる貴族と思い安心した。そして、1つの提案をした。
「そうだ、助けてもらったお礼をしたいからお店に来てよ! お酒とご飯をご馳走するからさ!」
食事をする場所を探していた3人はジェシカの提案を快く受け入れた。
「さぁ、これがあたしのお店の『魅惑の妖精』亭よ」
ジェシカの案内によって勾導達はその店の前にいた。まだ昼間のため店の中はそこまで賑わっていないが、本番である夜になったらきっと多くの客が来る事が容易に予想できた。
彼女を先頭に店の中をくぐるとそこには、とんでもない者がいた。
「あらン、ジェシカ、お帰りなさいー。あのお客さん大丈夫だったの?」
目の前に背のデカい屈強な体格をした派手な格好をした男が腰を左右にくねらせながらジェシカに声をかけた。その強烈な姿に勾導達は引いた。が、ジェシカが言った言葉に勾導はさらなる衝撃を受ける事になる。
「『パパ』、ただいまー。ちょっと困った事になったんだけど、あの貴族様と従者くんに助けてもらったの」
「パパァ!?」
思わず勾導は叫んでしまった。黒髪が一緒なだけで2人は全然似てない。アレか、母親のDNAが頑張ったのか。と、いうよりなんであんなオカマにかわいい娘がいるんだ、つーか、オカマなのに娘がいるっておかしくね? などといろいろ失礼な考えが頭の中を巡っていく。
そんな失礼な事を思われているとは思っていないオカマはジェシカから事の経緯を聞くと、さらに嬉しそうに腰を振り始めた。おまけに筋肉を強調するようなポージングを混ぜ込むからマジでキメぇ。
「トッレビアーン! あなた達、娘のジェシカを助けてくれて本当にありがとう! あらン、貴族のお嬢さん方はとっても綺麗ね! 店の女の子達も霞んじゃう! 従者のボクは……」
オカマはキュルケとタバサの顔を見て最後に勾導の顔を見る。すると、とても驚いた顔をした。
「え、嘘……。どうして……」
口元に手を押さえながらそんな言葉を零している。その様子を見て勾導は本能的に自分の
(ふざけんな、おっさん! オレはそんな趣味はないぞ! 頼むからオレを見つめんな!)
ある意味猛獣より恐ろしいものに見られている感覚から逃れるため、勾導は恐る恐る目の前のオカマに話しかける。
「あの~、どうかしましたか? オレの顔になんか付いてます?」
勾導の言葉にオカマは元の世界に帰ってきた。恥ずかしそうに首を横に振る。
「ううん、なんでもないの。あなたがわたしの知ってる人にどことなく似ていたからちょっと驚いたの……」
オカマは一瞬寂しそうな表情をしたが、すぐに気を持ち直して3人を歓迎した。
「わたしはこの『魅惑の妖精』亭店長のスカロンよ。娘を助けてくれたあなた達からはお金をとらないから、ぜひとも楽しんでいってくださいまし!」
スカロンがお辞儀をすると、周りにいた給仕の女の子達も頭を下げる。皆色とりどりの派手で露出度の高いキャミソールに似た衣装を着ていた。それを見た勾導は「この店当たりじゃね?」と思い頬を緩める。勿論、タバサはそれを見逃さず、なにか言いたげに勾導をじっと見ていた。
椅子に座った勾導達の前に給仕の女の子達が料理とワインを運んできた。スカロンが言った通り、うまそうな料理ばかりテーブルに並べられたので、勾導は反射的に唾を飲み込んだ。おまけに、ワインを飲もうとすると給仕の女の子達がグラスに注いでくれる。その際、「あなた、いい体してるねー、腕触っていい?」や、「ジェシカを助けたんだって? すごくカッコいいー」とあの手この手と褒め殺してくるので、反射的にチップとしていくらかの小銭を彼女達にあげた。学院の手伝いなどをして貰った駄賃を貯めて作ったなけなしの有り金である。その様子を見ながら、キュルケは「あーあ、まんまと乗せられちゃって。こういう事に本当に慣れてないのね」と呆れた様子で見ていた。
タバサはテーブルの上にある料理を黙々と口に運んでいた。ものすごいスピードで料理を平らげる姿を初めて見た勾導は少し引いたが、彼も物凄い勢いで料理を食っているのでお互い様であった。テーブルの上に空っぽの皿が次々と積み重ねられる様子を周りの客と女の子達は若干引いていた。
その時だった。店の扉が乱暴に開けられ、男の野太い声が店内に響き渡る。
「あいつら、やっぱりこの店に居やがったか! さっきはよくもやってくれたなっ!」
