サラは一行を見渡し、キリノに話しかける。
「キリノ、受付ご苦労。中には私がいるからお前は遊んで来い」
「え?で、でも私が此処を離れたら挨拶に来られた参加者が」
「私が中に居ると言っただろう?それに、前夜祭から参加するコミュニティは大方揃った。お前も収穫祭を楽しんで来い」
「は、はい」
樹霊の少女もといキリノは嬉しそうな表情をし、一礼してから収穫祭に向かった。
「ようこそ"ノーネーム"に"ウィル・オ・ウィスプ"。下層で噂になっている両コミュニティを招く事が出来て鼻が高いよ」
「噂ですか?」
「ああ、しかし立ち話も何だ。中に入れ。茶の一つでも淹れよう」
サラに貴賓室に招かれた。
「では改めて自己紹介させてもらおうか。私は"一本角"の頭首を務めるサラ=ドルトレイク。聞いた通り元"サラマンドラ"の一員である」
「じゃあ、地下都市のあの水晶の水路は」
「もちろん私が造った。あぁ、あの水晶や"アンダーウッド"に使われている技術は全て私が独自に生み出したものだ。流出させたわけではない。ところで両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいが、ジャック。やはり彼女は来て無いのか?」
「はい。ウィラは滅多なことでは領地から離れないので、今回は参謀の私が」
「そうか。北側の下層で最強と謳われる参加者を、是非とも招いてみたかったのだがな」
北側最強。北側の階層支配者 サンドラを差し置いてそんな人が存在する事に反応する一同。
するとアーシャが自慢そうにツインテールを揺らした。
「当然、私たちのリーダーの事さ」
「蒼炎の悪魔 ウィラ=ザ=イグニファトゥス。生と死の境界を行き来する大悪魔。三年前から頭角を現したと聞く。噂だと"マクスウェルの魔王"を封印したとか」
「ヤホホ、さてどうでしたか?」
ジャックは笑ってはぐらかす。
「収穫祭では"六本傷"の旗を多く見かけることになるだろう。今回は南側特有の動植物をかなり仕入れたと聞いた。後ほど見に行くといい」
「特有の植物?ラビットイーターとかか?」
「まだその話を引っ張りますか!?そんな愉快に恐ろしい植物が「在るぞ」在るんですか!?」
(ん?ラビットイーター?確か昔・・・いや、言うのはやめておこう)
そんなお馬鹿な⁉︎と黒ウサギは叫んだ。
玉木は思い当たる事があるようだが黙秘した。
「じゃあ、ブラックラビットイーターh「だからなんで黒ウサギをダイレクトに狙うのですか!?」
「在るぞ」
「在るんですか!?一体の何処のお馬鹿様がそんな対兎型最恐プラントを!?」
「発注書ならここにあるが」
『対黒ウサギ型プラント:ブラック★ラビットイーター。八〇本の触手で淫靡に改造す
グシャ!
黒ウサギが発注書を握り潰した。
「名前を確かめずとも、こんなお馬鹿な犯人は世界で一人シカイナイノデスヨ」
orz状態になりしくしくと哀しみの涙を流す黒ウサギ。
「サラ様、収穫祭にご招待いただき誠にありがとうございます。我々は今から行かねばならない場所ができたので、これにて失礼いたします」
「あー、サラ様すいませんね・・・」
玉木は申し訳なさそうに頭を下ろした。
「いや、大丈夫だ。ラビットイーターなら最下層の展示場にあるはずだ」
「ありがとうございます。それでは、また後日です!」
黒ウサギはラビットイーターを金剛杵で消し炭にしたそうな。
ここだけの話だが、ラビットイーターの原型は玉木が魔王の頃に"月の兎"に対抗するために作った怪植物なのは秘密なのだ。
玉木は与えられた部屋で"アンダーウッド"の民家から盗んできたある物を手入れしていた。
それは物干し竿・・・ではなく棍。玉木が霊力を流すと多節棍に姿を変える。中央から二つの棍にできる構造をしている。神珍鉄と金剛鉄の合金でできたこの棍は"九狐技棍"といい、霊力を流せば、長さ、形を変えて、多節棍、トンファー、ブーメランといった多種の棍に変形する。神珍鉄を使用していても合金であるため質量変化には制限がある。
