Snow wind & Temerity heart VS The world   作:Phidias

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3:PINKY BOMB!!

「こいつに賄いを食わしてやりたいんですがかまいませんねッッ!!」

 勾導の宣言に食堂は騒然とする。がやがやと周囲が騒ぐ中、最初に反応を示したのはピンクブロンドの少女だった。タバサに負けないほどの可愛らしい美少女が声を荒げる。

「あ、あんた誰よ! ここはメイジと給仕以外は入っちゃいけないのよ!」

 が、性格は真反対のようだ。すぐさま勾導に突っかかってきた。

「よお兄ちゃん。ンなもん食わずに厨房に来いよ。賄いだけど、うまいシチューがあるぜ」

 少女の言葉を無視して勾導は少年を改めて見る。青いパーカーを着て自分と同じくらいの年齢で、どことなく抜けた面構えをしており左手の甲には使い魔のルーンが刻まれていた。服装から判断して、自分と同じように地球から召喚されたと勾導は思った。

「なぁ、あんたも地球から召喚されたのか?」

「えっ、地球を知ってるのか!? それよりその顔と格好っ! 日本人か!?」

 パーカーの少年が驚いた顔をする。

「まぁな。オレも昨日召喚されて使い魔になったんだ。どっから来たんだ?」

「秋葉原。東京の」

「オレは東京タワーだ。やっぱ、東京ってなんかあるのかな。霊脈とか鬼門とか魔界都市とかあるし」

「あぁ、よかった、日本人がいた……。俺、平賀才人。よろしく」

「オレは七瀬勾導。勾導でいいぜ」

「なぁ、ひょっとしてあんた、『世界高校生地獄エクストリーム選手権』の日本代表のメンバーじゃなかった?」

「そうだけど」

「やっぱり! 決勝、テレビで観たよ! 『ノーロープ有刺鉄線オクタゴンコンクリートマットスクランブル時限爆発トリプルヘル電流爆破デスマッチ』の8人タッグ戦! あんたが2階からコンクリマットに叩きつけられた時は死んだと思ったよ!」

