Snow wind & Temerity heart VS The world   作:Phidias

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 タバサの冒険篇スタートです


7:Pursuing Her Self

 勾導とタバサはガリア王国の王都リュティスにやってきた。人口30万人。現代日本の感覚だと、ただの地方都市レベルの人口でしかないが、ここハルケギニアにおいては最大の人口を誇る大都市であった。シレ川と呼ばれる川の中洲にある旧市街には平民たちが、新たに開拓された新市街には貴族が住むというように、身分によっての居住区域も定められるなど、身分の区分けも明確であった。

 注目するところは、至る所にマジックアイテムと呼ばれる魔法の力のこもった道具があったことだ。その効果も、馬車を対象にした信号機や街灯といった公共設備で使用されている。魔法が原動力なだけで地球とはあまり変わりがなかった。他にも、『ガーゴイル』と呼ばれる魔法で動く兵士型の人形が至る所に配置されており、街の警ら活動を行っていた。さすがの勾導もガーゴイルには驚いた。

(魔法大国ガリアねぇ。オレら地球人がロボット歩かせるのにヒーコラいってるのに、ここはロボットに警備させてやんの)

 周囲の施設や店先の陳列物を珍しそうに見ながらそう思う勾導は、現在タバサと共に繁華街を歩いていた。

 あの後すぐに学院を出て、乗合馬車を乗り継ぎ、途中雇った竜籠に長時間揺られながらの旅だった。勾導は、初めて見た竜に驚きを隠せなかった。このとき、真の意味で『自分はファンタジーの世界にいる』と自覚をしたほどだ。ただ、なれない馬車移動でガタゴト揺られた際に腰を痛めたため、今も猫背気味で歩いていた。

 タバサはいつもと変わりなく学生服を着ているが、勾導はいつも着ている学生服ではなかった。着ているのは老舗プロレス団体『新世界プロレス』の公式ジャージ。全体的に赤く、背中にはライオンマークを背負ったデザインのそれは周囲の通行人達には珍しく映ったらしく、勾導をじろじろと見ていた。

「そういやタバサ、オレらどこ行くの?」

 前を歩くタバサに勾導は尋ねる。タバサとは移動中あまり会話をしなかった。タバサはずっと読書をしており、勾導は「その本おもしろい?」と感想を聞いてみたり、「外見ろよ、竜の巣だ!」と外の風景を一緒に見ようと誘ったくらいだった。正直竜籠の中では会話が続かなかった。別に自分のことを嫌ってるわけではない事は理解している。ただ、もうちょっと反応が欲しいと勾導は感じた。

「王宮」

「ふーん……。はぁ、王宮!?」

 勾導は驚いた。てっきり彼女の実家から『顔を見せろ、使い魔を連れてこい』と連絡があったから里帰りしたものだと思っていた。だからこそ、こうして今自分が所持している服で一番高くてカッコいいと思うものを着てきたのだ。キングオブスポーツの威信と栄光は世界を隔てても伝わると信じて。

 タバサのご両親と仲良くなればちょっとは心を開いてくれるかもと思ったが、向かう先が王宮とは予想外だった。

(……ひょっとして、タバサっていいとこ生まれか? 城に行くって事は、まさかお姫様だったとか?)

 そんな事を思いながら王宮に向かって歩いて行った。

 

 

 リュティスの東の端にガリア王家の居城、ヴェルサルテイル宮殿があった。グラン・トロワと呼ばれる青色の大理石で組まれた巨大かつ豪華絢爛な大宮殿とプチ・トロワと呼ばれる薄桃色のはなれの宮殿で構成されており、ガリア王国の富の象徴としてハルケギニアにその名を響かせていた。

