Snow wind & Temerity heart VS The world   作:Phidias

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 新たに特撮タグを追加しました。理由は読んでみての通りです。
 
 ※プロレス技は大変危険です。良い子も悪いクソガキも決して真似しないで下さい。
  Please, Don't Try This At Home.



6:Fight With Dream(後編)

 ヴェストリの広場に集まる人々は信じられないものを見たという表情を、誰も彼もが浮かべていた。

 なにしろ、さっきまでボロボロにのされ死にそうになっていた平民が抵抗したと思った瞬間、メイジのゴーレムを破壊したのだ。それも一撃のエルボーで。

 一撃。そう、一撃だ。

「ま、あのくらいなら30%エルボーで十分かな……」

 広場を驚きに包みこんだ張本人は、そんな事を言いながら右腕を回す一方、自身も驚いていた。もちろん、周りに悟らせないように。

(ぶっちゃけ、あの人形を壊す気は『なかった』んだぞ……。無理矢理、別の力が『上乗せ』されたみたいだったぞ、さっきの一撃は)

 勾導はその原因を探る。思い当たる体の変化はすぐに気付いた。

(背中が、熱い。それに、なんか赤く光ってる)

 その不可思議な現象の原因に、すぐに思い当たる。

(あの背中のルーンのせいか……。才人が剣握ったらムチャクチャ強くなったみたいにオレにもなにか起きてんのかよ……)

 完全に、とは言えないが体に纏わりついていた鈍い痛みが和らいでいる。無痛の状態よりベストなパフォーマンスを十分発揮できる絶妙な痛みだ。ありがたい話だと思う。

 だが一方、このルーンを『邪魔なもの』だと唾棄している自分が存在することを勾導は感じていた。これはオレの勝負だ。オレのリングだ。いらない助太刀が乱入してきたものだ。余計なお世話だと言ってやりたい。

 ふと、頭の中に厨房でタバサ達に言った言葉を思い出した。

 

 ”利用できるものは利用し尽くして闘う有史始まって以来、『無敵』で『最高』の総合芸術バトルエンターテイメント、それがプロレス”

 

 ということを。

 勾導は理解し笑った。いいぜ、だったら徹底的に利用してやる。振り回されるだけの『もらいものの力』で終わらせてやらねぇ。うまく制御し、『オレだけの力』にしてみせる。

 なにしろ『あいつ』がオレにくれた力だからな。

 そう思った瞬間、ルーンの煌めきが増す。

 ド・ロレーヌと取り巻き連中を見る。皆、何が起きたか理解出来ていない、呆けた顔をしていた。

(攻守が入れ替わったくらいで、そんな顔するんじゃねーよ)

 勾導の赤い瞳が獲物をロックする。

「さぁ、いこうかい」

 自分だけの闘いをするために勾導は歩き出した。

 

 

 今日何度目だろうか。ド・ロレーヌ達は最初、何が起きたのか理解できなかった。そして、理解した時は混乱し、無理矢理平静を取り戻そうとした。偶然だ。偶然に決まっている。それに、自分たちは5人だ。戦いは数だ。圧倒的に優位なのは自分たちじゃないか。

 取り巻きの一人が杖を振るう。杖に炎が纏わりついた。

「なに、ただのまぐれだっ。消えろ、死にぞこな……」

 火のメイジが魔法を放つ前に勾導は、そいつに向かって突撃した。

 ルーンの力だろう、更に強化された圧倒的なダッシュ力で一気に距離を詰め、両足を折り畳んで一気に跳ぶ。あっという間に火メイジの顔の位置に勾導のハイネックのキャンバス・オールスターがやってくる。まだ余力を残してあり、本当はもっと高く跳べるのかもしれない。そう思わさせるほどの跳躍だった。

「だりゃあッッ!!」

 勾導は体を大地と平行にして、メイジの顔面を勢いよく両の足裏で蹴り飛ばした。

 

 ドロップキック。

 

 ヘッドロック、ボディスラムと並んでプロレスラーを志す者が最初に先輩レスラー達にシゴキと一緒に叩き込まれる基本技の一つであり、若手(グリーンボーイ)から熟練者(ベテラン)まで、数多くの選手が愛用する基本的な打撃技である。また、上手い選手が使えば、それだけで相手を倒す事のできる奥の深い技だ。

 ドロップキックを受けたメイジは後方に吹き飛び、ダウンする。靴底の跡がつくほどの強さで顔面を蹴られたため、鼻が折れて大量の鼻血が噴き出た。

 一方の勾導はインパクト直後に空中でバック宙をして体勢を整え着地すると、すぐさま倒れたメイジを追撃した。

 彼の足の方から側転し、生まれた勢いを殺さずニードロップを背中にかます。脊椎を蹴られてうめき声を上げたのを確認した勾導は、馬乗りで跨って一気に上半身を反り上げた。キャメルクラッチだ。

 骨が軋む音が聞こえた直後、メイジは口から泡を吹いて失神した。

 広場にいた誰もが沈黙する。そして確信する。これは現実だと。誰かが唾を飲み込む音が聞こえる。

「まず1人」

 勾導の言葉にド・ロレーヌは反応する。爪が肉に食い込むほど強く手を握りしめ、大声で取り巻きに命令した。

「う、うるさい! お前ら、二人がかりでヤツを止めろォォォォ!!」

 命令を受けた2人の取り巻きは左右に回り込み、魔法を放ったが勾導はあっさりと避け、そのうちの1人に飛びつき首に両足を絡める。そして、それを支点にしてグルグルと人工衛星のように回転して勢いがつくと一気に体を捻り、その反動で投げ飛ばした。

