夜、ノーネーム本拠では小さな宴会が設けられた。黒ウサギが腕を振るった川魚は、表面を軽く焼き油で揚げた後、とろみのある餡をかけた料理もして並べられた。とても好評でした。
「黒ウサギ、これ多分餡かけ無いで酢「十六夜、お代わりいるんだな!」ぐあぁぁ!」
十六夜の一言で台無しになるところを陽明が口に魚をねじ込んで阻止した。あぁ、よかった。
陽明はこの時、ふと箱庭の南側の方向を見た。
気のせいかもしれないが、何かに引き付けられているかのようだった。
そして夜が明けた。
十六夜のヘッドホンがきえた。ヘッドホンはリリとレティシアと一緒にお風呂に入っている時に消えたらしい。
「十六夜、昨日は風呂でキャッキャウフフしてた時に消えたんだよな?」
「あぁ、そうだって誤解を呼ぶようなセリフ言うな。しばくぞ」
普通に風呂入ってただけです。
「返り討ち乙にしてやんよ・・・じゃなくて、ここまで探して無いのなら打つ手なしたぞ」
十六夜のヘッドホン食料庫まで探したのだが見つからない。
「仕方ねぇか。俺の順番を春日部に譲るか」
「え・・・?何かの前触れ・・・?」
「陽明、お前は俺をなんだと思っている?」
「鬼、悪魔」
「しばくぞ」
本拠前
「どうしたんですか、それ?」
「何かねえと収まりが悪いんだよ。」
黒ウサギは目を丸くし、それを指差す。
十六夜の頭には現在ヘッドホン代わりのヘアバンドがある。割と似合う。
十六夜の代わりに行くことになった耀は申し訳無さそうな顔をする。
「いいの?本当に?」
「ああ、別にいいって。俺が挙げれたはずの戦果を代わりに挙げてこい。ついでに、友達100匹作ってこいよ。南側は幻獣が多くいるみたいだしな」
「分かった、ありがとう。十六夜の代わりに頑張ってくる」
陽明は玉木に荷物の最終確認をしていた。
「着替え持った?」
「はい」
「ギフトカードは?」
「持ってます」
「歯ブラシは?」
「ありますよ」
「武器は「ギフトカードの中です。保護者じゃないんですから」
端から見ると独り立ちする娘とそれを見送るオカンに見える。
昔は逆だったらしいが・・・それはまた今度。
そして旅立った一行。
そしてレティシアが十六夜に話しかける。
「十六夜・・・本当に良かったのか?ヘッドホンとギフトカードなら私たちが「「出てこない」」なぜだ?」
「これだけ探しても無いと言うことは隠した本人にしかわからない」
「状況的に一番怪しいのは春日部だが、アイツはそんな事が出来る奴じゃ無いしな。それにたかが素人が造ったものだ。一銭の価値も無い」
「素人・・・まさか知人の造った作品なのか?」
十六夜はムッと眉を寄せる。しかし気が変わったようだ。
「・・・故郷の話、聞きたいか?」
「ああ、是非聞きたいな。陽明の故郷も気になる」
「俺もか?」
「そうか、なら先に朝食の用意を頼むぜ」
「ついでに茶請けと良い緑茶が欲しい」
「承りましたマイマスター。今日の朝食は私がら腕によりをかけて作らせていただきます」
レティシアは茶目っ気を込めて一礼する。十六夜は高く哄笑をあげて笑うのだった。
境界門の前には多くの行商目的のコミュニティもいた。
そんな中飛鳥は境界門に刻まれた虎の彫像“フォレス・ガロ”の旗印を凝視している。
「帰ったら、いの一番にこの彫像を取り除かないと」
「ま、まぁ、それはコミュニティの備蓄が十分になってからでも」
「あら、何を言ってるの。この門はこれから私達“ノーネーム”の広告塔になるのよ。先行投資の意味も込めてまず、ジン君の全身をモチーフにした彫像と肖像画を「お願いですからやめてください!」
ジンが叫ぶ。どうやら、かなり恥ずかしいらしい。
「できたぞ」
え?とジンが振り返ると、玉木がいつの間にかジンの彫像を作り上げていた。
「やめてください!」
「ジョークだよ」
玉木は彫像にかけていた術を解いて元の虎の彫像に戻した。どうやら姿を別のものに見せる術らしい。
「じゃあ・・・黒ウサギを売りに出しましょう!」
「なんで黒ウサギを売り出すんですかっ!」
どこから出したのかハリセンで飛鳥を叩き突っ込む黒ウサギ。
「じゃあ黒ウサギを売りに出そう」
「なんで黒ウサギを売るんですかああああああ!!」
スパァーン!と良い音を出すハリセン。
「ならば白夜叉に相談し「なくて結構です!お馬鹿様ぁぁぁぁぁ!!!!」
そんなことをしていると境界門の起動が進み、青白い光が門に満ちていく。待機している利用者は列を作る。
黒ウサギ達は"地域支配者"として列の脇から門が開くのを待つ。
「皆さん、外門のナンバープレートはちゃんと持ってますか?」
玉木達の手には鈍色のナンバープレートが握られており、ここに書かれた数字が“境界門”の出口となる外門に繋がる。
境界門をくぐると多分に水分を含んだ風が吹き抜けた。
目の前にそびえるのは巨躯の水樹。"ノーネーム"にある水樹の何千倍、いや何万倍あるだろうか?