 勾導とタバサは、そのプチ・トロワの廊下を歩いていた。時々衛兵や侍女とすれ違うが、皆腫れものを触るかのような視線を向けていることが勾導は気になった。

 しばらく歩いた先でタバサが止まった。そこには、大きな扉を守るようにガーゴイルが鎮座していた。タバサの顔を見たそれは、すぐさま扉からどく。入れということだろう。

 タバサがドアノブを掴むより先に勾導が扉を開ける。今まで見たことが無いものを体験してきて心が浮かれた結果だった。

「ノックしてもしもお~~~し。おじゃましまーす、いや邪魔ではないはず、邪魔なものかー!」

 扉をあけて部屋に入った瞬間、勾導めがけて何かが飛んできた。それは卵や、泥の詰められた腸詰めだった。思いがけない不意打ちを食らった勾導は、それらをすべて体で受け止めてしまう。一張羅のジャージが泥にまみれ、髪や顔に卵の中身が垂れ下がった。

 天井から放射状に垂れ下がったカーテンの陰から3人の女が現れた。泥をぶつけた当事者なのだろうか。皆驚いた顔とすまなそうな顔を交互に繰り返している。どうやら、当人たちは勾導にぶつける気はなかったようだ。

 勾導は自分の服と顔の汚れ具合を確認すると、ツカツカと女の一人に近付いた。哀れ標的になった女は戸惑った表情をするがもう遅い。勾導は標的にした女の胸倉をぐいと力いっぱい掴んだ。

「あなたオレとは初対面ですよね? いきなりなんですかこの仕打ちは。オレ、あなたに恨み買うようなことしてませんよね? どういうことですか? このジャージいくらしたと思うんです? 結構いい値段でしたよ。学生のオレが必死こいてバイトしてやっと買えたんですからね」

 敬語でまくし立てているが、目は一切笑ってない。怒りが一周して逆に冷静になっていたようだ。それに女は恐怖を覚えたのか、泣きだし小声で「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返す。建設性のない状態が続くと見られたその時だった。

「おほ! おほ! 駄目じゃないか、自分が受けるはずの『歓迎』を使い魔に受けさせるなんてね。この人形娘(ガーゴイル)が」

 部屋一帯に笑い声が響いた。人を見下した、嫌な笑い声だった。奥のカーテンから一人の少女が現れた。

 歳は勾導と変わらないだろう、青い豪奢なドレスを身につけ、タバサと同じように蒼穹から切り取った長い青髪に碧眼の瞳をしており、頭には大きく立派な冠を被っていた。まるでタバサとは姉妹のように捉えてしまいそうだった。だが、下卑た笑顔を受かべながら勾導とタバサを見る少女の様は、血が繋がっているとは思えなかった。いや、思いたくなかった。

「しかし、魔法しか取り柄のないあんたが平民を召喚して使い魔にするなんてね。始祖もなかなか面白いことを考えるわね。おほ! おほ! おっほっほっほっ! ほらお前達も笑いなさい! まったく、おかしいったらありゃしないわ! おまけにあの平民の格好! 下手な大道芸人より面白いわ!」

 少女に命令されて女たちも申し訳なさそうな顔を浮かべながら笑みを作った。一方少女はバカ笑いを続ける。その光景をタバサと勾導はしばらくの間、無表情で見ていた。

 

 バカ笑いを終えた少女は満足げな表情を浮かべながら、タバサ達に近づいた。

「さて、人形娘達をからかうのも飽きたから本題に入るわ」

 そう言ってそばにあったベッドの上に転がっていた書簡をタバサに投げる。

「北花壇騎士7号、これが今回の任務よ。さっさと片づけてきなさい」

 少女の言葉を聞いたタバサは足元に転がった書簡を拾う。無論、いつも通りの無表情で。その姿が癪に障ったのか、少女は近付き持っていた扇子でタバサの頬を張った。しかし、タバサは全く表情を変えない。その様子に少女はいらだち、眉間にしわを寄せた。

「あんたはもう王族じゃないのよ!? 少し人より魔法ができるからって、何を気取ってるのよ!? ……せめて怒るなり悔しがるなりしなさいよっ」

 少女はタバサに絡んでも無意味だと思い、今度は勾導を標的にした。まるで珍獣を見るような視線を向けながら。

「あんたも災難だったねぇ。こんな人形娘の魔法の失敗に巻き込まれて使い魔になってさあ」

そう言いながら勾導の頬を扇子で軽くペシペシ叩く。勾導の目は前髪に隠れておりその表情は見えなかった。

「父親がヘマやらかした結果王族から叩き出された上に『名前すら変えられて』今は王家の使い走り同然の娘の使い魔なんて本当に不幸よね。……そうだ、この人形7号に愛想が尽きたならわたしのところに来なさい。このガリア王国王女イザベラが一生養ってあげるわ。平民の使い魔じゃなくて、道化として扱ってあげるわ」