 投げたメイジに一瞥もくれず、もう1人の取り巻きの頭を両手で抱え込むようにして抱きつき、体重を後ろに掛けると同時に両足の裏を当てていた相手の腹を蹴り上げて巴投げの要領で投げ捨てた。投げられた取り巻きは先にダウンしていたもう1人の上に落下する。重なりあうように倒れた取り巻きは急にできた影に気付き空を見る。そこには、傷まみれの鬼が自分たちを見ていた。2人は恐慌状態になるが、鬼はそれを意に返さず、無言で顎をエルボーで砕いた。

 回転式フライング・ヘッドシザーズホイップとモンキーフリップの連投を見た生徒達はどう反応していいのか分からなかった。平民がメイジと渡りあっている。その時点で信じられないのに、その闘い方があまりに華麗で美しく、力強い。とても先ほどまでと同じ決闘とは思えない。称えるべきなのか、貶すべきなのか? 自分達はこの時どうすればいいのか?

 彼らの様子をちらっと見て、再び勾導はド・ロレーヌに視線を向けた。勿論、にやりと微笑んで。

「あと3人だな」

 そう呟き終わるや否や、最初に襲いかかってきた土メイジが雄たけびを上げながら勾導に『ストーン・ブレット』を放った。それが肉を叩く音を上げながら何発も勾導に直撃する。観客たちは今度こそ終わったと実感した。だが、

「効かねぇよ」

 石弾は勾導の体を撃ち抜かず、ポロポロと崩れながら地面に落ちていった。その姿を見た観客はあっと声を上げた。

 勾導の背中のルーンが紫色に光り、瞳も同じ色で輝く。そして、彼の上半身が1段階パンプアップされ、その筋肉が鎧のように盛り上がっていた。

 その姿を見た土メイジは腰を抜かす。元の状態に戻った勾導は、一気にソイツに近付くと無理矢理立たせ、背後に回りこみ彼の胴を両腕でクラッチした。

「えっ? えっ? 何? 待って……」

「アゴ引けやぁぁぁぁッッッ!!」

 彼は、その忠告に嫌な予感を覚え手足をバタつかせて抵抗するが勾導のクラッチは外れない。かえって太い腕が万力のように腹に食い込んでいった。

「でぃッ、リィヤアアアアッッッッ!!!」

 奇声をあげて勾導はメイジの体を持ち上げて一気に後方へ急角度で反り投げる。投げられる側であるメイジは、自分が見る景色が物凄いスピードで一回転して地面が上になるという今まで経験した事のない体験を味わいながら、自らの後頭部を地面に叩きつけられた。

 

 星の数ほどある多くの技の中で、『芸術品』と称えられるプロレス技がある。

 それがジャーマンスープレックスである。

 現在は天に還った『プロレスの神様』と称えられるドイツ人レスラーによって開発され、その他の大物レスラー達も愛用し、現在も多くのレスラー達がフェイバリットホールドに使っている投げ技である。

 この技は、かける人間の筋肉量は勿論、それ以上にボディバランスと柔軟性、そして何より(ブリッジ)の強さが必要となる。

 相手の体重を支えつつ後方に投げ飛ばすのだ。腰が強くないと逆に掛ける側が潰れてしまう。また、ブリッジが高いほど、相手は受身の優劣関係なくえげつない角度で地に叩きつけられる。

 素晴らしいブリッジで決めたジャーマンは『人間橋』とも称され観客に戦いの行方を忘れさせ、美しいと思わせる。そういった事から、この技は『芸術品』と称えられている。

 勾導のブリッジは本業のレスラーたちに負けないほどに高く、美しかった。

 支える足は安定しづらい爪先立ちになっているのに、決して崩れない見事な『肉の橋』が築かれた。

 

 後頭部をしこたま打ち付けたメイジは当然のことだが、失神した。そいつが痙攣しているのを確認すると、勾導はブリッジを解き立ち上がる。そして言った。

「あと2人」

 その言葉を聞いた最後の取り巻きは『フライ』を唱えて空を飛んで逃げ出した。だが、勾導は逃がす気はさらさら無い。

「逃げんじゃねぇよッ!」

 そう叫んで、あるものを拾う。先ほど砕いたゴーレムの破片だ。それを持ち宙に逃げだすメイジに照準を合わせる。

 するとどうだ。勾導のルーンと瞳が今度は緑色に光った。目と耳の周辺の神経脈がわずかに浮きあがり、感覚が研ぎ澄まされる。その状態に不思議な浮遊感を感じたが、勾導は集中する。外すという感覚は全く沸かなかった。

「ピッチャー北○○、背番号20番ッッ!!」

 そう叫びながら投げた破片は、精密機械のようなコントロールによって取り巻きの眉間に直撃し、そいつは真っ逆さまに墜落する。

 未だに静まり返る広場に勾導が笑みを見せつけながら、最後に残ったド・ロレーヌに言った。

「あとはテメーだけだ、クソガキ」

 勾導の言葉が火種となり、広場が一気に大爆発した。

 

