「あり得ない。あり得ないのですよ。学級崩壊とはきっとこの事を「いいからさっさと始めろ。」ハイ。」
黒ウサギは半分涙目になりながら説明を始めた。軽く咳払いをし、
「いいですか?定例文でいいますよ。ようこそ!箱庭の世界へ!我々はみなさんにギフトを与えられた者達だけが参加できる、『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこう召喚いたしました!みなさん、すでに気づいてるでしょうが、普通の人間ではございません!『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競い合うためのゲームです。」
長いのでカット。ザックリ言うと、ギフト保持者はコミュニティに必ず属さないといけない。ゲームはチップをかけ、勝者が全てを貰う。ギフトゲームは箱庭の法の様なもの。(ちゃんとした法もある)黒ウサギは弄るもの。
黒ウサギ曰く、
「外の世界より格段に面白い事を約束します♪」
そうだ。陽明達は、手紙の通り全てを捨ててここにやって来た。それに見合うだけの催し物が無いと困るのだ。
「ジン坊ちゃん!新しい方を連れて来ましたよー!」
「お帰り黒ウサギ。そちらの三人が?」
ジンは今四人では無く三人と言った。もう一度言う。三人である。
「え?あれ?ちょっと目つき悪くて俺問題児!ってオーラ出してる殿方は?」
「十六夜君の事?彼なら世界の果てを見に行ったわよ。」
世界の果て。落下中に見えた崖の事だろう。
「どうして止めなかったんですか⁉︎」
「止めてくれるなよと言われたから。」
「どうして黒ウサギに教えてくれなかったんですか⁉︎」
「黒ウサギに教えるなよと言われたから。」
「どうせ面倒くさかっただけでしょう!」
「「「うん!」」」
黒ウサギに向かって親指を立てる。
ジンは蒼白になる。
「大変ですよ!世界の果てには野放しになっている幻獣が!とても人間では太刀打ちできません!」
「ゲーム参加前にゲームオーバー?斬新?」
「幻獣・・・バジリスクとかコカトリスとか不死鳥みたいなやつか?」
「流石にそんなに強いのはいません・・・でも危険な事に変わりはありません!」
しかし陽明は、
「大丈夫大丈夫。なんとかなるさ。水難の相が出てるけど」
「大丈夫じゃ無いですよ!一刻程で戻ります!皆さんはゆっくり箱庭ライフをご堪能ませ!」
黒ウサギは大ジャンプして十六夜を探しに行った。
「黒ウサギは堪能下さいと言っていたし、御言葉に甘えてそうしましょう。エスコートは貴方がしてくださるのかしら?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。齢十一になった若輩ですがよろしくお願いします。皆さんの名前は?」
「久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えてるのが、」
「春日部耀。」
「最後に俺は安倍陽明だ。」
飛鳥はジンの手を取ると、笑顔で箱庭の外門をくぐるのだった。
「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。吸血鬼がいますから。」
陽明はさすが箱庭だと感心した。陽明は一度だけ依頼で吸血鬼と会った事がある。
噴水の近くには洒落たカフェテラスが幾つも会った。
陽明たちは"六本傷"の旗印の店に座った。
素早く猫耳の少女が出てきた。
「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」
「紅茶四つとコレとコレと」
「はい、ティーセット4つにネコマンマですね」
ん?と飛鳥とジンが首を傾げる。
「あぁ、そういう事か。このウェイトレスは猫だから三毛猫の話が分かるってわけだな」
「箱庭って凄いね。私以外に三毛猫の言葉分かる人がいたよ。」
『着て良かったなお嬢。』
「貴女もしかして猫と会話できるの?」
「うん。生きてるものなら誰でも。」
「心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁は大きいですから。」
優雅にティータイムをしていると男がやって来た。
「おんやぁ?誰かと思えば名無しの権兵衛のリーダー、ジン君じゃないですか。」
なんとも・・・ピチピチのタキシードを着た変人がいた。関わりたくない。
「僕らのコミュニティはノーネームです。フォレス・ガロのガルド=ガスパー。」
「黙れ小僧!聞けば新しい人材をよび寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである旗印と名を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続できたもんだ。」
ガルドはテーブルの空席に座ろうとする。明らかに失礼である。
飛鳥がため息をつきながら指摘する。
「同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀ではないかしら?」
「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ、六百六十六の獣の傘下である「烏合の衆の」コミュニティのリーダーをしている、って誰が烏合の衆だ‼︎小僧!!!!」
ガルドの口は耳元まで裂け、牙をジンに向ける。
「自分のコミュニティがどういう状況に置かれてんのか理解できんのかい?」
飛鳥がガルドの言葉に反応し、ジンを睨む。
「ジン君。私達のコミュニティが置かれている状況とは?」
「そ、それは」
言葉に詰まる。黒ウサギと口裏合わせてまで隠しておいたことである。バレて仕舞えば不味い事になるのは必須である。
「ジンはコミュニティのリーダーと名乗った。なら説明する義務があるのではないか?」