 イザベラと名乗った少女はタバサを挑発するように言うが、タバサは無反応だった。そして、勾導も同じように。その2人の姿にイザベラは奥歯を噛み締めた。

「あんた、人形娘の悪い癖でも伝染ったのかい? それともあんたもご主人様と同じガーゴイルなのかい? このわたしが話しかけてんだ、なにか言ったらどうだいっ!」

 イザベラがそう言うと勾導は一歩前に出た。イザベラと勾導の身長差は若干イザベラが低い程度で、目線はほぼ変わらない。だが、横に大きい勾導の体の圧力に負けてイザベラは少し怖気着く。

「な、なんだい」

 その時だった。勾導はイザベラの広い額目がけて、

 

 思いっきりヘッドバットを叩きこんだ。ゴッと堅いものがぶつかる大きな音が部屋に響く。

 

 女相手なので『勾導基準で』多少手加減したようだが、イザベラは額を手で押さえながら崩れ落ちる。

その光景に3人の侍女は恐ろしいものを見たとばかりに震え、タバサは目を大きく見開いた。

 しばらくすると額を赤く腫らしながら、イザベラは憤怒の形相で立ち上がる。未だに痛むのか瞳は潤んでいた。

「あ、あんた……。このわたしになんてことをするのよっ!」

 食ってかかるイザベラに勾導は悪びれる様子もなく挑発する。

 「おい、このデコ助女もしくはデコっ八。とっととSOLぶっ壊しに行くか八百×の手伝いに行くか決めろや。もしくはプレイモアに思っきしパクられてKOFに参戦してこい」

「言ってることの意味が分かんないけど、わたしをバカにしてる事はわかるわ! このわたしがどんな人間かわかる? 王女よ! すなわち、この国で2番目に偉いのよ!!」

「こんなのがナンバー2なら、この国も末期だな。ぼくにはガリア王国の明るい未来が見えませんっ」 

 勾導がぼそりと言ったその言葉に侍女たちが震えあがる。

 図星を突かれたようで、イザベラはキレた。

「あんたにわたしがどんな人間か教えてあげるわ! 衛兵っ、衛兵ー!!」

 イザベラの呼び声を聞いて、槍を手にした衛兵が10人ほど入ってくる。衛兵たちはイザベラを下がらせ、勾導に槍を突き付けながら囲いこんだ。その勾導の姿にイザベラは勝ち誇る。

「わかったかい? わたしが誰で、あんたは誰に狼藉を働いたのかを!」

 勾導は全方位から槍を突き付けられているとは思えないほどに落ち着いていた。ゆっくりと周囲を見渡す。

 衛兵たちの表情は様々で今にも突こうとする顔をした者から、子供に槍を突き付けることに躊躇がある者までいた。後ろに控えている侍女たちは体を寄せて体の震えを押さえようとしていた。そして、タバサは勾導を心配する表情で見つめていた。それを見て勾導はにやりと笑う。

(どこが無感情の人形だよ。テメーらの目は泥でも詰まってんのかよ)