「スゲェぞ、あの平民!!」

「踊るように次々とメイジを倒していくなんて……。まるでお芝居の主役みたい!」

「おい平民っ。どう言えば分かんないけど、とにかくかっこいいぞ!!」

 今まで黙りこくっていた観衆たちが、大歓声で勾導を応援する姿にド・ロレーヌはひどく狼狽した。

「き、君達っ。僕はメイジだぞ! 貴族なんだぞっ! どうして、あんな平民を応援するんだっ!?」

「はぁ? そんなのお前らの戦い方が汚いからに決まってるだろ!」

「あの一人で頑張ってる平民を応援するのが当然だろ、普通はっ!」

「お前こそ恥を知れよ、ヴィリエ!」

「なんだって……」

「客ってのは正直なモンなんだよ」

 ド・ロレーヌ達の会話に、勾導が割り込んだ。

「バカ正直に魔法を乱発するだけ。それの繰り返しばかり見てりゃ客もマンネリと感じるだろうが。と、言うより客に当んな。その時点で演者(プレイヤー)失格だ」

「……っ!! き、貴様ぁ!! 決闘をなんだと思っているんだ!? 貴族の名誉と偉大さを満天下に知らしめる誇りに満ちたこの舞台をっっ!!」

 

興行(ショー)だろ。つーか、制裁じゃなかったんかよ」

 

 静かに、はっきりと勾導は言い切った。

 その言葉に広場の全てが凍りつく。その様子を鼻で笑い、勾導は続けた。

「舞台があり、客がいる。客は舞台上の出し物に一喜一憂する。スゲェ内容なら一緒になって歓声をあげ、つまんねぇ内容だと情け無用のブーイングを投げつける。そりゃそうだ。テメェの貴重な時間を削ってオレ達を観にきたんだからよ。いいか、エンタメってのは『客に非日常、非現実感を与える』事が大前提だ。金や時間を消費して来てくれた客に、いつもの風景を見せたらつまんねぇだろうが。……もう一度言うぜ。舞台があり、客がいて、そこで出し物をする。その時点で、オリンピックも、ワールドカップも、プロレスも、総格も、アイドルの口パクコンサートも全部一緒だ」

 

 ド・ロレーヌは、砕けてしまいそうになるほど奥歯を食いしばっていた。名家に生まれ、典型的な貴族教育を受けてきた彼にとって決闘とは貴族が自らの名誉と誇りが最も輝く瞬間であった。確かに決闘ではなく私刑をしようとしたのは彼自身だ。だが、彼は子供だった。私刑をした結果どうなるか分からない程どうしようもない餓鬼だった。不思議なことだが、汚い真似をし続けたこの男は自らが窮地に陥ったその時、『貴族の名誉』とその象徴である『決闘』にしがみ付いていた。それが彼の心の蜘蛛の糸だった。

 だが、それを目の前に立つ平民はショーと言い捨てた。

 

 侮辱だ。

 侮辱以外の何物でもない。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 絶叫し、杖を振った。『ウインド・ブレイク』。自分が最も得意とする魔法。それを目の前の平民にぶつける。

 それに対し勾導は、跳んだ。背中が青く輝くと同時に、その足はしなやかさが増す。その場で3メートルも跳び、『ウインド・ブレイク』をかわす。そして、その勢いを活かし高所からまっすぐド・ロレーヌを捉えた。

 空中に足場があるように右足を軸に体を左に回転して勢いをつけて、そのまま半身になったところで今度は軸を右足に切り替え、勢いをさらに増すように回転する。

 離れた位置で見ているタバサの瞳には勾導を中心に旋風が巻き起こり、右腕の肘サポーターが光り輝いているように映った。

 勝利を呼び込むが為に、吼えた。

「40パーセントォォォ! ローリングゥゥゥ! エルボォォォォォォッッッッッ!!」

 迫る右肘にド・ロレーヌは不思議と冷静だった。2メートル。1メートル。自分の魂を刈り取る死神の鎌のようなそれが目前に来るが、恐れずにすさまじいスピードで新たな呪文を詠唱する。

 それは『エア・シールド』だった。ド・ロレーヌと勾導の間に不可視の壁が生まれ、勾導の攻撃を防いだ。衝撃の余波で生まれた風圧が体を襲い、後ろに押し下げようとするが勾導は肘を前に出し続ける。

 前へ、前へ。

 その意思に応えるように、背中のルーンが再び赤く輝く。右肘に力が流れる感覚が伝わってくる。

 一気に前へ。邪魔な目の前の壁をぶち破るために、その先にいるヤツをぶちのめすために力を込めた。

「いっけぇぇぇッッ!!」

 勢いを増した右肘は、『エア・シールド』を風船を割るかのようにぶち破った。

 その時に生じた衝撃音と爆風で片方の鼓膜が破れ、全身を鉄板で殴られるかのような衝撃が襲う。だが、勾導は止まらない。

 その勢いのまま、驚愕の表情で固まったド・ロレーヌの顔面を打ち抜く。ぶん殴られたド・ロレーヌは空気の抜けるような奇声を上げながら後方へ吹き飛んだ。

 着地した勾導は一息つく。ルーンはすでに光を無くし瞳も元に戻っていた。同時に再び痛みが襲いかかるが、そんな事を気にせずド・ロレーヌに向かって歩を進める。

 ド・ロレーヌは刺すような痛みと口の中に溜まった血の不快感で目覚めた。自分は何をしているのか。混濁する意識を整理していたところ、いきなり首を掴まれた。そして全てを理解する。