それは、先ほど相手をした酔っ払いの傭兵だった。酔いは既に醒めたのだろう。言葉の呂律は正常であったが、酔いとは別の物で顔が真っ赤だった。その後ろには、
「兄貴、こいつらですかい」
男と組んでいる仲間の傭兵だろうか。ガラの悪そうな男達が6人ほど後ろからぞろぞろと現れた。兄貴、と呼ばれた男はまっすぐ勾導達に向かう。テーブルの近くに来た男は大声で凄んだ。
「おうおう、さっきは俺に恥を掻かせてくれたな! てめぇら!」
しかし、凄まれた勾導はそれが耳に入っていないかのように食事をしつつ側にいた給仕の女の子に話しかけており、タバサは黙々と料理を消化し、キュルケはワインを楽しみつつ、客の会話を横聞きしていた。
明らかに自分達の事が眼中に入ってない事に気付いた男達は皆自分の得物を出して示威をする。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ! 俺達を見やがれ!」
耳元で騒がれた勾導は、頭を必要以上に振りながら男を見る。酒で酔っているのか、勾導の顔は耳まで赤くなっていた。
「なんだよぉ、おっさん。なぁんか用?」
「ああ、さっきのお礼を返しに来たんだよ!」
「あっそぉ。まだ飯食ってるから1ヶ月くらい待ってくれや。覚えてたら相手してやっから」
完全に舐めくさった勾導の言葉に男達の怒りは一気に沸点まで昇った。
「ふざけてんじゃねぇぞ! 表に出してやるまでもねぇ! ここでぶちのめ……」
「ひゃかましいっ!」
突然、勾導は立ち上がると手にした空のワイン瓶で男の頭に一撃叩き込んだ。瓶が粉々に割れる程の勢いを持った一撃をくらった男はダウンした。
先ほど言った事と全く違う事をやってのけた勾導の姿を見て、他の男達は完全に勢いに呑まれてしまった。1人の男が後ずさりながら突っ込みを入れるように叫んだ。
「て、てめぇ、さっき言った事と真反対の事をやってんじゃねぇよ!」
その言葉に対し、呂律の回らない口調で返す。
「うるへぇ! きょきょは酒飲んで飯食って女の子達とキャッキャウフフと楽ひむ場所にゃんだ! テメェりゃとゴタゴタする場所じゃねえんひゃよ! ねぇ、ジャンニュひゃん?」
勾導の側にいたジャンヌという栗毛の女の子は、突然話を振られた事で目を大きくした。引っ込み思案なのだろう。何か言いたそうだったが、おろおろと困った様子を見せるだけだった。
「どったのー? ヒャンニュちゃん。今さっきこのキョウドウひゃんが言ったでひょ? 引っ込みひあんは良くないよってひゃー。前に出なくちゃ、まへえさー」
自分達などそっちのけで女の子に絡んでいる勾導の姿を見た男達は無理矢理自分のペースを捕まえると手にした得物を勾導に叩き込もうとした。だが、
「邪魔」
タバサが物を食べながら器用に呪文を唱えた。『レビテーション』の呪文のようで、男は宙に浮かされ、そのまま勢いよく床に叩きつけられた為そのままのびてしまう。
「野郎っ!」
残りの男達が今度はタバサに得物を向ける。しかし、二度ある事は三度ある。
「ここはお食事と会話を楽しむお店ですわよ。そんな無粋な真似は止めにしませんこと?」
今度はキュルケが杖を振るう。すると、人数分の火の玉が杖先から飛び出し、男達の得物に巻きつく。熱さのあまり男達は反射的に得物から手を離してしまうが、その行為が間違いだと気付き火を払おうとするが既に遅し。彼らの得物の刃は熱で潰れ、使いものにならなくなってしまう。その炎のコントロールぶりの見事さに周囲の客も歓声を上げ、キュルケもそれに応えるように一礼してみせた。
自慢の得物を潰された男達は互いに目配せを行い、この後どうしたらいいのかを相談しあう。だが、勾導はそんな彼らの邪魔をするように、ずんと仁王立ちをしながら前に出た。その右手にはアルコール度数の高い蒸留酒の瓶がある。
すると勾導は、さも当たり前のようにその瓶口を口に含む。本来は水や果汁で割って飲むそれをラッパ飲みをする勾導の奇行を見てざわつき出す周囲をよそに、続いてテーブルに置いてあった蝋燭の燭台を手にした。その行動を見て、男達の中で理解の早いヤツは急に狼狽を始める。
「お、おい坊主……。まさか……。や、やめろ……」
