Snow wind & Temerity heart VS The world 作:Phidias
その日、修学旅行で東京に来た七瀬勾導と友人達4人は東京タワーの展望台にいた。
時は西暦2002年の10月。その頃の日本は不景気2番底まっただ中。6月に行われたサッカーW杯で国民が一つにまとまるも喉元を過ぎればなんとやら。燃え尽き症候群になったり次の応援対象を探したり日常に帰ったり。最近、かの国による拉致被害者の帰還が話題になるなどしており、世間は相変わらずの終わりなき閉塞感に包まれつつも小さな変化を感じ始めていた。それは近い未来、大きな流れになると薄々期待しながら。
話を戻そう。
勾導達は皆学ランを着ており、背や手にはリュックやバッグを持っている。今日は2泊3日続いた旅行の最終日。土産を買うために与えられた自由時間を過ごしていた。
「しっかしなぁ……」
パンパンに張らした大きなボストンバッグを肩にかけ、勾導は周囲を見た。
勾導はこのグループの中で一番背が低い。160センチを幾分か超えた程度しかなく、彼を除く友人たちは皆170を超えており、横に並んで歩くと、それがより際立っていた。
ただ、その代わりだと言わんばかりに勾導の体は横に大きかった。着ている学ランは通常より2サイズ大きく、一見普通の肥えた少年に見えなくもない。しかし、顔はその体躯同様膨れてはいない。頬はシュッとこけ、肌は浅く色黒だった。
正直、顔つきはそこまで端正ではない。喧嘩の類の代償なのか鼻は低く潰れ、顎下には真一文字の大きな傷痕がある。だが、ワックスで無理やりセットしたぼさぼさの髪の下にある少し垂れた瞳はぎょろりと大きくギラギラと輝いており、人を惹きつける愛嬌に似たものを持ち合わせていた。
「何度も思うが、なんでクソ忙しい今の時期に修学旅行に行く羽目になったんだ? オレら高3だぞ。就職組の連中は別にいいかもしれないが、オレら進学組はこれから忙しくなるのによ」
「しょうがないよ。去年のテロの影響で僕達の修学旅行が潰れて、結果として今の2年と合同で東京へ行くことになったんだから。飛行機を使わず、新幹線で行けて遊べる場所はここくらいだし」
勾導のぼやきを、眼鏡をかけた童顔で中性的な顔立ちの少年が受け答える。旅行の疲れがたまっているのだろう、多少声に力がなかった。
「勾導、次はどこ行くよ? もう時間ねぇから集合場所に行くか?」
グループで一番の長身の男が自分の前を歩く勾導に尋ねた。
「いや、もうちょっといようぜ」
「5分くらいか?」
「ベロクロンかガラモンが襲ってくるまで」
「はぁ?」
「もしくはエメロード姫がオレをセフィーロに連れてってくれるまで」
「バカじゃねぇの。東京タワーに来てまでくだらねぇオタネタ言ってんじゃねぇよ」
「東京タワーにいるから言いたかったんじゃないのかな」
「どう見てもC○AMP体型じゃないんだから行ってもロクな扱いされねぇぞ」
勾導の言葉を、友人たちは思いっきり否定する。
「第一チミ、自分のツラ見たことないのかね? ○田○子さんが頑張ってキャラデザインしてもカッコよくならねぇぞ」
「だったらワンチャン○リデザインならどうよ? サンライズ立ちもイケんぞ」
「メカになるんかい……。無理だ無理。つーか、そろそろ現実に帰れ」
バンタナを巻いた茶髪の少年が話を切り上げようとした、その時だった。
高さ2メートル、幅が1メートルの楕円形の形をした光輝く鏡のようなものが勾導の目の前に現れた。
「なんじゃこりゃ?」
反射的にそれに勾導は触れていた。無意識だった。『触れてはいけない』と頭の片隅で思っていても気付いた時には触れていた。
その瞬間、鏡が自分の腕を飲み込んできた。驚く暇も無く、電流のようなショックが勾導の体に流れ、意識が飛びそうになる。それを必死にこらえるかのように、大声で叫び何か捕まるものを探すように両手をジタバタさせる。
「勾導っ!!」
皆、勾導を助けようと、その腕をつかんだ。
高校に入学して出会って以来、この男の無茶な思いつきに巻き込まれてきた。そのおかげで警察の世話になった事もある。
しかし、だからといって、それが『つまらないもの』かと言われたらそれは違った。
学校や街中に溢れた退屈と閉塞感を無理矢理にでも払拭しようと必死な勾導の事を、彼らはなんだかんだで大好きだったのだ。
勾導も意識を保つ事に限界が来た。
自分は死ぬのかもしれない。目の前には必死に自分を救出しようとしている友人達がいる。でも、もう 無理だ。
限界だ。
ならば言う事は一つだけだ。
「一ヶ月だッ、一ヶ月経ってもオレが帰ってこなかったら、オレのパソコンのDドライブを消してくれッ!!」