「や、やめてくれっ。も、もう許してくれっ。僕の負けだっ!」

 ド・ロレーヌの言葉に勾導は呆れた。あれだけ人を痛めつけておいてヤバくなったらそれかい、と。

(こんな中途半端な決着じゃ周りもそうだし、なによりオレが納得できねぇ)

 そんなことを思いながら、勾導はド・ロレーヌに血まみれに向かって大きく笑う。その笑顔にド・ロレーヌは心臓を掴まれたかのような想いをした。

「まだ終わりじゃねぇぞ。オレ、まだフィニッシュホールド出してないんだからなぁ」

 勾導はそう言いながら暴れるド・ロレーヌの頭を腋に抱え込み、そのまま一気に持ち上げる。ド・ロレーヌは自分が逆さまになっていることに気付き手足をバタつかせるが無意味なことだった。

 勾導が叫ぶ。

「ファルコンっ、アロォォォッッッ!!」

 前方開脚しながらジャンプをし、パイルドライバーの要領で広げた股の間に入れたド・ロレーヌの後頭部から背中を前方に鏃の形で叩きつける。ド・ロレーヌは後頭部に鈍い衝撃を感じた後、意識を空に飛ばした。

 完全にグロッキー状態になったド・ロレーヌを見た勾導はすかさず抑え込む。そのまま、勾導は広場全体に聞こえるように大声でカウントを始めた。

 

「ワンッ」

 

「ツゥッ」

 

「スリィッッ!!」

 

 スリーカウントを叫び終え、ホールドを外して立ち上がる。

 そして生徒達、何よりタバサに勝ち誇るように拳を天に突き上げた。

 広場が歓声で揺れ、生徒達が勾導に近付いてきた。

「平民がド・ロレーヌに勝ったぞ! それも素手でだ!」

「メイジを何人も相手した上でだぞ!」

「本当にすげぇよっ! ルイズの平民もすげぇけど、こいつも超すげぇよ!!」

 観衆たちの賞賛する言葉に勾導は再びポーズをとって応えている。今度は世界一格好いい失恋小僧のポーズだ。さりげなく両手を上下させてパイロも表現している。

 

 タバサは、ぼんやりとその様子を見つめていた。自分が勾導に頼まれた言葉を言った直後の展開が急すぎて、珍しく思考が追いつかなかった。隣ではキュルケが自分のことのように大騒ぎしている。

 一体、彼はなんなんだと思う。ルーンが光っていたため、その力が付与されたうえでの結果かもしれない。だが、それ以上に信じられなかったのは逆境に真正面から立ち向かうその精神力だった。でも、それでも…… と、自分の頭に何か温かく柔らかいものが触れる。上を見ると、勾導が自分の頭に手をのせていた。

「タバサ。約束どおり勝ったぞ」

 タバサは思わず、ハッと我に返る。そして、元の無表情を形作る。

「お、お疲れ様」

 だが焦ったためか、声が少しうわずってしまう。

「これが『プロレス』さ。……オレ、カッコよかっただろ?」

 胸を張る勾導にタバサは静かに答える。どこか厳しさが感じられる声色だった。

「……あなたの闘い方は危険すぎる。それに、あなたが戦ったのはただの学生」

 勾導は黙ってそれを聞く。

「軍人や近衛のような『本物』のメイジはド・ロレーヌのような甘さは無い。もし、あなたが彼らと戦ったなら、あなたはほんの数秒で殺される」

「どうしてだ?」

「『エア・カッター』であなたの足を切り落とすか、『アース・ハンド』で動けなくされる。他に『レビテーション』で宙に浮かされて地面に落下させられる」

「……それは、もしタバサがオレと闘うことになったらそうするって捉えていいか?」

 勾導はタバサにトーンを一つ落とした声色で尋ねる。

 タバサは一切躊躇わず頷いた。

「……そうかい」

 勾導はタバサから目を逸らす。なんと言ったらいいのか、返す言葉が見つからなかった。

 自分の目指す闘いが否定される。反論したかったが、言葉が見つからないジレンマにいらつく。

 そんな勾導の姿を見つめながら、タバサはかまわず続けた。

「あなたが元の世界でどれだけ強かったかは知らない。でも、ハルケギニアのメイジとの戦いを甘く見たらいつか大変なことになる。実際今だってそう」

 そう言って勾導の体を見た。至る所が腫れあがり、火傷で皮膚がひきつっている部分もある。風メイジの特性なのか、勾導の呼吸音がおかしいことにも気付いた。明らかに肋骨が折れたか、内臓にダメージを負っているに違いない。

「……お説教はここまで。医務室へ連れていく」

 少し怒ったような声色で、タバサは勾導を無理矢理医務室に引っ張っていった。

 

 

 勾導が観衆たちの声援にひとしきり応え、校舎に消えていくまでの顛末をひっそりと見つめていたものがいた。1人は『召喚の儀』に立ち会っていた頭髪が寂しい教師、コルベール。そして、もう1人はこのトリステイン魔法学院の院長オールド・オスマンだった。