「ボーイの言うとおりだ。コミュニティのリーダーとして新たな同士に箱庭のルールを教えるのは当然の義務。よろしければフォレス・ガロのリーダーであるこの私がコミュニティの重要性、小ぞ、では無くジン君のコミュニティを客観的に説明させていただきますが?」
飛鳥は少し考え、
「そうねお願いするわ。」
「承りました。コミュニティとは複数名で作られる組織のこと。家族やら国やら群れとも言い換えられる。
コミュニティは活動する上で箱庭に名と旗印を申告しなければならない。特に旗印はコミュニティの縄張りを主張する大事な物。もし自分のコミュニティを大きくしたいと望むのならば両者合意でギフトゲームを仕掛ければいい。私のコミュニティはそうやって大きくしましたから。」
あたりを見回すとガルドのコミュニティの旗印だらけ。ここら辺りはガルドの支配下にあるのだろう。しかし住人がガルドを見る目は冷たいように感じる。
「さて、次はレディ達のコミュニティの問題。実は貴女達の所属するコミュニティは数年前まで、東区最大手のコミュニティでした。先代は優秀な男だったようですよ。先代は。しかし、この箱庭において最悪の天災と恐れられる存在に目をつけられてしまった。」
「「「天災?」」」
「此れは比喩では無いですよ。それは魔王と呼ばれる者たちですよ。魔王とはこの世界の特権階級を振り回す者たちを指します。ジン君のコミュニティは彼らの玩具として潰されたという訳です。名も旗印も主力陣も全てを失い残ったのは膨大な居住区画の土地のみ。もしこの時新たなコミュニティを結成していたなら、前コミュニティは有終の美を飾っていたでしょう。今や名誉も誇りも失墜した名もなきコミュニティの一つでしかありません。そんなコミュニティは信用されません。ですので誰も加入したいと思わない。そう。彼は出来もしない夢をを掲げて過去の栄華にすがる恥知らずの亡霊でしかないのですよ。」
ガルドは豪快な笑顔でジンとコミュニティを笑う。
「単刀直入に言います。もしよろしければ黒ウサギ共々私のコミュニティに来ませんか?」
確かにジンのコミュニティの状況を知れば誰も入ろうとは思わないだろう。それだけジンのコミュニティは衰退しているのだ。ジンは諦めていた。しかし、
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの。春日部さんはどう思う?」
「別にどっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだもの。」
「あら意外。じゃあ私が立候補しても良いかしら?」
「俺も立候補するぞ。問題があるなら断ってもらっても構わない。ついでに二人の事を下の名前で呼んでもいいか?」
「うん。飛鳥と陽明は私の知る女の子と男の子とちょっと違うから大丈夫かも。」
「ありがとう。つまり、陽明君も断るという事ね」
「そうだ」
ガルドは相手にされなかった事に顔を引きつらせる。しかし大きくせきばらいをし、三人に問う。
「し、失礼ですが理由も教えて貰っても?」
「だから間に合っているのよ。私は裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払ってここにいるのよ。それを小さな地域を支配してるだけの組織の末端として加えてやると言われても魅力を全くないわ。」
「俺も似たような理由だ。一応、俺の家は太祖から数えると二千年以上続く名家だ。ぶっちゃけ飛鳥の家より格は高いと思う」
「二千年・・・それだけ続くなんてよほどの家柄なんでしょうね・・・」
ガルドは怒りで身体を震わせていたが自称紳士として必死に言葉を選んでいる。
「お、お言葉ですが「私の話は終わってなくてよ。そこに座って私たちの質問に答えなさい!」・・・⁉︎」
ガルドは急に椅子にヒビが入るほど座り込む。
「質問に答えてくれるのなら俺から。お前は地域のコミュニティに両者合意で勝負を挑み、そして勝利したという。でもコミュニティそのものをチップとして賭ける?それはあり得るのか?」
「や、やむを得ない場合は偶に。しかしこれはレアケースです。確かにどうしてでしょう?」
コミュニティを賭ける事はコミュニティの存続に関わる重要な事である。あまりにも不可解である。
「そりゃそうだな」
「そうね。ならなぜ大勝負を続ける事が出来たのか教えてくださる?」
「強制させる方法は様々だ。簡単なのは、相手の女子供を攫って脅迫する事だ」
中々にゲスい。というか悪い。誘拐、脅迫である。
「その子達は?」
「もう殺した」
一瞬でその場が氷つく。一瞬耳を疑って思考が止まった。
「初めてガキを連れて来た日、泣き声がうるさくて思わず殺した。それ以降、連れて来た子供達は殺す事にした。始末した後は「黙れ!」
ガチン!と勢いよく口が閉じるガルド。
「彼のような悪党は箱庭でもそうそう居ません!」
「この外道を裁く事は出来るか?」
「厳しいです。彼が箱庭の外に出てしまえば箱庭の法は効きません」
「そう」
飛鳥はパチンと指を鳴らす。恐らく拘束が解けたのだろう。
怒り狂ったガルドは、
「この小娘がァァァァァァ!!!!」
体を豹変させ、虎の姿になった。
「黙りなさい」
ガチンとまた黙る。しかし、ガルドは腕を振り上げ、久遠に襲いかかるが、
「喧嘩は駄目」
耀が腕を掴み細腕には似合わない力を発揮し、地面に叩きつけた。
起き上がろうとするガルドの全身に刀が突きつけられる。
ガルドの周辺には陽明と彼の式神四人が刀を持って突きつけていた。
因みにこの後は覚えてないそうだ。勢いに乗ってガルドにギフトゲーム申し込んだらしい。勝てば破滅。負ければガルドは無罪放免である。
陽明の式神
白い布を被せたかの様な顔の部分に『無』と達筆な字で書かれており、黒衣の様な衣装を着ている。札から召喚します。