必死に叫んだ後、勾導は気絶した。鏡はしめたとばかりに吸引力を強め無理やり勾導の体を鏡の中に飲み込み、世界から消えた。残ったのはその光景を見て呆然としている展望台のギャラリーと友人たちのみだ。
残された友人達は、『テメエ、そっちが重要なのかよ……』と呆れたが、不思議と不安はなかった。
皆、七瀬勾導という男がどんな男か知っている。
死にそうな目にあっても悪運強く生き残ってきたのだ。
大丈夫、そう思いながら。
こうして、七瀬勾導は地球から消えた。
鼻をくすぐる草の匂いと周囲のざわめきによって勾導の意識はゆっくり覚醒していった。
「雪風のタバサが人間を召喚したぞ……」
「あの格好、平民よね……」
「ルイズが失敗するのは分かるけど、トライアングルのタバサが失敗するなんて……」
うるせぇ……。そう思いながら上半身を起こし周囲を見る。
一面草原が広がっており、少し遠くには石造りの大きな城のような建物も見える。まるで、絵葉書などにありがちなヨーロッパの景色だ。
声の主たちだろうか。3、40人ほどの人間がなぜかマントをつけて自分を物珍しげに見ている。彼らの顔つきは欧米圏の白人のそれであり、加えて赤や茶、金といった色の髪をしており、中にはオレンジや緑といった実際には染料を使わないとありえないような色をした者もいた。
勾導は考える。
さっきまでいたのは東京タワーのはずだ。
もっと言えば東京のコンクリートジャングルのど真ん中だ。
つーか、なんだこいつら。人のことをじろじろ見やがって。
メチャクチャな髪してんな。カッコも含めてコスプレかよ。
ってことはここはアレか? なんかのアニメのオンリーイベント会場か? でも、んな格好のアニメや漫画見たことねぇぞ……。
まさか、マジでセフィーロみたいな異世界に来ちまったのか? もしくはバイストン・ウェル。
ぶっちゃけ前者も微妙だが後者は絶対嫌だぞ。特にリーンみたいなエログロ小説版。
と、背後から足音が聞こえた。立ち上がり振り向くと、頭が禿げあがった杖を持った中年男性と、自分の身の丈以上の大きさの杖を持つ少女がいた。勾導は尋ねた。
「ねぇ、おっちゃん。ここどこ? 東京? まさかセフィーロ?」
「トウキョウ? セフィーロ? いや、ここはトリステイン魔法学院だが。それよりもミス・タバサ」
勾導の質問に答えた中年男性が隣にいる少女を見る。
「意外なものを召喚して困惑しているかもしれないが規則は規則だ。コントラクト・サーヴァントを行いなさい」
「魔法? なに言ってんのあんたら。大丈夫?」
想定外の言葉に困惑する勾導を尻目に、少女が前に出た。
その短く乱雑に整えられた髪と、赤いフレームの奥の瞳は蒼穹のように蒼かった。
しかし、そこには太陽の暖かさは感じない。その透き通った瞳は冬のように終わりのない雪風が吹雪いているようで何も映らなかった。
人形のように無表情で、その華奢な体つきは時が止まったようで、死ぬまでこのままじゃないかと思わせてしまう儚さを感じた。
「じっとしてて」
感情のない、抑揚のない言葉だった。
「あ、ああ」
二人は向き合う。小柄な勾導よりさらに頭一つ、少女は小さかった。
「……しゃがんで」
言われたのでしゃがむ。が、警戒は怠らない。場合によっては、少女を人質にしてここから脱出しようと勾導は考えていた。
少女は手に持った大きな杖を構える。
「我が名はタバサ。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そう言って杖を勾導の顔に向けたのち、白磁陶のような真っ白い肌にある唇を近付ける。
「おい、なにを」
混乱する刹那、少女の唇が勾導の唇に重ねられた。
やわらけぇ。いいにおい。なんかあまい。した、いれたい。
勾導の中に様々な思いが去来する中、少女は唇を離した。
「終わった」
相変わらず少女は無表情だったが、頬にどことなく朱がさしていた。
「って、何すんじゃコラァッ! まぁ、うれしいけど……」
怒鳴った矢先、勾導は自分の体に熱を感じた。そして、背中に激痛が走った。
「痛ええええええッッ」
皮膚を剥かれ、酸で焼かれるような痛みにのたうちまわる。
「大丈夫。もう少しでルーンが刻み終わる」
「ざけんなっ! ……あれ?」
波が引くように痛みが消えた。痛みを感じた背中に指を這わせる。なにかザラついた感触がした。何か、文字のようなものが刻まれているようだ。
「コントラクト・サーヴァントはうまくできたようだね、ミス・タバサ。君、背中を押さえていたね。ちょっと背中を見せてもらえないかな」
中年のハゲが声をかける。
「わかったよ。……人の体を勝手にキズものにしやがって」