 2人は学院本塔の最上階にある学院長室の壁に立てかけられた鏡を見つめていた。鏡にはヴェストリの広場の様子を映しており、オスマンが杖を振った瞬間鏡は真っ黒になった。

 最初に切り出したのはコルベールだった。

「オールド・オスマン」

「うむ……」

「あの平民、勝ってしまいましたが……。その、それも、素手で」

「うむ……」

「ミス・ヴァリエールが喚んだ使い魔の少年が『ガンダールヴ』だということにも驚きましたが、ミス・タバサが喚んだ少年にはそれ以上の衝撃を受けました。多少のアクシデントがあったとはいえ、あの決闘は全体的に……」

「あの平民が支配しておったの。あのボンクラどもの攻撃をわざと食らっていたのも予定通りの事なんじゃろ」

「はい……。わたしには信じられません。あれだけの攻撃の芯を合理的に外して無力化し、メイジ達を素手で打ち倒せる体術を確立させるなんて……」

「並のメイジの頭では一生思いつかんよ。あのボンクラども、最初から平民の掌の上で踊っていた事を知ったらきっと心が折れてしまうわい。ド・ロレーヌの小童は気付いておったようじゃがの。……本当にえげつなく、泥臭く、そして浮世離れした決闘じゃった」

「はい、私も心を奪われてしまいました」

 2人は戦いの内容を思い出すかのように目を閉じた。溜息をひとつついて、オスマンはコルベールに尋ねる。

「ところで、本当にどこにも記載されてなかったのかね、ミス・タバサの使い魔のルーンの詳細は」

 オスマンの問いに、額から流れる汗を拭きながらコルベールは答える。

「はい。『フェニアのライブラリー』にある使い魔関連の蔵書は全て調べたのですが、記載された書物はありませんでした……。伝説の使い魔である『ガンダールヴ』についてはあったのですが……」

「ううむ……」

 コルベールの言葉にオスマンは唸った。

「ところで、ミスタ・コルベール。ミス・タバサの使い魔のルーンを書いたメモを見せてくれないかの。使い魔の能力の詳細が分からなくても、名前は知っておかないといけないからの」

「は、はい。これです」

 コルベールは、勾導のルーンが記載されたメモをオスマンに渡す。受け取ったオスマンはそれに目を通し、ゆっくりと、はっきりと聞こえるように言った。

「『ギャラルホルン』……」

「『ギャラルホルン』! それがあのルーンの名前ですか! 新発見ですっ、では、急いで王宮に報告を……」

「お主はさっき言われたことをもう忘れたのか。『ガンダールヴ』同様、他言無用じゃ」

「どうしてですか? 新たな使い魔のルーンの発見なのですよ!」

「まず、下手に王宮の物好きどもを刺激した結果『ガンダールヴ』の事も嗅ぎ付かれる可能性もある。第2に、ミスタ・コルベール。ミス・タバサはどこの生まれか知っているかね?」

「ガリア王国ですが……」

「そう、自国の生徒が正体不明のルーンの使い魔を召喚したと知ると、その情報と詳細を手に入れんとこの学院にありとあらゆる手段で介入しようとするわい。他の生徒たちに危害が加わるばかりか、下手をすると『ガンダールヴ』のことすら、かの国に知られてしまう可能性があるからじゃ。……あの国はこの国とは比較にならん程王宮内で陰謀策謀が渦巻いておる国じゃ。下手をすると本当に戦争の火種になりかねん」

「戦争……、ですか」

「先の件と同じくこの件も私が預かる。もう一度言うぞい。他言は無用じゃ」

「は、はい! かしこまりました!」

 コルベールが部屋から出ていくのを確認したのち、オスマンはくるりと回って窓際に向かい、感慨深げに呟く。

「『ギャラルホルン』、か……。いったい、何のために生まれて、何故歴史から消え去っていたのかの……」

 ふと、問題のルーンを背負うことになった少年の顔をオスマンは思い浮かべる。そして、懐かしい何かを思い出したかのようにハッとなるが、否定するように首を振った。

 

 

 勾導は医務室で治療を受けた後、中庭のベンチに1人座っていた。頭には包帯が巻かれており、同様に学生服の間からも、それが見えて痛々しい様相だ。治療に使われた秘薬の効果なのか、決闘後に襲いかかった苦痛はすでに無い。それどころか、比較的浅い傷はすでに塞がり始めていた。治療にあたった水メイジが『体の水の流れがすごい速さで元に戻ろうとしている』と驚いてたので、どうやら秘薬だけの効果ではないようだ。そのことで思い当たることは1つ。これしかない。

(絶対背中のルーンのせいだ)

 そう思い、先の決闘を思い出す。

 

 赤に光ると力は勿論のこと、前に行こうとするラッシュ力が上がった。

 紫に輝くと身の守りが強固になった。

 緑に煌くと視力や聴力をはじめとした五感が鋭敏になった。

 青に閃くと素早さと跳躍力が増した。

 

(……色が変わったら能力が変わるって最近のウルトラマンや仮面ライダーじゃねぇか。つーか、これ『クウガ』まんまじゃねーか……。オレ、タバサとキスした時アマダムでも埋め込まれたのかよ……)

 勾導は頭を抱える。当然だ。自分の体の中で正体不明の何かが起こっている。それも自分が知っている特撮ヒーローと似た力を手に入れたうえ、傷の自然治癒力が向上するという異常事態だ。

 決闘の最中は『オレだけの力』にしてやると息巻いていたが、頭から決闘の熱が冷めていくと次第に不安が増してきた。

 勾導は今まで、それなりにハードな修羅場を潜ってきた自負がある。

 