水樹からあふれる大量の水は枝分かれした太い幹から数多の滝を作り出している。
感嘆して、その光景を眺める飛鳥と耀。
「いや、懐かしいな」
玉木はそう呟いた。
「玉木は此処に何か思い入れがあるの?」
耀が首を傾げて尋ねた。
「いや、千数百年前魔王だったころ此処を本拠としていた」
「まさかここら辺一帯を焼け野原に「何故そうなる。私が来た瞬間にここの住人がドタドタと逃げていったから此処に住み着いただけだ」あ、そ、そうなんだ」
"主催者権限"を使う暇すらなかったと言う。それだけ恐れられ、強大だった魔王が何故陽明に隷属しているのか・・・
ふと耀が上を見上げると何十羽もの角を生やした鳥が飛んでいた
「角の生えた鳥?しかも鹿の角だ。黒ウサギ、ちょっと見てきても良い?」
玉木は飛び立とうとする耀を尻尾で捕まえる。
「待った。あれはペリュドンだ近づかない方がいい」
ペリュドン。
怪鳥の一種で先天的に影に呪いを持つ。その解除方法が、殺人。だからペリュドンは殺人症を持つ。誤解されるが食人種ではなく殺人種である。
「分かったかからもう少しこのままで」
耀は此処ぞとばかりに玉木の尻尾をモフった。
その時、耀にとって懐かしい声がした。
『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』
二ヶ月前 白夜叉のギフトゲームで会ったグリフォンだった。
「久しぶり ここが故郷だったんだ」
『ああ、収穫祭で行われるバザーには“サウザンドアイズ”も参加する。そこで、私も
を引いてきた』
背中には鞍と手綱が装備されている。
『“箱庭の貴族”と友の友よ。お前たちも久しいな』
「YES!お久しぶりなのです!」
「お、お久しぶりでいいのかしら?」
「き、きっと合っていますよ」
「あってるぞ」
玉木は術でグリフォンの言葉を理解することができる。
『会場まではまだ距離がある。良ければ私が送ろう』
「ありがとう。そういえば名前聴いてなかった、教えてくれる?」
『私は騎手からはグリーと呼ばれている 友もそう読んでくれ』
そして、飛べる耀と玉木以外の面々がグリーに乗り込んだところで、疾走する。
グリーは瞬く間に外門から遠のいていく。耀は慌てて毛皮をつかんで平行飛行。玉木は自分に加速の術、
グリーの背中にいる黒ウサギ以外の面々は大変なことになっていた
ジンは風圧で飛ばされ、黒ウサギに抱かれている三毛猫は悲鳴をあげる。年寄り猫にはキツイ。
『お、おじゅぅうおおぉおおっ!! も、も少し速度落としてと旦那につたぅえてぇええええ!!!』
「グリー、後ろが大変」
『む、おお、すまなかった』
グリーはスピードを落とし、優雅に旋回飛行。
「わあ・・・。掘られた崖を樹の根が包み込むように伸びているわ」
「アンダーウッドの大樹は樹齢八千年と聞きます。今は木霊が棲む木として有名です。今は2000体の精霊が棲むとか」
『ああ、しかし以前に魔王の襲撃を受けて大半の根がやられてしまった』
黒ウサギ達は玉木を見る。違います。
『襲撃されたのは十年前。多くのコミュニティの助けのおかげでようやく景観を取り戻したのだ』
ほらねと言わんばかりの顔を黒ウサギ達に向ける玉木。
『今回の収穫祭は復興記念も兼ねているから、絶対に失敗できない。アンダーウッドが復興したことを皆に伝えたいのだ』
グリーの瞳には強く固い意志が宿っていた。