「実際死にかけたけどな。まぁ、その分オレらもやり返したけどね。相手を有刺鉄線ボードに挟んだ後、時限爆破エリアに叩きこんだりしたりしたし」

「あの時、追いうちのムーンサルトをして爆破の巻き添え食らった人って大丈夫なの? すごいマッチョで『いくぞーっ』って握りこぶしをやってた」

「大丈夫だよ。あの後オレらの中で一番早く退院してジム通いしてたから」

「本当かよ……」

「ご主人様を無視して話をするんじゃないの! このバカ使い魔! あんたもあんたよ! いきなり現れて! どこのどいつよ!」

 少女が勾導に怒鳴る。そこでようやく勾導は少女に声をかける。

「あんたは?」

「このバカ使い魔のご主人様よ! あんたは!?」

「あっそ。オレはタバサの使い魔の七瀬勾導。つーわけで、こいつを厨房に連れていくけどいいな?」

「駄目よ」

「なんで? これより断然うまいメシがあるのに」

「使い魔に贅沢させるわけにいかないわ。ただでさえ役に立たない平民なのに」

「贅沢どうこう言う前に、人に食わせるものじゃねぇぞ、これ。才人、行こうぜ」

「ああ……」

「こっち来なさい、あんたのご飯はこれよ」

「ルイズ……」

 厨房に行こうとした才人を少女が止める。ルイズというのが彼女の名前なのだろう。才人は足を止める。

「おい、ピンク頭」

 ずい、と勾導がルイズの前に出た。スープの入った皿を持って。

「だったらあんたがこれ食えよ。率先して食ってみてご主人様の『示し』を見せろや」

 面前に不味そうなスープを付き出されたルイズは顔を歪める。すると、食堂内の生徒たちがはやし立てた。

「そうだルイズ、平民に言うことを聞かせるなら自分から進んでやらないと駄目だぞ」

「ゼロのお前でもそのくらいできるだろ!」

 生徒達のからかいと嘲りの混ざった嘲笑にルイズは唇を噛み締める。

「できるわけないじゃないっ!」

 勾導を睨んだ。可愛らしい眉のラインが歪み、敵意全開の視線だった。

「なんで?」

「これは使い魔の餌よっ! 貴族が食べるものじゃ……」

「才人は人間だ」

 勾導はルイズを睨み返す。先ほどまでの垂れただらしのなさそうな目つきがどうだ。瞳に凶暴な光が宿り、今にもルイズに手を出さんとばかりに大きく見開かれていた。その眼光にルイズは声が出なくなった。

「ぎゃーぎゃー喚くな。舐めた事抜かすと……犯すぞ」

 勾導の暴言と迫力に呑まれたルイズは何も言わなくなり、黙って自分の椅子に座った。

「よし、ご主人様の許可は出たな。行こうぜ才人」

 勾導が厨房に戻ろうとする。しかし、才人は動かない。

「おい、どうした。もう時間もないぜ。とっとと行こうぜ」

「ごめん、やっぱり行けないよ」

「はぁ? どうして?」

「なんかさ、ここまで騒ぎになったらちょっとな……。行き辛いというか。一食抜いても大丈夫だからさ」

「ふーん、わかったよ。また誘うわ。あっ、そうだ」

 勾導は学ランのポケットの中をまさぐり、何かを取り出して才人に渡した。

「これ食いな。ちょっとは腹の足しになるだろ」

 それはスニッカーズだった。こちらに来て初めて地球の食べ物を見た才人は喜んだ。

「ありがとう。助かったよ」

「同郷だしな。困ったらなんとかだ」

 勾導はそう言って食堂の外に向かう。すでにタバサは食事を終えたため、入り口で勾導を待っていた。

「オレのご主人様が待ってら。また後でな、才人」

「ああ」

 勾導の後姿を見ながら、才人は不思議な安心感に包まれていた。その一方で、目の前で肩をプルプル震わせている少女が八つ当たりをしてくるんじゃないのか、と気が気でもなかったが。

 

 勾導とタバサは、教室を目指して廊下を歩いている。さきほどの騒ぎで何か言われるかと思ったが、タバサは何も言わなかった。

「彼、あなたの友達?」 タバサが尋ねる。

「えっ、初めて会ったんだが」 勾導が答える。

「親しそうに話していた」 タバサは顔を俯かせる。

「まぁ、同郷だったから。アイツも」 そう言いながら、勾導はタバサを見る。

「チキュウの?」 タバサは顔を勾導に向けた。

「うん」

「そう」

 そんな会話を交わしていると、教室の扉の前まで来た。

 

 魔法学院の教室は全体が石造りで、階段状の机が並び、階下に教師の教卓が置かれているという構成だった。そのレイアウトに勾導は資格試験の試験官のバイトで行った大学の教室のようだと思った。

 勾導とタバサが中に入った時、先に教室に入っていた生徒達がいくらかが振り向く。そして小さく笑いだす。その光景に勾導はイラっときた。今笑ったヤツの顔はだいたい覚えた。とりあえず、近い席のヤツから順番にとっちめてやる。そう思い一歩前に出る。

「椅子に座って」

 タバサは勾導を止めるように歩を進めた。出足を潰された勾導は舌打ちをして、タバサの隣の椅子に座る。少し前の席にはキュルケがいて、タバサ達に気付くと手を振った。周りに多くの男子生徒を侍らせて女王蜂のように振舞っている。

 皆、側に使い魔を連れていた。主人の命令を守っているのか彼らはおとなしくしている。

 最後に教室の中に入ったのは才人と主人のルイズだった。才人の頬は少し腫れあがっており、先ほどの事でルイズに折檻されたのが容易に想像できた。先ほどと同じようにクスクスと笑い声が聞こえ、勾導は再び舌打ちをした。