 中学の頃、2メートルの大男に高角度のスープレックスをされて脳天から叩きつけられた。

 高校1年の時、親分面のごつい男に即席火炎放射器を浴びせられて火だるまになった。

 高校2年の時、アメリカに留学した際キレたらヤバい黒人と一緒に20メートルの高さから地面に向かってダイブした。

 今年の春には自分の住んでる町を騒がせた連続殺人犯と闘い腹にナイフを刺されて死にかけた。

 

 他にも、色々と命がけの事態に陥ったことがあった。体に刻まれた数多の傷がその語り部だ。

 ケンカやそれに付随した事態は『自分の力』と『精神力』だけで立ち向かってきた。

 だからこそ、この『もらいものの力』にどう接すればいいか分からなかった。

 それに、考えていたことはそれだけじゃない。タバサに言ったこととその反応についてだった。

 あの時、タバサは確かに『もし自分と戦うことになったら、弱点を突いてくるのか』という問いに躊躇わず頷いた。それは即ち、『自分を殺す覚悟』があるということを暗に伝えていた。この世界は治安が悪いと言っていた。ひょっとしたらすでに『一線』を超えたことがあるのかもしれない。

 出会って1日しか経っていないこともあるが、勾導はタバサのことを何も知らないに気付いた。なんであの子は無表情でいようとするのか。なんであの子はその心を二つ名と同じ『雪風』に覆いたがるのか。

(キュルケに相談してみようかな。ルーンの事は才人が動けるようになったら聞くとして)

 

 そんな事を考えていると、いつの間にか空が暗くなり始めた。傷はまだ疼くが動くのには問題はない。厨房の手伝いでもするかとベンチから立ち上がったその時、中庭の隅から何か声が聞こえてきた。

「ああ、ヴェルダンデ。今の僕の心を癒してくれるのは君だけだよ」

 気障ったらしい口調の言葉にモグモグという相槌のような鳴き声がした。

「モンモランシーが僕の言葉を聞いてくれないよ……。ケティとは何もしていないのに……」

 気になって近付いた勾導が見たのは、茶色の大きな塊に話しかける金髪の少年だった。

「……お前、なにやってんだよ」

 一瞬関わるのを避けるべきかと思ったが、思わず声をかけてしまった。えっ、という声と共に少年は勾導を見た。今日の騒動の原因の一人であるギーシュ・ド・グラモンだった。

「君は、タバサの使い魔の平民くん」

「七瀬勾導だ。いちいち平民平民言うな。で、なんだ。それは?」

 勾導は茶色の塊を指差す。毛むくじゃらだが、目はつぶらで愛らしい。

「ぼくの使い魔であるジャイアントモールのヴェルダンデさ」

「ベルダンディー? なんか願いを1つだけ叶えてくれんの?」

「君は何を言ってるのかね……」

 勾導のボケをギーシュは乾いた顔で返す。勾導はそれを無視してヴェルダンデの鼻先に手を当てる。

「モールってことはモグラか。こんなデカいモグラがウジャウジャいたら地盤沈下起きまくりじゃねぇの?」

「戦争で敵陣地を沈下させるために大量に投入したことがあるみたいだけどね。あっ、ヴェルダンデ。君にそんな危険なことはさせないよ」

「ふーん。で、あんたはなにやってんだ? えーと、ミスタ……」

「ギーシュ・ド・グラモン。それがぼくの名前さ。何って、モンモランシーの事でヴェルダンデに慰めてもらいたくてね」

「モンモランシー? 誰だそれ」

 勾導の質問にギーシュはモンモランシーという自分の彼女との馴れ初めやデートの事、そして今回の騒ぎの原因となった別の女の子とのデートの話など色々と頼んでもないのに話してきた。それを聞く羽目になった勾導は心底後悔した。

 

(あの時、マジで話しかけるんじゃなかったっ! オレとは住む世界が違いすぎる! つーかそんな話はFMでやる若いヤツ向けのワイド番組にメール送ってやりやがれっ!)

 

 勾導はこの世に生まれ落ちて18年、異性と付き合ったことがない。当然だ。顔は美形ではないし、背も低い。おまけにオタクだし。

 おまけに残念な発想力と実行力。文化祭の出し物で、『モテたい、ヤリたい』という理由のみでマ○ックミ○ー号を作ったこともある。無論、乗り込む女はいなかったが。

 更に、前述のようにいろいろと騒ぎを起こして警察のお世話にもなっている。生活安全課の刑事とは顔なじみだ。悪い意味で面が割られているため、先の件の事もあって女の子は近付かない。

 そんな残念高校生日本代表である勾導はギーシュの話が耳に入るたびにイラついてきた。人が自分の体の事と同居人の事で悩んでるのに、なんで他人の恋バナを聞かなくちゃいけないんだ、罰ゲームかと思う。