その懇願の言葉を無視し、勾導は一気に含んだ酒を霧吹きのように広範囲に吹く。散った酒は勾導の手元にあった蝋燭の炎に引火し、それによって完成された巨大な炎の塊が男達を襲いかかった。炎は男達の体を包み、その熱さに絶叫を上げる。だが、勾導の酔った頭は悪ノリに乗ずる様に更なる火炎ブレスを吹き出す。
数分後、髪の毛をチリチリに焦がされ、所々服を焼かれた男達は怯えきった表情を周囲に晒していた。
「こ、このガキ頭おかしい!」
「さ、酒を凶器にするか、普通!」
「お、俺達が悪かったっ! だからもう許してくれ!」
それを聞いた勾導は上空に向けて再度口から火を吹くと、どこぞの伊勢崎暗黒街の首領の真似をしながら叫んだ。
「おらぁ、これで分かったか? 分かったな? 分かったら出でげぇっ!!」
「はいいぃぃぃぃぃぃっっ!!」
泣き出しそうな顔をしながら男達は未だにのびている自分たちの頭を引き摺りながら店から逃げ出した。
勾導は一つしゃっくりをして椅子に戻る。すると、周囲から歓声が上がった。
「すごいわ! あなた!」
「お酒を使って荒くれ者を追い返すなんて初めて見た!」
「貴族さまも、とってもかっこよかったですよ!」
大きな拍手をするスカロンやジェシカ、店の女の子や他の客たちにキュルケはそれに立ち上がって手を振り、タバサは未だに食事を続け、酔いの限界がやってきた勾導は眠り始める。三者三様の姿で彼らは歓声に応えた。
「またいらっしゃいね。あなた達なら大歓迎よん!」
そんなスカロンの言葉を背中に受けながら勾導達は店を出た。キュルケとタバサの足取りは軽いが、勾導は少しふらついている。酔いはある程度醒めたが、頭はガンガン痛む。財布の中に入れていたハルケギニアの貨幣もいつのまにかなくなっている。いろいろ調子に乗り過ぎたと少し後悔していた。
「大丈夫?」
タバサがはしばみ草を渡しながら尋ねる。このはしばみ草、食べるととても苦く、そのためか酔い醒ましとして重宝されている。勾導はそれを受け取るとムシャムシャと噛み潰した。唾液混じりの草汁を無理矢理飲み込むと、幾分か楽になった。口の中は苦みに満ちているが。
服を受け取る為に服屋に行くと、勾導はドレッシングルームに連れ込まれ試着する事になった。勾導は貴族が着るようなジャボの付いた派手な服を渡されるのかと思ってダウンな気持ちになったが、渡された服を見て驚いた。それはモスグリーンの色をしたモッズコートに酷似したフード付きのアウターに赤のベスト、おまけに黒のロングパンツと地球の現代ファッションその物だったからだ。勾導はそれを半ば戸惑いながらもそれを着て、2人の前に出た。
「あら、やっぱり似合ってる。あたしの思った通り」
それを見たキュルケは、ふふんと頷く。
「これどういう事だ? オレらの国の服そのまんまだぞ、これ」
勾導は思った疑問をぶつける。
「これ、最近ゲルマニアの若い男の貴族やお金持ちの平民の間で流行ってるファッションなのよ。あなたやサイトの着ている服もそれに近かったからもしかしたら似合うかも、と思ってね」
キュルケの言葉に勾導は「ふーん」と答えるだけであった。正直ファッションの事なんて分からない。自分の国の服装に似た格好が出来るなら別にいいやと思う。勾導は改めてキュルケに礼を言った。
「ありがとな、キュルケ。服を買ってくれてさ」
「いいのよ。あなたには騙されそうになったのを助けてもらった上に武器を選んでもらったから。それに、今日はとっても楽しかったから。それよりも、タバサに見せてあげなさい」
キュルケにそう言われたので、勾導はタバサの元に行って服を見せるように一回転する。彼女は本から目を離し勾導の姿を見た。
「どうかな?」
恥ずかしそうに勾導は尋ねた。
「似合ってる」
タバサはいつものように口数少ないが、感想を述べた。
いろいろと寄り道をしたが、本来の目的を達成した勾導達は夕方にはトリスタニアを発ち、学院に戻った。夕食を終えた頃にルイズの部屋へ行く事をキュルケは2人に伝え、自室に戻っていった。
完全に酔いが抜けた勾導はシルフィードとの約束を守るために食堂に行き、タバサもそれに付き合う事にした。
少し賑やかだったが、充実した休日を送れたと勾導は思う。
だが、その思いを打ち砕くように、学院を揺るがす大きな事件がこの後待ちうけているとはこの時は思いもしなかった。