 そう思いながらイザベラをさらに挑発した。

「『誰に狼藉を働いた』? ケッ、だったら逆に聞くぞ。今、テメーらは『誰に狼藉を働いてるのか』分かってんのかよ」

「あんた、ただの平民でしょうが」

「もう1個聞くけど、お前マジで王女なの? 証拠はあんのかよ」

「あるに決まってるわよっ! わたしは現国王ジョゼフ1世の娘よ! そしてなにより……」

 イザベラは自身が被っている冠を誇示するように指を差した。

「この冠が証拠よ。あんたみたいな平民が一生かかっても手に入れられない、高貴な者が手にする輝きをわたしは常に独り占めできるのよ!!」

「ふーん、あっそ」

「……なによ、その態度は」

「最初の質問に戻るぜ。『誰に狼藉を働いてるのか』、教えてやるよ。……オレは王子様だぜ」

「はぁ!?」

 勾導の告白に部屋の中の空気が驚きに満ちる。

「証拠見せてやんよ!」

 勾導は目の前に突き付けられた槍を一本引っ張り衛兵のバランスを崩す。そのままじゃがみこみ、衛兵の股をスライディングで潜り抜けることで槍衾から脱出した。そして、この光景に呆気にとられて茫然としているイザベラの元に近づき、ある行動に出た。

 それは、イザベラの頭にある大きな冠を奪い取ることだった。むんずと奪い取り周囲を装飾する宝石を見た後、勾導はそれを頭に被り言った。

「な、これでオレは王子様だ。白馬より単車に乗りたいがな」

 勾導の暴挙にイザベラは激怒した。

「あ、ああああああんた、なにやってるんだい! ガリア王家以外の人間は被ったことのない、この冠を被るなんて!」

「お、って事はオレが史上初ってことか」

「返せっ!」

「そう易々返すバカがいるかよ。つーかな、冠被ったくらいで他人より高い位置にいられるとか思ってんのか? バカじゃねーの?」

 そんな事を言いあいながら2人は部屋の中を駆け回る。その光景に侍女と衛兵たちは信じられないものを見るかのような顔をする。タバサは相変わらずの無表情だったが、眼鏡の奥の瞳には優しい光が宿っていた。

 ひとしきり部屋の中を荒しながら逃げ回ると、勾導はさらなる暴挙に出る。冠を外すと

「ああっ、手が思いっきり滑ったーっ!」

 そう叫ぶと冠を床に叩きつけた。

 その光景に勾導以外の全ての人間が「ああっ!?」と声を合わせて叫ぶ。タバサすら叫んだ。叩きつけられた冠はてっぺんの装飾がひん曲がり、色とりどりの宝石も辺りに巻き散らかされた。さらに勾導は追い打ちをかける。

「ああっ、こんなところにバナナがあるなんてーっ!」

 そう叫びながら冠目掛けてエルボー・ドロップを敢行した。冠はさらに滅茶苦茶になり、もう冠と言えない何かになってしまった。

 イザベラは魂が抜けたように膝をつき、震えながら冠だったものを手にする。ここまで虚仮にされたのは生まれて初めてのことだった。

 勾導はまったく悪びれずに言う。思い切り煽りながら。

「わりい、わざとじゃないぞ! それ鑑定団に出すと○島○之○がぶち切れそうな有様になっちゃったけど、王女様は寛大だから許してくれるよね? ね? ね?」

 イザベラはすっと立ち上がり、プチ・トロワどころかグラン・トロワにも聞こえるような大声でぶち切れた。

「とっとと出てけぇぇぇッッッ!!!」

 

 

 勾導とタバサはプチ・ドロワから追い出された後、馬車に乗って書簡に書かれた場所に向かっていた。馬の御者はガーゴイルが行っており、こんなところにも魔法大国の凄さを見せつけていた。

 2人は馬車の中で向かい合うように座っている。勾導は風景を見ており、タバサは相も変わらず本の虫であった。ちなみに勾導は泥で汚れたジャージの上着を脱いでいる。脱いだそれは水洗いをして馬車の幌にくくりつけて乾かしていた。

「……『タバサ』って名前、偽名だったんだな。あのデコ女がほざいてたが」

 勾導が馬車の外に広がる田園風景を見ながらぼそっと言った。それに対してタバサは何も反応を示さない。

「……別にどうこう言う気はねぇよ。なんかいろいろと複雑そうだし。でもよ、おかしくないか? お前は確かに強い強いって言われてたけどよ、いくらなんでも子供にやらせるようなことじゃねぇだろ。山賊退治なんて」