かつて魔王時代に彼女が使用していた武器であり、"アンダーウッド"で紛失した。そしたら民家で物干し竿になっていたのを代わりの物干し竿を置いて盗んだ。
余談であるが、彼女の特技は棒術と妖術である。さらに、これは陽明にも言える事だが体術、剣術、槍術など才能は多岐にわたる。その理由は安倍家が陰陽師、即ち祓魔を専門(もちろん天文も)としている事に関係している。祓魔は常に危険であり予測がつかない。もしかしたら術が一切効かないものもいる可能性もある。そのため安倍一族の者は個人差はあるが総じて万能であり、並みの妖魔であれば術を使わずとも武術のみで撃破できる。
その安倍一族の万能性、特に一族の長及び後継者においてその源流は彼女、玉木から教わる。文献を辿れば彼女は紀元前から生きておりその間積み重ねられてきた才能は破格だ。
話が脱線した。
(にしてもよく完全な形で残っていたものだ。昔はこれで大暴れしたものだ・・・)
玉木は昔の事を思い出した。
魔王として世の悉くに敵対していた自分を慕ってついてきてくれた部下。今はどこにいるかはわからない。
魔王になる以前から玉木と親しかった同郷の妖の王。彼らの長は玉木が魔王になってから、いや魔王になる以前から同盟を結ぼうとしつこかった
そして、玉木を魔王の闇から光の世界へ救い出した
そう考え玉木は棍をギフトカードにしまい、寝ようと考えたその刹那、
部屋の壁を打ち砕き二つの穴が空いた新たな壁、否、仮面をつけた巨軀の人類、巨人が現れた。
「なっ、巨人・・・⁉︎」
巨人は大木のような腕で巨大な剣を振るってきた。
玉木とっさに起き上がりその一撃を回避する。剣は部屋の半分を破壊し、外には更に多くの巨人が確認できた。
「玉木さん‼︎緊急事態ってどひゃああぁぁぁ!」
黒ウサギがドアを開けて入ってきたと同時に巨人が腕で部屋をなぎ払ったので黒ウサギは巻き込まれて瓦礫の中へ。
「黒ウサギ!」
玉木は黒ウサギを瓦礫から回収し、
「
掌から圧縮された業火を打ち出し巨人の頭部を消し炭にする。
「黒ウサギ!これは一体・・・?」
「魔王の残党の襲撃です!"アンダーウッド"は現在襲撃されていますッ!」
「しかし・・・主催者権限が使われた感覚がない。つまり、完全な無法者・・・耀と飛鳥は⁉︎」
「地表で巨人の迎撃をしています!玉木さんも援軍に向かってください!黒ウサギは都市内の巨人を倒しますので!」
玉木は頷き、黒ウサギと別れて飛鳥と耀の元に向かう。既に地表では飛鳥がディーンに乗り巨人相手に奮闘している。しかし、
(不味いな・・・ディーンは強くとも飛鳥本人は唯の人間。巨人の一撃を受けたら・・・)
耀は身体が頑強にできているためひとまず安心である。
「霧も濃くなってきている・・・」
霧に紛れて巨人が強襲して来ないとも限らない。玉木は急いで飛鳥の元に向かった。
玉木は九狐技棍をギフトカードから取り出して二つの巨大ブーメランに変化させる。
「ふっ———」
腕を大きく振り二つのブーメランを飛ばす。それは連続して巨人の首を跳ね飛ばしていく。ブーメランは棍棒の一種なのだが。
「飛鳥!」
「玉木!無事だったのね!」
飛鳥と玉木は合流する。地面には倒れ伏した巨人が居るが、これ全てを飛鳥と玉木が倒した訳ではない。
「ブーメランで巨人の首を跳ね飛ばすとは・・・凄まじい威力ですね」
玉木は声のした方に顔を向ける。
(なるほど・・・この女騎士か)
彼女は人間だった。飛鳥と同じ。白銀の鎧を身に纏い、顔を舞踏仮面で隠している。
(強いな、この騎士は)
玉木はブーメランを棍棒に戻し、そう思った。
「凄まじいという点なら、貴女も変わらないと思うがな?そうだろう?女王騎士?クイーン・ハロウィンの寵愛者よ」
女王騎士と呼ばれた仮面の騎士は、何も告げずに去っていった。