 教卓の側の扉が開き、ふくよかな体格の中年の女性が入ってきた。紫色のローブを着て、お揃いの色の帽子を被っている。彼女は教室を見渡すと、満足そうに頷いて言った。

「皆さん。春の使い魔召喚の儀は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちの顔を見るのがとても楽しみなのですよ」

 シュヴルーズは勾導と才人を見た。

「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエールにミス・タバサ」

 その言葉が起爆点となって教室が笑い声に包まれた。

「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」

 ルイズは立ちあがり、怒鳴るように反論した。

「ちがうわ! ちゃんと召喚したら、こいつが来ちゃったのよ! それにあの子も平民を召喚したじゃないの!」

「嘘つくな! お前に召喚なんてできるわけないだろ!!」

「タバサは召喚した時お前みたいに爆発しなかったぞ! お前と違って! つまり成功したんだよ!!」

 小太り気味の少年の発言で、教室の笑い声はより膨張した。それに対してルイズもいろいろと反論するが、周囲は少年の味方をして反論の声は宙ぶらりんになる。彼女は悔しさから拳を握り締める。才人はそのやり取りを黙って聞くことしかできなかった。

「おい、いい加減にせぇや」

 ドスの効いた低い声が小太りの少年の背後からした。教室は静まりかえる。

小太りの少年が振り返ると、そこに勾導がいた。勾導はおもむろに小太りの胸倉を掴む。

「な、なにをするんだ! この平民が!」

「今時の小学生でもこんなレベルの低いいじめはやんねぇぞ。つぅかよ、テメェらあんなガキをいじめて楽しいか?」

 勾導は別に正義感からこのような行動に出たわけではない。先ほど自分に向けられた嘲笑に対する報復を考えていたところ、うまい具合に餌が転がり込んできた。少しでも自分のストレスを解消したかったからこの餌に食いつくことにしたのだ。この男はあくまでも自分のことを中心において行動したに過ぎなかった。

「は、離せ! 貴族にこんな事をしてただで済むと……」

「あ?」

 勾導の発する殺意の混じった威圧に押され、哀れにも小太りはそれ以上何も言わなかった。言えなかった。

 ふん、と小太りのシャツを離し勾導は元の位置に戻る。そして、未だ呆然としているシュヴルーズに言う。

「おばちゃん、授業とっとと始めたら? 静かになったしよ。あっ、そうそう」

 勾導は一息置いて、

 

「オレはタバサの使い魔の七瀬勾導です。好きなアイドルは『シャイ娘。』のナッチで、好きなAV女優は堤○や○です。召喚される前は学生やってましたんで魔法についての知識も学びたいと思ってます。よろしくお願いします」

 そう大声で言ってお辞儀をした。

 

「あ、はいっ。よろしくお願いしますね、ミス・タバサの使い魔さん。で、では授業を始めます」

 いきなり態度を180度変えて急に自己紹介をする勾導にペースを完全に奪われたシュヴルーズだったが、なんとか授業を開始した。

 ルイズは、タバサのもとに帰って行った勾導を見つめた。貴族にタメ口を聞いたり、自分に向かってとんでもない変態暴言(ルイズ視点で)を言ったりと使い魔として召喚された自覚のない男が自分を助けてくれた。その事に対し、ルイズの心はほんの少しだが軽くなり、爽やかな気持ちで授業を受ける気力が湧き上がってきた。 勾導の真意は知らないほうがよいが。

 

 

 授業はまず、1年生の復習から始まったので魔法を詳しく知らない勾導にも理解しやすかった。

 曰く、魔法は『火』『風』『土』『水』の四系統があり、また昔は『虚無』という系統が存在した。

 その時思わず「『雲』とか『山』とか『海』の系統はないの?」と聞いたが、タバサに「ない」と一蹴された。

 曰く、優秀なメイジほど、多くの系統を足せることができ、最大4つ足せることができる。自分の主人であるタバサと友人のキュルケは3つまで足せる『トライアングル』メイジであること。