「大丈夫、いつもの事」

 勾導は馬車に乗った直後にタバサから色々聞かされた。それは、タバサが国から『シュバリエ』という称号を与えられた騎士であること。そのため、時々本国から呼び出されて様々な任務を要請されていること。そして、今回の任務は村を襲う山賊の討伐であること。それらを簡潔に勾導に伝えた。他にも色々隠していることがあると思ったが勾導は聞かなかった。複雑な事情のようだから、自分から語ってくれるのを待とうと決めた。

「あっ、そういえばさ」

 付け加えるように勾導はタバサに尋ねる。

「なぁ、タバサ。オレも偽名を名乗った方がいいのかな? 『タバサ』って名前コードネームみたいなもんだろ」

 タバサはじっと勾導を見た後、再び視線を本に移し、ただ一言、

「あなたの好きにしたらいい」

 興味無さげにそう言った。それを聞いた勾導は不思議とワクワクしてきた。ゲームや漫画のキャラクターみたいになった気がしたからだ。色々案を出す。

「わかった。えーと、やっぱシャア・アズナブルかキンケドゥ・ナウだな。あっ、マフティー・ナビーユ・エリンも捨てがたいし……。よし、決めた」

 タバサを見ながら言う。

「オレが学プロで名乗ってるリングネームを名乗るわ。結構イカす名前だぞ」

「そう」

 視線を動かさずにタバサは言う。

 だが、彼女は知らない。学生プロレスのリングネームは基本的に名前のどこかしらに下ネタ、またはいろいろな意味でアウトなフレーズが使われたものばかりである事を。『プリン』だの『インサート』だの『ギブアップ』だなんて生やさしいのだ。

 そんなやり取りをしていると、今回の目的地である『チュ・ルーヤ村』に近づいてきた。

 

 

 リュティスから馬で6時間の距離にあるエルパソ郡。そこはなだらかな山が連なり、その山あいにぽつぽつと小さな村集落が形成されている。チュ・ルーヤ村もその中の1つで、人口は40人ばかりで村と言えるのかも微妙な規模の集落だった。そして、その村は活気が全く感じられない。山賊の襲撃を受けたのだろうか。茅葺屋根の掘立小屋はところどころ破壊されており、畑も同様に荒されていた。村長の家に向かう途中、村人たちに遭遇したが、皆一様にして家の中からじっと勾導たちを見張るように見ていた。なぜか全ての家で犬が飼われており、住人達の感情を代弁するかのように2人に向かって吼えていた。

 勾導とタバサは村長の家に入った。そして2人は一階の広間に通され、そこで村長を待っていた。

 しばらくすると奥から村長らしき男が現れる。意外と若く、人のよさそうな笑顔を浮かべていた。村長は2人に頭を下げる。

「遠路はるばるありがとうございます、騎士様。私がこのチュ・ルーヤ村の村長をしているウーバと申します」

「ガリア花壇騎士、タバサ」

 ウーバの挨拶にタバサは返す。それに勾導も続いた。この時点で嫌な予感がする。

「オレはタバサ様の従者やってるジョー・野口・情事です。入場曲は『空耳ケーキ』です」

 勾導の挨拶にウーバは戸惑う。そしてタバサは無言で勾導の頭を手にした杖で叩いた。叩かないといけないと誰かに言われた気がしたから叩いた。

「そ、そうですか。騎士様、お願いします。時折、村に山賊がやってきて収穫した作物を盗んだり者を奪ったりします……。どうか、奴らの討伐をお願いします。それと、誠に言いにくいのですが……」

「何?」

 ウーバが何か言いたそうにしているのを、タバサは促す。

「はい。実は、山賊だけではなく、つい最近村の近辺に竜が現れたようなのです」

「はぁ? 竜だって」

「はい。山賊の根城あたりに住みついたと村の人間が言ってきたのですが……」

「まさか、それの討伐もやれってか?」

「はい。できれば……」

 申し訳なさそうな表情をするウーバを苦々しそうに勾導は見た。

(このおっさん、依頼の本命はこっちだったんじゃねぇのか、ひょっとして。……あのデコ女、本当は知っていてオレらに伝えなかったのか! ……ボコろう、帰ったらボコろう。女だろうが関係ねぇ) 