学ランを脱ぎ、Tシャツを捲り上げて背中を見せる。
「うむ、見たこともないルーンだな。あとで調べてみよう。さて、次はミス・ヴァリエールの番ですね」
そう言ってハゲは勾導達から離れていった。
「……なんなんだよ、おい」
力なく頭を抱える勾導を、タバサと呼ばれた少女が声をかける。
「名前」
「オレの?」
少女は頷く。
「勾導。七瀬勾導だ。あんたは?」
「タバサ。あなたを喚んだ者」
それが、雪風の少女と向う見ずの少年の出会いだった。
互いに自己紹介をする2人に近付く者がいた。
染料でも出せないような彩度を放つ赤い髪の少女だ。少女というと失礼に当るのかもしれない。身長は170ほどあり、タバサはもちろん勾導よりも高く、褐色の肌が放つむせるような色気は、そういったものを拘束する目的があるはずの制服を役立たずにさせている。彫りの深い顔と突き出た豊満な胸を持ち、それが彼女をより強烈で魅力的な女性に魅せていた。
「人を使い魔にするなんて珍しいわね。あなたならもっとすごい幻獣を喚びだすと思ったのに」
彼女はタバサに親しげに話しかける。2人は友人同士なのだろうか。
「想定外」
「あたしはこんなに立派なサラマンダーを喚んだわ。見て? この尻尾の炎。ここまで大きくて鮮やかなら間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ」
少女の背後から虎くらいの大きさをした赤いトカゲが現れた。しっぽの先端を見るとなるほど、大きく高い彩度の炎が爛々と輝き、周囲の温度を上げていた。
「うおっ、なんじゃこれ!」
見たこともない生物に、勾導はびびってたじろいた。
「あなた、サラマンダーを見るの初めて?」
「初めてもなにも、こんな生き物地球にいるわけないだろ!」
「チキュウ? なにそれ」
「ここどこだよッ! アレか、マジでセフィーロかバイストン・ウェルかッ!? だったらなんだ、オレはマジックナイトか聖戦士になってやれバ○オープニングっぽいアクションして謎ビーム出したりハイパー化して捏造技やったりすんのか!? んでもって……」
混乱して意味不明の湧いた言葉を吐く勾導に、2人は若干引く。と、その時だった。
広場一帯に爆発音が響き渡った。
「な、なんだ一体!?」
驚く勾導とは対象的に2人は落ち着いていた。
「ルイズね。大丈夫、あなたもそのうち慣れるわよ」
「離れていれば大丈夫」
「大丈夫、って言われてもなぁ……」
爆発の直後、周囲が再びざわつきだしたが、勾導はそこまで頭が回らなかった。様々な出来事が重なりすぎて、眩暈がしそうだ。
「これで全員使い魔を召喚しましたね。では、みなさん学院に戻りましょう」
ハゲがこの場にいる全員に声をかけ、何か呪文を唱えると宙に浮いた。それに続き、周りの人間も宙に浮き、石造りの建造物に向かっていった。
「ありえねぇ……。舞空術かよ……。気功波出すヤツが出てきても、もう驚かねぇぞ……」
半ば考えることを放棄し始めた勾導の学ランをくいくいと赤髪の少女が引っ張る。
「そう言えば自己紹介してなかったわよね。あたしはキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ」
「なげーな、おい。どう言えばいいんだよ」
「キュルケでいいわ。あなたのお名前は?」
「七瀬勾導。勾導でいいぜ」
「ナナセコードー? ヘンな名前ね。平民なのに名字があるのもおかしいし」
「うっせ。オレの国じゃ名字があるのは普通なの。ついでにコードーじゃない、コウドウだ」
「そうなの。じゃあ、また後で会いましょ」
そう言ってキュルケとサラマンダーも建物に向かっていった。
「ついてきて」
勾導にそう言うと、タバサはとことこと前に歩き出した。
「おいっ、待てよ」
唯一の所持品であるボストンバックを肩に掛け、勾導もタバサを追う。追いながら考える。
オレはどうやら、目の前の少女の力によって異世界に拉致られたようだ。……北朝鮮か?
そして、ここには魔法が存在し、宙を浮いたり爆発といったものがあるようだ。
また、サラマンダーのようなモンスターも存在するようだ。下手にうろちょろできねぇな。
そんでもって、あのハゲが『魔法学院』って言ってたから、ここにいるヤツらは学生か?
……情報が少なすぎる。とりあえす、あのちびっ子から色々聞かないといけねぇな。
思案しながら歩いていると、いつの間にか魔法学院のアーチの門をくぐっていた。
この先なにが待ち受けるのか。勾導はまだ知らない。
EDも同じくゴイステで『YOU&I』。OPともども気になった人は調べてみると、ちょっと幸せになるかも。