 曰く、メイジは得意な魔法から2つ名が付けられ、タバサは『雪風』、キュルケは『微熱』、ついでにルイズは『ゼロ』と呼ばれること。

 また、『土』の系統は建築や製鉄に重要な系統で、日々の生活に対して密接に関わってくる事を知った。

 (ゲームの世界の魔法というより、昨日の夜聞いた通り科学や工業の代用品って感じだな。この世界の魔法は)

 シュヴルーズの講義を頭に入れながら勾導はハルケギニアの魔法をそう結論づけた。

 と、シュヴルーズが杖を振り、呪文を唱えた。すると、机の上のあった小石が光り、輝きが消えるとそれは金属に変わっていた。

「ゴ、ゴールドですか!? ミス・シュヴルーズ!」

 キュルケが素っ頓狂な声で尋ねた。

 (バーカ。真鍮だろ、どうみても)

 声に出さずに呆れる一方で、勾導は一つの事実に気付いた。

 ある物質に呪文を唱えて杖を振るだけで、原子やら元素やら質量だのを無視して全く別の物質に変化させるという、科学者が聞いたらブチ切れ確実な事を何の苦もなくやってのけるという事に。

 

 ――どっかのバカが何も知らずに核物質や放射性物質を作ったりしてんじゃね?

 

 物騒な事が勾導の頭の中によぎっていると、ルイズがシュヴルーズに呼ばれていた。どうやら、壇上でシュヴルーズがやった事を実演しろとの事のようだ。だが、周りの様子がおかしい。皆が一様にルイズに魔法をやらせないよう、シュヴルーズに懇願している。普段は自信満々のキュルケが困った顔をしながら「危険です」と言い、周囲もそれに同意する。

 勾導はどういうことか聞こうとタバサを見るが、既に机の下に潜って避難をしていた。

「あなたも」

 タバサに促され、勾導も同じ机の下に潜りこんだ。すると自分の顔の前にタバサの顔が来た。海のように青い瞳に雪のように白い肌。相変わらず無表情だが、本当にかわいらしく、愛らしい。

 オレ、ロリが好きなわけじゃねぇぞ。断じて。いや、こっち来る前に創刊したばかりの○ミックLOとかいうエロマンガ買ったけど! 5回くらい使ったけど! などと勾導は無意味な自己弁護をする。

 

 ルイズがなにか呪文を唱え、杖を振り下ろした瞬間、小石は机ごと爆発し巻き起こった爆風はルイズとシュヴルーズに襲い掛かり、二人は黒板に叩きつけられる。

 爆発という事実によって引き起こされた『一次被害』はこの程度で終わった。問題はその後の『二次被害』だった。原因は『一年次にいなかったもの』。そう、召喚した使い魔たちだ。

 居眠りしていたサラマンダーのフレイムは爆発に驚き、炎を吐きまくる。その他の使い魔たちも皆して暴れまわったために教室の窓ガラスは割れ、机や椅子も破壊された。

 周囲がある程度落ち着いたのを確認して、勾導は机から顔を出す。教室は爆撃を食らったように荒れ果てていた。悲鳴と怒声の混じる恐慌状態の中、誰かが喚く。

「だから言っただろっ! ルイズに魔法をやらせちゃいけないって!!」

 非難の対象となったルイズは、服が所々破けてぼろぼろになった姿を恥じる様子もなく煤まみれの顔をハンカチで拭きながら人事のように言った。

「ちょっと失敗したみたいね」

 瞬間、生徒全員からの口撃を浴びることとなった。

「ちょっとじゃないだろ!! ゼロのルイズ!!」

「いつだって魔法の成功率、ゼロじゃないか!!」

「お前、今の教室の状況を見てよくそんな態度とれるな!!」

「進級テスト合格したからどうとか関係ぇねぇよ! とっとと学院辞めちまえ!!」

 叫弾会の場となった教室の端で、勾導と才人はルイズの二つ名の意味を知った。

 

 

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