 そんな勾導の強張った表情を見て、ギーシュはピンときた。そして言う。

「きみのその顔。ひょっとして今まで女の子と付き合ったことがないのかね?」

「あっ、あるわいっ! 付き合ったことくらいあるわっ!!」

 0.2秒のスピードで勾導は嘘をついた。その慌てぶりにギーシュはニヤニヤと笑いながらさらに突っ込む。

「嘘はいけないぜ、きみ。正直に言いなよ」

「う、嘘ついてねーよ。こっち来る前はモテモテだったっつーの」

「ふーん。じゃあ何人の女の子と付き合ったんだい?」

「……ざっと20人」

 無論、プレイしたギャルゲーとエロゲーの攻略したヒロインの数だ。実数よりも少なめに申告した。

「……嘘つくなら、もっとマシな嘘をつきたまえよ」

 どう考えても嘘臭い発言にギーシュは呆れる。それでも、勾導は静かに言う。無論嘘を。

「じゃあ、オレの発言が仮に嘘だったとしよう」

 さらに続ける。

「てめぇ、女とヤッたことはねぇだろ!? オレはあるぞ!!」

 勾導の大ボラ爆弾にギーシュは驚愕した。

「ヤ、ヤるってなんだい……。ま、まさか……」

「男と女が一組いりゃヤること一つしかねーだろーが」

「いや、う、嘘だ、絶対嘘だ……」

「嘘かどうか、いろいろ教えてやるよ」

 勾導はギーシュにエロトークをまくし立てた。すべて、AVやエロゲー、果てはエロ漫画から得た知識だった。日本の学生連中に話したら確実に寒く、憐みの籠った目で見られる内容だったが、ここはハルケギニア。それも貴族の学校という閉鎖空間だ。勿論、そういったことを経験したヤツはいるだろうが、大半はそういったことに興味があっても『じゃあどうしたらいいのか』という知識が乏しい連中だった。 特に、このギーシュは普段は気障な言葉で女子と付き合っていたが、『そういったことは本命の女の子としたい』という考えを持っていたため、そういった知識は余り備えていなかった。そのため、勾導の話に引き込まれていく。なんだ、この男は。なんで女の子の体や性行為にそんなに詳しいのだ。ひょっとして本当に嘘じゃないのか。この男はぼくより何歩も先を言っているのか。様々な思いがギーシュの中でうごめく。ほぼ無菌状態の人間が世界に冠する現代日本のエロ文化という剛拳を叩きつけられているのだ。ギーシュは勾導をいつの間にか羨望の瞳で見ていた。

「……最後にいいことを教えてやる。人体の急所と性感帯の位置は同じだ。ダメージを与えるように快感(ダメージ)を与えろ!」

 そう言って勾導はエロトークを締めた。すでにギーシュはその内容に圧倒されており、

(この人はエロの始祖さまだっ!!)

 そんなことを思うほど、脳がやられてしまっていた。

 

 

 タバサは自室のベッドの上で読書をしていた。だが、読んでも読んでも内容が頭の中に入らない。原因は分かっていた。

 『もし自分と戦うことになったら、弱点を突いてくるのか』 勾導の問いかけに頷いたことが頭に残っていた。どうして彼はそんな事を聞いてきたのだろう。どうして自分は頷いてしまったのだろう。あの時は勾導を戒めるつもりで言ったが、本当にそういう事態に陥った際に自分はそれが出来るのか。すなわち自分の使い魔を殺す事が出来るのかということだった。

 医務室にいる間も、2人は会話をしなかった。そのことも胸に残って、思考が底無し沼に沈んでいく。

 もうすぐ夕食だ。気分転換をしよう。そう思って外出しようとしたその時だった。

 バサバサと窓の方から羽音が聞こえてきた。タバサは窓を見る。そこには灰色のフクロウがいた。足には小さな丸い筒が付けられており、タバサはそこから白い紙を取り出した。手紙のようだった。それを読み終えたタバサは一言だけ呟いた。

「準備しないと」

 

 

 ところ変わって中庭では、勾導とギーシュが対峙していた。決闘をしている様子ではない。

 乗り気ではない表情のギーシュが諭すように言う。

「さっきも言ったけど、君は決闘でボロボロじゃないか。今日はもう止めた方がいいよ」

 対する勾導は真剣な表情でギーシュを見ていた。すでに何かされていたのか、学ランは所々汚れていた。

「もうある程度は治ってんだよ。いいからさっさと『アース・ハンド』を仕掛けろ」

「さっきは『レビテーション』で浮かされて思いっきり落ちたのに……。もう知らないよ!」

 ギーシュはやけくそ気味に杖を振った。すると勾導の足元から土でできた腕が生えてきて、蔓のように勾導の足に絡みつく。

 勾導は抜け出すために足に力を入れる。ボロボロと土の腕が崩れていくが、崩れたそれのかわりに新しい腕が勾導の足を捕えていった。

「チィっ」

 イラつきながら土腕にエルボーを叩きこむ。崩れた腕には目もくれず、次々と形成されていく腕に肘を入れて破壊していく。全ての土腕を破壊するのに数分かかってしまった。この結果に勾導はイラつきに満ちた舌打ちをする。