 そんな事を思いながら勾導はタバサにどうします、と聞く。タバサは一言だけ言った。

「現場に案内して欲しい」

 

 

 タバサと勾導は山賊のアジトと思われる山の上にある朽ちた砦に向かうため、茂みの中を歩いていた。2人の他にもう1人、村の若者が案内人として付いてきていたが、とても無愛想な男だった。勾導が村について色々質問しても大抵は「はい」「いいえ」、もしくは無視してばかりだったがただ1つ、

「この村の人たちって犬好きなんですね。一家に一匹飼ってますもん」

という勾導の質問に対しては言葉数は少ないが饒舌に答えた。

「この村では犬は魔よけ代わりなんですよ、従者さん。犬は邪悪なものが見えて、それに食らいつきまさぁ。そう、互いが死ぬまでね」

 饒舌だが無感情な顔で語っており、それに勾導はどこか気味の悪いものを感じた。

 茂みの中を歩いてしばらくすると拓けた場所に出た。タバサは杖を構えて警戒する。勾導もその意図を察すると案内人を後ろに下げて構えた。今、自分たちはあまりにも見晴らしがよい場所にいる。山賊が奇襲を仕掛けるにはもってこいの状況だ。

「……いるな」

「5人。あなたは無手。無理はしないで」

「りょーかい」

 その時、茂みの中から無数の矢が放たれた。

「伏せろっ」

 勾導は村人を押し倒して矢を避け、タバサは風の魔法で矢を逸らす。すると、茂みの中から声が聞こえた。

「畜生、やっぱりメイジだったか!」

「だが相手はガキだ。近付いて攻撃すれば大丈夫だろ!」

「よし、お前ら仕掛けるぞ!」

 やはり山賊だったようだ。矢が無意味だと感じた彼らは剣を持ち勾導に向かって突撃をしてきた。

 タバサは『エア・ハンマー』を唱えて山賊を次々と気絶させていく。無駄な動きがなく、的確な動きで3人を戦闘不能にさせた。

 メイジであるタバサを相手にするのは分が悪いと見た残り2人の賊は、勾導に照準を定めることにした。武器を構えて、じりじりと勾導に近づいてくる。

「こいつは平民だ! こいつを狙え!」

「おまけに素手だ! へへ、兄ちゃん運が悪かったなぁ!」

 笑いながら近づく山賊に勾導は動じない。「だからなに?」と言いたげな顔をしていた。

「おい、あんたら」

 突然、勾導が賊に口を聞く。不意に聞かれた賊も思わず勾導に言葉を返す。

「な、なんだ坊主? 今さら命乞いか?」

「ちげーよ。おっさんら、飛び道具持ってる?」

「はぁ? 持ってねぇよ。コイツでバッサリとするんだからよぉ」

 賊は手にした剣を誇示する。すると勾導は笑いながら言った。

「じゃ、あんたらの負けだ」

 そう言うなり、腕を振った。すると賊はいきなり目を押さえだす。勾導は手の内に砂を仕込み、それを投げて眼潰しとしたのだ。それをまともに食らった賊は目を押さえ、持っていた得物を手放す。決定的な勝機が生まれた。

 勾導は震脚で一気に距離を詰め、エルボーを顔面に叩きこむ。顎を揺らされた賊は脳震盪を起こして崩れ落ちる。それを確認もしないうちに勾導はもう1人に向かう。すでに眼潰しから回復したのだろう、怒りの形相で剣を手に取ろうとしていた。

「このクソガキがぁっ!」

 だが、勾導は止まらない。低い姿勢で地を駆け、賊の後ろに回りこむ。そのまま賊の首に両手を回して自分の肩口に固定すると、一気に前方にジャンプして尻もちをついた。着地の衝撃を自分の首に受けた賊はそのショックに耐えきれず気絶をした。

 勾導オリジナルのプロレス技『ヴァニラ・アボラス』。それは変形のリバース・ストーンコールドスタナーとも言える技だった。

 今ここにいる賊は全て片づけたが、こいつ等は斥候か見張りだと2人は判断して砦を目指す事にする。ふと、あることに勾導は気付いた。

「タバサさん……。こいつ等縛る縄ってあります?」

「もってない」

「どうすんの? こいつ等このまんまってのもマズすぎるぜ」

「彼に持ってきてもらう」

 そう言ってタバサは村人に視線を移す。勾導もその意図に気付き、村人に話しかけた。

「すいません、オレ達ここにいますので縄を持ってきてもらいますか?」

 すると、村人の様子がおかしい事に気づく。ガタガタ震えだしなにかブツブツと呟いている。

「あのー、大丈夫ですか?」

 心配して勾導が村人に近づいたその時だった。

「イイカタァァァアッッッッ!!」

 意味不明な奇声を上げながら勾導を飛び越えた村人がとんでもない行動に出た。

 

 なんと、村人は気絶した賊全員の喉を噛み千切ったのだ。

 その姿は、まるで狂犬のようだった。

 

 血の噴水を浴びながら村人は狂った人形のように跳び跳びのタイミングで震えだす。

 2人は何が起きたか分からず固まる。最初に動いたのは勾導だった。

「あんた、自分が何やったのかわかってんのかよ!」

 勾導は村人の体を後ろから取り押さえる。線の細い人間とは思えない、まるで筋肉の塊を止めているような感じがした。

 村人は未だ意味不明な事を言い続ける。

「ナンでソんナ言いkAたが溺るん駄よ、あぁ南でソんナ井伊課た我出来瑠ん打よって聞い手nだよォォォッッ!!」

「イイカタァァァァッッッッ!!」

 そう叫ぶやいなや、村人はパッと消えてしまった。まるで、最初からいなかったように。

 勾導は驚いた。思わずタバサに「あれも魔法か!?」と聞く。だが、タバサは首を横に振るだけだった。

 

 2人は相談した結果、1度村に帰ることにした。消えた村人の事を村長に伝える為だ。山を下っているはずなのだが、なぜか上りの時より体力を使った気がした。勾導はそれを死体を見たためだと思い、無理矢理納得することにした。死体を見たのはこれで3回目だった。何度見ても言葉通りの『死んだ目』は慣れない。忘れるように首を振る。時々タバサを見るが、タバサもいつもの無表情ではなく、どこか焦った様子だった。

 村に到着した。相変わらず活気が感じられない。だが、それ以上に異常なことにタバサは気付く。

「人の気配があそこ以外からは全く感じられない」

 静かに、確かめるように言った。

 2人は気配がするという家に向かって歩き出した。確かに、最初に村に入った時に感じた刺すような視線が今は全く感じられなかった。そればかりか、家に繋がれていたはずの犬さえも一匹も居なくなっていた。

 問題の家の前にやってきた。他の家同様、賊に襲われたらしく外壁が荒れている。いや、今となっては『本当に山賊が壊したのか』ということすら疑いたくなる。勾導はタバサに目で合図を出したのち、ゆっくりと玄関を開けた。

 家の中は荒れ果てており、まるで最初からこの状態だったみたいだった。

 タバサは人の気配を探る。すると見つけたらしく、指を差した。

「ここ」

 それは、どうやらキッチンへの扉のようだった。何か声のようなものが聞こえる。どこか子供っぽい、舌足らずな女性の声だった。

「おにーく、おにく、おいしいお肉がいっぱいなのねー。でも不思議なのね。ついさっきまで人間がいっぱいいたのに煙のように消えちゃった。でもお肉が食べれるから気にしないのねー、るーるるるー」

 どこか間の抜けた声に勾導は脱力する。気を取り直すと、一気に扉を開けた。

「どうも、太陽戦隊です」

そう言って部屋の中に飛び込んだ2人の目に飛び込んできたのは、荒されて辺りに飛び散った食料の山と、

「きゅい?」

 

 食料庫の中にあった生肉に食らいついている青い髪をもつ裸の女性がそこにいた。

 

 

 これが雪風の少女と向う見ずの少年、そしてもう1人の大切な絆との出会いだった。

 

 




 みんな大好ききゅいきゅい登場。
 自分も好きなキャラなので動かすのが楽しみでした。
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