 もし実戦ならこの状態になった自分は魔法の蜂の巣になっている。

 つまり、自分は死んでいる。

 最初にかけられた『レビテーション』にも一切対応ができず空中をジタバタすることしかできなかった。

 あまり当てにはしていなかったが、ルーンはまったく光らなかった。すなわち、発動条件も未だわからない。

 もし、あの決闘でこれらの魔法が使われていたなら。そう考えたら背中に冷たいものが流れた。

 そして、その身を持って自覚した。

『メイジを舐めてはいけない』

 その事実に。勾導は無言で拳を地面に叩きつけた。

「君、大丈夫かい?」

 ギーシュが勾導に近付いてきた。精神力をそれなりに使ったのか、額から汗が流れていた。

「ああ、あんがとな。付き合ってくれて」

 勾導は感謝を伝えながらながら学ランについた砂を払う。

「これくらい大丈夫だよ。君には助けてもらったからね」

「昼間の事か? あれはオレがあの野郎がムカついたからケンカ売っただけだ」

「それでも、だよ。コードーだっけ? 君はとっても強いんだね。平民なのにたくさんのメイジを倒すなんて驚いたよ」

「……運が良かっただけだよ。あの時、今お前にやられたことをされていたらオレはこの世にいねぇよ。あとオレはコウドウだ」

「考えすぎだよ、きみは」

 そう言いながらギーシュは呆れる。

「なぁ、ギーシュ……」

 勾導は空を見上げる。双月がその姿を照らしていた。

「なんでオレ、ここにいるんだろな……」

「えっ」

「アイツ、優秀なメイジなんだろ? なんでオレみてーなオタが喚ばれたんだろな……」

 勾導は力なくボヤく。

「そんな事、始祖ブリミルしか分からないよ。でも……」

「でも?」

ギーシュも月を見上げながら続けた。はっきりと伝わるように。

「ぼく達メイジには『メイジの実力を測るには使い魔を見ろ』って言葉があるんだ。凄腕のメイジはそれにふさわしい使い魔を召喚することができるんだよ」

 勾導はギーシュの言葉を黙って聞く。

「何度も言うけど、君は凄い使い魔だよ。雪風のタバサが召喚するにふさわしい強さを持った使い魔だよ。ほら、ヴェルダンデもそうだって言ってるよ」

 ギーシュの言葉に頷くようにヴェルダンデがモグモグ言った。その姿に勾導は思わず笑った。深く考えていたのが馬鹿らしくなった。

 今の自分の弱点がわかってる。だったらどうすればいいか答えは出てるじゃないか。

 そう考えると、胸が楽になった。

「そっか……。ありがとよ、ギーシュ。あっ、ヴェルダンデもな」

 そう言ってヴェルダンデの頭を撫でた。

 その後、少し会話をした後、2人は夕飯を食べるために別れた。

 

 

 厨房で夕食を食べた後、勾導はタバサの部屋の入口に来た。正直、入りづらい。

 意を決してノブを掴んだその時、扉が勝手に開く。中からタバサが顔を出した。2人は数秒見つめあった。

「あなたを探そうとした」

 先に喋ったのはタバサだった。そう言って部屋の中に戻る。

「あ、そうなんだ」

 続いて勾導も部屋に入る。テーブルの上にカバンが置いてあったが、今は気にならなかった。

 勾導は学ランを脱ぎ、椅子に座った。ギーシュとのやり取りのせいか、包帯が所々剥がれている。そこから見える傷の患部は完全に塞がり、瘡蓋ができていた。

 タバサはベッドで読書をし、勾導はMDの音楽を聞いている。2人は何もしゃべらない。時間だけが経過するだけだった。 

「なぁ、タバサ」

 決心し、勾導が不意に声を出す。

「なに?」

 タバサが返す。

「『アース・ハンド』と『レビテーション』、喰らってきた」

 その言葉に驚いた顔をしてタバサは勾導を見る。

「……お前の言うとおりだった。なんもできなかったよ。なーんも……」

「……そう」

 タバサは再び本に視線を移す。

「お前さ、相当経験してんだろ。その『本物』のメイジとの闘いを。だからあの時オレに厳しく言ったんだろ?」

 勾導の問いにタバサは一瞬ぴくりとするが、黙ったままだった。それでも勾導は続ける。

「オレは死ねねぇ。オレは生きて地球に帰んないと行けねぇんだ。少しでも、少しでも生き残る手段があるなら、それにオレは賭ける。……だから、オレにメイジと戦う方法を教えてくれ。頼む」

 そう言って勾導はタバサに頭を下げた。その様子を見たタバサはしばらく黙ったままだったが、読んでいた本を閉じると、

「……わかった」

 何かを決意するように、静かに言った。

「ありがとな、タバサ。さっそく明日からするか?」

 勾導はMDプレイヤーをバッグに入れながらタバサに聞く。しかし、タバサの答えは勾導の予想には無いものだった。

「しばらく、学院を出るから無理」

 勾導は、その言葉に驚く。

「なんでだよ。急な話だな」

 勾導はそう言いながらテーブルの上にぽつん、とあるカバンを見た。中身が見えており、着替えと大量の本が入っていた。結構な長旅になりそうだと勾導は踏んだ。

「で、どこに行くの?」

「ガリア」

「ガリア?」

「わたしの故郷」

 タバサのそれは郷愁もなにも感じられない、無感情な声色だった。

 

 




 
 ルーン能力(今のところの)は、本文中でも言ってましたが、『仮面ライダークウガ』から拝借。ただ、原作のスペックそのままやったらオーバースペックすぎるので弱体化させてます。さらにぶっちゃけると、現時点で能力の爆発力はガンダールヴの方が圧倒的に上という設定です。
 ただ、『ギャラルホルン』としてはまだいろいろ秘密があります。それが書けるよう頑張りたいと思います。

 次回、あの方登場。
 なお、この作品内の『タバサの冒険』時間軸は本編どおりの進行ではないことを先に伝えておきます。
というより、原作のタイムスケジュールがキツすぎる……。
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